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東京地方裁判所 平成16年(ワ)1664号 判決 2005年11月28日

原告

被告

Y1

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して一四三二万七八八六円及びこれに対する平成一五年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その六を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(1)  被告らは、原告に対し、連帯して三三六一万七九九四円及びこれに対する平成一五年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(3)  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(1)  事故の発生

原告は、次の事故(以下「本件事故」という。)に遭った。

日時 平成一五年四月四日午後五時四〇分ころ

場所 東京都西東京市<以下省略>都営○○住宅△号棟敷地内

事故の態様 原告は、前記場所を自転車に乗って走行中、A(平成○年○月○日生まれ。)が停車中の車両の陰から飛び出してきて原告の自転車に衝突した結果、自転車から投げ出され、道路上に落下した。

(2)  責任原因

Aは、本件事故の当時、一〇歳で責任能力を有せず、仮に責任能力を有していたとしても、被告らは、その両親であり、Aに対し、車両の陰から突然飛び出すなどの危険な行為をしないように注意監督すべき義務を負っていたのにこれを怠り、本件事故を発生させたものであるから、民法七一四条、七〇九条に基づき、原告が本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負う。

(3)  本件事故による被害の程度

ア 傷病名

原告は、本件事故の結果、左大腿骨頸部骨折の傷害を受けた。

イ 治療経過

原告は、前記傷害を治療するため、平成一五年四月四日から五月一六日までの四三日間、a病院に入院する(この間に人工骨頭置換術を施された。)とともに、同月二三日から同年九月二日まで同病院に通院した(通院実日数五日)。

ウ 後遺障害

原告は、前記傷害について、平成一五年六月二日に症状が固定したところ、左下肢機能障害、下肢の長さ一センチメートル相違の症状が残存し、この後遺障害は、労働省労働基準局長通牒(昭和三二年七月二日基発第五五一号)の「後遺障害別等級表・労働能力喪失率」別表第二の八級七号及び一三級九号に該当し、併合により七級と認定されるべきである。

(4)  損害

ア 治療費等 六四万三六五八円

イ 入院雑費 六万四五〇〇円

1500円×43日=6万4500円

ウ 通院交通費 一八〇〇円

360円×5日=1800円

エ 装具・器具等購入費 一一万八九三九円

オ 損害賠償請求関係費用(診断書発行手数料) 一万五七五〇円

カ 将来の手術費 九九万八〇三円

原告は、前記のとおり人工骨頭置換術を受けたことに伴い、骨盤の股関節臼蓋部が経年変化により摩耗することから、一〇年ごとに再手術として人工股関節全置換術を受ける必要があるところ、本件事故と相当因果関係のある将来の手術費は、次の計算式のとおり九九万八〇三円となる。

100万円(1回の手術費)×(0.61391325(10年に対応するライプニッツ係数)+0.37688948(20年に対応するライプニッツ係数))≒99万803円

キ 休業損害 三八万四〇〇〇円

原告は、本件事故の当時、週三日(月曜日、水曜日及び金曜日)、パートタイマーとして稼働し、日給九六〇〇円の支給を受けていたところ、本件事故の結果、平成一五年四月五日から七月七日まで四〇日間の休業を余儀なくされたから、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、次の計算式のとおり三八万四〇〇〇円となる。

9600円×40日=38万4000円

ク 入通院慰謝料 八五万円

ケ 後遺障害による逸失利益 一七五二万二三六三円

原告は、症状固定時五六歳であったところ、前記後遺障害の結果、就労可能な六八歳まで五六パーセントの労働能力を喪失したというべきであるから、五六歳の女子全労働者の平均年収を基礎とし、中間利息をライプニッツ方式で控除すると、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、次の計算式のとおり一七五二万二三六三円となる。

353万400円×0.56×8.863≒1752万2363円

コ 後遺障害慰謝料 一〇〇〇万円

サ 弁護士費用 三〇五万六一八一円

(5)  まとめ

よって、原告は、被告らに対し、民法七〇九条、七一四条に基づき、連帯して前記損害から弁済を受けた三万円を控除した残額三三六一万七九九四円及びこれに対する不法行為の日である平成一五年四月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)のうち、原告が主張する日時場所において自転車に乗って走行中、停車中の車両の陰から飛び出してきたAに衝突したことは認め、その余は知らない。

(2)  請求原因(2)のうち、Aが本件事故の当時一〇歳であったこと、被告らがAの両親であることは認め、その余は否認ないし争う。

(3)ア  請求原因(3)ア及びイは認める。

イ  同ウのうち、症状固定日が平成一五年六月二日であること、原告に下肢の長さ一センチメートル相違の症状があることは認め、その余は争う。

(4)ア  請求原因(4)アは争う。

高額医療制度を利用すると、一か月の入院医療費が七万二三〇〇円を超えた場合、原則としてその超えた金額が患者に払い戻される。原告の場合、平成一五年四月分についての負担金額七万二三〇〇円、同年五月分についての負担金額七万二三〇〇円の合計一四万四六〇〇円のみが認められるべきである。

イ  同イないしクは争う。

ウ  同ケのうち、原告が症状固定時五六歳であったことは認め、その余は争う。

エ  同コ及びサは争う。

三  抗弁―過失相殺

本件事故の場所は、住居、公園、駐車場がある団地の敷地であり、老人、子供も含めて団地の居住者が通行しているいわゆる生活道路であって、原告は、遊んでいる子供が停車中の車両の陰から走り出てくることを予測して衝突を回避することができたはずであるから、本件事故の発生は原告の責任である。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因(一)(本件事故の発生)について

(1)  請求原因(1)のうち、原告が、平成一五年四月四日午後五時四〇分ころ、東京都西東京市<以下省略>都営○○住宅△号棟敷地内において、自転車に乗って走行中、停車中の車両の陰から飛び出してきたAに衝突したことは、当事者間に争いがない。

(2)  前示争いのない事実に、証拠(甲一、六、七、八の一ないし六、九、一〇、乙一ないし三、四の二、五ないし八、原告、被告Y2)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

ア  原告は、昭和○年○月○日生まれの女性であり、夫の死亡後、二子とともに暮らし、パートタイマーとして稼働しながら家事に従事していたところ、平成一五年四月四日午後五時三〇分ころ、仕事帰りに自転車でスーパーマーケットに立ち寄り、買物を済ませると、再び自転車に乗り、通称武蔵境通りを南進し、自宅のある都営○○住宅△号棟(都営住宅<省略>。以下「本件団地」という。)に向かった。

イ  本件団地は、北棟、東棟、南棟及び西棟からなるところ、その敷地内には、西側(西棟の北側に武蔵境通りへの出入口がある。)から東側までアスファルトコンクリート舗装された道路が走っており、通り抜けができるようになっていた。敷地の中央部分には、各棟に囲まれるようにして駐車場が存在し、この駐車場は、幅員約五・八メートルの道路によって北側部分と南側部分とに分けられているところ、駐車場の北側部分と北棟との間には植込みが設けられ、駐車場の南側部分の周りは道路となっていた。北棟の北側及び東側は、公園となっており、滑り台、ブランコ等の遊具が置かれていた。したがって、本件団地は、北から南にかけて、おおむね、公園、北棟、植込み、駐車場の北側部分、道路、駐車場の南側部分、道路、南棟の順に配置されていたこととなる。なお、本件団地の状況等は、別紙一及び二のとおりである。

本件団地は、約九五世帯が入居し、小学生が三六名程度居住していたところ、本件団地の敷地内では、子供が、公園で遊んでいるほか、東棟及び西棟の入口(別紙二のF、G)の付近、ごみ置き場の付近(別紙二のD)や駐車場の周り(別紙二のE)で遊んでいることも多かった。

ウ  原告は、西側入口から本件団地の敷地内に入ると、自転車に乗って、自宅がある東棟の自転車置き場に向かい、成人が歩くよりも早い程度の速度で、駐車場を北側部分と南側部分とに分けている道路(以下「本件道路」という。)の北側部分寄りを東進し、北側部分の東端の区画付近(別紙二のK)に差し掛かった。

エ  Aは、平成○年○月○日に出生し、平成九年三月から平成一三年九月まで両親及び弟妹と本件団地に居住していたところ、平成一五年四月四日は小学校が春休みで、本件団地に住む友人宅へ遊びに行き、妹や友人五名とともに、本件団地の敷地内で「ドロケイ」遊び(一種の鬼ごっこ)を始めた。Aは、「ドロ」(泥棒)役で、最初は公園の滑り台の付近(別紙二のH)に隠れていたものの、見つかりそうになったことから、駐車場の北側部分の東端の区画に移動して、車両と植込みとの間(別紙二のI)にしばらくしゃがみ込んでいた。この車両は、車高約二メートルのいわゆるワンボックス型車両であり、本件道路から約二〇センチメートルの位置に停車していたことから、本件道路を西から東に向かう者には、Aの姿は車両の陰に隠れて見えなかった。

Aは、周りにだれもいないと思って立ち上がると、目の前(別紙二のJ)に「ケイ」(刑事)役の友人がいたことから、あわてて車両の陰から本件道路に走り出たところ、右方から本件道路を進行してきた原告運転の自転車と衝突した。その結果、原告は、自転車から投げ出され、本件道路上に落下した。なお、Aにも右ひざ上外側に長さ約一〇ないし一二センチメートル、幅約三センチメートルのあざができていた。

二  請求原因(2)(責任原因)について

請求原因(2)のうち、Aが本件事故の当時一〇歳であったこと、被告らがAの両親であることは、当事者間に争いがない。

そうすると、Aは、その年齢のほか、本件事故に至る経緯、その態様等に照らしても、本件事故の当時、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったということができるから、Aの親権者である被告らは、親権者としての監督義務を怠らなかったと認められない限り、民法七一四条に基づき、原告が本件事故により被った損害を賠償すべき責任を免れないと解されるところ、被告らが親権者としての監督義務を怠らなかったことの主張立証があるとはいえない(せいぜい、被告Y2本人尋問の結果(同被告の陳述書(乙八)を含む。)中に、本件団地では注意して遊ぶように言っていたとの供述部分があるにとどまり、親権者としての監督義務を怠らなかったとまではいえない。)。したがって、被告らは、原告が本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負う。

三  請求原因(3)(本件事故による被害の程度)について

(1)  同ア(傷病名)及びイ(治療経過)について

同ア及びイの各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

(2)  同ウ(後遺障害)について

ア  同ウのうち、症状固定日が平成一五年六月二日であること、原告に下肢の長さ一センチメートル相違の症状があることは、当事者間に争いがない。

イ  前示争いのない事実に、証拠(甲二の一・二、三、四、九、原告)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(ア) 原告は、本件事故の結果、左大腿骨頸部骨折の傷害を負い、その治療のため、平成一五年四月四日から五月一六日までの四三日間、a病院に入院し、この間の同年四月一四日に人工骨頭置換術を施され、同年五月二三日から同年九月二日まで同病院に通院し(通院実日数五日)、同年六月二日に症状が固定した。

(イ) a病院の医師が平成一五年六月七日付けで作成した身体障害者診断書・意見書(肢体不自由用)には、「障害名」として「左股関節の機能障害(全廃)」と、「原因となった疾病・外傷名」として「左大腿骨頚部骨折」と、「参考となる経過・現症」として「事故にて受傷された。四/一四人工骨頭置換術を行っている。現在可動域制限・疼痛を認める」と、「総合所見」として「屈曲・外転・内施制限と、軽度脚長差がある。正坐・しゃがみこみ不能で、歩行時間も制限されている。」とそれぞれ記載されるとともに、「肢体不自由の状況及び所見」として次のような記載がされている。

a 神経学的所見その他の機能障害(形態異常)の所見

(a) 運動障害

左股部分の固縮(起因部位・骨関節)

(b) 下肢長さ

右七〇センチメートル、左七一センチメートル

(c) 大腿周径

右四〇センチメートル、左三八センチメートル

(d) 下腿周径

右三二センチメートル、左三〇センチメートル

b 動作・活動

(a) 座る

<1> 足を投げ出して 自立

<2> 正座、あぐら、横座り、全介助又は不能

(b) いすに腰掛ける 自立

(c) 座位又は臥位から立ち上がる(手すり) 自立

(d) 家の中の移動 自立

(e) 二階まで階段を上って下りる(上りの際に手すり) 自立

(f) 屋外を移動する 自立

(g) 公共の乗り物を利用する 自立

(h) 歩行能力(補装具なしで) 一キロメートル以上歩行不能

(i) 起立位保持(補装具なしで) 一時間以上困難

c 関節可動域と筋力テスト

(a) 右股

<1> 屈曲一二〇度(筋力正常)、伸展二〇度(筋力正常)

<2> 外転五〇度(筋力正常)、内転三〇度(筋力正常)

<3> 外施五〇度(筋力正常)、内施五〇度(筋力正常)

(b) 左股

<1> 屈曲九〇度(筋力正常)、伸展一〇度(筋力正常)

<2> 外転四〇度(筋力正常)、内転一〇度(筋力正常)

<3> 外施四〇度(筋力半減)、内施二〇度(筋力半減)

(ウ) 原告は、平成一五年六月二四日、東京都知事から、大腿骨頸部骨折による左下肢機能障害との障害(身体障害程度等級四級)で身体障害者手帳の交付を受けた。

(エ) 原告の日常生活上の主な制約は、次のとおりである。

a 人工骨頭置換術は、骨頭を切除し、チタン製の球状の人工骨頭に置換するものであるところ、人工骨頭を大腿骨につなげて支えるため、球状の人工骨頭にはかぎ状に支柱が付けられ、健常な大腿骨頸部及び大腿骨の骨髄を抜いて大腿骨の中に約二〇センチメートルほど差し込まれている。そのため、左下肢を外側に開く動作が制限されているし、内側に曲げる動作は、人工骨頭が股関節から外れてしまうことから医師によって禁止されており、体を左側に曲げにくい。転ばないように気を付けなければならず、歩行の際はつえを使用する必要がある。また、股関節と人工骨頭に荷重をかけることになることから、重い物も持てない。

b 一時間立っていた後には、支柱が入っている部分が固く張ってしまい、ひざががくがくしてきて、その後は歩くことがほとんどできなくなる。他方、同じ姿勢で長く座っていると、支柱が入っている部分のほか、ふくらはぎまで固く張って痛くなる。

c 布団で寝起きすることは医師から禁じられており、腰掛けた位置から楽に立ち上がれるような高さのベッドを使用しているところ、数時間寝ていると左足が引っ張られるような痛みで目が覚めてしまう。また、左側への寝返りはできない。

d 入浴する際は、手すりに手を掛けて体重を支えながら、左足を内側に曲げないよう足の向きに注意する必要がある。

e 便所も洋式便所しか使えず、身体障害者用のものは高さがあり腰掛けたり立ち上がることが容易だが、それ以外のものは高さが三七、三八センチメートル程度であり、手すりが必要である。手すりがない場合には、壁やドアに両手を突っ張って体を支えて腰掛けたり立ち上がったりすることになる。

f 自宅の掃除は、姿勢の制限、重さの制限から、独りでは軽易なことしかできない。アイロン掛けも、同じ姿勢を続けると左足が張ってくることから、休み休みにしかできないし、食事の支度も、長時間立っていられないことから効率が悪い。

g 左足を内側に曲げることや左足に体重を掛けることができず、転倒して人工骨頭が外れてしまうおそれがあることから、日常生活で自転車に乗ることはできない。跳んだり跳ねたりすることはもちろん、走ることもできない。階段やバスの乗降口等高さのある段差は、右足で上って左足を持ち上げて一段ずつしか上れない。

ウ  以上の事実関係によると、原告は、本件事故の結果、左大腿骨頸部骨折の傷害を負い、平成一五年六月二日に症状が固定したところ、<1>左股関節の用廃、<2>左足の一センチメートル短縮の後遺障害が残存しており、その程度は、前記<1>が自動車損害賠償責任保険後遺障害等級八級七号に、前記<2>が同一三級九号にそれぞれ該当し、以上を併合して同七級に相当するというべきである。

四  請求原因(4)(損害)について―その一

(1)  治療費等 六四万三六五八円

証拠(甲五の一ないし一〇)及び弁論の全趣旨によると、原告は、b外科病院に対し、前示治療に係る費用として合計六四万三六五八円を支出したことが認められる。

なお、被告らは、「高額医療制度を利用すると、一か月の入院医療費が七万二三〇〇円を超えた場合、原則としてその超えた金額が患者に払い戻される。原告の場合、平成一五年四月分についての負担金額七万二三〇〇円、同年五月分についての負担金額七万二三〇〇円の合計一四万四六〇〇円のみが認められるべきである。」などと主張するが、被告らの主張によっても、高額医療制度の利用によりあくまで原則として一定の金額が払い戻されるにすぎないことに照らしても、被告らの主張は、直ちに採用することができない。

(2)  入院雑費 六万四五〇〇円

前示のとおり、原告は、b外科病院に四三日間入院したから、本件事故と相当因果関係のある入院雑費は、次の計算式のとおり六万四五〇〇円と認めるのが相当である。

1500円×43日=6万4500円

(3)  通院交通費 一八〇〇円

前示のとおり、b外科病院への通院実日数は、五日である一方、証拠(甲一二)によると、自宅から同病院までの交通費(バス及び鉄道料金)は、片道三六〇円であることが認められるから、本件事故と相当因果関係のある通院交通費は、次の計算式のとおり三六〇〇円と認めるのが相当であるところ、原告の請求額は、これより控え目であるから、その全額を認める。

360円×2×5日=3600円

(4)  装具・器具等購入費 一一万八九三九円

証拠(甲一五ないし一八)及び弁論の全趣旨によると、原告は、ステッキショッピングカート(つえ用買物かばん)、ベッド、Wクリップ式ぞうきんワイパー(つえ付きぞうきんモップ)、シャワーベンチ、スワニーバッグキルティング(外出用つえ用かばん)及びステッキを購入し、合計一一万九四九九円を支出したことが認められ、前示事実関係に照らすと、この支出は本件事故と相当因果関係があるということができるところ、原告の請求額は、これより控え目であるから、その全額を認める。

(5)  損害賠償請求関係費用(診断書発行手数料) 一万五七五〇円

証拠(甲五の一一・一二)及び弁論の全趣旨によると、原告は、b外科病院に対し、診断書発行手数料として合計一万五七五〇円を支出したことが認められる。

(6)  将来の手術費 九九万八〇三円

前示事実関係に、証拠(甲九、一三、一四)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、平成一五年四月一四日に人工骨頭置換術を受けたことに伴い、骨盤の股関節臼蓋部が経年変化により摩耗することから、一〇年ごとに再手術として人工股関節全置換術を受ける必要があること、再手術の場合は、入院費等の費用を含め約二〇〇万円程度の診療報酬が発生すると見込まれること、原告は、昭和○年○月○日生まれの女性であり、平成一五年四月一四日の時点における平均余命は三一・一三年である(平成一五年簡易生命表)ことが認められるから、本件事故と相当因果関係のある将来の手術費は、次の計算式のとおり九九万八〇三円と認めるのが相当である。

100万円(1回の手術費)×(0.61391325(10年に対応するライプニッツ係数)+0.37688948(20年ら対応するライプニッツ係数))≒99万803円

(7)  休業損害 三八万四〇〇〇円

証拠(甲一〇、一一、原告)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故の当時、週三日(月曜日、水曜日及び金曜日)、パートタイマーとして稼働し、日給九六〇〇円の支給を受けていたところ、本件事故の結果、平成一五年四月五日から七月七日まで四〇日間の休業を余儀なくされたことが認められるから、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、次の計算式のとおり三八万四〇〇〇円と認めるのが相当である。

9600円×40日=38万4000円

(8)  入通院慰謝料 八五万円

前示原告の受傷の部位、程度、入通院経過その他諸般の事情を考慮すると、原告の入通院についての慰謝料は、八五万円が相当である。

(9)  後遺障害による逸失利益 一三〇四万六三二二円

請求原因(4)ケ(後遺障害による逸失利益)のうち、原告が症状固定時五六歳であったことは、当事者間に争いがない。そして、前示後遺障害の内容、日常生活上の制約等を総合すると、原告は、前示後遺障害の結果、就労可能な六七歳まで一一年間にわたり労働能力を四五パーセント喪失したと認めるのが相当である。そうすると、前示のとおり、原告は、週三日、日給九六〇〇円の条件でパートタイマーとして稼働するかたわら、家事に従事していたから、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、次の計算式のとおり、賃金センサス平成一五年第一巻第一表による女性労働者学歴計全年齢平均年収を基礎とし、中間利息をライプニッツ方式で控除して、算出される一三〇四万六三二二円と認めるのが相当である。

349万300円×0.45×8.3064≒1304万6322円

(10)  後遺障害慰謝料 一〇〇〇万円

前示後遺障害の内容、これに伴う日常生活への影響等を考慮すると、原告の後遺障害についての慰謝料は、一〇〇〇万円が相当である。

(11)  小計 二六一一万五七七二円

以上の損害額の合計は、二六一一万五七七二円となる。

五  抗弁(過失相殺)について

前示事実関係によると、本件団地の敷地内では、日中、子供が遊んでいることが多く、しかも本件事故の当日は春休みであったから、原告は、遊んでいる子供が停車中の車両の陰等から走り出てくることを十分予見することが可能であり、適宜速度を調節し、停車中の車両から離れて進行すべき注意義務があったのにこれを怠ったというべきであり、本件事故の発生には原告にも落ち度があったということができる。そして、その割合は、本件事故の態様、加害者の年齢等を総合すると、五割とするのが相当である。

そうすると、過失相殺後の損害額は、一三〇五万七八八六円となる。

六  請求原因(4)について―その二(弁護士費用)

原告は、三万円の損害のてん補を受けていることを自認しているから、これを前示損害額から控除すると、一三〇二万七八八六円となる。

そして、弁論の全趣旨によると、原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払を約束していることが認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めることができる弁護士費用は、一三〇万円が相当である。

七  結論

よって、原告の請求は、被告らに対し、連帯して一四三二万七八八六円及びこれに対する不法行為の日である平成一五年四月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においていずれも理由があるから認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林邦夫)

(別紙1) アパート(<住所省略>)概略図

<省略>

(別紙2) アパート(<住所省略>)概略図

<省略>

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