東京地方裁判所 平成16年(行ウ)392号 判決 2006年11月09日
消費税更正処分取消等請求事件(第1事件),消費税更正処分取消等請求事件(第2事件)
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
(第1事件)
1 被告東村山税務署長が原告に対し平成15年3月31日付けでした原告の平成12年9月1日から平成13年8月31日までの課税期間(以下「平成13年8月課税期間」という)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等。」という。)の更正処分(以下「平成13年8月課税期間更正処分」という。)のうち消費税の還付すべき税額177万4127円及び地方消費税の還付すべき譲渡割額44万3531円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
2 被告東村山税務署長が原告に対し平成15年3月31日付けでした原告の平成13年9月1日から平成14年8月31日までの課税期間(以下「平成14年8月課税期間」という。)の消費税等の更正処分(以下「平成14年8月課税期間更正処分」という。)のうち消費税の還付すべき税額535万8603円及び地方消費税の還付すべき譲渡割額133万9650円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
3 被告東村山税務署長が原告に対し平成15年6月23日付けでした輸出物品販売場許可申請却下処分(以下「本件許可申請却下処分」という。)を取り消す。
(第2事件)
東村山税務署長が原告に対し平成16年3月31日付けでした原告の平成14年9月1日から平成15年8月31日までの課税期間(以下「平成15年8月課税期間」という。)の消費税等の更正処分(以下「平成15年8月課税期間更正処分」という)のうち消費税の還付すべき税額655万8521。円及び地方消費税の還付すべき譲渡割額163万9630円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分のうち加算税の額6000円を超える部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,日本国内において中古車販売業を営む原告が,ロシア人に対する中古自動車の販売取引を行い,これが消費税法7条1項1号の免税取引(輸出取引)に該当するとして,所轄税務署長である被告東村山税務署長に対し,前記第1の各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)に係る消費税等の申告をし,また,これとは別に,同法8条6項の規定による輸出物品販売場の許可を申請したところ,被告東村山税務署長から,上記の取引は輸出免税の要件を充たしていないとして,前記第1の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を受け,さらに,更正処分に係る消費税の納税義務が適正に履行されていなかったとして,本件許可申請却下処分を受けたことから,本件各更正処分には輸出免税の実体要件及び手続要件に関し,本件許可申請却下処分には許可の要件に関し,それぞれ法令の解釈適用を誤った違法があると主張して,本件各更正処分のうち確定申告に係る納付(還付)すべき消費税等の税額を超える部分(平成15年8月課税期間更正処分については,課税売上額の過大計上額及び課税仕入額の過大計上額を計算の基礎に含めて再計算した金額を超える部分),当該部分に係る過少申告加算税に係る本件各賦課決定処分(平成15年8月課税期間に係る賦課決定処分については,その一部),及び本件許可申請却下処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは,次のとおりである。
(1) 消費税の輸出免税に関する定め
ア 消費税法
国内において事業者が行った資産の譲渡等には,消費税を課する(4条1項)が,事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち,本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け(7条1項1号)等については,消費税を免除する(7条1項)。
7条1項の規定は,その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき,財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には,適用しない(7条2項)。
イ 消費税法施行規則(平成17年財務省令第36号による改正前のもの。以下同じ。)
課税資産の譲渡等が消費税法7条1項1号に掲げる輸出として行われる資産の譲渡又は貸付けに該当するものであることについては,当該課税資産の譲渡等を行った事業者が,当該課税資産の譲渡等につき,当該資産の輸出に係る保税地域の所在地を所轄する税関長から交付を受ける輸出の許可(関税法67条に規定する輸出の許可をいう。)若しくは積込みの承認(同法23条2項の規定により同項に規定する船舶又は航空機(本邦の船舶又は航空機を除く。)に当該資産を積み込むことについての同項の承認をいう。)があったことを証する書類又は当該資産の輸出の事実を当該税関長が証明した書類で,当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は事務所等の所在地,当該資産の輸出の年月日,当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額,並びに当該資産の仕向地が記載されたものを整理し,当該課税資産の譲渡等を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間,これを納税地又はその取引に係る事務所等の所在地に保存することにより証明がされたものとする(5条1項1号)。
(2) 輸出物品販売場の許可に関する定め
ア 消費税法
輸出物品販売場を経営する事業者が,外国為替及び外国貿易法6条1項6号に規定する非居住者に対し,政令で定める物品で輸出するため政令で定める方法により購入されるものの譲渡を行った場合には,当該物品の譲渡については,消費税を免除する(8条1項)。
8条1項から4項までに規定する輸出物品販売場とは,同条1項の規定の適用を受けるため,事業者が経営する販売場で,9条1項本文(小規模事業者に係る納税義務の免除)の規定の適用を受けない場合において非居住者に対し8条1項に規定する物品で同項に規定する方法により購入されるものの譲渡をすることができるものとして,当該事業者の納税地を所轄する税務署長の許可を受けた販売場をいう(8条6項)。
イ 消費税法施行規則
消費税法8条6項の許可を受けようとする事業者は,所定の事項を記載した申請書を同項に規定する税務署長に提出しなければならない(10条1項)。
税務署長は,10条1項の申請書の提出があった場合において,その提出をした事業者が消費税に関する法令の規定に違反していない場合で,かつ,当該申請に係る販売場につき輸出物品販売場として施設その他の状況が特に不適当であると認められる事情がない場合には,消費税法8条6項の許可をするものとする(10条2項)。
2 前提となる事実(当事者間に争いがない。)
(1) 本件取引
原告は,日本国内において中古車販売業を営む事業者であるところ,平成12年10月から平成15年8月までの間に,ロシア人に対する中古自動車の販売取引により,別表1記載のとおりの売上を得た(以下同表記載の売上に係る中古自動車の販売取引を「本件取引」という。)。
(2) 確定申告及び課税処分等の経緯
原告の本件各課税期間の消費税等の確定申告及び課税処分等の経緯は,別表2-1,3-1及び4-1記載のとおりである。
(3) 本件許可申請却下処分に関する事実経緯
ア 原告は,平成15年3月31日,平成13年8月課税期間更正処分及び平成14年8月課税期間更正処分を受け,これにより消費税等の税額合計888万2500円を更に納付すべきこととされたが,国税通則法(以下「通則法」という)35条2項に規定する納期限である平成15。年4月30日までにこれを納付しなかった。
イ 原告は,平成15年5月9日,所轄税務署長である被告東村山税務署長に対し,消費税法8条6項に規定する輸出物品販売場の許可を申請した。
ウ 原告は,平成15年6月20日,前記アの更に納付すべきこととされた消費税等の税額合計888万2500円を納付した。
エ 被告東村山税務署長は,平成15年6月23日,原告に対し,前記イの許可申請時に国税について納税義務が適正に履行されていないとの理由で,当該許可申請を却下する旨の本件許可申請却下処分をした。
オ 原告は,本件許可申請却下処分を不服として,平成15年7月10日,異議申立てをしたところ,同年10月9日付けでこれを棄却する旨の決定を受け,さらに,同年11月5日,国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ,平成16年6月4日付けでこれを棄却する旨の裁決を受けたため,同年9月2日,第1事件に係る訴えを提起し,本件許可申請却下処分の取消しを求めた。
3 本件各処分の根拠及び適法性に関する被告らの主張
(消費税額等の計算に係る原告の主張は,別表2-2,3-2及び4-2の各「原告の主張」欄記載のとおりであり,後記4の争点に係る部分並びに平成13年8月課税期間における課税売上額の過少計上額及び課税売上額の過大計上額に係る部分を除き,本件各更正処分の計算の基礎となる金額及び計算方法については当事者間に争いがない。)
(1) 本件各更正処分の根拠及び適法性
被告らが本件訴訟で主張する原告の本件各課税期間の消費税等に係る納付又は還付すべき消費税額及び地方消費税の譲渡割額は,次のとおりであり,いずれも本件各更正処分における納付又は還付すべき消費税額及び地方消費税の譲渡割額と同額であるから,本件各更正処分はいずれも適法である。
ア 平成13年8月課税期間(別表2-2の「被告らの主張」欄)
(ア) 課税標準額 4766万4000円
次のaないしcの金額を加算しdの金額を減算した金額から,通則法118条1項に基づき1000円未満の端数を切り捨てた金額である。
a 申告課税売上額 1701万3344円
原告が提出した原告の平成13年8月課税期間の消費税等の確定申告書(以下「平成13年8月課税期間消費税等確定申告書」という。)に課税売上額として記載された金額である。
b 本件取引に係る売上金額 3053万7333円
別表1「平成13年8月課税期間」欄記載の売上金額の合計額に消費税法28条1項に基づき105分の100を乗じて算出した金額であり,平成13年8月課税期間更正処分において新たに課税売上額とされたものである。
c 課税売上額の過少計上額 13万3333円
原告が平成13年3月19日に免税売上額として輸出売上に計上した金額28万円につき14万円を減算する期末修正を行った際,誤って課税売上額から減算を行ったため,過少計上となった課税売上額14万円に,消費税法28条1項に基づき105分の100を乗じて算出した金額である。
d 課税売上額の過大計上額 1万9476円
原告が平成12年9月7日に輸出売上に計上した金額2万0450円が過大計上のため,これに,消費税法28条1項に基づき105分の100を乗じて算出した金額である。
(イ) 課税標準額に対する消費税額 190万6560円
前記(ア)の金額に,消費税法29条に基づき税率100分の4を乗じて算出した金額である。
(ウ) 控除対象仕入税額 245万4647円
消費税法30条に基づき算出した金額で,平成13年8月課税期間消費税等確定申告書に記載された金額と同額である。
(エ) 控除不足還付税額 △54万8087円
前記(イ)の金額から(ウ)の金額を控除した後の金額である(△印は還付金の額に相当する金額を表す。以下同じ。)。
(オ) 既に納付の確定した本税額 △177万4127円
平成13年8月課税期間消費税等確定申告書の提出により納付の確定した本税額である。
(カ) 更に納付すべき消費税額 122万6000円
前記(エ)の金額から(オ)の金額を控除した後,通則法119条1項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
(キ) 地方消費税の課税標準額 △54万8087円
地方税法72条の77第2号及び72条の82に基づき,前記(エ)の金額と同額である。
(ク) 譲渡割額 △13万7021円
地方税法72条の83に基づき前記(キ)の金額に税率100分の25を乗じて算出した金額である。
(ケ) 既に納付の確定した譲渡割額 △44万3531円
平成13年8月課税期間消費税等確定申告書の提出により納付の確定した譲渡割額である。
(コ) 更に納付すべき譲渡割額 30万6500円
前記(ク)の金額から(ケ)の金額を控除した後,地方税法20条の4の2第3項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
イ 平成14年8月課税期間(別表3-2の「被告らの主張」欄)
(ア) 課税標準額 1億6672万3000円
次のa及びbを加算した金額から,通則法118条1項に基づき1000円未満の端数を切り捨てた金額である。
a 申告課税売上額 1972万0281円
原告が提出した原告の平成14年8月課税期間の消費税等の確定申告書(以下「平成14年8月課税期間消費税等確定申告書」という)に課税売上額として記載された金額。である。
b 本件取引に係る売上金額 1億4700万2857円
別表1「平成14年8月課税期間」欄記載の売上金額の合計額に消費税法28条1項に基づき105分の100を乗じて算出した金額であり,平成14年8月課税期間更正処分において新たに課税売上額とされたものである。
(イ) 課税標準額に対する消費税額 666万8920円
前記(ア)の金額に,消費税法29条に基づき税率100分の4を乗じて算出した金額である。
(ウ) 控除対象仕入税額 614万7403円
消費税法30条に基づき算出した金額で,平成14年8月課税期間消費税等確定申告書に記載された金額と同額である。
(エ) 差引消費税額 52万1500円
前記(イ)の金額から(ウ)の金額を控除した後,通則法119条1項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
(オ) 既に納付の確定した本税額 △535万8603円
平成14年8月課税期間消費税等確定申告書の提出により納付の確定した本税額である。
(カ) 更に納付すべき消費税額 588万0100円
前記(エ)の金額から(オ)の金額を控除した後,通則法119条1項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
(キ) 地方消費税の課税標準額 52万1500円
地方税法72条の77第2号及び72条の82に基づき,前記(エ)の金額と同額である。
(ク) 譲渡割額 13万0300円
地方税法72条の83に基づき前記(キ)の金額に税率100分の25を乗じた後,同法20条の4の2第3項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
(ケ) 既に納付の確定した譲渡割額 △133万9650円
平成14年8月課税期間消費税等確定申告書の提出により納付の確定した譲渡割額である。
(コ) 更に納付すべき譲渡割額 146万9900円
前記(ク)の金額から(ケ)の金額を控除した後,地方税法20条の4の2第3項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
ウ 平成15年8月課税期間(別表4-2の「被告らの主張」欄)
(ア) 課税標準額 2億0028万6000円
次のa及びbの金額を加算しcの金額を減算した金額から,通則法118条1項に基づき1000円未満の端数を切り捨てた金額である。
a 申告課税売上額 2620万2118円
原告が提出した原告の平成15年8月課税期間の消費税等の確定申告書(以下「平成15年8月課税期間消費税等確定申告書」という)に課税売上額として記載された金額。である。
b 本件取引に係る売上金額 1億7547万2679円
別表1「平成15年8月課税期間」欄記載の売上金額の合計額に消費税法28条1項に基づき105分の100を乗じて算出した金額であり,平成15年8月課税期間更正処分において新たに課税売上額とされたものである。
c 課税売上額の過大計上額 138万8302円
別表4-2記載のとおりの過大計上額の合計額に,消費税法28条1項に基づき105分の100を乗じて算出した金額である。
(イ) 課税標準額に対する消費税額 801万1440円
前記(ア)の金額に,消費税法29条に基づき税率100分の4を乗じて算出した金額である。
(ウ) 控除対象仕入税額 755万1068円
消費税法30条に基づき算出した金額で,次のcの金額に105分の4を乗じて算出した金額である。
a 課税仕入れに係る支払対価の申告額 2億0096万6233円
平成15年8月課税期間消費税等確定申告書に課税仕入れに係る支払対価の額として記載された金額である。
b 課税仕入額の過大計上額 275万0690円
別表4-2記載のとおりの過大計上額の合計額である。
c 課税仕入れに係る支払対価の額の合計額 1億9821万5543円
前記aの金額からbの金額を減算した金額である。
(エ) 差引消費税額 46万0300円
前記(イ)の金額から(ウ)の金額を控除した後,通則法119条1項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
(オ) 既に納付の確定した本税額 △660万7776円
平成15年8月課税期間消費税等確定申告書の提出により納付の確定した本税額である。
(カ) 更に納付すべき消費税額 706万8000円
前記(エ)の金額から(オ)の金額を控除した後,通則法119条1項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
(キ) 地方消費税の課税標準額 46万0300円
地方税法72条の77第2号及び72条の82に基づき,前記(エ)の金額と同額である。
(ク) 譲渡割額 11万5000円
地方税法72条の83に基づき前記(キ)の金額に税率100分の25を乗じた後,同法20条の4の2第3項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
(ケ) 既に納付の確定した譲渡割額 △165万1944円
平成15年8月課税期間消費税等確定申告書の提出により納付の確定した譲渡割額である。
(コ) 更に納付すべき譲渡割額 176万6900円
前記(ク)の金額から(ケ)の金額を控除した後,地方税法20条の4の2第3項に基づき100円未満の端数を切り捨てた金額である。
(2) 本件各賦課決定処分の根拠及び適法性
本件各更正処分はいずれも適法であるところ,原告の本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額を計算すると,次のとおりとなり,いずれも本件各賦課決定処分の額と同額であるから,本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
ア 平成13年8月課税期間 20万4500円
通則法65条1項,2項及び118条3項並びに地方税法附則9条の4第2項及び9条の9に基づき,平成13年8月課税期間更正処分により新たに納付すべきこととなった金額153万円に100分の10の割合を乗じて算出した金額と,当該金額のうち50万円を超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて算出した金額との合計額である。
イ 平成14年8月課税期間 107万7500円
通則法65条1項,2項及び118条3項並びに地方税法附則9条の4第2項及び9条の9に基づき,平成14年8月課税期間更正処分により新たに納付すべきこととなった金額735万円に100分の10の割合を乗じて算出した金額と,当該金額のうち50万円を超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて算出した金額との合計額である。
ウ 平成15年8月課税期間 129万9500円
通則法65条1項,2項及び118条3項並びに地方税法附則9条の4第2項及び9条の9に基づき,平成15年8月課税期間更正処分により新たに納付すべきこととなった金額883万円に100分の10の割合を乗じて算出した金額と,当該金額のうち50万円を超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて算出した金額との合計額である。
(3) 本件許可申請却下処分の根拠及び適法性
消費税法8条6項及び同法施行規則10条2項の規定によれば,税務署長は,事業者が消費税に関する法令の規定に違反している場合には,合理的な裁量の範囲内で,輸出物品販売場の許可をしないことができるというべきである。
原告は,平成15年3月31日付けで平成13年8月課税期間更正処分及び平成14年8月課税期間更正処分を受け,これにより消費税等の税額合計888万2500円を更に納付すべきこととされたが,その後,納期限である平成15年4月30日までに全く納付しなかったばかりか,許可申請をした同年5月9日当時も全く納付していなかった。かかる事情にかんがみれば,許可申請時に原告の消費税等の納税義務が適正に履行されておらず,原告が消費税に関する法令に違反していたことは明らかである。
また,輸出物品販売場が適正に運営されるためには,これを経営する事業者において,施設その他の状況を適当な状態に維持するのみならず,物品の譲渡について,その物品が非居住者によって購入されたことを証明する書類(購入者誓約書)を確定申告後7年間,納税地又は輸出物品販売場の所在地に保存する(消費税法8条2項,同法施行規則7条)などの消費税法所定の諸手続を確実に履行することが必要である。しかるところ,原告は,明らかに消費税法7条1項所定の輸出免税措置の適用されない本件取引を免税取引とし,多額の消費税等を免れた上,上記各更正処分を受けた後,納期限を過ぎてもその納付をしなかったもので,かかる事業者である原告について,輸出物品販売場の運営に関する消費税法所定の諸手続を確実に履行することは期待できないといわざるを得ない。
被告東村山税務署長は,かかる判断の下,本件許可申請却下処分をしたものであって,これが裁量権の逸脱・濫用といえないことは明らかであるから,本件許可申請却下処分は適法である。
4 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,①輸出免税の実体要件該当性(本件取引が消費税法7条1項1号の輸出取引に該当するかどうか),②輸出免税の手続要件該当性(本件取引につき消費税法7条2項所定の証明がされたものといえるかどうか),③本件許可申請却下処分の適法性(刑事告発に至らない消費税関係法令違反等を理由に許可をしないことが許可の要件に違反し,又は裁量権の逸脱・濫用に当たるかどうか)であり,争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。
(1) 争点①(輸出免税の実体要件該当性)について
(原告の主張)
本件取引の買主は一時滞在のロシア人で,購入した中古自動車を海外に持ち出すことを前提に売買を行っており,各車両は,各購入者が代金を支払った後,国内では各購入者の手に一度も渡ることなく,原告が仕出港まで搬入し,P1組合の職員に必要な書類(通関許可証,申告書等)を交付して船積みをしてもらっている。
α港における中古自動車の輸出手続は,すべてP1組合で管理しており,買主が中古自動車を購入後,通関から車両の搬入までは,すべて組合で決められた手順により,組合員である販売業者が行うため,本件取引では,組合員でなければ中古自動車を国外へ運び出すことができない。また,買主であるロシア人は,日本語を話せず,通関手続の仕方が分からず,限られた日数しか日本に滞在できないため,買主が自ら通関業者を通して輸出することは,現実的には不可能である。したがって,買主ができることを組合や販売業者が代行しているにすぎないという被告らの主張は失当である。
輸出手続の途中で問題が発生して輸出不可能となれば,取引自体が不成立となって,車両代金を返金しなければならず,また,P1組合の業務事業実施要領(甲14)によれば,買主が購入した車両に,港へ搬入するまでに問題が生じ,船に積み込めなかった場合には,その車両を販売業者(原告)が責任をもって引き取らなければならない。なお,通関手続が完了しているのに港に搬入されていないなどの問題が起こった場合は,P1組合からすぐに組合員である販売業者に連絡が行くようになっている。
船の出港日の夕方になっても通関手続が完了した書類が税関に残っている場合には,税関から販売業者に書類を取りに来るように連絡が来ている。したがって,税関においても,販売者が通関手続終了の確認を受けていることを認識している。
商品を輸出するためには,P1組合が発行するクーポン券(甲10。1枚2000円,搬送・チェック・税関・保管費用)が必要であり,これは組合員のみに販売されるものである。原告は,クーポン券を購入し,輸出費用を負担している。
以上のことから,本件取引は,各車両の輸出申告及び船積みを経て,その船舶が出港することをもって完了する取引であり,各車両を問題なく輸出することまでが原告の責任とされている取引であるといえる。
商品が原告の管理・責任のもと,P1組合によって船積みされたところで引渡しがされているので,各購入者への各車両の引渡しが国内において完了している旨の被告らの主張は明白な事実誤認である。このことは,買主のロシア人には運転免許証がなく,各車両は抹消登録済みで自動車登録番号標が付いておらず,名義変更に必要な書類の添付もないことなどにより,各購入者にとって,国内においては,乗ることも処分することもできないなど,管理支配できる状況にないものであって,ロシアに到着して初めて管理支配が可能となるものであることからも明らかである。
また,国際空港のサテライトショップでの販売は,旅行者によって,海外へ持ち出されることが明らかであるから,輸出免税の取扱いがなされている(甲7)。本件もこれと同様に扱うべきである。
したがって,本件取引は,原告による輸出取引に該当する。
(被告らの主張)
消費税法7条1項1号の輸出取引とは,課税資産の譲渡等が本邦からの輸出として行われる場合をいい,まず課税資産の譲渡又は貸付けが行われ,その後当該資産が本邦から国外に搬出された場合がこれに当たらないことは明らかである。
本件取引は,中古自動車の売買が決まった場合に,売買代金が現金で授受される取引であり,国内において行われる課税資産の譲渡等であって,輸出取引としての実体要件を欠くものである。実際に中古自動車を購入し,輸出するロシア人が,購入した中古自動車をどこで使用するかは,本件取引が原告の輸出取引に該当するか否かの判断要素となるものではない。
中古自動車を購入したロシア人が作成する輸出申告書の作成に原告が携わっていることは,ロシア人が行うべきことを原告が代理又は代行,あるいは補助したにすぎない。原告は,税関手続を完了した書類が税関に残っている場合,税関から販売店(原告)に取りに来るように連絡があるというが,これは,ロシア人が出国した後に行われる便宜上のものである。
P1組合の業務事業実施要領(乙12)では,保管場から本船への搬出は乗組員が行うことなどが取り決められているから,買主(乗組員)が購入から通関手続,搬入まで行うことは不可能であるとする原告の主張は当を得ないものである。そもそも,中古自動車の輸出手続を組合が管理しているのは,通関手続の知識・経験のないロシア人に代わり,これらの知識等が豊富な業者及びそれらの業者が組合員となっているP1組合が,通関手続を代行しているにすぎない。上記実施要領に「搬出時に故障等により移動不可能の場合は,販売者の責任とし,出港時間までに本船に積込みができない場合は,翌日までに車両を回収すること」と取り決められているのは,組合と組合員(原告)との間で故障等で移動不可能となった当該中古自動車の責任,及び本船に積込みができなかった場合の当該中古自動車の回収について定めているにすぎず,本件取引が輸出取引か否かの判断要素となるものではない。
港施設利用券(クーポン券・甲10)を含めた費用負担についても,かかる費用を買主と業者のいずれが負担するかは両当事者の合意で自由に決まることであって,中古自動車の輸出を行った者が誰かということとは無関係である。
サテライトショップにおける課税実務上の取扱い(乙13)は,これらの店舗で販売された物品は,販売の時点で,出国者によって直ちに本邦から本邦外に持ち出されることが制度的に保障されているという特殊性にかんがみて,本来輸出取引に当たらない物品販売取引をあえて輸出取引とみなすというものである。これに対し,本件取引に係る各車両は,本件取引の時点で,ロシア人によっていずれ本邦外に持ち出されることが予想されるというにすぎず,出国者によって直ちに本邦から本邦外に持ち出されることが制度的に保障されているということはできないから,本来輸出取引に当たらない本件取引をあえて輸出取引とみなす余地はない。
以上のとおり,本件取引が,実質的に見て本邦からの輸出として行われた資産の譲渡ではなく,消費税法7条1項に規定する輸出取引に該当しないことは明らかである。
(2) 争点②(輸出免税の手続要件該当性)について
(原告の主張)
原告は,本件取引に関し,税関支署の押印のある「持込申告書」及び「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書(以下本項(2)において」「輸出入託送品等申告書」という。)と題する書面を保存していた。
「持込申告書」(甲8のA(乙1),甲8のB(乙2))は,平成8年10月にP1組合が開業する際に,東京税関新潟税関支署(以下「新潟税関支署」という。)の指示により決定された様式であり,平成14年前半までの5年間,中古自動車を輸出する際の申告書として用いられた公的な書類である。各持込申告書の申告者欄等には,原告の名称が記入されており,原告は,自らが輸出者であり申告者であるとの認識の下,各車両の輸出申告書として各持込申告書を新潟税関支署に提出した。
「輸出入託送品等申告書」(甲8のC(乙4))は,P1組合に対する新潟税関支署の指示により,平成14年後半から,持込申告書に替えて,自動車を輸出する際の申告書として使用されることになったものである。各輸出入託送品等申告書には,荷送人住所氏名欄又は申告者住所氏名印欄に各購入者等の名前を記入し,原告の名称は販売会社名印欄又は余白に記入しているが,これは,新潟税関支署の指示によるもので,原告としては,自らが輸出者であり申告者であるとの認識の下,各車両の輸出申告書として各輸出入託送品等申告書を提出した。
以上のとおり,各申告書等の様式及び原告の名称の記入方法については,原告の意思によって選択したものではなく,新潟税関支署の指示に従っただけのことであり,原告は,正式な輸出申告書であることを疑うことなく各申告書等を提出したのである。
実務において,実際に輸出取引が行われていれば,輸出申告書の名義は実質的に判定されている。すなわち,証明文書が「真実輸出取引が行われた事実」の証拠たり得れば,輸出免税が容認されている(甲6)。
したがって,新潟税関支署の押印のある各申告書等は,消費税法施行規則5条1項1号にいう輸出許可書に該当する。
(被告らの主張)
ア 消費税法7条2項は,同条1項に規定する輸出免税の実体要件を充足していることを証明するための方法を規定するものであり,同法施行規則5条において,その細則を定め,同法7条1項1号に規定する輸出取引の場合には,税関長から交付を受ける輸出の許可若しくは積込みの承認があったことを証する書類又は当該資産の輸出の事実を当該税関長が証明した書類であり,当該資産を輸出した事業者の氏名その他所定の事項が記載されたものが保管されていることが要求されている。
関税法基本通達は,輸出申告の手続を定めており,平成12ないし15年度においては,輸出申告書について,一般輸出通関では「税関様式C第5010号」の書面,旅具通関扱いをする貨物については「税関様式C第5340号」の書面を使用し,税関長が許可した場合には当該書面の「※許可印」欄に許可印を押捺する取扱いとされている(乙5ないし乙7,乙19)。したがって,「税関様式C第5340号」は,本件取引以前から使用されており,旅具通関扱いする貨物の輸出許可書として使用される正式な書類であり,消費税法7条2項及び同法施行規則5条1項に基づく税関長証明書類である。
また,輸出通関は,輸出貨物の申告,検査及び許可という一連の手続を経て行われる手続で,輸出許可を受ける者はその申告者であるところ,旅具通関扱いをする貨物の輸出申告者は,携帯品又は別送品については本邦から出国する旅客又は船舶若しくは航空機の乗組員であり(乙5ないし乙7,乙19),託送品についてはその送達を受託した船長,機長又は出国者である(乙8)。すなわち,関税制度上,旅具通関扱いをする貨物の輸出許可を受ける者は,携帯品又は別送品については本邦から出国する旅客又は船舶若しくは航空機の乗組員,託送品についてはその送達を受託した船長,機長又は出国者とされている。
イ 原告が本件取引において保存していた各種申告書は,次のとおりである。
(ア) 右下の欄外に「P1組合」と記載のある「持込申告書」と題する書面(乙1,乙9)
本書面は,本件取引においては,申告日が平成12年10月23日から平成13年10月29日まで用いられており,原告を申告者とする書類であるが,いずれも新潟税関支署長の許可印は押捺されていない。
(イ) 右上の欄外に「P1組合」と記載のある「持込申告書」と題する書面(乙2,乙9)
本書面は,本件取引においては,申告日が平成13年11月1日から平成14年6月3日まで用いられており,原告以外の者を申告者とする書類であり,いずれも新潟税関支署長の許可印は押捺されていない。
(ウ) 右上の欄外に「税関様式C第5340号」と記載のある「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」と題する書面(乙3,乙9,乙16,乙17)
本書面は,本件取引においては,申告日が平成13年2月21日から平成15年7月16日まで用いられており,いずれも新潟税関支署長の許可印が押捺されているが,原告以外の者を申告者とする書類である。
(エ) 右上の欄外に「P1組合」と記載のある「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」と題する書面(乙4,乙9,乙16,乙18)
本書面は,本件取引においては,申告日が平成14年6月4日から平成15年8月28日まで用いられており,原告あるいは原告以外の者を申告者とする書類であるが,いずれも新潟税関支署長の許可印は押捺されていない。
ウ 前記イ(ア),(イ)及び(エ)の欄外に「P1組合」と記載のある「持込申告書」又は「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」と題する書面は,その様式自体から輸出申告書でないことは明らかであるし,新潟税関支署長の許可印も押捺されていないから,税関長の輸出許可書とはいえず,税関長証明書類に当たるとする余地はない。
原告は,上記「持込申告書」と題する書面について,平成14年前半までの5年間,中古自動車を輸出する際の申告書として用いられた公的な書類であると主張する。しかしながら,原告のいう「平成14年前半までの5年間」の時期に,上記書面ではなく税関様式C第5340号の書面が使用されていたことは,その時期に前記イ(ウ)の欄外に「税関様式C第5340号」と記載のある「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」と題する書面が使用されていたことから明らかであって,原告の主張は明らかに虚偽である。
エ 前記イ(ウ)の欄外に「税関様式C第5340号」と記載のある「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」と題する書面は,旅具通関扱いをする貨物の輸出許可書として使用される正式な書類であって,新潟税関支署長の許可印が押捺されているが,輸出許可を受けた申告者がいずれも原告以外の者であることはその記載自体から明らかであるから,原告に対する税関長の輸出許可書とはいえず,税関長証明書類に当たるとする余地はない。
原告は,他人名義で行われた輸出取引について,実務において,実際に輸出取引が行われていれば,輸出申告書の名義は実質的に判定されているとした上で,本件取引では,実際には,原告が輸出者であるが,買主のロシア人名義で申告したのは,税関の指示であるから,原告の輸出取引である旨主張する。しかしながら,前記アのとおり,関税制度上,旅具通関扱いをする貨物の輸出許可を受ける者は,携帯品又は別送品については本邦から出国する旅客又は船舶若しくは航空機の乗組員,託送品についてはその送達を受託した船長,機長又は出国者とされているのであるから,輸出許可を受けようとする者は原告ではなくロシア人であるという理解を前提として,輸出許可の申告者としてロシア人の氏名を記載させるという「新潟税関支署の指示」は的確であって,原告がいかなる認識を有していたにせよ,原告が輸出許可を受けたとすることはできない。
オ 以上のとおり,本件取引に関し,原告が,前記イの各書類を整理・保存していたとしても,消費税法上,原告が税関長から輸出許可を受けたことを証する書類を保存していたとは認められないから,本件取引は,消費税法7条2項及び同法施行規則5条1項所定の手続要件を欠き,同法7条1項所定の輸出免税の適用がないことが明らかである。
(3) 争点③(本件許可申請却下処分の適法性)について
(原告の主張)
消費税法8条7項は,輸出物品販売場を経営する事業者が消費税に関する法令の規定に違反した場合には,当該輸出物品販売場に係る許可を取り消すことができる旨規定しているところ,消費税法基本通達8-2-2は,消費税法8条7項の「消費税に関する法令の規定に違反した場合」とは,同法64条(罰則)の規定に該当して告発を受けた場合をいう旨定めている。
したがって,輸出物品販売場の許可要件として消費税法施行規則10条2項が規定する「消費税に関する法令の規定に違反していない場合」についても,消費税法64条の罰則規定に該当して告発を受けていない場合をいうものと解すべきである。
以上のとおりであるから,国税通則法35条(申告納税方式による国税等の納付)の規定の違反のみを理由としてなされた本件許可申請却下処分は違法である。
(被告東村山税務署長の主張)
本件許可申請却下処分が裁量権を逸脱・濫用したものといえないことは,前記3(3)のとおりである。
実務上,輸出物品販売場の許可の取消しの基準が厳格に運用されているのは,許可と異なり,許可取消しは輸出物品販売場において既に事業を行っている事業者に対してするものであることを考慮し,事業者の既得権益に配慮して,権限発動を謙抑的にするためであるから,許可と許可取消しは利益状況が異なるのであり,利益状況の相違を無視して同様に運用すべきとする原告の主張は,失当である。
以上のとおり,本件許可申請却下処分を違法とする原告の主張は理由がなく,本件許可申請却下処分が適法であることは明らかである。
第3当裁判所の判断
1 証拠(各付記のもののほか,甲16,証人P2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 関税法基本通達の定め(甲5,甲17,乙5ないし乙7,乙19)
関税法67条は,貨物を輸出し,又は輸入しようとする者は,政令で定めるところにより,当該貨物の品名並びに数量及び価格その他必要な事項を税関長に申告し,貨物につき必要な検査を経て,その許可を受けなければならない旨を定め,同法施行令58条は,輸出しようとする貨物についての同法67条の規定による申告は,貨物の記号,番号,品名,数量及び価格等所定の事項を記載した輸出申告書を税関長に提出してしなければならないが,当該貨物が旅客又は乗組員の携帯品であるときは,口頭で申告させることができる旨を定めている。
これらの規定を受けた関税法基本通達(平成12ないし15年度におけるもの。以下同じ)67-1-2は,関税法67条に規定する輸出申。告は,同法施行令58条に規定する輸出申告書として,税関様式C第5010号の「輸出申告書」3通(原本,許可書用,統計用)を税関に提出して行わせる旨を定めている。また,同通達67-2-8は,旅具通関扱いをする貨物の輸出申告の手続に関し,本邦から出国する旅客又は船舶若しくは航空機の乗組員の携帯品(別送品を含む。同通達67-2-7)については,口頭による申告とする旨,託送品(船長,機長又は出国者に託して輸出される貨物をいう。同通達67-2-7)の場合又は携帯品若しくは別送品であって旅客が輸出許可書の発給を要求する場合は,税関様式C第5340号の「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」(以下「輸出入託送品等申告書」という。)2通を提出することにより申告させ,輸出の許可を行ったときは,うち1通にその旨を記載して申告者に交付する旨を定めている。ただし,旅客等が携帯して輸出する自動車,船舶及び航空機については,平成13年7月9日財関第567号による関税法基本通達67-2-8の改正(以下「平成13年改正」という。)により,平成13年7月16日以降は,口頭申告ではなく,税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書2通(原本,許可書用)を提出することにより申告させ,輸出を許可したときは1通を許可書として申告者に交付することとされている。
税関様式C第5010号の輸出申告書には,許可印・許可年月日欄が,税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書には,許可印欄が,それぞれ設けられ,いずれも,当該各欄への税関長の押印によって,輸出又は輸入の許可書を兼ねる体裁のものとなっている。
(2) α港及び新潟税関支署における輸出通関手続の実情(甲5,甲8,甲17,乙9,乙16)
ア 原告が組合員として加入するP1組合は,α港から輸出される中古自動車の検査,保管,監視等を目的として平成8年10月1日に設立された組合であり,中古自動車の販売業者約150業者が組合員として加入している。
イ 新潟県を管轄区域とする新潟税関支署では,平成13年改正前の関税法基本通達67-2-8の定めに基づき,旅客等の携帯品として輸出される自動車の旅具通関について,原則として,旅客等の口頭による輸出申告を行わせていたが,平成8年10月以降は,盗難自動車の不正輸出の取締り等を目的として,P1組合との話し合いにより,同組合に加入する販売業者が船着場に中古自動車を持ち込む際に,持込申告書(甲8のA,乙1)を提出させて,自動車の持込状況を確認することとしていた。
持込申告書は,右下の欄外に「P1組合」と記載のある「持込申告書」と題する書面が3枚複写(税関用,搬入確認用,販売業者用)となったものであり,新潟税関支署は,持込申告書が提出されると,新潟税関支署統括監視官の印を3枚すべての余白に押捺して,そのうちの1枚を自ら保管し,残り2枚を申告者である販売業者に交付していた。
ウ 関税法基本通達の平成13年改正により,平成13年7月16日以降は,新潟税関支署においても,携帯品として輸出される自動車の旅具通関について,税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書(乙3)による輸出申告を行わせることとした。
輸出入託送品等申告書は,原則として,税関に2通提出され,そのうちの1通は税関用として税関が保管し,残り1通は許可書用として税関長(新潟税関支署においては,東京税関長の権限の委任を受けた新潟税関支署長)の許可印を押捺の上,輸出許可書として申告者に交付することとされており,新潟税関支署でも,平成13年10月31日までは,この原則的な取扱いによる処理をしていた。
またこれと並行して,販売業者に対しては,引き続き前記イの持込申告書の提出を求め,前記イと同様の処理をしていた(乙9)。
エ 平成13年11月1日から,新潟税関支署では,携帯品として輸出される自動車の旅具通関について,P1組合が作成した新たな輸出入託送品等申告書の様式を用いることとなった(甲8のB,甲11,甲12,乙2)。
当該様式は,右上の欄外に「税関様式C第5340号」と記載のある輸出入託送品等申告書2枚(税関用,申告者用)と右上の欄外に「P1組合」と記載のある「持込申告書」と題する書面2枚(組合用,業者用)とが4枚複写になっており,組合用及び業者用の様式には販売会社名印欄及び確認印欄が設けられていた。新潟税関支署は,この4枚複写の輸出入託送品等申告書が提出されると,そのうちの税関用は自ら保管し,申告者用は新潟税関支署長の許可印を押捺の上,輸出許可書として申告者に交付し,組合用及び業者用は,新潟税関支署統括監視官の確認印を押捺の上,販売業者に交付していた。
オ その後,申告者に交付されていた輸出許可書については,ロシア人等である申告者がこれを必要とせず,実際にはその大部分が販売業者又はP1組合で保管されている状況にあったことから,平成14年6月ころからは,携帯品として輸出される自動車の旅具通関について,新たに3枚複写の輸出入託送品等申告書の様式(甲8のC,乙4,乙18)が用いられるようになった。
当該様式のうち業者用のものは,右上の欄外に「P1組合」と記載のある「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」と題する書面で,販売会社名印欄及び確認印欄が設けられていた。新潟税関支署は,この3枚複写の輸出入託送品等申告書が提出されると,業者用のものについては,新潟税関支署統括監視官の確認印を押捺の上,販売業者に交付していた。
(3) 本件取引の概要
本件取引の概要は,次のとおりである。
ア 買主は,いずれも本邦に短期間滞在するロシア人であり,大部分の者はα港に寄港する船舶の乗員として来日し,滞在期間が2ないし4日間程度の一時滞在者であるが,航空機で来日する者もある。
イ 原告は,新潟に中古自動車の展示販売場を設けており,買主であるロシア人は,ここで購入する中古自動車を選び,原告と売買契約を締結する。原告が販売のために展示する中古自動車は,いずれも自動車登録番号標を取り外してあり(甲18),そのほとんどが抹消登録済みのものである(販売時に抹消登録がされていない車両についても,通関手続の前後ころまでにはすべて抹消登録が行われる。)。
ウ 売買代金は,売買契約時に買主が現金で支払い,原告が領収証を発行する。その際,原告は,買主の所持する旅券又は乗員手帳のコピーを取り,これに基づいて,通関時に必要な申告書類(前記(2)の新潟税関支署における旅具通関の取扱いに応じ,持込申告書又は輸出入託送品等申告書)を作成する。航空機で来日する買主の場合には,税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書を買主に渡し,余白に購入車両の積載の承認を得た船舶の船長の署名又は押印のあるものを原告に戻してもらい,別送品扱いとする(甲9の1,乙17)。
エ 申告書類が整うと,原告は,買主とともに新潟税関支署へ赴き,そこで通関手続を行い(買主の署名が必要とされる申告書類には税関支署で買主が自署する。),船舶で来日している買主はそのまま自己の乗船に戻る。
原告は,当日の夕方に再び新潟税関支署へ赴き,通関手続の完了した中古自動車について,確認印等の押捺された申告書類と通関確認証(ステッカー)(乙10の1,2,乙11の1,2)を受領する。
オ 通関手続が完了すると,原告は,P1組合から毎朝ファックスで送信されてくる入港案内(甲13)で各船舶の積込予定日,積込予定時間,仕出港等を確認し,販売した中古自動車を買主の乗船等の仕出港まで搬入する(甲18)。原告は,そこで組合の職員に通関確認証と申告書類の控えと港施設利用券(甲10)を渡し,組合の職員は,車両と書類とを照合の上,通関確認証を車両のフロントガラスに貼付し,船積みを行う(甲18)。港施設利用券は,α港の施設利用料金を収受するために組合が発行するクーポン券であり,組合員以外の者には販売されない。
(4) 原告の保存する書類の概要
原告が本件取引について保存していた書類の概要は,次のとおりである。
ア 平成12年10月23日から平成13年7月12日までの間に輸出申告がされた取引に係るもの(乙9)
この期間のものは,大部分の取引について,右下の欄外に「P1組合」と記載のある「持込申告書」と題する書面(甲8のA,乙1と同種のもの)が各1通ずつ保存され,一部の取引について,税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書(乙3,乙17と同種のもの)が各1通ずつ保存されている。
「持込申告書」には,船名,停泊場所,品名(車種,車体番号),価格・数量等,乗組員氏名及び番号が記載され,申告者住所氏名欄には原告の名称及び事務所所在地の記載があり,余白には年月日の入った新潟税関支署統括監視官の印が押捺されている(甲8のA,乙1)。
輸出入託送品等申告書には,出入港年月日,積載船(機)名,積出港(船(取)卸港),品名,数量,価格が記載され,荷送人住所氏名欄及び申告者住所氏名(印)欄には中古自動車の買主であるロシア人の氏名の記載があり,許可印欄には年月日の入った新潟税関支署長の許可印が押捺されている(乙3,乙17)。
イ 平成13年7月17日から同年10月29日までの間に輸出申告がされた取引に係るもの(乙9)
この期間のものは,大部分の取引について,右下の欄外に「P1組合」と記載のある「持込申告書」と題する書面(甲8のA,乙1と同種のもの)と税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書(乙3,乙17と同種のもの)とがそれぞれ各1通ずつ保存され(一部には後者の書面が2通保存されているものもある。),一部の取引について,これらの書面のうちのいずれか1通ずつが保存されている。
各書面の記載内容及び押印の状況は,前記アと同様である。
ウ 平成13年11月1日から平成14年6月3日までの間に輸出申告がされた取引に係るもの(乙9)
この期間のものは,大部分の取引について,右上の欄外に「P1組合」と記載のある「持込申告書」と題する書面(甲8のB,乙2と同種のもの)が各1通ずつ保存され,一部の取引について,税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書(乙3,乙17と同種のもの)が各1通ずつ保存されている。
「持込申告書」には,出入港年月日,積載船(機)名,積出港(船(取)卸港),車体番号,車名,数量,価格が記載され,荷送人住所氏名欄及び申告者住所氏名印欄には中古自動車の買主であるロシア人の氏名,販売会社名印欄には原告の名称及び事務所所在地の記載があり,確認印欄には年月日の入った新潟税関支署統括監視官の印が押捺されている(甲8のB,乙2)。輸出入託送品等申告書の記載内容及び押印の状況は,前記アと同様である。
エ 平成14年6月4日から平成15年8月28日までの間に輸出申告がされた取引に係るもの(乙9,乙16)
この期間のものは,大部分の取引について,右上の欄外に「P1組合」と記載のある「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」と題する書面(甲8のC,乙4,乙18と同種のもの)が各1通ずつ保存され,一部の取引について,税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書(乙3,乙17と同種のもの)が各1通ずつ保存されている。
欄外に「P1組合」と記載のある「輸出・輸入託送品(携帯品・別送品)申告書」の記載内容及び押印の状況は,前記ウの「持込申告書」と同様であるが,平成15年6月6日から同年7月14日までの輸出申告に係るものについては,そのほとんどのものの申告者住所氏名印欄に原告の名称等と買主の氏名とが併せて記載されている(原告の名称等のみが記載されているものもある。)。税関様式C第5340号の輸出入託送品等申告書の記載内容及び押印の状況は,前記アと同様である。
2 争点①(輸出免税の実体要件該当性)について
(1) 「輸出」という語は,外国為替及び外国貿易法,輸出貿易管理令,輸出入取引法などの各種法令で用いられており,一般には,貨物を本邦以外の外国に向けて送り出すこと,すなわち,外国に仕向けられた船舶又は航空機に積み込むことを指すとされている(吉国一郎ほか共編『法令用語辞典』)。関税法では,特に,内国貨物を外国に向けて送り出すことを「輸出」としているが(同法2条1項2号),これは,保税地域からの外国貨物の積戻し(同法75条)と区別するための定義規定であり,内国貨物の「輸出」に限っていえば,上記のような一般的な意義と異なるものではない。消費税法7条1項1号にいう「輸出」も,同法中に特に定義規定が置かれていないことから,上記のような一般的な意義を有する語として用いられているものと解される。
このように「輸出」とは,貨物を外国に仕向けられた船舶又は航空機に積み込むことをいうのであり,船舶又は航空機への積込みという貨物の物理的な移転行為をとらえた概念であるから,消費税法7条1項1号にいう「本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け」とは,資産を譲渡し又は貸し付ける取引のうち,当該資産を外国に仕向けられた船舶又は航空機に積み込むことによって当該資産の引渡しが行われるものをいうと解するのが相当である。すなわち,本件のような動産の売買取引においては,通常,目的物である動産を買主に引き渡すことが取引の重要な要素であるから,外国に仕向けられた船舶又は航空機への積込みによって目的物の引渡しが行われる場合には,当該売買取引は,その要素に輸出行為を含む取引として,「本邦からの輸出として行われる資産の譲渡」に該当するものというべきである。
(2) そこで,本件取引における中古自動車の引渡しの態様について検討する。
前記認定事実によれば,本件取引は,短期滞在のロシア人が日本で買い取った中古自動車を船舶に積み込んで本国に持ち帰ることを目的とした取引であり,中古自動車の引渡しを要素とする取引であったと認められる(登録制度の適用がある自動車の場合には,所有権移転についての移転登録のみが行われ,占有移転を伴わない売買取引も考えられないではないが,本件取引において売買の対象となった中古自動車は,自動車登録番号標を取り外し,かつ,抹消登録済みか又は抹消登録が予定されていたものであり,しかも,成約後速やかに輸出のための通関手続がとられているのであるから,本件取引が単に観念的な所有権の移転のみを目的とし,占有移転を伴わない取引であったとは考えられない。)。
しかしながら,本件の証拠関係の下においては,本件取引が,外国に仕向けられた船舶への積込みによって目的物の引渡しが行われるという内容の取引であったとまで断定することは困難であるといわざるを得ない。すなわち,前記認定事実によれば,外形的事実として,本件取引において売買契約が成立し,代金の支払が済んだ中古自動車は,その後の通関手続を経て仕出港に搬入されるまでの間,原告の販売展示場で引き続き保管され,通関手続を終えた後は原告自身が販売展示場から直接仕出港に搬入し,その後の検査及び船舶への積込みも原告の依頼に基づき原告の費用負担の下でP1組合職員の手によって行われていたものであることが認められる。しかしながら,他方において,売買代金は売買契約時に既に支払が済んでおり,これによって売買の目的物である中古自動車が自己の支配下に入った(平たく言えば,自分のものになった)と考えるのが買主としての通常の認識であろうと考えられることからすると,観念的には売買代金の支払時に引渡しが行われており(したがって,その時点で売買取引そのものは完全に終了する。),その後の通関や車両の搬入は,本来買主が行うべきことを原告が代理又は代行したものと解する余地が十分にあるものということができる。したがって,本件取引において,どの時点で引渡しが行われたものと認めるべきかは,結局,本件取引の当事者が,目的物の引渡しに関し,具体的にどのような取り決めをしていたかという事実認定ないし意思解釈の問題に帰着するものというべきところ,この点の認定に資する的確な証拠は存在しない。むしろ,前記認定事実によれば,本件取引に係る中古自動車については,買主であるロシア人が当該中古自動車を自己の占有する携帯品又は別送品として輸出することを前提とする旅具通関扱いによって,輸出許可の手続が行われていたことが明らかである。そして,このような手続が新潟税関支署の指示によるもの(証人P2)であったとしても,原告は,この点の判断の違法を主張して何らかの救済手段に訴えることもなく(本件における救済手段としては,例えば,原告自身を輸出申告者とする輸出申告を行い,これに対する新潟税関支署長の輸出不許可処分を待って,東京税関長に対する異議申立て(関税法89条)又は財務大臣に対する審査請求を行い,あるいは取消訴訟の提起等をすることが考えられる。また,仮に以上のような手段は,時間的制約があって現実的ではないとしても,原告において,車両の引渡場所や引渡方法,引渡しがあるまでの危険負担等に関する条項等を明確に定めた契約書を作成し,原告とロシア人との取引が,輸出を目的とするものであることを契約書という客観的な根拠に基づいて主張していれば,新潟税関支署長の対応も変わった可能性があり得るし,客観的に輸出を目的とする取引であると認められるにもかかわらず,同支署長において,原告に対する輸出許可書を発行せず,そのような行政庁による違法な対応によって消費税法7条2項,同法施行規則5条所定の証明手段を得られなかった場合には,他の証明手段(契約書等)を利用することも可能であると解する余地もあり得るものと解されるのであるが,原告は,これらの手段は何ら講じていないのである。),新潟税関支署の指示に従い,平成13年8月課税期間で175件,平成14年8月課税期間で780件,平成15年8月課税期間で637件に及ぶ本件取引(乙9,乙16)を行ってきたのであるから,結果として原告も,買主を輸出の主体とみる旅具通関扱いを容認していたのではないかとの疑いを持たれてもやむを得ない面があるものといわざるを得ない(この点,証人P2は,旅具通関扱いという専門的なことはよく分からない,原告からの抗議にかかわらず買主名義で通関の申告書を作成する理由については税関から説明がなかった,と証言するが,旅具通関扱いの意味内容やその場合の申告方法,申告書様式等を規定した関税法基本通達の該当箇所をみれば,本件取引に係る通関手続が旅具通関扱いによるものであることを理解することにさほど困難があるとは思われないし,原告からの抗議に対して,税関側から旅具通関扱いによったものであるという程度の説明すらなかったとはにわかには措信し難い。)。
(3) 原告は,α港における中古自動車の輸出手続は,すべてP1組合で管理しており,組合員でなければ中古自動車を国外へ運び出すことができないから,原告や組合は買主ができることを代行しているのではないと主張する。しかしながら,平成8年10月1日の組合設立と同時に実施された業務事業実施要領(甲14,乙12)によると,中古自動車の輸出に関し,通関と検査が全て完了した後に中古自動車を購入者に引き渡し,保管場から本船までの搬出は保管場管理者の指示によって本船の乗組員(購入者)が行うこととされており,これによれば,本件取引当時の実際の運用が当該実施要領のとおりではなかった(証人P2)としても,少なくともP1組合の発足当時においては,中古自動車の通関から積込みまでの一切の行為を組合ないし組合員の手で行うということではなかったことは明らかであるし,原告自身,現在では,組合を通さずに,通関業者を通じて輸出手続を行っており(証人P2),本件取引と同時期の取引においても,車両の台数が多い場合等には,通関業者に依頼していたことが認められる(弁論の全趣旨)ことからしても,組合員でなければ中古自動車を国外へ運び出すことができないとの原告の主張は,理由のあるものとはいえない。また原告は,買主であるロシア人は,日本語を話せず,通関手続の仕方が分からず,限られた日数しか日本に滞在できないから,買主が自ら通関業者を通して輸出することは,現実的には不可能であるとも主張するが,必ずしもそのように断定することはできない。
原告は,輸出手続の途中で問題が発生して輸出不可能となれば,取引自体が不成立となって,車両代金を返金しなければならず,また,前掲の業務事業実施要領によれば,買主が購入した車両に,港へ搬入するまでに問題が生じ,船に積み込めなかった場合には,その車両を販売業者(原告)が責任をもって引き取らなければならないから,本件取引は,各車両を問題なく輸出することまでが原告の責任とされている取引であると主張する。しかしながら,本件取引において,輸出が不可能となれば,取引自体が不成立となって,車両代金までを返金しなければならなくなるというような取り決めが原告と買主との間でなされたことを認めるに足りる証拠はない(この点,車両の滅失毀損を原因としない輸出不能の場合には,危険負担に関する民法536条1項の規定により,一見すれば,売主である原告(債務者)は反対給付(売買代金)を受ける権利を有しないことになりそうであるが,これは,本件取引において,輸出行為としての船舶への積込みが売主の債務である旨の取り決めがされている場合に初めて成り立つ議論であり,本件では,まさにそのような取り決めがあったかどうかがそもそもの問題なのであるから,上記のような民法の規定をもって,輸出不能時の代金返還約束の存在を根拠付けることはできない。)。また,組合の業務事業実施要領を根拠とする原告の主張は,同実施要領(甲14,乙12)に「搬出時に故障等により移動不可能の場合は,販売者の責任とし,出港時間までに本船に積込みができない場合は,翌日までに車両を回収すること。」等と記載されていることを理由とするものである。しかしながらこれは,組合と組合員(販売者)との間での車両回収についての取り決めであり,販売者と購入者との間での取り決めの内容とは関係がないから,これをもって,本件取引が車両を問題なく輸出することまでが原告の責任とされている取引であることの根拠とすることはできない。
原告は,問題が起こった場合等にP1組合や新潟税関支署から販売業者(原告)に連絡が来ていること,原告が組合発行のクーポン券を購入して輸出費用を負担していることなども主張する。しかしながら,これらはいずれも,原告が買主の通関手続等を代理・代行したのではないかとの解釈を決定的に妨げるような事情ではない(組合発行のクーポン券が組合員のみに販売されているとの主張は,輸出手続をすべて組合が管理しているとの主張と同趣旨の主張であり,この主張が理由のないものであることは前述のとおりである。)。
原告は,買主のロシア人には運転免許証がなく,各車両は抹消登録済みで自動車登録番号標が付いておらず,名義変更に必要な書類の添付もないことなどにより,各購入者にとって,国内においては,乗ることも処分することもできないなど,管理支配できる状況にないものであって,ロシアに到着して初めて管理支配が可能となるものであるから,車両の引渡しは船積みされたところで行われていると解すべきであると主張する。しかしながら,証拠(証人P2)及び弁論の全趣旨によれば,買主には抹消登録に関する書類,譲渡証明書,印鑑登録証明書等が交付されていることが認められるから,買主が購入した車両を国内で処分することができないというわけではないし,国内で買主自らが使用することが事実上困難であるとしても,これを船積みして本国に持ち帰るという限度では買主の支配力(占有権)を及ぼすことが十分に可能であるから,原告の主張は理由のないものといわざるを得ない。
(4) 原告は,仮に本件取引が輸出取引に当たらないとしても,国際空港のサテライトショップでの販売と同様に,輸出免税の取扱いをすべきであると主張する。
消費税法基本通達7-2-21は,関税法の規定により保税蔵置場の許可を受けた者が,その経営する保税地域に該当する店舗で,出入国管理及び難民認定法の規定により出国の確認を受けた者に対して課税資産の譲渡を行った場合において,当該出国者が帰国若しくは再入国に際して当該課税資産を携帯しないことが明らかなとき又は渡航先において当該課税資産を使用若しくは消費することが明らかなときは,当該課税資産を当該保税蔵置場の許可を受けた者が輸出するものとして消費税法7条1項の規定を適用する旨を定めているところ,同通達の運用上,国際空港の国際線の航空機に搭乗する直前の乗客が利用する,いわゆる「サテライトショップ」については,保税地域には該当しないものの,当該場所で購入した物品については,旅行者によって海外へ持ち出されることが明らかな実態を踏まえて,同通達を適用することとされている(乙13)。
サテライトショップに係る上記のような課税上の扱いは,国際空港の中に店舗があるという場所の特性と,出国手続を終え又は旅券及び航空券を所持しているという利用者の特性から,販売された物品が直ちに国外に持ち出されることが客観的に明らかであるという事情を考慮して,輸出取引に準じた免税の取扱いをするものと解される。本件の場合には,原告の中古自動車の展示販売場はα港の施設内にあるというわけではなく(弁論の全趣旨),また,出国手続を終えた者や出国直前の者に限らず,航空機で来日して短期滞在中の外国人が利用することも可能である上,前述のとおり,中古自動車の購入者には抹消登録に関する書類,譲渡証明書,印鑑登録証明書等が交付され,国内でも処分可能な状態におかれるのであるから,販売された物品が直ちに国外に持ち出されることが客観的に明らかであるとまではいえず,サテライトショップにおける事情と同視することは困難である。
したがって,この点に関する原告の主張も理由がない。
(5) 以上のとおり,本件取引は,消費税法7条1項1号の輸出取引に該当するものとはいえず,また同号の輸出取引に準じて免税扱いをすべきものとも認められない。
3 本件各更正処分の適法性について
(1) 前記2によれば,争点②(輸出免税の手続要件該当性)について判断するまでもなく,本件取引について消費税を免除することはできないものというべきであるから,本件取引に係る売上金額を課税標準額に加算して消費税額等の計算を行った本件各更正処分の判断を違法とすることはできない。
(2) 平成13年8月課税期間に係る課税売上額の過少計上額及び課税売上額の過大計上額について
証拠(甲3)によれば,原告が平成13年3月19日に免税売上額として輸出売上に計上した金額28万円(総勘定元帳の輸出売上の「摘要」欄に「YERASOV」との記載がある部分)のうち,14万円を減算する期末修正(総勘定元帳の輸出売上の同年8月31日の「摘要」欄に「3/19」との記載がある部分)を行った際に,誤って課税売上額の減算を行ったために,課税売上額が14万円過少に計上されていることが認められる。したがって,平成13年8月課税期間の消費税等の額の計算に当たっては,当該過少計上となった課税売上額14万円に,消費税法28条1項に基づき105分の100を乗じて算出した金額である13万3333円を,課税標準額に加算する必要がある。
また証拠(甲3)によれば,原告が平成12年9月7日に輸出売上に計上した金額2万0450円(総勘定元帳の輸出売上の「摘要」欄に「ITS MARITIME UK LTD」との記載があるもの)が過大計上であることが認められる。したがって,平成13年8月課税期間の消費税等の額の計算に当たっては,当該過大計上となった課税売上額2万0450円に,消費税法28条1項に基づき105分の100を乗じて算出した金額である1万9476円を,課税標準額から減算する必要がある。
したがって,これらの金額を加算及び減額した点においても,平成13年8月課税期間更正処分は適法である。
4 本件各賦課決定処分の適法性について
前記3によれば,本件各更正処分はいずれも適法であるから,これを前提とする本件各賦課決定処分も,いずれも適法である。
5 争点③(本件許可申請却下処分の適法性)について
(1) 消費税法8条6項は,同条1項ないし4項所定の輸出物品販売場について,これを経営する事業者の納税地を所轄する税務署長の許可を受けることを要する旨を定めるのみで,許可の要件等については何も規定していない。したがって,同条6項の規定により輸出物品販売場の許可をするかどうかの判断は,所轄税務署長の合理的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
そうすると,消費税法施行規則10条2項が,消費税法8条6項の許可に関し,事業者が消費税に関する法令の規定に違反していない場合で,かつ,申請に係る販売場につき輸出物品販売場として施設その他の状況が特に不適当であると認められる事情がない場合には,許可をするものとすると定めているのは,所轄税務署長の裁量の基準を定めたものと解されるところ,この規定は,消費税法8条7項が,輸出物品販売場の許可の取消しに関し,輸出物品販売場を経営する事業者が消費税に関する法令の規定に違反した場合,又は,輸出物品販売場として施設その他の状況が特に不適当と認められる場合には,当該輸出物品販売場に係る許可を取り消すことができると定めていることと符節を合わせるものであって,許可の裁量の基準として合理的な定めであるといえる。
(2) 原告は,消費税法8条7項の実務上の運用において,同項の「消費税に関する法令の規定に違反した場合」とは,消費税の不正免脱等の罪を規定する同法64条の規定に該当して告発を受けた場合をいうとの運用が行われていることを根拠とし,消費税法施行規則10条2項の「消費税に関する法令の規定に違反していない場合」についても,消費税法64条の罰則規定に該当して告発を受けていない場合をいうものと解すべきであると主張する。
消費税法8条が輸出物品販売場における輸出物品の譲渡について消費税の免除を規定するのは,輸出物品販売場における非居住者への物品の譲渡が,最終的に当該物品を輸出することを前提とした譲渡であることにかんがみ,同法7条の輸出取引に準じた消費税免税の特典を与える趣旨であると解される。そうすると,このような特典を与える対象者を消費税に関する法令の規定を遵守している優良な事業者に限るとの立法政策は合理的なものということができるから,消費税法8条7項及び同法施行規則10条2項が「消費税に関する法令の規定」の範囲を特に限定していないことからしても,これらの各条項にいう「消費税に関する法令の規定に違反」する場合を,同法64条の罰則規定に該当して告発を受ける場合に限定して解釈すべき理由はなく,通則法及び消費税法等の規定に基づいて課される消費税の納付義務を適正に履行していない場合もこれに含まれると解するのが相当である。消費税法8条7項に関する実務上の限定的な運用は,既に輸出物品販売場の許可を受けて事業を行っている事業者の既得利益に配慮した謙抑的な運用とみるべきものであり,これが直ちに新規の許可の運用基準ともなるべきものと解さなければならない理由はない。
したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
(3) 前判示のとおり,原告が平成15年3月31日付けで受けた平成13年8月課税期間更正処分及び平成14年8月課税期間更正処分はいずれも適法であり,原告は,これによって消費税等の税額合計888万2500円を通則法35条2項所定の納期限である平成15年4月30日までに納付すべき義務を負っていたものである。にもかかわらず,原告はこれを納付せず,未納付まま同年5月9日に輸出物品販売場の許可申請をし,その後同年6月20日に至ってようやく納付したというのであるから,原告が消費税に関する法令の規定に違反したことは明らかである。
したがって,これを理由に本件許可申請却下処分をした被告東村山税務署長の判断に裁量権の逸脱・濫用は認められないから,本件許可申請却下処分は適法である。
第4結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 古田孝夫 裁判官 潮海二郎)