東京地方裁判所 平成16年(ワ)14994号 判決 2006年3月17日
原告
X1
外2名
上記3名訴訟代理人弁護士
中本攻
同
大山政之
同訴訟復代理人弁護士
安部健介
被告
Y
日本における代表者
B
同訴訟代理人弁護士
田中豊
同
松田耕治
同
朝田規与至
同
堀本博靖
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1 事案の概要
本件は,原告らが,被告の支店長であったAとの間で,大口定期預金契約を締結した,などと主張して,被告に対し,定期預金契約に基づき,原告X1及び原告X2において,15億0061万6080円(元本と利息)及び遅延損害金の支払を,また,原告X3において,6898万3920円(元本と利息)及び遅延損害金の支払を求める事案である(なお,本件において,原告らは,被告に対し,Aの不法行為による損害賠償請求をしていない。)。
これに対し,被告は,原告らが締結したのは,定期預金契約ではなく,その対象商品は,架空の商品であって被告の商品ではない,また,原告らには,Aに契約を締結する権限がないことを知らなかったことについて重大な過失がある,などとして,原告らの請求及び主張を争っている。
なお,証拠(乙17の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,(1) 被告は,原告X1及び原告X2を被供託者とし,Aによる金員の着服をもって,民法715条の使用者責任による損害賠償支払債務を負うと考え,合計10億7627万8596円を供託し,また,(2) 被告は,原告X3を被供託者とし,Aによる金員の着服をもって,民法715条の使用者責任による損害賠償支払債務を負うと考え,合計2529万2350円を供託したことが認められるが,原告らは,供託の前後を通じ,受領を拒否し,被告に対し,前記のとおり,定期預金契約に基づく履行を求めて,本件訴訟を提起している。
第2 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,原告X1及び原告X2に対し,15億0061万6080円及びこれに対する平成15年12月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告X3に対し,6898万3920円及びこれに対する平成15年12月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告の負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 請求原因(1)(被告の支配人としての契約の締結等)
ア 本件各定期預金契約の締結
A(以下「A」という。)は,平成7年9月ころ,原告X1(以下「原告X1」という。)及び原告X2(以下「原告X2」という。)に対し,被告が各支店において顧客から資金の提供を募り,被告において,提供された資金を一括して米国において投資運用することで,固定金利の外に,業績に応じて一定期間ごとに変動利息が支払われる円大口定期預金を提案した。
(ア) 当初契約からの更新
a 原告X1及び原告X2について
(a)① 原告X1及び原告X2は,Aに対し,平成7年9月8日,3億円を小切手で,同月11日,2億円を小切手で交付し,前同日,Aとの間で,元本5億円,期間1年,利率6.1%,利息3050万円,元利合計5億3050万円とする定期預金契約(以下,原告ら主張の各契約を併せて「本件各定期預金契約」という。)を締結した。
② 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成8年9月11日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計5億3050万円のうち,5億3000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息4240万円,元利合計5億7240万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
③ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成9年9月11日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計5億7240万円のうち,5億7000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息4560万円,元利合計6億1560万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
④ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成10年9月11日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計6億1560万円のうち,6億1500万円につき,期間1年,利率7.0%,利息4305万円,元利合計6億5805万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑤ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成11年9月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計6億5805万円のうち,6億5000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息5200万円,元利合計7億0200万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑥ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成12年9月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計7億0200万円のうち,6億9000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息5520万円,元利合計7億4520万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑦ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成13年9月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計7億4520万円に,480万円を小切手で追加入金し,この合計金額である7億5000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息6000万円,元利合計8億1000万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑧ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成14年9月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計8億1000万円につき,期間1年,利率9.0%,利息7290万円,元利合計8億8290万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑨ 上記の定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X1及び原告X2が取得した元本・利息の合計額は,8億8290万円である。
(b)① 原告X1及び原告X2は,Aに対し,平成7年9月26日,2億円を小切手で交付し,同日,Aとの間で,元本2億円,期間1年,利率6.0%,利息1200万円,元利合計2億1200万円とする定期預金契約を締結した。
② 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成8年9月26日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億1200万円のうち,2億1000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息1680万円,元利合計2億2680万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
③ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成9年9月26日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億2680万円のうち,2億2000万円につき,期間1年,金利8.0%,利息1760万円,元利合計2億3760万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
④ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成10年9月28日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億3760万円のうち,2億3000万円につき,期間1年,利率7.0%,利息1610万円,元利合計2億4610万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑤ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成11年9月28日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億4610万円のうち,2億4500万円につき,期間1年,利率8.0%,利息1960万円,元利合計2億6460万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑥ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成12年9月28日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億6460万円のうち,2億5500万円につき,期間1年,利率8.0%,利息2040万円,元利合計2億7540万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑦ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成13年9月28日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億7540万円のうち,2億7060万円につき,期間1年,利率8.0%,利息2164万8000円,元利合計2億9224万8000円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑧ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成14年9月27日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億9224万8000円のうち,2億8424万8000円につき,期間1年,利率9.0%,利息2558万2320円,元利合計3億0983万0320円として同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑨ 上記の定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X1及び原告X2が取得した元本・利息の合計額は,3億0983万0320円である。
(c)① 原告X1及び原告X2は,Aに対し,平成7年12月11日,2億円を小切手で交付し,同日,Aとの間で,元本2億円,期間1年,利率7.0%,利息1400万円,元利合計2億1400万円とする定期預金契約を締結した。
② 原告X1及び原告X2は,Aに対し,平成8年12月11日,Aに対し,600万円を交付し,同日,Aとの間で,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億1400万円に,この600万円を加えた2億2000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息1760万円,元利合計2億3760万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
③ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成9年12月11日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億3760万円のうち,2億3000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息1840万円,元利合計2億4840万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
④ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成10年12月11日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億4840万円のうち,2億3000万円につき,期間1年,利率7.5%,利息1725万円,元利合計2億4725万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑤ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成11年12月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億4725万円のうち,2億4500万円につき,期間1年,利率8.0%,利息1960万円,元利合計2億6460万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑥ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成12年12月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億6460万円のうち,2億6000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息2080万円,元利合計2億8080万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑦ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成13年12月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億8080万円のうち,2億7080万円につき,期間1年,利率8.0%,利息2166万4000円,元利合計2億9246万4000円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑧ 原告X1及び原告X2は,Aとの間で,平成14年12月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2億9246万4000円のうち,2億8246万4000円につき,期間1年,利率9.0%,利息2542万1761円,元利合計3億0788万5760円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑨ 上記の定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X1及び原告X2が取得した元本・利息の合計額は,3億0788万5760円である。
b 原告X3(以下「原告X3」という。)について
(a)① 原告X2の母親である原告X3は,平成10年12月11日,Aに対し,2000万円を現金で交付し,同日,Aとの間で,元本2000万円,期間1年,利率7.5%,利息150万円,元利合計2150万円とする定期預金契約を締結した。
② 原告X3は,Aとの間で,平成11年12月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2150万円のうち,2000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息160万円,元利合計2160万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
③ 原告X3は,Aとの間で,平成12年12月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2160万円のうち,2000万円につき,期間1年,利率8.0%,利息160万円,元利合計2160万円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
④ 原告X3は,平成13年12月13日,Aに対し,760万円を小切手で交付し,かつ,原告X1及び原告X2の預金のうち同日に支払われた利息2080万円のうち1000万円を原告X3の預金に振り替え,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2160万円に上記金額を加えた3920万円につき,期間1年,利率8.0%,利息313万6000円,元利合計4233万6000円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑤ 原告X3は,Aとの間で,平成14年12月13日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計4233万6000円につき,期間1年,利率9.0%,利息381万0240円,元利合計4614万6240円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
⑥ 上記の定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X3が取得した元本・利息の合計額は,4614万6240円である。
(b)① 原告X3は,平成13年9月28日,Aに対し,1460万円を交付し,かつ,原告X1及び原告X2の預金のうち同日に支払われた元本・利息の合計2億7540万円のうち480万円を原告X3の預金に振り替え,同日,Aとの間で,上記合計額である1940万円につき,期間1年,利率8.0%,利息155万2000円,元利合計2095万2000円とする定期預金契約を締結した。
② 原告X3は,Aとの間で,平成14年9月27日,上記の定期預金契約により発生した元本・利息の合計2095万2000円につき,期間1年,利率9.0%,利息188万5680円,元利合計2283万7680円として,同定期預金契約を更新する旨合意した。
③ 上記の定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X3が取得した元本・利息の合計額は,2283万7680円である。
(イ) 平成14年の契約締結(上記(ア)と選択的併合の関係にある。)
a 原告X1及び原告X2について
(a) 原告X1及び原告X2は,平成14年9月13日,Aに対し,8億1000万円を交付し,同日,Aとの間で,元本8億1000万円,期間1年,利率9.0%,利息7290万円,元利合計8億8290万円とする定期預金契約を締結した。
この定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X1及び原告X2が取得した元本・利息の合計額は,8億8290万円である。
(b) 原告X1及び原告X2は,平成14年9月27日,Aに対し,2億8424万8000円を交付し,同日,Aとの間で,元本2億8424万8000円,期間1年,利率9.0%,利息2558万2320円,元利合計3億0983万0320円とする定期預金契約を締結した。
この定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X1及び原告X2が取得した元本・利息の合計額は,3億0983万0320円である。
(c) 原告X1及び原告X2は,平成14年12月13日,Aに対し,2億8246万4000円を交付し,同日,Aとの間で,元本2億8246万4000円,期間1年,利率9.0%,利息2542万1761円,元利合計3億0788万5760円とする定期預金契約を締結した。
この定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X1及び原告X2が取得した元本・利息の合計額は,3億0788万5760円である。
b 原告X3について
(a) 原告X3は,平成14年9月27日,Aに対し,2095万2000円を交付し,同日,Aとの間で,元本2095万2000円,期間1年,利率9.0%,利息188万5680円,元利合計2283万7680円とする定期預金契約を締結した。
この定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X3が取得した元本・利息の合計額は,2283万7680円である。
(b) 原告X3は,平成14年12月13日,Aに対し,4233万6000円を交付し,同日,Aとの間で,元本4233万6000円,期間1年,利率9.0%,利息381万0240円,元利合計4614万6240円とする定期預金契約を締結した。
この定期預金契約が満期到来で終了したことにより,原告X3が取得した元本・利息の合計額は,4614万6240円である。
イ 本件各定期預金契約は,大口定期預金契約である。被告はこれを争うが,被告の反論は次のとおり理由がない。
(ア) 預金契約書には,特別商品タイプA(Special Product Type:A)と記載があるが,原告らは,Aの説明を信じて,被告に対する大口定期預金と認識していた。
(イ) 定期預金契約の成立には,当該金融機関において預金口座を開設することが必要であるか否かは知らない。
(ウ) Aは,原告X1及び原告X2に対し,39回,合計1億7756万1294円を支払っているが,被告の主張するような配当金ではなく,運用実績に応じた利息としての支払を受けたものである。
(エ) 被告あるいは他の金融機関の金利は知らない。金融機関相互の資金貸付レートより高率であることについては知らない。富裕層の顧客獲得のため,高金利を保証する預金契約を締結することが営業政策上ないとはいえない。
(オ) Aは,原告らに対し,国外で課税され,税金控除後のネット金額が入金されると説明した。
また,本件定期預金契約は,前記のとおり,同一性をもって更新する旨の合意がされていたものである。
ウ 被告は,一般銀行業を目的とする法人である。
エ 被告は,平成3年10月1日,Aとの間で,雇用契約を締結した。
オ 被告は,平成7年7月24日,Aを被告渋谷支店の支配人である支店長に選任した。
(2) 請求原因(2)(被告の表見支配人としての契約の締結等)
ア 請求原因(1)ア,イ,ウ,エと同旨。
イ Aは,本件各定期預金契約の締結に当たり,平成8年10月より前の契約の締結等(上記請求原因(1)ア(ア)a(a)の①,②,(b)の①,②,(c)の①)については,被告の渋谷支店長との名称,平成8年10月以後の契約の締結等(上記請求原因(1)ア(ア)a(a)の③ないし⑧,(b)の③ないし⑧,(c)の②ないし⑧,b及びア(イ))については,被告の横浜支店長との名称を使用した。
ウ 被告は,Aに対し,平成7年7月24日,被告の渋谷支店長の名称を,平成8年9月1日,被告の横浜支店長の名称を付与した。
(3) よって,原告X1及び原告X2は,被告に対し,ア(ア) 支配人であるAとの間で締結した平成7年9月11日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(イ) 支配人であるAとの間で締結した平成14年9月13日の定期預金契約に基づき,(ウ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成7年9月11日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(エ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成14年9月13日の定期預金契約に基づき(以上(ア)ないし(エ)は選択的併合の関係にある。),元本8億1000万円,利息7290万円の合計8億8290万円及びこれらに対する満期到来後である平成15年12月3日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,イ(ア) 支配人であるAとの間で締結した平成7年9月26日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(イ) 支配人であるAとの間で締結した平成14年9月27日の定期預金契約に基づき,(ウ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成7年9月26日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(エ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成14年9月27日の定期預金契約に基づき(以上(ア)ないし(エ)は選択的併合の関係にある。),元本2億8424万8000円,利息2558万2320円の合計3億0983万0320円及びこれらに対する満期到来後である平成15年12月3日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,ウ(ア) 支配人であるAとの間で締結した平成7年12月11日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(イ) 支配人であるAとの間で締結した平成14年12月13日の定期預金契約に基づき,(ウ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成7年12月11日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(エ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成14年12月13日の定期預金契約に基づき(以上(ア)ないし(エ)は選択的併合の関係にある。),元本2億8246万4000円,利息2542万1761円の合計3億0788万5760円及びこれらに対する満期到来後である平成15年12月3日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告X3は,エ(ア) 支配人であるAとの間で締結した平成10年12月11日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(イ) 支配人であるAとの間で締結した平成14年12月13日の定期預金契約に基づき,(ウ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成10年12月11日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(エ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成14年12月13日の定期預金契約に基づき(以上(ア)ないし(エ)は選択的併合の関係にある。),元本4233万6000円,利息381万0240円の合計4614万6240円及びこれらに対する満期到来後である平成15年12月3日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,オ(ア) 支配人であるAとの間で締結した平成13年9月28日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(イ) 支配人であるAとの間で締結した平成14年9月27日の定期預金契約に基づき,(ウ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成13年9月28日の定期預金契約及びその後の同定期預金契約の各更新合意に基づき,(エ) 表見支配人であるAとの間で締結した平成14年9月27日の定期預金契約に基づき(以上(ア)ないし(エ)は選択的併合の関係にある。),元本2095万2000円,利息188万5680円の合計2283万7680円及びこれらに対する満期到来後である平成15年12月3日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1)ア 請求原因(1)アの柱書の事実については知らない。なお,被告においては,平成7年以降現在まで,原告らにおいてAが勧誘したと主張する大口定期預金を取り扱ったことはない。
同ア(ア)aの事実のうち,原告X1及び原告X2がAに交付した金員の額については認め,その余は否認する。
原告らが主張する本件各定期預金契約は,架空のものであって,かつ,定期預金とは異なるものである。すなわち,(ア) 対象となっている商品名は,特別商品タイプA(Special Product Type:A)となっていて,定期預金商品に用いられる定期預金(time deposit)との表現が用いられていない。(イ) また,定期預金の成立に際しては,当該金融機関で開設された口座の保有が求められるところ,原告X1は,平成7年の時点で,被告に口座を有しておらず,原告X3は,被告に口座を有していない。(ウ) さらに,Aは,原告X1及び原告X2に対し,利息に加えて,運用実績により配当金が発生すると告げ,実際,原告X1及び原告X2に対し,39回,合計1億7756万1294円の金員が配当金等として支払われている。一般に,大口定期預金は,固定金利とされていて,これ以外に配当金が支払われることはあり得ない。(エ) 加えて,原告らの主張する本件各定期預金契約は為替差損のない円建ての商品であるのにかかわらず,年率6〜9%の金利を保証するものであるところ,被告における平成7年から平成14年にかけての1年ものの大口定期預金の金利は,0.001〜0.65%であり,日本における他の金融機関は同程度であったのであって,原告の主張する預金の金利はあり得ない。(オ) さらに,この金利は,金融機関相互の資金貸付レートより高率である。(カ) また,原告らが主張する本件各定期預金契約においては,満期時の利子所得について源泉分離課税がされていない。このように,Aが販売した商品は,名称,配当金制度,利率,課税関係等において,銀行が扱う定期預金とはかけ離れているものであって,これをもって大口定期預金ということはできない。
原告らが主張する更新は,契約の更新ではなく,その都度,新しい契約が締結されていたものである。すなわち,(ア) 原告らがAと締結した契約は,いずれも1年満期とされていて,単に契約期間を延長するだけではなく,契約条件の見直しがされていた。その際,契約の最重要要素である元本でさえ固定されていなかった。また,利率は,漸次上昇し,配当金は同様に変動している。(イ) 原告らとAは,その都度,通知及び合意書(Announcement and Agreement)と題する契約書を作成し直している。このように,原告らの主張する契約は,別契約であって,一体として把握されるべきではない。
同ア(ア)bの事実のうち,原告X3がAに2000万円を交付した事実は認めるが,760万円の小切手を交付した事実は否認し,その余は否認する。原告らが主張する本件各定期預金契約が定期預金とは異なるものであること及び契約の更新ではないことについては,前記のとおりである。
イ 同ア(イ)は否認する。原告らが主張する定期預金契約が定期預金とは異なるものであることについては,前記のとおりである。
ウ 同ウないしオは認める。
(2)ア 請求原因(2)アの事実についての認否は,上記(1)の認否と同旨。
イ 同イの事実は否認する。原告らの主張する契約のうち,Aが当該支店に関する業務であるかの表示をして契約を締結したのは,Aが渋谷支店長であった平成7年9月11日,同月26日及び同年12月11日の3回の取引のみである。それ以後の取引については,Aは,実在しない日本投資部門長(Inv. Head Japan)の肩書を用いて取引をしている。
ウ 同ウの事実は認める。
3 抗弁
(1) Aの退職(請求原因(1),(2)に対し)
Aは,平成13年7月5日,被告を退職した。
(2) Aの被告の渋谷支店長退任(請求原因(1)に対し)
Aは,平成8年8月31日,被告の渋谷支店長を退任した。
(3) Aの営業の主任者であることを示すべき名称のはく奪(請求原因(2)に対し)
Aが,平成8年8月31日,被告渋谷支店長を退任したことにより,被告は,同日,Aから,被告の渋谷支店長の名称をはく奪した。
(4) Aの無権限及び原告らの悪意又は重過失(請求原因(2)に対し)
ア 被告は,Aに対し,本件各定期預金契約の締結に先立ち,その代理権を授与しなかった。
イ 原告らは,上記アにつき知っていた。
ウ 原告らは,上記アを知らないことにつき,次のとおり重過失があった。
(ア) 原告らの主張する商品は,被告の1年ものの円大口定期預金の金利0.001〜0.65%と比較して著しく高い年利6〜9%の金利を保証するというものであった。また,原告らの主張する商品の金利は,金融機関相互の資金貸付レートより高率であった。
(イ) 原告らの主張する商品は,四半期に1度,配当金が支払われるというものであり,原告らは合計39回,合計1億7756万1294円の配当金を受け取った。配当金は,一般にリスクの伴う投資に対して実施されるものであり,元本の保証される預金契約において実施されることはない。
(ウ) 配当金制度の存在は,本件各定期預金契約の契約書に記載されていなかった。
(エ) 配当金に関する「お知らせ」(Announcement)と題する書面には,記載の誤りやあいまいな表現が多かった。
(オ) 本件各定期預金契約の契約書は,被告が使用する預金契約書の正式な書式ではなかった。
(カ) 原告らの受け取ったY取引規約集には連名預金取引を認めない旨記載されていたが,本件各定期預金契約は連名でされていた。
(キ) 原告らは,被告のアメリカ合衆国本部から通知や取引明細の送付を受けなかった。
(ク) 預金取引において発生した利子所得については,一律20%の源泉分離課税処理がされるが,本件各定期預金契約において発生した利子所得についてはそのような課税処理がされなかった。
(ケ) 平成8年9月以後,Aは,実際には存在しない日本投資部門長(Inv. Head Japan)の肩書を使用して本件各定期預金契約を締結した。
(コ) 原告らとAは,Aが渋谷支店から異動した後,専ら,原告らの自宅において,Aを担当者として取引し続けた。
(サ) 契約書に記載された原告らの預金口座には,約定の満期が到来しても,預金が入金されず,原告X2名義の預金口座に利息や配当金だけが入金された。
(シ) 原告X1は,長年にわたって,三井物産等の商社に勤務し,主として英語圏を相手方とする契約交渉等を担当していた。
原告X2は,昭和43年,航空法調査研究会を設立し,航空法・危機管理法の専門家として豊かな経験を有し,英文での論文作成をしており,英語に関して通常人を上回る能力を有する。
このように,原告らは,金融取引について,豊富な知識及び経験を有していたといえる。
(5) 代理人の権限濫用(請求原因(2)に対し)
ア Aは,自己又は第三者の利益を図る意図で請求原因(1)アの各契約を締結した。
イ 原告らは,上記アにつき知っていた。
ウ 原告らは,上記アを知らないことにつき過失があった。
内容は,抗弁(4)ウと同旨。
4 抗弁に対する認否
(1) 抗弁(1)ないし(3)の事実は,知らない。
(2) 同(4)の事実のうち(ウ),(キ),(コ)は,認め,その余は,知らないあるいは否認する。
(3) 同(5)の事実についての認否は,上記(2)の認否と同旨。
5 再抗弁
(1) 原告らの善意(抗弁(1)に対し)
原告らは,本件各定期預金契約の締結の際,抗弁(1)の事実を知らなかった。
(2) 原告らの善意(抗弁(2)に対し)
原告らは,本件各定期預金契約の締結の際,抗弁(2)の事実を知らなかった。
(3) 原告らの善意(抗弁(3)に対し)
原告らは,本件各定期預金契約の締結の際,抗弁(3)の事実を知らなかった。
(4) 重過失がないこと(抗弁(4)に対し)
ア 原告X1及び原告X2は,被告の渋谷支店長であるAから説明を受け,Aが支店長として被告支店の営業に関する一切の行為を行う権限を有すると信じて,高額小切手を交付した。
イ 規制緩和,金融自由化の中,被告において,金融機関が固定金利の外に運用実績に応じて変動する利息を支払うという金融商品を販売しても不自然ではなかった。
ウ 本件各契約の契約書は,被告のレターヘッドを付した正規の用紙を用いて作成され,Aの署名がされていた。
エ 被告は,原告らに対して,Aの転勤や退職について,通知せず,後任者をして,原告らの自宅に,あいさつのための訪問をしなかった。
(5) 過失がないこと(抗弁(5)に対し)
内容は,再抗弁(4)と同旨。
6 再抗弁に対する認否
(1) 再抗弁(1)ないし(3)の事実は,否認する。
(2) 同(4)の事実のうちウ,エは認め,その余は,否認する。
(3) 同(5)の事実の認否については,上記(2)の認否と同旨。
7 再々抗弁
(1) 原告らは,抗弁(1)の事実を知らないことにつき過失があった。(再抗弁(1)に対し)
(2) 原告らは,抗弁(2)の事実を知らないことにつき過失があった。(再抗弁(2)に対し)
ア Aは,平成8年9月以降,日本投資部門長との肩書で,本件各定期預金契約の締結に臨んだ。
イ 銀行において,転勤は,定期的にされる。
(3) 原告らは,抗弁(3)の事実を知らないことにつき過失があった。(再抗弁(3)に対し)
内容は,再々抗弁(2)と同旨。
8 再々抗弁に対する認否
再々抗弁(1)ないし(3)の事実は,否認する。
理由
1 請求原因(1)ア(ア),(イ),同(2)ア(原告らとAとの間で定期預金契約が締結されたか否か)について
まず,原告らの主張する本件各定期預金契約は,定期預金を対象とするものであるか否かについて検討する。
(1) 請求原因(1)ア(ア)aの事実のうち,原告X1及び原告X2がAに交付した金員の額,同ア(ア)bの事実のうち,原告X3がAに2000万円を交付した事実(請求原因(2)について同旨。)は,当事者間に争いがない。
(2) 証拠(甲1,2の1,2,3の1,2,4ないし34の各1,2,35ないし38,64(ただし,一部),乙1の1ないし10,2ないし4,5の1ないし3,6ないし10,11の1,2,12の1,2,13の1ないし9,14ないし16,原告X1(ただし,一部))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 当事者等
(ア) 被告
被告は,アメリカ合衆国ニューヨーク州に本店,日本に支店を設置し,監督官庁から日本において銀行業を営む許可を受けた外国銀行である。被告は,日本において,渋谷支店,横浜支店などを設置している。
(イ) 原告ら
原告X1(大正9年*月*日生)と原告X2(昭和4年*月*日生)は夫婦であり,肩書住所地(東京都渋谷区松濤)に居住している。原告X3(明治42年*月*日生)は,原告X2の母親である。
(ウ) A
Aは,平成3年10月1日,被告に入行し,平成13年7月5日,被告を退職した。Aが被告に入行した後である平成7年7月24日から退職するまでの異動履歴は,次のとおりである。
平成7年7月24日から平成8年8月31日まで 渋谷支店 支店長
平成8年9月1日から平成9年4月30日まで 横浜支店 支店長
平成9年5月1日から平成9年10月30日まで システマティクスプロジェクト担当
(平成9年5月1日から平成9年7月31日まで 天王洲支店 支店長代行)
平成9年11月1日から平成9年11月30日まで シティゴールドプロジェクト担当
平成9年12月1日から平成11年3月31日まで 大手町支店 支店長
平成11年4月1日から平成11年6月30日まで マーケティング部担当
平成11年7月1日から平成13年7月5日まで テレマーケティング部 部長
Aは,被告に在職中,顧客から多額の小切手や現金などをだまし取ったとして,詐欺罪などの罪で起訴され,横浜地方裁判所は,平成16年6月14日,Aに対し,懲役7年の実刑判決を言い渡した。
イ 被告がAに付与した権限
Aは,前記のとおり,平成7年7月24日から平成8年8月31日まで,被告の渋谷支店支店長として,同年9月1日から平成9年4月30日まで,被告の横浜支店支店長として勤務していた。
被告は,Aに対し,被告の渋谷支店及び横浜支店の各支店長在職時において,預金口座を開設する権限,本店で定める所定の金利による円預金・外貨預金を受け入れる権限,外貨預金の販売に関し一定の枠内で金利及び為替手数料を優遇できる権限,残高証明書の発行権限,円大口定期預金の期限前の解約権限,送金・振込等の国内及び海外為替取引の権限,一定金額を限度とする預金担保当座貸越取引の権限などを付与していた。被告は,Aに対し,本店で定められた預金商品等以外の金融商品を顧客に提供する権限,円定期預金の金利を優遇する権限,資金の貸付に関する権原,手形の振出,裏書,引受等の権原,裁判上の行為をする権限などは付与していなかった。
ウ 原告X1及び原告X2が本件各定期預金契約を締結するまでの経緯
原告X1は,平成7年8月ころ,新聞報道などから,円預金よりも金利が高いと見込まれる外貨預金に興味を持ち,また,外資系銀行である被告に対する高い評価を聞いていたことから,自宅から近くにある被告の渋谷支店を訪れた。原告X1は,被告の渋谷支店の支店長室で,当時被告の渋谷支店の支店長であったAから,円,ドル相場の先行きや,日米の経済の比較などについて話を聞いた。そして,その後,原告X1が被告の渋谷支店に訪れるたびに,Aは,原告X1を支店長室に案内し,原告X1に対し,資料を示して,被告を含む外資系銀行の評価がわが国の銀行に対して高いこと,円建預金よりも外貨預金が有利であることなどの説明をし,これらを受けて,原告X1は,次第にAを信頼するようになった。
Aは,平成7年9月ころ,原告X1が初めて原告X2を伴って被告の渋谷支店を訪問した際,原告X1及び原告X2に対し,オーストラリアでの外貨預金を勧めたが,原告X1及び原告X2は,外貨預金は為替差損の危険があると判断し,契約の締結を断った。
Aは,次いで,原告X1及び原告X2が被告の渋谷支店を訪問した際,原告X1及び原告X2に対し,被告が各支店において顧客から資金の提供を募り,被告において,提供された資金を一括してアメリカ合衆国において投資運用することで,高い金利が見込まれ,しかも為替差損の危険を生じず,一定期間ごとに報酬として金員が支払われる,「タイプA」なる大口金融商品を紹介した。原告X1及び原告X2は,Aの提案した金融商品が高利である上為替差損の危険が生じないと考えて,Aの提案に応じることを決めた。
しかし,Aは,他の顧客の外貨預金の損失を補てんするため,原告X1及び原告X2をだまして金員を個人的に取得しようと企て,上記の提案をしたものであって,提案に係る商品は,被告の正規の商品ではなく,Aが原告X1及び原告X2から金員をだまし取る目的でそれらしい商品の体裁を取ったにすぎないものであった。
エ 原告X1及び原告X2とAとの間の契約の締結等
(ア)a 原告X1及び原告X2は,平成7年9月8日,3億円を,同月11日,2億円を,いずれも被告の渋谷支店の支店長室で,Aに対し,小切手で交付し,前同月11日,保証元本を5億円,保証利息を3050万円,決算残高総額を5億3050万円,決算日を平成8年9月11日とする契約書(Announcement and Agreement,甲4)に署名した。
原告X1及び原告X2は,平成7年9月26日,被告の渋谷支店で,Aに対し,2億円を小切手で交付し,同日,保証元本を2億円,保証利息を1200万円,決算残高総額を2億1200万円,決算日を平成8年9月26日とする契約書(Announcement and Agreement,甲5)に署名した。
原告X1及び原告X2は,平成7年12月11日,被告の渋谷支店で,Aに対し,2億円を小切手で交付し,同日,保証元本を2億円,保証利息を1400万円,決算残高総額を2億1400万円,決算日を平成8年12月11日とする契約書(Announcement and Agreement,甲6)に署名した。
b 原告X1及び原告X2とAは,上記各契約の締結に当たって,被告のレターヘッドを付した用紙に,「通知および合意書」(Announcement and Agreement)との表題の各契約書(甲4ないし6)を作成した。
これらの契約書には,開設日,保証元本,保証利息,決算残高総額,決算日の各記載があるほか,「特別商品タイプA(Special Product Type:A)は弊社の得意先であるお客様に特別のサービスを提供する限定プログラムです。」,「世界中のYのネットワーク資源に裏打ちされるこの個別的なサービスがお客様のお手伝いを致します。お客様が銀行業務に関する最大限のご満足を得られること請け合いです。」,「おかげさまで,Yはお客様を1年間においてスペシャル・カスタマーとさせて頂きました。弊社の提供する銀行業務の特別なメリットをご享受ください。」,「資金はYの全世界的ネットワークを介して年間を通じて投資部門により投資されます。」,「資金はYの原口座に決算日に預金されます。」,「満期前の解約はできません。」との記載があり,立会人(Witness)として,渋谷支店の名称を付したAの署名,承認(Approved)として,投資部長(Investment Head.)の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名があり,原告X1及び原告X2の署名がある。他方,これらの契約書には,契約の更新に関する記載,税金に関する記載,利息算定方法等に関する記載はない。
これらの契約書は,投資部長という役職,ジョン・C・アングルの存在を含め,すべてAが被告の了解なくして勝手に作成した内容虚偽のものであった。
c 被告は,円建ての定期預金として,スーパー定期預金,大口定期預金の商品を有し,外貨建ての定期預金として,外貨定期預金の商品を有していた。このうち,スーパー定期預金は,預入金額を10万円からとし,期間を1か月,3か月,6か月,1年,2年,3年とする商品であり,また,大口定期預金は,預入金額を1000万円からとし,期間を1か月,3か月,6か月,1年,2年とする商品であった。さらに,同大口定期預金の利率は,平成7年から平成14年までの間,0.001〜0.65%であった。
被告の取引規約集(乙3)には,預金口座取引一般規約として,(a) 連名預金口座は新たに開設できない旨(2条1項),(b) 預金等の預入れあるいは払戻しがされた場合は,その事実を証するため,取引報告書又は取引明細書を発行する旨(6条1項),マルチマネー口座取引規約中の大口定期預金として,(c) 預入通貨は日本円のみとする旨(1条1項),預入金額は1000万円以上(預入単位は1円)とする旨(1条2項),(d) 預入期間は1か月,3か月,6か月,1年,2年及び1か月超2年未満の任意期間とする旨(2条),(e) 利息は,預入期間及び預入日時点で決定された利率により計算する旨(3条1項),(f) 事前に指示がない限り預金は利息とともに支払う旨及び預金者があらかじめ自動継続を指示した場合には,満期日に指示内容に従い前回と同一期間の預金に自動的に継続する旨(4項),などの定めがある。
(イ)a 原告X1及び原告X2は,平成8年9月11日,Aから,保証元本を5億3000万円,保証利息を4240万円,決算残高総額を5億7240万円,決算日及び満期日を平成9年9月11日とする契約書(Announcement and Agreement,甲7)を受け取った。
b 原告X1及び原告X2は,平成9年9月11日,保証元本を5億7000万円,保証利息を4560万円,決算残高総額を6億1560万円,決算日及び満期日を平成10年9月11日とする契約書(甲10)に署名した。
c 原告X1及び原告X2は,平成10年9月11日,Aから,保証元本を6億1500万円,保証利息を4305万円,決算残高総額を6億5805万円,決算日及び満期日を平成11年9月11日とする契約書(甲13)を受け取った。
d 原告X1及び原告X2は,平成11年9月13日,Aから,保証元本を6億5000万円,保証利息を5200万円,決算残高総額を7億0200万円,決算日及び満期日を平成12年9月13日とする契約書(甲16)を受け取った。
e 原告X1及び原告X2は,平成12年9月13日,保証元本を6億9000万円,保証利息を5520万円,決算残高総額を7億4520万円,決算日及び満期日を平成13年9月13日とする契約書(甲19)に署名した。
f 原告X1及び原告X2は,平成13年9月13日,Aから,保証元本を7億5000万円,保証利息を6000万円,決算残高総額を8億1000万円,決算日及び満期日を平成14年9月13日とする契約書(甲22)を受け取った。
g 原告X1及び原告X2は,平成14年9月13日,Aから,保証元本を8億1000万円,保証利息を7290万円,決算残高総額を8億8290万円,決算日及び満期日を平成15年9月16日とする契約書(甲25)を受け取った。
h 上記の各契約書のうち,甲7,13,16,22及び25の各書面には,原告X1及び原告X2の署名はなく,立会人として,日本投資部門長(Inv. Head Japan)の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長(lnvestment Dept. Head.)の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名があり,また,甲10及び19の各書面には,原告X1及び原告X2の署名,日本投資部門長の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名がある。これらの署名のうち,ジョン・C・アングル名義のものは,Aが偽造した。
これらの契約書は,日本投資部門長という役職,投資部門長という役職,ジョン・C・アングルの存在を含め,すべてAが被告の了解なくして勝手に作成した内容虚偽のものであった。
(ウ)a 原告X1及び原告X2は,平成8年9月26日,Aから,保証元本を2億1000万円,保証利息を1680万円,決算残高総額を2億2680万円,決算日及び満期日を平成9年9月26日とする契約書(Announcement and Agreement,甲8)を受け取った。
b 原告X1及び原告X2は,平成9年9月26日,Aから,保証元本を2億2000万円,保証利息を1760万円,決算残高総額を2億3760万円,決算日及び満期日を平成10年9月28日とする契約書(甲11)を受け取った。
c 原告X1及び原告X2は,平成10年9月28日,Aから,保証元本を2億3000万円,保証利息を1610万円,決算残高総額を2億4610万円,決算日及び満期日を平成11年9月28日とする契約書(甲14)を受け取った。
d 原告X1及び原告X2は,平成11年9月28日,保証元本を2億4500万円,保証利息を1960万円,決算残高総額を2億6460万円,決算日及び満期日を平成12年9月28日とする契約書(甲17)に署名した。
e 原告X1及び原告X2は,平成12年9月28日,Aから,保証元本を2億5500万円,保証利息を2040万円,決算残高総額を2億7540万円,決算日及び満期日を平成13年9月28日とする契約書(甲20)を受け取った。
f 原告X1及び原告X2は,平成13年9月28日,Aから,保証元本を2億7060万円,保証利息を2164万8000円,決算残高総額を2億9224万8000円,決算日及び満期日を平成14年9月27日とする契約書(甲23)を受け取った。
g 原告X1及び原告X2は,平成14年9月27日,Aから,保証元本を2億8424万8000円,保証利息を2558万2320円,決算残高総額を3億0983万0320円,決算日及び満期日を平成15年9月29日とする契約書(甲26)を受け取った。
h 上記の各契約書のうち,甲8,11,14,20,23及び26の各書面には,原告X1及び原告X2の署名はなく,立会人として,日本投資部門長の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名があり,また,甲17の書面には,原告X1及び原告X2の署名,日本投資部門長の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名がある。これらの署名のうち,ジョン・C・アングル名義のものは,Aが偽造した。
(エ)a 原告X1及び原告X2は,平成8年12月11日,原告X1及び原告X2の自宅で,Aに対し,600万円を現金で渡し,保証元本を2億2000万円,保証利息を1760万円,決算残高総額を2億3760万円,決算日及び満期日を平成9年12月11日とする契約書(甲9)に署名した。
b 原告X1及び原告X2は,平成9年12月11日,Aから,保証元本を2億3000万円,保証利息を1840万円,決算残高総額を2億4840万円,決算日及び満期日を平成10年12月11日とする契約書(甲12)を受け取った。
c 原告X1及び原告X2は,平成10年12月11日,Aから,保証元本を2億3000万円,保証利息を1725万円,決算残高総額を2億4725万円,決算日及び満期日を平成11年12月13日とする契約書(甲15)を受け取った。
d 原告X1及び原告X2は,平成11年12月13日,保証元本を2億4500万円,保証利息を1960万円,決算残高総額を2億6460万円,決算日及び満期日を平成12年12月13日とする契約書(甲18)に署名した。
e 原告X1及び原告X2は,平成12年12月13日,保証元本を2億6000万円,保証利息を2080万円,決算残高総額を2億8080万円,決算日及び満期日を平成13年12月13日とする契約書(甲21)に署名した。
f 原告X1及び原告X2は,平成13年12月13日,保証元本を2億7080万円,保証利息を2166万4000円,決算残高総額を2億9246万4000円,決算日及び満期日を平成14年12月13日とする契約書(甲24)に署名した。
g 原告X1及び原告X2は,平成14年12月13日,Aから,保証元本を2億8246万4000円,保証利息を2542万1760円,決算残高総額を3億0788万5760円,決算日及び満期日を平成15年12月12日とする契約書(甲27)を受け取った。
h 上記の各契約書のうち,甲12,15及び27の各書面には,原告X1及び原告X2の署名はなく,立会人として,日本投資部門長の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名があり,また,甲9,18,21及び24の各書面には,原告X1及び原告X2の署名,日本投資部門長の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名がある。これらの署名のうち,ジョン・C・アングル名義のものは,Aが偽造した。
オ 原告X3が本件定期預金契約を締結するまでの経緯
Aは,原告X1及び原告X2に対し,業績の向上を目指して,金融商品の顧客を紹介してほしい旨,再三にわたり依頼した。原告X2が,母親である原告X3に対し,本件金融商品の顧客になるよう頼んだところ,原告X3は,金融商品に資金を提供することにした。
カ 原告X3とAとの間の契約の締結等
(ア) 原告X3は,平成10年12月11日,原告X1及び原告X2の自宅で,Aに対し,2000万円を現金で交付し,同日,Aから,保証元本を2000万円,保証利息を150万円,決算残高総額を2150万円,決算日及び満期日を平成11年12月13日とする契約書(Announcement and Agreement,甲28)を受け取った。
平成13年9月28日,原告X1は,480万円を,原告X3は,1460万円を,Aに対して小切手で渡し,同日,原告X3は,Aから,保証元本を1940万円,保証利息を155万2000円,決算残高総額を2095万2000円,決算日及び満期日を平成14年9月27日とする契約書(Announcement and Agreement,甲31)を受け取った。
(イ) 原告X3とAは,上記各契約の締結に当たって,被告のレターヘッドを付した用紙に,「通知および合意書」(Announcement and Agreement)との表題の各契約書(甲28,31)を作成した。
これらの契約書には,開設日,保証元本,保証利息,決算残高総額,決算日の各記載があるほか,「特別商品タイプA(Special Product Type:A)は弊社の得意先であるお客様に特別のサービスを提供する限定プログラムです。」,「世界中のYのネットワーク資源に裏打ちされるこの個別的なサービスがお客様のお手伝いを致します。お客様が銀行業務に関する最大限のメリットを受けられること請け合いです。」,「弊社の提供する銀行業務のメリットをお客様に享受して頂けるよう,Yはお客様をスペシャル・ゴールド・カスタマーとさせて頂きました。」,「資金はYの全世界的ネットワークを介して年間を通じて投資部門により投資されます。」,「資金はY渋谷支店の原口座への預金または現金にて支払われます。」,「満期前の解約はできません。」との記載があり,立会人として,日本投資部門長(Inv. Head Japan)の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長(Investment Dept. Head.)の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名がある。他方,これらの契約書には,契約の更新に関する記載,税金に関する記載,利息算定方法等に関する記載はない。
(ウ)a 原告X3は,平成11年12月13日,保証元本を2000万円,保証利息を160万円,決算残高総額を2160万円,決算日及び満期日を平成12年12月13日とする契約書(甲29)に署名した。
b 原告X3は,平成12年12月13日,保証元本を2000万円,保証利息を160万円,決算残高総額を2160万円,決算日及び満期日を平成13年12月13日とする契約書(甲30)に署名した。
c 原告X3は,平成13年12月13日,Aに,760万円を小切手で交付し,保証元本を3920万円,保証利息を313万6000円,決算残高総額を4233万6000円,決算日及び満期日を平成14年12月13日とする契約書(甲32)に署名した。
d 原告X3は,平成14年12月13日,Aから,保証元本を4233万6000円,保証利息を381万0240円,決算残高総額を4614万6240円,決算日及び満期日を平成15年12月12日とする契約書(甲34)を受け取った。
(エ) 原告X3は,平成14年9月27日,Aから,保証元本を2095万2000円,保証利息を188万5680円,決算残高総額を2283万7680円,決算日及び満期日を平成15年9月29日とする契約書(甲33)を受け取った。
(オ) 上記の各契約書のうち,甲33,34の各書面には,原告X3の署名はなく,立会人として,日本投資部門長の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名があり,また,甲29,30及び32の各書面には,原告X3の署名,日本投資部門長の名称を付したAの署名,承認として,投資部門長の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名がある。これらの署名のうち,ジョン・C・アングル名義のものは,Aが偽造した。
キ 原告らが提供した金員の入金口座
原告らがAに小切手あるいは現金で交付した各資金は,原告ら名義の被告渋谷支店の預金口座に振り込まれたことはなく,A名義の個人口座に振り込まれていた。原告らは,各契約締結当時,この事実を知らず,平成15年8月29日及び30日にAが原告らにこの事実を告げたことにより,初めてこれを知った。
ク 原告X1及び原告X2が受け取った約定の固定金利以外の金員
Aの提案に係る商品においては,顧客に対し,利息以外に,定期に,優良顧客に対する報酬としての金員が支払われていた。原告X1及び原告X2は,優良顧客に対する報酬として,平成9年7月8日,303万6000円,同年10月13日,303万6000円,平成10年1月16日,303万6000円,同年4月15日,303万6000円,同年7月15日,306万円,同年10月15日,306万円,平成11年1月29日,306万円,同年4月30日,306万円,同年7月30日,314万8125円,同年10月29日,318万5522円,平成12年1月28日,318万5522円,同年4月28日,314万8125円,同年7月31日,319万円,同年10月31日,319万円,平成13年1月31日,319万円,同年4月27日,319万円,同年7月31日,200万円,同年10月31日,200万円,平成14年1月31日,200万円,同年4月30日,200万円,同年7月31日,300万円,同年10月31日,300万円,平成15年1月31日,300万円,同年4月30日,300万円,同年7月31日,375万円,合計7356万1294円を受け取った。
本件各定期預金契約の各契約書には,上記金員の支払に関する記載はなく,原告らは,「お知らせ」(Announcement)と題する書面で,上記金員の支払についての通知を受けていた。
上記の「お知らせ」には,被告のレターヘッドを付した用紙に,「お知らせ」(Announcement)との表題の下,立会人(Witness)として,日本投資部門長(Inv. Head Japan)の名称を付したAの署名,投資部門長(Investment Dept. Head.)の名称を付したジョン・C・アングル名義の署名のほか,次のような記載がある。
「弊社取締役会内の人事委員会が我々の提案を承認し,貴方に対し,1997年年間業績を割り当てさせて頂くはこびとなりましたことを謹んでお知らせ申し上げます。弊行インセンティブ・プランにご参加頂いた優良顧客の皆様には,1997年の四半期毎に大幅な報酬をお受け取り頂けます。」,「貴方にご参加頂いたタイプAの1997年第1四半期のインセンティブ:1.265% 支払額3,036,000円」,「弊行は引き続き,収益の増加,販売利益の質の向上,そして優良顧客の皆様との関係強化に全力を注いで参ります。Z及び弊行の目標は高いものではありますが,皆様のご支援により,その目標を達成できると確信しています。」(乙1の1)
ケ 利息に関する税務処理
本件各定期預金契約に基づき原告らが受け取る満期時の利息は,源泉分離課税の対象とされておらず,原告らは,本件各定期預金契約における満期時の利息について課される所得税の納付手続をしたことはなかった。
各契約書には,税金処理に関する記載はない。
コ 原告らがAに小切手等を交付し,契約書を作成した場所
原告X1及び原告X2は,平成7年9月8日,同月11日,同月26日及び同年12月11日,いずれも被告の渋谷支店で,Aに対し,小切手を交付し,本件各定期預金契約の各契約書を作成した。
Aは,平成8年9月1日,横浜支店長となり,同年10月ころ,原告X1及び原告X2の自宅に,転勤のあいさつのために訪れ,その際,Aが引き続き担当すること,各種手続をする際は,Aが原告らの自宅に出向くことなどを告げた。以後,平成14年12月13日まで,本件各定期預金契約の契約書の作成・交付及び小切手の交付等は,被告の支店ではなく,原告らの自宅でされた。
サ 原告らの自己名義の預金口座の保有状況及び取引明細書の送付状況
原告X2は,平成7年9月5日,被告の渋谷支店に円普通預金口座及びマルチマネー口座の開設を,平成8年1月11日,被告渋谷支店にマルチマネー口座の開設を申込み,原告X1は,平成8年1月31日,被告渋谷支店にマルチマネー口座の開設を申込み,以後自己名義の口座を有している。原告X3は,被告に自己名義の口座を有していない。
原告X2は,被告から,金融商品等を紹介する書簡などを受け取っていたが,原告らは,被告から本件各定期預金契約に基づく取引履歴に関する取引明細書を受け取ったことはなかった。
シ Aによる不正行為の発覚
Aは,平成15年8月29日及び30日,原告X1及び原告X2に対し,原告らから預かった金員を原告ら名義の被告の口座に入金したことはなく,全て被告のA名義の口座に入金していたこと,契約書の署名欄にあるジョン・C・アングルという人物は存在せず,Aが勝手に署名していたこと,Aが原告らから預かった金員をすべて使い込んだこと,Aが被告を退職していたことを告げた。
(3) これに対し,原告X1は,原告X1及び原告X2は,平成7年9月11日,同月26日及び同年12月11日,被告の渋谷支店の支店長であったAとの間で,原告X3は,平成10年12月11日及び平成13年9月28日,被告の横浜支店の支店長であったAとの間で,円建ての大口定期預金契約を締結し,1年ごとに契約を更新してきたこと,当該契約においては,固定金利の他に変動利息が生じる約束であったこと,税金については,すべてアメリカ合衆国で処理し,税金を差し引いた金額を受け取ることになっていたことなどを陳述・供述する。
しかし,前記各契約書によると,ア Aは立会人の立場であって,契約をする者の欄には,Aの署名はないこと,イ Aは,平成8年9月11日以降,被告の渋谷支店長あるいは横浜支店長ではなく,日本投資部門長という肩書を使用していたこと,ウ 定期預金との文言が記載されていないこと,エ 約定金利が被告の円大口定期預金(預入期間1年間)の金利と比較して著しく高いこと,オ 変動利息及びその算定基準に関する記載がなく,「お知らせ」と題する書面(乙1の1ないし10)には,変動利息との文言が記載されていないこと,カ 税金処理についての記載がないこと,キ 契約の更新に関する記載がないこと,などが認められることに照らすと,上記陳述・供述部分は不自然であって採用することはできない。
他に,上記(2)で認定した事実を覆すに足りる証拠はない。
(4) そこで検討すると,上記(2)で認定した事実によれば,ア 本件各定期預金契約に係る商品は,被告の正規の商品ではなく,Aが原告らから金員をだまし取る目的でそれらしい商品の体裁を取ったにすぎないものであること,イ 本件各定期預金契約は,各契約書上,原告らとジョン・C・アングルとの間で締結されていて,Aは立会人であること,ウ 原告ら及びAは,決算日の訪れる1年ごとに,本件各定期預金契約について,元本及び利息を見直し,各契約書を作成し,契約を再締結していること,エ 各契約書の表題は「通知および合意書」(Announcement and Agreement),商品名称が「特別商品タイプA」(Special Product Type:A)と記載されていて,定期預金との文言が全くないこと,オ 本件各定期預金契約の各契約書には,利息の計算方法,利息に対する税金処理方法,預金証書を失った場合の取扱いなどの約定の記載がないなど,通常定期預金契約の預金証書に記載されるべき約定が全く記載されていないこと,カ 定期預金については,口座を有する顧客に対し,通帳を交付しあるいは取引履歴を記載した取引明細書が定期的に発行されるものであるところ,原告らに対しては,取引明細は一切送付されていないこと,キ 定期預金契約を締結する顧客については,顧客名義の預金口座を開設することが通常であるところ,最初の契約が締結された平成7年9月11日当時,原告X1名義の預金口座は開設されておらず,現在まで,原告X3名義の預金口座は開設されていないこと,ク Aの提案した商品は,固定金利の他に,優良顧客に対する報酬としての金員が支払われることが付随的な内容とされていて,預入金額1000万円以上で,小口定額預金と比較して高利の固定金利による利息が発生し,固定金利による利息以外に報酬として支払われる金員が発生することはない大口定期預金とは全く異なる約定がされていたこと,ケ 利息について,通常預金の利息等についてされるべきはずの源泉分離課税処理がされていないこと,コ Aの提案した商品は,保証された固定金利が年利6.0〜9.0%であり,当時の被告の大口定期預金(預入期間1年間)の金利と比較して著しく高利であり,また,為替差損の危険がない円建金融商品としては高利であって,この点をもってしても,通常の定期預金とは異なること,などの事実を認めることができる。
以上によれば,原告の主張する本件各定期預金契約に係る商品は,契約の内容,契約書の記載内容,口座開設や取引明細書の交付を含む手続,金利の高低,利息に対する課税処理などの重要な部分で,通常の大口定期預金とは全く異なり,大口定期預金と評価することは到底困難である。そうすると,原告らが請求原因事実として主張する本件各定期預金契約の締結をもって,原告らがAとの間で定期預金契約を締結したとの事実を認めることはできない。
2 抗弁(4)ア(Aが本件各定期預金契約に係る商品について契約を締結する権限を有していたか否か)について
次いで,原告らにおいて,Aが契約を締結する権限を有していないことについて,重大な過失があったか否かについて検討する。
上記1(2)で認定した事実によれば,Aの提案した商品は,Aの考えた架空商品で,被告の正規の商品ではないこと,Aは,被告渋谷支店及び横浜支店の支店長在職時,被告商品開発本部が開発した預金商品を販売し預金を受け入れる権限しか与えられておらず,自ら金融商品を開発する権限を有していなかったことを認めることができる。
そうすると,Aは,被告に入行し退職するまでの間,本件各定期預金契約に係る商品について契約を締結する権限を有していなかったといえる。
3 抗弁(4)ウ,再抗弁(4)(原告らに重過失があったか否か)について
(1) 上記1(2)で認定した事実,各項中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア 原告X1は,東京商科大学(現在の一橋大学)を卒業し,昭和21年以降,40年間以上,三井物産等の商社に勤務し,アメリカやイギリスなどを取引先として,食料品の海外取引等を担当し,日常的に英語の文書を扱っていた。原告X1は,自分が給料生活者であった経験から,給料生活者は2,3年ごとに転勤すると認識していた。(甲64,原告X1)
イ 原告X2は,高校卒業後,法律を学び,昭和41年,アメリカのサザン・メソジスト大学発行の「ジャーナル・オブ・エア・ロー・アンド・コマース」に,国際民間航空機関の空中衝突条約草案の求償訴訟に関する英語の論文を発表し,昭和43年,航空法調査研究会を設立するなど,航空法の専門家として活動していた(乙6,7,10ないし12)。
ウ 原告らは,本件各定期預金契約を初めて締結した平成7年9月に先立ち,複数の銀行に預金口座を有し,資産を運用していたが,固定利息以外の金員の支払が受けられる定期預金の存在を見聞きしたことはなかった(原告X1)。
エ 原告X2は,平成11年7月30日から平成15年1月31日まで,少なくとも9回にわたり,Aの考案した架空金融商品である,為替オプション取引契約を締結した。原告X2とAは,平成11年7月30日,為替オプション契約の締結に当たり,原告X2名義で支出する予定の1000万円のうち500万円については,Aが負担するとの約束をした。(乙13の1ないし9,乙14,15,19)
オ 原告らは,本件各定期預金契約の締結に当たり,契約内容が英語で記載され,被告のレターヘッドが付された正規の用紙を使用して作成された契約書に署名したことがある。これらの契約書には,「通知および合意書」との表題,「特別商品タイプA」との商品名称等が英語で記載され,立会人としてAの署名,承認として投資部門長ジョン・C・アングルの署名がされていた。本件各契約書の英語の表記は,随所に,文法や単語の用法についての誤りがあった。
カ Aが提案した商品は,保証された固定金利が年利6.0〜9.0%であり,当時の被告の大口定期預金の金利の数倍から数千倍であり,また,為替差損の危険がなく,通常預金の利息等についてされるべきはずの源泉分離課税処理がされず,固定金利以外に1回あたり数百万円以上の報酬を受け取るという点で,通常の銀行預金とは全く異なる契約内容であった。
キ 原告X2は,原告X2名義の被告渋谷支店の普通預金口座及びマルチマネー口座を有していたことから,被告から,金融商品等を紹介する書簡などを受け取っていたが,原告らは,本件各定期預金契約に基づく取引履歴に関する取引明細書を受け取ったことは一度もなかった。
ク Aは,平成8年10月ころ,被告横浜支店の支店長に就任したあいさつのため,原告X1及び原告X2の自宅に訪れ,以後,Aによる本件に関する一連の不正行為が発覚した平成15年8月まで,原告らとAは,被告の支店ではなく,原告X1及び原告X2の自宅で,各種手続をしていた。
原告らは,本件各定期預金契約に関し,Aと直接連絡を取り,被告横浜支店を通じてAと連絡を取ったことはなかった。また,原告らは,Aが提案した商品が被告の正規の商品であるかどうか,Aが被告の横浜支店長として被告の横浜支店に勤務しているかどうか,被告に日本投資部門長なる地位が存在するのかどうかなどについて,被告に問合せをしたことはなかった。(甲64,乙18)
(2) これに対し,原告X1は,Aが,平成7年当初は,被告の渋谷支店長として,平成8年以降は,被告の横浜支店長として,被告の支店の営業に関する一切の権限を与えられていると信じていた,Aの異動や退職を知るすべはなかった,などと陳述・供述する。
しかし,Aの異動を疑わなかったとの供述内容は,原告X1が給料生活者が数年ごとに異動すると思っていたとの事実と矛盾すること,Aが横浜支店長として本件各定期預金契約を締結したとの供述内容は,Aが日本投資部門長との肩書で,立会人として各契約書に署名している事実と矛盾すること,Aの署名が立会人欄にあり,その肩書が日本投資部門長となっていることについて気づかなかったとの供述内容は,原告X1の職歴及び銀行取引経験からして不自然であること,などからすると,また,乙19の1,2の記載と対比して,上記陳述・供述部分は不自然であって採用することはできない。
そして,他に,上記(1)で認定した事実を覆すに足りる証拠はない。
(3) 上記(1)で認定した事実によれば,原告X1及び原告X2は銀行との取引経験が豊富であるといえること,Aが提案した商品の内容は,本件各定期預金契約締結当時の被告の正規の円大口定期預金の金利の数倍から数千倍にも及ぶ高い金利が約束され,為替差損の危険がなく,高利かつ低リスクの金融商品であって,このような商品を銀行において取扱うとは通常考えられないこと,原告X1及び原告X2は英文を理解する能力に優れていたこと,本件各定期預金契約について作成された各契約書は不自然かつ不正確な英語表記を含むものであり,表記された契約内容があいまいなものであったこと,そのことについて原告らが何ら疑問を有しなかったと考えるのは困難であること,原告X2とAとの間で,Aが原告X2名義の為替オプション契約の資金を負担する約束をしていたこと,原告らが,各契約書に記載のない合計数千万円以上の金員を報酬名目で受け取っていたこと,平成8年9月以降の本件各定期預金契約に係る手続は,原告X1及び原告X2の自宅でされていること,原告らは,本件各定期預金契約の内容,Aの異動及び退職,Aの権限などについて,被告に確認することが容易であったにもかかわらず確認をしたことは全くなかったこと,との事実を認めることができる。
以上によれば,原告らは,本件各定期預金契約に係る商品がAの考えた架空商品であって,被告の正規の商品ではないことを疑う能力を十分有し,かつ,この商品が被告の正規の商品か否かについて,被告に対して確認することは容易であったにもかかわらず,原告らは何ら確認をしなかったといわざるを得ないのであって,Aが権限を有しないことを原告らが知らなかったことについては,原告らに優に重大な過失があったと認めることができる。
4 結論
以上によれば,その余について判断するまでもなく,原告らの被告に対する本件各請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・小池一利,裁判官・角田祥子裁判官・西村欣也は,海外出張中につき署名押印できない。裁判長裁判官・小池一利)