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東京地方裁判所 平成16年(ワ)25167号 判決 2005年2月01日

千葉県松戸市<以下省略>

原告

同訴訟代理人弁護士

荒井哲朗

國吉朋子

東京都世田谷区<以下省略>

(登記簿上の住所)東京都新宿区<以下省略>

被告

リベラインベスティメント株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

岩井昇二

主文

1  被告は,原告に対し,金1780万0692円及びこれに対する平成16年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,外国為替証拠金取引の精算金の支払を求めた事案である(なお,原告は,同取引が無効であることを前提とした不当利得返還請求を,本訴請求に選択的に併合している。)

1  争いのない事実等(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  原告は,平成16年3月15日から同年9月21日まで,被告との間で,外国為替証拠金取引(以下「本件取引」という。)を行い,その間,合計約2700万円を被告に交付した(甲1,2,弁論の全趣旨)。

被告は,金融商品販売に関する,いかなる免許,許可及び登録も有しない。

(2)  原告訴訟代理人弁護士荒井哲朗(以下「荒井弁護士」という。)は,原告の代理人として,平成16年9月21日付け内容証明郵便をもって,本件取引の精算金(以下「本件精算金」という。)を同月29日までに支払うよう求めたが,同時に,同精算金請求は,被告の本件取引における違法性を追認するものではないとも指摘した。

(3)  被告は,平成16年9月24日,原告に対し,本件取引を同月22日をもって終了したとして,委託証拠金及び差引損益金通算額(本件精算金)は1780万0692円である旨を通知した。

(4)  被告代表取締役A(以下「A」という。)及び被告日本橋兜町支店相談室室長のB(以下「B」という。)は,平成16年9月29日,荒井弁護士の事務所を訪れ,本件精算金は1780万円余りであると述べ,同額の一万円券札束その他の金銭を机に積み上げ,「取引損の返還を求めないと言うのでなければ精算金の返還をしないように顧問弁護士に言われている,我々は顧問弁護士の言葉に従うだけである。」と述べた。

なお,Bは,荒井弁護士との交渉前に,被告訴訟代理人岩井昇二弁護士(以下「岩井弁護士」という。)に相談していた(乙13)。

(5)  荒井弁護士は,原告の代理人として,平成16年10月5日付け内容証明郵便をもって,岩井弁護士に対し,返還義務に疑いのない本件精算金を返還しないA及びBの上記(4)の行為が岩井弁護士の指示であるとすると,同指示はA及びBの違法な横領行為を教唆したものであるから,同指示を撤回することを求めるとともに,撤回しない場合には,岩井弁護士に対しても損害賠償請求することもありうる旨通知した(乙12)。

(6)  岩井弁護士は,平成16年10月8日付けの書面をもって,荒井弁護士に対し,違法な横領行為との同弁護士の主張は非常識なものであって,被告は本件精算金の返還そのものを否定したことは一度もなく,合意後に支払うと提案しているだけである旨通知した(乙13)。

(7)  原告は,被告の商業登記事項証明書を入手できなかったことから,平成16年10月12日,被告と名称が類似するリベラインベスト株式会社(以下「リベラインベスト」という。),A及びBを被告として,同人らが返還義務に争いがない精算金を詐取ないし違法に領得したとして,当庁に1780万0692円に弁護士費用180万円を加えた1960万0692円の損害賠償を請求する訴訟(当庁平成16年(ワ)21589号。以下「別訴」という。)を提起した。なお,リベラインベスト及び被告の本店所在地は,いわゆるレンタルオフィスであり,細かく仕切られた複数のブース様の小部屋があるが,被告会社名を含め,いかなる会社名も表示されていない。

別訴において,リベラインベスト,A及びB(以下「別訴被告ら」という。)は,岩井弁護士を訴訟代理人として選任し,平成16年11月16日の別訴第1回口頭弁論期日において,別訴被告らは,陳述したものとみなされた答弁書において,上記(2)及び(3)の事実を認めると答弁した(甲1,2,当裁判所に顕著)。

(8)  原告は,被告の商業登記事項証明書を入手できたとして,平成16年11月26日,本訴を提起した。

2  原告の本訴請求

原告は,被告に対し,本件精算金1780万0692円及び被告が同額の本件精算金の支払義務を自認した日(上記1(4))の翌日である平成16年9月30日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払を求める。

3  被告の主張

(1)  被告は,原告の手仕舞い請求に応じた結果,精算金の額が1780万0692円となった事実のみを認めているにすぎず,同額を返還すべきであると認めたことはない。

(2)  取引の解消は自由であるが,本件精算金の返還時期及び額は,取引当事者の話し合いによって決まるものであり,被告は,交渉当初から,原告が,後に取引損等についての損害賠償請求をしないのであれば,本件精算金1780万0692円を支払うと述べており,原告が取引損についての損害賠償請求に固執しているので,取引損についての話し合いができたときに,本件精算金も支払うと言っているのである。

(3)  原告による本件取引の一方的な解消により,被告側に得べかりし手数料の損害が発生する。

第3当裁判所の判断

1  前記争いのない事実等を総合すれば,原告は,平成16年9月21日,被告に対し,本件取引の解消を申し出るとともに,本件精算金の支払を求めたところ,被告は,同月22日で本件取引の終了を確認するとともに,被告の計算に基づいて本件精算金を1780万0692円であると算出し,同月29日,被告代表取締役のAは,原告代理人の荒井弁護士に対し,同弁護士の事務所において,1780万円余りの現金を積み上げた上,取引損の請求をしないのであれば本件精算金を返還するが,そうでなければ,返還できないと述べたことが認められ,以上の事実によれば,被告は,原告に対し,本件精算金1780万0692円を支払うべき義務があり,被告は,平成16年9月29日,同支払義務を自認したものというべきである。

被告の主張(1)は,本件精算金の額が1780万0692円であることを自認するものであり,被告の本件精算金の支払義務を基礎付けるものとなる一方,原告の請求を妨げる理由となるものではない。

被告は,その主張(2)において,原告が取引損の請求をしないことを確認し,原告の本件取引による損害を含めたすべての精算が終了しない限り,本件精算金を支払うべき義務はない旨主張するようであるが,本件取引が終了し,被告の計算によって本件精算金の額が確定した以上,被告が本件取引によって原告が被った損失を返還ないし賠償すべき義務があるか否かにかかわらず,被告は,原告に対し,本件精算金を支払うべき義務があることは明らかである。

被告は,原告による本件取引の一方的な解消により,被告側に得べかりし手数料の損害が発生するとも主張するが(被告の主張(3)),一方で,本件取引の解消は自由であるとも述べており(被告の主張(2)),主張自体矛盾しているとともに,原告が被告に対する取引損の請求をしないのであれば本件精算金を全額支払うという自らの主張とも相容れず,また,被告の得べかりし手数料が損害となる法律上の根拠が明らかでなく,いずれにしろ失当である。

なお,審理経過にかんがみ付言するに,原告は,別訴において別訴被告らが本件精算金の支払義務自体は認めるかのような答弁をしていることを指摘した上,本件訴訟の早期終結を強く求めたため,当裁判所も,被告代表者Aが原告代理人との本件精算金の返還交渉に関与していることや(争いのない事実等(4)),岩井弁護士が,同交渉当初からBの相談に応じており(争いのない事実等(6)),別訴において別訴被告らの訴訟代理人として既に答弁書を提出していることなどを考慮し,被告において本件精算金の支払義務を争うのであれば,その主張の骨子は現段階においても十分主張可能であると判断し,第1回口頭弁論期日において,被告らの計算によって算出された本件精算金1780万0692円の支払義務を争うのであれば,支払義務を否定する法的根拠の骨子を主張するよう再三にわたって求めたのに対し,被告は,被告の主張として摘示した主張を陳述するにとどまったことから,裁判をするのに熟したと判断して口頭弁論を終結したものである。

2  以上によれば,原告の被告に対する本件精算金の請求は全部理由があるから,主文のとおり判決する(選択的併合の関係にある不当利得返還請求について判断する必要はない。)。

(裁判官 春名茂)

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