東京地方裁判所 平成16年(ワ)17635号 判決 2006年6月30日
千葉県我孫子市●●●
原告
●●●
同訴訟代理人弁護士
手塚富士雄
東京都品川区東品川二丁目3番14号
被告
CFJ株式会社
同代表者代表取締役
●●●
同代理人支配人
●●●
主文
被告代理人支配人●●●が商法上の支配人ではなく,訴訟上の代理権を有するものではないことを確認する。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 被告CFJ株式会社は,原告に対し,金95万8301円及び内金61万2912円に対する平成16年8月22日から支払済みまで,内金30万円に対する平成16年8月27日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告CFJ株式会社の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,原告が,被告に対し,利息制限法所定の制限利息を上回る利息を支払ってきたため,過払金が発生しているとして,不当利得に基づいて過払金の返還請求を求めるとともに,取引履歴を開示しなかったのが不法行為にあたるとして損害賠償を求めた事案である。
本件につき,中間の争いとして,被告代理人支配人●●●(以下「●●●」という。)が,商法上の支配人であり,訴訟代理権を有するかが争われた。
2 争いのない事実及び証拠上明らかな事実
被告は,消費者金融を営む株式会社であり,東京都品川区内に本店が所在し,東京都中央区内に晴海支店,大阪市浪速区内に難波支店がある(甲5,15,乙9)。
第3争点
●●●の支配人性
(原告の主張)
(1) ●●●は,被告の本店及び晴海支店の行う各業務については,一部の権限しか付与されておらず,被告においては,包括的代理権の有無とは無関係に,重要な業務を担当している者ないし営業の主任者を支配人と捉えて,これを支配人登記しているのであり,したがって,●●●は法律上の意味での総支配人とはいえない。
(2) 被告の難波支店は,取引履歴開示や過払金請求に対応するための専従部門を置き,効率化とコスト削減を目的に支配人を利用しているに過ぎないから,商法・会社法が規定する支配人ではない。法が支配人に訴訟代理権を認めている趣旨とも合致しない。弁護士法72条の潜脱の目的を持つ支配人の利用形態に他ならない。
(3) ●●●は,実際には難波支店においては,リーガルサービスセンターの業務に専念しており,それ以外の業務における権限や関与が皆無ないし極めて小さいこと等に照らすと,●●●には難波支店の業務に関する包括的代理権限は存在せず,会社法上の支配人とは認めることはできない。
(被告の主張)
否認する。
被告のすべてのビジネスないし業務のうち,難波支店の業務は特定されており,その特定された難波支店の業務について,●●●が最高責任者である。
第4当裁判所の判断
1 ●●●の支配人性について
(1) 甲15,20,乙6,証人●●●及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
被告は,東京都品川区に所在し,支店としては東京都中央区の晴海支店,大阪市浪速区内の難波支店が存在する。●●●は,本店の支配人として登記されている。本店には,●●●を含めて5名の支配人が登記されている。●●●は,総支配人として,難波支店,晴海支店,本店営業所の業務に関わっている。
難波支店は,従業員900名からなり,Business Units(いわゆる営業部門)とSupport function(いわゆる営業を支える機能)の2部門からなる。営業部門としては,全国に点在する西日本(名古屋以西)の自動契約機(ALM)によるローン全般と全国のインターネットによるローン全般,西日本(名古屋以西)からの電話によるローンお申込の対応とその後の処理全般,全国の顧客で60日以上の支払を延滞した顧客の回収,全国の利息制限法所定の利率による支払を主張した顧客の対応,取引履歴の開示業務全般,被告からの法的回収全般などがあり,この営業部門を支えるものとして,教育,人材開発部,商品管理部などの部門がある。●●●は,この両部門の最高責任者とされている。
被告の顧客が利息制限法の利率で支払いを求める場合は,難波支店の業務となり,リーガルサービスセンターが処理をする。このセンターには●●●本部長がおり,●●●はこのセンターの最高責任者の立場ということになる。
(2) 商法38条によれば,支配人は,営業に関する裁判上及び裁判外の包括的な代理権を与えられた者であり,営業主の営業全般に及び包括的な代理権を有する者であるとされている。
そして,支配人が民訴法54条にいう「法令により裁判上の行為をすることができる代理人」としての資格を有するというためには,単に形式的に支配人としての登記がなされていることだけでは足りず,実質的にみても,その者につき前記のような営業上の包括的な代理権が授与されていることを要するものというべきである。
前記認定事実によれば,●●●は,総支配人として,難波支店,晴海支店,本店営業所の業務に関わっているが,被告の顧客が利息制限法の利率で支払いを求める場合は,難波支店の業務となり,●●●は,被告の顧客が利息制限法の利率で支払いを求める場合の担当部署であるリーガルサービスセンターの最高責任者であることが認められる。また,証人●●●によれば,審査部門はリーガルサービスセンターとは別の部門であり,金利の減免の示談の審査は,●●●ではなく●●●に最終決定権限があること,人事に関しても,証人●●●によれば,「決裁というか,相談レベルになるかと思います。」というのであり,債権放棄にしても●●●の権限で,●●●が不在の時に●●●が決裁することが認められ,難波支店の最終決定権限がすべて●●●に帰属しているとはいえない。また,●●●は1か月のうち,難波支店の仕事は15日,東京の仕事は,晴海と本店を合わせて15日くらいのバランスになると供述するが,不当利得返還請求訴訟の対応で全国いろいろの裁判所に出廷するが,これは,二,三十パーセントのウエイトの仕事になっているとも供述していることからすると,難波支店のリーガルサービスセンター以外の業務にどれだけ関われているのか疑問である。特に,●●●は,晴海支店の経営戦略の責任者でもあるところ,訴訟対応をしながら,どこまで経営戦略に実質的に関与できているのか疑問といわざるを得ない。また,●●●は,「被告のCFJでは,場所によって責任者を定めるという概念がないんですね。IT技術が発達してますので,業務内容によってその責任者がいるという構図になっています。」とも供述していることからすると,支配人として登記されていても,商法上の支配人概念とは異なる構造を有していることが推認できるのであり,以上の諸事実を勘案すると,●●●は,実質的にみても,難波支店において営業主の営業全般に及び包括的な代理権を有する者とはいえないものというべきである。
(裁判官 小島法夫)