東京地方裁判所 平成16年(ワ)12193号 判決 2005年11月02日
原告らの表示
別紙甲事件原告ら目録及び乙事件原告ら目録各記載のとおり
原告ら訴訟代理人弁護士
吉川知宏
同訴訟復代理人弁護士
大谷郁夫
同
鷲見誠
被告
東邦生命保険相互会社
同代表者清算人
B
同訴訟代理人弁護士
石原修
同
森﨑博之
同
森本周子
同
荻野敦史
同
米山貴志
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告らに対し,それぞれ300万円を支払え。
第2事案の概要
原告らは,平成11年6月に経営が破綻し,平成12年3月1日に解散した被告の元職員(内務職員)である。
被告は,平成10年3月にジー・イー・エジソン生命保険株式会社(以下「エジソン生命」という。)に営業を譲渡するに先立ち,同年2月,内務職員を対象にした希望退職制度を設けて希望退職者を募集したが,原告らはこの制度に応募しなかった。
本件は,原告らがそれぞれ,被告に対し,<1>被告が雇用契約に付随する説明義務等を履行しなかったため希望退職に応募せず,あるいは被告が実質的に応募を受け付けなかったため希望退職制度の適用を受けることができなかったと主張し,債務不履行に基づく損害賠償の一部請求として,又は,<2>被告の退職金規定において退職年金の受給資格を退職時に「満60歳以上」とする部分は無効であり,退職年金は勤務年数ごとに対応する額の具体的請求権として確定している等と主張し,退職年金の一部請求として,又は,<3>被告がその代表者による巨額の不正融資等により自ら経営を破綻させ,原告らの退職年金受給権を侵害したと主張し,不法行為に基づく損害賠償の一部請求として,300万円の支払を求める事案である。
1 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 当事者
ア 被告
被告は,昭和22年11月1日に設立され,保険業の免許を受けて生命保険業を営んでいたが,平成10年3月30日,エジソン生命に営業を譲渡した(以下「本件営業譲渡」という。)。
被告は,平成11年6月4日,金融監督庁長官より保険業法に基づく業務停止命令を受け,同月5日,保険管理人が選任され,保険管理人が業務及び資産の管理を開始した。
被告は,平成12年3月1日,保険業法152条により解散し,現在,清算手続中である。
イ 原告ら
原告らのうち,甲事件原告らは別表3の,乙事件原告らは別表4の各「入社年月」欄記載の各年月に被告に入社した職員である。原告らは,被告入社後は内務職員として勤務していたが,甲事件原告らは別表3の,乙事件原告らは別表4の各「<2>退職(転籍)日」欄記載の各年月日に被告を退職(同欄冒頭に*印が付された者は,同日付けで被告を退職しエジソン生命へ転籍した者である。)した。
(2) 被告の退職金制度(甲1)
被告は,平成10年2月当時,内務職員を対象とした「内務職員退職金規定」(以下,単に「退職金規定」という。)を置いており,その2条において,退職金の種類及び受給資格につき次のとおり定めていた。
第2条 職員が退職しまたは解雇されたときは,退職金を支給するものとし,退職金の種類および受給資格を以下のとおりとする。
(1) 退職一時金 勤務年月数が3年以上の職員
(2) 退職年金 勤務年月数が20年以上で満60歳以上の職員。
ただし,勤務年月数により,退職年金の種類を次のとおりとする。
イ 勤務年月数20年以上30年未満の職員 15年有期年金
ロ 勤務年月数30年以上の職員 10年保証終身年金
(3) 餞別金 勤務年月数3年未満の職員
(2項及び3項 省略)
なお,上記第2条1項(2)で規定する退職年金の算出方法は,別紙<退職年金制度>記載のとおりである。
(3) 平成9年度選択定年制度及び早期退職制度(<証拠略>)
ア 平成9年度選択定年制度
被告は,内務職員を対象とした「選択定年制度に関する規定」(平成9年6月3日改定)を置いていた(以下「平成9年度選択定年制度」という。)。その制度の内容は下記のとおりである。
記
(適用条件)
第2条 この制度は,次の各号の要件をすべて満たし,会社がこれを認めた場合に適用する。
(1) 年度始年齢(平成9年4月1日現在の満年齢)が50歳以上58歳以下であること
(2) 平成9年4月1日現在の勤務年月数が20年以上あること
(3) 満60歳時の勤務年月数が30年以上見込まれること
(4) 平成9年9月月末に退職を希望すること
2 (省略)
(選択定年の取扱い)
第3条 この制度の適用を受ける職員は,退職金について次の取扱いを行う。
(1) 内務職員退職金規定(以下「規定」という。)の適用については,退職事由を定年とみなす。
(2) 規定第2条(受給資格)にかかわらず,退職一時金および退職年金の受給資格を有する。
(3) 前号の退職年金の種類は10年保証終身年金とし,規定第7条にかかわらず退職月の翌月から支給期間とする。
(一般職員の退職金計算に関する特別措置)
第4条 一般職員がこの制度により退職する場合は,その退職金の計算について次の特別措置を講ずる。
(1) 省略
(2) 特別退職一時金として,別に定める金額(注)を支給する。
(3) 省略
(注) 特別退職一時金については,月例対象給与の7か月分と定められた。
イ 平成9年度早期退職制度
被告は,内務職員を対象とした「早期退職制度に関する規定」(平成9年6月3日改定)を置いていた(以下「平成9年度早期退職制度」という。)。その制度の内容は下記のとおりである。
記
(適用条件)
第2条 この制度は,次の各号の要件をすべて満たし,会社がこれを認めた場合に適用する。
(1) 年度始年齢(平成9年4月1日現在の満年齢)が45歳以上49歳以下であること
(2) 平成9年4月1日現在の勤務年月数が20年以上あること
(3) 平成9年9月月末に退職を希望すること
2 (省略)
(早期退職の取扱い)
第3条 この制度の適用を受ける職員は,退職金について次の取扱いを行う。
(1) 内務職員退職金規定の適用については,退職事由を自己都合とみなす。
(2) 特別退職一時金として,別に定める金額(注)を支給する。
(注) 特別退職一時金については,月例対象給与の24か月分と定められた。
(4) 希望退職制度による希望退職者の募集
ア 被告は,平成10年2月,経営再建の一環として,内務職員全員を対象に,下記の要領で希望退職者を募集した(甲3。以下「本件希望退職制度」という。)。
記
<1>申込み方法等 平成10年2月中旬から同月末日までに,希望退職申込書に必要事項を記入の上,所属長経由で人事課宛に送付する。
<2>退職日 原則として平成10年3月31日
<3>優遇策の適用対象者 勤続年数10年以上の下表の者を対象とする。
<省略>
<4>優遇策 下表のとおり
<省略>
<5>募集人員 500名
イ 本件希望退職制度による希望退職者の募集により,635名の内務職員が希望退職し,被告の平成10年3月31日現在の内務職員数は,平成9年9月3月(ママ)末日時点の3070名から2177名(うち1973名はエジソン生命への出向者)に減少した(<証拠略>)。
原告らは,いずれも,本件希望退職制度に応募しなかった。
(5) 退職金規定が廃止されるに至った経緯
被告は,前記(1)アのとおり,平成11年6月4日,業務の一部停止命令を受け,翌5日,保険管理人が選任され,以後保険管理人が被告の業務及び資産の管理を開始するとともに,資産状況を調査の上,顧客の保険契約保護のための計画作りを進め,同年12月ころ,保険契約をエジソン生命に包括移転する移転計画案を正式発表した。そして,平成12年1月14日に開催された被告の臨時総代会においてこの計画が承認され,同年3月1日,保険契約の包括移転が実施されるとともに,被告は解散し,これと同時に退職金規定も廃止された。(<証拠略>)
2 争点
(1) 原告らの被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権の存否(被告は,原告らが本件希望退職制度に応募しなかったことについて,債務不履行責任を負うか。)
(2) 退職金規定に基づく退職年金請求権の存否
(3) 原告らの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権の存否
3 争点に関する当事者の主張の要旨
(1) 争点(1)(債務不履行に基づく損害賠償請求権の存否)について
(原告らの主張)
ア 被告は,雇用契約に付随する信義則上の義務として,希望退職制度を含む退職制度を実施するに当たっては,制度内容や制度を選択した場合の利益,不利益に止まらず,制度を選択するに際してその判断の基礎となる会社の業務状況や業務の具体的見通し等について原告らに対して説明し,原告らに損害を被らせないように配慮すべき義務があった。そして,本件希望退職制度は,エジソン生命への営業譲渡という極めて大きな経営状況の変化を前提としているものであったから,被告は原告らに対し,これを導入・実施するに当たり,制度の内容自体に止まらず,それを選択するに際しての判断の基礎となる被告の業務状況やその見通し等に関する事実を正確に説明すべき義務があった。
ところが,被告は,原告らに対して,被告の当時の業務状況について正確な説明をしなかったばかりか,あたかも被告が本件営業譲渡後10年以上は確実に存続するかのような説明をし,上記説明義務を履行しなかった。
イ また,少なくとも,使用者が,被用者の雇用契約上の権利に直接影響を及ぼす重大な情報について,故意にこれを隠匿し,あるいは虚偽の情報を提供するなどし,そのことが被用者に対する著しい背信行為と認められるなどの特段の事情がある場合には,使用者は,被用者に対し,雇用契約上の信義則に基づき債務不履行責任を負う。本件では,被告は,今後の雇用契約の継続性や退職時の給付といった雇用契約上の権利に直接影響を及ぼす重大な情報である本件営業譲渡時の再建計画の内容や実現可能性などについて,同計画は限定された経済条件が長期間にわたって継続するという極めて特異な状況の下でしか実現しない計画であり,また,本件営業譲渡の内容は被告が長期にわたって営業を継続することが容易でないような厳しい条件であったにもかかわらず,被告に不利益な情報を故意に隠匿し,あるいは重大な過失によってこれを見落として説明を怠るなどして,原告らに被告が10年間安泰であると誤信させ,さらに,原告らが誤信に陥っていると知りながら,敢えてこれを修正するための情報を提供せず,むしろ誤信している原告らを顧客から契約解除を防止するために積極的に利用するなどし,原告らに対して著しい背信行為をした。
ウ 以上により,当時50歳以上の原告らは,被告が今後10年間は存続し退職時には退職金規定に基づく退職年金を得られると考えて本件希望退職制度に応募せず,ないしは応募しようとしたが,被告が応募しないよう強く要請するなどして実質的に応募を受け付けなかった。また,当時50歳未満の原告らは,10年間の雇用確保による収入に加え,従前の退職金規定に基づく退職金の総額が相当に増加すると考えたため,本件希望退職制度に応募せず,ないしは応募しようとしたが,被告が応募しないよう強く要請するなどして実質的に応募を受け付けなかった。したがって,原告らは,被告の債務不履行により,本件希望退職制度に応募することが阻害され,少なくとも,本件希望退職制度の募集に応じて退職したとすれば得られたであろう金額,すなわち,平成9年4月1日現在の年齢が,50ないし58歳の原告らについては別表1の1及び2の1の「22選択定年制による支給総額」欄,45ないし49歳の原告らについては別表1の2及び2の2の「早期退職制度支給総額」欄,また,36ないし44歳の原告らについては別表1の3,1の4,2の3及び2の4の「支給総額」欄に各記載の金額相当の損害を被った。
よって,被告は原告らに対して,上記損害につき債務不履行責任を負い,原告らは,その一部として各300万円を請求する。
(被告の主張)
ア 原告らの主張アは否認ないし争う。原告ら主張のような,雇用契約に付随する説明義務なるものはその根拠が明確でなく,被告には,会社の業務状況やその見通しを説明すべき法律上の義務はない。また会社の営業秘密といえる事項や将来の可能性のすべてを説明する義務は,法律上はもとより道義上も存しない。原告らの主張は,現実に起こった結果を,遡って過去において説明義務があったというに等しい。仮に,被告に原告ら主張のような義務があったとしても,被告は,本件希望退職募集に当たり,当時認識していたとおりの説明をしているのだから,義務違反はない。
イ 同イは否認ないし争う。被告は,本件希望退職制度実施当時,財務体質の健全化,今後10年にわたる収益の確保の見込み,人員の大幅なスリム化等につき真摯に説明したのであり,少なくとも10年間の事業年度は確実に被告が存続するというような説明はしていない。また,仮に,被告の説明が原告ら主張のように聞こえるようなものであったとしても,それは,被告が平成10年2月当時の経営状況等に鑑み真摯に考えた計画や見通しを説明したものであって,故意にこれを隠匿し,あるいは虚偽の情報を提供するなどしたものではない。
ウ 同ウは争う。万が一,被告に義務違反があったとしても,原告らは自らの意思で勤務継続を選択したのである。また,本件希望退職制度の適用には被告の承諾が必要であり,被告には,営業上必要な職員に対しては希望退職制度の適用を認めず,引き留めることができるなど,制度の適用は被告の裁量に任されていた。したがって,被告の義務違反と原告ら主張の損害との間に因果関係を認めることはできない。
(2) 争点(2)(退職金規定に基づく退職年金請求権の存否)について
(原告らの主張)
ア 退職金規定第2条1項(2)は,退職年金の受給資格につき退職・解雇時年齢が満60歳以上であることを要件としている(以下「年齢要件」という。)が,これは,事実上満60歳までは退職できないように強要するものであるから,労働基準法(以下「労基法」という。)5条に反して無効である。
イ 被告における退職年金は,昭和44年以降,従前の退職金の一部が退職年金とされたものであり,退職金と合わせ賃金の後払いにほかならず,原告らについては,勤務年数ごとに対応する額の具体的な退職年金請求権が発生し,被告は退職時までの支払猶予の抗弁を有するにすぎないから,年齢要件は,労基法24条に反して無効である。
ウ 仮に年齢要件が有効であるとしても,同要件は,被告が存続していることを前提として,職員が退職する場合に適用されるべく設けられた要件である。したがって,本件原告らのように,被告の解散消滅という被告側の事由によって退職させられた場合には,年齢要件適用の基礎を欠き,同要件は適用されない。
エ 上記ウの事情に加え,後記(3)で主張するとおり,被告が経営破綻に陥ったのは,被告の違法な迂回融資による損失等に起因することに鑑みれば,被告が年齢要件を満たしていないことを理由に退職年金の支払を拒絶するのは著しく信義に反し,権利の濫用として許されない。
オ 以上の次第で,年齢要件にかかわらず,原告らは,勤務年数ごとに対応する額の具体的な退職年金請求権を有しており,その額は別表3及び4の「<20>実際勤務年数に応じた請求年金総額」欄に各記載のとおりであるから,その一部として各300万円を請求する。
(被告の主張)
原告らの主張はいずれも争う。
退職金請求権は,退職事由,勤続年数などの諸条件を満たした者に対して退職時において初めて発生するものであって,条件を満たした退職時までは債権として成立しているとはいえず,年齢要件も,原告らが主張するような限定的な規定文言とはなっていない。また,年齢要件の適用は,退職時の事情によっては左右されない。そもそも,被告の退職年金制度は企業の存続を前提とするものであるから,企業としての存続が不可能となって破綻処理がなされている被告において,定年に達していなかった者については,その制度自体の適用の前提を欠くといわざるを得ない。さらに,後述するように,被告は,違法な迂回融資による損失等に起因して経営破綻に陥ったわけではないから,年齢要件を原告らに適用することが信義則違反や権利の濫用となることはない。
(3) 争点(3)(不法行為に基づく損害賠償請求権の存否)について
(原告らの主張)
ア 被告は,福岡の財閥であるA一族が世襲的にその経営を行っていた会社であるところ,このA一族は,一族の資産管理を目的とする会社を多数設立して運営していた。そして,被告は,A一族や同一族が支配する会社等に巨額の融資を行っており,昭和58年9月には,大蔵省銀行局長から,融資姿勢に適正を欠く取扱いも認められるとの指摘を受け,特定の債務者に対する貸付金について,管理状況,管理方針を6か月ごとに報告するよう命じられた。しかし,その後も,被告は迂回融資を行うことにより,A一族やその支配する会社への融資残高を増加させ,その額は,平成2年3月末時点では計551億円,平成5年5月31日時点では総額628億円を超えていた。
イ そして,上記のような被告のA一族等に対する融資の焦げ付きにより,被告の経営は破綻するに至った。
ウ このように,被告は,自らの故意または過失により,その経営を破綻させた。その結果,原告らは,時間の経過によって当然,満60歳まで被告に勤務して退職年金支給の条件を具備することが確実であったにもかかわらず,被告が破綻したため,本来受けられるはずの退職年金相当額を受給できなくなるという損害を被ったが,その額を被告破綻時の現在価値に引き直すと,別表3及び4の「<20>実際勤務年数に応じた請求年金総額」欄に各記載の額を上回っているから,同額の損害が発生している。
よって,原告らは,被告に対し,不法行為による損害賠償の一部として,各300万円を請求する。
(被告の主張)
ア 原告らの主張アはおおむね認める。
イ 同イは否認する。被告は,バブルの崩壊及びその後の超低金利の継続により財務体質を急速に脆弱化させていたところ,被告の監査法人が,平成10年度決算に際し,監査方針を予告なしに変更し,前年度である平成10年3月期決算の時点よりも有価証券の含み損や貸付の償却・引当てを突如厳しく監査した結果,被告の資産状況は前年度と大きな変化はなかったにもかかわらず,不適法意見が出されることとなり,かかる監査結果を前提とすると保険契約者に対する配当を行うことができなくなったため,経営再建を断念して,破綻に陥ったのである。このように,被告の破綻は監査法人による監査方針の変更に伴う不適法意見が原因であり,原告らが主張する融資と被告の破綻とは何ら関係がない。
ウ 同ウは争う。(2)で述べたとおり,原告らには退職年金請求権は発生していないのであるから,保護されるべき権利も損害も存在しない。また,一般に,いかなる企業であっても,諸般の事情により破綻する可能性を秘めているが,実際,当時の生命保険業界においては,平成9年に日産生命保険相互会社が破綻し,被告の破綻以降も生命保険会社の破綻が続いたことからも明らかなように,業界全体が構造的不況にあえいでおり,被告を含めた生命保険会社は破綻の危機にあった。したがって,原告らが,退職年金の支給要件を満たすまで被告に勤務していた蓋然性が確実であるとは到底いえない。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(債務不履行に基づく損害賠償請求権の存否)について
(1) 認定した事実
前提となる事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,本件希望退職制度の実施に至った経緯や,被告が清算に至った経緯につき,以下の事実が認められる。
ア 被告は,いわゆるバブル経済崩壊後の経済情勢を背景に,収益構造の改善や自己資本の充実を図るべく,平成7年に新経営計画を策定して経営再建に取り組んで来たが,平成9年当時は,同業他社の倒産,金融不安等により生命保険契約の解約が相次いだ上,大型倒産の増加により不良債権も大幅に増加するなどし,経営状況は一層悪化した。被告は,このような経営状況を打開するため,米国大手ノンバンクのGEキャピタルの100パーセント子会社であるGEファイナンシャル・アシュアランス(以下「GEFA」という。)との提携により新会社を設立するという経営策を取り,平成10年2月18日,共同記者会見により,同社と正式合意に至ったことを公表した。(<証拠略>)
イ このGEFAとの提携の概要は,<1>被告とGEFAが共同出資して新会社を設立し,新規契約業務は新会社において行い,被告は,現契約の管理業務と資産運用業務のみを行う,<2>被告は,新会社に営業権を譲渡するとともに,新会社との間で財務再保険を締結し,これらにより最大で1200億円の収益を実現し,財務体質の健全化と内部留保の充実を目指す,<3>被告は,新会社との間で,今後10年間にわたり最大で50パーセントの共同保険式再保険契約を締結し,この共同保険式再保険契約により,10年間で総額900万(ママ)円強の収益を見込み,経営基盤の強化を図る,というものであり,組織・人員に関しては,<4>新会社には,被告の営業職員の全員約7000名と内務職員2340名が転籍又は出向し,被告には,現契約の管理業務と資産運用業務を担当する内務職員約560名(最終的には100名程度)のみ残留する,<5>内務職員については,早期退職制度・選択定年制度実施を柱に,速やかに現行の2900名から2400名体制を実現する等とされていた。(<証拠略>)
ウ 被告は,本件営業譲渡に先立ち,平成10年2月から3月にかけて,職員に対し,33頁からなる職員・代理店向け解説書や広報誌により,提携の概要や新会社設立へのスケジュール,新会社設立に伴う組織・人員の計画等を説明した。(<証拠略>)
そして,前記のとおり,約500名の人員削減を予定した内務職員に対しては,別途,「今後の人事・給与システムおよびその他労働条件等について」と題する48頁からなる冊子(<証拠略>。以下「本件冊子」という。)を配布し,大幅なリストラ実施の必要性とその概要,新会社への転籍・出向に伴う労働条件の概要,内務職員の人事・給与システムその他労働条件の変更内容等を説明するとともに,本件希望退職制度の募集要領を説明した。この冊子の冒頭には,被告の置かれている現況について,「昨年の日産生命破綻以降,当社を取り巻く経営環境の変化には大変厳しいものがあります。とりわけ,解約の急増により保有契約・総資産において予想以上に大きな影響を与えるところとなっています。」,「これに加えて,営業現場においては格付問題から過去経験したことのないような誹謗中傷等にさらされる等,大変残念なことですが,現時点においては,お客様の抱かれている当社に対する不安感の払拭が,当社の最大の経営課題となっています。」,「新計画スタート以降,バブル経済の後遺症である逆ざや問題,不良債権問題等の解決を図るべく,新商品・チャネルの開発,大幅なリストラの実施,計画的な不良資産の処理,資産運用力の高度化への取り組み等,各項目を着々と実行に移」してきたが,「これまでの経営改善のスピードでは対応ができないほどのものとなって」いる等と説明されている。また,本件冊子に記載された本件希望退職制度の概要は前提となる事実(4)のとおりであるが,<1>募集人員の500名は人件費ベースで設定されたものであるため,人員面もあるが,所要金額に達するまで本希望退職の募集を実施すること,<2>募集期間(平成10年2月中旬~2月末日)中の応募者には退職優遇策の適用を認めるが,今後の業務運営に必要不可欠と判断される者については優遇措置の適用を認めないことがあることも記載されていた。(<証拠略>)
エ 上記イの業務提携合意に基づき,新会社であるエジソン生命が設立され,平成10年3月30日付けで,被告からエジソン生命に営業が譲渡され,被告は,平成9年度(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)決算において,営業譲渡に伴うのれん代700億円を特別利益に計上し,財務再保険手数料500億円により責任準備金を積み増した。被告の平成9年度の貸借対照表,損益計算書,事業報告書のうち会計に関する部分及び剰余金処分案並びに附属明細書のうち会計に関する部分について監査を行った監査法人aは,これらが被告の財産及び損益等の状況を正しく示しており,法令及び定款に適合しているとの監査報告を提出した。(<証拠略>)
オ しかし,平成10年中に日本長期信用銀行を始めとする金融機関の破綻が相次ぎ,金融機関に対する行政指導が強化され,そのような状況下で,被告の平成10年度決算の監査を担当した監査法人aは,被告に対し,不良債権に対する約962億円の貸倒引当金の追加設定,時価が著しく下落し回復可能性が認められない有価証券に対し約1001億円の評価損の計上,外国債券及び外貨貸付金に対し約201億円の為替差損の計上が必要である等と指摘し,被告の決算内容が会社の財産及び損益の状況等を正しく示しておらず,また計算書類等が法令及び定款に違反し,あるいは適合していないとの監査報告を提出するに至ったことから,被告は,事業継続を断念することを決定し,金融監督庁にこの決定を報告した。これにより,平成11年6月4日,被告に対する業務の一部停止命令が発せられた。(<証拠略>)
(2) 判断
ア 原告らは,被告が雇用契約に付随する信義則上の義務として,本件希望退職制度を実施するに当たり,制度の内容自体に止まらず,それを選択するに際しての判断の基礎となる被告の業務状況やその見通し等を正確に説明すべき義務があるとした上で,<1>被告が当時の業務状況について正確な説明をせず,あたかも被告が本件営業譲渡後10年以上は確実に存続するかのように説明し,<2>本件営業譲渡時の再建計画の内容や実現可能性などに関し,同計画が限定された経済条件が長期間にわたって継続するという特異な状況の下でしか実現しない計画であり,また,本件営業譲渡の内容は被告の長期営業継続が容易でない厳しい条件であったのに,これら重要な情報を故意又は過失により説明せず,原告らが被告は10年間安泰と誤信したことを知りつつこれを修正する情報を提供しなかったことをもって,被告の債務不履行であると主張する。
イ ところで,経営不振に陥り事業倒産の危機に瀕した企業が,これを回避するべく再建策を講じ,その一環として大規模な人員削減のため希望退職制度を設けて退職者を募集するような場合,その企業が雇用契約を締結している従業員に対し,その制度の具体的内容及びこれを選択した場合の利害得失に関する情報を,従業員が自らの自由意思においてこれに応募するか否かの判断ができる程度に,提示すべきことは当然である。しかしながら,さらに進んで,当該企業が雇用する従業員に対し,希望退職制度実施に当たり,同制度採用当時における業務状況の詳細や再建策実施後の将来の見通しについて具体的根拠を示して説明をすべき法的義務は,特段の事情がない限り,これを肯定することはできない。けだし,事業経営者,とりわけ被告のように一般人を顧客とする生命保険会社の経営者にあっては,その事業が,顧客,取引先や従業員も含め経済社会に多大な影響を及ぼすものであることから,その時々の時勢に応じて適切な経営を行うことを要求され,事業が経営難に陥った場合には,まずもってその経営を再建すべく最大限の努力をすることが求められるのであり,その過程において,経済社会全体に及ぼす影響を考慮し,財務状況や再建計画の概要等に関する情報を一定程度開示することが道義上求められるとしても,その開示の内容・程度,時期等については,将来の経営状態への見通し,開示による影響等を十分に考慮し,企業再建・存続を実効あらしめるため,高度の経営上の判断に基づいて決定されるべき性質のものであるからである。
ウ これを本件につきみると,前記(1)ウの事実によれば,被告は,本件希望退職制度の募集対象となる内務職員に対しては,本件冊子により,被告の置かれている経営状況が極めて厳しいものであること,GEFAとの業務提携とその一環として実施する本件希望退職制度が今後被告が生き残るための抜本的再生策であること等を述べた上で,本件希望退職制度の具体的内容(応募要領)を説明していることが認められるし,また,前提となる事実(4)イのとおり,本件希望退職制度実施により,当初予定していた募集人員500名を超える内務職員がこれに応募し,平成10年3月末日に被告を退職していることからすれば,本件希望退職制度の実施に当たり,被告は,職員が早期退職の募集に応じるか否かを主体的に判断するのに必要な情報を提供していたと認められる。
なお,原告らは,本件希望退職制度を実施する際,被告が今後10年間は確実に存続するかのような説明をしたことを問題視する。しかし,証拠によれば,被告は,職員・代理店向けの解説書において,GEFAとの業務提携につき,新会社に対する営業譲渡により被告に最大700億円の収益が見込まれ(なお,営業権譲渡価格は取引実行後の諸事情により変わることがある旨が付記されている。),これと財務再保険の出再により最大1200億円の収益を実現し,安定的な経営基盤を確立することを目指すこと,また,10年間にわたって新会社の新契約の最大50パーセントの共同保険式再保険に参画することにより将来にわたって十分な収益を見込んでいること(この点,「一定の試算によれば,10年間で総額900億円強の収益が見込まれます。」と説明されている。),人員の大胆なスリム化を図る結果,事業費負担が大幅に軽減され,共同保険式再保険で見込まれる収益と合わせて将来にわたり安定的な収益構造を構築することが期待できることが被告にとってのメリットであると説明していること(以上,甲11・9~12頁),また,原告ら内務職員に配布した本件冊子における,「本冊子に関するQ&A」の中で,「Q1 リストラが達成されれば会社は生き残れるのか(収支を含む)?」に対し,「まず,リストラは生き残れる可能性が見込める場合に,生き残るために行うものであることを申し上げたいと思います。」と述べるに止まり,特に,今後の被告の将来が安定確実であるとの趣旨の記述はみられないこと(甲3・28頁)が認められる。これらの記述や表現からすると,被告は,原告らに対し,営業譲渡により不良債権処理等のための資金を得るとともに,今後10年間にわたって新会社との間で共同保険式再保険契約を締結することにより営業譲渡後の収益を得るという計画の枠組みと,これにより被告の経営安定を目指すという本件業務提携の目的を説明するものの,今後10年間は事業が安定し破綻に陥ることはない旨を断定的に述べているとはいえない。
エ また,原告らは,被告が再建計画の実現可能性が低いことを示す情報を故意又は過失により説明しなかった等と主張する(前記ア<2>)ところ,この論旨は,要するに,本件希望退職制度の実施に当たり,GEFAとの提携合意を基礎とする再建計画の実現可能性が低いことを職員に知らしめた上で,これに応募するか否かを判断させるべきであったとするものであるが,これまで認定した事実関係を踏まえると,被告が実施した上記再建計画及びその一環をなす本件希望退職制度は,正しく,被告が「生き残る可能性が見込める場合に,生き残るために行うもの」にほかならず,被告は,再建を実現するため,被告及び新会社での業務遂行のため必要最低限の人員(前記(1)イ<5>のとおり,内務職員は合計約2400人と見込まれた。)及び人材は確保しつつ(前記(1)ウ<2>のとおり,被告が今後の業務運営に必要不可欠と判断する者については優遇策が適用されないことがあるとされていた。),余剰となる人員を削減する手段方法として本件希望退職制度を実施したのであるから,職員に対し再建計画の実現可能性が低いことを知らしめた上で,本件希望退職制度を実施すべきであったというのは,それ自体背理というほかはなく,被告にそのような法的義務を認めることはできない。
オ その他,本件において,被告に何らかの雇用契約上の付随義務違反による債務不履行と目すべき特段の事情があるとは認められない。
カ なお,原告らは,本件希望退職制度に応募しようとしたが,被告が応募しないよう強く要請するなどして実質的に応募を受け付けなかったとも主張するが,主張自体具体性に欠ける上,本件希望退職制度は,被告が承認して初めて優遇措置が認められ(前提となる事実(4)ア<3>),また,今後の業務運営に必要不可欠と判断する者には優遇措置を認めないことがあるとされていた(前記(1)ウ<2>)のであるから,被告が原告らの本件希望退職制度による退職申し出を事実上受け付けなかったとしても,それが直ちに債務不履行となるとはいえない。
(3) 結論
以上の次第で,被告について,原告らが主張するような債務の不履行があったとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない。
2 争点(2)(退職年金請求権の存否)について
(1) 年齢要件は労基法5条,24条に違反するものか
被告の退職金規定において,退職年金受給資格に退職・解雇時60歳以上という年齢要件が定められていることは前提となる事実(2)のとおりである。しかし,このように年齢要件を設けることが労基法5条にいう「精神の自由又は身体の自由を不当に拘束する手段によって,労働者の意思に反して労働を強制」するものとは到底いえないから,年齢要件が同条に違反するとの原告らの主張は失当である。また,原告らは,退職金が賃金の後払であることを理由に勤務年数ごとに対応する額の具体的退職年金請求権が発生し,ただその支払が猶予されているのみであると主張するところ,退職手当(退職金・退職年金)は,就業規則等においてそれを支給すること及び支給基準が定められ,使用者に支払義務がある場合には,賃金の後払的性格を有すると解されるものの,退職手当の額は,退職事由・勤続年数などの諸条件に照らして退職時において初めて確定するものであり,退職時までは債権として確定しているとはいえないから,年齢要件を定めることが労基法24条の定める賃金全額払の原則に違反するものであるとはいえず,同条違反をいう原告らの主張も失当である。
よって,原告らの上記主張はいずれも採用することはできない。
(2) 原告らには年齢要件の適用がないか
原告らは,年齢要件は被告が存続することを前提として従業員が任意に退職する際に適用されるべく設けられた規定であり,会社解散により退職を余儀なくされた場合には適用がないと主張するが,退職金規定をそのように限定して解釈すべき根拠は全くない。
(3) 被告が年齢要件を満たさないことを理由に退職年金支払を拒絶することは信義に反し,権利を濫用するものか
仮に,被告が自らの違法な迂回融資を原因として経営を破綻させ,事業を継続できずに解散し,その結果,原告らが退職を余儀なくされたものであるとしても,原告らが退職金規定において定める受給資格要件を具備していないため,権利が発生していない以上,被告が退職年金の支給を拒絶するのは止むを得ないのであって,被告が原告らに対し,年齢要件を具備していないことを理由に退職年金の支払を拒絶することが著しく信義に反し,あるいは権利の濫用として許されないということはできない。
(4) 結論
以上の次第で,争点(2)に関する原告らの主張はいずれも採用できないから,原告らの退職年金請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。
3 争点(3)(不法行為に基づく損害賠償請求権の存否)について
(1) 証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,A一族がその経営を代々世襲して行っている会社であり,昭和52年から平成7年7月までA(Aから改名。以下「A」という。)が代表取締役社長の地位にあったところ,被告は,Aの代表取締役在任期間中,A一族の資産管理を目的とした複数のプライベート・カンパニー(以下「PC」という。)に多額の融資を実行しており,昭和58年9月及び昭和61年1月には,大蔵省銀行局長から,複数のPCを含む債務者に対する貸付について,「貸付金の内容が大幅に悪化しており,なかには,融資姿勢に適正を欠く取扱いも認められる」,「融資の審査・管理については,債務者の実態把握が不十分であり,一部には厳正を欠く取扱いも認められるので,審査・管理に厳正を期し,充実・強化を図る必要がある。」等と指摘され,速やかに適切な措置を講じるよう命じられたこと,しかし,被告は,その後も迂回融資の方法により,PCへの融資を増加させ,平成5年5月に実施された大蔵省の検査において,このPCに対する迂回融資が628億円に上ることが認定され,その後被告は,大蔵省銀行局担当者との綿密な協議のもと,迂回融資の回収策を策定し実行に移したが,その成果は芳しいものではなかったこと(この間の平成7年7月にAは代表取締役を退任),以上の事実が認められる。
ところで,前記1(1)オのとおり,被告の経営破綻の直接の原因は,平成10年度決算について監査法人の承認が得られず不適法との意見が出されたためと認められるが,その際,監査法人から,不良債権に対する約962億円の貸倒引当金の追加設定,有価証券の評価損や外国債券・外貨貸付金の為替差損合計約1200億円の計上等が必要であると指摘されている。そして,被告は,いわゆるバブル経済破綻後の経済情勢を背景に経営が悪化していた上,平成9年に同業他社の倒産や金融不安等により生命保険契約の解約が相次いだ上,大型倒産の増加により不良債権も大幅に増加したため,経営打開策として,平成10年2月,GEFAとの業務提携に至ったことは前記1(1)アのとおりである。これらの事情と上記認定事実を総合すると,被告の経営破綻は,長引く不況と長期にわたる低金利,株価の低迷,金融不安といった当時の社会経済情勢における諸要因を抜きにしては考えられないが,被告におけるA一族への600億円を超える多額の融資とその大半が不良債権化したことが,被告の経営基盤を脆弱なものとする方向で影響したことは否定できない。
(2) 原告らは,被告がA一族のPCに対し違法な迂回融資をしたことを違法行為とし,これにより,原告らが満60歳まで被告に勤務して退職年金の支給を受ける権利を侵害されたとして,得べかりし退職年金の破綻時における現在価値相当額の一部を損害として請求する。
しかしながら,上記A一族のPCに対する迂回融資とその融資金の不良債権化が被告破綻の一因となっていたとしても,被告の破綻・解散は,その一事のみによって必然的に生じたものであるとはいえない上,原告らが侵害されたと主張する権利は,破綻の時点において既に発生している権利ではなく(なお,<証拠略>及び弁論の全趣旨によると,原告らは,退職に伴って被告の退職金規定に基づく退職一時金の支給を受けており,また,少なくとも解散前に出向解除により退職した者は,規定の退職金に加えて退職優遇一時金の支給を受けたことが認められる。),原告らが60歳に達するまで被告において勤務を継続することができたと仮定し,かつ,その時点において現行の退職金規定が維持されていたとすれば,その時点で初めて債権として確定し,発生する退職年金の受給権に対する単なる期待にすぎないのであって,被侵害権利として保護に値するものということができない。したがって,原告らの前記主張は採用できない。
(3) 結論
以上の次第で,原告らの不法行為に基づく損害賠償請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。
第4結語
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三代川三千代 裁判官 増田吉則 裁判官 篠原淳一)
<別紙> <退職年金制度>
1 総合職について
(1) 退職年金の構成
一般職員の退職年金は基本年金・付加年金Ⅰ・付加年金Ⅱで構成し,月額で構成する(第16条)。
(2) 基本年金算出基礎点(策24条)
基本年金算出基礎点は,次の各号により計算する。
ア 退職時において有する基本点が450点以下のとき,その有する基本点
イ 退職時において有する基本点が450点を超え1250点以下のとき,その有する基本点のうち450点を超える4分の1を450点に加えた点数
ウ 退職時において有する基本点が1250点を超えるときは650点
(3) 基本年金月額の計算(第25条)
基本年金月額は,前条の基本年金算出基礎点に70円を乗じた金額とする。
(4) 付加年金Ⅰ月額の計算(第26条)
付加年金Ⅰ月額は,退職時において有するコース加算点の合計に25円を乗じた金額とする。
(5) 付加年金Ⅱ月額の計算(第27条)
付加年金Ⅱ月額は,退職時において有する職務加算点の合計に25円を乗じた金額とする(1項)。
前項の計算において,職員の有する職務加算点が,退職時における職能資格・級(資格発令者については58歳時職能資格・級。以下同じ。)に応じて定める【別表6】の点数を超えるときは,その超える点数を職務加算点から除外する(2項)。
2 一般職について
(1) 退職年金の構成
一般職員の退職年金は基本年金・付加年金Ⅰ・付加年金Ⅱで構成し,月額で構成する(第16条)。
(2) 基本年金算出基礎点(第42条)
基本年金算出基礎点は,次の各号により計算する。
ア 退職時において有する基本点が450点以下のとき,その有する基本点
イ 退職時において有する基本点が450点を超え1250点以下のとき,その有する基本点のうち450点を超える4分の1を450点に加えた点数
ウ 退職時において有する基本点が1250点を超えるときは650点
(3) 基本年金月額の計算(第43条)
基本年金月額は,前条の基本年金算出基礎点に70円を乗じた金額とする。
(4) 付加年金Ⅰ月額の計算(第44条)
付加年金Ⅰ月額は,退職時において有するコース加算点の合計に25円を乗じた金額とする。
(5) 付加年金Ⅱ月額の計算(第45条)
退職時における職能資格・級が主査格1級以上の者の付加年金Ⅱ月額は,退職時において有する職務加算点の合計に25円を乗じた金額とする(1項)。
退職時における職能資格・級が主査格2級の者の付加年金Ⅱ月額は,退職時において有する職務加算点の合計に5円を乗じた金額とする(2項)。
前2項の計算において,職員の有する職務加算点が,第1項の計算においては退職時における職能資格・級に応じて定める【別表6】の点数,第2項の計算においては300点を超えるときは,その超える点数を職務加算点から除外する(3項)。