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東京地方裁判所 平成16年(ワ)27574号 判決 2005年5月13日

原告

A管理組合管理者

柴田昇

同訴訟代理人弁護士

御園賢治

川嶋義彦

池田里江

遠藤由美子

木嶋純子

被告

甲野太郎

主文

1  原告は,被告が有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地権について競売を申し立てることができる。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

1  原告は,主文第1,第2項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め,次のとおり請求原因を述べた。

(1)  当事者等

ア  原告は,別紙物件目録記載の一棟の建物(以下「本件マンション」という。)の区分所有者であり,かつ,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条に基づいて構成された本件マンションの管理組合(A管理組合,以下「本件管理組合」という。)の組合員である。また,原告は,本件管理組合の理事長であり,区分所有法に定める管理者である。

イ  被告は,平成12年3月15日以降,別紙物件目録の専有部分の建物(以下「本件マンション○○号室」という。)の区分所有権及びその敷地権を有している者である。

(2)  被告の管理費等の滞納

本件マンションの区分所有者は,本件マンションの管理規約により,本件管理組合に対して,管理費,修繕積立費,専用庭使用料,専用駐車場使用料(以下「管理費等」という。)を支払うこととされている。

しかし,被告は,平成12年10月分から平成15年7月分までの34か月分の管理費等合計117万7420円を支払わなかった。

(3)  被告の対応

ア  本件管理組合は,平成12年11月ころから平成15年7月ころまでの約3年間,被告に対し,管理会社を通じて,繰り返し,未払管理費等を支払うよう請求した。これに対し,被告は,管理費等を支払うことができない事情や支払を拒絶する理由を明らかにせず,未払管理費等を支払う気配を見せなかった。

イ  そのため,本件管理組合は,被告に対し,平成15年8月5日,未払管理費等の支払を求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成15年(ワ)第17967号マンション管理費等請求事件)。同訴訟については,被告が請求原因事実を認めたため,平成15年10月20日,本件管理組合の請求を全部認容する判決が言い渡された。

ウ  ところが,被告は,前記イの判決の後も,未払管理費等を支払わなかった。そのため,原告らは,平成15年11月から,話し合いを求めて週に約1回の頻度で,被告に電話をかけあるいは被告方を訪問するなどした。しかし,そのほとんどの場合において,被告は居留守を使い対応しなかった。

エ  本件管理組合は,被告に対し,後記(5)の集会決議に先立つ平成16年7月16日,あらかじめ,弁明書の提出を求めた。

これを受けて,被告は,同月28日,同年3月18日に心不全で倒れたため収入がなくなり,管理費等を支払うことができなかったが,今後は管理費等を支払うつもりであるし,未払管理費等についても分割で支払っていくという内容の弁明書を提出した。しかし,被告は,今後の支払については「払う払う」の一点張りで具体的な支払方法を提案することはなかった。

オ  そこで,本件管理組合は,平成16年8月6日,上記イの判決を債務名義として,被告の預金債権の差押えを申し立てた。これに対し,被告は,同月17日,原告代理人の事務所に対し,脅迫的な電話を掛けた上,「おい御園!生活費の金,返せ!ふざけるな!!甲野。」(「御園」とは原告代理人の姓である。)と記載したファクシミリ文書を送信した。その後,本件管理組合は,同年9月7日,上記申立てによって得た債権差押命令に基づき,第三債務者より30万9195円を取り立て,その翌日,再度預金債権の差押えを申し立てたが,被告の銀行口座に預金がなかったため,強制執行は不奏功に終わった。

(4)  被告の管理費等の支払状況

前記(3)イの判決の後本件訴訟提起までの間の被告の管理費等の支払状況は,別紙支払明細目録及び別紙管理費等計算書記載のとおりであり,不払の期間は合計50か月にのぼる。

(5)  他の方法による回収の可能性がないこと

本件マンション○○号室の時価は約1800万円であるところ,本件マンション○○号室には,既に,第1順位で債権額3070万円の抵当権設定登記,第2順位で債権額120万円の抵当権設定仮登記,第3順位で条件付賃借権設定仮登記(金銭消費貸借の債務不履行を条件とする),第4順位で債権額1000万円の抵当権設定仮登記がある。

以上から,本件管理組合が区分所有法7条による先取特権又は前記(3)イの判決に基づいて本件マンション○○号室及びその敷地権の競売,強制競売を申し立てたとしても,無剰余による取消しとなる可能性が高い。

(6)  本件訴訟の提起に関する集会の特別決議(区分所有法59条1項,同条2項,58条2項)

本件管理組合は,総議決権保有者数は64名で,総区分所有者数は63名であるところ,このうち56名が,平成16年7月31日開催の本件管理組合の集会に出席し(出席者14名,委任状による出席者42名),出席者が全員一致して本件訴訟を提起することを決議した。

(7)  訴訟追行者に関する集会の決議(区分所有法59条2項,57条3項)

平成16年12月12日開催の本件管理組合の集会に,上記総議決権保有者のうち57名(出席者19名,委任状による出席者38名),上記区分所有者のうち56名(出席者18名,委任状による出席者38名)が出席し,出席者が全員一致して,原告が他の区分所有者の全員のために本件訴訟を提起することができる旨を決議した。

(8)  被告の本件訴訟における応訴態度

被告は,本件訴訟において,裁判所に対し,本件第1回口頭弁論期日の前日の午後10時過ぎに,風邪のため同期日に出席できないが,1日ないし2日のうちに未払管理費等の全額を振り込むつもりであるとも読めるファクシミリ文書を送信し,同期日に出席しなかった。

しかし,被告は,平成17年2月28日に,本件管理組合に対して,1か月分の管理費等(駐車場使用料を除く。)相当額である1万4630円を振り込んだにとどまる。

(9)  以上の事実によれば,被告の管理費等の不払は,「区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法59条1項,57条1項,6条1項)に該当し,これにより,「区分所有者の共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難」(同法59条1項)な状態が生じていることは明らかといえる。

よって,原告は,同条項に基づく競売を請求する。

2  被告は,適式の呼出しを受けながら,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって,被告において請求原因事実を明らかに争わないものとして,これを自白したものとみなす。

3  以下,本件訴訟における区分所有法59条1項に規定する要件の有無について検討を加える。

ア 請求原因(2)及び(4)の事実(上記のとおり当事者間に争いがない。以下の請求原因事実について同様。)によれば,被告は,本件マンションの管理運営のために区分所有者が共同して負担しなければならない管理費等を前記のとおり長期にわたり滞納し続けており,その未払管理費等は多額にのぼるのであって,被告のこのような行為は,「建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」(区分所有法59条1項,57条1項,6条1項)に該当すると認められる。

イ また,請求原因(3)のとおりの未払管理費等についての被告の対応や同(8)のとおりの被告の応訴態度に照らせば,被告からの任意の支払がされる見込みはなく,今後とも被告の管理費等の不払額は増大する一方であると推認できるところ,同(3)及び(5)のとおり,本件管理組合は採り得る手段のほとんどすべてを講じている上,仮に区分所有法7条による先取特権又は前記(3)イの判決に基づいて,本件マンション○○号室及びその敷地権の競売を申し立てたとしても,被告の未払管理費等を回収することは前記のとおり困難であるというほかないから,被告の上記アの行為により「区分所有者の共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難」(区分所有法59条1項)な状態が生じていると認めることができる。

ウ  そうすると,本件訴訟においては,区分所有法59条1項に規定する要件をみたすものと認めることが相当である。

4  以上によれば,原告の被告に対する本件請求は理由があるから認容し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用し,仮執行の宣言については性質上付することができないので付さないこととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・小池一利,裁判官・西村欣也,裁判官・百瀬梓)

別紙

物件目録<省略>

支払明細目録<省略>

管理費等計算書<省略>

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