東京地方裁判所 平成16年(ワ)26394号 判決 2006年3月24日
原告
X1
原告
X2
上記二名訴訟代理人弁護士
鍛治利秀
同
山田勝彦
被告
株式会社RFN
同代表者清算人
C
同訴訟代理人弁護士
飛田秀成
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
1 被告は、原告X1に対し、一三七二万六二三六円及びこれに対する平成一六年一二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告X2に対し、三〇三万二八二〇円及びこれに対する平成一六年一二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告の開設した寮の寮監・寮母として、その業務に従事していた原告ら夫婦が、被告に対し、解雇予告手当、時間外労働賃金、付加金及び補助金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(証拠を摘示した点を除き、争いがない)
(1) 被告(旧商号株式会社両国スクール)は、予備校(両国予備校)の経営等を目的とする株式会社であり、予備校の生徒のために寮を開設していたが、平成一七年八月二日、株主総会の決議により解散した。
(2) 原告X1(以下「原告X1」という)及び原告X2(以下「原告X2」という)は夫婦である。
原告らは、平成六年六月二六日、両国予備校を経営する株式会社総合学院に入社し、東京都葛飾区(以下略)所在の寮(寮名略)の寮監・寮母として、住込みでその業務に従事するようになった。
原告らは、その後、両国予備校の経営が平成一一年に株式会社両国教育事業団へ、平成一三年には株式会社両国総合教育へ引き継がれたことに伴い、その都度、旧会社を三月三一日付けで期間満了により退職した上、新会社と四月一日付けで雇用契約を締結するなどしていた。
原告らは、平成一五年に被告が両国予備校の経営を引き継いだことから、株式会社両国総合教育を期間満了により退職し、同年四月一日、被告と雇用期間を一年間とする雇用契約を締結して(以下「本件雇用契約」という)、引き続き、寮監・寮母の業務に従事していた。
(3) 被告は、平成一六年三月二八日、原告らに対し、同月三一日をもって、期間満了により本件雇用契約を終了し、同年四月一日以降、雇用契約を締結しない旨通知した(証拠(略)、以下「本件雇止め」という)。
2 原告らの主張
(1) 解雇予告手当(原告ら)
ア 本件雇用契約は、毎年、当然に反復更新されてきたのであって、実質的には期間の定めのない契約といえるし、原告らの雇用継続に対する期待には合理性がある。
したがって、本件雇止めは、実質的には解雇というべきであるが、被告は、原告らに対し、労働基準法二〇条に規定する解雇予告手当の支払をしない。
なお、原告X1の一か月分の賃金相当額は二六万九九一〇円(基本給一九万五一一〇円、授業手当一万三五〇〇円、みなし手当五万三五〇〇円、食事手当七八〇〇円)、原告X2の同賃金相当額は二五万六四一〇円(基本給一九万七八七〇円、みなし手当五万〇七四〇円、食事手当七八〇〇円)である。
イ 被告は、原告らが期間満了により退職したとし、本件雇止めも、被告の運用基準(以下「本件運用基準」という)に基づくもので合理的と主張する。
しかしながら、本件雇用契約は、実質的に雇用主が変更されることなく、反復更新されてきたものであるし、本件運用基準が、原告らに示されたこともないのであって、被告の主張には理由がない。
ウ なお、原告らは、被告に対し、労働基準法一一四条に基づき、解雇予告手当(原告X1二六万九九一〇円、原告X2二五万六四一〇円)と同額の付加金を付して支払うよう求める。
(2) 時間外労働賃金(原告X1)
ア 寮監の始業時刻は午前五時、終業時刻は午後八時三〇分(休憩時間午前七時三〇分から午後四時三〇分まで)であるが、原告X1は、就業時間にかかわりなく、寮生の出席状況の報告、郵便物等の整理、寮生の帰寮時間の確認、夕食の世話、学習の監督、寮内の巡回、学習終了の確認、来訪した父母への対応、電話の取次ぎ等の業務に従事していた。原告X1は、このように、被告から、常時、寮生の管理監督を命じられ、寮を外出することも禁止されていたのであって、その実労働時間は、少なくとも一五時間三〇分(通常の場合)あるいは一八時間(寮生の自宅学習日等の場合)に及ぶ。
原告X1の平成一四年四月から平成一六年三月までの時間外労働時間は、別紙(略)(労働時間欄の「A」は実労働時間を一五時間三〇分と、同「B」は一八時間と、同「C」は六時間三〇分とするものである)のとおりであり、支払済みのみなし手当を控除すると、その時間外労働賃金残額は少なくとも六八四万三五〇二円となる(一時間当たりの割増賃金額は一三二六円)。
イ なお、原告X1は、被告に対し、労働基準法一一四条に基づき、時間外労働賃金の一部五三三万三二〇八円について、これと同額の付加金を付して支払うよう求める。
(3) 補助金(原告ら)
ア 原告らは、寮内の居室を住居として無償で使用していたが、被告は、平成九年四月、住居費として月額各三万円を賃金から控除する代わりに、原告らに対し、これに相当する金額を補助金として支払う旨約束した。
イ 原告らの平成九年四月から平成一六年三月までの補助金の合計額は、各二五二万円となる。
よって、原告X1は、被告に対し、合計一三七二万六二三六円(解雇予告手当二六万九九一〇円、同付加金二六万九九一〇円、時間外労働賃金の一部五三三万三二〇八円、同付加金五三三万三二〇八円、補助金二五二万円)及びこれに対する平成一六年一二月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告X2は、被告に対し、合計三〇三万二八二〇円(解雇予告手当二五万六四一〇円、同付加金二五万六四一〇円、補助金二五二万円)及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張
(1) 解雇予告手当(原告ら)
ア 被告は、平成一五年四月一日、原告らと雇用期間を一年間とする雇用契約(本件雇用契約)を締結したが、生徒数の減少に伴い、順次、寮の閉鎖を進めていたこともあって、本件運用基準に基づき、原告ら及び他の二組の寮監・寮母とは、再度、雇用契約を締結しないこととし、事前に被告の経営状況や雇止め実施の可能性を説明した上、平成一六年三月二八日、原告らに対し、同月三一日をもって、期間満了により本件雇用契約を終了し、同年四月一日以降、雇用契約を締結しない旨の通知をした(本件雇止め)。
イ 原告らは、本件雇用契約は期間の定めのない契約であると主張するが、上記1(2)のとおり、原告らは、両国予備校の経営主体が変更となる都度、旧会社を期間満了により退職し、改めて新会社と雇用契約を締結していたのであるし、本件雇用契約についても、原告らは、平成一六年二月二六日ころ、被告に対し、同年三月三一日をもって期間満了により退職する旨の退職届を提出しているのであって、原告らの主張に理由はない。
(2) 時間外労働賃金(原告X1)
ア 原告X1は、平日、休日(土曜日)にかかわりなく、一五時間三〇分あるいは一八時間の業務に従事したと主張する。
しかしながら、原告X1の主張する業務は、寮監に義務付けられていたものばかりではないし、いずれにしても所定労働時間内に対処可能な業務である。原告X1は、被告から、常時、寮生の管理監督を命じられ、寮を外出することも禁止されていたと主張するが、被告が、このような指示命令をした事実も、寮からの外出を禁止していた事実もない。
イ なお、寮監の場合、寮生の休日(原則として一週間に一日)には、休憩時間中であっても、弁当の配膳等を行う必要があるほか、不定期に業務が発生することがあるが、被告においては、このような事態を想定して、被告教職員代表との間で「寮監寮母の学生寮におけるみなし勤務時間の協定書」を締結し、一日につき二時間三〇分以内、一か月につき三〇時間、業務に従事したものとみなして、二割五分増しの賃金(みなし手当)を支払っている。
原告X1の時間外労働時間は、上記みなし勤務時間の範囲内である。
仮に、原告X1主張のとおり、これを超えて業務に従事した事実があるとしても、その時間外労働賃金は平成一四年一一月から平成一五年三月までで九一五四円(一時間当たりの割増賃金額は二三八三・七五円)、同年四月から平成一六年三月までで五万六八九四円(一時間当たりの割増賃金額は二三五八・七五円)に止まる上、原告X1が、所定労働時間内に行うべき業務を、ことさらに時間外に行っていることを考えると、その時間外労働賃金の請求は権利の濫用というべきである。
ウ 原告X1の賃金は、毎月二〇日締めの当月二五日払であるから、平成一四年一一月二五日払分以前の賃金については時効により消滅している。
被告は、本訴において、この消滅時効を援用するとの意思表示をする。
(3) 補助金
ア 被告は、原告らに対し、寮内の居室(事務室兼居室、寝室、納戸)等を無償で使用させていたが、税務や厚生年金の処理に不都合が生じたことから、平成九年四月から、基本給や手当の増額によって、その手取額に変更が生じないよう可及的に配慮した上、原告らの賃金から住居費として各二万円を、平成一〇年四月からは、みなし手当の創設に伴い、各三万円をそれぞれ控除することとしたのであって、被告が、原告らに対し、補助金の支払を約束した事実はない。現に、平成九年四月以降、住居費の控除にもかかわらず、原告らの手取額は増加している(平成一〇年四月以降については、若干の減額となっているものの、これは所得税の増加によるもので支給総額自体は増額となっている)。
イ なお、原告らの補助金支払請求は、実質的に賃金の支払請求というべきであるところ、上記(2)ウのとおり、平成一四年一一月二五日払分以前の賃金については時効により消滅している。
被告は、本訴において、この消滅時効を援用するとの意思表示をする。
第三当裁判所の判断
1 解雇予告手当について
(1) 原告らは、本件雇止めは、実質的には解雇であるとして、解雇予告手当の支払を求める。
確かに、原告らは、平成六月六月二六日に株式会社総合学院に入社して以来、一年ごとに退職届の提出と採用の申入れをして雇用契約の更新を繰り返しながら、約一〇年間にわたり、特定の寮に住み込み、寮監・寮母として業務に従事してきたのであり(原告らは、両国予備校の経営主体が変更となる都度、旧会社から退職し、新会社と改めて雇用契約を締結するなどしているものの、この変更は、専ら財務会計処理上の都合によるもので、実質的に経営主体に変更はない(被告代表者))、これをもって、本件雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となったとまでいえないとしても、原告らの雇用継続に対する期待を不合理ということもできない。
(2) ただ、そうであるとしても、被告は、これまでも生徒数の減少に対応し、寮の閉鎖を進めてきたものである上、平成一七年には両国予備校自体が閉鎖となり、同年八月二日、株主総会決議により解散するに至っていること(書証(略)、被告代表者)、また、原告らの年齢(平成一六年当時、いずれも七三歳)や原告らが自宅を有していることなどに照らすと(証拠略)、被告が、本件雇止め後、他寮から配置換え予定の寮監が、病気を理由に、これを辞退するに至ったため、急遽、新たに寮監を採用していることなど(被告代表者)を考慮しても、本件雇止めを権利の濫用とまでいうことはできないし、そもそも、労働基準法二〇条に定める解雇予告は、突然の解雇による労働者の生活の困窮の緩和とその保護を目的とするものであることを考えると、契約期間を一年間とする本件雇用契約が期間満了により終了し、原告らにおいても、被告に退職届を提出している本件においては(書証略)、いずれにしても、被告に解雇予告手当の支払義務を認めることはできないというべきである。
(3) よって、原告らのこの点に係る請求は、付加金を含め理由がない。
2 時間外労働賃金について(原告X1)
(1) 原告X1は、寮監として、就業時間にかかわりなく、様々な業務に従事していたのであり、被告から寮生の管理監督を命じられ、寮からの外出も禁止されていたと主張する。
確かに、被告の「学生同仁寮規則」、「学生同仁寮細則」は、寮生活上の決まりを詳細に定めているほか、「寮生心得」には、寮監が午後一一時以降も部屋を巡回することがあるとの定めもあるが(書証略)、これらは寮生が遵守すべき事項であり、上記の定めがあるからといって、被告が、原告X1ら寮監に対し、一定の業務を指示命令したことにはならないし、実際、被告が、原告X1に対し、個別具体的に業務の遂行を指示命令した事実も、被告教育指導部への届出を要する場合があるとはいえ、寮からの外出を禁止していた事実も認められないのである(証拠略)。
いずれにしても、原告X1の主張は、その実労働時間を開寮日や夏休み・冬休み等を除き、パート従業員の就業状況(書証略)、寮監の休日に関係なく、一律に一五時間三〇分あるいは一八時間とするもので、タイムレコーダー等による労働時間の管理が実施されていないことを考慮しても、あまりに概括的であり、原告X1作成の寮監日誌(ただし、平成一五年二月分、同年三月分及び一六年二月分及び同年三月分については作成されていない)の記載とも合致しないのであって(書証略)、原告X1において、その主張するとおりの時間、業務に従事したと認めることは困難というほかない。
(2) もっとも、原告X1が、各種確認や報告のほか、寮内の巡回、電話応対、郵便物の整理等の業務に従事していたこと、寮生の休日には、休憩時間中にも弁当の配膳等の業務を遂行しなければならないこと、そして、寮監について、来訪者への対応や電話の取次ぎ等、不定期に業務が発生し得ることは、被告も否定しない。
ただ、上記の日常の業務は、本来、所定労働時間中に十分行うことができるものである上(書証(略)、被告代表者)、被告においても、不定期に発生する業務を想定して「寮監寮母の学生寮におけるみなし勤務時間の協定書」(書証略)を被告教職員代表と締結し、一日二時間三〇分以内、一か月三〇時間勤務したものとみなして手当を支払うこととし、原告X1に対しても、現に月額五万〇一七〇円ないし五万三〇三〇円(書証(略)、原告X1主張の一時間当たりの割増賃金額一三二六円を前提とすると、これは月約三七・八時間ないし約三九・九時間の勤務時間に相当するものである。原告X1は、上記協定書を見たことはないと供述するが、同原告も被告教職員代表の選任手続が実施されたことを否定するものではないし、みなし手当が時間外手当に相当することについても争ってはいない)が支払われていることに照らすと、やはり、原告X1の請求には理由がないというべきである。
(2) よって、その余の点について判断するまでもなく、原告X1の時間外労働賃金及び付加金の請求については理由がない。
3 補助金について
(1) 原告らは、被告が、原告らの賃金から住居費を控除することとした際、その相当額を補助金として支払う旨約束したと主張し、原告X1も、その旨供述する(原告X1本人)。
(2) しかしながら、被告は、従前、原告ら寮監・寮母に対し、無償で居室を使用させていたところ、この取扱いは税務処理上も、厚生年金等の処理上も不都合であったことから、基本給の増額、各種手当の支給により、その手取額に著しい変更がないよう配慮した上、住居費をその賃金から控除することにしたというのであり、現に、原告らの手取額には、住居費を徴する前後でほとんど変化がないこと(書証(略)、被告代表者、むしろ、若干増額となったときもある)に照らすと、被告が、補助金を支払う旨の約束をするとは考えられない。原告らは、平成九年に住居費の控除が開始された後、一度も補助金の支払を受けていないにもかかわらず、本訴に至るまで、格別これを請求したりしていないことにもかんがみると、原告X1の供述を採用することはできず、補助金の支払に係る約束を認めることはできない。
4 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 森冨義明)
<別紙略>