東京地方裁判所 平成16年(ワ)24973号 判決 2006年1月27日
原告
X1
原告
X2
原告
X3
原告
X4
原告
X5
原告ら訴訟代理人弁護士
伊藤圭一
同
河嶋卓也
同
岡部真也
被告
丸一運輸株式会社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
根岸隆
主文
1 被告は,原告X1に対し,金119万6240円万円(ママ)及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,金38万4693円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3に対し,金1万3731円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告X4に対し,金7892円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告X5に対し,金7376円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,以下のとおりとする。
(1) 原告X1と被告との間においては,同原告に生じた費用の5分の1を被告の負担とし,その余は各自の負担とする。
(2) 原告X2と被告との間においては,同原告に生じた費用の50分の3を被告の負担とし,その余は各自の負担とする。
(3) 原告X3,同X4ないし同X5と被告との間においては,全部原告らの負担とする。
7(ママ) この判決は,第1,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,原告X1に対し,643万6000円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,591万4684円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3に対し,576万3438円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告X4に対し,587万9286円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告X5に対し,610万4546円及びこれに対する平成16年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告が経営する運送会社で運送業務を担当する運転手として勤務していた原告らが,労働基準法上の一日の所定労働時間である8時間を超過して勤務したり休日出勤したにもかかわらず,被告からは時間外労働賃金の支払いが一切ないとして,割増賃金の支払いを被告に請求したのに対し,被告は,原告らの作業は一日8時間以内で十分に終わる作業内容であり,実際に原告らは所定時間内で作業を終えていたか終えることができたものであり,以前の勤務分については消滅時効にかかっていることなどを主張して,いずれも支払義務を争っている事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか証拠等により容易に認定できる事実)
(1) 被告は,運送を業とする会社であるところ,業務内容としては,東京近郊で集荷した荷物を翌日地方に配達するものが9割方を占める基本業務で,ほかには地方の営業所から東京へという逆の流れの集荷業務があった。(<人証略>)
原告X1は,平成6年1月21日,同X2は昭和63年8月ころ,同X3は平成5年5月7日ころ,同X4は平成元年3月ころ,同X5は昭和57年11月ころ被告に入社し,いずれも平成15年2月28日に退社した。
(2) 原告らは,被告に対して,勤務期間中の時間外労働賃金の支払請求を郵送して催告した。当該通知は被告に対して,X1については平成16年6月18日ころ,X2については同年8月26日,X3,X4,X5らについては同月31日に到達している。(<証拠略>)
(3) その後,原告らは,平成16年11月25日付で本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著な事実)
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 消滅時効の成否
【被告の主張】
原告X1の賃金は,毎月25日締め,翌月12日支払いであった。
その余の原告4名の賃金は,毎月15日締め,当月28日支払いであった。
原告X1の本訴請求のうち,平成14年11月12日までに支払期が到来する請求は,遅くとも平成16年11月12日の経過までに,時効消滅している。
原告X1を除く原告4名の本訴請求のうち,平成14年10月28日までに支払期が到来する請求は,遅くとも平成16年10月28日の経過までに,時効消滅している。
仮に,原告らの被告に対する本訴請求にかかる時間外賃金支払債権が存在するとしても,被告は,原告らに対して,これらの消滅時効を援用する。
【原告らの主張】
給与算出締め日は毎月25日であり,給与支給日はその翌月12日払いであった。
ア 権利濫用等
被告は,原告らに対し一度も就業規則を開示したこともなく,さらに開示したこともない就業規則を勝手に変更する等,使用者として労働基準法に反している(労基法106条1項)。この違反は,刑事罰まで規定されている(同法120条)重大な違法である。
被告は,原告ら全員について達成不可能な歩合目標を設定し,当該保障給を払うことでほぼ毎月一定の賃金を支払ってきたのであり,単に残業代を支払うことを脱法的に免れるための歩合給勤務体系を採用したに他ならない。
他方,原告らは,歩合給との勤務体系を設定した意味のわからない給与明細を一方的に配布され,本来請求できるはずの割増賃金についてこれを請求することを認知することができず,退職後これに気づき本件訴訟を提起したのである。
以上,使用者の違法行為,脱法的行為及び原告らがそもそも未払割増賃金を請求できなかった事情を考え合わせるなら,本件消滅時効の援用は権利濫用に当たるか,もしくは,原告らが本件権利行使が可能と認識し,権利行使が現実的に可能となった本件訴え提起から消滅時効が進行すると解すべきである。
イ 時効中断
原告X1は,平成16年6月17日ないし18日,被告に対し残業代の支払を催告し,その後同年11月24日に本件訴えを提起しているから,時効は中断している。
原告X2は,同年8月26日,被告に対して残業代支払の催告をし,その後半年を経過せず本件訴えを提起しており,仮に消滅時効が認められるにしても平成14年8月分以降の本訴債権については時効中断している。
原告X3,同X4及び同X5については,同年8月31日,被告に対して未払い残業代支払の催告をし,その後半年を経過せず本件訴えを提起しており,仮に消滅時効が認められるにしても平成14年8月分以降の本訴債権については時効中断している。
(2) 労働条件
【原告らの主張】
原告らの賃金は,いずれも被告による募集広告に従って固定給である。
休日は,日曜祭日との取り決めで入社したが,ここ2年間はほぼ毎日曜日に出社しており,代休として月曜日をあてがわれていた。
原告らの過去2年間の固定月額賃金は,原告X1が32万円,同X2が29万4000円,同X3が28万6500円,同X4が29万2250円,同X5が30万3500円である。
原告X1については,32万円(固定給)を25日(月内出勤数)と8時間(法定労働時間)にて除した金額1600円の2割5分増し,同X2については,29万4000円(固定給)を25日(月内出勤数)と8時間(法定労働時間)にて除した金額1470円の2割5分増し(1円未満四捨五入),同X3については,28万6500円(固定給)を25日(月内出勤数)と8時間(法定労働時間)にて除した金額1433円の2割5分増し,同X4については,29万2250円(固定給)を25日(月内出勤数)と8時間(法定労働時間)にて除した金額1461円の2割5分増し,同X5については,30万3500円(固定給)を25日(月内出勤数)と8時間(法定労働時間)にて除した金額1518円の2割5分増しとすると,直近2年間の月当たりの固定給を月内出勤日数による8時間で除した各人の1時間当たりの割増賃金単価は,X1が2000円,X2が1838円,同X3が1791円,同X4が1827円,同X5が1897円となる。
【被告の主張】
原告X1は「全歩合給」社員であり,配達金額に応じて歩合給を算定し,経費を控除した金額を給与とするが,その金額が保障給に達しない場合は,30万3000円の保障給であった。
X1以外の原告らは,社員であり,基本給+歩合給者である。但し,歩合給が各自10万円に達しない場合は,歩合給10万円を保障していた。また,この者らには,みなし残業手当として,原告X2に月額2万2600円,同X3に月額1万5000円,同X4に月額2万5000円,同X5に月額3万円を支給している。
土曜日又は祝祭日の前日は,東京周辺の集荷は行われるので,翌日の日曜日又は祝祭日は地方の配達はあり,原告らの休日は,月曜日又は祝祭日の翌日とする労使慣行が存在する。
(3) 時間外労働の有無
【原告らの主張】
タイムテーブルによる原告ら各人の1日当たりの労働時間は,X1が平均15時間程度,X2が平均13時間程度,X3が平均13時間程度,X4が平均10時間程度,X5が平均13時間程度となり,いずれも法定労働時間である8時間を超過している。
原告X1の平日超過勤務の割増賃金は,月当たり平均で少なくとも1日3時間残業し,平成13年3月から平成15年2月までの間492日×3時間×2000円で295万2000円となる。
原告X2の平日超過勤務の割増金銀(ママ)は,月当たり平均で少なくとも1日3時間残業し,平成13年3月から平成15年2月までの間492日×3時間×1838円で271万2888円となる。
原告X3の平日超過勤務の割増金銀(ママ)は,月当たり平均で少なくとも1日3時間残業し,平成13年3月から平成15年2月までの間492日×3時間×1791円で264万3516円となる。
原告X4の平日超過勤務の割増金銀(ママ)は,月当たり平均で少なくとも1日3時間残業し,平成13年3月から平成15年2月までの間492日×3時間×1827円で269万6652円となる。
原告X5の平日超過勤務の割増金銀(ママ)は,月当たり平均で少なくとも1日3時間残業し,平成13年3月から平成15年2月までの間492日×3時間×1897円で279万9972円となる。
原告X1の平成13年3月から平成15年2月までの日曜祝祭日の休日出勤についての割増賃金については,134日×13時間×2000円で348万4000円となる。
原告X2の平成13年3月から平成15年2月までの日曜祝祭日の休日出勤についての割増賃金については,134日×13時間×1838円で320万1796円となる。
原告X3の平成13年3月から平成15年2月までの日曜祝祭日の休日出勤についての割増賃金については,134日×13時間×1791円で311万9922円となる。
原告X4の平成13年3月から平成15年2月までの日曜祝祭日の休日出勤についての割増賃金については,134日×13時間×1827円で318万2634円となる。
原告X5の平成13年3月から平成15年2月までの日曜祝祭日の休日出勤についての割増賃金については,134日×13時間×1897円で330万4574円となる。
【被告の主張】
原告X1の一日当たりの労働時間
積み込み1.5時間,高速道73km(時速100kmとして,0.73時間),一般道136km(時速40kmとして,3.4時間),配達時間40件として40×2分=1.34時間(日曜日は半分の0.66時間)で計6.97時間であり,時間外割増賃金を生じる余地はなく,休日労働の実働は平均2~3時間であり,1日につき8000円を支払っているから,割増賃金を生じる余地がない。
原告X2の一日当たりの労働時間
積み込み1.5時間,高速道55km(時速100kmとして,0.55時間),一般道150km(時速40kmとして2.35ママ時間),配達時間50件として1.67時間で計6.07ママ時間であり,時間外割増賃金を生じる余地はなく,みなし残業手当が月額2万2600円を支払っていることもあり割増賃金を生じる余地がない。
原告X3の一日当たりの労働時間
積み込み1.5時間,高速道55km(時速100kmとして,0.55時間),一般道55km(時速40kmとして,1.38時間),配達時間50件として50×2分=1.67時間で計5.1時間であり,みなし残業手当が月額1万5000円を支払っていることもあり割増賃金を生じる余地がない。
原告X4の一日当たりの労働時間
積み込み1.5時間,高速道55km(時速100kmとして,0.55時間),一般道89km(時速40kmとして,2.23時間),配達時間50件として50×2分=1.67時間で計5.95時間であり,みなし残業手当が月額2万5000円を支払っていることもあり割増賃金を生じる余地がない。
原告X5の一日当たりの労働時間
積み込み1.5時間,高速道55km(時速100kmとして,0.55時間),一般道53km(時速40kmとして,1.33時間),配達時間60件として50(ママ)×2分=2時間で計5.38時間であり,みなし残業手当が月額3万円を支払っていることもあり割増賃金を生じる余地がない。
第3当裁判所の判断
1 証拠等によって認定できる事実
証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実を認定することができる。
(1) 被告は,平成5年11月当時,配送業務を行う契約社員の募集広告に,月給30万円から32万円(諸手当含む),勤務が午前5時から(実働8時間前後),休日を日曜・祝祭日として求人をしていた。
原告X1は,この広告を見て被告の求人に応募し,平成6年1月21日から契約社員として被告で勤務をはじめた。(<証拠略>)
被告の契約社員(全歩合者)用就業規則(平成11年4月1日から施行)には,第3条に「契約社員(全歩合者)に(ママ)賃金については,別に定める契約社員(全歩合者)給与規定による。」とある。(<証拠略>)
契約社員(全歩合者)給与規定(平成11年4月1日から施行)には,
第2条(賃金の構成とその内容)には1項に,賃金構成として,加算項目―配達歩合,集荷歩合Ⅰ,集荷歩合Ⅱがあり,減産(ママ)項目―燃料費,管理費,貨物弁償負担金,通行券,車輌修繕費があり,加算項目の合計金額から減産(ママ)項目の合計金額を差し引いた金額に「1年単位の変形労働時間制の協定書」で定める一定比率を乗し(ママ)た金額を全歩合者に対する業績給与とする。」,2項に「給与金額について一定額以上の保障を行っている契約社員に対しては 1.の業績給与が保障額に満たない場合不足分を支給する。」とあり,第3条(割増賃金)には,業績給与(但し,業績給与には第2条の保障金額を含まない。)を当該業績給与に係る総労働時間で除したものに割増率を乗し(ママ)て時間外,深夜及び休日労働の各賃金を算出することになっている。(<証拠略>)
なお,第4条で,賃金は,毎月25日に締め,前1か月分を翌月10日に支払うとされている。(<証拠略>)
原告X1の仕事は,主として割り当てられた担当地域を自己使用車両を運転して配送業務をすることであり,1日の作業としては,自宅を出発し,会社に着くと,車両の整備点検をし,配送予定の荷物を配送ルートに合わせトラックの奥から積み込み,荷物管理のパソコンに入力を済ませた後に出発をすることになる。
配送出発は,通常午前6時くらいで,被告のある東京都江東区新砂から出て四つ木インターから首都高速に乗り,常磐自動車道に入り土浦インターで降りて,一般道を運転して茨城地区内の約40カ所の配送先を回り,時には荷物を集荷して自宅へ直帰するというものである。
(2) 上記X1以外の原告らは,被告の正社員であり,就業規則44条に基づき給与退職金規定(平成11年1月1日施行)の適用を受け,第3条(賃金の構成とその内容)には,給与として,基準内給与(固定給)―基本給(基本給,基本給Ⅱ,業績給,責任者給)と手当(職務手当,家族手当,住宅手当),基準外給与(変動給)―集荷手当,配達手当のほか時間外手当,休日手当,通勤手当等とされている。(<証拠略>原告X2本人)
第5条(賃金の支払方法)には,「賃金は,毎月17日に締め,前1か月分を当月28日に支払う。」とある。
X1以外の原告らは千葉班に属し,原告X1と同様に千葉県内で割り当てられた地区の配送業務を日課として,時には荷物を集荷して自宅へ直帰するというものである。
(3) 原告らは,タイムカード及び証拠(<人証略>)によると,火曜日から日曜日までは平常勤務で出勤し,日曜日と祝祭日の各翌日を休日としていた。これは,ウィークデイの集荷に比例して地方発送の品物の量が変動し,日曜と祝祭日は休日で集荷が少ないために,その翌日は配送箇所なり配送物品数が少なくなることによる。但し,荷送主や荷受先の店や会社が土曜日と日曜日を休みとするところが多いため,土曜や日曜日の配送の荷物は他の日より少なく,これらの日は午前中で配達を終えられる量の作業内容であった。(<人証略>)
また,原告らの給与は,X1については当月分を25日に締めて翌月12日の支払いであり(争いがない),それ以外の者については当月の15日締めで当月28日支払いである(<人証略>)。
(4) 証拠(<証拠・人証略>)により,被告における歩合計算方法は次のとおりである。
まず,原告X1の場合は
<1> 加算項目は,a.配達歩合が,配達運賃金額×0.4(配達運賃金額80万円以内の部分),配達運賃金額×0.2(配達運賃金額80万円超の部分)b.集荷歩合が,集荷個数×50円であるのに対して,
<2> 減産(ママ)項目は,a.管理費(トラック償却費および車検費用など)19万2000円/月,b.燃料費 実費,c.貨物弁償負担金(<1>a.配達歩合×0.01),d.通行券 実費とされ,
<3> 歩合保障として,<1>加算項目a.配達歩合金額から<2>減産(ママ)項目合計金額を減じた金額が30万3000円に満たない場合,当該金額が30万3000円となるべく歩合保障金額を算出する。
<4> その他 月曜日(当該地区の休業日)の配達を行った場合,8000円/日を加算としている。
次に,X1以外の一部歩合者の歩合手当は,
<1> 歩合手当として,a.配達運賃金額×0.065(10円未満切上げ),b.集荷運賃金額×0.12(10円未満切上げ)
<2> <1>の合計金額が10万円に満たない場合10万円に達するまで保障する,とある。
(5) 証人Fの具体的な歩合計算の例示によっても,原告X1の場合には,減産(ママ)項目の合計が常に40万円を超える金額になっていることから(証人F【12頁】),上記配達歩合及び集荷歩合の合計が30万円に満たないから,その差額が10万円以上にのぼり,歩合が出る余地はほぼないものといえる。同様に,X1以外の原告らの歩合についても,10万円に満たない歩合金額を控除した残り分が支給されるということは,10万円を超える残業代がほぼ支払われないに等しくなる。(<証拠略>「X1他 歩合計算の例示」参照)
実際に,当該給与体系で歩合を出そうとすると,普段100個くらいの配送荷物数であるところを原告X1の場合には300個以上,他の原告の場合にも相当数の売上が必要となり,現実的ではない。(<人証略>)
要するに,歩合といっても,労力や拘束時間に比例したものではなく,労働者の頑張りにより歩合が達成される性質のものになっていない。
原告X1は契約社員,それ以外の原告らは正社員という違いはあるものの,被告の給与体系に基づく歩合給については,退職前直近の2年間においていずれの原告においても歩合給の出た者はいない。(<人証略>)各月の総支給額の違いは,「業績手当配達」(これは配達歩合中で配達運賃金額80万円以内のもの)「業績手当集1」(これは配達歩合中で配達運賃金額80万円超過分のもの)「業績手当集2」(これは集荷歩合に対応するもの)の金額の多寡の差に過ぎない。
(6) 原告X1の平成14年6月以降のタイムカードからすると(後記争点(1)の時効にかかっていない分に限定した。以下の原告らも同様。),平成15年2月までの火曜日から土曜日までの出勤日数が185日で,同人は4時台の出勤が殆どなので4時を基準にそれ以降の分数を合計すると,平成14年6月が1194分,7月が274分,8月が-(以下,マイナスという意味)262分,9月が283分,10月が59分,11月が-76分,12月が44分,平成15年1月が-107分,2月が-136分で合計1273分でこれを185日で除して約6.88分となり平均して4:07分に出勤していたことになる。(<証拠略>)
(7) 平成14年8月以降におけるX1以外の原告らのタイムカードによれば,その出勤状況は以下のとおりである。原告X2は,平日は午前3こ(ママ)ろ,日曜は午前4時台に出勤しており原告X3は平日は3時台に,日曜は4時台もあれば7時あるいは8時台もあるようであり,原告X4は曜日による違いが他の者ほど顕著ではないが,4時台の出勤が多く,日により5時台から6時台のものもあり,原告X5は,平日は4時台が多く,日曜には7時台も散見されるといった出勤状況である。(<証拠略>)
ア 原告X2について,タイムカードにより平成14年8月から平成15年2月(タイムカードは平成14年8月分から平成15年3月(2/16―28まで)となる。以下の原告らも同様。)までの間における月別の火曜日から土曜日までの出勤日数が135日で,同人は3時台の出勤が殆どなので3時を基準にそれ以降の分数を合計すると,平成14年8月が42分,9月が46分,10月が28分,11月が37分,12月が32分,平成15年1月が125分,2月が246分,3月が164分で合計720分でこれを135日で除して約5.33分となるから3:06分には平均して出勤していたことになる。
イ 原告X3についても平成14年9月から平成15年2月までの分を同様に平均すると火曜から土曜までの出勤日数が122日で,同人は3時台の出勤が殆どなので3時を基準にそれ以降の分数を合計すると,平成14年9月が911分,10月が722分,11月が654分,12月が559分,平成15年1月が363分,2月が532分,3月が264分で合計4005分でこれを122日で除して約32.8分となり平均して3:33分に出勤していたことになる。
ウ 原告X4についても平成14年9月から平成15年2月までの分を同様に平均すると火曜から土曜までの出勤日数が128日で,同人は4時台の出勤が多いので4時を基準にそれ以降の分数を合計すると,平成14年9月が1416分,10月が866分,11月が934分,12月が1415分,平成15年1月が862分,2月が1258分,3月が505分で合計7256分でこれを128日で除して約56.6分となり平均して4:57分に出勤していたことになる。
エ 原告X5についても平成14年9月から平成15年2月までの分を同様に平均すると火曜から土曜までの出勤日数が127日で,同人は4時台の出勤が多いので4時を基準にそれ以降の分数を合計すると,平成14年9月が1228分,10月が927分,11月が797分,12月が508分,平成15年1月が551分,2月が1471分,3月が752分で合計6234分でこれを127日で除して約50分となり平均して4:50分に出勤していたことになる。
2 争点(1)(消滅時効)について
原告らの被告に対する賃金債権は2年の消滅時効にかかるところ,前提事実,前記認定事実(2)及び証拠によると,原告X1の賃金債権は,平成14年5月支給分(同年6月12日支払い)までは消滅時効に,原告X2の賃金債権は平成14年7月分(同年7月28日支払い)までは消滅時効に,その他の原告らの賃金債権は平成14年8月分(同年8月28日支払い)までは消滅時効にそれぞれかかっており,原告X1は平成14年6月分から,同X2は同年8月分から,同X3,X4及びX5は同年9月分から請求が可能となる。
この点,原告らは被告の権利濫用を理由に消滅時効の主張は認められるべきではない旨主張するが,就業規則の不開示については原告らが被告に具体的に開示を要求したにもかかわらず敢えて秘匿していたなどの事情が証拠上窺われず,原告らは日々の就業状況や給与明細からある程度の労働条件は推知できたはずであり,時間外賃金が発生するのではないかということに関しては,原告らの主張によっても,X1の場合は当初の募集要項を基にしているのであるから就労当時からある程度は権利行使可能であったものと思われ,他の者も法定8時間労働を前提に考えた場合には,自らがそれ以上の1日当たりの勤務をしていれば,当該時点で月ごとにある程度権利行使可能であったものというべきであること,また,達成不可能な歩合給であることが直ちには消滅時効を被告が援用することの権利濫用に結びつくものではないことから,原告らのこの点の主張は採用できない。
3 争点(2)(労働条件)について
(1) まず,被告における休日並びに勤務締め日及び給与支給日について検討するに,前記認定事実(1)ないし(3)及び証拠(<証拠略>)によれば,次のとおりである。
原告X1は,契約社員として被告の求人に応募して労働契約を締結しており,被告の契約社員就業規則によれば,休日については一般就業規則の適用を受けることになる。そこで,他の原告らも含めて被告の就業規則によると,同規則第27条(休日)には,「従業員の休日は,次のとおりとする。」とあり,<1>日曜日,<2>国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)及び5月4日,<3>月2回の土曜日(予め定めた勤務表による),<4>年末年始(12月31日から1月4日),<5>夏季休日(8月13日から8月16日),第2項に「業務の都合により必要やむを得ない場合は,あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。」とある。しかし,原告らの出勤状況をタイムカードで見る限りは,火曜日から日曜日までを出勤し,月曜日を休むパターンを繰り返していることが認められる。また,祝祭日の翌日を休みとしている様子も同タイムカードからうかがえる。
このこと及び前記認定事実(1)ないし(3)及び証拠(<人証略>)によれば,被告が自社で定めた就業規則を,少なくとも運転業務従事者に対する関係では遵守していないことがうかがえるものの,運転業務従事者である原告らが過去にこれに異を唱えた形跡も窺われず,むしろ就業当時は土曜日までの集荷の状況から日曜日までは配送のための出勤が一般化していて労働者の就業意識にも月曜が休日となることが一般化していたものと推認できることからすると,日曜日と祝祭日の各翌日を休みとする労使間の慣行となっていたものと見るのが相当である。すなわち,就業規則どおりに日曜日が休みであるとしても休日を月曜日に振り替えていたようであり,本来「必要やむを得ない場合」でなければならないところであるが,後記争点(3)の時間外労働との関係では,事実状態の積み重ねとそれに従った労働者の就労状況から,例外が原則化して労使慣行となったものといわざると得ない。
勤休の締め日及び給与支給日についても,前記認定事実(3),証拠(<人証略>)及び各人のタイムカードの様式からすると,各就業規則の規定によることなく同様の労使慣行により,被告は原告X1に対して前月26日から当月25日までの勤務分を翌月12日に,他の原告らに対して前月16日から当月15日までの勤務分を当月28日に,それぞれ給与として支給していたものと認められる。
(2) 次に,就労時間について検討すると,被告の就業規則第26条(労働時間及び休憩時間)1項で「毎年1月1日を起算日とする1年単位の変形労働時間制を採用し,1週間の所定労働時間は1年間を平均して,1週間当たり40時間以内とする。」とあり,2項で「1日の所定労働時間は8時間以内とし,始業・終業の時刻及び休憩時間は,次のとおりとする。」とし,始業時刻午前9時,終業時刻午後6時(但し,土曜出勤日は午後3時),休憩時間1時間(正午から1時間)とあり,「但し,事業場外で勤務する者等については,業務の都合上,これらを繰り上げ,または繰り下げることがある。」とある。(<証拠略>)
被告は,その就業規則には上記のように変形労働時間制によるとしつつも,年間単位でのカレンダーを示すわけでもなく,原告らの労働が過去2年間の範囲で各年ごとに上記就業規則の労働条件を遵守できていることの証明はない。
ところで,被告では,一日の終わりの就業時間につき,原告らのような外部勤務者は直帰を許している関係上,一日の所定労働時間である8時間を超えたかどうかが明らかではない。被告は,その主張によれば各人の業務の割当が午前中で終わるようにしているから8時間を超えることはないということのようであるが,この点は争点(3)で検討するとして,終わりの時間を管理していなければ,週40時間を超えて勤務したときに生じる時間外労働の有無を判断することができないので不都合ではある。本件では,便宜,1日8時間を基準に法定時間外労働の有無,1週間のうち月曜を定休としている労使慣行から日曜日と祝祭日の各翌日,さらには夏季休日(8/13―16なので時効との関係でX1とX2のみ)及び年末年始(12/31―1/4)を出勤した場合は休日労働とした。
(3) さらに,原告らは,いずれも割増賃金単価の基礎となるいわゆる基準内賃金に月額固定給を組み入れているのに対して,被告は原告X1については全歩合給,その余の原告らについては基本給と(半)歩合給であるとするので,当事者間で争いのある各人の給与体系について検討する。
原告X1については前記のように契約社員であり,被告の契約社員(全歩合者)就業規則とりわけ給与については契約社員(全歩合者)給与規定(<証拠略>)によることになり(原告X1は当該就業規則を本訴以前には見ていないというが,就労当時開示を要求したにもかかわらず,被告が開示しなかったような事情が証拠上見当たらず,当該就業規則が真実当事者間の労働条件にはならないことの証明がないので,原則的には当該就業規則によるべきである。),他の原告らの賃金は給与退職金規定(<証拠略>)によるべきところ,前記認定事実(4),(5)によれば,被告の給与制度では,契約社員が全歩合者として,加算項目の金額を常に減算項目が上回り,歩合の達成が現時点ではほとんど不可能であること,他の原告らについても同様にいくら1日8時間を超過して勤務しても,さらに休日労働をしても,それが固定給とされる基本給は当然として歩合給に反映されることは少なくとも同人らの過去2年間の実績からはなく,むしろ頑張れば歩合保障金額との差が多少縮まるものの10万円に届かない実態にあることからすると(仮に,原告らの一日の労働が8時間を超過するとすると,被告が残業代固定給とする金額がこれら原告らの実際の残業相当時間と単価による賃金分を常にカバーできているとまでは認めることはできないのではないか。被告は他の班の過去の歩合実績やX1以外の原告らの過去の歩合実績を主張・立証するが,上記判断に照らして有効とは思われない。),このような被告の賃金体系によったのでは,原告らの労働量と労働時間に見合う賃金を支払うことを法によって使用者に命じている労働基準法の趣旨に背馳する余地があるものというべきである。
原告X1については,平成14年11月を例にとり検討するに(<証拠略>Fの説明「X1他 歩合計算の例示」に対応するものである。),まず,タイムカードによると,X1は,当月(10/26―11/25の全日数31日)のうち出勤が29日(内日曜は10/27,11/3,10,17,の4日出勤,月曜は10/28,11/11,18,25の4日出勤している。)で,この月に休んだのは11/4(月)と11/24(日)の2日のみである。被告による「日配」と称される1日当たり一律8000円の休日配達をX1は11/3,18,25の3回しているとされ,給与明細中の当月を見ると,「業務手当配達」29万8761円,「業績手当集2」1050円,「職務手当」2万4000円とあり,「その他1」として-40万7178円,「保障」41万1417円で「総支給額合計」が32万8050円とある。これを乙第12号証の添付書面でFが説明しているところよ(ママ)ると,給与規定の加算項目合計は配達歩合(「業務手当配達」)と集荷歩合(「業績手当集2」)の合計で29万9811円となり,減算項目の合計は上記その他1に当たる40万7178円で上記業務手当配達額29万8761円との差引-10万8417円で,これを+の支給金額に変換して定額の歩合保障である30万3000円と合計して41万1417円を歩合保障による保障金額としている。職務手当2万4000円は休日の「日配」回数3日で1日8000円として計算している。
このような被告の計算に合理性があるかどうか検討するに,前記のように加算項目を大幅(10万円以上)に上回る減算項目の金額から歩合が出る余地が想定しにくいこと,これを被告は歩合保障と称して30万3000円に減算項目と加算項目の差額を合計して支給額としているが,想定できないかあるいはしにくい歩合を設定しておいて,定額の保障金額に上記差額を加算することが,いかなる意味を有するものであろうか。仮に,固定残業代として一定の金額を定め,これを上回った作業量ないし残業時間が生じた場合には当該上回った分を追加支給するものであれば分からなくはないが,原告X1の給与を全歩合者として30万3000円を固定金額としてあとは上回りようのない減算項目金額から加算項目である歩合を控除した差額を上乗せ支給するのは,際限のない時間外労働に途を開くものである。仮に,原告X1が火曜日から土曜日あるいは日曜日にかけて8時間を超える相当程度の業務に従事しても,配達歩合とか集荷歩合が,かかった労働時間に対応するものではない以上,それが給与に反映されない。他の原告らの(半)歩合給についても程度の差はあっても同様である。
要するに被告における全歩合給ないし半歩合給の給与体系のもとでは,前記のような歩合が出ない以上は,平日にいくら1日8時間を超えて何時間働いても,給与には反映されないということになる。
そして,X1以外の正社員である他の原告らの給与についても,半歩合給と被告がするところでは,程度の差はあれ,時間外労働による割増賃金発生余地のあるところを事実上発生しない形で吸収してしまっている点では,上記全歩合給の場合と異ならない。
そこで,労基法の法定基準に立ち戻り,原告らの被告における勤務が時間外,休日,深夜の各労働に該当する場合には,法定の割増率による賃金を支払うべきであり,原告らが時間外労働及び休日労働の割増賃金を請求している本件においては,勤務時間が1日8時間,週40時間を超過するのであれば,法定時間外労働として,法定休日である1週1日(4週4日)に出勤があれば休日出勤として取り扱うべきである。
それゆえ,原告らにおいて,後記争点(3)で各原告らの時効にかからない請求期間中に1日当たり8時間を超える労働実態が認められれば,当該労働時間に応じて法定の割増賃金(2割5分増)による金額を支払うべきであり,法定休日1週1日の休日出勤が認められれば,その労働時間に応じて被告は各原告らに法定の割増賃金(3割5分増)による金額を支払うべきである。
各原告らの割増賃金単価については,原告らが各人の給与が固定給であることを前提に月内出勤数を25日として時間当たり単価を算出しているのに対して,被告は単にこれを争うのみで単価を明らかにしない。また,原告は,平成13年3月から平成15年2月までの平日勤務日数を原告ら各人について492日としているが,証拠上明らかではなく,被告は1年間における変形労働制のカレンダーも明らかにしない。
そこで,当裁判所は,被告の1年間の変形労働制で1週40時間を限度とした場合の一年間の労働日数の限度は280日なので,280日÷12ヶ月≒23.33日であるから,原告が時間外賃金の単価の基礎としている月当たり勤務日数25日によっても単価が高くなることはないので,これを月内出勤日数に採用することとする。そして,各人の時間当たり単価算出の対象となる収入についても,被告の歩合給制度が機能していないことは前記に判断したとおりであり,原告が主張するように全額を固定給とすることができるかどうかについては,労働基準法施行規則19条2項により,原告X1の「職務手当」,その余の原告らの「特殊時間手当」(被告のいう「配達手当」)等もいずれも月によって定められた賃金を(ママ)みなすことにすると,原告ら各人の時効にかからない勤務期間中において,時間当たり単価を算出するための月当たり賃金額は,証拠(<証拠略>)からすると,原告ら主張の金額が相当なものと認められる。そうすると,原告ら各人の賃金単価については,原告X1の割増賃金単価は2000円(休日労働は2160円),原告X2が1838円(休日労働は1985円),原告X3が1791円(休日労働は1934円),同X4が1827円(休日労働は1973円),同X5が1897円(休日労働は2049円)によることとなる。
4 争点(3)(時間外労働)について
(1) まず,平日(月曜と祝祭日の翌日以外)の所定労働時間超過いかんについての双方の主張と立証状況を対比すると,双方提出の書証と人証による供述のいずれによっても決定的なものはないことから,一律にどちらか一方の言い分に則って判断するのは相当とは思われない。原告のいう伝票と荷物の照合とか荷物あるいは伝票探しの作業,被告の主張は無駄を省いた最低限の所要時間を計上しているところも見受けられる反面,被告証人らの供述も自身が経験している事実に基づいて供述していることなどを勘案し,<1>出発時間まで,<2>会社出発後の走行時間,<3>目的地到達後の作業時間に分けて考えた場合に,当裁判所は,<1>については会社出発までの準備時間を双方主張の間の時間で取ることにし,平均2時間程度とし,<2>の走行距離については,証人F(<証拠略>)がカーナビで推測して距離を出しているものの,インプットによる配達先数が原告が一日当たり行っている件数よりも少ないこと(証人F【11頁】),原告らは実際に日々運送車両を運転していて,原告X2(本人尋問【20頁】)がトリップはメーターを一日毎に戻して計っていたと供述していることをも勘案して,双方供述(<証拠略>の別紙1における左欄原告陳述書の距離と右欄F推計)の中間距離をとり,当該中間距離のうち高速道の距離はカーナビによる誤差は少ないものと思われることから被告の主張を採用し,残りを一般道の距離とした上で,被告は高速道の平均時速を100kmとしているが80km平均で,一般道は平均時速40kmで時間を計算することとし,<3>の目的地に到達後の作業時間については,原告らが,到達,荷物の手渡し,受領書の受け渡し等を含むと平均で一件当たり少なくとも5分とするのに対し,被告は短いときは30秒で済み平均で一件当たり2分で計算しているところ,平均で一件当たり3分とし,配達件数や荷物の個数は,原告らの主張・供述が10年ほど前の被告が景気の良い時期の頃を念頭に話をしている可能性も原告X1本人尋問の結果から否定できず,原告X2の陳述書には正確性に欠ける供述がうかがわれることなども勘案して算定計上した。
その結果,
原告X1の実働時間は
<1>2時間,<2>(原告370km+被告218km)÷2=294kmの走行のうち,高速道90.5km÷時速80km=1.1時間(小数第2位以下の数字を四捨五入,以下同様),一般道203.5km÷時速40km=5.1時間,<3>の所要時間が40件×3分として2時間となり,合計で10.2時間,
原告X2の実働時間は
<1>2時間,<2>(原告220km+2(ママ)20.3km)÷2=220km走行距離のうち,高速道56.8km÷時速80km=0.7時間,一般道163.2km÷時速40km=4.1時間,<3>の所要時間が50件×3分として2.5時間となり,合計で9.3時間,
原告X3の実働時間は
<1>2時間,<2>(原告150km+被告169.3km)÷2=159.7kmの走行のうち,高速道89.9km÷時速80km=1.1時間,一般道69.8km÷時速40km=1.7時間,<3>の所要時間が45件×3分として2.3時間となり,合計で7.1時間,
原告X4の実働時間は
<1>2時間,<2>(原告180km+被告177.1km)÷2=178.6kmの走行のうち,高速道73.1km÷時速80km=0.9時間,一般道104km÷時速40km=2.6時間,<3>の所要時間が50件×3分として2.5時間となり,合計で8時間,
原告X5の実働時間は
<1>2時間,<2>(原告110km+被告138.6km)÷2=124.3kmの走行のうち,高速道56.4km÷時速80km=0.7時間,一般道67.9km÷時速40km=1.7時間,<3>の所要時間が55件×3分として2.8時間となり,合計で7.2時間
となる。
ところで,前記認定事実(7)のように原告らの中には午前4時あるいは4時30分前に出勤している者がいるが,被告は出勤時刻は午前4時から4時30分までであるとし,それ以前の出勤は意味がないというのに対して,原告らは被告の管理者からもっと早く出勤しろといわれたと供述し,被告の証人はそれを否定している。この点は,上記認定事実(7)からすると原告らの出勤時刻がまばらであり,被告においても始業時間が午前4時からなのか午前4時30分からなのが(ママ)明確ではなく,要は担当区域の配達先の都合や廻る順序などとの関係で,会社の出発時刻ひいてはその前に準備するための出勤時刻を,被告は原告らにある程度幅をもって任せていたと見るのが実態に適合するものというべきである。
それゆえ,時間外労働が発生しているか否かについては,端的に<1>出発準備の時間,会社出発後の<2>の走行時間,さらに<3>の配達先における所要時間が合計で8時間を超えているかどうかが問題とされるべきである。
そうすると,上記平均所要時間で8時間を超過する原告X1と同X2について,それぞれ割増賃金単価2000円,1838円とし,時効消滅していない平日勤務日数が,X1の場合が平成14年6月給与支給分から平成15年3月支給分まで(H14.5.26―H15.2.28)で219日,X2の場合が平成14年8月給与支給分から平成15年3月支給分まで(H14.7.16―H15.2.28)で161日で,時間外未払賃金が
X1は,43万8000円(2000円×219日)×2.2(10.2-8)=96万3600円
X2は,29万5918円(1838円×161日)×1.3(9.3-8)=38万4693円(1円未満四捨五入))
となる。
(2) 次に,休日出勤について検討する。
前記のように被告における原告ら各自の請求期間に対応する休日が明らかではないものの,その主張によれば,原告ら各人について休日に当たる日に出勤して仕事をした日は,作業量も平日の半分程度で希望者に一日8000円で勤務してもらっているというものである。他方,原告らは,各人の請求期間である平成13年3月から平成15年2月までの休日を134日とし,各人の休日一日当たりの勤務時間をいずれも13時間,割増賃金を各人の通常時間単価の2割5分増しで請求している。
まず,時効にかかっていない各人の休日労働賃金債権は,争点(1)で判断したように原告X1が平成14年6月支給分以降,同X2が同年8月支給分以降,その他の原告らが同年9月支給分以降である。
休日労働時間については,原告らの正確な労働時間は分からないものの,作業量としては,平日のおおよそ半分程度ということが前記認定事実(3),証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨から窺われるので,一日当たり原告X1は5.1時間,同X2は4.65時間,同X3は3.55時間,同X4は4時間,同X5は3.6時間とする。
賃金単価は,法定基準により原告ら各人の通常時間当たり賃金単価の3割5分増しとなる。
そこで,原告ら各人のいつが休日労働になるかであるが,原告らが主張する平成13年3月から平成15年2月までの間134日とする主張を被告は争っており,原告らからの立証もないこと,被告による1年単位の変形労働時間制についても同様に立証がないことからすると,法定基準に従って法定休日である1週間1日または4週4日に労働させた場合とし,争点(2)(労働条件)における(1)で判断したところによれば,労使慣行により被告は毎週月曜日を休日としてして(ママ)いたことから,月曜日及び被告の就業規則上休みとされている日(祝祭日,夏季休日,年末年始)に出勤した日数を各人毎の上記時効にかかっていない期間でタイムカード(<証拠略>)から抽出すると(土曜,日曜に祝日が重なるときは,被告が日曜及び祝日が連続している場合は2日目以降休みと主張し,タイムカードも,例えば平成14年で,9/15(日),16(月曜=振替休日)の場合には被告は9/16(月),17(火)を休みとし,9/22(日),23(月が祝日)の場合は9/23(月),24(火)を休みとし,11/23(土=祝日),24(日)の場合は11/24(日),25(月)を休みとしていることを参照して,2日休みとし,(ママ)原告X1は,下記のように休日出勤して23万2640円の請求権を有することになる。
休日出勤日数合計40日:
平成14年6月(5/26―6/25)に5日休日中4日(5/27,6/2,10,18),7月に5日中4日(7/1,8,15,22),8月に8日中(夏季休暇4日を含む)に6日(7/29,8/5,12,13,14,19),9月に6日中5日(8/26,9/2,9,17,24),10月に5日中4日(9/30,10/7,15,21),11月に7日中5日(10/28,11/5,11,18,25),12月に5日中3日(12/2,9,16),平成15年1月に10日中(年末年始5日を含む)3日(1/6,14,20),2月に6日中6日(1/27,2/3,10,12,17,24),3月(2/26―28)はなしという形で出勤したことになる。(<証拠略>)
休日割増賃金単価2160円×5.1時間×40日=44万0640円となる。当該期間中の既払金は給与明細書にある職務手当(平成14年6月から同年11月までが毎月2万4000円,同年12月と平成15年1月が毎月1万6000円,同年2月は職務手当は0円となっているが,タイムカードで日配3,祝1とあり4回休日出勤して,明細書の休日手当欄に8000円の4回分の3万2000円が支給されているのでこれも含めた)が合計で20万8000円となる。
44万0640円-20万8000円=23万2640円
原告X2は,平成14年8月支給分から平成15年3月支給分(2/28勤務分まで)まで,原告X3,同X4,同X5は平成14年9月支給分から平成15年3月支給分(2/28勤務分まで)までのタイムカードを精査するに,X2は特に休日出勤の実績が見当たらない。(<証拠略>)
原告X3は平成14年11月11日と同年11月25日(この日は被告の平成17年4月14日付準備書面3,(2)の主張及び(証拠略)のX3のタイムカードに照らすと弁論の全趣旨から認められる。)に出勤の形跡がうかがわれるので2日間で,休日割増賃金単価1934円×3.55時間×2日=1万3731円(1円未満四捨五入)
原告X4はタイムカード(<証拠略>)によれば平成14年8月16日(夏季休日)に出勤の形跡がうかがわれるので1日間で,休日割増賃金単価1973円×4時間×1日=7892円
原告X5は平成14年11月25日(X3と同様に被告の準備書面の主張と(証拠略)のタイムカードに照らすと弁論の全趣旨から認められる。)に出勤の形跡がうかがわれるので1日間で,休日割増賃金単価2049円×3.6時間×1日=7376円(1円未満四捨五入)となり,X3,X4及びX5の給与明細を見ても当該休日出勤分が当月分の給与にどのように反映されているか不明であり,既払金は見当たらない。
5 以上によれば,原告X1は合計で119万6240円,同X2は38万4693円,同X3は1万3731円,同X4は7892円,同X5は7376円の各限度で理由があるからこれを認容し,原告らのその余の請求はいずれも理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 福島政幸)