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東京地方裁判所 平成16年(刑わ)598号 判決 2004年12月17日

主文

被告人A及び被告人Bをそれぞれ懲役6年に,被告人Cを懲役5年に処する。

被告人らに対し,未決勾留日数中各120日を,それぞれその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人Aは,特定非営利活動法人D1研究会会長であるもの,被告人Bは,同研究会代表者理事長であるもの,被告人Cは,平成13年3月16日から平成15年3月21日までの間,同研究会理事であったものであるが,被告人3名は,

第1株式会社D2から株式会社D3が宅地造成工事を請け負った千葉県八街市の特定事業場に改良土が不法投棄されているとの因縁をつけ,株式会社D3から金員を喝取しようと企て,共謀の上,

1  平成13年7月11日,東京都新宿区所在の当時の株式会社D2本社内において,当時の同社用地開発部長E1,株式会社D3代表取締役E2及び同社取締役E3に対し,「D1研究会の調査ではあそこの現場は違反している。うちには政治家がついているし,県はうちの言うことは何でも聞くから,改良土だといっても現場から持ち出させるようにできる。うちの指導に従えば違反じゃなくなる。」などと伝えた上で,さらに,同月17日,東京都中央区所在のF1ホテル1階ロビーラウンジ「F2」店内において,E3に対し,「D1研究会の会員になれ。指導料として300万円払え。県に圧力をかけておまえのところの改良土は全部運び出させてやるぞ。街宣をかけて運び出させてやるぞ。そうなったら損をするのはどっちだ,株式会社D2かおまえのところか。うちの会員になれば損をしないですむぞ。」などと言って金員の交付を要求し,この要求に応じなければ,株式会社D3及び株式会社D2の財産等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示してE3らを畏怖させ,よって,同月18日,上記「F2」店内において,E3から現金100万円の交付を受けてこれを喝取し

2  平成13年7月下旬から同年8月上旬の間,多数回にわたり,上記特定事業場内の現場事務所などに電話をかけ,E3に対し,「株式会社D2とD4倉庫の分を払え。D4倉庫も社長は株式会社D3と一緒だろう。株式会社D2の分で1000万だ。お前のところは株式会社D2から任されているんだろう。うちの話が分からないなら株式会社D2やD4倉庫に街宣をかける。」などと言い,さらに,同月6日,東京都中央区F3ビル4階所在のD1研究会事務所において,E2に対し,「株式会社D2の分で,1000万円払ってくれ。」などと言い,E2が200万円以上は払えない旨答えると,「200万円でいいが,今日中にくれ。」などと言って金員の交付を要求し,前記第1の1同様の気勢を示してE2らを畏怖させ,よって,同月7日,千葉県市川市所在の株式会社G1銀行本八幡支店の株式会社D3名義の普通預金口座から被告人A管理に係る東京都中央区所在のG2金庫銀座支店のD1研究会名義の普通預金口座に200万円を振込送金させてこれを喝取し

第2株式会社D5の施工に係るマンション建築工事に因縁をつけ,株式会社D5から金員を喝取しようと企て,共謀の上,

1  株式会社D5が東京都中央区において施工するマンション建築工事に関し,平成14年5月21日及び同年6月5日,D1研究会事務所において,当時の株式会社D5開発推進1部チーフE4に対し,「D1研究会はNPOとして建設残土の不法投棄などについて徹底して追及しています。我々は,マンションの反対運動もできる。役所の許可も我々が協力すればすぐ出るが,反対して遅くすることだってできる。株式会社D5さんでは普通,近隣にはどう対応してくれるの。」などと言い,次いで,同月14日,D1研究会事務所において,株式会社D5がD1研究会等に補償金として320万円を支払う旨記載したE4作成に係る覚書を同人の目前で破り,同人に対し,「なめんじゃないぞ。思い違いをしているんじゃないか。」などと怒号し,次いで,同月17日,D1研究会事務所において,当時の株式会社D5開発推進1部部長E5に対し,「株式会社D5さんはいろいろ問題を抱えているでしょう。早いところ決まりをつけるんだったら,部長さん,500で話つけようよ。うちは株式会社D5がマンションの建設計画を進める上で違法と思われる部分を徹底的に指摘していく。」などと言って金員の交付を要求し,さらに,同年7月17日から同月23日までの間,多数回にわたり,前記マンション建築の事業主である東京都千代田区所在のD6株式会社東京本社周辺において,街頭宣伝車を使用して,「株式会社D5とD6株式会社は近隣住民に何の説明もなく工事を強行した。」などと両会社を攻撃する演説を行うとともに,同様の内容を記載したビラの配布を行った上,同月24日,D1研究会事務所において,株式会社D5開発推進部参与統括部E6に対し,「築地の件は500万円でいい。」などと言って金員の交付を要求し,この要求に応じなければ,株式会社D5の財産等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人らを畏怖させ,よって,同年8月2日及び同月30日の2回にわたり,株式会社D5から被告人C管理に係る東京都中央区所在の株式会社G3銀行築地支店の有限会社D7名義の普通預金口座に250万円ずつ合計500万円を振込送金させてこれを喝取し

2  株式会社D5が千葉県我孫子市において施工するマンション建築工事に関し,平成14年6月19日から同年7月21日までの間,多数回にわたり,東京都港区所在の株式会社D5本社,上記マンション建築の事業主である東京都港区所在のD8株式会社本社及び上記マンションの販売センターである千葉県我孫子市所在の「F4マンションギャラリー」の各周辺等において,街頭宣伝車を使用して,上記マンションの開発用地について地中には有害物質である水銀,鉛,ひ素などが埋められているなどとして株式会社D5やD8株式会社を攻撃する演説を行うとともに,「株式会社D5とD8株式会社は共謀して,地下に水銀,砒素,鉛が埋まっている土地上に,建設する,マンションを販売しようとしています。株式会社D5は重要事項説明書により説明をしていますが,売却後の責任をのがれる記述となっています。有害物質の上に建っているマンション,皆さんは買いますか。」などと記載したビラの配布及びポスターの貼付を行った上,同年8月13日,東京都港区所在のF5ビル6階飲食店「F6」において,E6に対し,「3000万円欲しい。びた一文負けない。株式会社D5には高輪の工事や他の工事もある。こっちは決裂しても構わない。」などと言い,さらに,同月22日,東京都港区所在のF7ホテル1階喫茶室「F8」において,同人に対し,「2500万円で何とかならないか。」などと言って金員の交付を要求し,この要求に応じなければ,株式会社D5の財産等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人らを畏怖させ,よって,株式会社D5から株式会社D9の名義で被告人A管理に係る前記G2金庫銀座支店のD1研究会名義の普通預金口座に,同年10月10日に500万円,同月15日に500万円,同年11月15日に1500万円の合計2500万円を振込送金させてこれを喝取したものである。

(証拠の標目)

(略)

(補足説明)

第1各被告人及び弁護人の主張

被告人A,被告人B及び被告人Cは,本件各犯行につき,いずれも金員を受領した事実は認めつつ,被告人らが株式会社D3や株式会社D5側に伝えたとされる内容について一部を否認するとともに,判示第1の各事実については,被告人らが所属するD1研究会への入会金等の趣旨で,判示第2の1の事実については,株式会社D5が建築しているマンションの近隣に事務所を構える同研究会等に対する工事施工による損害の補償費の趣旨で,判示第2の2の事実については同研究会の活動に賛助するなどの趣旨で,いずれも金員の交付を受けたものであると述べて,金員授受の趣旨を争い,本件各行為は相手方らを畏怖させるような行為ではないし,当時相手方を畏怖させるような行為とは認識していなかった旨述べて,判示各恐喝の犯意を否認しており,弁護人も,(1)被告人らの本件各行為は,脅迫に至らない程度のもので相手方を困惑させたにすぎず,恐喝罪の実行行為には該当しないので,被告人らは無罪である,(2)恐喝罪の実行行為に該当するとしても,被恐喝者は畏怖しておらず,本件各恐喝罪は未遂である,(3)恐喝罪の実行行為に該当するとしても,本件各事実はいずれも法人を財産上の被害者として起訴されたものであるところ,被恐喝者らにおいて恐喝を受けているとの認識の下で法人の財産を支出する権限はなく,被恐喝者らの支出について,各被害法人は各被恐喝者に対し,忠実義務違反ないし善管注意義務違反等を理由として,それぞれ損害賠償請求権を有しているのであるから,財産上の被害者とされる株式会社D3及び株式会社D5には何ら損害は発生しておらず,本件各恐喝罪は未遂である旨主張するので,この点につき補足して説明する。

第2判示第1の各事実について

1  E3の捜査段階(甲1ないし3)及び当公判廷における各供述,E2の捜査段階(甲4,5)及び当公判廷における各供述,E7(甲13),E8(甲14)の捜査段階における各供述並びに被告人A(乙2),被告人B(乙8)及び被告人C(乙13)の捜査段階における各供述,その他関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。

(1) 被告人A,被告人B及び被告人Cは,平成11年ころ,「D1研究会」という名称の団体を設立し,平成13年3月,同会につき特定非営利活動法人(NPO)の認証を受けた。被告人Bは同会の理事長の地位にあり,被告人Cは平成15年3月21日まで同会の理事の地位にあったが,その活動資金は被告人Aが拠出しており,被告人Aは,対外的には同会の会長と称して活動を行っていた。D1研究会の実質的な活動員は,被告人3名と,運転手の計4名であり,その活動態様は,企業の違法行為等を確認すると,当該企業の監督官庁に通報や抗議をして,当該企業に対して調査や指導,監督処分を行うよう要求し,さらに当該企業に出向いて抗議をしたり,街宣活動を行うというもので,抗議活動と並行して同会への入会を勧誘し,入会した相手から入会金(5万円)や年会費(20万円),賛助金の寄附などの支払を受けていた。

(2) 株式会社D3は,平成13年4月ころ(以下,特に断りのない場合には平成13年を指す。),株式会社D2から,千葉県八街市のF9特定事業場の造成や運営管理等を請け負い,本件当時,その業務を行っていた。

被告人Cは,企業の違法行為を発見するため,工事現場や建築汚泥搬入先の現場を確認して調査する等の活動を行っていたところ,7月ころ,調査対象であったD10開発のトラックがF9特定事業場に出入りしていることを突き止めた。同月10日,被告人Cは,F9特定事業場に赴き,土の状態などから同事業場に改良土が搬入されていると判断して,同事業場内の様子を写真撮影した上,被告人Aに電話でその旨報告した。同日,被告人Aは,千葉県環境生活部産業廃棄物課(以下「産業廃棄物課」という)に電話をかけて,「F9特定事業場にD10開発が改良土を入れているぞ,不法投棄じゃないか,早く査察をして搬入をストップさせろ。」などと抗議をし,さらに,株式会社D2の本社に電話をして,担当者であるE1に対し,「八街の現場に改良土を入れているだろう。県の産廃課に報告したが,この件について面会したい。」と要求し,翌11日に株式会社D2本社で会う約束をとりつけた。

7月11日,被告人A及び被告人Bは,株式会社D2本社に赴き,E1並びにE1から連絡を受けて同席した株式会社D3代表取締役E2及び専務取締役E3に対し,F9特定事業場における事業について,「あそこの現場は違反している。汚泥を入れているじゃないか。あそこの現場に土を入れているD10開発は違反業者だろう。」などと違法な事業活動を行っている旨の指摘を行い,有償改良土を入れており,違法ではない旨主張するE3らに対し,被告人Aらは「うちには政治家がついているし,県はうちの言うことを何でも聞くから,改良土だといっても現場から持ち出させるようにできる。それくらいの力がある。うちの指導に従えば違反じゃなくなる。」などと述べて,D1研究会への入会を勧誘した。これに対してE1は,話合いは株式会社D3が対応する旨告げたが,その場では結論は出ず,被告人Aと被告人Bは,また話し合おうと言って帰っていった。その後,被告人3名は,F9特定事業場内の現場事務所等に,一日に何回も電話をして話合いの申入れをした。

7月15日ころ,被告人Aから,E3に対し,話合いの日時,場所を決めて連絡するように一方的に通告してきたことから,E3は,無視すると被告人AらにF9特定事業場の業務を妨害されたり,千葉県などに株式会社D3や株式会社D2のことを中傷されるのではないかという恐怖を感じ,7月16日,被告人Aと連絡を取り,7月17日にF1ホテルで会うことになった。また,被告人Aは,7月16日,産業廃棄物課に電話をかけ,担当職員からE3と株式会社D2の代理の者がF9特定事業場について土砂等搬入届を提出したことを聞き,「何だお前達は,相手をよく確認もせずに搬入届を受理したのか。そんな書類が信用できるのか。株式会社D2は不法投棄しているではないか。」などと,抗議をした。しかし,担当職員は,書類上も法令上も何ら問題がなかったことから,そんなことはないなどと回答した。

7月17日,被告人A及び被告人Cは,F1ホテル1階ロビーラウンジ「F2」店内でE3と会い,被告人Aは,E3に対し,「D1研究会の会員になれ。指導料として300万円払え。県に圧力をかけておまえのところの改良土は全部運び出させてやるぞ。街宣をかけて運び出させてやるぞ。そうすりゃ運び出すのに5000万はかかるだろう。そうなったら損をするのはどっちだ。株式会社D2かおまえのところか。うちの会員になれば損をしないですむぞ。」などと言い,E3が300万円までは払えない旨答えると,被告人Aは,「じゃお前の考えじゃどれくらいなら出せるんだ。」などと言った。E3が,事業に支障が出た場合の損害も考慮に入れ,100万円程度の支出はE2の了解をとることができると考えて,被告人Aに対し,100万円ならこの場で返事ができる旨答えたところ,被告人Aは,「いつ払えるんだ。」などと聞き,E3が,今日でも明日でもいいが社長に話して了解を得ないといけない旨を答えると,被告人Aは,「分かった。それで,株式会社D3に対しては今後一切関わりを持たない。また連絡する。」などと言って,この日の話は終わった。

(3) 7月18日,被告人Bは,E3と連絡をとって,前記「F2」店内で会う約束をした上,E3と会い,被告人Bは,「持って来た。」などと聞き,E3がE2の了解を得て持参した現金100万円を受領した。被告人Cは,E3にD1研究会のパンフレットや入会申込書を渡し,後でこれに記入して送ってくれればいいなどと説明をしたが,E3は申込書等の送付をしていない。

(4) その後,被告人Aは,E3に対し,「何でBなんかに渡したんだ。Bは理事長であってもこれは俺とお前で約束したことじゃないか。俺がオーナーだ。株式会社D2の分はどうするんだ。」などと電話をしてきて,7月下旬から8月上旬にかけて,被告人3名から,F9特定事業場内の現場事務所などに,株式会社D2とE2が代表取締役を務めるD4倉庫の分で1000万円を払え,お前のところは株式会社D2から任されているんだろう,株式会社D2に話をしろ,うちの話が分からないなら株式会社D2やD4倉庫に街宣をかけるなどと言って,E3に面会を求めた。また,このころ,被告人らは,株式会社D2に対しても抗議の電話をかけ,E3は,E1から電話で,「株式会社D2にも電話がかかってきて困る,何とか対応してください。」などと言われて,株式会社D3の方で問題を解決するよう求められた。

8月1日,産業廃棄物課は,F9特定事業場に対する現場調査を実施したが,同事業場に違法性はないと判断して,特別な指導は行わなかった。被告人Aは,株式会社D2に電話をした際,上記事実を告げられたことから,8月2日,被告人Bとともに産業廃棄物課へ赴き,「お前等は,何をふざけているんだ。我々の調査で株式会社D2の特定事業場に改良土を入れているのは判ってるんだ。改良土を積んだダンプが現場に入って不法投棄をしている証拠写真もちゃんと撮っている。それでも改良土を入れていないと言うのか。こんな事だからいつまで経っても不法投棄がなくならないんだよ,ふざけるんじゃないよ。」などと県の対応を非難した。さらに,このころ,被告人Cは,F9特定事業場の件で,千葉県知事との面会を求めた。

その後も被告人らから株式会社D3への抗議等は続き,これにはE3が対応していたが,E3は時折E2に経過を説明し,被告人らが要求するとおり金は追加して払うしかないが,払っても200万円が限度である旨意見を述べていた。8月6日,被告人Aから電話が入り,E2がD1研究会事務所に行って被告人Aと直接話合いをすることになった。D1研究会事務所で,被告人Aは,E2に対し,株式会社D2の分で1000万円払ってくれと言い,E2が工事の利益率から考えて無理である旨答えると,被告人Aは,E2に対し,じゃ300万円払ってくれと言った。E2は,E3に電話で相談した上,200万円以上は払えない旨回答すると,被告人Aは,「分かった。200万円でいいが,今日中にくれ。」などと言ったので,振込で支払うことを約束し,D4倉庫の従業員に電話でD1研究会の口座に200万円を振り込むように指示をした。

(5) 同日午後3時56分,株式会社D3の取引銀行であるG1銀行本八幡支店の株式会社D3名義の口座から,G2金庫銀座支店のD1研究会名義の普通預金口座に,200万円が送金され,翌7日10時16分,上記手続は完了した。

(6) 被告人3名は,株式会社D3から前記(5)記載の200万円を受領した後は,株式会社D2及び株式会社D3に対する前記一連の抗議活動を中止した。

2  なお,上記認定の事実に対し,被告人らは,捜査段階において,E3及びE2に対して,被告人らの方から金銭的な要求をしたことについてあいまいな供述をし,当公判廷においては,D1研究会の活動の目的は,F9特定事業場への不法投棄をなくすことにあった旨主張して,被告人らから金銭的な要求をした事実はない旨供述した上,(1)7月18日に受領した100万円は,D1研究会への入会金4社分であると思った,(2)E2から金員支払の話が出たので,もうそれ以上言っても無駄だと思い,それでよしというふうに収めて,200万円を受領した,(3)被告人Aは,十分素材として良い素材にぶつかり,D1研究会の名前をかなり浸透させることができたと思ったため,被告人Bは,9月18日付けでそれまで認められていた改良土の特定事業場への搬入処分を原則として禁止する旨の通知が出たので,それで目的を達成したと思ったため,被告人Cは,D1研究会に入会後は悪い行いが少しでも減るのではないかと思っていたため,それぞれ活動を終了したなどと述べて,判示各恐喝の犯意を否認する趣旨の供述をしているので,これらの被告人らの供述状況をふまえた上で上記の認定に至った理由について付言する。

この点,E3及びE2は,捜査段階及び当公判廷において,被告人らから,株式会社D3のみならず,関係機関や注文主に対して執拗に抗議の電話等を受けた一連の経過につき,前記認定事実に沿う内容を具体的かつ詳細に供述している。その内容は,概ね一致するばかりでなく,千葉県の職員であるE7やE8の供述するところの被告人らと県との対応状況とも符合するものであって,株式会社D3がD1研究会に対して合計300万円を支払うに至った点についても十分に了解可能である。また,被告人らも,株式会社D3に対し,違法行為の指摘を主眼とする抗議活動を行いながら,合計300万円受領後,株式会社D3が被告人らの指摘事項について是正をしない時点で一連の抗議行動を止めたという外形的事実については,理由は付けながらも認めているのであって,これらを総合すると,違法行為の指摘等をやめる見返りとしての金銭の要求を受け,被告人らの抗議活動による事業への悪影響を恐れて金銭を支払った旨のE3及びE2の供述内容には高い信用性が認められる。

これに対し,被告人らの供述するところは,前記認定のとおりの執拗な抗議行動をした外形的な事実は認めつつ,その活動の中で支払われた合計300万円の金員については,株式会社D3側から支払を申し出たものであり,D1研究会の入会金等だと思った旨述べるものであるが,その時点で株式会社D3が被告人らが違法と指摘した事項に対する是正措置をとっていないことをふまえると,不自然,不合理な内容である。加えて,前記(1)の点については,被告人B及び被告人Cともに,株式会社D3から4社分の入会金が支払われる理由や,その金銭によって入会する会社の確認行為もしていないこと,前記(2)及び(3)の点については,活動の目的がF9特定事業場への不法投棄をなくすことにあったとしながら,この点について何らの具体的な対応を求めることもなく,株式会社D3側からの追加の200万円の支払を受け,これを機に株式会社D3に対する一連の抗議活動を止めていることからすれば,被告人らが前記のとおりの弁解をしていることを前提としても,上記第2の1記載のとおりの事実を認めることができる。

3  さらに,上記認定事実を前提にすれば,被告人3名は,F9特定事業場に改良土が搬入されていることを違法であるなどと主張して,直ちに同事業場の造成等を請け負っていた株式会社D3のみならず,注文主の株式会社D2や,産業廃棄物課などに対して執拗に抗議を行うとともに,一方でE3及びE2に対し,今後も街宣活動をしたり,県に圧力をかけるなどして株式会社D3の造成事業の遂行を困難にさせる活動を行うことを考えている旨伝え,他方において,指導料ないし入会金としてD1研究会に金員を支払えば,かかる活動を中止することを示唆するなどして,E3及びE2に,D1研究会の活動により事業が停止し,多大な経済的損失が生じることを回避するために,D1研究会に対して金銭を支払わざるを得ないとの心理状況に陥らせ,その結果,株式会社D3から合計300万円の交付を受けたものと評価できる。その上,被告人らの各行為は,被告人らの意向に従わなければ,株式会社D3に多大な経済的損失を発生させる活動を行うということを明示して脅迫し,金員を要求したものであって,その態様は相手方を畏怖させるに足りる程度のものであり,恐喝の実行行為に該当するものであると認められ,E2及びE3が,単に困惑したにとどまらず,被告人らの各脅迫行為によって畏怖した結果,合計300万円の支払を行ったことも認められる。なお,前記認定の経過に照らすと,本件において株式会社D3から被告人らに交付された金員が,被告人らの活動に賛同する趣旨で交付されたものでないことや,被告人らがその旨誤解していたものでないことも明らかである。

なお,前記認定にかかる株式会社D3から合計300万円の支払を受けるまでの各被告人の抗議行動の時期内容や金銭を受領した後に抗議活動を止めた経緯などから,判示第1の各事実が被告人3名の共謀により行われたものであることも明らかに認められる。

4  また,関係各証拠によれば,被告人らに交付された上記合計300万円は,株式会社D3の代表者であるE2の意を受けて,株式会社D3の財産から支出されたものと認められるところであり,上記金員は被告人らの各脅迫行為により法人である株式会社D3の財産処分権限を有する者が畏怖した結果交付されたものと評価できる。さらに,被告人らに対する現金の各交付自体が損害と評価できるのであるから,株式会社D3のE2及びE3に対する各債権の存否は,本件各恐喝罪の成否に影響せず,これらの点についての弁護人の前記各主張は,採用することができない。

よって,当裁判所は,判示第1の各恐喝の事実を認定した。

第3判示第2の各事実について

1  E6の捜査段階(甲21)及び当公判廷における供述,E4(甲20),E9(甲23)及びE10(甲24)の捜査段階における各供述,被告人A(乙15),被告人B(乙16)及び被告人C(乙17)の捜査段階及び当公判廷における各供述,その他関係各証拠によれば,前記第2の1(1)の事実に加え,以下の各事実を認めることができる。

(1) 株式会社D5は,マンションの建設・販売,不動産の売買仲介・管理・賃貸等を業とする会社であり,本件当時,D6株式会社を事業主として,東京都中央区にマンションを建築する工事名「H1」の事業(以下「築地の件」ともいう。)と,D8株式会社,株式会社D5ほか4社を事業主として,D11株式会社の工場跡地である千葉県我孫子市にマンションを建築する工事名「H2」の事業(マンション名「F4」。以下「我孫子の件」ともいう。)を実施していた。

株式会社D5は,事業主等がマンション等の建築をする際,近隣住民への説明の実施や,苦情・紛争の処理に関して委託を受け,同社開発推進部でこの業務を担当しており,E6は,同社の開発推進部参与統括部長をしている者,E5は,同社の開発推進1部長をしていた者,E4は,同社の開発推進4部開発課長(平成14年6月30日までは開発推進1部チーフ)をしている者である。

(2) 平成13年9月,我孫子の件に関し,売買契約の付帯条項に基づいて敷地売主であるD11株式会社が同社工場跡地の地質調査を実施したところ,同敷地内から環境基準値を若干超える水銀,ひ素,鉛が検出された。そこで,同社はこれを我孫子市役所に報告し,シーリングソイル工法という方法を用いて土壌改良工事を実施した後,水銀,ひ素,鉛につき環境基準値以下であるとの調査結果を得て,その旨我孫子市役所に報告した。我孫子市は,土壌の汚染問題は解消されたと判断して,平成14年2月21日(以下の部分においては,特に断りのない場合には平成14年を指す。),株式会社D5に対して開発を許可した。

4月ないし5月ころ,被告人3名は,株式会社D5がマンションを建築中の我孫子市のD11株式会社工場跡地には,土壌に水銀,ひ素,鉛などが埋まっているとの話を聞き,その内容について,情報収集をして,我孫子の件に関して,株式会社D5に対し抗議活動をするため勉強を始めた。

そのころ,被告人3名は,D1研究会事務所があるF3ビルの2軒隣に新たに建築されるマンションの施工者が株式会社D5であることを知り,話合いの上,株式会社D5が手掛ける我孫子の件及び築地の件の両方を対象に抗議活動していくことを決めた。

5月20日ころ,被告人Bは,株式会社D5開発推進部に電話をかけて,「お宅の築地のマンションの工事現場近くにあるD1研究会というNPOのBと言います。産業廃棄物の不法投棄などの違法行為を徹底的に追及している団体です。株式会社D5さんもいろいろと問題を抱えているでしょう。ところであそこにマンションを造るならうちも近隣に入るでしょう。当会が入っているビルの振動が大きくなる可能性があるし,説明してもらいたいので責任者を後でうちの事務所によこすようにしてください。」などと告げ,翌21日,D1研究会事務所を訪れて工事の概要等を説明したE4及びその部下であるE11に対し,「D1研究会はNPOとしてゼネコンの行動について,特に建設残土の不法投棄などについて徹底して追及しています。株式会社D5さんもいろいろと問題を抱えていると思いますがね。現場から残土を運び出す運搬車を尾行して確認することもしている。我々は,マンションの反対運動もできる。役所の許可も我々が協力すればすぐ出るが,反対して遅くすることだってできる。」などと述べた上で,「株式会社D5さんは普通,近隣にはどう対応してくれるの。」と言って近隣補償を要求した。被告人Aは,このE4らとの話合いの場に同席していなかったが,後に被告人Cから当時の状況につき報告を受けた。

E4は,F3ビルがマンションの南側に位置することから日照の問題は生じず,現実的な迷惑としては工事や工事車両による騒音・振動,道路の通行障害が生じる程度であるものの,D1研究会事務所への呼び出しがあったことや,被告人Bの話しぶりから,一定の金銭補償をしなければ,工事が円滑に進行しないおそれがあると感じ,6月5日,E4らはD1研究会事務所を訪れ,近隣補償としては破格の200万円を支払う旨提案した。しかし,被告人Cはこの金額に納得せず,その態度を受けて,E4と被告人Cの間で,株式会社D5がD1研究会等に対し,合計320万円を支払うことと決め,この合意について,E4はE5から支出額についての承認を受け,被告人Cは,交渉の場に同席していなかった被告人A及び被告人Bに報告して承認を受けた。後日,E4が,近隣補償として320万円を支払う代わりに,今後,築地の件に異議を述べないという内容の覚書をD1研究会事務所に持参し,被告人Cは,被告人Aの了解を取った上で,これに押印をして株式会社D5にファクシミリ送信した。

6月13日,被告人3名は株式会社D5本社に赴き,対応したE5に対し,D1研究会として,我孫子のD11株式会社跡地に建設したF4マンションはひ素,水銀,鉛が検出されているにもかかわらず,これら有害物質の処理は固めただけであり,株式会社D5やD8株式会社,販売担当の株式会社D12等はこの事実を隠して販売を行っているので,今後,株式会社D5本社や我孫子の現地に行ってビラ配りや街宣活動を行うなどと抗議し,我孫子の件で株式会社D5を糾弾する街宣活動をする旨予告した。これに対してE5は,安全であり,問題はない旨答えた。

6月14日,E4は,株式会社D5がD1研究会等に補償金として320万円を支払う旨記載した同人作成に係る覚書を正式に取り交わすため,D1研究会事務所を訪れた。しかし,その際,被告人Aは,「これはなしだ。なめんじゃないぞ。思い違いをしてるんじゃないか。」などと大声で怒鳴り,上記覚書をE4の目前で破って,突き返した。その後,同月17日に,E5及びE4がD1研究会事務所に赴いたところ,対応した被告人Bは,E5に対し,「D1研究会に協賛してもらえれば,うちから指導することもないでしょう。株式会社D5さんはいろいろ問題を抱えているでしょう。」などと言い,D1研究会の会員になって入会金や会費を払ったり,賛助金を支払うことを促した。E5は,改めて320万円で妥協するように申し出たが,被告人Bは,「早いところ決まりをつけるんだったら,部長さん,500で話つけようよ。」と言い,E5が500万円では多すぎる,行き過ぎではないかなどと言うと,Bは,「株式会社D5は別件でいろいろあるだろう。うちは株式会社D5がマンションの建築計画を進める上で違法と思われる部分を徹底的に指摘していく。E6さんってのもいるだろう。」などと,近隣補償について,E5の上位者であるE6が対応することを要求する趣旨の発言をした。

6月18日,被告人Cは,被告人Aの指示により,株式会社D5に対し,前記のマンション敷地から有害物質が検出された件について翌日から街宣活動を行う旨予告し,さらにD8株式会社にも同旨の予告文等をファクシミリで送信した。また,被告人A及び被告人Bは,株式会社D12に行って社長との面談を求め,対応した担当社員に対し,前記と同旨の抗議をするとともに,街宣活動を行う旨の予告をした。その後,被告人3名は,6月19日から7月21日までの間,多数回にわたり,東京都港区所在の株式会社D5本社,東京都港区所在のD8株式会社本社及び千葉県我孫子市所在の販売センター「F4マンションギャラリー」の各周辺等において,街頭宣伝車を使用して,我孫子の件に関して,開発用地の地中には有害物質である水銀,鉛,ひ素などが埋められているなどとして,施工担当者である株式会社D5や事業主であるD8株式会社を攻撃する内容の演説を行うとともに,「株式会社D5とD8株式会社は共謀して,地下に水銀,ひ素,鉛が埋まっている土地上に,建設する,マンションを販売しようとしています。株式会社D5は重要事項説明書により説明をしていますが,売却後の責任をのがれる記述となっています。有害物質の上に建っているマンション,皆さんは買いますか。」などと記載したビラの配布及びポスターの貼付を行い,また,7月17日から23日までの間,多数回にわたり,東京都千代田区所在のD6株式会社東京本社周辺において,街頭宣伝車を使用して,築地の件に関して,「D6株式会社と株式会社D5は,近隣住民に何の説明もなく工事を強行した。」などと両社を攻撃する街宣活動を行うとともに,同様の内容を記載したビラの配布を行った。この間,7月9日ころ,被告人Bは,覚書を破った被告人Aは金銭の交渉には向かないと考え,今後株式会社D5との交渉は自分が行う旨申し出て,被告人A及び被告人Cの了承を得た。

また,被告人らは,6月下旬ころ以降,水銀,ひ素,鉛などの有害物質が埋まっている土地上に建設するマンションを優良分譲住宅に認定するのは不適切であるなどとして,D13公庫南関東支店に電話をかけたり,同公庫支店長宛に質問状を送ったり,同支店の周辺で街宣活動やビラ配布をするなどの活動を行った。

(3) 7月23日,D6株式会社の担当者が株式会社D5を訪れ,業務委託契約に基づいて,D1研究会がD6株式会社本社付近で街宣活動等を続けたことに関し,D1研究会の活動を株式会社D5の責任においてすぐにやめさせるように強く求めた。株式会社D5は,同日,東京地方裁判所に対して,我孫子のF4販売センター付近での街宣活動やビラ配布の中止等を求める仮処分の申立てをしたが,E6は,D6株式会社から抗議を受けたことで,事業主に迷惑をかけて信用を失うことを恐れ,また,株式会社D5が多数のマンションを施工していることから,仮処分により対抗してもいたちごっこになり,株式会社D5の信用が傷付けられ,マンションの販売に重大な支障が生じるなど,事業の遂行に取り返しのつかない損害を被るおそれがあると考え,これを防ぐためにはD1研究会に金銭を支払うことにより解決を図るのもやむをえないと考えるようになった。

7月24日,E6とE4はD1研究会事務所を訪れ,築地の件について,500万円を支払う旨申し出た。被告人Bは,「築地の件については500万円でいい。他は別だよ。」などと言って,我孫子の件に関する抗議活動は別であることを明らかにした上でこれを了承した。また,そのとき,被告人Aは,E6らに対して,被告人らが作成した我孫子のマンションを糾弾する内容のポスターを示し,このポスター300枚を我孫子のマンション周辺に貼って,今後も活動していく旨告げた。これを受けてE6は,株式会社D5の社内で被告人らによる妨害行為を止めさせるために金銭を支払うことについて株式会社D5の法務部長等も交えた会議を開き,関係者の反対も押し切って支出の方針を決め,担当常務の了解も得た。

その後,7月29日に,E6及びE4は,D1研究会事務所において,株式会社D5は被告人らに合計500万円を支払い,被告人らは築地の件に対して異議苦情を申し立てない旨記載した覚書を取り交わし,8月2日及び同月30日,株式会社D5は,被告人C管理に係る有限会社D7名義の普通預金口座に,それぞれ250万円ずつ,合計500万円を振込送金した。

(4) 築地の件で覚書を交わした後,E6は,D1研究会に対して,我孫子の件に関して話合いを申し入れ,7月30日,東京都港区所在のF7ホテル1階にある喫茶店「F8」で被告人Bと会った。E6は,被告人Bに対し,我孫子の件について土壌汚染に関し適切な処理を行っている旨の説明をしつつも,話合いの継続を求めて金銭支払による解決を示唆すると,被告人Bは,E6の意図を察し,「徹底的に話し合いましょう。英断を下してください。」などとこれを了承した。

8月13日,E6は,東京都港区内のF6で被告人Bと会い,株式会社D5がD1研究会の妨害行為をやめてもらうために支払う金額として,どのくらいを考えているのかと問うと,被告人Bは,3000万円欲しい旨答え,E6が1500万円なら今決着を付けてもいい旨を述べると,被告人Bは,「びた一文負けない。株式会社D5には高輪の工事や他の工事もある。こっちは決裂してもかまわない。」などと強硬なことを言った。E6は,社運をかけた大規模事業である高輪のマンション工事につき,我孫子の件と同様に妨害行為がされることは絶対に避けなければならないと考えて交渉をしたが,話合いはつかず,また話し合うことにしてその日は別れた。

8月22日,E6は,前記「F8」店内において,被告人Bから2500万円で何とかならないかなどと言われて,金員の支払を要求され,結局,これを承諾した。

(5) 株式会社D5は,株式会社D9を介して,被告人A管理に係るD1研究会名義の普通預金口座に,10月10日に500万円,同月15日に500万円,11月15日に1500万円の合計2500万円を振込送金した。株式会社D5はその送金の後も,我孫子の件の土地について,危険性を認めてはいないが,被告人3名は,株式会社D5から2500万円を受領した後,株式会社D5の事業に対して,何ら抗議活動をしていない。

2  被告人らは,当公判廷において,(1)500万円は,近隣補償費として受領したものである,(2)我孫子の件の活動目的は,土壌汚染の問題を明らかにすることであり,2500万円を受領した点について,被告人Bは,D1研究会の活動をもっときちんとしてくださいという意味で払ってくれたんだろうと思ったなどと述べ,被告人Cは,寄附金・賛助金のたぐいと思われる旨述べ,被告人Aは,株式会社D5から請け負った仕事の代金である旨被告人Bから説明を受けているなどと述べて,判示各恐喝の犯意を否認する趣旨の供述をしている。

しかしながら,前記認定のとおり,被告人らは,D1研究会の抗議活動の対象である株式会社D5が近隣でマンションを建設することを知るや,株式会社D5に電話をして,自らが産業廃棄物の不法投棄などを追及する団体であることを告げた上で担当者をD1研究会事務所に呼び出し,「株式会社D5もいろいろと問題を抱えている。」,「我々は,マンションの反対運動もできる。役所の許可も我々が協力すればすぐ出るが,反対して遅くすることだってできる。」などとマンション建設工事の妨害をするかのような言辞を述べたうえで,近隣補償を要求し,いったん金額的に話がまとまり,覚書を作成する段階に至って,担当者の面前で,「これはなしだ。なめんじゃないぞ。思い違いをしてるんじゃないか。」などと大声で怒鳴った上で覚書を破って突き返し,その後,いったんまとまった金額よりもさらに高額の500万円の近隣補償費を要求し,株式会社D5側がこれに応じない態度をとるや,補償費の要求根拠を示すようなことはせずに,株式会社D5の事業に関する抗議活動を行うことを伝え,現実に,築地の件の事業主であるD6株式会社本社周辺で連日にわたり,街頭宣伝車を使用して「D6株式会社と株式会社D5は,近隣住民に何の説明もなく工事を強行した。」などと街宣活動を行うとともに,同様の内容を記載したビラを配布するなどしていること,上記500万円の合意の際,被告人Bによって,500万円の支払を受けることで,築地の件に対する抗議活動は止める趣旨の発言がなされていることなどからすれば,上記500万円は,被告人らの活動によりマンション建設工事の施工を妨害され,あるいは,事業主の信頼を喪失することにより,財産的損害を被ることをおそれた株式会社D5が,これを回避するためにやむを得ず支払ったものと認められ,上記の経緯や,被告人3名が,捜査段階で,いずれも,株式会社D5側から被告人らに対し,抗議活動の中止の見返りとしての金銭を支払わせるために,築地の件や我孫子の件に関する抗議活動等を行っていた旨供述していることもふまえると,上記500万円の支払を受けるまでの被告人3名の金銭の要求や抗議活動を,株式会社D5のマンション建設工事によって被る現実の損害の賠償等を求めたものと評価することはできないし,被告人らが上記活動を損害の賠償を求める意図で行っていたものとも認められない。

また,我孫子の件に関する抗議活動の目的についても,前記認定のとおり,被告人3名が株式会社D5本社のみならず,分譲中のマンションの販売センター周辺や,事業主の本社周辺などで複数回にわたって当該マンション敷地に危険性が残存しているとする内容の街宣活動やビラ配布を行った後に,株式会社D5側から2500万円が支出されたものであり,株式会社D5側が敷地の危険性について特段認めていないにもかかわらず,被告人3名は上記支払を受けた後,我孫子の件に対する抗議活動を行っていないことからすれば,被告人3名がマンションの販売を妨害し,あるいは,事業主の株式会社D5に対する信頼を失墜させる危険性のある抗議活動を行うことにより,株式会社D5に経済的損害に対する危惧感を生じさせ,かかる活動を通じて,株式会社D5側に金銭的解決を余儀なくさせるために抗議活動を行っていたものと評価するのが相当である。被告人らは,前記のとおり,被告人らの活動に賛同する趣旨等で株式会社D5から金銭の支払を受けた旨述べているが,前記認定のとおり株式会社D5は我孫子の件の敷地に関する被告人らの抗議活動の内容について,これを認めるような態度をとっていないのであって,これら一連の経緯に照らすと,株式会社D5が被告人らの活動に賛同したと評価することもできないし,前記の抗議活動の目的に関する被告人3名の捜査段階での供述をふまえると,そのような趣旨で金銭が支払われたと被告人3名が考えていたとも到底認められない。

3  以上からすれば,被告人3名が,株式会社D5の事業に関し,街宣活動などの抗議活動を行った上で,E6らに対し,判示のとおりの文言を用いて金員の支払を要求し,被告人らの意向に従わなければ,さらに活動を継続して株式会社D5のマンション事業の立案企画,マンション販売等を困難ならしめ,株式会社D5に経済的損失を被らせる結果となることを示して脅迫しており,その態様からみて,これは相手方を畏怖させるに足りる程度のものであると評価でき,恐喝の実行行為に該当するものと認められる。そして,E6らは,単に困惑したにとどまらず,被告人らの各脅迫行為によって畏怖した結果,合計3000万円の金員の支払を行ったものと認定することができる。

なお,株式会社D5から合計3000万円の支払を受けるまでの各被告人の抗議行動の時期内容や金銭の受領の時期などから,判示第2の各事実が被告人3名の共謀により行われたことも明らかに認められる。

4  また,関係証拠によれば,被告人らに交付された上記合計3000万円は,支出権限のあるE6が,株式会社D5内部での意見調整手続を行った上で,支払ったものであって,上記金員は被告人らの各脅迫行為により,法人である株式会社D5の財産処分権限を有する者が畏怖した結果交付されたものと評価できる。また,上記3000万円は,被告人らの各脅迫行為により畏怖したE6から被告人らに現実に交付されており,現金の交付自体が損害と評価できるから,株式会社D5のE6に対する債権の存否は,本件各恐喝罪の成否に影響せず,これらの点についての弁護人の前記各主張は,採用することができない。

よって,当裁判所は,判示第2の各恐喝の事実を認定した。

(法令の適用)

(略)

(量刑の理由)

1  本件は,被告人3名が,共謀の上,特定非営利活動法人D1研究会の活動と称し,企業が行う建設土木関連事業に関し,違法行為があるとの因縁をつけて,D1研究会に対する入会金や賛助金名目での金銭の支払や工事の近隣に事務所等を有する者に対する近隣補償費を要求し,株式会社D3から合計300万円(判示第1の各事実)を,株式会社D5から合計3000万円(判示第2の各事実)をそれぞれ喝取したという,いわゆる企業恐喝の事案である。

2  被告人らは,環境汚染,有害物質による危険に関する広報活動等を行うことを目的とする団体として,D1研究会を設立してNPOの認証を受けた上で,NPO活動と称して,企業の建設土木関連事業について違法行為がある旨の監督官庁への通報,街頭でのビラの配布や街宣活動等を行う一方で,当該企業に対して,攻撃を中止する見返りに入会金,指導料などの名目で金銭の支払を要求するなどしており,本件各犯行は,社会貢献活動を装って組織的かつ計画的に企業を恐喝し,当該企業から金員を喝取する,悪質な職業的犯行である。

3(1)  判示第1の各事実についてみると,被告人らは,株式会社D3が不法投棄を行っていると糾弾して株式会社D3から金員を喝取しようと企て,直接株式会社D3を脅迫するほか,監督官庁である千葉県や注文主である株式会社D2に抗議するなどしており,株式会社D3が監督官庁からの指導・検査等を受けることにより業務が遅滞,停止することや,あるいは,現場対応の不十分さにより株式会社D2からの苦情を受け,契約を打ち切られることの危惧を感じさせるような活動を行って,かかる事態による損害の発生を回避するために被告人らに金銭の支払をせざるを得ない心境に陥らせることを狙った,狡猾かつ卑劣なものである。

(2)  また,被告人らは,株式会社D3から100万円を受領した後も,株式会社D3の取締役であるE3に電話をかけ続けて,株式会社D2とD4倉庫の分などと称して金員の支払を要求し,その結果,株式会社D3はさらに現金200万円の支払を余儀なくされているのであり,株式会社D3に対する本件各犯行は,執拗なものといえる。

(3)  被告人らの行為によって,株式会社D3は合計300万円もの金員を喝取され,多大な経済的損失を被ったのみならず,被告人らに対応したE3及びE2の受けた精神的苦痛も甚大である。

4(1)  次に,判示第2の各事実についてみると,被告人らは,株式会社D5がマンションを建築中の土地(我孫子の件)に水銀,ひ素,鉛が残存している,あるいは,株式会社D5が近隣住民に説明なくマンション建設工事(築地の件)を行っているなどとして,株式会社D5が取引先との関係やマンションの販売に懸念を抱かせるような方法の執拗な抗議活動を行い,その抗議活動の中止の見返りに金銭を要求するという非常に悪質な犯行である。

(2)  被告人らの執拗な脅迫行為によって,株式会社D5は合計3000万円もの金員を喝取され多大な経済的損失を受けたのみならず,被告人らに対応したE4及びE6らの受けた精神的苦痛も大きい。

5  いわゆるNPOは,その団体の性質上非営利の活動を目的とするものであることもあって,社会貢献活動を行う団体として,一般に周知されているものであり,NPOの設立に関する法律である特定非営利活動促進法においても,公益の増進に寄与することが期待されているのであるが,被告人らの行為はNPOに向けられた社会の期待や信頼を悪用し裏切るものであるとともに,正当な活動をしている他のNPOの活動に影響を与えかねないものである点においても非難されるべき行為である。

にもかかわらず,被告人らは,自らの行為の正当性を主張し,十分な反省の態度が見られないばかりか,その結果被害の回復さえもままならない状況である。

6  各被告人の個別的な事情をみると,被告人Aは,D1研究会の活動資金を全て負担し,同会の会長としての地位にあって,自ら当事者や市役所等の担当者を怒鳴りつけるなどしたほか,被告人Cに活動の具体的な指示を出すなどしており,本件各犯行において,主導的,中心的役割を担っている。また,被告人Aは,前刑の執行猶予期間中に判示第1の各犯行を敢行している。

被告人Bは,D1研究会の理事長であり,不動産取引の経験等から,対象企業に対する効果的な攻撃方法の提案をし,街宣活動の文案等を起案するなど,本件各犯行において,主体的な役割を担っているほか,判示第2の各事実においては,被告人らを代表してE6と交渉し,極めて高額の金銭支払を要求しており,被告人Aとともに,本件各犯行において主導的役割を果たしている。

被告人Cは,判示第1の各事実において,活動対象を発見してこれを直ちに被告人Aらに報告しており,本件犯行の端緒という不可欠の役割を担っているほか,街宣活動等を担当するなどしており,本件各犯行に重要な役割を果たしている。

以上の事実からすれば,被告人3名の刑事責任はいずれも重い。

7  しかしながら,他方,被告人らの家族の状況,被告人Bの健康状態のほか,被告人Bには罰金前科が2件あるほかに前科前歴のないこと,被告人Cは他の被告人の指示に従う地位にあり,本件各犯行を主導したとまではいえず,またこれまでに前科前歴のないことなど,各被告人ごとに酌むべき事情も認められる。

8  そこで,以上の諸事情その他諸般の事情を総合考慮して,被告人3名に対しては,それぞれ主文の刑を科するのが相当であると判断した。

よって,主文のとおり判決する。

(検察官大塚雄毅公判出席)

(求刑 被告人A及び被告人Bにつき懲役7年,被告人Cにつき懲役6年)

(裁判長裁判官 上岡哲生 裁判官 水上周 裁判官 川尻恵理子)

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