東京地方裁判所 平成16年(ワ)18837号 判決 2006年10月11日
原告
X1
ほか二名
被告
Y
主文
一 被告は、原告X1に対し、金七五五万〇六八八円及び内金六八七万〇六八八円に対する平成一二年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、金三九万一〇一〇円及び内金三六万一〇一〇円に対する平成一二年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X3に対し、金二万六〇〇〇円及び内金二万四〇〇〇円に対する平成一二年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
六 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告X1に対し、金三二六五万五〇二六円及び内金三〇六五万五〇二六円に対する平成一二年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、金一〇五万八九一〇円及び内金九五万八九一〇円に対する平成一二年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告X3に対し、金三万一〇〇〇円及び内金二万六〇〇〇円に対する平成一二年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告X1が所有・運転し、原告X2及び同X3が同乗する自動車(以下「原告車両」という。)と、被告が運転する自動車(以下「被告車両」という。)が衝突した交通事故に関し、原告X1は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七〇九条に基づき、原告X2及び原告X3は自賠法三条に基づき、それぞれ、被告に対し損害賠償を請求している事案である。
二 前提となる事実(特に証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)
(1) 交通事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
ア 日時 平成一二年二月一一日午後一時五五分ころ
イ 場所 東京都渋谷区笹塚二丁目二五番地 首都高速道路四号線上り車線
ウ 原告車両 普通乗用自動車(<番号省略>)、原告X1所有
エ 被告車両 普通乗用自動車(<番号省略>)
オ 態様 原告車両が先行する車両二台に続き停止したところ、後方から進行してきた被告車両が追突し、玉突き衝突した。
(2) 原告X1の受傷内容及び治療経過等
原告X1(昭和○年○月○日生、本件事故当時三五歳)は、本件事故後、次のとおり通院して治療を受けた。(ただし、症状固定時期については当事者間に争いがある。)
ア 平成一二年二月一一日及び翌一二日、医療法人社団芳寿会a病院(以下「a病院」という。)を受診したところ、頸椎レントゲン写真上、特に所見はなかったが、頸椎捻挫で約二週間の通院加療を要すると診断された(実通院日数二日)。(甲二、三、一四、四七の一)
イ 同月一四日、日本医科大学付属多摩永山病院(以下「日医永山病院」という。)整形外科を受診し、頸部痛、背部痛、手指のしびれを訴え、頸椎捻挫、背部挫傷と診断された。頸髄可動域は正常で、ジャクソンテスト、スパーリングテストはいずれも陰性、腱反射はほぼ正常であった。
また、同日、同病院脳神経外科を受診し、神経学的検査、頭部レントゲン写真、CTスキャンにて特に異常は認められず、頭部打撲と診断され、経過観察とされた。
その後、同年三月二三日まで同病院に通院したが、整形外科外来加療にて症状は軽快せず、頸椎MRI上、第五―第六頸椎(C五/六)椎間板突出、右神経根軽度圧迫が認められた(日医永山病院への実通院日数六日)。(甲四ないし六、四七の二、甲七一、七四の一ないし一〇)
ウ 同月二九日、医療法人社団恵弘会b整形外科(以下「b整形外科」という。)を受診した。初診時、頸痛、背甲背部痛、吐気、左正中神経領域のしびれを訴え、頸椎の運動制限があったが、神経学的所見は特に見られなかった。
その後も同科に通院し、頸椎牽引、マッサージによる治療を受けたが、同年五月一七日には、前日から左臀部筋痛、しびれ、歩行痛があるが腰痛はないと訴え、左ラセーグ徴候陽性であったのに対し、同年六月二一日には、前日風呂を出てから右腰痛、足部痛があると訴え、右ラセーグ徴候陽性であり、骨盤牽引も併せて行われた。
原告X1は、同科に平成一四年一月一九日まで通院した(b整形外科への実通院日数一一七日)。
(甲七ないし一三、二五、四七の三ないし二三、甲七二)
エ 平成一三年四月二八日、b整形外科の依頼により、府中恵仁会病院でMRI検査を受けた。(甲五一、七二、七六の一ないし四)
オ 平成一三年一一月ころ、原告X1は、右側の頭痛と右眼奥の痛みを自覚し、勤務先である日本電気株式会社(以下「日本電気」という。)府中健康管理センターを受診した。その際、膿性鼻汁が認められたため、副鼻腔炎が疑われ、投薬を受けたところ、頭痛を含め症状はいったん軽快した。しかし、同年一二月中旬、感冒症状と右耳閉塞感が出現し、頭痛も増悪したため、再度同センターを受診した。感冒薬により症状は改善したものの、頭痛が続いており、専門医による精査を希望して、同センターの紹介を受け、同月二八日、東京都立府中病院(以下「府中病院」という。)の神経内科を受診した。その結果、神経内科所見は認められず、頭部CT所見も異常はなかったが、頸椎レントゲン写真上、第五―第六頸椎(C五/六)の変形が認められ、頭部筋硬直が強く存在するとされた(実通院日数一日)。(甲七三)
カ 原告X1は、平成一四年一月一九日付けで、b整形外科から、同日を症状固定日とする後遺障害診断書の発行を受けた(当時三七歳)。同診断書によれば、傷病名は頸椎捻挫症候群、腰椎椎間板症とされ、自覚症状として、両肩・両頸部痛、筋緊張性頭痛、肩甲骨間部の痛み、両側上肢の尺骨神経領域のしびれと痛み、腰痛があるとされている。(甲二五)
キ 原告X1は、平成一四年九月二〇日付けで、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所(以下「自賠責調査事務所」という。)から、頸椎捻挫に伴う両肩・両頸部痛、頭痛等の神経症状について、第五―第六頸椎(C五/六)に非外傷性の椎間板の突出が認められ、神経学的には有意な異常所見に乏しいものの、症状の遺残を否定できず、局部に神経症状を残すものとして、一四級一〇号適用と判断された。
なお、頸椎の可動域制限については、頸部に骨傷・軟部組織の損傷等の運動可動域が制限されるような器質的な損傷が認められていないことから、自賠責保険としては評価できないとされ、さらに、腰椎捻挫に伴う腰痛の自訴の症状については、医証上、有意な神経学的異常所見は認められず、画像上も骨傷等の異常が認められないことから、将来においても回復する見込みのない症状であることを医学的に説明する所見が見られないとして、等級非該当と判断された。(甲二六)
ク 原告X1は、前記カの診断を受けた後、症状が改善しないため一年位放置していたが、手のしびれに加え、腰痛の症状が増悪傾向にあるとして、高血圧症で内服加療中であった日本電気府中健康管理センターの紹介を受けて、平成一五年四月三〇日、府中病院整形外科を受診した。その際、左下肢外側から左足背が常にビリビリし、二週間前から悪化したこと、また、両上肢尺側が常時ビリビリする(左よりも右の方が強い)ことを訴えたところ、腰椎椎間板ヘルニア(疑)、頸椎椎間板症(疑)とされた。同病院には同年六月二四日まで通院し(実通院日数六日)、MRIで第五腰椎―第一仙椎(L五/S一)の左側のヘルニア、第五―第六腰椎(L五/L六)椎間板突出、第五―第六頸椎(C五/六)の椎間板突出などが認められた。(甲七三、七五の一ないし八)
ケ また、平成一五年八月三〇日から同年九月二七日までb整形外科を受診し(実通院日数三日)、同日を症状固定日とする後遺障害診断書(甲三〇)の発行を受けたが、その内容は、前記カの平成一四年一月一九日付け後遺障害診断書(甲二五)と大きな違いは見られない。
原告X1は、同科に同年一〇月四日以降、同年一一月二二日まで通院した(実通院日数四日)。
(甲七二)
(3) 原告X2の受傷内容及び治療経過
原告X2(昭和○年○月○日生、本件事故当時三八歳)は、本件事故により、頸椎捻挫ないし頸部挫傷の傷害を負い、次のとおり通院して診療を受けた(甲一四ないし一九)。
ア a病院
平成一二年二月一一日及び翌一二日(実通院日数二日)
イ 日医永山病院
同月一四日から同年三月七日まで(実通院日数四日)
ウ b整形外科
同月一八日から同年七月一日まで(実通院日数五日)
(4) 原告X3の受傷内容及び治療経過
原告X3(平成○年○月○日生、本件事故当時二歳)は、本件事故により、頭部打撲と診断され、平成一二年二月一一日及び翌一二日、a病院に通院した(甲二〇、弁論の全趣旨)。
(5) 被告の責任原因
被告は、被告車両の保有者として、自賠法三条に基づき、本件事故により原告らに生じた人的損害を賠償する責任を負うとともに、本件事故時、前方を注視して運転すべき注意義務があるのにこれを怠り、被告車両を漫然運転した結果、原告車両に追突させた過失があるから、民法七〇九条に基づき、原告X1に生じた損害を賠償する責任がある。
三 争点に関する当事者の主張
(1) 争点一(原告X1の後遺障害の内容及び程度)
(原告X1)
原告X1は、本件事故により、現在も首や背中、腰に強い痛みを伴う頑固な神経症状が残っており、後遺障害等級は一二級一二号に相当する。
(被告)
鑑定の結果によると、原告X1の右側に強い両側環・小指のしびれと握力低下は、一二級一二号とされている。しかし、鑑定人は、神経学的所見(反射異常、筋萎縮)によって裏付けられないことは認めているとともに、単純エックス線写真上、右手に「極く軽度」の骨萎縮を認めることから、これを以て純他覚的所見「とし」、MRI上のC五/六高位の軽度の脊髄圧迫所見「として」整合することからとの理由で前記判断をしているのであり、その理由付けは強引すぎるといわざるを得ない。
神経学的には、有意な異常所見に乏しく、一四級一〇号の適用が相当である。
(2) 争点二(原告X1に関する素因減額)
(被告)
鑑定の結果によると、原告X1の後遺障害につき(その等級は一二級としているが)、「既存したC五/六にみられる軽度の脊髄圧迫がなければ、本件事故の外力が加わっても、本障害は起こらなかった可能性は大きく、一方、本件事故がなくても加齢に伴い近未来的に自然発症した可能性も小さくないから」、素因の寄与率が問題になるものと思われるとされている。
そこで、少なくとも、原告X1の損害のうち、逸失利益及び後遺症慰謝料については、認められる額について、それぞれ、少なくとも五〇パーセントの素因寄与率による減額がなされるべきである。
(原告X1)
本件事故前のMRI画像が存在しない以上、鑑定結果における素因寄与の仮説はあくまでも想像の域を出るものではない。また、病的原因による素因ではなく、加齢性の素因のみを指摘しており、仮にこのような素因も損害の減額事由として認めるとするならば、被害者救済の観点から不合理である。
(3) 争点三(原告X1の損害)
(原告X1)
ア 平成一五年九月二七日までの治療費・診断書料 一〇八万八四一四円
うち、未払額は一〇万二五八九円である。
イ 症状固定後の治療費・診断書料 一万二七九〇円
症状の根本的回復が期待できない場合でも、対症療法として一時的な症状軽減を含めた治療について、これを不要と判断する合理的根拠はない。
ウ 通院交通費・駐車場代 一万九七一〇円
ただし、平成一五年九月二七日までの分であり、うち、未払額は一九〇〇円である。
エ その他の交通費 一万三八〇〇円
オ 京王線、JRの定期券損失分 一万一〇〇〇円
カ 休業損害 計二五七万二八九三円
(内訳)
(ア) 欠勤に伴う給与減額分(平成一二年四月から同年七月まで) 一五五万八一五五円
原告X1は、本件事故による傷害の治療のため、平成一二年三月一日(一日間)及び同月六日から同年六月三〇日まで(一一七日間)欠勤したため、同年四月から同年七月までの各給与が合計一五五万八一五五円減額された。
(イ) 欠勤に伴う賞与減額分(平成一二年六月及び同年一二月) 五四万二八〇〇円
原告X1は、前記(ア)のとおり、本件事故により欠勤したため、社内規程に基づく欠勤減額算定方法に基づき賞与が減額支給された。その減額分は合計五四万二八〇〇円である。
(ウ) 有給休暇(平成一二年二月分) 三八万一〇四〇円
原告X1は、本件事故による傷害の治療のため、平成一二年二月一四日から同月二八日までに一〇日間の有給休暇を取らなければならなかった。
原告X1の平成一二年の年収は、同年分の源泉徴収票記載の支払金額六二〇万五六九五円に同年の休業損害額二一〇万〇九五五円(給与減額分一五五万八一五五円及び賞与減額分五四万二八〇〇円)を加算した八三〇万六六五〇円である。
一日当たりの労働対価を算定する際、休日及び休暇を差し引いた実際の年間労働日数を基準に計算するのが妥当であるところ、平成一二年一月一日から同年一二月三一日までの休日日数は一二四日、年次休暇(有給)は二一日、医療看護休暇(有給)は三日であるから、同年の年間労働日数は、三六六日から休日、年次休暇(有給)及び医療看護休暇(有給)を減じた二一八日となる。したがって、同年の一日当たりの労働対価は、八三〇万六六五〇円を二一八日で除した三万八一〇四円となる。
よって、平成一二年二月一四日から同月二八日までの一〇日間の有給休暇についての損害は、三八万一〇四〇円となる。
(エ) 有給休暇(平成一三年一二月二八日分) 二万二三三〇円
原告X1は、本件事故による傷害の治療のため、平成一三年一二月二八日の半日の有給休暇を取らなければならなかった。
原告X1の平成一三年の年収は、同年分の源泉徴収票記載の支払金額九六九万一一〇七円であり、一日当たりの労働単価は、年収を、三六五日から同年の休日日数一二四日、年次休暇(有給)二一日及び医療看護休暇(有給)三日を減じた二一七日で除した四万四六五九円となる。よって、同年一二月二八日の半日の有給休暇についての損害は、二万二三三〇円となる。
(オ) 有給休暇(平成一五年分) 六万八五六八円
原告X1は、本件事故による傷害の治療のため、平成一五年五月一四日、同月二一日及び同年六月一〇日の三回にわたって半日の有給休暇を取らなければならなかった。症状固定日は同年九月二七日であるから、この損害は補償されるべきである。
原告X1の平成一五年の年収は、同年分の源泉徴収票記載の支払金額九六九万〇九〇〇円であり、一日当たりの労働単価は、年収を、三六五日から同年の休日日数一二六日、年次休暇(有給)二二日及びファミリーフレンドリー休暇(有給)五日を減じた二一二日で除した四万五七一二円となり、半日分は二万二八五六円となる。よって、その三回分は、六万八五六八円である。
キ 逸失利益 二一四四万〇三四〇円
原告X1の平成一五年の年収は九六九万〇九〇〇円であり、一二級に相当する労働能力喪失率一四パーセントを乗じた一三五万六七二六円が一年当たりの逸失利益となる。原告X1に後遺症が生涯残ることから、就労可能年数三二年のライプニッツ係数一五・八〇三を乗じた二一四四万〇三四〇円が逸失利益である。
ク 傷害慰謝料 二二〇万〇〇〇〇円
原告X1は、本件事故により通院を強いられ、精神的にも肉体的にも大きな苦痛を受けた。本件事故は被告の一方的過失により惹起されたことや、高速道路の渋滞中のかなりのスピードで追突され、その衝撃も大きかった点も考慮すると、傷害慰謝料は二二〇万円が相当である。
ケ 後遺障害慰謝料 二九〇万〇〇〇〇円
原告X1は、本件事故により、現在も後頭部、首、背中、腕、手、腰、脚に強い痛みとしびれを伴う頑固な神経症状が残っており、一二級一二号に相当する後遺障害により、コンピューターの仕事に支障を来している。
コ 原告車両時価額(税込) 一〇五万〇〇〇〇円
原告車両は、平成三年式、廃車時の走行距離は四万四七五三キロメートルであり、同車種、同グレード車の事故当時の中古車市場価格は一〇〇万円(税込一〇五万円)が相当である。これは、事故による損害を原状回復するのに必要となる金額であり、修理不可の場合に市場から同等のものを調達するのに必要となる金額であるから、減価償却計算によって求めた簿価などとは全く異なる。また、修理金見積書記載の七七万八九五三円は、単に修理費用を支払う側のお手盛りの金額に過ぎず、原告車両の廃車処理は被告側保険会社が合意の上で実施したものであるから、時価額が同金額以下に拘束される合理的理由はない。
サ 原告車両に残存していたガソリン代(税込) 六六三八円
原告車両に残存していたガソリンは、本件事故当日に給油したものであるが、本件事故により、給油所から事故現場までの走行で消費した分を除いた大半が廃車に伴って使用不可となった。原告車両のタンク容量は六〇リッターで、給油所から事故現場までの走行での消費分二リッターを減じた五八リッターに相当する金額は、六六三八円である。
原告車両は、被告側保険会社の手配にて廃車処理することになったが、その際、原告X1の了解なしに勝手に残存ガソリンを処分したものであるから、原告が権利放棄したものではない。また、その当時、原告X1は本件事故による傷害により安静を要しており、自ら残存ガソリンの抜き取りなどできない状態であった。仮に、残存ガソリンの抜き取りができたとしても、消防法一〇条、一四条に定められているとおり、一般家庭でのガソリンの保管はできないため、現実的には残存ガソリンの抜き取りはできない。
シ 原告車両の洗車代 一〇五〇円
原告車両は本件事故当日に洗車し、その後、一時間もしないうちに本件事故が発生したため、洗車による原告車両の付加価値向上分は消耗していない。ところが、本件事故による廃車に伴い、洗車料金の対価を得るための期間の大半を失った。洗車による原告車両の付加価値向上分の金額、すなわち、洗車料金は、一〇五〇円である。
ス レッカー代 三万二〇〇〇円
セ 廃車に伴う印鑑証明書代及び住民票代 三〇〇円
ソ 車両買換に伴う費用 計二六万二七一〇円
(内訳)
(ア) 検査・登録手続代行費用(税込) 一万四七〇〇円
(イ) 車庫証明手続代行費用(税込) 一万三二三〇円
(ウ) 納車費用(税込) 七三五〇円
(エ) 検査・登録手続費用 三二四〇円
(オ) 車庫証明手続費用 二五〇〇円
(カ) 自動車取得税 一三万三一〇〇円
(キ) 自動車重量税 五万六七〇〇円
公道走行する上で必要な費用であり、新たに自動車を入手できても、実際に公道走行可能でなければ原状回復したことにならないから、被告が補償するのは当然である。
(ク) ナビゲーション取付代 二万五〇〇〇円
原告車両に取り付けられていたカーナビゲーションを買換車両に付け替えるための費用であり、本件事故前の状態に原状回復するのに必要な費用である。
(ケ) ターボタイマー取付代 五〇〇〇円
原告車両に取り付けられていたターボタイマーを買換車両に付け替えるための費用であり、本件事故前の状態に原状回復するのに必要な費用である。
(コ) ターボタイマー用ハーネス料金(税込) 一八九〇円
原告車両に取り付けられていたターボタイマーを買換車両に付け替える際、車種ごとに取り付け用ケーブル(ハーネスという。)が異なるため、買換車両に合ったハーネスを新たに購入する必要があり、本件事故前の状態に原状回復するのに必要な費用である。
なお、ターボタイマー用ハーネスは、買換車両購入ディーラーにてターボタイマーを取り付けた状態で納車してもらうために必要なものであるが、原告車両は廃車となり、原告X1が購入に行くことができなかったため、友人に購入を依頼した。
タ 日産ICカードポイント損失 五八一〇円
日産ICカードポイントは、新車・中古車購入時や車検・法定点検時にキャッシュバックを受け取ることができるものであり、有価証券と同等のものである。日産車を車検・法定点検で入庫した場合のキャッシュバック金額は五八一〇円であるところ、原告X1は、本件事故による原告車両の廃車に伴い、同カードを解約し、キャッシュバックの権利行使ができなくなった。
本件事故により、原告車両に代わる車両の購入が必要となったが、原告車両と同じ日産車を購入しなければならない合理的理由はないから、原告X1が再度日産車を購入することを前提にするのは不合理である。
同カードを持つメリットは、日産車を所有している場合に各種優待を受けられることであり、原告車両が廃車となってしまった後も年会費を支払ってまでカードを所有し続ける理由がない。原告X1が将来、日産車を購入する可能性がないとはいえないが、それまでの間、ポイント失効を防ぐためだけの目的で年会費を支払続けることはあり得ず、解約するのは当然である。また、他社の車両で車検・法定点検を実施した際にキャッシュバックができたとしても、メーカー固有部品の交換などが行えない。仮に、本件事故が発生せず、原告X1の自由意思によって日産から他社の車両に乗り換える場合には、日産ICポイントカードの権利行使をしてから乗り換えることは明らかであり、この権利行使の機会が奪われたものである。
チ 駐車場代(平成一二年二月一二日から同年七月二九日まで) 五万二五〇六円
原告車両の駐車スペースとして賃貸借契約を締結していたが、本件事故翌日の平成一二年二月一二日から買換車両の納車日前日の同年七月二九日まで、本件事故による廃車に伴い、原告は駐車場代の対価を得ることができなくなった。
本件事故後、即、駐車場賃貸借契約を解約したとしても、解約後一か月分の駐車場代を負担しなければならないこと、再度契約するために一か月分の駐車場代相当金額が必要となること、解約した場合に、再契約不可となるリスクがあること、症状回復の予想ができず、駐車場賃貸借契約の継続又は解約を判断できない状況であったことから、原告X1としては、賃貸借契約を継続せざるを得なかった。
ツ 損害のてん補 -一〇一万四九三五円
テ 弁護士費用 二〇〇万〇〇〇〇円
原告X1は、被告が任意に本件の損害賠償に応じないので、損害賠償請求訴訟を弁護士に委任し、二〇〇万円を支払うことを約した。
ト 合計 三二六五万五〇二六円
人損(前記アないしケ)30,258,947円+物損(前記コないしチ)1,411,014円-損害のてん補(前記ツ)1,014,935円+弁護士費用(前記テ)2,000,000円=32,655,026円
(被告)
ア 平成一五年九月二七日までの治療費・診断書料
いったん症状固定と診断された平成一四年一月一九日から改めて症状固定と診断された平成一五年九月二七日までの分を含め、請求額一〇八万八四一四円、てん補額九八万五八二五円、未払額一〇万二五八九円ともに認める。
イ 症状固定後の治療費・診断書料
平成一五年九月二七日より後の治療費は、本件事故と因果関係が存しないから否認する。
ウ 通院交通費・駐車場代
前記アと同様、平成一四年一月一九日から平成一五年九月二七日までの分が一部含まれているが、請求額一万九七一〇円、てん補額一万七八一〇円及び未払額一九〇〇円のすべてを認める。
エ その他の交通費
請求額及び未払額の一万三八〇〇円は認める。
オ 京王線、JRの定期券損失分
認める。
カ 休業損害
(ア) 欠勤に伴う給与減額分(平成一二年四月から同年七月まで)
一五五万八一五五円は認める。
(イ) 欠勤に伴う賞与減額分(平成一二年六月及び同年一二月)
否認する。
事故による欠勤がなかった場合の算定根拠が不明な上、仮に、実際の支給額が、予定されていた賞与額を下回ったとしても、本件事故との因果関係が不明だからである。
(ウ) 有給休暇(平成一二年二月分)
損害額は、平成一二年分の源泉徴収票記載の支払金額六二〇万五六九五円に同年の休業損害額(前記(ア))一五五万八一五五円を加算した七七六万三八五〇円を三六六で除し、それに一〇を乗じた二一万二一二七円である。
有給休暇の手当については、「平均賃金」を用いている(労働基準法三九条六項)が、平均賃金とは、賃金総額を、その期間の総日数(休日を含む。)で除した額である(同法一二条一項)から、年収を一年の日数(三六六日)で除した額によって算出すべきであり、労働日数で除することは誤りである。
(エ) 有給休暇(平成一三年一二月二八日分)
前記(ウ)と同様に算定すべきであり、それによると、
969万1107円÷365日×0.5=1万3275円
となる。
(オ) 有給休暇(平成一五年分)
否認する。
平成一四年一月一九日に症状固定した後であり、休業損害が発生する余地はない。もっとも、原告X1は、平成一五年九月二七日、改めて、症状固定の診断を受けているが、一旦、症状固定した後の治療は、主として、腰痛の増悪であるところ、鑑定の結果によると、腰椎椎間板症ないし腰椎椎間板ヘルニアと本件事故との因果関係は明確に否定されているので、平成一五年の有給休暇の損害が否定されるべきであるとの結論は変わらない。
キ 逸失利益
本件事故により、原告X1の年収が減少した年は、本件事故が発生した平成一二年分のみであり、平成一六年分は、逆に、本件事故前の平成一一年分より約二四〇万円増額している。また、平成一六年の賞与は、二度目の症状固定とされる平成一五年のそれよりも六七万円増額しているが、これは、本件事故により原告X1には労働能力の喪失・減退がないことを意味している。さらに、平成一七年は、年収が約四九万円減少しているが、賞与の減少は一八万円にすぎないことから、平成一七年の年収が減少したのは、原告X1の本件事故による労働能力の喪失・減退によるものではなく、主として、会社の業績不振による結果である。
したがって、原告X1には、本件事故による現実の減収が認められない以上、逸失利益は認められないと解すべきである。
ク 傷害慰謝料
本件事故日から症状固定日の平成一四年一月一九日までの通院日数は七〇九日で、実通院日数は一二六日である。もっとも、原告X1は、平成一五年九月二七日、改めて症状固定の診断を受けているが、平成一四年一月一九日後の通院は、本件事故との因果関係は否定されるべきであるから、傷害慰謝料算定に際し、当該通院日数は算入されるべきではない。
通院は、長期かつ不規則であるから、慰謝料算定のための通院期間は、実通院日数(一二六日)の三・五倍である四四一日が相当であり、慰謝料は一四九万円となる。
ケ 後遺障害慰謝料
原告X1の後遺障害は一四級一〇号の適応が相当であるから、後遺症慰謝料は一〇〇万円である。
コ 原告車両時価額(税込)
原告車両の初度登録年月は平成三年九月で、本件事故当時のいわゆるレッドブックには記載がなく、一般に、中古車市場に該当車両はなく、交換価値は認められない。あえて交換価値を算定するならば、税法上の減価償却の基準によるほかはないが、法定耐用年数六年を超えており、再調達価格(本件車両の新車価格二七八万円)の一〇パーセントである二七万八〇〇〇円が残存価額、すなわち損害ということになる。
しかし、原告車両の使用価値までも否定することはせず、五〇万円の範囲で認める。いずれにせよ、修理費七七万八九五三円を超えることはない。
サ 原告車両に残存していたガソリン代(税込)
否認する。廃車前に残存ガソリンを抜き取ることは容易であり、それをすることなく廃車することは、その所有権を放棄したと解すべきである。
シ 原告車両の洗車代
否認する。洗車完了と同時に、洗車料金の対価は享受しており、損害は認められない。洗車の目的は、文字通り、車体の汚れを洗い落とすことにあり、その状態を一定の時間維持させることにあるわけではない。
ス レッカー代
認める。
セ 廃車に伴う印鑑証明書代及び住民票代
認める。
ソ 車両買換に伴う費用
(内訳)
(ア) 検査・登録手続代行費用(税込) 認める。
(イ) 車庫証明手続代行費用(税込) 認める。
(ウ) 納車費用(税込) 認める。
(エ) 検査・登録手続費用 認める。
(オ) 車庫証明手続費用 認める。
(カ) 自動車取得税 認める。
(キ) 自動車重量税
否認する。買換えが認められる場合でも、それは事故車両と同種・同程度の中古車への買換えが認められるというにすぎない。重量税は、新車購入の際に生じるものであるから、中古車への買換えが前提となる以上、因果関係は認められない。
(ク) ナビゲーション取付代 認める。
(ケ) ターボタイマー取付代 認める。
(コ) ターボタイマー用ハーネス料金(税込) 認める。
タ 日産ICカードポイント損失
否認する。日産ICカードは、契約を解約しない限り、他社から車両を購入しても、残っていたポイントは失効することなく存続し、キャッシュバックを受けられるので、損害は発生しない。もっとも、車検・法定点検の際、キャッシュバックを受けるには、カード会社が定める日産販売店へ車検・法定点検を委託した場合に限られるが、他社製の車両を購入後、従前どおり、日産販売店へ車検・法定点検を委託しても、原告X1に何ら不利益が生じることはない。解約により残存ポイントが失効しても、それは、原告X1が自らキャッシュバックを受ける権利を放棄しただけのことであり、被告に責任はない。
チ 駐車場代(平成一二年二月一二日から同年七月二九日まで)
否認する。駐車場賃貸借契約が存続する限り、現実に使用収益しなかったとしても、常に使用収益し得る状態にあったわけであり、駐車場代支払の対価を享受し得る状況があった以上、損害は発生しない。
ツ 損害のてん補
一〇一万四九三五円を認める。
テ 弁護士費用
不知。
(4) 争点四(原告X2の損害)
(原告X2)
ア 治療費・診断書料 一二万五〇八〇円
イ 通院交通費 九万五一五〇円
ウ 休業損害 二三万八九一〇円
原告X2は、本件事故による傷害の治療のため、平成一二年二月一四日から同年四月一一日までの間に八・五日の有給休暇を取らなければならなかった。
原告X2の平成一二年の一日当たりの労働対価は、原告X1と同様の理由により、同年分の源泉徴収票記載の年収六〇九万九一九一円を、三六六日から同年の休日日数一二四日、年次休暇(有給)二二日及び医療看護休暇(有給)三日を減じた二一七日で除した二万八一〇七円となる。したがって、その八・五日分は二三万八九一〇円である。
エ 傷害慰謝料 七二万〇〇〇〇円
原告X2は、本件事故により通院を強いられ、精神的にも肉体的にも大きな苦痛を受けた。本件事故は被告の一方的過失により惹起されたことや、高速道路の渋滞中のかなりのスピードで追突され、その衝撃も大きかった点も考慮すると、傷害慰謝料は七二万円が相当である。
オ 損害のてん補 -二二万〇二三〇円
カ 弁護士費用 一〇万〇〇〇〇円
キ 合計 一〇五万八九一〇円
(被告)
ア 治療費・診断書料
認める。
イ 通院交通費
認める。
ウ 休業損害
原告X1と同様の方法によるべきである。すなわち、
893,988円(事故前3か月の収入合計金額)÷90日×8.5日=8万4432円
となる。
エ 傷害慰謝料
原告X2の傷害は、むち打ち症で他覚症状がなく、また、通院は、長期かつ不規則であることから、慰謝料算定のための通院期間は、実通院日数の三・五倍の約三九日が相当で、この場合の慰謝料は、二二万円が相当である。
オ 損害のてん補
認める。
カ 弁護士費用
不知。
(5) 争点五(原告X3の損害)
(原告X3)
ア 治療費・診断書料 四万一二八八円
イ 通院付添費 六〇〇〇円
原告X3が幼少につき、通院に際しては原告X2が二日付き添った。付添費は一日三〇〇〇円が相当である。
ウ 傷害慰謝料 二万〇〇〇〇円
原告X3は、本件事故により通院を強いられ、精神的にも肉体的にも大きな苦痛を受けた。
エ 損害のてん補 -四万一二八八円
オ 弁護士費用 五〇〇〇円
カ 合計 三万一〇〇〇円
(被告)
ア 治療費・診断書料
認める。
イ 通院付添費
付添費は、一日当たり二〇〇〇円が相当であり、四〇〇〇円の限度で認める。
ウ 傷害慰謝料
認める。
エ 損害のてん補
認める。
オ 弁護士費用
不知。
第三当裁判所の判断
一 争点一(原告X1の後遺障害の内容及び程度)
(1) 頸椎捻挫に伴う神経症状について
ア 原告X1は、症状固定時(後記のとおり、平成一四年一月一九日までに症状が固定したとみるのが相当である。)において、両肩・両頸部痛、頭痛、肩甲骨間部の痛み、両上肢の尺骨神経領域のしびれと痛みを訴えている(甲二五)。なお、平成一五年九月二七日時点でも、自覚症状として、左頸部痛、頭痛、両尺骨神経領域のしびれ、肩甲間部の痛みを訴えていることが認められる(甲三〇)。
日医永山病院、b整形外科、都立府中病院の診療録上も、頸部痛、背部痛のほか、小指側(両尺骨神経領域、第八頸椎神経根領域)のしびれ(左側よりも右側に強い。)を本件事故後ほぼ一貫して訴えていることが認められる(甲七一ないし七三、鑑定結果)。
イ これらの症状につき、受傷直後から、四肢の反射異常及び左右差、筋萎縮等の有意な神経学的異常所見は認められていない(前記第二の二(2)、鑑定結果)。
もっとも、画像所見としては、本件事故の三日後である平成一二年二月一四日撮影の頸椎単純レントゲン写真上、第五―第六頸椎(C五/六)椎間には軽度の椎間狭小と後方骨棘が認められているほか、同年三月二一日撮影のMRIでは、第五―第六頸椎(C五/六)椎間板の後方膨隆が正中で脊髄を軽度に圧迫しており、第六―第七頸椎(C六/七)椎間板の膨隆も脊髄圧迫には至らない程度に硬膜管を圧迫していることが認められる。平成一三年四月二八日撮影のMRI所見によると、第五―第六頸椎(C五/六)、第六―第七頸椎(C六/七)椎間板が後方に膨隆し、特に第五―第六頸椎(C五/六)椎間板の膨隆は目立ち、同部において硬膜嚢の狭小化が認められ、脊髄も圧排されているが、変性や浮腫は明らかではないとされている。なお、平成一五年六月二日撮影のMRIにおいてもほぼ同様の所見が得られている。平成一七年一一月の鑑定時における単純レントゲン写真では、前記の椎間板変性と後方膨隆がわずかに進行している。(甲五、七一、七二、七四の一ないし一〇、七五の一ないし三、七六の一ないし四、鑑定結果)
画像上の上記椎間板変性と後方膨隆は、受傷後間もない時期にみられ、その後、わずかに進行しているのみで、ほとんど変化がないことから、外傷性のものではなく、加齢による生理的な変化であると考えられる。また、日医永山病院、b整形外科、都立府中病院において、外傷性との診断をされたことはうかがわれず、自賠責調査事務所においても、非外傷性のものと判断されている。(甲二六、鑑定結果)
ウ 以上からすると、画像で確認できる第五―第六頸椎(C五/六)、第六―第七頸椎(C六/七)の椎間孔狭小化を病因とする、第六頸椎神経根、第七頸椎神経根の症状は認められておらず、また、原告X1は、第八頸椎神経根領域のしびれ等を訴えているが、反射異常や筋萎縮等の神経学的異常所見はなく、画像上も、第七―第八頸椎の椎間板変性等の異常は認められていない。ただし、頸部痛、尺骨神経領域のしびれ等の症状につき受傷から一貫性はあり(前記第二の二(2)、甲二五、二六、三〇、鑑定結果)、前記のとおり、本件事故による後遺障害であること自体は自賠責調査事務所も肯定し、被告においても明らかに争わないところである。
エ しかし、鑑定時の両手指の単純レントゲン写真では、右側の骨が、左側に比べてわずかながらも明らかに萎縮性が認められ、左よりも右に強い尺骨領域のしびれと整合する(鑑定結果)。また、尺骨領域(第八頸椎神経根領域)のしびれは、第五―第六頸椎(C五/六)高位での軽度の脊髄圧迫所見として整合する(鑑定結果、同文献一)。
したがって、右尺骨側のしびれは、反射異常や筋萎縮を呈するには至らないものの、骨萎縮を伴う医学的に説明可能な後遺障害による症状といえ、これは、本件事故前から存在していた無症候性の第五―第六頸椎(C五/六)椎間板症が本件事故をきっかけとして症状を発症し、後遺するに至ったものと解される。
なお、被告は、鑑定結果に対し、その理由付けが強引過ぎると反論するが、鑑定時に撮影された両手指の単純レントゲン写真上、右手に骨萎縮が認められること、第八頸椎神経根領域のしびれが第五―第六頸椎(C五/六)高位での軽度の脊髄圧迫所見として整合することにつき、複数症例による裏付けがあること(鑑定結果、同文献一)に照らすと、合理的なものであるといえる。
オ そうすると、原告X1の右手尺側のしびれの神経症状については、医学的に証明し得る本件事故による後遺障害であり、一二級一二号(現一二級一三号)に相当するとの原告X1の主張には理由がある。
カ なお、後遺障害診断書(甲二五)には、頸部の可動域が制限されていること(脊柱の運動障害)が記載されているが、この点については、頸部に運動可動域が制限されるような外傷性の器質的損傷は認められず、可動性を半減させるほどの加齢性変化の存在も否定されることから、後遺障害として評価することはできない(甲二六、鑑定結果)。
(2) 腰部、臀部、下肢の神経症状について
ア 原告X1は、平成一四年一月一九日時点の後遺障害診断書において、自覚症状として腰痛が持続していることを訴え、立位で長時間保てないが、下肢しびれはないとされている(甲二五)。なお、平成一五年九月二七日時点でも腰痛が持続していると訴え、下肢痛もあり、通勤時立位で増悪するとされている(甲三〇)。
原告X1の症状経過をみると、a病院(一次診)、日医永山病院(二次診)では、腰痛に関する訴えはみられない(前記第二の二(2)ア及びイ)。しかし、b整形外科通院中の平成一二年五月一七日に、前日から左臀部筋痛との訴えがあり(ただし、その時点で腰痛はないとされている。)、左ラセーグ徴候陽性とされたが、同年六月二一日には、左ではなく右の腰痛を訴え、右ラセーグ徴候陽性とされている(前記第二の二(2)ウ)。その後、平成一四年一月一九日時点の前記後遺障害診断書において、左ラセーグ徴候は陽性とされており、鑑定時にもラセーグテスト(SLR)は左四五度、右六〇度で陽性を訴えたとされている(鑑定結果)。もっとも、これ以外に有意な神経学的異常所見は、症状固定までの診療経過及び鑑定時を通じて、認められていない(甲二六、鑑定結果参照)。なお、鑑定時には、左側正中寄りの臀部の疼痛、左下腿外側と左足背と左底前部のしびれ、左足背屈の脱力を訴えたが、坐骨神経痛は訴えられておらず、坐骨神経痛患者に見られる上臀神経部の圧痛はなく、第一―第二腰椎(L一/二)のヘルニア時にみられる大腿神経伸張テスト(FNST)は両側陰性、第五腰椎―第一仙椎(L五/S一)ヘルニア時にみられるアキレス腱反射(ATR)の低下もなく正常であった(鑑定結果)。
イ レントゲン写真上は、平成一五年四月三〇日及び平成一七年一一月二四日の鑑定時、第五腰椎―第一仙椎(L五/S一)椎間の狭小とごく軽度の椎体縁の棘状化が認められるのみであり、平成一五年四月三〇日と平成一七年一一月二四日では第五腰椎―第一仙椎(L五/S一)椎間の所見に差異はなく、外傷後に見られる反応性変化(椎間狭小や骨棘の進行)は見られない。MRIでは、平成一五年五月一四日撮影時、第五腰椎―第一仙椎(L五/S一)椎間板の変性と後方膨隆が認められているが、これについては、第五腰椎(L五)椎体下面中央にシュモール軟骨結節と第一仙椎(S一)椎体上面後縁の正中から左側に椎体隅角分離状の椎間板の陥入を伴うことから、成長期の発育障害によるものであることが考えられる。(甲七三、七五の四ないし八、鑑定結果)
ウ 以上から、第五腰椎―第一仙椎(L五/S一)椎間板の変性と後方膨隆が、左臀部痛及び左下肢のしびれの原因となっている可能性はあるが、有意な神経学的異常所見はなく、確定的ではない(甲七三、鑑定結果)。
また、腰部に関連する症状が現れたことが確認できるのは、前記のとおり、本件事故後三か月以上経過した後の平成一二年五月中旬以降であり、このことから、本件事故との因果関係を認めることは困難である。
したがって、腰部、臀部、下肢の神経症状については、本件事故による後遺障害として認めることはできない。
(3) 以上から、本件事故による原告X1の後遺障害としては、後遺障害等級一二級相当の右手尺側のしびれの神経症状(本件事故から一貫して訴えている頸部痛の訴えはこれに含まれるものと解するのが相当である。)を認めるのが相当である。
二 争点二(原告X1に関する素因減額)
(1) 前記一のとおり、原告X1の右手尺側のしびれの神経症状は、本件事故による一二級相当の後遺障害であると認められるが、これは、本件事故前から存在していた無症候性の第五―第六頸椎(C五/六)椎間板症(椎間板変性と後方膨隆)が本件事故をきっかけとして症状を発症し、後遺するに至ったものと解され、既存の第五―第六頸椎にみられる軽度の脊髄圧迫がなければ、本件事故による外力が加わっても症状が発症しなかった可能性は大きい。また、本件事故による外力が加わらなくても、加齢に伴い近未来的に自然発症した可能性も小さくなく、既存の第五―第六頸椎(C五/六)椎間板症が本件事故後の原告X1の症状の発症に関与した程度は、医学的判断としては五〇パーセントを下ることはないと考えられるものである(鑑定結果)。
(2) もっとも、第五―第六頸椎椎間板変性と後方膨隆は、前記一のとおり、脊髄を圧迫しているものではあるが、その程度は軽度であること、府中病院整形外科の医師は、平成一五年六月一〇日付けの診療情報提供書(甲二八)において、原告X1の診断名につき、MRI検査結果を踏まえ「頸椎椎間板ヘルニア」と記載していることが認められるが、同書面では、「頸椎は上記病名にしましたが頸椎椎間板症というほうがいいかもしれません。一応、ヘルニアとしておきます。」とも記載しており、その趣旨は、加齢性の椎間板変性(ヘルニア状の膨隆も含む。)による症状を示すものとして「頸椎椎間板症」という診断名を併記し、その上で、中程度以上の椎間板変性には高い率で合併する膨隆像を、「一応、ヘルニアとしておきます」としているものと解される(鑑定結果)こと、原告X1の第五―第六頸椎椎間板変性と後方膨隆は、前記一のとおり、受傷後間もない時期にみられ、その後、わずかに進行しているのみで、ほとんど変化がないことから、外傷性のものではなく、加齢による生理的な変化であると考えられることなどが認められる。
(3) 以上からすると、原告X1の第五―第六頸椎椎間板変性と後方膨隆は、その疾患の存在により、原告X1の人的損害が少なくとも拡大したものといえるため、被告にその損害の全部を賠償させることは公平を失するものといえるが、他方、それ自体は加齢性の変化であり、年齢とともに必然的に生じるものでもある。そこで、本件においては、損害賠償(人的損害)の額を定めるにつきその疾患を斟酌することが相当といえるものの、発症に関与した医学的判断としての程度をもってそのまま損害額の減額割合とすることは、必ずしも相当ではない。このほか、被告は、原告の損害のうち後遺障害に伴う逸失利益及び後遺障害慰謝料についてのみ素因減額を主張していること、原告は頸椎に関連する症状のみではなく、腰椎に関連する症状及びこれに伴う損害を主張しているが、腰部、臀部、下肢の神経症状については、前記のとおり本件事故による後遺障害であると認めることはできないことも併せ考慮すると、後遺障害に伴う損害(後記のとおり、後遺障害慰謝料のみ)につき、前記疾患の存在を斟酌して、損害額の三〇パーセントを減じることが相当である。
三 争点三(原告X1の損害)について
(1) 平成一五年九月二七日までの治療費・診断書料 一〇八万八四一四円
争いがない。
(2) 症状固定後の治療費・診断書料 〇円
平成一五年一〇月四日から同年一一月二二日までのb整形外科及びc調剤薬局での治療関係費として、合計一万二七九〇円を要したことが認められるが(甲四九の一ないし五)、前記期間は原告X1の主張によっても症状固定後であるところ、症状固定後の治療費につき、必要性及び相当性を認めるに足りる証拠はなく、原告の後遺障害の程度に照らしても、相当とは認められない。
(3) 通院交通費・駐車場代 一万九七一〇円
争いがない。
(4) その他の交通費 一万三八〇〇円
争いがない。
(5) 京王線、JRの定期券損失分 一万一〇〇〇円
争いがない。
(6) 休業損害 計二三四万四三八九円
(内訳)
ア 欠勤に伴う給与減額分(平成一二年四月から同年七月まで)
給与支給月平成一二年四月から同年七月までの欠勤による給与減額分が一五五万八一五五円であることにつき、当事者間に争いがない(ただし、甲第二三、第二四及び第五八号証によれば、原告X1の平成一二年三月から同年六月までの欠勤日は、同年三月一日ではなく同月二日と、同月六日から同年六月三〇日までの一一七日間のうち勤務先所定の休日を除く七九日であることが認められる。)。
イ 欠勤に伴う賞与減額分(平成一二年六月及び同年一二月)
前記アのとおり給与支給月平成一二年四月から同年七月までの欠勤による給与減額分については争いがないところ、証拠(甲二三)によれば、その欠勤により賞与が減額支給され、事故による欠勤がなかった場合との支給額の差額は、同年六月賞与分が一三万九〇〇〇円、同年一二月賞与分が四〇万三八〇〇円の合計五四万二八〇〇円であることが認められる。なお、その計算式自体は証拠上明らかではないが、前記証拠によれば事故による欠勤がなかった場合の支給額と現実の支給額が明らかにされているから、その差額が損害となることは否定できないというべきである。
ウ 有給休暇(平成一二年二月分)
有給休暇一日当たりの金額について争いがあるが、労働基準法三六条六項においては、有給休暇に対し、原則として、平均賃金又は所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払うこととされており、必ずしも、被告が主張する同法一二条一項の平均賃金(過去三か月間に支払われた賃金総額をその期間の総日数で除した金額)とされる場合だけではないこと、原告X1の勤務先である日本電気においては、有給休暇である年次有給休暇及びファミリーフレンドリー休暇(平成一四年三月までは医療看護休暇)に対し、理論月収を同社月間営業日相当の所定労働時間にて除した金額(時給)の一日分相当額を支給することとされていること(甲九〇)、原告X1の平成一二年二月一四日から同月二八日までの具体的な時給は、証拠上明らかではないが、平成一二年三月の欠勤に係る減額分の計算に当たり、同月二日及び同月六日から同月八日までは日額一万七四〇三・六三円(2245.63円×7.75時間)、同月九日以降は日額一万七六〇二・八〇円(2271.33円×7.75時間)が用いられていると認められること(甲五八)、原告X1の平成一一年一一月から平成一二年一月までの月例給与は、各月とも本給が三四万九五一〇円、付加給は同年一一月が八万八一〇〇円、同年一二月が一二万一六一三円、平成一二年一月が九万七一〇〇円であり、本給である三四万九五一〇円を平成一一年一一月及び同年一二月の各月の稼働日数である二〇日で除すると一万七四七五円(円未満切捨て)となり、上記日額一万七四〇三・六三円又は一万七六〇二・八〇円に近似することなどを総合すると、本件において、原告X1の平成一二年二月の有給休暇一日当たりの金額を正確に算定することは困難であるが、六月及び一二月の賞与を除く年収を稼働日数で除した額がこれに近似する金額といえ、これをもって損害算定の基礎とすることが相当である。
なお、原告X1は、一年の日数三六六日から勤務先所定の休日及び有給休暇を控除した労働日数二一八日で年収を除するものと主張するが、有給休暇に対しては給与が支払われているのであるから、その一日当たりの金額を算定するについて、有給休暇を除く労働日数で除した金額をもって一日当たりの単価とすることは、相当ではない。
そして、原告X1の平成一二年の年収は、本件事故による影響がなかった金額として、同年分の源泉徴収票(甲三一)記載の六二〇万五六九五円に前記ア及びイの合計二一〇万〇九五五円を加算した八三〇万六六五〇円とするのが相当であるが、うち賞与相当額は本件事故がなければ二七八万六四〇〇円であると認められる(甲二三)から、これを年収から控除すると、五五二万〇二五〇円となる。また、同年中の稼働日数は、一年の日数三六六日から休日日数一二四日(甲二四)を差し引いた二四二日であるから、有給休暇一日当たりの金額は、552万0250円÷242日=2万2810円(円未満切捨て)が相当である。
原告X1が本件事故による受傷に対する治療のため、平成一二年二月一四日から同月二八日までの間に合計一〇日間の有給休暇を取得したことについては争いがないから、その損害額は、
2万2810円×10日=22万8100円
となり、同金額を相当と認める。
エ 有給休暇(平成一三年一二月二八日分)
原告X1が本件事故による傷害に対する治療のため、平成一三年一二月二八日に半日の有給休暇を取得し、これが損害となることについては争いがない。そして、同日の一日当たりの有給休暇に支払われる金額についても、本件証拠上、これを正確に算定することは困難であるが、前記ウと同様に解すべきであるところ、平成一三年の年収は九六九万一一〇七円であることが認められるが(甲三二)、同年中の賞与の額は、本件証拠上、明らかではない。しかし、原告X1の平成一一年から平成一七年までの年収、月収及び賞与の推移は、本件証拠上、別紙原告X1の収入の推移表のとおりであると認められるところ、同表、平成一二年に本件事故による欠勤がなかった場合の賞与支給額が二七八万六四〇〇円であること(甲二三)及び弁論の全趣旨によれば、平成一三年の賞与支給合計額は、少なくとも二三〇万円以上であったと推認される。
また、平成一三年中の休日日数は一二四日であるから(甲二四)、前記ウと同様の考え方により、有給休暇一日当たりの金額は、
(969万1107円-230万円)÷(365-124日)=3万0668円(円未満切捨て)
となり、その〇・五日分は、一万五三三四円となるので、一万五三三四円をもって相当な金額と認める。
オ 有給休暇(平成一五年分)
原告は、平成一五年九月二七日が症状固定日であると主張し、同日を症状固定とする同日付けの後遺障害診断書(甲三〇)を提出している。
しかし、前記第二の二(2)のとおり、原告X1は、平成一四年一月一九日をもっていったん症状固定との診断を受けており、同年九月に自賠責調査事務所から一四級の後遺障害認定を受けているが、その後症状が改善したことを認めるに足りる証拠はない。また、いったん症状固定の診断を受けた同年一月以降、一年以上にわたり、本件事故による受傷に対する治療のため通院を継続したことを認めるに足りる証拠はない。加えて、後遺障害診断書(甲二五、三〇)によっても、平成一四年一月一九日時点での症状と平成一五年九月二七日時点での症状に大きな違いは認められない。さらに、腰痛あるいは下肢の神経症状については、前記一(2)のとおり、本件事故との因果関係が認められない。したがって、原告X1は、遅くとも平成一四年一月一九日には症状固定していたと認めるのが相当である。
なお、被告は、平成一四年一月一九日から平成一五年九月二七日までの間の治療費については争わないが、同治療費の金額及びそれが現実に原告X1の支出した金額であることなどにかんがみれば、被告が同治療費を争わないからといって、症状固定日を平成一五年九月二七日と認めるべきことにはならないものというべきである。
したがって、平成一五年分の有給休暇について、休業損害は認められない。
(7) 逸失利益 〇円
ア 原告X1は、本件事故の前後を通じ、日本電気に勤務する会社員であり、定期的な人事異動はあるが、コンピューターシステムの開発に関連する仕事であり、デスクワークの仕事である。
原告X1は、本件事故当時は主任という役職であり、本件事故後、一度給与制度の変更を経て、平成一四年四月からは役割グレード制が導入され、主任から役割グレード職六に昇格となった。役割グレード職は管理職であり、段階は六から一まであって、六が一番下で、数字が減るにつれ役割の責任が重くなるものとされている。役割グレード六に該当するのは原告X1とほぼ同年代の三〇代後半から四〇代前半の者である。
原告X1の本件事故の前後である平成一一年から平成一七年までにおける収入の推移は、別紙「原告X1の収入の推移表」のとおりであることが認められるところ(同表記載の証拠)、事故年である平成一二年の、本件事故による欠勤がなかった場合の収入が八三〇万六六五〇円と認められること(前記(6)ウ)、同表の年収欄記載の金額には、個別厚生用家賃補助を含む各種手当が含まれることを考慮しても、本件事故前である平成一一年の年収七七九万五〇四九円と比較し、本件事故後は大幅に収入が増加し、平成一三年以降は年収九〇〇万円台以上を維持していることが認められる。
なお、役割グレード六の平均的業績の場合の報酬額である基準年俸(各種手当を含まないもの)は一〇四〇万円で、月額五五万円、賞与は半期一九〇万円とされているが、実際の金額は、全社業績、カンパニー(部門)業績、業績評価等に応じて決定されるものとされている。(甲二三、二四、三一ないし三三、五八、五九、六八、六九、八五ないし八八、乙一、原告X1本人)
イ 原告X1の後遺障害は前記一のとおりであり、頸部痛及び右に強い尺骨神経領域(小指側)のしびれにつき一二級相当と認められ、局部神経症状であるが、機能障害や運動障害は後遺障害としては認められず、また、腰部ないし下肢の症状については本件事故との因果関係は認められない。
ウ 以上のとおり、原告X1は、本件事故直後である平成一二年中は欠勤による減収(前記(6)ア及びイ)が認められるものの、平成一三年以降は、本件事故前と比較して収入は大幅に増加している。これについては、前記アの勤務先における給与制度等の変更という要素が関係していることがうかがわれるが、その際、同人が給与面で格別不利益な取扱をうけたことを認めるに足りる証拠はない。なお、原告X1は、同クラスの標準的な報酬と比較して原告X1の収入が少ないことをもって、本件事故の後遺障害による減収があると主張するようであるが、標準的な報酬との比較では、本人の能力、会社業績、本件事故との因果関係が認められない症状による影響等、後遺障害以外の要素による影響を排除することができないから、かかる比較をもって後遺障害による減収があると認めることはできない。
また、原告X1の後遺障害が昇進や取引先との関係等に与える悪影響については、少なくとも現時点において現実化したことを認めるに足りる証拠はなく、今後についても、原告X1の前記アの職務内容及び前記の後遺障害の内容・程度からすれば、一般的可能性の域を出るものではないといわざるを得ない。同原告は、転職や失業等の不利益があるとも主張するが、国内有数の企業において、既に入社二〇年目の原告X1につき(原告X1本人)、具体的転職の予定があること又は失業のおそれがあることを認めるに足りる証拠はなく、これについても原告X1の職務内容及び後遺障害の内容・程度に照らし、一般的な懸念にすぎないものというべきである。
原告X1は、収入を維持すべく努力をしていると主張し、勤務先からその功績を評価されていることが認められるが(甲八八)、かかる評価が原告X1の本件事故がなかった場合との比較において特段の努力であるといい得るかどうかは明らかではない。確かに、頸部痛や尺骨神経領域のしびれは、デスクワークに影響する可能性はないとはいえないと考えられ、同原告もその旨述べている(甲四一、七九)が、このことのみをもって直ちに、現在及び将来の収入減少につながるものとはいい難い。また、同原告は、有給休暇を使い切ってしまう状況にあると述べ、これに沿う証拠も提出しているが(甲七九、八四、原告X1本人)、事故前の取得状況や同僚の取得状況、取得の理由は必ずしも証拠上明らかではなく、他方、腰部ないし下肢の症状と有給休暇との関係も否定し難いこと等からすると、有給休暇の取得が原告X1の本件事故による後遺障害によるものであるかどうかは明らかではない。
したがって、原告X1は、本件事故による前記の後遺障害のため、労務の遂行について支障を来す一般的可能性はないとはいえないものと解されるが、事故の前後を通じて収入の減収は認め難く、後遺障害が原告X1にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情も認めることが困難であるから、本件において、後遺障害による財産上の損害としての逸失利益を認めることはできないものというべきである。
(8) 傷害慰謝料 一四九万〇〇〇〇円
原告X1は、平成一二年に発生した本件事故により、頸椎捻挫の傷害を負い、症状固定日(前記(6)オ)である平成一四年一月一九日まで通院したこと(通院実日数一二七日)及びその通院経過(前記第二の二(2)アないしオ)、当事者の主張等にかんがみ、一四九万円が相当である。
(9) 後遺障害慰謝料 二九〇万〇〇〇〇円
原告X1は、前記のとおり、平成一四年一月一九日までに症状固定し、一二級相当の後遺障害を残したこと、本件事故の態様、本件訴訟の経過等の事情に照らし、二九〇万円が相当である。
(10) 人損小計及び素因減額(前記(7)及び(9)について)
前記(1)ないし(9)の小計は七八六万七三一三円であるところ、前記二のとおり後遺障害に伴う損害につき三〇パーセントの素因減額を行うと、残額は、六九九万七三一三円となる。
(11) 原告車両時価額(税込) 六五万〇〇〇〇円
原告車両は、平成三年九月二九日初度登録(本件事故当時八年四か月経過)のニッサン車両であり、本件事故当時の走行距離は四万四七五三キロメートル、スカイライン、クーペ、GTS―tタイプMであることがうかがわれること(甲三四ないし三八)、本件事故当時のいわゆるレッドブックには、該当車両につき年月の経過のため記載はなく(争いがない。)、それ以前のレッドブックには掲載があること、時価額の算定に当たり車種及び年式が重要な要素となり、走行距離は同車種の標準的な車両における走行距離との比較で加減要素となると考えられるところ、初度登録から一〇〇か月程度で走行距離四万四七五三キロメートルというのは、一般的に標準よりやや少なめと考えられるが、原告車両の車種等から考えて、それだけでレッドブックに記載されているような標準的な車両と比較して一〇万円以上の差を生ずるとは考えにくいこと、インターネットで個別の中古車の販売のため掲載された価格は、中古車の小売価格の参考とはなるが、必ずしも標準的な現実の小売価格を反映しているとは限らないこと、原告車両につき、見積額を七七万八九五三円とする修理見積書(甲七八)を原告X1及び被告側保険会社の双方が認識しつつ、双方合意の上で廃車処理をしたと認められること(原告X1本人、弁論の全趣旨。なお、修理代が同金額を明らかに上回ることを認めるに足りる証拠はない。)、カーナビゲーションとターボタイマーについては原告X1が買換車両に付け替えたことが認められるが(甲六〇、弁論の全趣旨)、その他の原告車両の装備については明らかではないこと等を考慮すると、原告車両の本件事故当時の時価額は六五万円が相当である。
(12) 原告車両に残存していたガソリン代 〇円
証拠(甲六一)によれば、本件事故当日である平成一二年二月一一日、原告X1は、ガソリン四七・三二リットルを五一六七円(一リットル当たり約一〇九円)で給油したこと(ただし、一リットル当たり二・三円、四七・三二リットルで合計一〇八円の割引を受けたため、実際には五〇五九円で給油したことになる。)が認められるが、原告車両の本件事故当時残存していたガソリンの量は、原告車両のタンク容量、給油所から本件事故現場までの距離、原告車両の燃費等に関する資料がないため(原告X1は、ガソリンを満タンにしてすぐ事故にあったと述べるが、給油所の所在地や燃費等これを裏付ける証拠はない。)、算定することができない。したがって、残存ガソリン代を損害として認めることはできない。
(13) 原告車両の洗車代 〇円
証拠(甲六一)によれば、本件事故当日、原告車両を一〇五〇円で洗車したことがうかがわれるが、洗車は本件事故前に終了し、洗車の終了によりその対価を得ており、その後においても原告車両に洗車による何らかの付加価値が残存しているとは認められないから、その後に発生した本件事故により原告車両が全損となったとしても、洗車料金を損害として認めることはできない。
(14) レッカー代 三万二〇〇〇円
争いがない。
(15) 廃車に伴う印鑑証明書代及び住民票代 三〇〇円
争いがない。
(16) 車両買換に伴う費用 計二〇万六〇一〇円
(内訳)
ア 検査・登録手続代行費用(税込)、車庫証明手続代行費用(税込)、納車費用(税込)、検査・登録手続費用、車庫証明手続費用、自動車取得税、ナビゲーション取付代、ターボタイマー取付代、ターボタイマー用ハーネス料金(税込)の合計二〇万六〇一〇円については争いがない。
イ 自動車重量税について、原告X1の請求は、新たに購入した新車に係る五万六七〇〇円であるところ(甲六〇)、本件事故と相当因果関係のある損害として認められるのは、原告車両と同等の中古車両を購入する場合に要する費用であって、これを超える新車購入に係る費用は認められないから、新車購入を前提とする自動車重量税については、本件事故と相当因果関係のある損害としては認められない。
(17) 日産ICカードポイント損失 〇円
証拠(甲六三、乙三、原告本人)によれば、原告X1は、本件事故後、かつ、原告車両を廃車した後の平成一二年四月一日現在においても五八一〇ポイントを保有していることが認められ、また、原告車両を廃車処理したとしても、当然にポイントを失効させることにはならないから、その後に原告X1がカード会員契約を解約したことによりポイントが失効したとしても、ポイント失効そのものは本件事故による損害とは認められない。解約の理由が本件事故による原告車両の全損にあるとしても、それは本件事故による間接的な影響に止まるものというべきである。
(18) 駐車場代(平成一二年二月一二日から同年七月二九日まで) 〇円
原告車両の駐車のために契約していた駐車場賃貸借に係る賃料は、本件事故によっても駐車場の使用収益は何ら影響を受けないから、本件事故による損害とは認められない。
(19) 物損小計
前記(11)ないし(18)の小計は、八八万八三一〇円となる。
(20) 損害のてん補 -一〇一万四九三五円
争いがない。
(21) 弁護士費用 六八万〇〇〇〇円
前記(10)の六九九万七三一三円と前記(19)の八八万八三一〇円の合計額七八八万五六二三円から前記(20)の一〇一万四九三五円を控除した残額は六八七万〇六八八円であること、本件事案の内容及び本件訴訟の経緯に照らし、六八万円が相当である。
(22) 合計 七五五万〇六八八円
四 争点四(原告X2の損害)について
(1) 治療費・診断書料 一二万五〇八〇円
(2) 通院交通費 九万五一五〇円
前記(1)及び(2)は争いがない。
(3) 休業損害 一三万一〇一〇円
前記三(6)ウの原告X1の場合と同様の計算式によるべきところ、本件証拠上、原告X2の平成一二年二月の有給休暇一日当たりの金額を正確に算定することは困難であるが、同原告の平成一二年の賞与を含む年収が六〇九万九一九一円であること(甲三九、弁論の全趣旨)、同原告の本件事故直前三か月(平成一一年一一月から平成一二年一月まで)は、稼働日数五八日で収入は八九万三九八八円であること(甲四〇)からすると、八九万三九八八円を五八日で除した一万五四一三円(円未満切捨て、以下同じ。)をもって一日当たりの金額とすべきである。
原告X2が本件事故のため平成一二年二月一四日から同年四月一一日までの間に有給休暇八・五日を取得したことは争いがない(なお、甲四〇)から、その損害額は、1万5413円×8.5日=13万1010円が相当である。
(4) 傷害慰謝料 二三万〇〇〇〇円
原告X2が、前記第二の二(3)のとおり、本件事故により頚椎捻挫ないし頚部挫傷の傷害を負い、平成一二年二月一一日から同年七月一日までの間通院したこと(実通院日数一一日)、本件事故の態様等に照らし、二三万円が相当である。
(5) 小計((1)ないし(4)) 五八万一二四〇円
(6) 損害のてん補 -二二万〇二三〇円
争いがない。
(7) 弁護士費用 三万〇〇〇〇円
前記(5)の五八万一二四〇円から前記(6)の二二万〇二三〇円を控除した残額が三六万一〇一〇円であること、本件訴訟は主として原告X1の損害に関する争点を中心に進行したこと等に照らし、三万円が相当である。
(8) 合計 三九万一〇一〇円
五 争点五(原告X3の損害)について
(1) 治療費・診断書料 四万一二八八円
争いがない。
(2) 通院付添費 四〇〇〇円
原告X3は、前記第二の二(4)のとおり、本件事故当時二歳であり、本件事故当日及びその翌日通院に際し、原告X2が付き添ったことがうかがわれるが、両日ともに、原告X2も自らの通院のため同一の医療機関に通院していることを考慮すると、通院付添費については、被告が認める四〇〇〇円(一日当たり二〇〇〇円)を超えて認めることはできない。
(3) 傷害慰謝料 二万〇〇〇〇円
争いがない。
(4) 小計((1)ないし(3)) 六万五二八八円
(5) 損害のてん補 -四万一二八八円
争いがない。
(6) 弁護士費用 二〇〇〇円
前記(4)の六万五二八八円から前記(5)の四万一二八八円を控除した残額が二万四〇〇〇円であること、本件訴訟は主として原告X1の損害に関する争点を中心に進行したこと等に照らし、二〇〇〇円が相当である。
(7) 合計 二万六〇〇〇円
第四結論
以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告X1は七五五万〇六八八円及びうち弁護士費用を除く六八七万〇六八八円に対する本件事故発生の日である平成一二年二月一一日から、原告X2は三九万一〇一〇円及びうち弁護士費用を除く三六万一〇一〇円に対する本件事故発生の日である平成一二年二月一一日から、原告X3は二万六〇〇〇円及びうち弁護士費用を除く二万四〇〇〇円に対する本件事故発生の日である平成一二年二月一一日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとする。
(裁判官 浅岡千香子)
別紙 原告X1の収入の推移表
<省略>