東京地方裁判所 平成16年(ワ)20607号 判決 2008年5月12日
原告
X
被告
Y1他1名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して一二七七万六四七四円及び内金一一五七万六四七四円に対する平成一五年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員、内金一二〇万円に対する平成一三年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを九分し、その八を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して一億〇五三九万二五八七円及びこれに対する平成一三年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、幹線道路の横断歩道を横断中の原告と、直進してきた被告Y1(以下「被告Y1」という。)運転のタクシーが衝突した交通事故について、原告が、被告Y1に対して民法七〇九条に基づき、同タクシーの保有者であり、被告Y1の使用者である被告日本交通株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七一五条に基づき、損害賠償及び事故日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の一部について、支払を求めた事案である。
一 前提となる事実(当事者間に争いのない事実又は文章末尾に記載の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる事実)
(1) (本件事故)
日時:平成一三年三月三〇日午前〇時五〇分ころ
場所:東京都品川区東中延二丁目九番一二号
態様:原告は、信号機により交通整理のされている横断歩道を徒歩で横断中、原告の左側から交差点に進入してきた被告Y1運転の普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕。以下「被告車両」という。)と衝突した。
(2) (被告会社)
被告会社は被告車両の保有者である。また、被告Y1は被告会社の従業員であり、本件事故は、被告Y1が被告会社の業務を遂行していた際に、生じた。
(3) (傷害、入通院の状況等)
原告は、本件事故により、広汎性軸策損傷、両膝関節靭帯損傷、上下顎骨折等の傷害を負い、独立行政法人国立病院機構東京医療センター(以下「東京医療センター」という。)に搬送された。その後の入通院の状況は次のとおりである。
ア 東京医療センター【甲二四、四三、五二、六七、乙四】
(ア) 入院
① 平成一三年三月三〇日~同年七月二六日(一一八日間)
脳神経外科
② 平成一四年四月二二日~同年五月三日(一二日間)
口腔外科
(イ) 通院
① 平成一三年一一月~平成一四年一一月 脳神経外科
② 平成一三年一一月~平成一七年一月 口腔外科
イ 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院(以下「藤が丘リハビリテーション病院」という。)【甲二五、四〇、五三、五九、六九、乙五】
(ア) 入院
平成一三年七月二六日~同年一〇月三日(七〇日間)
(イ) 通院
平成一四年二月~平成一七年一一月
ウ 順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院(以下「順天堂浦安病院」という。)【甲二六、三六、四六、五五、六五、乙六】
(ア) 入院
平成一五年一二月三日~同月九日(七日間)
整形外科
(イ) 通院
平成一三年一〇月~平成一七年一一月
脳神経外科、麻酔科、整形外科、眼科、耳鼻咽喉科
エ 東京歯科大学市川総合病院(以下「市川総合病院」という。)【甲二七、四二、四八、五八、七〇、乙七】
(ア) 入院
① 平成一五年一月一五日~同月二三日(八日間)
耳鼻咽喉科
② 平成一五年二月二六日~同年三月一八日(二一日間)
歯科口腔外科
③ 平成一六年九月一五日~同月二一日(七日間)
歯科口腔外科
(イ) 通院
平成一三年一〇月~平成一七年一〇月 歯科口腔外科、耳鼻咽喉科
オ 帝京大学医学部附属病院【甲二八、乙八】
平成一三年一一月~ 通院(眼科)
カ 医療法人社団愛悠会もぎ矯正歯科病院(以下「もぎ矯正歯科医院」という。)【甲二九、四一、六〇、七七、八三、乙九】
平成一三年一一月~平成一七年一〇月 通院
キ 藤原歯科クリニック【甲四四、四七、乙一〇】
平成一四年一月~ 通院
ク 順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下「順天堂医院」という。)【甲五四、五七、六六、乙一一】
(ア) 入院(形成外科)
① 平成一五年八月一九日~同年九月三日
② 平成一六年二月一〇日~同月二〇日
③ 同年一一月二九日~同年一二月八日
④ 平成一七年五月二日~同月一二日
(イ) 通院
平成一五年四月~平成一七年一二月 形成外科
平成一七年六月~同年一二月 脳神経内科
ケ 杏林大学医学部付属病院【甲六一、六八、乙一二】
平成一六年一二月~ 通院(形成外科)
コ 赤坂山王クリニック【甲七一、乙一三】
平成一七年九月 通院
サ 財団法人東京都保健医療公社荏原病院(以下「荏原病院」という。)【甲七二、乙一四】
平成一七年九月 通院(脳神経外科)
シ 国家公務員共済組合連合会三宿病院(以下「三宿病院」という。)【甲七三、乙一五】
平成一七年九月 通院(脳神経外科)
(4) (後遺障害の等級認定)
原告は、平成一五年六月二三日、本件事故による後遺障害について、次の内容により、自賠等級併合第六級に該当するとの通知を受けた。【甲二三】
ア 脳外傷等頭部外傷に伴う神経系統の機能・精神の障害については、軽易な労務以外の労務に服することができないものとして、第七級四号に該当する。
イ 右膝関節靭帯損傷に伴う右膝関節の可動域制限については、健側の四分の三以下に制限されていることから、第一二級七号に該当する。
ウ 上下顎骨骨折に伴う咬合・そしゃく障害については、そしゃくに相当時間を要するものとして、第一二級に該当する。
エ 顔面骨(下顎骨・頬骨)骨折後の顔面部の醜状障害については、「女子の外貌に醜状を残すもの」として、第一二級一四号に該当する。
オ 眼球運動障害については、事故と障害との因果関係が不明確であり、また障害の程度も判然としないことから、後遺障害としての評価は困難である。認定できたとしても最終等級には影響しない。
カ 視力障害については、矯正視力が右左ともに一・二であるから、非該当である。
二 争点
(一) 被告らの責任の有無、過失割合
(二) 損害の算定
三 争点(一)(被告らの責任の有無、過失割合)についての当事者の主張
(一) 原告の主張
被告Y1は、被告車両を運転し、本件事故現場の交差点の対面信号が赤色になっていたにもかかわらず、それを見落としてそのまま交差点に進入し、被告車両を原告に衝突させた過失があるので、民法七〇九条に基づく責任がある。また、被告会社は、被告車両の保有者で、本件事故当時、被告車両を自己のため運行の用に供していた者であり、被告Y1は、被告会社の従業員で、業務として被告車両を運転中に本件事故を惹起したのであるから、被告会社には自賠法三条、民法七一五条に基づく責任がある。
なお、原告の過失については否認する。
(二) 被告らの主張
本件事故時、被告Y1の対面信号は青色を表示しており、原告は、歩行者専用信号が赤色を表示していたにもかかわらず、横断して、本件事故に遭遇した。したがって、相当の割合による過失相殺がされるべきである。
四 争点(二)(損害の算定)についての当事者の主張
(一) 原告の主張
ア 症状固定日について
原告は、平成一五年六月に後遺障害についての等級認定を受けているが、これは特に重大な後遺障害が残る可能性の高い脳機能等について経過観察中心の治療となった段階で、被害者請求を行ったものであり、最終的な症状固定の段階のものではない。
原告に対する治療は、受傷後、特に生命への危険の大きい症状、緊急を要する症状から優先して順次行われ、最終的には平成一七年一二月一日、一応の治療を終了した。したがって、平成一七年一二月一日を症状固定日とすべきである。
イ 治療関係費
(ア) 医療費 四五四万六三三四円
詳細は、別紙一(原告準備書面二に添付の表に、原告準備書面三において訂正があった部分を差し替えたもの)の「医療費」欄記載のとおりである。
なお、仮に症状固定日が平成一七年一二月一日以前であったとしても、それ以降に行われた治療には必要性、相当性が認められるから、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。
また、被告らは、左肘部管症候群の入院治療について、本件事故と無関係であると主張するが、本件事故以前には左肘部管症候群の症状はなく、その原因となるような要素もなかったのであるから、少なくとも本件事故を間接的な原因として生じた症状と考えるのが自然である。
さらに、藤原歯科クリニックについては、もぎ矯正歯科では、東京医療センターや市川総合病院の医師らと協議し、将来の外科手術を前提に歯列矯正を進める方針を決定し、その治療の一環として藤原歯科クリニックを紹介され、治療を受けたのであるから、その治療費は本件事故と相当因果関係がある。
(イ) 薬剤費 一四万二五九一円
詳細は別紙一「薬剤費」欄記載のとおりである。
ウ 付添費
(ア) 付添看護費 一三七万七一〇〇円
① 入院付添費
原告の母A(以下「A」という。)は、原告が平成一三年三月三〇日から同年七月二六日まで東京医療センターに入院中(一一八日)及び同年一〇月三日まで藤が丘リハビリテーション病院に入院していた際(七〇日)、付き添った。また、退院後は、車椅子の利用が必要であったため、通院に際しては、原告の夫であるB(以下「B」という。)らが付き添った。
したがって、一二二万二〇〇〇円(=6500円×(118日+70日))が損害となる。
② 通院付添費
原告が、平成一三年一〇月四日から平成一四年一月末までの間、通院する際に(計四七日)、A若しくはBが付き添った。したがって、一五万五一〇〇円(=3300円×47日)が損害となる。
(イ) 付添人交通費 一三万四一二〇円
Aの(ア)①に伴う交通費である。
①東京医療センター分 九万六三二〇円
片道430円×2(往復)×112日=9万6320円
②藤が丘リハビリテーション病院分 三万七八〇〇円
片道270円×2(往復)×70日=3万7800円
(ウ) 見舞交通費 八万九五四〇円
原告が入院中、Bは原告の見舞に行った。
エ 通院交通費 四一万五一二五円
詳細は、別紙一「交通費一」欄(高速代、駐車代、タクシー代等)、「交通費二」欄(バス、電車、ガソリン代等)記載のとおりである。なお、上記金額は、原告が平成一三年一〇月四日から平成一四年一月末まで順天堂浦安病院へ通院するに際し付き添ったAの交通費を含むものである。
オ 入院雑費 四一万七〇〇〇円
次の入院日数二七八日について、一日一五〇〇円の入院雑費は本件事故による損害である。
(ア) 東京医療センター
平成一三年三月三〇日~同年七月二六日(一一八日)
平成一四年四月二二日~同年五月三日(一二日)
(イ) 藤が丘リハビリテーション病院
平成一三年七月二六日~同年一〇月三日(七〇日)
(ウ) 順天堂浦安病院
平成一五年一二月三日~同月九日(七日)
(エ) 市川総合病院
平成一五年一月一六日~同月二三日(八日)
平成一五年二月二六日~同年三月一八日(二一日)
平成一六年九月一五日~同月二一日(七日)
(オ) 順天堂医院
平成一五年八月一九日~同年九月三日(一六日)
平成一六年一二月一日~同月八日(八日)
平成一七年五月二日~同月一二日(一一日)
カ 転居家賃 三六〇万円
原告は、本件事故時、東京都品川区にある夫の実家で居住していたが、藤が丘リハビリテーション病院退院後も、しばらくの間、車椅子での生活を余儀なくされた。当時の原告の自宅は、居室が二階にあって、車椅子での生活は困難であった。また、順天堂浦安病院に通院するためには、乗り継ぎが三回必要であり、健常者でも一時間以上の通院時間を要した。そのため、同病院に近い千葉県浦安市内に転居せざるを得なかった。
本件事故時、月二万円を実家に支払っていたが、転居後の家賃は一二万円となったことから、その差額一〇万円については、三年間分につき本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。
なお、原告の転居がBの転勤に伴うものでないことは、Bの転勤が本件事故以前の平成一二年四月一日であることから、明らかである。
キ 器具・装具費、転居費、自宅改修費、医師謝礼等 三六五万六四八一円
詳細は、別紙一「その他」欄記載のとおりである。なお、自動車購入費について説明するに、原告は、退院後も当面の間車椅子での生活となることが見込まれ、当時、自家用車はセダン型の車両であり、車椅子での乗降は困難であったことから、ミニバン型の車両を購入したのである。
ク 休業損害 二三九六万〇八五二円
(ア) 原告は、平成一三年三月三一日で勤務先であるテンプスタッフ株式会社を退職し、同年五月一日から株式会社融合事務所への就職が内定していた。
(イ) 平成一三年三月三〇日~同月三一日
事故前の収入は年三九五万七五八五円であるから、二万一六八五円となる。
(ウ) 平成一三年四月一日~同月三〇日(家事従事期間)
基礎収入は三五一万八二〇〇円(賃金センサス女子労働者の全年齢平均賃金)とすべきであるから、二八万九一六七円となる。
(エ) 平成一三年五月一日から平成一七年一二月一日まで
原告が株式会社融合事務所から支給される予定であった賃金は年五一六万円であるから、二三六五万円となる。
ケ 逸失利益 五三一四万五四六一円
基礎収入:年五一六万円
労働能力喪失率:六七%
労働能力喪失期間:症状固定日である平成一七年一二月一日から原告が六七歳となるまでの三〇年間
コ 慰謝料 一九〇〇万円
(ア) 入通院慰謝料 六〇〇万円
原告は、本件事故があった平成一三年三月三〇日から症状固定の平成一七年一二月一日までの一七〇八日間、計一〇回、二七八日の入院を要する治療をした。
(イ) 後遺障害慰謝料 一三〇〇万円
原告は併合六級の等級認定を受けているが、このほかにも嗅覚が完全に失われたことを考慮すると、上記金額が相当である。
サ 弁護士費用 九五八万一一四四円
シ 原告は、本件事故に関し、別紙二(原告準備書面六添付の表)記載のとおり、自賠責保険、障害基礎年金及び高額療養費の支払ないし支給を受けているが、これら自賠責保険金等は、まず、各支払日までの遅延損害金の支払債務に充当されるべきである(最高裁平成一六年一二月二〇日第二小法廷判決)。この結果、別紙二記載のとおり、弁護士費用を除く残債務は一億三一四三万〇四四〇円となる。
(二) 被告らの主張
ア 症状固定時期について
原告は、症状固定時期を平成一七年一二月一日と主張している。しかし、原告は、平成一五年六月二三日、後遺障害等級認定を受けており、その後、治療を継続するも、同認定結果は維持されたままである。そこで、原告の症状固定時期については、次のように解すべきである。
(ア) 脳外傷等頭部外傷に伴う神経系統の機能・精神障害について
藤が丘リハビリテーション病院作成の後遺障害診断書における症状固定日である平成一四年九月三〇日とすべきである。
(イ) 右膝関節靭帯損傷に伴う右膝関節の可動域制限について
順天堂浦安病院における平成一四年一一月一日の診察時に症状固定の診断がされていることから、同日を症状固定日とすべきである。
(ウ) 上下顎骨骨折に伴う咬合・そしゃく障害、顔面部の醜状障害について
これらの障害については、平成一五年四月三日を症状固定日と解すべきである。この点、原告は、平成一五年四月以降も治療が継続されたことから、症状固定には至っていなかったと主張している。しかし、これらは、傷害の治療ではなく、後遺障害の改善のためのものというべきであり、審美的な意味合いが強いものである。
イ 治療関係費について
症状固定後の医療費、薬剤費については、本件事故との相当因果関係は認められない。
また、原告は、順天堂浦安病院において、平成一五年一二月三日から同月九日まで、左肘部管症候群で入院治療しているが、かかる治療は本件事故と相当因果関係がない。
さらに、藤原歯科クリニックでの治療は、歯周炎と虫歯に対する治療であるから、本件事故と相当因果関係を認めることはできない。原告は、もぎ矯正歯科が藤原歯科クリニックでの治療を指示したと主張するが、実際のところは、原告が歯のかぶせ物の素材をメタルボンドに変えたいと言い出したために、紹介されたにすぎない。
ウ 付添費
付添の必要性は認めるが、日額は争う。入院付添費は五〇〇〇円、通院付添費は三〇〇〇円が相当である。なお、原告の母親による付添は、必要性がないばかりか、むしろ原告の回復を遅らせた原因であったことから、これを損害と認めることはできない。
エ 通院交通費
不知。症状固定日以降の通院交通費については、本件事故と相当因果関係がない。
オ 入院雑費
争う。
カ 転居関係
本件事故と転居との間に相当因果関係はないから、転居家賃、転居費用はいずれも本件事故による損害とは認められない。
キ 器具・装具費、転居費、自宅改修費、医師謝礼費
原告が本件事故後に購入した自動車は、本件事故とは関係なしに、購入した時期が単に本件事故後であったというにすぎず、また、自動車購入の必要性もないから、その購入費用は本件事故と相当因果関係がない。
ク 休業損害
原告が、再就職後に原告主張の収入が得られる蓋然性については否認する。基礎収入については、平成一二年賃金センサス女子労働者全年齢平均賃金三四九万八二〇〇円とすべきである。原告の就労不能期間は、本件事故から平成一四年六月末までの一四か月間である。
ケ 逸失利益
基礎収入は三四九万八二〇〇円とすべきである。
コ 慰謝料
後遺障害慰謝料については一一八〇万円の限度で認める。その余はいずれも争う。増額事由はない。
サ 弁護士費用
争う。
シ 損害のてん補
別紙二の「年月日」欄、「支払額」欄、「備考」欄の各記載内容については争わない。
第三当裁判所の判断
一 争点(1)(被告らの責任の有無、過失割合)について
証拠(甲二、乙一、証人C、同D)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故現場となったのは、第二京浜国道(国道一号線)で、片側三車線の道路であったこと、原告は、職場の同僚と飲食後、帰宅しようとして、本件事故現場の横断歩道を、歩行者用信号が赤であったにもかかわらず、横断を開始したこと、被告Y1は、第二京浜国道を川崎方面から五反田方面に向かって、被告車両を運転して走行し、本件事故現場の対面信号が青であったことから、交差点内に進入しようとしたところ、右方から歩いてきた原告と衝突したことが認められ、これに反する原告の主張は採用することができない。
上記の事実によれば、被告Y1に前方不注視の注意義務違反があり、民法七〇九条に基づく損害賠償責任が認められ、また、被告会社にも民法七一五条に基づく損害賠償責任が認められるが、原告も歩行者用信号が赤であったにもかかわらず、横断しており、幹線道路であったことや本件事故が発生した時間帯等も考慮すると、原告に七五%の過失割合を認めるのが相当である。
二 争点(2)(損害の算定)について
(1) 治療関係費について
ア 症状固定日について
原告は、症状固定日が平成一七年一二月一日であるとして、同日までの治療関係費を損害として主張するのに対し、被告らは、症状固定日は平成一五年四月三日であるとして、同日以降の治療関係費については本件事故による損害であることを否認している。
そこで、まず、症状固定日について検討するに、証拠(甲三、五)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成一四年九月三〇日に、脳外傷、両膝靭帯損傷について、症状固定の診断を受け、平成一五年四月三日、東京医療センターのE医師により、上下顎骨折に伴う咬合・そしゃく障害、顔面部の醜状障害についての後遺障害診断書が作成され、これらを踏まえ、原告は、前記前提となる事実のとおり、平成一五年六月、脳外傷等頭部外傷に伴う神経系統の機能・精神の障害、右膝関節靭帯損傷に伴う右膝関節の可動域制限、上下顎骨骨折に伴う咬合・そしゃく障害、顔面部の醜状障害について、後遺障害の等級認定を受けたことが認められる。そして、上記認定後、認定された等級について変動が生じたことは認められない。
しかしながら、症状固定とは、客観的に事故による傷害の症状がこれ以上改善することを望めず、傷害自体に対する治療を継続する必要性、相当性がない場合をいうものと解され、症状固定の時期は事故による傷害の労働能力に対する影響のみによって判断されるべきものではない。そして、原告には、平成一五年四月三日の時点においても、左顔面神経麻痺や顔面多発骨折後外鼻変形が残存していたのであって(乙一一)、これらが本件事故によるものであることは明らかであるところ、原告は、平成一六年一二月一日、肋軟骨移植による外鼻修正術を受け、平成一七年五月六日、変形外鼻修正術を受け、外鼻に関する治療は平成一七年一二月一日に終了したことが認められる(甲二一)。これらの左顔面神経麻痺や顔面多発骨折後外鼻変形に対する形成外科的治療は、それまでの整形外科的治療と連続して行われる一体的な治療というべきものである。また、上記のE医師作成の後遺障害診断書には、症状固定日の記載がない上、順天堂浦安病院のF医師は、平成一五年五月九日の時点において、顔面神経麻痺につき、「今後治癒の見込みはなく」としながらも、「(大きな改善は見込めないものの)異常運動と不全麻痺の多少の改善は期待できる」、「約二年間の経過を観察します」と診断しているのである(甲九)。
このほか、原告が等級認定を受けた後に行われた治療の内容等も考慮すると、症状固定日は平成一七年一二月一日と認めるのが相当である。
イ 医療費について
(ア) 証拠(甲三から一二、一八から二二、二四から二九、三六、三九の一、四〇から四四、四六から四八、五一の一七、五二から五五、五七から六一、六五から七三、七六から七八、八二、八三、九九、一〇〇、乙四から一五、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、医療費として、症状固定の平成一七年一二月一日までに、合計四五三万五〇〇四円(内訳は別紙一「医療費」欄記載のとおり)を支出したことが認められ、後述の(イ)から(カ)までの費用を除き、必要性、相当性が認められる。
(イ) まず、被告らは、左肘部管症候群の治療については、本件事故と相当因果関係がないと主張する。そして、証拠(甲二〇、乙六)によれば、原告は、順天堂浦安病院整形外科において、平成一五年六月三〇日から平成一六年一一月四日まで、左肘部管症候群の診断名において治療を受け、また、平成一五年一二月三日から同月九日まで入院したことが認められるが、担当医師は、左肘部管症候群は本件事故と無関係であると判断しており(乙六・一〇頁)、他に本件事故によって発症したものであることを認めるに足りる証拠はない。したがって、左肘部管症候群にかかる医療費は、損害から除かれるべきである。
そして、平成一五年六月三〇日から平成一六年一一月四日までの同病院整形外科にかかる医療費は、次のとおり、合計一六万八〇五〇円である。
(内訳)平成一五年七月二八日 九二〇円
八月一一日 八六〇円
一一月一一日 五七二〇円
一二月九日 一四万二六七〇円
一二日 一〇円
二二日 六三〇〇円
平成一六年三月一日 三一七〇円
二三日 四一〇円
五月一〇日 一三七〇円
一一日 三八二〇円
二五日 九九〇円
六月一七日 一一六〇円
七月一六日 二二〇円
一一月四日 四三〇円
(ウ) また、原告は、平成一四年六月から、藤原歯科クリニックで治療を受けているが、これは歯周炎と虫歯に対するものであり(乙一〇)、本件事故と相当因果関係があると認めるに足りる証拠もないから、藤原歯科クリニックでの治療費二万四三八〇円(内訳は次のとおり)は、本件事故による損害とは認められない。
(内訳)平成一四年六月一四日 六五二〇円
一五年一月六日 一万一三四〇円
六月一四日 六五二〇円
(エ) 赤坂山王クリニックでの平成一七年九月二〇日の診察は、スキューバダイビングに参加するための健康診断であるから(甲七一、乙一三)、その医療費二一〇〇円も、本件事故による損害とは認められない。
(オ) 原告は、平成一七年九月、荏原病院や三宿病院の脳神経外科で診察を受けているが、その必要性、相当性は明らかでないから、これらの病院での医療費四三一〇円(内訳は次のとおり)も、本件事故による損害とは認められない。
(内訳)平成一七年九月二一日 二〇七〇円(荏原病院)
二八日 二二四〇円(三宿病院)
(カ) 原告は、平成一五年六月九日、嗅覚障害を訴えて、順天堂浦安病院の耳鼻咽喉科で診察を受け(乙六・一七三頁)、平成一七年一二月一日には、順天堂医院の耳鼻咽喉科において、嗅覚障害と診断されているが(甲二二、乙一一の九)、本件事故によって嗅覚障害が生じたと認めるに足りる証拠はないから、上記病院の耳鼻咽喉科での治療費二万五二三〇円(内訳は次のとおり)は本件事故による損害とは認められない。
(内訳)平成一五年六月九日 二一〇円
一二日 四八一〇円
八月四日 二一〇円
一二月二二日 二一〇円
一六年二月二八日 四二〇円
四月二四日 二二〇円
五月一四日 四三〇円
一一月二二日 四三〇円
一二月七日 七三五〇円
一七年六月六日 五六二〇円
一二月一日 五三二〇円
(キ) この結果、(イ)から(カ)までの費用の合計は二二万四〇七〇円であるから、四三一万〇九三四円が本件事故による損害となる。
ウ 薬剤費について
証拠(甲三四、三八、五〇、六三、七五)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、別紙一「薬剤費」欄記載のとおり、本件事故から平成一七年一二月一日までの間に、薬剤費一四万二五九一円を支出したことが認められるが、イの医療費で述べたことのほか、各診療費領収書における処方せん料の有無に照らすと、次の薬剤費一万六〇二〇円については損害とは認められないから、これを控除した一二万六五七一円を本件事故による損害と認める。
(内訳)順天堂浦安病院整形外科にかかる分
平成一六年三月一日 四三〇円
二三日 一二二〇円
五月一〇日 二二七〇円
一一月四日 三〇一〇円
順天堂浦安病院耳鼻咽喉科等にかかる分
平成一五年六月九日 一五七〇円
八月四日 五三〇円
一六年二月二八日 四二五〇円
五月一四日 一三一〇円
一一月二二日 一四三〇円
(3) 付添費について
ア 付添看護費
証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、Aは、原告が東京医療センターに入院中、一一八日間、藤が丘リハビリテーション病院に入院中、七〇日間、それぞれ付き添い、原告の傷害や治療の内容からして、付添の必要性、相当性が認められるから、一日につき六五〇〇円の付添看護費を認めるのが相当である。したがって、一二二万二〇〇〇円(=6500円×(118日+70日))は本件事故による損害と認められる。
また、原告が藤が丘リハビリテーション病院に通院する際、A又はBが、計四七日、付き添い、その必要性、相当性が認められるので、一五万五一〇〇円(=3300円×47日)を本件事故による損害と認めるのが相当である。
この結果、付添看護費については一三七万七一〇〇円が損害となる。
イ 付添人交通費
証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告が東京医療センターに入院中、Aが付き添った際、交通費として往復八六〇円を、一一二日について支出したものと認められるから、九万六三二〇円(=860円×112日)は本件事故による損害と認められる。
また、Aは、原告が藤が丘リハビリテーション病院に入院中、七〇日間、付き添い、その交通費が往復五四〇円であったことも認められるから、三万七八〇〇円(=540円×70日)も本件事故による損害と認められる。
この結果、付添人交通費については一三万四一二〇円が損害となる。
ウ 見舞交通費
原告は、原告の入院中、Bが見舞いに来たとして、計八万九五四〇円の交通費を損害として主張しているが、見舞いに来たことが認められるとしても、その交通費は本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
(4) 通院交通費について
証拠(甲三〇、三七、四九、六二、七四)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、付添人の交通費も含め、別紙一「交通費一」、「交通費二」欄記載のとおり、本件事故から平成一七年一二月一日までの間に、合計四一万〇三八五円の費用を要したことが認められる。
しかしながら、医療関係費について述べたのと同様の理由により、九八三二円(内訳は次のとおり)については控除されるべきであるから、四〇万〇五五三円を本件事故による損害と認める。
(内訳)順天堂浦安病院整形外科にかかる分
平成一五年一一月一一日 三四〇円
一二月三日 三六円
九日 三六円
平成一六年三月一日 三四〇円
二三日 三四〇円
五月一一日 三四〇円
二五日 三四〇円
六月一七日 三四〇円
七月一六日 三四〇円
赤坂山王クリニックにかかる分
平成一七年九月二〇日 一七四〇円
荏原病院、三宿病院にかかる分
平成一七年九月二一日 一八八〇円(荏原病院)
二八日 二〇六〇円(三宿病院)
順天堂浦安病院耳鼻咽喉科等にかかる分
平成一五年六月一二日 三四〇円
一六年二月二八日 三四〇円
四月二四日 三四〇円
一一月二二日 三四〇円
一二月七日 三四〇円
(4) 入院雑費
前記前提となる事実の入院日数によれば、左肘部管症候群による平成一五年一二月三日から同月九日までの入院日数を除いても、症状固定までに原告主張の二七八日の入院日数が認められるので、入院雑費として四一万七〇〇〇円(=1500円×278日)を本件事故による損害と認める。
(5) 転居家賃
原告は、退院後、車椅子を利用した生活となり、証拠(甲九七)から認められる本件事故時の自宅の構造や、本件事故時、東京都品川区中延に居住しており、順天堂浦安病院までの通院を考えると、転居の必要性、相当性がなかったとまではいえないが、少なくとも原告が主張する差額家賃については、本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
したがって、転居した後の差額家賃についての原告の主張は採用することができない。
(6) 器具・装具費、転居費、自宅改修費、医師謝礼費等
証拠(甲一七、三一、三三、三五、三九、四五、五一、六四、七六、九四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、別紙一「その他」欄記載の費用合計三六五万六四八一円を支出したことが認められるが、次の理由により、自動車購入費二一五万四六〇〇円については本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められないから、これを除いた一五〇万一八八一円を本件事故による損害と認める。
すなわち、原告は、それまでに乗っていたセダン型の車両では、車椅子の昇降が不便であることから、ミニバン型の車両を購入したとして、二一五万四六〇〇円を損害として主張するが、確かに、セダン型の車両では車椅子での昇降に支障があったものと認められるが、車椅子での生活が永続的なものではないことからすると、本件事故と車両の買替えとの間に相当因果関係があるとまではいえない。
なお、被告らは、原告はそれまでBの転勤に伴って転居しており、本件事故時、Bは千葉県船橋市内で勤務していたのであり(甲九八)、千葉県浦安市内への転居がBの通勤の便宜を考慮した面が全くないとまではいえないが、Bは本件事故以前の平成一二年四月一日から既に船橋市内で勤務していたことからすると、被告らが指摘する事情をもって、引越費用が損害であることを否定することはできない。
(7) 休業損害
ア 原告の本件事故前年の収入は三九五万七五八五円であり(甲八九)、原告は、平成一三年三月三一日にそれまでの勤務先であった派遣会社を退職し、同年五月一日から株式会社融合事務所に就職する予定であったことからすると、平成一三年三月三〇日から同年四月三〇日までの間については、原告主張の二万一六八五円、二八万九一六七円が本件事故による休業損害であると認められる。
イ 原告は、平成一三年五月一日から平成一七年一二月一日までの休業損害として、二三六五万円を主張している。
そこで、基礎収入について検討するに、証拠(甲一三)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故時、派遣会社に勤務し、前年の収入は三九五万七五八五円であったところ、以前に勤務していた株式会社融合事務所が中途採用を募集していると聞き、応募し、平成一三年五月一日から、基本給月三〇万円、住宅手当月三万円、賞与年二回(月給の四か月分程度が従来の支給実績)との条件で勤務することになったことが認められる。これらの事実のほか、以前に同社に勤務していた際には年五〇五万五二三〇円の収入を得たこともあったこと(甲九五)も考慮すると、原告は本件事故時の勤務先での収入よりも高額の収入を得る蓋然性があったものと認められる。しかしながら、原告は本件事故時、Bの実家に居住しており、転居先の賃貸マンションもB名義であったこと(甲一六)、本件事故時、原告は内定を受けた段階であって、実際に同社で勤務するには至っていなかったことを考慮すると、原告主張の五一六万円から住宅手当分を控除した額の九割に相当する四三二万円を基礎収入とするのが相当である。
次に、休業期間、休業率について検討するに、原告の傷害の内容、程度、治療の内容等を考慮すると、症状固定の平成一七年一二月一日までを休業期間とするのが相当である。そして、上記のとおり、原告は、平成一五年六月に等級認定を受け、その後、認定された等級について変動が生じたことは認められないことからすると、休業率については、平成一三年五月一日から平成一五年四月三日までの七〇三日間については一〇〇%、同月四日から平成一七年一二月一日までの九七三日間については六七%とするのが相当である。
この結果、上記期間の休業損害は、次の算式により、一六〇三万六一九四円となる。
(算式)432万円÷365日×703日+432万円÷365日×0.67×973日
≒832万0438円+771万5756円
=1603万6194円
ウ この結果、休業損害は一六三四万七〇四六円となる。
(8) 逸失利益
上記のとおり、基礎収入については四三二万円とするのが相当である。そして、原告は、後遺障害につき併合六級の等級認定を受けていることからすると、本件事故による労働能力の喪失率は六七%と認められる。また、原告(昭和四三年八月三一日生・甲一)は、症状固定日(平成一七年一二月一日)、三七歳であったことからすると、六七歳までの三〇年間を労働能力喪失期間(ライプニッツ係数一五・三七二五)とするのが相当である。
この結果、逸失利益は四四四九万四一六四円となる。
(9) 入通院慰謝料
原告の傷害の内容、症状固定までの入通院日数、手術の回数等を考慮すると、入通院慰謝料として四〇〇万円を認めるのが相当である。
(10) 後遺障害慰謝料
上記のとおり、原告は併合六級の等級認定を受けていることのほか、後遺障害の内容に顔面部の醜状障害があることを考慮すると、原告主張の一三〇〇万円を認めるのが相当である。
(11) 損害のてん補
ア 原告が、別紙二記載のとおり、自賠責保険金、障害基礎年金及び高額療養費の支払、支給を受けていることについては、当事者間に争いがない。
原告は、障害基礎年金と高額療養費を控除するに際しては、まず弁護士費用を除く損害の遅延損害金に充当されるべきであると主張している。
障害基礎年金は、国民年金法が「憲法第二五条二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする」ことを踏まえ(国民年金法一条)、傷病により障害等級に該当する程度の障害の状態にあるときに、支給されるものである(同法三〇条)。同法においては、被保険者は保険料を拠出し(同法八七条以下)、障害の直接の原因となった事故が第三者の行為によって生じた場合、政府は、受給権者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する(同法二二条一項)。また、高額療養費は、健康保険法が「労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする」ことを踏まえ(同法一条)、療養の給付について支払われた一部負担金の額又は療養に要した費用の額からその療養に要した費用につき保険外併用療養費等として支給される額に相当する額を控除した額が著しく高額であるときに支給されるものである(同法一一五条一項)。同法においては、被保険者は保険料を拠出し(同法一五六条一項)、給付事由が第三者の行為によって生じた場合には、保険者は保険給付を受ける権利を有する者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する(同法五七条)。
障害基礎年金及び高額療養費は、本件事故が原因となって支給されたものであり、本件事故による損害との間に同質性があり、また、上記のような代位規定があることも考慮すると、公平の見地より、損益相殺的な調整を図る必要がある。本件は過失相殺を行うべき事案であるから、過失相殺とのいわゆる先後関係が問題となるが、障害基礎年金及び高額療養費は、損害の賠償を目的とするものではなく、また、被保険者が保険料を拠出したことに基づく給付としての性格を有していることも考慮すると、過失相殺前に控除するのが相当である。なお、障害基礎年金及び高額療養費は、いずれも損害の一般的なてん補を目的とするものではなく、個別の法令上の根拠に基づき、一定の要件の下に給付されるものであって、上記のような制度目的や要件に照らすと、療養の給付にかかる高額療養費についてはもとより、障害基礎年金についても、年金受給権者の生活保障にその目的があるから、履行遅滞に基づく損害賠償請求権である遅延損害金に充当することは想定されていないものと解するのが相当である。
したがって、障害基礎年金及び高額療養費については、過失相殺前に損害の元本に充当されるべきであり、上記(1)から(10)の損害の合計八六一〇万九三六九円から障害基礎年金と高額療養費の合計五二二万四五五九円を控除すると、八〇八八万四八一〇円となる。
イ 上記の八〇八八万四八一〇円に原告の過失割合(七五%)を考慮すると、過失相殺後の額は二〇二二万一二〇二円となる。
そして、原告は、別紙二記載のとおり、自賠責保険金として、平成一三年五月三一日に四〇万円、同年一一月二九日に一一万六二三二円、平成一五年六月二五日に一〇三六万八〇〇〇円の支払を受けている。自賠責保険金は、賠償責任を前提とするものであるから(自賠法三条参照)、過失相殺後に控除されるべきであり、また、自賠責保険金は自賠法一六条の三第一項が規定する支払基準に従って支払われるが、この支払基準は保険会社以外の者を拘束するものではないことを考慮すると、原告が遅延損害金から充当することを主張する本件においては、遅延損害金から充当するのが相当である(民法四九一条一項参照)。
この結果、別紙三記載のとおり、残元本は一一五七万六四七四円となる。
(12) 弁護士費用
(11)の残元本に照らすと、弁護士費用については一二〇万円を損害と認めるのが相当である。
第四結論
以上の次第で、原告の請求は、上記の残元本一一五七万六四七四円と弁護士費用一二〇万円を合わせた一二七七万六四七四円及び一一五七万六四七四円に対する自賠責保険金の最終支払日の翌日である平成一五年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、一二〇万円に対する本件事故日である平成一三年三月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。なお、被告らの仮執行免脱宣言の申立てについては、相当でないから、これを付さないこととする。
(裁判官 齊藤顕)