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東京地方裁判所 平成16年(ワ)12285号 判決 2005年2月15日

原告

東京海上日動火災保険株式会社

被告

Y1

ほか一名

主文

一  被告Y2は、原告に対し、一六九万九〇三六円及びこれに対する平成一六年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告Y1に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告Y2の間においては同被告の負担とし、原告と被告Y1の間においては原告の負担とする。

四  この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自一六九万九〇三六円及びこれに対する被告Y1は平成一六年六月一七日から、被告Y2は同月二二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  交通事故の発生(証拠を記載したほかの事実は、当事者間に争いがない。)

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成一五年一一月四日午前七時三五分ころ

場所 東京都板橋区<以下省略> 川越街道(以下「本件道路」という。)上り線上

当事者車両 <1>被告Y1が所有し、被告Y2が運転する自家用普通貨物自動車(<番号省略>。以下「被告車」という。)

<2>訴外株式会社アサヒ(以下「アサヒ」という。)が所有し、訴外Aが運転する自家用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「A車」という。)

事故態様 上記場所の交差点(以下「本件交差点」という。)付近において、A車に被告車が追突し、A車がその前方の訴外Bが運転する自家用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「B車」という。)に追突し、さらにB車がその前方の訴外Cが運転する自家用普通貨物自動車(<番号省略>。以下「C車」という。)に追突した(甲一、三、四)。被告車が、氏名不詳者が運転する車両(以下「第三者車両」という。)に追突されたために、A車に追突したか否かについては、下記のとおり争いがある。

二  争点及び当事者の主張

(1)  本件事故態様及び責任原因

ア 原告

(ア) 本件事故現場付近は、本件事故発生当時、渋滞していたのであるから、被告Y2は、前方を注視して前車との安全を確認しながら走行する注意義務があるのに、これを怠り漫然と走行したため、被告車がA車に追突した。したがって、被告Y2は、アサヒに対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償責任がある。

被告Y2は、被告Y1の営む業務を遂行するため、被告車を運転していたものであるから、被告Y1は、アサヒに対し、民法七一五条一項に基づき、損害賠償責任がある。

(イ) 被告らは、第三者車両に後方から追突されたため、被告車がA車に追突した旨主張するが、Aは、このような事実を現認していないし、本件交差点の状況や本件事故時の各車両の位置等から、このような第三者車両が存在していたとは考え難い旨証言し、また、玉突き衝突を受けた他の被害者であるB及びCも、Aと同一の認識であるから、被告らが主張する第三者車両は存在しなかった。

(ウ) なお、被告Y2は、第三者車両に追突された際、アクセルを踏み込んでしまった旨供述し、また、アクセルを踏み込まずにブレーキを踏んでいれば、A車への追突は回避できた可能性にも言及している。したがって、仮に、第三者車両が被告車に追突したとしても、被告Y2には、追突された場合に前車とのさらなる追突を防止すべく、直ちにブレーキを踏み、被告車を停止させる措置を講ずべき注意義務を怠り、かえってアクセルを踏み込んだ過失がある。この場合、被告らと氏名不詳の第三者は共同不法行為者となるが、いずれにしても、被告らが、不法行為責任を免れることはない。

イ 被告ら

(ア) 上記ア(ア)ないし(ウ)は否認ないし争う。

(イ) 本件事故は、被告車が後方を走行していた第三者車両に追突されたことによるものである。本件事故当時、本件道路の上り車線は渋滞しており、被告車もノロノロ運転の状態であった。被告Y2は、アクセルを踏んだり、踏むのを止めたりしながら、A車に追随していたが、突然後方の第三者車両から追突を受け、その衝撃により、A車に追突してしまったものである。したがって、被告車がA車に追突した本件事故は、不可抗力によるものであり、被告Y2に過失はない。

(ウ) 被告Y2は、第三者車両に追突される直前、アクセルの上に足を置いていた。そのような状況で、突然、予期せず第三者車両に追突されたのであるから、アクセルを踏んでしまうことは当然であり、直ちにブレーキペダルに踏み換えることは不可能である。したがって、この点においても、被告Y2に過失はない。

(2)  原告の求償債権の額等

ア 原告

(ア) アサヒは、本件事故により、A車の修理費用一六九万九〇三六円の損害を被った。

(イ) 原告は、アサヒとの間で、車両保険を含む自動車保険契約を締結していたところ、平成一六年一月一六日、同契約に基づき、アサヒに対し、車両保険金一六九万九〇三六円を支払ったことにより、アサヒの被告らに対する同額の損害賠償請求権を代位取得した(商法六六二条)。

(ウ) よって、原告は、被告らに対し、各自一六九万九〇三六円及びこれに対する被告Y1は訴状送達の日の翌日である平成一六年六月一七日から、被告Y2は訴状送達の日の翌日である同月二二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

イ 被告

(ア) 上記ア(ア)のA車の修理費は、乙二の一・二(見積書)のとおり、一六四万一一八二円が相当である。

(イ) 上記ア(イ)・(ウ)は争う。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(本件事故態様、責任原因)について

(1)  本件事故態様について

ア 証拠(甲一、三ないし八、乙三、証人A、被告Y2本人)によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 本件道路は、概ね、別紙図(甲三添付図)のとおり、成増方面と池袋方面を結ぶ片側二車線の道路(川越街道)で、本件道路の中央には中央分離帯が設けられているが、本件交差点では、中央分離帯は途切れている。この中央分離帯が途切れている部分の距離は約七・八mである。

(イ) 被告Y2は、被告車(車長四・六八m)を運転して、本件道路を成増方面から池袋方面に向かう車線(以下「本件車線」という。)の第二車線を走行していたところ、本件車線は第一車線及び第二車線とも、渋滞し、車両が停止したり、低速で進行したりする状況であった。

(ウ) A車は、先行車であるB車が前方の対面信号が赤のために停止したのに続き、本件交差点付近で停止していたところ、後続車である被告車が、(後方から第三者車両に追突されたかどうかはともかく)A車に追突し、A車は、その前で停止していたB車に追突し、さらにB車がその前で停止していたC車に追突した。

イ 被告らは、本件事故の原因は、被告車が後方を走行していた第三者車両に追突されたことによるものであるから、被告Y2には過失はないと主張する。そして、被告Y2は、本件事故の状況について、概ね、次のように供述する(乙三の陳述書の記載を含む。)。

すなわち、被告Y2は、被告車を運転して、アクセルを踏んだり、離したりしながら、ノロノロ運転で前車に追随し、本件交差点に進入し、通過し終わろうとした時、突然、被告車の後部にドンと衝撃があり、その衝撃でアクセルを踏み込んでしまい、前車(A車)に追突してしまった。A車に追突した衝撃は相当強く感じ、かけていた眼鏡がダッシュボードに飛んでしまった。A車に追突した後、眼鏡を探す前に運転席側のドアミラーで後方を確認すると、白っぽい乗用車が中央分離帯の切れ間からユーターンして対向車線に進入するところだったが、裸眼視力は両眼とも〇・一もないので、ナンバープレートの数字は見えなかった。その後、三〇秒ないし四〇秒位眼鏡を探し、ダッシュボードにあった眼鏡を見つけてかけ、再度ドアミラーで後方を確認したが、白っぽい車は見えなくなっていた。本件事故後の被告車の停止位置は、本件交差点をほぼ通過し終わって車の後部がわずかに交差点にかかっている状況で、被告車の後部が別紙図のの車より約三〇cm本件交差点側に出ている程度であった、というものである。

ウ しかしながら、Aは、停止していたA車は被告車に追突されて一m位前に押し出され、別紙図のの車両の位置より約一m程度池袋寄りの位置(A車の後部が、中央分離帯の池袋側の端から約一m池袋側に寄った位置)に停止し、追突後の被告車の停止位置は、その前部がA車の後部から約三〇cm位離れていた旨証言しているところ、同証言を前提にすると、車長が四・六八mの被告車の大部分(約三・九八m)は、本件交差点内にあったことになる。そして、Aは、被告車に追突されてから一分位してからA車から降り、それまでの間、サイドミラーで後方を見ていたが、右左折する車両は見ていないことや、本件交差点の状況や本件事故直後の被告車の停止位置から、第三者車両が被告車に追突した後に逃走したものとは考えられない旨証言している。また、本件事故によりB車に追突されたC車の運転手のCは、調査会社の事情聴取において、本件事故後に一番最初に車から降りて、後ろまで見に行った時に、四台関連(の事故)と分かったが、五台目がいる様な状況ではないとその時思い、現在(平成一六年一月二一日)もそう思う、被告車は、本件交差点内に停止していた旨を述べている(甲三、五)。さらに、A車に追突されたB車の運転手であるBも、調査会社の事情聴取において、A車の停止位置は、中央分離帯の切れ目にA車の後部があった状態で、被告車は本件交差点内で停止していた旨を述べている(甲三、四)。これらの事情聴取に基づき作成されたのが別紙図であるところ、同図では、被告車は本件交差点内に停止していたように図示されている(甲三)。

A及びC並びにB車に同乗していたBの息子は、本件事故後、各車両から降り、三人で被告車の運転席近くまで行っているから、被告車の停止位置等を見ており、また、A、C及びBは、警察官に事情を説明するなどしたのであるから(甲三ないし五、証人A)、被告車の車体の全てが本件交差点内にあったか、被告車の前部が若干池袋側の中央分離帯部分にかかっていたかはともかく、少なくとも被告車の大部分が本件交差点内にあったという点について、A、C及びBのいずれもが認識違い又は記憶違いをしているものとは考え難い。そして、A、C及びBは、警察官が現場に到着してからの事情聴取の際、被告車が第三者車両に追突されたらしい旨の話を聞いたが、警察官に対し、第三者車両がいたとしても、この状況下では逃走できないのではないかと述べたことも(甲三ないし五、証人A)、A、C及びBの認識がほぼ一致していたことを裏付けるものというべきである。

そうすると、本件事故直後の被告車は、Aが証言するように少なくともその大部分が本件交差点内にあったと認めるのが相当であるところ、上記ア認定の本件交差点の状況や、本件事故当時、本件車線は渋滞していたことも考慮すると、被告車に第三者車両が追突した後、A、B及びCのいずれもが全く気付かないうちに、第三者車両が反対車線にユーターンして逃走したものとは考えにくい。

エ 被告らは、Aの証言を前提としても、被告車の車長が四・六八m、本件交差点の中央分離帯の途切れた部分の距離が約七・八mであるから、停止していた被告車の後部と中央分離帯の成増側の端の間に約三・八mの隙間があることになり、第三者車両が逃走することは十分可能であると主張する。

なるほど被告車の後方から相当の車間距離をもって走行してくる車両が、上記約三・八mの隙間からユーターンをすることは、その時に丁度反対車線の走行車両が途切れていたとすれば可能であると考えられる。しかしながら、第三者車両が被告車に追突したとすれば、追突直後も、第三者車両は停止した被告車の後部に相当接近していると考えられ、そうであれば、第三者車両は一度後退するなどしなければ、ユーターンをすることは困難なはずである。しかしながら、被告Y2の供述を前提としても、第三者車両が一度後退するなどしてユーターンをしたような状況は窺われないし、本件事故当時、本件車線が渋滞していたことからすれば、そのようなユーターンが、A、B及びCの誰もが気付かない間に速やかにできたというのはやはり不自然である。被告Y2は、第三者車両に追突され、アクセルを踏み込んだため、被告車と第三者車両との間が空き、第三者車両がユーターンできたかのように供述するが、被告Y2の供述によれば、被告車はアクセルを踏み込んだもののエンストしてしまったというのであるから、さほど被告車が前進したものとは考えにくい。しかも、Aは、被告車に追突されてから一分位してからA車から降り、それまでの間、サイドミラーで後方を見ていたが、右左折する車両は見ていない旨証言していることは、上記ウのとおりである。

オ また、被告車が第三者車両に追突された痕跡をみるに、被告Y2は、被告車の後部バンパーが歪んでいるのはすぐ分かった旨供述するところ、なるほど、乙一によれば、被告車の鉄製の後部バンパーのほぼ真ん中付近に内側へのゆるやかな歪みがあることが認められる。

しかしながら、被告車の鉄製の後部バンパーはその形状等からも相当頑丈なものであるところ(乙一)、それに上記の程度であれ歪みが生じたとすれば、第三者車両も追突部分が損傷し、あるいは、同部分の塗料等が同バンパーに付着する可能性が高いと考えられるが、警察官も同バンパーの歪みは確認したものの、同バンパーに塗料の付着や路面に第三者車両のランプ等の破片がないことを指摘したことが認められる(被告Y2本人)。

また、第三者車両に追突されたことにより同バンパーが歪んだとすれば、同バンパーにも何らかの傷がつくのが通常であると考えられるところ、被告Y2は、本件事故により同バンパーに新しい小さい傷がついていた、新しくついた傷は一目で分かるなどと供述するものの、その傷が面状か、線状か、点状のものであったかなどの傷の状態は覚えていないなど、供述は曖昧である。しかも、被告側の保険会社の調査報告書(乙一)の被告車の後部バンパーの写真には、そのような傷は写っていないところ、被告Y2は、写真には写っていない部分に傷があった旨供述するが、本件事故によるものと考えられる新しい傷があったのであれば、被告側の保険会社がそれを撮影しなかったとは考えにくい。かえって、同報告書には「変形のみの損傷で明らかな新しい傷は確認できず。」と記載されているから、被告Y2の上記供述は採用できない。以上のような事情や、上記の後部バンパーの歪みの状況からしても、それが本件事故の際に生じたものかは疑問である。

カ さらに、本件事故後、A、C及びBの息子が各車両を降りて被告車の運転席のところまで行き、Aは、被告Y2に対し、「どうしたんですか。」と声をかけたが、その際、被告Y2は、被告車が後方から第三者車両に追突されたことについては一切述べず、A、B及びCが、被告車も後ろから追突されたという話を聞いたのは、警察官が到着した後、警察官からであったことが認められる(甲三ないし五、証人A)。しかしながら、被告Y2は、自らが追突した車両の運転手等が自分のところに来たのであるから、仮に、それが自分の責任ではなく、第三者車両の運転手の責任であったとすれば、そのことを直ちにAらに告げてしかるべきである。被告Y2がそれをAらに告げなかったのは、真実、被告車が第三車両に追突されたとすれば、不自然であるといわざるを得ない。

また、被告Y2は、本人尋問において、当初は、ダッシュボードにあった眼鏡を探してかけ、再度ドアミラーで後方を確認したが、白っぽい車は見えなくなっていたと供述するにとどまり、それ以上に、窓から、あるいはすぐに被告車を降りて、第三者車両がいないかを確認するような行動をとったことは供述しなかったが、後にこの点を質問されて、Aらが運転席のところに来た時に、被告車を降りて、後ろを再度見たが、その時には確認できなかった旨供述している。しかしながら、仮に、Aらが来た際に、後方を見て第三者車両がいないのを確認したというのであれば、Aらに対し、被告車も第三者車両に追突されたが、第三者車両は逃走したことを告げなかったことは、一層不自然である。

キ 被告Y2は、A車に追突した際に眼鏡が飛んだが、裸眼視力は〇・一もないので、眼鏡がないとほとんど何も見えず、眼鏡を三〇秒ないし四〇秒探して、ダッシュボード上にあった眼鏡を見つけた旨供述するが、目の前のダッシュボードにある眼鏡を探すにも三〇秒ないし四〇秒もかかったというのに(しかも、上記のように、眼鏡がないとほとんど何も見えないと供述しているのに)、ドアミラーで白っぽい車がユーターンするのは見えた旨供述し、乙三の陳述書では、さらに、白っぽい車が、右に進路変更し、助手席側が斜めに見える状態であったとも述べており、この供述等にも疑問がある。

ク さらに、被告は、第三者車両にドンとぶつかられ、眼鏡が飛ぶほどの衝撃を受けたというのに、Aは、衝撃音は一回(被告車がA車に追突した際の衝撃音)しか聞いていないと証言し、A車が追突したB車の運転手のBも、調査会社の事情聴取の際に、後方から大きな音が聞こえた直後にA車に追突された旨述べており(甲三、四)、第三者車両が被告車に追突した際の音は聞いていないことが認められ、また、甲三及び五によれば、B車に追突されたC車の運転手のCも、第三者車両が被告車に追突された際の音を聞いていないことが推認できる。

ケ 以上のとおり、本件交差点の状況、本件事故後の被告車の停止位置及び本件事故当時の道路状況等からすれば、被告車に追突した第三者車両が反対車線にユーターンして逃走したものとは考えにくい(上記ウ、エ)上、第三者車両に追突された際の被告車の痕跡として被告Y2が供述する後部バンパーの歪みも、本件事故の際の生じたものか疑問であり、また、後部バンパーに新しい傷があった旨の被告Y2の供述は採用することができない(上記オ)。さらに、被告Y2の本件事故後の言動も、真実、第三者車両に追突された者としては不自然であり(上記カ)、眼鏡を探して、サイドミラーで第三者車両を確認した状況に関する被告Y2の供述にも疑問がある(上記キ)。また、A、B及びCは、いずれも第三者車両を見ていないし(特に、Aは本件事故後、サイドミラーで後方を見ていたが、第三車車両を見ていない。)、いずれも、第三者車両が被告車に衝突する際の音を聞いていない。

以上を総合すると、被告車が第三者車両に追突された旨の被告Y2の供述(乙三の陳述書の記載を含む。)は採用することができないといわざるを得ず、そうすると、本件事故は、被告Y2の前方不注視の過失により、被告車がA車に衝突したものと認定するほかはないというべきである。

なお、被告らは、本件事故発生後、本件事故現場に臨場した警察官は、甲欄が「不詳」とする交通事故証明書(甲一)を作成しているが、これは被告車の損傷や被告Y2の説明が合理的であったからにほかならない、仮に、被告車の停止位置が、被告車の後部と分離帯の間に第三者車両が逃走する可能性がないような隙間しかなかったとすれば、被告Y2の説明が虚偽であることは明らかであるから、上記のような交通事故証明書が作成されるはずがないと主張する。しかしながら、本件事故は物損事故として処理されたため、実況見分も実施しないまま、警察官は各車両を道路端に寄せるよう指示したことが認められ(証人A)、被告Y2が本件で供述するような説明をする以上、交通事故証明書としては上記のような記載をせざるを得ないと考えられるから、それをもって、被告車の損傷や被告Y2の説明が合理的であるということはできない。

他に以上の認定判断を左右するに足りる証拠はない。

(2)  責任原因について

上記のとおり、被告Y2は、被告車を運転して、停止中のA車に追突したものであり、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条に基づき、アサヒが被った損害につき、賠償責任がある。

他方、原告は、被告Y2は、被告Y1の営む業務を遂行するため、被告車を運転していた旨主張するところ、被告Y1は被告車の所有者ではあるものの、被告Y2は、本人尋問において、現在も本件事故当時も、自ら運送業を営んでいる旨供述するところ、これを排斥して、被告Y2が、本件事故当時、被告Y1の営む業務を遂行していたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告Y1に民法七一五条一項の不法行為責任を認めることはできない。

二  争点(2)(原告の求償債権の額等)について

(1)  アサヒは、本件事故によるA車の修理費用として一六九万九〇三六円(消費税込み)を要し、同額の損害を被ったことが認められる(甲二)。

被告Y2は、被告側保険会社SC作成の乙二の一・二(見積書等)を提出し、修理費はこれらに記載された一六四万一一八二円が相当であると主張するところ、同額は、アサヒが実際に要した修理費用より五万七八五四円低額である。しかしながら、A車の破損状況を前提に、アサヒが修理を受けた際の見積書等(甲二)を検討しても、その内容に特段不自然不合理な点は認められない。そして、上記の乙二の一・二は、本件事故から八か月以上が経過した後に作成されたものである上、これとアサヒが修理を受けた際の見積書等(甲二)を対比しても、上記の差額が不相当な費用ということはできない。したがって、被告Y2の上記主張は採用することができない。

(2)  原告は、アサヒとの間で、車両保険を含む自動車保険契約を締結していたところ、平成一六年一月一六日、同契約に基づき、アサヒに対し、車両保険金一六九万九〇三六円を支払ったため(甲二、弁論の全趣旨)、商法六六二条により、アサヒの被告Y2に対する同額の損害賠償請求権を代位取得したものと認められる。

三  結論

以上の次第で、被告Y2に対し、一六九万九〇三六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一六年六月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告の本件請求は理由があるから認容し、被告Y1に対する原告の本件請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本利幸)

別紙

<省略>

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