東京地方裁判所 平成16年(ワ)20476号 判決 2006年5月16日
原告
X1
ほか一名
被告
Y1
ほか三名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告らに対し、連帯してそれぞれ四八四五万〇九〇三円及びこれに対する平成一三年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、片側三車線の道路において、亡Aの運転する自家用普通自動二輪車(以下「A車」という。)が、第一車線に駐車していた被告Y1保有の自家用普通乗用自動車(以下「被告Y1車」という。)に衝突するとともに、第二車線を走行していた、被告株式会社泉タクシー(以下「被告会社」という。)が保有し、被告学校法人白百合学園(以下「被告学園」という。)の送迎用バスとして使用されていた、被告Y2の運転する事業用大型乗用自動車(以下「被告Y2車」という。)に衝突し、Aが死亡した事故に関し、原告らが、民法七〇九条及び同法七一九条に基づき被告Y2を相手に、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七一九条に基づき被告Y1、被告会社及び被告学園を相手に、それぞれ損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実(証拠を掲記しない事実は争いがない。)及び証拠によって容易に認定できる事実
(1) 次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
ア 日時 平成一三年一〇月一日午前六時四〇分ころ
イ 場所 仙台市青葉区桜ケ丘七丁目一四番三一号先道路上(以下「本件事故現場」という。)
ウ A車 自家用普通自動二輪車(車両番号・<省略>)
エ 被告Y1車 自家用普通乗用自動車(車両番号・<省略>)
被告Y2車 事業用大型乗用自動車(車両番号・<省略>)
オ 事故態様 片側三車線である県道仙台大衡線(以下「本件道路」という。)上において、A車が、駐車禁止の規制のなされていた、第一車線に本件事故発生日の午前零時ころから駐車していた被告Y1車に衝突するとともに、第二車線を走行していた被告Y2車に衝突し、Aが死亡した(事故態様及び被告らの責任の有無については、後記のとおり争いがある。)。(甲七、八、丙一の二及び三)
(2) Aは、本件事故による急性硬膜下血腫により本件事故の約五時間後である平成一三年一〇月一日午後零時に搬送先の病院で死亡した。(甲二)
(3) 原告X1はAの父であり、原告X2はAの母であり、Aの相続人(相続分各二分の一)である。(甲一七、弁論の全趣旨)
(4) 被告Y1は被告Y1車の保有者であり、被告会社は被告Y2車の保有者である。
(5) 原告らは、平成一四年七月一九日に被告Y1車の自賠責保険会社から合計二九六〇万六〇六四円の支払を受けたほか、労災保険の葬祭給付として三九万七四三六円の支払を受けた。(甲一五、弁論の全趣旨)
二 争点
本件の争点は、事故態様(被告らの責任の有無)並びにA及び原告らの損害の発生及び額である。
(1) 事故態様(被告らの責任の有無)
(原告らの主張)
ア 本件事故は、Aが、A車を運転し、直線道路である片側三車線の本件道路の第一車線を、かねてから安全運転を心がけており、特に、本件事故当時は雨天でもあったため、制限速度を大幅に下回る時速約三〇キロメートルで本件事故現場付近を走行しており、前方の第一車線上に違法駐車している被告Y1車を発見し、被告Y1車の右側方を通過しようとしたところ、被告Y2車が、A車の後方から制限速度を超える時速約六〇キロメートルで第一車線と第二車線の区分線上を走行してきて追いつき、その左前角部をA車の右ハンドル端部に接触させ、A車の右ハンドルを前方に押し、その結果、ハンドルを急に左に切った状態を発生させてA車のヘッドランプを被告Y1車の右テールランプに衝突させ、その結果、Aは、右側頭部から後頭部を被告Y1車のバックパネルに衝突させ、急性硬膜下血腫により死亡したというものである。
原告らの提出したB作成の鑑定書(甲一四)及び意見書(甲一六。以下、B作成の鑑定書及び意見書を総称して「B鑑定書」という。)は、衝突角、衝突地点、A車の変形、そして何よりもAの頭部損傷部位を最も合理的に説明しており、極めて信用性が高い。B鑑定書及び証人Bの証言は合理的であり、本件事故の態様は上記のとおりであることが明らかとなった。これに対し、B鑑定書の内容を弾劾するために提出されたC作成の鑑定書(丙二。以下「C鑑定書」という。)は、<1>衝突の態様については、被告Y1車の真後ろ、六時の方向からの衝突であるとし、遠心力が生じる前提となる円運動は存在していないにもかかわらず、被告Y1車の右側にすり抜けたとする点で、物理の法則を無視しており、<2>被告Y1車のリアバンパーの損傷については、バンパーの上面に凹損が生成されており、このような状態がA車の前輪タイヤによって作り出されるには、バンパーを上から覆い被せるような大口径のタイヤでなければならず、フロントフォークの変形については、丙一の六で極めて精密な測定がなされているにもかかわらず、一切フロントフォークの変形の記載がないのは、本当はあるが、警察官が計測しなかったと強弁し、<3>Aの頭部損傷部位については、自らの意見の誤りを認めるに至ったのであるから、到底信用できないものである。A車の被告Y1車への衝突が、被告Y1車の真後ろないし左斜め後方からの衝突でないことは、容易に明らかにされている。
被告Y2の本件事故発生に至る状況に関する供述は、変遷し、矛盾しており、被告Y2車がA車に直接接触し、本件事故を生起せしめたことを強く窺わせる。また、被告Y2の上記供述は、結局、被告Y2車がA車を追い抜く際に、その左前角部がA車のハンドル右端部に接触し、A車のハンドル右端部が前方に押されてハンドルを左に切った状態が発生したと解することによってのみ説明が可能である。
イ 被告Y1は、駐車禁止の場所に、自らの飲酒を原因として長時間被告Y1車を違法駐車し、第一車線をほとんど封鎖して第一車線を走行する車両の通行を妨害し、さらに、本件事故当時は、降雨中であり、後方から進行する自動二輪車には発見困難な状況が生じていたにもかかわらず、適正な事故防止措置(三角表示板の設置等)を講じていなかった。その結果、被告Y1車を避けようとして第一車線の右寄りを走行したA車を被告Y2車に接触せしめたものであり、上記被告Y1の違法駐車は本件事故発生とは直接の因果関係を有するから、被告Y1は自賠法三条に基づき原告らに生じた損害を賠償すべき責任を免れない。
ウ 被告Y2は、被告Y2車の運転者であり、A車が前方を走行しており、その進路上には駐車車両である被告Y1車があり、進路が狭くなっていたのであるから、A車の進行を妨害しないように、被告Y1車と被告Y2車の間隔をとり、A車が安全に走行できるようにすべき注意義務があるのに、あえて第二車線を直進し、A車に追いつき、被告Y2車をA車に接触させて被告Y1車に衝突させた過失があるから、民法七〇九条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
なお、仮に被告Y2車が直接A車に接触していなかったとしても、被告Y2は、第一車線上に、被告Y1車が駐車しており、第一車線の通行を不可能又は事実上困難ならしめているのを知り、また、自らが第二車線を走行している際、五、六メートル先に第一車線を走行しているA車を現認しながら、A車が事故防止のために第二車線に回避してくることが予想できたのに、あえて事故回避のための措置をとらず、本件事故を生起せしめた責任がある。
エ 被告会社は、被告Y2車の保有者であるから、自賠法三条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
オ 被告学園は、被告Y2車に自己の名称を表示し、被告Y2車を送迎用バスとして使用しており、自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
カ 被告らは、共同不法行為者であるから、民法七一九条に基づき、連帯して責任を負う。
(被告Y1の主張)
被告Y1は、本件事故発生日の前日である平成一三年九月三〇日、友人宅で仮眠した後、被告Y1車を運転しながら仮眠できる場所を探し、本件事故現場付近の中央分離帯の切れ目でUターンしようとしたところ、被告Y1車のエンジンが止まったが、バッテリーが少なくなり、スターターが回らなくなったため、車両で通りかかった男性二名の援助を受けて本件事故現場まで被告Y1車を押して移動し、他の通行車両の邪魔にならないように被告Y1車をできるだけ道路端に寄せて駐車した。被告Y1は、本件事故発生日である平成一三年一〇月一日午前六時二〇分ころ、携帯電話でJAFに連絡を入れて牽引を依頼し、ハザードランプを明滅させ、JAFが牽引に来るのを運転席に座って待っていたところ、同日午前六時四〇分ころ、A車が被告Y1車の後部右側付近に衝突した。
本件事故発生日の天候は雨であったが、雨であったことを除けば、視界を悪化させる状態でなく、制限速度内での走行であれば、被告Y1車を回避することに全く支障はなかったはずである。そして、被告Y1は、他の通行車両の邪魔にならないように被告Y1車をできるだけ生け垣のある道路の左端に寄せて駐車していたのであり、被告Y1車の車幅は約一・八メートルであるが、第一車線の幅員は約三・三メートルであり、被告Y1車の右側と第二車線左側との距離は少なくとも約一・五メートルはあったことになり、車線全体から見れば約八・三メートルあったのであるから、被告Y1車が駐車していても、その脇をバイクが通過できる余裕は十分にあったのであって、当該場所付近で故障した場合の駐車位置及び方法として妥当なものであった。また、被告Y1は、被告Y1車のハザードランプを明滅させていたことから、ライトを当てると反射する三角表示板を設置していなかったとしても、日中における他の車両等に対する注意喚起方法としては妥当な方法をとっていた。そして、被告Y1車を駐車させてからA車が衝突するまでの間、夜間にもかかわらず、被告Y1車に衝突した車両はなかった。
そうすると、被告Y1にはいかんともし難い偶発的な出来事によって被告Y1車を駐車していたものであり、同一車線を走行してくる車両等の運転者が、前方注視をしており、あるいは被告Y1車を発見してから衝突を回避する措置をとれるだけの余裕のある速度で走行していれば、通常は衝突を避けることができたのであるから、被告Y1には過失はない。本件事故は、Aの前方注視義務違反ないしは速度超過によって生じたと考えるのが合理的であり、ハンドル操作ミスも十分に考えられるところである。
(被告Y2及び被告会社の主張)
本件事故は、被告Y2が被告Y2車を運転して本件道路の第二車線を走行し、本件事故現場に差し掛かったところ、折から、本件道路の第一車線を走行していたA車が、被告Y1車の後部右端部に直進のまま衝突したが、直ちに停止することなく、A車のハンドル左端部が被告Y1車の車体後部に接触し、その反動から、A車の後部が右側に振られ、被告Y1車の右端部をすり抜けるように運動し(いわゆる「すり抜け衝突」)、第二車線に倒れ込むように運動した途中で、第二車線を走行中の被告Y2車の左側面にA車の後部が接触したというものである。
被告Y1車のリアバンパーの損傷については、A車のフロントフォークに損傷が生じていたこと(甲一一、丙八)からすれば、A車の前輪部分と被告Y1車の右リアバンパーが衝突したものである。そして、リアバンパーが前方に押しつけられ、かつ、下方に押し下げられるとともに、その上部に凹損が生じているのであって(丙六)、その損傷状況は、A車の前輪が衝突したとして何ら矛盾するものではない。そうすると、A車の前輪が被告Y1車のリアバンパーに衝突したことは明らかである。このようなA車と被告Y1車の衝突状況からすれば、本来であれば、A車は被告Y1車の車体後部付近に横転・停止していなければならないところ、A車とAは被告Y1車の右側面付近に転倒しているが、これを合理的に説明するのが、A車が被告Y1車と衝突した後、Y1車の後部右側をすり抜けるように前進して被告Y1車の右側面に転倒したという、「すり抜け衝突」という態様である。A車の後部が被告Y2車の左側面と接触したのは、A車の前輪が被告Y1車のリアバンパーに衝突し、被告Y1車のリアバンパーが変形してすべるような運動をし、すり抜けるような運動をする中で、A車の左ハンドルが被告Y1車に拘束されて、ハンドルを左に切った状況が作出され、A車が尻振りのような状況になり、A車の右方に速度成分が発生し、その速度成分がA車を右に転倒させる働きを持ったことによるものである(B鑑定書においても、ハンドルが瞬間的に左に切られた場合、車体に右方の速度成分が発生し、その速度成分が車体を右に転倒させる働きを持つということが記載されている。)。そして、本件事故の態様が「すり抜け衝突」であるということからすれば、衝突後も、衝突車両は前進するのであるから、運動エネルギーは衝突においてすべて失われるものではなく、衝突によって生じる変形も当然に衝突により運動エネルギーがすべて消費された場合と異なって少なくなることが容易に推測できるのであるから、B鑑定書が指摘するように、被告Y1車のリアバンパーが上方に一五センチメートル以上押し上げられた変形がないのは当然であり、A車の前泥除け前部の損傷が存在するものの軽微であることとも十分に合致する。
原告ら主張の事故態様は、B鑑定書及び証人Bの証言を前提とするものであるが、そもそもB鑑定書の作成に当たっては、A車及び被告Y1車の車両見分報告書(丙一の五及び六)が資料とされていない上、フロントフェンダー(泥除け)が右ずれしているのに対し、前輪が左ずれしていること、A車のフロントフォークに損傷が生じていることなど、A車及び被告Y1車の損傷状況の重要な部分を看過している。そして、被告Y1車のリアバンパーの損傷は、Aの左足の衝突した衝突痕であるとするが、死亡診断書(甲二)及び医療照会書兼回答書(甲一〇)によっても、Aの左足に何らかの受傷があったとは認められないこと、Aの頭部の損傷については、B鑑定書記載の事故状況であっても、右側頭部から後頭部にかけての部位が被告Y1車のバックパネルに衝突したとの現象が当然であるとはいえず、それのみでは、A車の被告Y1車に対する衝突状況を明瞭に説明するものではない。また、B鑑定書においては、被告Y1車に対するA車の衝突速度について、要旨、A車及び被告Y1車に計測に値するほどの変形は生じていないこと、A車の衝突により、被告Y1車が前方へ移動したとの形跡はないこと、衝突後のAの飛翔距離が三・五メートル程度であることから、時速三〇キロメートルと推定されているが、本件事故の態様は「すり抜け衝突」であるから、衝突によって生じる変形も当然に衝突により運動エネルギーがすべて消費された場合よりも少なくなることが容易に推測でき、また、被告Y1車の移動距離により衝突速度を推定するのは困難である(C鑑定書においては、衝突時のA車の速度を算定することは困難であるとされている。)ほか、Aは頭部を被告Y1車に衝突させているのであり、当然に飛翔距離が減じることがあるのは容易に推測できる。さらに、B鑑定書においては、A車の尾灯及びナンバープレートを破損させた衝突力は、被告Y2車の進行方向の速度ベクトルを持ち、また、A車の車体重心を後方に外れて作用するため、半時計回りの方向の回転モーメントを併せ持つことから、被告Y2車との接触時のA車の車体後部の位置は、最終停止位置よりも第一車線寄りであり、被告Y2車の左側面の通過位置は、第一車線と第二車線の区分線付近と認められるとされているが、そもそも、A車は転倒中に被告Y2車と接触したのであるから、A車の停止状況から衝突地点を推定するのは困難である上、バイクの重量が軽微であること、バイクの車体が路面と面として接触していないことからすれば、バイクの重心が移動することがむしろ通常であり、その結果、バイクの向きが最終停止地点より道路に平行であったとするのは困難である。このように、B鑑定書の想定する事故状況の根拠とするものは、いずれも信用性が低く、それを根拠とするB鑑定書及び証人Bの証言は、信用性が低いものと考えざるを得ない。これに対し、C鑑定書及び証人Cの証言は、何らの矛盾がなく、合理的なものであり、鑑定が不能であるものについては、不明もしくは鑑定できないとしており、極めて信用性が高い。
なお、原告らは被告Y2の本人尋問等における供述の矛盾点を指摘するが、被告Y2は、A車が被告Y1車と衝突する直前にはA車の動向を現認していないものの、そのことが被告Y2車の左前角部とA車のハンドル右端部が接触したことに直結するものではなく、A車が本件事故発生直前に時速三〇キロメートルで走行していたことになるわけではない。被告Y2の供述は、少なくとも、被告Y2車が時速約六〇キロメートルで走行していたこと、A車が被告Y2車を追い越していったこと、その時点では、A車の速度が被告Y2車の速度を上回っていたことといった主要部分においては、矛盾がなく、これらを前提にすれば、A車が時速六〇キロメートル以上の速度で走行していたことは疑いがなく、そのことを前提とする事故状況がC鑑定書及び証人Cの証言により裏付けられている。
また、仮に、被告Y2車が直接A車に接触していなかったとしても、第一車線上に、被告Y1車が駐車しており、第一車線の通行を不可能又は事実上困難ならしめているのを知り、また、自らが第二車線を走行している際、五、六メートル先に第一車線を走行しているA車を現認しながら、A車が事故防止のために第二車線に回避してくることが予想できたのに、あえて事故回避のための措置をとらず、本件事故を生起せしめた責任がある旨主張する。しかし、被告Y1車の車幅は一・六九メートルであり、第一車線の幅員は三・三メートルであるから、被告Y1車の右端から第一車線と第二車線の区分線までの距離は一・六メートルであるところ、A車の車幅が〇・八メートルであるから、A車は被告Y1車の右横を第二車線にまたがることなく、十分に走行できた。したがって、第一車線を走行しているA車が第二車線に回避してくることが当然に予想できたということはない。
以上によれば、本件事故は、被告Y2が被告Y2車を運転中に、被告Y1車の右脇を通過しようとしたA車の右ハンドル付近に前部を接触させ、もしくは、A車をして進路を左方に追い込み、被告Y1車に衝突させたというものではない。したがって、被告Y2には過失がなく、仮に被告Y2に何らかの過失があったとしても、当該過失と損害との間には相当因果関係はなく、原告らに生じた損害は被告Y2車の運行によって発生したものとはいえないから、被告Y2及び被告会社は損害賠償義務を負わない。
(被告学園の主張)
A車は、本件道路の第一車線を走行していたところ、第一車線に駐車中の被告Y1車の後部右端部に自ら衝突した後、その後部が右側に振られ、第二車線方向へ倒れかかったため、その後部が第二車線の後方を走行していた被告Y2車の左前輪後方のボディー(サイドリット)と接触したものである。
B鑑定書及び証人Bの証言においては、被告Y2車がA車を追い抜く際、被告Y2車の左前角部がA車のハンドル右端部に接触し、A車のハンドル右端部が前方に押されてハンドルを左に切った状態が発生し、A車が進路角左一〇度の進路をとり、その際、A車の右側マフラーが被告Y2車の前輪のホイールに接触したとされている。しかし、証人Bの証言において、何ら合理的な理由を示さず、唐突に、接触部位が追加されたところ、原告らの主張と矛盾する上、A車が進路角左一〇度より以上ハンドルを左に切った状態になるか、横転するはずである。また、A車の右側マフラーの後端部には何ら損傷がない。そして、被告Y2車の左前角部から左前輪ホイールまでは約一・四メートル、また、左前輪後方のサイドリットまでは約二・三メートルであり、左前輪ホイールと左前輪後方のサイドリットの二つの部位に全長一・九メートルのA車の尾灯及びナンバープレートが接触したところ、被告Y2車がA車(B鑑定書によれば、衝突速度は時速三〇キロメートル前後であり、秒速八・三三三メートルとされている。)を追い抜く速度で走行している中、被告Y2車の上記二つの部位にA車の尾灯及びナンバープレートが接触した時間差は、上記二つの部位の距離が〇・九メートルであることから、被告Y2車の速度を秒速八・三三三メートル(時速約三〇キロメートル)としても、約〇・一秒程度となる。上記時間差(約〇・一秒)の中で、A車が被告Y1車に衝突し、その反動でA車を追い抜く速度で走行している被告Y2車の左前輸後方のサイドリットにA車の尾灯及びナンバープレートが再度接触することは不可能である。
以上によれば、被告Y2車は、原告らに生じた損害には何ら関与しておらず、原告らに生じた損害は、被告Y2車の運行によって生じたものではなく、被告Y2車の運行とAの死亡との間には因果関係はない。したがって、被告学園には、自賠法三条による損害賠償責任はない。
(2) A及び原告らの損害の発生及び額
(原告らの主張)
A及び原告らは本件事故により次のとおりの損害を被ったところ、原告らは被告らに対するAの損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続した。また、原告らの損害については、原告らは、被告らに対し、各二分の一の割合で損害賠償を求める。
ア 葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円
イ 墓碑建立費 一〇〇万八〇〇〇円
ウ 鑑定費用 五二万五〇〇〇円
原告らは、被告ら及び自賠責保険会社に対し、本件事故に関する損害賠償請求を行ったが、いずれも請求を拒絶されたため、本件事故の発生原因についての工学鑑定を依頼した結果、本件事故の真相が明らかとなった。そして、一切過失を認めなかった被告らの対応に鑑みれば、上記工学鑑定費用は本件事故と相当因果関係のある損害である。
エ 死亡逸失利益 五九五六万四八〇六円
Aは、死亡当時、二二歳で大学四年生であり、六か月後の二三歳から大学を卒業して稼働可能であった。そこで、基礎年間収入を平成一四年賃金センサスの男子大卒計の六七四万四七〇〇円とし、生活費控除率を五割とし、就労可能期間である六七歳までの四四年間のライプニッツ係数一七・六六二七を用いて逸失利益を計算すると、次の計算式のとおり、上記金額となる。
674万4700円×(1-0.5)×17.6627=5956万4806円
オ 死亡慰謝料 二五〇〇万〇〇〇〇円
被告Y1は、その違法駐車行為により、Aが死亡し、自賠法三条の責任が認められ、自賠責保険金が減額されずに支払われたことを知っていたにもかかわらず、原告らに対し、謝罪はおろか、香典も出さず、謝罪を求める行為まで行った。また、被告Y2は、自らの運転行為により、Aが死亡したことを知りながら、供述を左右させ、本件事故の責任を回避してきた。これらの事情は慰謝料の増額事由として斟酌されるべきである。
カ 物損 五〇万四〇〇〇円
本件事故によりA車は全損したことから、購入費用である上記金額の損害を被った。
キ 弁護士費用 八八〇万〇〇〇〇円
ク 損害の填補
原告らは、被告Y1車の自賠責保険会社から合計二九六〇万六〇六四円の支払を受けたところ、本件事故発生日である平成一三年一〇月一日から上記保険金の支払われた平成一四年七月一九日までの確定遅延損害金(二九二日分)は四パーセント(〇・〇三九九九)であるから、これを損害総元本に上乗せし、まず既払金を上記確定遅延損害金に充当し、次いで損害総元本に充当すべきである。
(被告Y2及び被告会社の主張)
被告Y2及び被告会社がその損害賠償義務を認める趣旨ではないが、念のため、原告らの主張する損害につき、次のとおり主張する。
ア A車の修理費用見積額は四三万九六二〇円であるところ、A車の時価額は、新車であったとしても三二万九〇〇〇円であり、この金額を超える損害は、本件事故と相当因果関係がない。
イ 墓碑建立費は葬儀関係費用の一部であり、葬儀関係費用として総額一五〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と見るのが相当である。
ウ 既払金について、原告らは自賠責保険から二九六〇万六〇六四円の支払を受けたと主張するが、労災保険から葬祭給付として支給された三九万七四三六円も損害の填補として控除されるべきである。
(被告Y1及び被告学園の主張)
個別の損害の発生及び額については争う。
第三当裁判所の判断
一 事故態様
(1) 証拠(各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
ア 本件道路は、南北に走る、上下線が幅員約三・五メートルの中央分離帯で区分された片側三車線の道路である。本件事故現場は、宮城学院大学から北方約三〇〇メートル地点の本件道路の加茂方面から水の森方面に向かう車線上である。
本件道路はアスファルト舗装された平坦な直線道路であり、加茂方面から水の森方面に向かう車線は、車道の幅員が一〇・五メートルであり、各車線が白色破線で分離されている。そして、道路左側の歩道(以下「本件歩道」という。)寄りの第一車線の幅員が三・三メートル、中央の第二車線及び道路中央寄りの第三車線の幅員が各三・二メートルであり、歩道側の第一車線外側には幅員〇・五メートルのコンクリート側溝があり、道路中央寄りの第三車線と中央分離帯の間には白色実線で区分された幅員〇・三メートルの路側帯がある。本件歩道は、幅員約六メートルであり、車道と歩道との間には高さ約一・七メートルの植栽が設置されている。(甲七ないし九、丙一の二及び三)
イ 本件事故現場付近の本件道路は、最高速度が時速五〇キロメートルと指定され、駐車禁止の規制がなされている。本件事故現場付近の本件道路は、直線で視界を妨げるものはなく、また、障害物もなく、前方の見通しは良好である。本件事故当時の天候は雨であり、路面は湿潤であった。本件事故当時、かなり雨は降っていたが、雨であることを除けば、視界が悪化している状態ではなかった。(甲七ないし九、乙一、丙一の二及び三、被告Y2)
ウ 被告Y1は、本件事故発生日の前日である平成一三年九月三〇日の夜、飲酒した後、友人宅で仮眠してから友人宅を出て、本件事故現場付近の桜ケ丘公園野球場の駐車場で仮眠しようと被告Y1車を運転していたところ、その入口を通り過ぎてしまったため、中央分離帯の切れ目を利用してUターンしようとしたが、中央分離帯の切れ目付近でエンジンが停止し、バッテリーが少なくなってスターターを回すことができなくなった。そこで、被告Y1は、車両で通りかかった男性二名の援助を受けて被告Y1車を押して移動し、同年一〇月一日午前零時ころ、被告Y1車を本件事故現場である本件道路の第一車線に車道の左側端から〇・三メートルの間隔を置いた別紙交通事故現場見取図(以下「現場見取図」という。)記載<ア>の地点に運転席のある位置で駐車した。そして、同日午前六時二〇分ころ、携帯電話でJAFに連絡を入れ、牽引を依頼し、JAFの指示に従ってハザードランプを点滅させた上、運転席に座ってJAFの到着を待っていたが、三角表示板を設置していなかった。その後、同日午前六時四〇分ころ、被告Y1は、急に車両後部に衝撃を受けるとともに、後方で衝撃音があったため、すぐに被告Y1車から降車すると、Aが被告Y1車の右脇に転倒しているのを発見し、本件事故の発生を知った。(甲七ないし九、乙一、丙一の二及び三、被告Y1)
エ 被告Y2は、本件事故現場の手前の交差点で信号待ちのため停止し、その後、対面信号機が青色となって発進して間もなく、被告Y1車が本件道路の左前方に駐車しているのを発見し、本件道路を加茂方面から水の森方面に向かい第二車線を時速約六〇キロメートルで直進していたところ、上記交差点から約一〇〇メートル進行した現場見取図記載の地点で左前方の現場見取図記載<1>の地点(以下「<1>地点」という。)を同一方向に向かい走行していたA車(Aは頭を下げた前傾姿勢であった。)に追い抜かれ、<1>地点から約六四・七メートル走行した地点においても、A車が被告Y2車の左前方を走行していたのを見た。その後、被告Y2は、ほぼ同じ速度で第二車線を直進したが、A車が被告Y1車の右横を通過していくことができると考え、A車から目を離し、その位置を把握していなかったところ、現場見取図記載の地点で左方に衝突音を聞いたため、左バックミラーで左後方を確認したところ、A車の荷台が被告Y2車の左側面に接触しているのが見えたことから、急ブレーキを踏み、少しハンドルを右に切り、その後、第一車線に入って現場見取図記載
オ 本件事故後、Aは、被告Y1車の右側の、A車から南方に約二・一メートル離れた現場見取図<4>の地点(以下「<4>地点」という。)に頭部を北方に向けて仰向けに転倒していた。Aには、右側頭部から後頭部にかけての頭蓋骨骨折のほか、右急性硬膜下血腫及び右耳出血が認められた。Aは、いわゆるフルフェイスのヘルメットではない、つばの付いていないヘルメットをかぶっており、ゴーグルはしていなかった。(甲七、八、一〇、丙一の二及び三、二、被告Y2)
カ 本件事故後、A車は、被告Y1車の右側の現場見取図<3>の地点(以下「<3>地点」という。)に車両前部を南方に、車両後部を北方にそれぞれ向け、第一車線と第二車線に跨る形で、右側面を下にして転倒していた。A車は、車高一・三メートル、車幅〇・八メートル、車長一・九メートルであった。本件事故後のA車の破損状況は、<1>前輪付近の破損として、前輪タイヤ(地上高六五センチメートルである。)の中心より左方向の八センチメートルの横ずれ、フロントフェンダーの中心より右方向の五センチメートルの横ずれ及び擦過痕、ヘッドランプ破損、<2>ハンドル付近の破損として、ハンドル部曲損、右ハンドルグリップ擦過痕、<3>左右側面の破損状況として、右マフラー部擦過痕、<4>後輪付近の破損状況として、ナンバープレート破損(欠損)、テールランプ及びブレーキランプの破損がそれぞれ認められる。そして、A車の修理見積書(甲一一)上、左右フロントフォーク及び前輪(フロントホイールリム)の交換が記載されている。(甲七、八、一一、丙一の二、三及び六、二、八、証人C)
キ 被告Y1車は、車高一・八六メートル、車幅一・六九メートル、車長三・九七メートルであった。被告Y1車の右端から第一車線と第二車線の区分線までの距離は約一・六メートルであった。本件事故後の被告Y1車の破損状況は、<1>リアバンパー右端部から約一〇センチメートルの位置には、幅一〇センチメートルで深さ一・四センチメートルの凹損が、<2>リアバンパー中央接合部のステップの部位には、バンパーが車両後方に向かって約一〇センチメートル車体から離れる形の誘発損傷(リアバンパー右端部は、下部の方が上部よりも被告Y1車の前方方向に押し込まれている。)が、<3>右リアクォーターパネルの上部には、地上高一・二メートルから同一・五メートルにかけて、幅一五センチメートルで、深さ五・二センチメートルの凹損が、<4>右リアクォーターパネルの下部に装着された右リアコンビネーションランプ部分には、地上高〇・六メートルから同〇・九九メートルにかけて、テールカバー及びウィンカーカバーの破損がそれぞれ認められる。そして、上記<4>の損傷は、A車のヘッドランプが衝突したために生成したものである。なお、被告Y1車の手前等にはスリップ痕跡は全く見受けられなかった。被告Y1車の車両損害調査に当たった損害調査会社の担当者は、三井住友海上火災保険株式会社の担当者宛ての車両損害調査報告書(対物)確報(甲一二)のその他確認事項欄の損害認定補足・折衝記録等の欄に「六時からの入力により右バックドア及びクオータ交換を認む。」と記載した。(甲七ないし九、一二、丙一の二、三及び五、二、五ないし七、証人C、被告Y1)
ク 被告Y2車は、車高が二・九九メートル、車長が八・九九メートル、車幅が二・三メートルであった。本件事故後の被告Y2車の破損状況は、<1>左前輪ホイールキャップ部分に接触痕が、<2>左側面のサイドリット部分に長さ約一・七四メートルで前方先端部の地上高約〇・三八メートル、後方終端部の地上高約〇・三九メートルの断続的な接触痕が、<3>左後部側面に左後輪タイヤハウス部を跨ぐ長さ約二・二メートル(タイヤハウス部の幅を含む。)で前方先端部の地上高約〇・四五メートル、後方終端部の地上高約〇・五メートルの接触痕が、<4>左後輪タイヤハウス縁部のゴムのプロテクターの一部の剥離がそれぞれ認められるが、そのほかには、修理見積書(甲一三)に前面部の修理については記載されていないなど、損傷は認められなかった。(甲七、九、一三、丙一の二及び四、二、証人C)
(2) そこで、上記認定の事実に基づき検討すると、次のとおり考えることができる。
ア 本件事故の態様
まず、被告Y1車の右リアコンビネーションランプ部分の損傷は、A車のヘッドランプが衝突したことによって生じたものであると認められる。また、被告Y1車のリアバンパー右端部の凹損及び変形は、<1>A車のフロントフォークが曲損していること、<2>被告Y1車のリアバンパーの右端上部に凹損が生じているところ、被告Y1車のリアバンパーの右端下部が上部よりも被告Y1車の前方方向に押し込まれ、かつ、下方に押し下げられており、被告Y1車のリアバンパー右端部の損傷がA車の前輪との衝突によって生じたものとして矛盾はないと考えられることのほか、<3>Aの左足が被告Y1車のリアバンパーの凹損部分に衝突したとすると、A車のヘッドランプ等は被告Y1車の右リアコンビネーションランプ部分よりも被告Y1車の右側面の前方に衝突すると考えられる上、被告Y1車のリアバンパーの破損状況から見て、Aの下肢に重大な損傷が生じると考えられるところ、Aの下肢の受傷を窺わせる事実は認められないことからすれば、A車が被告Y1車の後方からほぼ直進した状態で、A車の前輪が被告Y1車のリアバンパー右端部の凹損部分付近に衝突したものと考えられる。このことは、A車が被告Y1車の右側の<3>地点に右側面を下にして転倒しており、Aが被告Y1車の右側の<4>地点に仰向けに倒れていたほか、Aの身体が被告Y2車と接触したことを窺わせる事実が認められないことにも合致する。すなわち、被告Y1車の右後部に衝突したA車の左ハンドルレバーが被告Y1車の車体後部に衝突して拘束される形となり、A車のハンドルが急に左方に切られた状態となったため、A車の後部が右側に振られる状態で、A車が被告Y1車の右側の<3>地点に右側面を下にして転倒するとともに、Aが被告Y1車の右側の<4>地点に向かって身体を右側にひねる状態で飛ばされ、その結果、Aの右側頭部ないし後頭部が被告Y1車の右リアクォーターパネルの上部に衝突した上、Aが被告Y1車の右側の<4>地点に仰向けの状態で転倒したものと考えられる。そして、転倒したA車の後部のナンバープレート、テールランプ及びブレーキランプが、後方から時速約六〇キロメートルで走行してきた被告Y2車の左前輪ホイールキャップ、左側面のサイドリット、左後部側面等に順次衝突ないし接触したものと認められる。
上記認定の本件事故の態様は、概ねC鑑定書及び証人Cの証言の内容に沿うものであるところ、関係車両の損傷状況、本件事故後の本件事故現場の状況等の客観的事実と合致するものであり、C鑑定書及び証人Cの証言は、信用性があると認められる。
イ これに対し、原告らは、B鑑定書及び証人Bの証言によれば、A車の右ハンドルグリップの右端が被告Y2車の左前角部と接触したため、A車のハンドルが急に左に切られた状態となり、A車が左方向に進行し、そのヘッドランプが被告Y1車の右リアコンビネーションランプに衝突するとともに、その後部ナンバープレート等が被告Y2車の左側面等に接触した旨主張する。しかし、被告Y2車の左前角部には凹損等の損傷は認められず、A車の右ハンドルグリップの右端等が被告Y2車の左前角部と衝突ないし接触したとは認め難い。また、被告Y2車の左前輪ホイールキャップがA車の右マフラーと接触した可能性については、A車の右マフラーの後端部には、損傷が認められず、擦過痕が存在するものの、擦過痕がA車の転倒後に路面との擦過により生じた可能性も否定できない上、仮に被告Y2車の左前輪ホイールキャップがA車の右マフラーと接触したとしても、被告Y2車の速度が時速約六〇キロメートルであったことを考えると、被告Y2車の左前輪ホイールキャップとの接触によって進行方向を左に変えて被告Y1車に衝突したA車が、転倒した後にA車の後部と被告Y2車の左側面のサイドリットが接触して前記認定の接触痕を残したと考えることも困難である。そして、B鑑定書においては、被告Y1車に対する衝突速度について、A車及び被告Y1車に計測に値するほどの変形が生じておらず、A車の衝突によって、被告Y1車が前方に移動した形跡がないことなどから、時速三〇キロメートルであると推定しているが、本件事故の状況が前記認定のとおりであれば、A車が、被告Y1車との衝突後、被告Y1車の右側に後部を振りながら進行したのであるから、運動エネルギーがすべて衝突によって消費された場合よりも、衝突によって車両に生じる変形が小さなものとなり、上記速度であると認定することも困難であるといわざるを得ない。さらに、転倒後のA車の移動についても、被告Y2車に衝突ないし接触されたA車が、反時計回りに回転することなく、向きを変えずに重心を移動させた可能性も十分あるから、転倒直後のA車の向きが最終停止地点における向きよりも道路と平行であったと認めることも困難である。そうすると、B鑑定書及び証人Bの証言は、客観的事実と整合するとは認め難い面があり、B鑑定書及び証人Bの証言に基づく原告らの主張を採用することはできない。
なお、原告らは、被告Y2の陳述書(丙四号証)及び本人尋問における供述(以下「被告Y2の供述」という。)は、信用性が認められない旨主張する。しかし、被告Y2の供述は、具体的かつ詳細で、迫真性があると認められる上、調査報告書(甲九)における供述には、A車との衝突前に右の第三車線寄りにハンドルを切ったとする部分があるものの、A車との衝突前にハンドルを切った事実はないと供述を訂正しているなど、本件事故直後から概ね一貫しているものであり、記憶にない事実については記憶にない旨を、認識していない事実については認識していない旨をそれぞれ供述しているものである。また、被告Y2は、被告Y2車の左方で衝突音を聞いた後、左バックミラーで左後方を確認したところ、A車の荷台が被告Y2車の左側面と接触しているのが見えたと供述するなど、被告Y2の供述は、前記認定の本件事故の態様とも合致するものである。そうすると、被告Y2の供述は、信用性が認められるというべきであるから、原告らの上記主張は採用できない。
(3) 被告Y1の責任の有無
前記第二の一の(1)及び(5)の事実並びに第三の一の(1)の認定事実によれば、被告Y1は、駐車禁止場所である本件道路の第一車線上に被告Y1車を違法駐車していたものであり、被告Y1の自賠責保険金は、減額されることなく(労災保険の葬祭給付分については控除された。)、支払われたものであるが、他方、<1>本件事故発生時は、午前六時四〇分ころで明るくなっており、天候は雨であったものの、前方の視認が不良であったとはいえないこと、<2>本件道路が直線道路であり、前方の見通しはよかったこと、<3>被告Y1は、被告Y1車のハザードランプを点滅させていたこと(夜間等、視認不良の状況ではない以上、三角表示板の設置がなくとも、駐車車両の発見は容易である。)、<4>被告Y1車の右側には第二車線の区分線との間に約一・六メートルの間隔があり、A車の車幅が〇・八メートルであるから、Aが前方を注視し、減速等の適切な措置を講じていれば、A車が第二車線にまたがることなく被告Y1車の右横を通過することは十分に可能であったと認められる上、実際にも、本件事故発生までの間、後続車両が被告Y1車に追突しなかったことからすれば、被告Y1が、被告Y1車を道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならない態様で駐車していたと認められること、<5>被告Y1が、前夜に飲酒したのは事実であるが、深夜、バッテリーが少なくなってエンジンを始動することができなくなったため、本件事故現場に被告Y1車を駐車したものであるところ、午前六時二〇分ころにはJAFに電話をして牽引を依頼したのであるから、被告Y1車を駐車していたのは、やむを得ない面があること、<6>前記認定の本件事故の態様からすれば、Aには著しい前方注視義務があったといわざるを得ないことを総合考慮すれば、A車が被告Y1車に追突した事故は、専ら、Aが前方注視義務を怠った過失によって発生したものであり、被告Y1には事故発生の原因となった過失がなく(事故発生に関する被告Y1車の構造上の欠陥又は機能の障害もなかったと認められる。)、仮に被告Y1に過失があるとしても、上記事故と被告Y1の駐車行為との間に相当因果関係がなく、上記事故が被告Y1車の「運行によって」生じたものとはいえない。したがって、被告Y1は、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負わないといわざるを得ない。
なお、仮に、被告Y1の損害賠償責任が認められ、原告らの請求どおりの損害が認められるとしても、Aの過失は小さいとはいえないので、原告らが自賠責保険金の支払及び労災保険の葬祭給付の支給を受けたことにより、原告らの損害が填補済みである可能性が高い。
(4) 被告Y2、被告会社及び被告学園の責任の有無
前記認定の本件事故の態様によれば、被告Y2は、被告Y2車をA車に衝突又は接触させてA車を転倒させたものではなく、また、被告Y2車が第一車線と第二車線の区分線をまたいで走行していたことを認めるに足りる証拠はなく、Aが前方を注視して減速等の適切な措置を講じていれば、A車が、被告Y2車の進行する第二車線に進出することなく被告Y1車の右横を通過することは十分に可能な状態であったと認められる。そうすると、被告Y2が、A車が、第二車線に進出することなく被告Y1車の右横を通過していくものと考えたことはやむを得ず、A車が第二車線に進行してくることを予見し、A車の進行を妨害しないように、被告Y1車と被告Y2車の間隔をとり、A車が安全に走行できるようにすべき注意義務に違反した過失があるとはいえないといわざるを得ない。さらに、本件においては、他に被告Y2の本件事故の原因となった過失を窺わせる事実が認められないことからすれば、A車が被告Y1車に追突した事故は、専ら、Aが前方注視義務を怠った過失によって発生したものであり、仮に被告Y2に過失があるとしても、本件事故と被告Y2の運転行為との間には相当因果関係がない。したがって、被告Y2は、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負わないといわざるを得ない。
以上によれば、被告会社及び被告学園にも過失がなく(事故発生に関する被告Y2車の構造上の欠陥又は機能の障害もなかったと認められる。)、仮に被告会社及び被告学園に過失があるとしても、本件事故と被告Y2の運転行為との間には相当因果関係がないから、本件事故が被告Y2車の「運行によって」生じたとはいえない。したがって、被告会社及び被告学園は、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負わないといわざるを得ない。
三 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 湯川浩昭)
別紙 <省略>