東京地方裁判所 平成16年(ワ)25025号 判決 2006年11月15日
原告
X1
ほか三名
被告
Y1
ほか三名
主文
一 被告らは、原告X1に対し、連帯して三三九万一一八五円及びこれに対する平成一四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告X2に対し、連帯して三二六万二五六九円及びこれに対する平成一四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告X3に対し、連帯して八八万円及びこれに対する平成一四年三月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、原告X4に対し、連帯して四四万円及びこれに対する平成一四年三月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、これを六分し、その五を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
七 この判決は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告X1に対し、連帯して二七四六万四六四四円及びこれに対する平成一四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告X2に対し、連帯して二五九二万二一〇八円及びこれに対する平成一四年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告X3に対し、連帯して三三〇万円及びこれに対する平成一四年三月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、原告X4に対し、連帯して一六五万円及びこれに対する平成一四年三月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記一(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)により亡くなったAの遺族である原告らが、被告Y1及び被告Y2に対しては、民法七一九条前段及び民法七〇九条に基づき、被告トンプソントーワ株式会社(以下「被告会社」という。)及び被告Y3に対しては、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償及びそれに対する年五分の割合による遅延損害金を各被告が連帯して支払うよう求めた事案である。
一 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実)
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成一四年三月一五日午後一一時ころ
イ 場所 千葉県白井市根一〇九四番地の三先道路(以下「本件道路」という。)上
ウ 関係車両 <1> 被告Y1の運転する被告会社所有の普通貨物自動車(車両番号・<省略>。以下「被告Y1車」という。)
<2> 被告Y2の運転する被告Y3所有の普通乗用自動車(車両番号・<省略>。以下「被告Y2車」という。)
<3> A(昭和○年○月○日生。本件事故当時二〇歳。)が運転する普通自動二輪車(車両番号・<省略>。以下「原告車」という。)
エ 態様 Aが本件道路を原告車で走行中に転倒したところ、同人は、被告Y1車に轢過され(以下「第一轢過」という。)、その数分後に被告Y2車に轢過(以下「第二轢過」という。)された(具体的事故態様等は争いあり。)。
オ 結果 Aは、本件事故による出血性ショックにより、平成一四年三月一六日午前一時四分頃、死亡した。
(2) 原告ら及び相続
ア 原告X1及び原告X2は、Aの両親であり、同人の本件事故による損害賠償請求権を二分の一の割合で相続した。
イ 原告X3は、Aの姉であり、原告X4は、Aの妹である。
(3) 損害のてん補
原告X1及びX2は、本件事故に基づく損害のてん補として、自賠責保険より、平成一四年九月二六日に二七九六万三九八〇円の支払(被告Y1車加入分)を、同年一〇月一日に二七八八万五六〇〇円(被告Y2車加入分)の支払を受け、さらに、原告X1加入の健康保険からの求償金支払として、治療費二四万三七二八円(被告Y1車加入の自動車保険)の支払を受けた。
二 争点及びそれに対する当事者の主張
(1) 事故態様及び過失割合(争点一)
(原告ら)
本件事故態様は以下のとおりである。
ア 第一轢過
被告Y1は、平成一四年三月一五日午後一一時ころ、被告Y1車を運転し、二車線ある一方通行道路である本件道路を白井市大山口方面から同市復方面に進行するにあたり、最高速度時速六〇キロメートルを超える時速八〇キロメートル以上の高速度で進行していたところ、進行方向左前方約一四九・二メートルの本件道路上に車両の前照灯が点灯しているのを認め、その直後、左前方約九〇・八メートルの本件道路上に人だかりを認めた。よって、進路前方で交通事故が発生していることが予測されるのであるから、被告Y1は、直ちに減速して前方左右を注視し、進路の安全を十分に確認したうえで進行すべき注意義務があった。にもかかわらず、被告Y1は、上記注意義務を著しく怠り、漫然と上記速度で進行したため、折から進路前方の道路中央付近に転倒していたAを前方約三三・五メートルで初めて認め、急制動を講じたが、間に合わず、同人を轢過した。
イ 第二轢過
第一轢過の数分後、被告Y2は、被告車を運転し、本件道路を白井市大山口方面から同市復方面に進行するにあたり、最高速度時速六〇キロメートルを超える時速八〇キロメートル以上の高速度で進行していたところ、進行方向左前方約一〇〇・三メートルの本件道路上に人だかりを認めた。よって、進路前方で交通事故が発生していることが予測されるのであるから、被告Y2は、直ちに減速して前方左右を注視し、進路の安全を十分に確認したうえで進行すべき注意義務があった。にもかかわらず、被告Y2は、上記注意義務を著しく怠り、漫然と上記速度で進行したため、折から第一轢過により進路前方の道路中央付近に転倒しており、通行人らの救護を受けていたAを轢過し、その後、その付近に停車していた被告Y1車後方に追突した。
ウ 過失相殺について
(ア) 本件事故時に検出されたAのアルコール濃度は、法の定める規制値に遠く及ばないごく僅かな値であり、Aの運転動作にアルコールが何ら影響を与えていない蓋然性が高い。
(イ) 転倒前の原告車の速度について、時速一〇〇キロメートル以上であるとするBの供述調書(甲三の七)は、同人が原告車転倒を目の当たりにして「自己転倒だし大したことは無いな」としてAを救助せずにそのまま進行していったこと及び司法解剖において転倒による傷害が致命的なものといえないこと(甲二の四)からすると、信用できない。
(ウ) 原告車を運転中に自己転倒したAには、人身事故や物損事故を惹起させた運転者等に対する規定である道路交通法七二条の適用はない。
(エ) Aが転倒した原因は判明していないばかりか、その転倒から相当の時間が経過して複数の通行人から救護されている状況で第一及び第二轢過が発生しているのであるから、Aの転倒が損害の発生や拡大をもたらしたという関係は完全に絶たれていたといえる。そして、被告Y1が、第一轢過後に何ら救護義務を果たしていないことに照らすと、本件は、泥酔状態で路上に横臥して轢過されたような事案とは異なり、過失相殺は問題とならない。
(オ) 第一轢過と第二轢過は、同じ道路上で、数分程度の間隔をおいて発生したものであり、客観的な関連共同性が肯定され、共同不法行為に該当するところ、第一轢過の時点と第二轢過の時点では、交通整理が開始された後の現場の状況、車線渋滞の状況、人だかりの規模や動き、加害者側からみた視認可能性の程度などにつき、質的にも全く異なる変化と差異が生じているのであるから、それぞれが別異の交通事故とみるととができ、絶対的過失相殺を行うべきではない。
(被告Y1及び被告会社)
ア 原告ら主張の第一轢過の状況は概ね認める。
イ Aは、第一轢過数時間前に飲酒し、血中一ミリリットル中〇・一八ミリグラムのアルコール濃度の状態(甲三の一三)で原告車に乗って、本件道路を時速一〇〇キロメートル以上の高速度で進行していた(甲三の七)ところ、突然転倒して路上に投げ出され、全身を強打し、本件道路上でうずくまっており、道路交通法七二条一項の定める「道路における危険を防止する等必要な措置」をとっていなかった。そのため、Y1車による第一轢過が発生した。
第一轢過発生時は夜間であったが、本件事故現場付近には照明設備はなく、暗かった。
以上によれば、本件事故においてAの過失を考慮して過失相殺がなされるべきであり、その過失割合は被告Y1及び被告Y2三〇:A七〇とするのが相当である。
(被告Y2及び被告Y3)
ア 被告Y2車が白井市大山口方面から同市復方面に進行していたこと、被告Y2車がAを轢過し、停車中の被告Y1車に追突したことは認めるが、原告らが主張する過失内容は争う。
イ 第一轢過と第二轢過の関連共同性を根拠づけることは困難であり、両者には民法七一九条一項前段の共同不法行為は成立しない。
ウ Aは、飲酒状態(血中一ミリリットル中〇・一八ミリグラムのアルコール濃度。甲三の一三)で原告車を時速一〇〇キロメートル以上の速度で運転し(甲三の七)、運転操作を誤り、転倒して路上に仰臥した。
本件事故時は夜間であり、本件道路が幹線道路であることからすると、本件事故における被告Y2とAの過失割合は被告Y2四〇:A六〇とするのが相当である。
(2) 損害(争点三)
(原告ら)
ア Aの損害
(ア) 治療関係費 三〇万四六五八円
(イ) 逸失利益 六〇六三万八二二五円
Aは本件事故時は二〇歳の男子大学生であり、就労可能年数を六七歳までの四七年間、基礎収入を賃金センサス平成一四年第一巻第一表産業計男子大卒平均年収の六七四万四七〇〇円、生活費控除率を五〇パーセントとすると、下記計算により、逸失利益は上記金額となる。
674万4700円×(1-0.5)×17.9810=6063万8225円
(ウ) 死亡慰謝料 三〇〇〇万〇〇〇〇円
本件事故により死亡したAが被った精神的な損害は、上記金額を下回るものではない。
イ 原告X1の損害
(ア) 葬儀関係費 二八五万三一七三円
(イ) レッカー代 四万〇〇〇〇円
Aが死亡していなければ、原告車を本件事故現場からレッカー移動させる必要はなかった。
(ウ) 近親者慰謝料 五〇〇万〇〇〇〇円
ウ 原告X2の損害
近親者慰謝料 五〇〇万〇〇〇〇円
エ 原告X3の損害
近親者慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円
オ 原告X4の損害
近親者慰謝料 一五〇万〇〇〇〇円
カ 慰謝料増額事由
被告会社が被告Y1車について加入していた保険会社の担当者の原告X2に対する不当な対応、被告Y1及び被告Y2の本件事故後の不誠実な対応は慰謝料増額事由に該当する。
キ 確定遅延損害金への充当
原告X1及び原告X2は、前提事実(3)記載のとおり、被告らから損害のてん補を受けているところ、自賠責保険からの損害のてん補についての充当については、下記計算のとおりである。すなわち、被告Y1及び被告会社の損害のてん補においては、各原告への支払分が、まず、一定の各原告の損害元本についての本件事故日から自賠責保険からの支払を受けた日までの年五分の割合による遅延損害金へ充当したうえで、その残金を上記各原告の損害元本の比率に応じて各損害元本に充当し、被告Y2及び被告Y3の損害のてん補においては、各原告への支払分が、まず、一定の各原告の損害元本についての被告Y1及び被告会社の自賠責保険からの支払を受けた日から被告Y2及び被告Y3の自賠責保険からの支払を受けた日までの年五分の割合による遅延損害金へ充当したうえで、その残金を上記各原告の損害元本の比率に応じて各損害元本に充当すると解するのが相当である。
上記各原告の損害元本充当額合計=X 上記遅延損害金充当額合計=Y
(ア) 被告Y1及び被告会社
2796万3980円=X+X×0.05×195日/365日
X=2723万6431円
Y=X×0.05×195日/365日=72万7549円
(イ) 被告Y2及び被告Y3
2788万5600円=X+X×0.05×6日/365日
X=2786万2699円
Y=X×0.05×6日/365日=2万2901円
ク 弁護士費用
各原告らの本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、次のとおりである。
(ア) 原告X1 二四九万六七八五円
(イ) 原告X2 二三五万六五五五円
(ウ) 原告X3 三〇万〇〇〇〇円
(エ) 原告X4 一五万〇〇〇〇円
(被告Y1及び被告会社)
ア 原告ら主張の各損害は、治療関係費を除いて、いずれも不知又は争う。
(ア) Aの逸失利益については、本件事故時、二〇歳の大学生であり、大学卒の平均年収を基礎収入とするのは相当ではない。
(イ) 本件事故におけるA及び原告らの慰謝料総額は、二〇〇〇万円ないし二二〇〇万円が相当であるし、また、本件訴訟当事者になっていない被告会社が被告Y1車について加入していた保険会社の担当者の原告X2に対する不当な対応を慰謝料増額事由として斟酌するのは相当ではない。
イ 損害のてん補の充当方法は争わない。
(被告Y2及び被告Y3)
ア 逸失利益
死亡時から逸失利益を算定するのであれば、その基礎収入は、全労働者あるいは男性労働者の平均賃金を用いるべきである。
イ 死亡慰謝料
死亡慰謝料は本件では二〇〇〇万円が相当であり、近親者慰謝料は認められない。
本件事故がAの重大な過失に起因した後続事故であること及び被告Y2が原告ら宅を訪問し、Aへの哀悼の意を表していることからすると、慰謝料増額事由は認められない。
ウ 葬儀関係費
一五〇万円が相当である。
エ 治療関係費及び損害のてん補の充当方法は争わない。
三 因果関係
(原告ら)
甲二号証の四によれば、第二轢過とAの死亡との間には因果関係の存在が優に認められる。
本件においては、被告Y2及び被告Y3が主張するように共同不法行為によって生じた損害と共同不法行為者中の一部の者の行為によって生じた損害とを合理的に区別できるとはいえず、また、被害者保護にかんがみれば、下記被告Y2及び被告Y3が逸失利益について責任を負わないとする主張は失当である。
(被告Y2及び被告Y3)
Aの死亡の決定的要因を与えたのは第一轢過であり、第二轢過と因果関係を有する損害は、第一轢過により瀕死の重傷を負ったAの状態を更に悪化させ、死亡させたことに基づく損害に限られるので、第二轢過とAの死亡逸失利益との間に因果関係は認められるとはいえない。
共同不法行為者間に共謀等の主観的関連共同性がない場合で共同不法行為によって生じた損害と共同不法行為者中の一部の者の行為によって生じた損害とを区別できる場合には、共同不法行為者によって生じた損害についてのみ民法七一九条前段の適用があると解されるところ、仮に、第一轢過と第二轢過との間に共同不法行為が成立したとしても、上記のとおり、Aの死亡逸失利益は第一轢過によって生じたといえるので、同損害については被告Y2及び被告Y3は責任を負わない。
第三当裁判所の判断
一 争点一について
(1) 本件事故現場の状況
甲二号証の五及び六、甲一二号証の一及び二並びに丙五ないし八号証によれば、本件事故現場の状況は次のとおり認められる。
本件道路は、東西に走る国道四六四号の北側の東に向かう一方通行の二車線道路である。北側の車線(以下「第一車線」という。)及び南側の車線(以下「第二車線」という。)の幅員は約三・三メートルであり、第一車線北側には幅員約一・三メートルの路肩(以下「本件路肩」という。)が設けられ、同路肩の北側には幅員約三・三メートルの歩道(以下「本件歩道」という。)が設けられ、第二車線南側にはガードレールが設けられている。本件道路では最高速度は指定されていない。本件道路の白井市大山口方面から本件事故現場までには、約五パーセントの下り勾配があり、その後、約二パーセントの上り勾配があるが、本件事故現場付近は直線・平坦であり、進行方向の見通しは良い。しかし、照明設備が設けられていないので、夜間は暗い。本件道路の夜間の交通量は少ない。
(2) 本件事故態様
前記(1)の本件事故現場の状況並びに甲二号証の四ないし八・一〇・一一・一五・一六、甲三号証の二ないし七・一三、甲五号証、甲一二号証の一ないし三、乙三号証、丙九号証及び原告X2、被告Y1及び被告Y2の本人尋問の結果によれば、本件事故態様は次のとおり認められる。
ア Aは、平成一四年三月一五日午後一〇時三〇分ころ、自宅に帰宅した後、酒気を帯びた状態で(本件事故後採取されたAの血液には、一ミリリットル中〇・一八ミリグラムのエチルアルコールが含有していた。)、レンタルビデオ店にビデオを返却するために同店へ原告車で向がい、同店に到着してビデオを返却した後、原告車で本件道路を白石市復方面に向かって進行した。
Aは、本件事故前、本件事故現場手前付近で、時速八〇キロメートルを超える高速度で、第一車線を進行していたB運転の自動車を第二車線から追い抜いた後、本件事故現場付近で転倒し(以下「自己転倒」という。)、本件道路第二車線上(別紙図面一記載の<×>地点)に倒れ込んだ。(この点、被告らは原告車が時速一〇〇キロメートル以上の速度で進行していたと主張し、Bの警察官に対する供述調書である甲三の七にはその旨の記載もあるが、同証拠を含む本件証拠に照らしても、上記認定以上の速度を具体的に特定して認定することはできない。他方、甲一四の一及び甲一五の一ないし三によっても、甲三の七に照らせば、上記認定以下の速度を認定することもできない。)
イ Cは、Dを自宅に送るため、同人を自動車(以下「C車」という。)に乗せて、第二車線を時速約七〇キロメートル程度で進行していたところ、別紙図面一記載の<目>2地点付近で、進行車線前方に黒い物体を認めたので、第一車線に進路変更した。その後、Cは、減速して進行したところ、別紙図面一記載の<目>4地点付近で、上記黒い物体が人であることを認識し、C車を別紙図面一記載の<目>5地点付近で止めて、同人(A)を救助しようと同車から降りようとした。その際、第一轢過が発生した。
ウ 被告Y1は、被告会社から自宅に帰宅するため、被告Y1車で第二車線を時速八〇キロメートル以上の速度で進行していたところ、別紙図面二記載の<1>地点付近で、進行方向前方の第二車線上(別紙図面二記載の地点)にライトを認め、その後、別紙図面二記載の<2>地点付近で本件路肩上(別紙図面二記載の地点)に人だかりらしきものを認めたが、特段の減速措置もとらずに進行し続けた。被告Y1は、別紙図面二記載<3>地点に至って初めて、第一車線上(別紙図面二記載の<×>地点)に人らしきもの(A)が倒れていることを認識し、急制動をとったが、間に合わず、第一轢過を発生させた。
エ その後、Dは、一一〇番通報をし、Cは、C車の後に本件事故現場に来た車両の乗員たちとともに、轢過されたAのもとに駆け寄り、その後、本件事故現場に進行してくる後続車に対し停止するように合図をした。被告Y1は、被告Y1車から降りて、本件歩道に向かい、警察、救急車等の手配等は付近にいた者が行ったと認識したものの、Aに対する救護措置ないし後発事故防止のための措置等をとらず、その場でうずくまっていた。
オ 第一轢過から数分後、被告Y2は、勤務先から被告Y3宅に向かうため、被告Y2車で第二車線を時速八〇キロメートル以上の速度で進行していたところ、別紙図面三記載の<2>地点付近で、第一車線上(別紙図面三記載の地点)に人だかりを認めたが、特段の減速措置もとらずに進行を続け、別紙図面三記載の<3>地点に至って初めて、第二車線上(別紙図面三記載の<×>2地点)に被告Y1車が停止しているのを認め、急制動をしたが間に合わず、第二轢過を発生させるとともに、被告Y1車に衝突した。被告Y2は、警察、救急車等の手配等は付近にいた者が行ったと認識したもの、Aに対する救護措置をとらず、レッカー車の手配をするとともに、被告Y3に電話で本件事故の報告をした。
(甲一四の一及び甲一五の一ないし三には、被告Y2車が第一車線を通行していたところ、本件事故現場での交通整理のために第一車線が渋滞していたので、第二車線に車線変更し、高速度で進行して第二轢過を発生させた旨が記載されているが、Cの事故後の警察官に対する供述調書である甲二の一〇、丙九及び被告Y2の尋問結果に照らすと採用できない。)
カ Aは、自己転倒では致命的な損傷を負っていなかったが、第一轢過により、右胸部付近を圧迫轢過され、これにより呼吸困難となり、ほとんど死亡状態となったところ、第二轢過により、死に至らされた。
(3) 共同不法行為の成否
前記(2)の事故態様によれば、第一轢過から数分後に第二轢過が発生し、その発生場所もほぼ同一であると評価しうる。さらに、自己転倒によるAの損傷が致命的でないこと及び第一轢過直前にCらがAの救護措置を行おうとしていたことからすると、第一轢過がなければ、Aは救護されて第二轢過が発生しなかったと評価しうる。
以上によれば、第一轢過と第二轢過は、時間的場所的に近接しており、第一轢過により第二轢過が発生したと評価しうるので、第一轢過と第二轢過は共同不法行為であるといえる。
(4) 過失割合
ア 前記(2)及び(3)によれば、被告Y1は、法定速度を時速二〇キロメートル以上超過して進行し、さらに、前方を注視し、状況に応じて安全確保のために減速する等して進行すべきであったのに、これを怠ったといえるので、共同不法行為に基づく責任を負う。
そして、前提事実(1)によれば、被告会社は、被告Y1車の所有者であるから、自賠法三条の責任を負う。
イ 前記(2)及び(3)によれば、被告Y2は、法定速度を時速二〇キロメートル以上超過して進行し、さらに、前方を注視し、状況に応じて安全確保のために減速する等して進行すべきであった(第一轢渦と対比して、第二轢過直前の事故現場の状況は既にAの救護措置がとられ、さらに、後発事故防止のための交通整理も行われていたのであるから、その注意義務を果たすことは容易であったといえる。)のに、これを怠ったといえるので、共同不法行為に基づく責任を負う。
そして、前提事実(1)によれば、被告Y3は、被告Y2車の所有者であるから、自賠法三条の責任を負う。
ウ 他方、前記(2)によれば、Aは、酒気を帯びた状態で、法定速度を時速二〇キロメートル以上超過して進行し、自己転倒しており、かつ、自己転倒がなければ、第一轢過は発生しなかったといえるので(第一轢過直前は、第二轢過と異なり、Aの救護措置ないし後発事故防止のための措置が施されてはいなかったので、これに反する原告らの主張は採用できない。)、本件事故につき、Aにも過失があるといえる。
(被告Y1及び被告会社は、Aの道路交通法七二条一項違反による過失を主張しているが、本件証拠上、Aが自己転倒により傷害を負っていなかったといえないこと及び自己転倒から第一轢過までに同条項の求める措置を施すに必要な時間があったといえないことからすると、上記主張は採用できない。)
エ 前記(2)及び(3)並びに前記被告Y1、被告Y2及びAの過失によれば、第一轢過と第二轢過は、被告Y1、被告Y2及びAの過失が競合する一つの交通事故といえ、かつ、その事故の原因となった全ての過失の割合を認定することができる場合であるといえるので、被告らは、Aの過失による過失相殺をした損害賠償額について、連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものとするのが相当であり、原告らの絶対的過失相殺を行うべきではないとの主張は採用できない。
そして、Aの過失割合は、前記(1)の事故現場の状況、前記(2)の事故態様並びに前記アないしウの被告Y1、被告Y2及びAの過失内容を考慮すると二割とするのが相当である。
二 争点二について
(1) Aの損害
ア 治療関係費 三〇万四六五八円
甲一九及び弁論の全趣旨によれば、本件事故によるAの損害としての治療関係費は上記金額とするのが相当である。
イ 逸失利益 五四三六万七六七七円
甲九号証及び原告X2の尋問結果によれば、Aは本件事故時は二〇歳のa大学二年生であることが認められる。よって、Aに逸失利益を算定するに当たっては、就労可能年数は、大学卒業時二二歳から六七歳までの四五年間、基礎収入を賃金センサス平成一四年第一巻第一表産業計男子大卒平均年収の六七四万四七〇〇円、生活費控除率を五〇パーセントとするのが相当である。以上によれば、下記計算により、Aの逸失利益は上記金額となる。
674万4700円×(1-0.5)×(17.9810-1.8594)≒5436万7677円
ウ 死亡慰謝料 一六五〇万〇〇〇〇円
前記認定の本件事故態様に加え、被告Y1車につき自動車保険契約を締結した保険会社の従業員が原告X2に対し、本件事故についての損害賠償は自賠責保険の支払で終わりであり、自然消滅である旨を告げられたこと(原告X2)及び被告Y1及び被告Y2はいずれも本件事故から一年間くらいまではAの供養のために原告ら宅を訪れていたが、それ以降は訪れていないこと(被告Y1及び被告Y2)等その他一切の事情を総合考慮してAの死亡慰謝料を検討するのが相当であるところ、本件事故におけるAの死亡慰謝料としては前記金額が相当である。
エ 小計 七一一七万二三三五円
(2) 原告X1の損害
ア 葬儀関係費 一五〇万〇〇〇〇円
甲二〇号証によれば、原告X1がAの葬儀費用として二八五万三一七三円支出したことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては上記金額が相当である。
イ レッカー代 〇円
甲二号証の七に照らすと、自己転倒後、原告車を始動させることができたと認めることはできない。とすると、本件事故とレッカー代との間に相当因果関係があったとはいえない。
ウ 近親者慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円
Aは、原告X1の長男であること等諸般の事情を総合考慮すると本件事故における原告X1の固有の慰謝料は上記金額が相当である。
エ 小計 三五〇万〇〇〇〇円
(3) 原告X2の損害
近親者慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円
Aは、原告X2の長男であること等諸般の事情を総合考慮すると本件事故における原告X2の固有の慰謝料は上記金額が相当である。
(4) 原告X3の損害
近親者慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円
Aは、原告X3の弟であること等諸般の事情を総合考慮すると本件事故における原告X3の固有の慰謝料は上記金額が相当である。
(5) 原告X4の損害
近親者慰謝料 五〇万〇〇〇〇円
Aは、原告X4の兄であること等諸般の事情を総合考慮すると本件事故における原告X4の固有の慰謝料は上記金額が相当である。
(6) 小計
前提事実(2)のとおり、原告X1及び原告X2は、Aの本件事故による損害賠償請求権を二分の一の割合で相続したので、各原告らの過失相殺及び損害のてん補前の弁護士費用を除く損害賠償請求権は次のとおりである。
ア 原告X1 三九〇八万六一六七円
イ 原告X2 三七五八万六一六七円
ウ 原告X3 一〇〇万〇〇〇〇円
エ 原告X4 五〇万〇〇〇〇円
(7) 原告X1加入の健康保険からの求償金支払に基づく損益相殺及び過失相殺後の小計
前提事実(3)記載の原告X1加入の健康保険からの求償金支払二四万三七二八円についての原告X1及び原告X2における損益相殺は過失相殺前に行い、その損益相殺額は、相続分に応じて、上記各原告に上記金額の二分の一ずつとするのが相当である。そして、前記一認定のとおり、本件事故におけるAの過失割合は二割なので、上記損益相殺後に、その過失割合に基づいて過失相殺をすると、各原告らの弁護士費用を除く損害のてん補前の損害賠償請求権は次のとおりとなる。
ア 原告X1 三一一七万一四四二円
イ 原告X2 二九九七万一四四二円
ウ 原告X3 八〇万〇〇〇〇円
エ 原告X4 四〇万〇〇〇〇円
(8) 自賠責保険からの損害てん補後の総計
ア 原告X1及び原告X2は、前提事実(3)記載のとおり、被告らから損害のてん補を受けているところ、自賠責保険からの損害のてん補については、原告ら主張のとおり、下記計算式のとおりとする。すなわち、被告Y1及び被告会社の損害のてん補においては、各原告への支払分が、まず、一定の各原告の損害元本についての本件事故日から自賠責保険からの支払を受けた日までの年五分の割合による遅延損害金へ充当したうえで、その残金を上記各原告の損害元本の比率に応じて各損害元本に充当し、被告Y2及び被告Y3の損害のてん補においては、各原告への支払分が、まず、一定の各原告の損害元本についての被告Y1及び被告会社の自賠責保険からの支払を受けた日から被告Y2及び被告Y3の自賠責保険からの支払を受けた日までの年五分の割合による遅延損害金へ充当したうえで、その残金を上記各原告の損害元本の比率に応じて各損害元本に充当する。
上記各原告の損害元本充当額合計=X 上記遅延損害金充当額合計=Y
(ア) 被告Y1及び被告会社
2796万3980円=X+X×0.05×195日/365日
X=2723万6431円
Y=X×0.05×195日/365日=72万7549円
(イ) 被告Y2及び被告Y3
2788万5600円=X+X×0.05×6日/365日
X=2786万2699円
Y=X×0.05×6日/365日=2万2901円
(ウ) 各原告の損害元本充当額(四捨五入)
a 原告X1 二八〇九万〇二五七円
(2723万6431円+2786万2699円)×3117万1442円/(3117万1442円+2997万1442円)≒2809万0257円
b 原告X2 二七〇〇万八八七三円
(2723万6431円+2786万2699円)×2997万1442円/(3117万1442円+2997万1442円)≒2700万8873円
イ 以上によれば、過失相殺及び損害のてん補後の各原告らの弁護士費用を除く損害賠償請求権は次のとおりとなる。
(ア) 原告X1 三〇八万一一八五円
(イ) 原告X2 二九六万二五六九円
(ウ) 原告X3 八〇万〇〇〇〇円
(エ) 原告X4 四〇万〇〇〇〇円
(9) 弁護士費用
以上によれば、本件事故による原告らの弁護士費用を除く損害賠償債権額は、原告X1三〇八万一一八五円、原告X2二九六万二五六九円、原告X3八〇万円及び原告X4四〇万円となるところ、各原告らの本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、次のとおりである。
ア 原告X1 三一万〇〇〇〇円
イ 原告X2 三〇万〇〇〇〇円
ウ 原告X3 八万〇〇〇〇円
エ 原告X4 四万〇〇〇〇円
(10) まとめ
以上によれば、各原告らの本件交通事故による損害賠償請求権は次のとおりとなる。
ア 原告X1 三三九万一一八五円
イ 原告X2 三二六万二五六九円
ウ 原告X3 八八万〇〇〇〇円
エ 原告X4 四四万〇〇〇〇円
三 争点三について
前記一(2)カ認定の事実に照らすと、第一轢過によってのみAの死亡による逸失利益の損害が発生したとまではいえず、同認定事実によれば、第二轢過とAの死亡による損害である逸失利益との間に相当因果関係があるといえるので、本件争点についての被告Y2及び被告Y3の主張は採用できない。
第四結論
以上の次第で、原告らの請求は、主文の限度で理由があるので、その限度において認容し、その余の点については理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 蛭川明彦)
別紙 図面1 交通事故現場見取図(その2)
<省略>
別紙 図面2 交通事故現場見取図(その3)
<省略>
別紙 図面3 交通事故現場見取図(その4)
<省略>