大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成16年(ワ)21451号 判決 2006年3月17日

原告

ジーイーフリートサービス株式会社

同代表者代表取締役

呉文精

同訴訟代理人弁護士

和田隆二郎

安酸庸祐

加藤裕之

被告

双葉観光株式会社

同代表者代表取締役

海老沢博子

同訴訟代理人弁護士

熊谷裕夫

種田誠

望月直美

被告補助参加人

株式会社オートサービス宇田川

同代表者代表取締役

宇田川秀夫

同訴訟代理人弁護士

前田知克

幣原廣

小川原優之

緑川由香

野村修一

浅野史生

白井晶子

被告補助参加人

中嶋自動車工業株式会社

同代表者代表取締役

中嶋栄三

同訴訟代理人弁護士

本村俊学

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の自動車を引き渡せ。

2  前項の引渡しの執行が不能となったときは,被告は,原告に対し,522万円及びこれに対する執行不能となった日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の自動車について,所有権移転登録手続をせよ。

第2  事案の概要

本件は,原告が,被告は,原告の所有する別紙物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)を占有し,所有権移転登録を経由していると主張して,被告に対し,所有権に基づき,本件自動車の引渡し及び本件自動車について所有権移転登録手続をすることを求めるとともに,本件自動車の引渡しの執行が不能となったときは,本件自動車の時価相当額である522万円及びこれに対する執行が不能となった日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

これに対し,被告及び被告補助参加人らは,① 原告は,甲野A子(以下「甲野」という。)に本件自動車を売却しており,本件自動車の所有権を失った,② 被告の前々主である被告補助参加人中嶋自動車工業株式会社(以下「補助参加人中嶋自動車」という。)は,即時取得の規定により,本件自動車の所有権を取得しているので,原告は本件自動車の所有権を失った,などと主張し,被告は,さらに,③ 原告の被告に対する本件請求は権利の濫用に当たる,と主張して,これを争っている。

1  争いのない事実等(証拠等を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア 原告は,自動車リース等を目的とする株式会社である。原告は,平成12年12月1日,商号をゼネラルエレクトリックキャピタルカーシステム株式会社から,ジーイーフリートサービス株式会社に変更した(甲1,2)。

イ グローリアエース株式会社(以下「グローリアエース」という。)は,広告代理業等を目的とする株式会社であり,土岐忠男(以下「土岐」という。)は,同社の代表取締役である(弁論の全趣旨)。

ウ 補助参加人中嶋自動車,被告補助参加人株式会社オートサービス宇田川(以下「補助参加人オートサービス」という。)及び有限会社ウイニング(以下「ウイニング」という。)は,自動車の販売等を目的とする株式会社である(証人薄,弁論の全趣旨)。

エ 被告は,水戸市内でホテルを経営している株式会社である。

(2)  原告は,平成12年11月1日,グローリアエースとの間で,次のとおり,原告を貸主,グローリアエースを借主とする自動車リース契約を締結した(甲4,以下「本件リース契約」という。)。

ア リース車両 本件自動車(ただし,当時の登録番号は「練馬***○****」であり,その後の登録番号は後記(8)のとおりである。)

イ リース期間 平成13年4月16日から平成18年4月9日まで60か月間

ウ リース料  頭金     なし

月払リース料 14万3430円(消費税相当額6830円を含む。)

支払日    第1回月払リース料は納車時,第2回以降の月払リース料は納車の翌月から毎月27日払い

支払方法   銀行預金口座からの自動振替

エ 損害金   計算式    基本額−(支払期限の到来したリース料の総額×逓減率)

基本額    831万8695円

逓減率    89.3%

オ 借主について破産,和議,会社更生,会社整理,特別清算等の申立てがあったときは,貸主は催告をせずに本件リース契約を解除することができる。

カ 契約が期間満了以外の理由により終了したときは,借主は貸主に対し,上記エ記載の損害金を支払う。

キ 契約が終了したときは,借主は,直ちにリース車両を現状に復した上で,貸主に対し,貸主の指定する場所に持参して返還する。

(3)  原告は,平成13年4月10日,本件自動車につき,グローリアエースの申出により,原告を所有者,土岐を使用者として自動車登録手続をし(甲5,弁論の全趣旨),同月16日,グローリアエースに対し,本件自動車を引き渡した(甲6)。

(4)  グローリアエースは,平成14年6月12日,東京地方裁判所で破産宣告を受けた(甲7,当庁平成14年(フ)第8554号。)。

原告は,同月17日,グローリアエースに対し,本件リース契約を解除するという意思表示をした(甲8の1及び2)。

(5)  補助参加人中嶋自動車は,平成15年7月7日,ウイニングから,本件自動車を,代金438万円で買った(丙ロ1)。

(6)  補助参加人オートサービスは,平成15年9月24日,補助参加人中嶋自動車がオークションに出品していた本件自動車を,代金443万1400円(消費税,自動車税及び成約料を含む。)で落札した(丙イ1及び2)。

(7)  被告は,平成15年11月20日,補助参加人オートサービスから,代金472万5000円(消費税を含む。)で買い(乙1の1及び2,乙2),現在,本件自動車を占有している。

(8)  本件自動車の登録の経緯

本件自動車については,次のとおりの登録がされている(甲9)。

ア 平成13年4月10日 新規登録

受理番号 ×××××

登録番号 練馬***○****

所有者  原告

イ 平成15年7月7日 移転登録

受理番号 ×××××

登録番号 沼津***○****

所有者  甲野A子

ウ 同日       抹消登録

受理番号 ×××××

エ 同月18日     新規登録

受理番号 ×××××

登録番号 所沢***□****

所有者  補助参加人中嶋自動車

オ 同年10月16日   移転登録

受理番号 ×××××

登録番号 足立***■****

所有者  補助参加人オートサービス

カ 同年11月25日   移転登録

受理番号 ×××××

登録番号 水戸***△****

所有者  被告

キ 同月28日     番号変更

受理番号 ×××××

登録番号 水戸***○****

2  争点及びこれに関する当事者双方の主張

(1)  原告は,甲野に対し,本件自動車を売却し,本件自動車の所有権を失ったか否か。

ア 被告及び被告補助参加人らの主張

原告は,平成15年7月7日,甲野に対し,本件自動車を売却した。したがって,原告は,本件自動車の所有権を有していない。

イ 原告の主張

原告は,甲野に対し,本件自動車を売却していない。前記争いのない事実等(8)イの原告から甲野への所有権移転登録手続は,原告の名義を冒用した偽造の譲渡証明書,印鑑証明書及び委任状を使用してされたものである。

(2)  一時抹消登録(道路運送車両法16条1項,平成14年法律第89号による改正前のもの。)がされた自動車について,即時取得の規定の適用があるか否か。

ア 被告及び被告補助参加人らの主張

一時抹消登録がされている自動車には,即時取得の規定の適用がある。

イ 原告の主張

一時抹消登録がされた自動車の譲受人は,譲渡人から一時抹消登録証明書,同証明書記載の所有者からの連続した譲渡証明書及び各譲渡人の印鑑証明書の交付を受けなければ,当該自動車の新規登録を申請することができない。一時抹消登録証明書には,一時登録抹消時の所有者が記載されており,譲受人は,間接的に一時抹消登録前の登録を信頼して取引をするのであって,単なる占有を信頼して取引をするのではない。したがって,一時抹消登録がされた自動車については,登録されている自動車と同様に,即時取得の規定の適用を否定するべきである。

(3)  補助参加人中嶋自動車は,本件自動車の占有を取得したとき,ウイニングが権利者であると信じたことについて過失があったか否か。

ア 原告の主張

本件においては,以下のような事情があるので,補助参加人中嶋自動車は,本件自動車の占有を取得したとき,ウイニングが権利者であると信じたことについて過失があったといえる。したがって,補助参加人中嶋自動車は,即時取得の規定により本件自動車の所有権を取得しておらず,原告は,本件自動車の所有権を有している。

(ア) 本件自動車の履歴情報からは,甲野が,平成15年7月7日,本件自動車について,移転登録及び一時抹消登録をし,すぐに転売しようとしていることが明らかであるが,これには,以下のように不自然な事情がある。

a 甲野は,自動車販売業を営む者とは思えないところ,本件自動車を取得した後,直ちに転売しようとしている。

b 一時抹消登録は,自動車税の負担を免れるなどのために行うものであり,一時抹消登録をした場合,当該自動車を移動させるためには,臨時運行の許可(道路運送車両法34条)を得る必要があるところ,自動車を売却しようという者が,一時抹消登録をするのは不自然である。

c 平成15年7月7日当時,本件自動車の自動車検査証の有効期間は,約9か月残っているところ,自動車を売却しようとする者が,一時抹消登録をするのは不自然である。

(イ) 補助参加人中嶋自動車は,中古自動車の販売業者であり,組織的な自動車の盗難が急激に増加しているという昨今の社会情勢の変化について十分認識しているから,より高い注意義務が求められる。また,補助参加人中嶋自動車は,自動車登録ファイルの制度をよく知っているから,自動車登録ファイルの保存記録ファイルの履歴情報を確認することは容易にできたはずである。本件自動車の履歴情報には,上記(ア)のように不自然な点があるので,補助参加人中嶋自動車としては,佐藤及び原告に対して問い合わせをするなどして,本件自動車の権利関係を調査すべきであるところ,補助参加人中嶋自動車は,これをしなかった。

イ 被告及び被告補助参加人らの主張

中古自動車売買における現在の取引実情を考えると,特段の事情がない限り,①本人作成の譲渡証明書,②抹消登録証明書,③印鑑証明書と当該車両の確認をしていれば,過失はないというべきである。

本件においては,以下のような事情があるので,補助参加人中嶋自動車は,本件自動車の占有を取得したとき,ウイニングが権利者であると信じたことについて過失がなかったといえる。したがって,補助参加人中嶋自動車は,即時取得の規定により,本件自動車の所有権を取得し,原告は,本件自動車の所有権を失った。

(ア) 補助参加人中嶋自動車の従業員大竹美智子(以下「大竹」という。)は,平成15年7月7日,ウイニングの従業員から,本件自動車の譲渡証明書及び抹消登録証明書を受け取った。大竹は,本件自動車の自動車検査証上の所有者が甲野であったが,一時抹消登録がされていることから買い受けるに当たり,特段の問題はないと考え,本件自動車をウイニングから買い受けた。

(イ) 補助参加人中嶋自動車とウイニングは,以前から取引があり,今まで売買の目的物の権利関係について問題が生じたことはない。

(4)  原告の被告に対する本件請求が権利の濫用に当たるか否か。

ア 被告の主張

本件では,以下のような事情があるので,原告の被告に対する本件請求は,権利の濫用に当たる。

(ア) 原告は,平成14年6月7日にグローリアエースの債権者が本件自動車を持ち去ったという話を聞いたとき,直ちに本件自動車を取り戻すための法的措置を取るべきであったのに,これをしなかった。

(イ) 被告は,一般の購入者であり,本件自動車の所有者として登録されている補助参加人オートサービスが本件自動車の所有権を有していないということを知ることができなかった。

(ウ) 原告は,違法行為に関与した者たちへの損害賠償請求,又は被告補助参加人らに対する不当利得返還請求等によって損失の回復を図るべきである。

イ 原告の主張

原告は,本件自動車がグローリアエースの債権者に持ち去られたという話を聞いた後,直ちに調査をしたが,本件自動車を発見することはできなかった。原告は,平成16年3月ころ,本件自動車の抹消登録手続をするために登録事項証明書を取り寄せたところ,本件自動車の所有名義が変更されていることを知ったため,仮処分を申し立てた上で,本訴を提起した。

このように,原告は,本件自動車を取り戻すための努力を怠っておらず,原告の被告に対する本件請求は権利の濫用に当たらない。

(5)  本件自動車の時価相当額

ア 原告の主張

本件自動車の時価相当額は,522万円である。

イ 被告の主張

争う。

第3  当裁判所の判断

1  争点(1)(原告は,甲野に対し,本件自動車を売却し,本件自動車の所有権を失ったか否か)について

前記争いのない事実等に加え,原告から甲野への本件自動車の移転登録に係る譲渡証明書,印鑑証明書交付申請書及び委任状の原告の代表者印の印影は,真正な登録印鑑の印影とは異なること(甲10の2の4ないし6枚目,甲11),及び弁論の全趣旨によれば,何者かが,原告の代表者印を偽造して,原告名義の譲渡証明書,印鑑証明書及び委任状を作成し,本件自動車について,前記争いのない事実等(8)イの原告から甲野に対する所有権移転登録をしたと認めることができる。これは,原告が甲野に本件自動車を売っていないことを推認させる事実であり,他に,原告が,甲野に対し,本件自動車を売却した事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると,争点(1)についての被告及び被告補助参加人らの主張は理由がない。

2  争点(2)(一時抹消登録(道路運送車両法16条1項,平成14年法律第89号による改正前のもの。)がされた自動車について,即時取得の規定の適用があるか否か)について

道路運送車両法による登録を受けていない自動車は,一般の動産として民法192条の規定の適用を受けるべきものであり,道路運送車両法により登録を受けた自動車が,同法16条(昭和44年法律第68号による改正前のもの。)の規定により抹消登録を受けた場合においても同様である(最高裁昭和45年(オ)第827号同年12月4日第二小法廷判決・民集24巻13号1987頁参照)。道路運送車両法16条1項(平成14年法律第89号による改正前のもの。)は,登録自動車の所有者は,その自動車を運行の用に供することをやめたときは,まっ消登録の申請をすることができる旨規定するところ,同条項は,自動車の使用を一時中断する場合の手続として,同法16条(昭和44年法律第68号による改正前のもの。)の規定と同様,登録自動車の抹消登録を定めたものである。そして,登録を抹消された自動車は,本来の性質が動産であり,占有ないし引渡しが公示方法である点で異なるところはないというべきであるから,道路運送車両法16条1項(平成14年法律第89号による改正前のもの。)の規定により抹消登録(以下「一時抹消登録」という。)を受けた自動車は,民法192条の即時取得の規定の適用を受けると解することが相当である。

そうすると,一時抹消登録をされた自動車には,即時取得の規定の適用がない旨主張する原告の主張は,理由がない。

3  争点(3)(補助参加人中嶋自動車は,本件自動車の占有を取得したとき,ウイニングが権利者であると信じたことについて過失があったか否か)について

(1)  前記争いのない事実等に加え,証拠(後掲のほか,丙ロ5,証人薄)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

ア ウイニングの代表者清水映彦(以下「清水」という。)は,平成15年7月初めころ,補助参加人中嶋自動車に電話を掛け,本件自動車の買取価格を問い合わせ,大竹がおおよその価格を伝えた。数日後,清水は,再度,補助参加人中嶋自動車に電話を掛け,本件自動車の自動車検査証がない場合の価格を問い合わせ,大竹は,430万円ないし440万円という価格を伝えた。その際,清水は,大竹に対し,車に乗らないので,自動車税が発生しないようにするため,本件自動車について一時抹消登録をしたと説明した。同月7日,清水の代理人と名乗る者が,本件自動車に乗って補助参加人中嶋自動車のラビット志木店を訪問し,大竹は,本件自動車の価格を査定した上で,本件自動車を買い受けた。その際,大竹は,清水の代理人と名乗る者から,本件自動車の抹消登録証明書及び甲野名義で作成された本件自動車の譲渡証明書を受け取った。

イ 平成15年7月7日当時,本件自動車の自動車検査証の有効期間の満了する日は,平成16年4月9日であった(丙ロ7の5枚目)。

ウ 補助参加人中嶋自動車は,本件自動車を買い受ける以前に,ウイニングから,中古の自動車を3台購入したことがある。ウイニングは,上記各自動車の取引の際,原告に対し,自動車の販売及び所有権移転登録に必要な書類を全て交付しており,上記各自動車の権利関係について問題が生じたことはなかった。

大竹は,本件自動車を買い受けたとき,ウイニングが本件自動車の権利者であると信じていた。

エ 補助参加人中嶋自動車は,ユーザーだけでなく,業者から自動車を購入することも多く,自動車検査証上の所有者と売主が異なっている場合があり,その割合は取引全体の約3割である。

オ 自動車の一時抹消登録をした際には,申請者に対し,抹消登録証明書が1枚に限り交付される。次の新規登録を申請するためには,添付書類として,上記抹消登録証明書が必要である(甲17)。

カ 補助参加人中嶋自動車は,一時抹消登録をした自動車を譲り受けるときは,抹消登録証明書及びその名義人の譲渡証明書の交付を受け,権利関係を確認しているところ,多くの中古自動車の購入業者は,同様の取扱いをしている(丙イ5,弁論の全趣旨)。

(2) そこで,補助参加人中嶋自動車の過失の有無について検討する。

ア  まず,前記(1)ウのとおり,補助参加人中嶋自動車は,本件以前に,ウイニングから,中古の自動車を3台を購入したことがあるが,上記各自動車の権利関係について問題が起きたことはない。

イ  また,一時抹消登録がされた自動車を譲渡するときは,譲受人に対し,新規登録の際に必要な添付書類として,譲渡証明書及び一時抹消登録をした際に交付を受けた抹消登録証明書を交付しなければならないところ(道路運送車両法33条参照),前記(1)アのとおり,ウイニングは,大竹に対し,上記各書面を交付し,一時抹消登録をした理由について一応の説明をしている。

ウ  そして,前記(1)ウのとおり,補助参加人中嶋自動車が自動車を購入する際,自動車検査証上の所有者と売主が異なっている場合があり,その割合は取引全体の約3割を占めている。

エ  さらに,前記(1)オのとおり,自動車の一時抹消登録をした際には,申請者に対し,抹消登録証明書が1枚に限って交付されるところ,これは,次回の登録のために必要な書類を交付する制度であるという点で,不動産登記法の登記済証と類似の制度である。

オ  加えて,前記(1)カのとおり,多くの中古自動車は,一時抹消登録がされた自動車を譲り受けるとき,補助参加人中嶋自動車と同様の取扱いをしている。これらの事実関係からすれば,補助参加人中嶋自動車において,抹消登録証明書と譲渡証明書の交付を受け,それ以上に本件自動車の権利関係について疑念を抱かなかったのもやむを得ないというべきである。

カ  原告は,補助参加人中嶋自動車は中古車販売業者であるから,自動車登録ファイルの保存記録ファイルの履歴情報を入手して,最終の登録名義人に直接連絡を取るなどして,売主の同一性,処分の権限及び意思の有無を確認するべきであったと主張する。しかし,補助参加人中嶋自動車は,日常的かつ大量に,迅速性が求められる取引を行っているところ,上記履歴情報を入手し,原告らに連絡を取るなどして,本件自動車の権利関係を調査をするのは容易ではなく,前記(1)オ及び(2)エのとおりの抹消登録証明書に関する制度的な仕組みや,前記(1)カのとおりの取引の実情に照らすと,補助参加人中島自動車に対し,原告の主張するような調査を行うことまで求めることは相当でない。

キ  以上の点にかんがみると,補助参加人中嶋自動車は,本件自動車の占有を取得したとき,抹消登録証明書及び譲渡証明書を所持していたウイニングが権利者であると信じたことについて過失があったとはいえず,この点に関する原告の主張は理由がない。

4  したがって,補助参加人中嶋自動車は,即時取得の規定によって,本件自動車の所有権を取得し,原告は本件自動車の所有権を失っており,原告は,被告に対し,本件自動車の引渡請求,所有権移転登録手続請求及び代償請求をすることができない。

5  結論

以上によれば,原告の被告に対する本件各請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・小池一利,裁判官・渡辺真理,裁判官・百瀬梓)

別紙物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例