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東京地方裁判所 平成16年(行ウ)356号 判決 2005年3月24日

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告の請求

原告が平成15年7月17日付けでした,身体障害者療護施設「α」設置に伴う補助金交付申請に対し,被告がなんらの処分をしないことが違法であることを確認する。

2  被告の本案前の答弁

主文同旨

第2事案の概要

本件は,社会福祉法人である原告が,身体障害者療護施設の整備費に係る補助金について,神戸市を経由して被告に対して交付申請をしたが,被告から応答がないまま,相当期間が経過したと主張して,被告に対し,不作為の違法の確認を求めている事案である。

1  法令の定め等

(1)  補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)は,次のとおり定めている。

ア この法律において「補助金等」とは,国が国以外の者に対して交付する次に掲げるものをいう(2条1項)。

1号 補助金

2号 負担金(国際条約に基づく分担金を除く。

3号 利子補給金

4号 その他相当の反対給付を受けない給付金であって政令で定めるもの

イ この法律において「補助事業等」とは,補助金等の交付の対象となる事務又は事業をいう(2条2項)。

ウ この法律において「補助事業者等」とは,補助事業等を行う者をいう(2条3項)。

エ この法律において「間接補助金等」とは,次に掲げるものをいう(2条4項)。

1号 国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で,補助金等を直接又は間接にその財源の全部又は一部とし,かつ,当該補助金等の交付の目的に従って交付するもの。

2号 (省略)

オ この法律において「間接補助事業等」とは,前項第1号の給付金の交付又は同項第2号の資金の融通の対象となる事務又は事業をいう(2条5項)。

カ この法律において「間接補助事業者等」とは,間接補助事業等を行う者をいう(2条6項)。

キ 補助金等の交付の申請をしようとする者は,政令の定めにより,必要事項を記載した申請書及び各省各庁の長が定める必要書類を添えて,各省各庁の長が定める時期までに提出しなければならない(5条)。

ク 各省庁の長は,補助金等の交付の申請があったときは,当該申請に係る書類等の審査及び必要に応じて行う現地調査等により,当該申請に係る補助金等の交付が法令及び予算で定めるところに違反しないかどうか,補助事業等の目的及び内容が適正であるかどうか等を調査し,補助金等を交付すべきものと認めたときは,すみやかに補助金等の交付の決定(契約の承諾の決定を含む。)をしなければならない(6条1項)

ケ 国は,政令で定めるところにより,補助金等の交付に関する事務の一部を都道府県が行うこととすることができる(26条2項)。

(2)  「社会福祉施設等施設整備費及び社会福祉施設等設備整備費国庫負担(補助)金交付要綱」(平成3年11月25日付け厚生省社第409号厚生事務次官通知。乙1。以下「交付要綱」という。)は,社会福祉施設等施設整備費国庫補助金の交付申請手続については,補助金適正化法,同施行令及び厚生労働省所管補助金等交付規則の規定によるほか,この交付要綱の定めるところによるものと規定している。

2  前提となる事実

(1)  当事者

原告は,平成12年9月に所轄庁から設立を認可された,第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業を行うことを目的とする社会福祉法人であり,兵庫県内で知的障害者通所授産施設「β」,「精神障害者通所授産施設γ」,「精神障害者地域生活支援センターδ」等の社会福祉施設を開設,運営しているものである。(甲2,3,12の5,弁論の全趣旨)

(2)  本件申請

原告は,平成15年7月17日,神戸市保健福祉局障害福祉部宛てに,原告が設置予定の身体障害者療護施設「α」(概要は下記のとおり。以下「本件施設」という。)の施設整備費につき,整備計画書,関係図面等の書類を提出し,補助金(以下「本件補助金」という。)の交付申請を行ったと主張しているものである(以下,原告主張に係る行為を「本件申請」という。)。

施設予定地 神戸市ε130番1

定員予定 90名,ショートステイ10名,通所10名,デイサービス10名

施設規模 4051.50平方メートル,鉄筋コンクリート造地下1階建地上3階建

(甲1,弁論の全趣旨)

なお,身体障害者療護施設は,身体障害者福祉法27条4項に基づき設置される身体障害者更生援護施設(同法5条1項,30条)であり,社会福祉法62条1項の定める「社会福祉施設」に該当するものである。

3  当事者の主張

(原告の主張)

(1) 被告に対する申請

原告は,平成15年7月17日,神戸市を経由して被告に対し,本件施設の整備に係る本件補助金の交付を申請したものであり,神戸市から本件申請に係る申請書を返還されていない以上,本件補助金の交付申請の効力は維持されている。

(2) 原告の申請権及び被告の応答義務の根拠

ア 被告は,社会福祉事業を所轄し,社会福祉施設の整備に係る補助金について,補助金適正化法6条1項に基づいて補助金の交付を決定する権限を有するものであり,国は,このような権限及び同法26条2項(都道府県に対する補助金等の交付に関する事務の一部の委託)の規定等に基づき,神戸市に対し,本件申請を受け付ける権限を与えたものである。

イ 身体障害者療護施設は,社会福祉法の定める第1種社会福祉事業(同法2条)に該当するところ,国及び地方公共団体は,社会福祉事業の実施のための施策・措置を講じる責務を負い(同法6条),社会福祉法人に対する助成として,補助金の交付や貸付等を行うものとされており(同法58条1項),社会福祉施設の整備に係る補助の割合は,国が2分の1,都道府県(政令指定都市を含む。)が4分の1とされている。社会福祉施設の設置については,国又は自治体が単独で行う場合,国の補助の下に自治体が行う補助事業等の場合,国,自治体,社会福祉法人の三者の負担で行う間接補助事業等の場合が存在するが,これらは,社会福祉施設の整備に要する費用を,単独,二者,三者のいずれにより負担するかの違いはあるものの,本質的な違いはなく,間接補助金等の交付を受ける者であっても,間接的にではあれ,国から助成を受ける関係にある以上,国から直接補助金等の交付を受ける者と実質的に同視できるというべきである。

特に,社会福祉法62条5項に基づく社会福祉施設の設置許可を得るためには,当該施設の竣功が求められ,施設の建築等を進める上で補助金適正化法に基づく補助金の交付決定を得ることが事実上必要不可欠となるのであり,このような見地からしても,原告は,本件施設の設置許可を得るために,被告から本件補助金の交付決定を受ける利益を有しているということができる。

なお,現在の間接補助金等の交付手続の実務においては,間接補助事業者,都道府県,国による事前の協議を経て,国庫補助金の額が内示され,これを受けて,当該施設が竣工した後に,都道府県に対し正式に間接補助金等の交付申請が行われることとなっており,実質的には国庫補助金の額の内示が交付決定に当たり,施設の竣工後に都道府県に提出される間接補助金等の交付申請は,補助金を出金するための事務上の書類にすぎないのが実態である。

ウ 以上のとおり,補助金適正化法及び社会福祉法を含む社会福祉事業の全体の見地から考察するならば,本件申請をもって,原告の被告に対する法令に基づく申請に当たるというべきであり,神戸市は,原告の国に対する本件補助金の交付の申請の窓口として本件申請を受理し,その結果,本件補助金の交付申請は被告に到達したものということができるから,被告は,これに対し応答する義務を負うというべきである。

(3) 被告の対応(不作為)と相当期間の経過

ア 交付要綱によれば,都道府県は,社会福祉施設等施設整備費国庫補助金の交付の申請書を受理したときは,これを審査し,とりまとめのうえ,毎年度8月末日までに被告に提出するものとされ(第2の11(1)イ),都道府県は,申請書が到達した日から原則として1月以内に被告にこれを提出し,被告は都道府県から申請書が到達した日から起算して4月以内に交付決定をするものとされている(第2の13)ところ,本件申請に係る申請書の提出後の経過は以下のとおりである。

すなわち,原告は,平成15年7月17日,神戸市に対し本件申請に係る申請書を提出した後,同月25日,追加資料を送付し,同年11月20日,神戸市との間で最終協議を行ったが,その後,神戸市の担当者から本件申請を拒絶したかのような説明を聞き及んだことから,同年12月26日,厚生労働省国会連絡室国会班長と面談し,補助金交付申請の回付についての苦情申出及び進行催促の申入れを行った。これを受けて,厚生労働省の担当者は,平成16年1月21日,原告に対し,「神戸市から補助金交付申請を上げてこない。平成16年度身体障害者療護施設予算200床が予算未消化で神戸市が交付申請を上げてきたら,今からでも平成16年度予算に係る補助金の内示に間に合う。調査は続行する」旨返答した。ところが,神戸市は,厚生労働省障害福祉部障害福祉課から照会を受けた際,これに対し「原告から補助金の交付申請が出ていない」旨回答し,厚生労働省は,この回答を鵜呑みにし,必要な調査を尽くすことなく,補助金の交付手続の進行を打ち切った。本件申請が神戸市から厚生労働省に回付されていれば,国と神戸市の事前協議が平成15年12月から平成16年3月にかけて行われ,その後,平成16年度新設整備の施設に対する整備補助金の内示(同年5月14日,6月15日,同月25日,7月23日の4回のいずれか)に間に合っていたといえる。

イ 以上の経緯からすれば,原告と神戸市(担当者)との間で最終協議が行われた平成15年11月20日あるいは厚生労働省(担当者)が原告に対し,「神戸市から補助金交付申請を上げてきたら今からでも平成16年度予算に係る補助金の内示に間に合う」旨返答した平成16年1月21日から4か月が経過するまでに本件申請に対する判断ができたはずであり,遅くとも国から神戸市への平成16年度社会福祉施設等整備の内示が行われた同年6月15日には,本件申請に係る補助金の交付決定のために相当期間が経過したというべきである。

(4) 被告の不作為の違法性とその重大性

厚生労働省は,原告から,補助金交付申請の回付について苦情申出及び調査依頼を受けて,本件申請に係る申請書が神戸市に提出された事実を知り,原告に対して申請の有無に関する調査を約束しながら,同担当者から,補助金交付申請が神戸市に提出されていない旨の虚偽の説明を受けてこれを鵜呑みにし,必要な調査を怠っているものである。厚生労働省は,訴訟係属後の平成16年11月5日に神戸市の担当者に対して電話聴取を行っているが,この電話聴取を行ったのも,厚生労働省において,神戸市に対し,補助金交付申請を回付すれば,補助金決定手続を開始するとの働きかけを行う意図があったためで,被告が本件申請に対する交付の決定の権限及び責務を有することを裏付けるものといえるところ,被告は,その権限を適切に行使せず,その責務を怠っているのであって,このような対応は,原告の行政機関の公正に対する信頼を著しく害するものというべきである。

特に,本件施設は一般の障害者施設でないALS(筋萎縮性側索硬化症)障害者の受入れも予定している療護施設であり,その施設の整備は重大かつ緊急の必要性を有しているところ,原告は,過去の社会福祉施設の運営の実績から,本件施設の設置許可を受けるために必要な能力を有しているものである。

ところが,神戸市は,上記のとおり,平成16年ll月5日,厚生労働省の電話聴取を受けたのに対し,「(国に対して)平成16年度の交付申請を行うつもりもない」旨回答し,本件申請を握り潰すことが確定的となったから,原告において,神戸市に対して不作為の違法確認を求めても,身体障害者療護施設の設置・運営を実現することができない。しかも,本件においては,神戸市は,原告に対し,本件施設用地として市有地を購入させ,その際3年後に本件施設の設置を認めることを約するなど特殊な事情が存在し,厚生労働省も,前記過程の中で,このような事情を知悉していたのである。

以上の事実関係の下で,被告が本件申請に対し応答しないことは,重大な違法性を有し,憲法25条の理念や同32条に基づく裁判を受ける権利の保障の見地からも,被告の不作為の違法確認を認める必要性は高いというべきである。

(被告の本案前の主張)

(1) 被告の不作為が違法な不作為といい得るためには,原告に法令の明文上又は解釈上申請権があること,その申請権に基づき申請があること,及び申請があった場合,当該行政庁が何らかの内容を持った行政処分をもって応答を義務付けられていることが必要であるところ,原告には,被告に対する身体障害者更生援護施設の整備についての補助金の申請権が認められないから,本件訴えは,前提を欠き不適法なものである。

(2) 身体障害者福祉法には,施設整備費の補助について直接の規定が置かれておらず,身体障害者療護施設の整備費の補助については,予算措置により行われ,補助金の交付申請手続について定めた交付要綱によれば,身体障害者更生援護施設の施設整備費負担(補助)金は,都道府県等(政令指定都市を含む。以下同じ。)が設置する施設整備費等については直接負担(補助)事業の対象とし,社会福祉法人等が設置する施設整備等に対し,負担(補助)者が行う負担(補助)については間接負担(補助)事業の対象とされている(交付要綱第2の5の(1)及び6(1))。このように,被告は,都道府県等以外が設置する身体障害者更生援護施設等の施設整備事業については,直接補助することはできず,都道府県等に対し補助することによって間接的に事業者に補助金を交付することができるにすぎない(交付要綱第2の6)。

上記のような交付要綱に基づき,都道府県等は,社会福祉法人等の設置者の提出した事業計画書について内容を審査したうえ,その内容が当該都道府県等の施設整備計画に合致していると判断した場合に,それを当該都道府県等の補助事業の対象とする旨決定し,当該都道府県において必要な予算措置を行うとともに,厚生労働省との国庫補助協議,厚生労働省,都道府県等によるヒアリング,協議書の審査を経て,当該都道府県等が行う補助事業として適切と認めたものに対して国庫補助の内示が行なわれるに至る。そして,都道府県等は,この内示を受けた段階で,改めて設置者から正式な補助金交付申請を受け付け,設置者の事業計画を,都道府県等自らが行う補助事業として厚生労働省に補助金交付申請を行うものとされている。

(3) 以上の手続からも明らかなとおり,社会福祉施設等施設整備費の所轄庁は被告であるが,被告が補助金を交付する対象は,都道府県等が行う補助事業等であり,被告に対して補助金交付申請を行う者も,都道府県等である。原告は,間接補助の場合であっても,実質的には国から直接補助金等の交付を受ける者と異なるところはないと主張するが,国から間接に助成を受ける者も補助金適正化法の規制対象とされるべきであるからといって,そのことが,間接補助事業者等の申請権の存在の根拠となるものではない。

したがって,原告には,被告に対し,身体障害者更生援護施設の施設整備費の補助金交付申請権はないから,本件訴えは,その前提を欠くものといわざるを得ない。

(4) 原告は,補助金適正化法26条2項の「国は,政令で定めるところにより補助金等の交付に関する事務の一部を都道府県が行うこととすることができる。」との規定につき,同条項は,補助金交付決定権限までも都道府県に委譲したものではないとの理解を前提にして,政令指定都市である神戸市には,原告が設置する身体障害者更生援護施設の整備の補助金交付申請に対する処分権はなく,間接補助事業等をとりまとめて厚生労働省に提出するだけの,いわば,厚生労働省への補助金申請の窓口にすぎないから,原告には補助金交付申請権がある旨主張する。

しかしながら,先にみたとおり,都道府県等は,単なる補助金申請の窓口ではなく,間接補助事業等については,当該都道府県等において,設置者の事業計画が自らの施設整備計画に合致するか否かの判断をし,自らの補助事業の対象とするか否かの決定権を有していると解すべきであって,本件についても,厚生労働省に対して補助金交付申請権を有しているのは神戸市であって,原告ではない。

(5) 原告は,法令に基づく申請権について,補助金適正化法,交付要綱のほか,社会福祉法を含め社会福祉事業の全体から考察する必要がある旨主張し,社会福祉法上,補助金の交付がなければ,事実上,社会福祉施設の設置許可もされないことなどから,間接補助の場合であっても,原告に補助金交付申請権がある旨主張する。

しかし,社会福祉法62条5項は,国,都道府県,市町村及び社会福祉法人以外の者が社会福祉施設を設置して第1種社会福祉事業を経営しようとするときは,事業開始前に都道府県知事の許可を受けなければならないとの同条2項の規定を受け,国,都道府県,市町村及び社会福祉法人以外の者が第1種社会福祉事業を経営しようとするときの許可要件について定め,当該者の申請が同条4項に規定する基準に適合していると認めるときは,都道府県知事が社会福祉施設設置の許可を与えなければならない旨規定したものであり,許可を与える主体は都道府県知事である。

したがって,原告主張の社会福祉法等を考慮に入れたとしても,間接補助事業等を営む原告が,被告に対して直接補助金交付申請権を有しているとの根拠にはならない。

(6) 以上のとおり,原告には,そもそも,被告に対する本件補助金の交付申請権が認められないから,被告に対して不作為の違法確認を求める本件訴えは,不適法である。

4  本案前の争点

以上によれば,本件の本案前の争点は,「原告が,被告に対し,本件補助金の交付について,法令に基づく申請権を有すると認められるか否か」である。

第3争点に対する判断

1  行政事件訴訟法3条5項に規定する不作為の違法確認の訴えは,行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにもかかわらず,これをしない場合において認められる訴えであり,同項所定の「法令に基づく申請」とは,法令上特定の者に申請権があり,行政庁にこれに対する応答義務がある場合をいうものであって,このような法令上の申請権に基づかない訴えは不適法な訴えである。

そこで,本件補助金の交付について,原告の被告に対する申請権を基礎付ける法令上の根拠が存するか否かについて,検討する。

2(1)  補助金適正化法は,補助金等の交付の申請,決定等に関する事項その他補助金等に係る予算の執行に関する基本的事項を規定することにより,補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ることを目的としている(同条1項)。

このような目的から,同法は,国が国以外の者に交付する「補助金等」(同法2条1項)及び補助金等の対象となる「補助事業等」(同条2項)を行う「補助事業者等」(同条3項)と,国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金で,補助金等を財源の全部又は一部とし,かつ,当該補助金等の交付の目的に従って交付する「間接補助金等」(同条4項1号)及び間接補助金等の対象となる「間接補助事業等」(同条5項)を行う「間接補助事業者等」(同条6項)を明確に区別し,補助金等の交付については,各省庁の長に対する申請及びこれに対する各省庁の長による交付の決定の手続を経るものとして,その手続について具体的に規定し(同法5条ないし10条等),各省庁の長は,補助金等の申請があったときは,補助事業等の目的及び内容が適正であるかどうか等を調査するものとする(同法6条1項)など,補助金等の交付の対象が補助事業等であることを前提とした規定を置いている。

他方,同法は,補助金等及び間接補助金等が,直接,間接に国の財源に関わるものであることにかんがみ,補助事業者等,間接補助事業者等のそれぞれに対して,事業遂行の責務(11条2項)を課し,各省庁の長による報告要求,立入り,検査等(23条)を認め,間接補助事業者等に対して一定の規制を及ぼしているものの,間接補助金等の交付申請や交付の決定については,特に規定していない。さらに,同法は,間接補助事業者等が,間接補助金等を目的外の用途に使用するなど法令に違反したときは,各省庁の長は,補助金等の交付決定の全部又は一部を取り消することができ,これを取り消した場合には,補助事業者等に対し,取消しに係る部分の補助金の返還を命じなければならないものとし(同法17条2項,18条1項),補助金等の交付の決定やその取消し等に不服のある地方公共団体は,政令で定めるところにより,各省庁の長に対して不服を申し立てることができるとするなど(同法25条),間接補助事業等に係る補助金等の交付についても,国との関係で当事者となるのは,補助事業者等であることを前提とした規定を置いている。

これらの補助金適正化法の規定の構造等に照らせば,国が行う補助金等の決定,交付は,補助事業者等が行う補助事業等を対象とし,補助事業者等をその相手方,すなわち交付申請の当事者とするものであって,国と間接補助事業者等が,間接補助金等の交付申請の当事者となることは予定されていないというべきである。

(2)  また,前記前提となる事実及び上記補助金適正化法の規定によれば,原告は,神戸市に対して,社会福祉施設等施設整備費に係る間接補助金等の交付を申請したものと認められ,このような間接補助金等の交付手続については,補助金適正化法の定めるところではなく,交付要綱にその定めが置かれている。

そして,交付要綱の規定中にも,都道府県等が行う間接補助金等の交付について,国が,これを決定する権限を有するとか,間接補助事業者等から交付申請を受けることができると解し得る規定は見当たらず,都道府県等が当該間接補助事業等を都道府県等の補助事業として決定するとともに,当該支出に必要な議決等の予算措置を講ずることが必要とされているものと解される。

(3)  したがって,補助金適正化法及び交付要綱の規定上,国が間接補助金等の交付の決定権を有すると解することはできず,間接補助事業者等が国から間接的に助成を受ける関係にあるとしても,法形式上,間接補助事業者等と補助事業者等を同視することはできないというべきであり,補助金適正化法の解釈として,間接補助事業者等である原告が被告に対し,本件補助金の交付の申請権を有すると解することはできないというべきである。

なお,補助金適正化法26条2項は,国が補助金等の交付に関する事務の一部を都道府県等に委託することができる旨規定しており,原告は,この規定を根拠として,本件補助金についても,神戸市を介して被告に対し交付の申請を行ったものである旨主張するが,そもそも,同条項は,間接補助事業者等が被告に対して間接補助金等の交付を申請することを認めたものとは解されないし,本件補助金について,国が神戸市に対して補助金等の交付に関する事務を委託したとする規定も見当たらないから,原告の主張は採用できない。

3  原告は,社会福祉法62条5項に基づき社会福祉施設の設置許可を得るために,補助金適正化法に基づく補助金の交付決定を得ることが必要不可欠の要件とされていることなどから,社会福祉法を含む社会福祉事業全体の見地から,原告に本件補助金について申請権が認められる旨主張する。

しかしながら,同条項は,国,都道府県,市町村及び社会福祉法人以外の者が第1種社会福祉事業を経営しようとする場合に,同条2項により,事業開始前に都道府県知事(政令指定都市については,市長-地方自治法252条の19第1項5号の2,同法施行令174条の30の2。以下同じ。)の許可を受けなければならないものとされていることを受けて,同条4項等の定める基準に適合していると認めるときは,都道府県知事が社会福祉施設設置の許可を与えなければならない旨規定したものであり,その許可の権限を行使する主体は被告ではない。

そうであるとすれば,上記の原告の主張も,本件補助金の交付につき,原告が被告に対する申請権を有しているとする根拠にはなり得ないものであり,同法及び身体障害者福祉法の規定を含め,他に原告の主張を基礎付ける法令上の根拠を見出すことはできない。

4  以上によれば,原告が,被告に対し,本件補助金の交付の申請権を有するとは認められない。

第4結論

よって,本件訴えは,不適法であるから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 関口剛弘 裁判官 菊池章)

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