東京地方裁判所 平成16年(行ウ)422号 判決 2005年11月04日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 第一事件
第一事件被告玉川税務署長が原告に対して平成15年6月17日付けでした、原告の平成14年分所得税の更正のうち、還付金の額が81万8238円を下回るとした部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
二 第二事件
第二事件処分行政庁である玉川税務署長が原告に対して平成16年6月29日付けでした原告の平成15年分所得税の更正のうち、還付金の額が64万9311円を下回るとした部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
第二事案の概要
本件は、別紙物件目録記載1の土地及び同目録記載3の建物を所有する原告が、第一事件被告兼第二事件処分行政庁玉川税務署長(以下「玉川税務署長」という。)が原告に対して平成15年6月17日付けでした原告の平成14年分の所得税の更正及び同じく平成16年6月29日付けでした原告の平成15年分の所得税の更正は、いずれも、同目録記載1の土地を取得する資金に充てた借入金が、平成15年法律第8号による改正前の租税特別措置法41条1項1号、租税特別措置法施行令26条7項6号所定の借入金に該当し、いわゆる住宅ローン控除の対象となることを認めなかった点において違法である旨主張して、上記各更正並びに平成14年分及び平成15年分の各過少申告加算税賦課決定の取消しを求める事案である。
一 関係法令の定め
1 平成15年法律第8号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という。)41条
(一) 1項
居住者が、国内において、住宅の用に供する家屋で政令で定めるもの(以下第7項までにおいて「居住用家屋」という。)の新築…(中略)…若しくは建築後使用されたことのある家屋で政令で定めるもの(以下第7項までにおいて「既存住宅」という。)の取得(…(中略)…以下この項及び第3項において「住宅の取得等」という。)をして、これらの家屋(…(中略)…)を平成9年1月1日から平成16年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその新築の日若しくはその取得の日…(中略)…から6月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)において、その者が当該住宅の取得等に係る次に掲げる借入金又は債務(利息に対応するものを除く。次項、第3項及び第5項において「住宅借入金等」という。)の金額を有するときは、当該居住の用に供した日の属する年(次項及び第3項において「居住年」という。)以後6年間(同日(以下第3項までにおいて「居住日」という。)の属する年が…(中略)…平成12年である場合又は居住日が平成13年1月1日から同年6月30日までの期間(…(略)…)内の日である場合には15年間と…(中略)…する。)の各年(当該居住日以後その年の12月31日(…(中略)…)まで引き続きその居住の用に供している年に限る。次項及び第3項において「適用年」という。)のうち、その者のその年分の所得税に係るその年の所得税法第2条第1項第30号の合計所得金額(…(略)…)が3000万円以下である年については、その年分の所得税の額から、住宅借入金等特別税額控除額を控除する。
1号 当該住宅の取得等に要する資金に充てるために第8条第1項に規定する金融機関、住宅金融公庫、地方公共団体その他当該資金の貸付けを行う政令で定める者から借り入れた借入金(当該住宅の取得等とともにする当該住宅の取得等に係る家屋の敷地の用に供される土地又は当該土地の上に存する権利(以下この項において「土地等」という。)の取得に要する資金に充てるためにこれらの者から借り入れた借入金として政令で定めるものを含む。)…(中略)…のうち、契約において償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済することとされているもの
2号から4号まで 省略
(二) 2項
前項に規定する住宅借入金等特別税額控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額(当該金額に100円未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)とする。
1号 省略
2号 居住年が…(中略)…平成12年又は平成13年である場合(居住年が平成13年である場合には、その居住日が平成13年前期内の日である場合に限る。)
次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める金額
イ 適用年が居住年又は居住年の翌年以後5年以内の各年である場合その年12月31日における住宅借入金等の金額の合計額(当該合計額が5000万円を超える場合には、5000万円)の1パーセントに相当する金額
ロ及びハ 省略
3号及び4号 省略
2 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。なお、同施行令において「法」とは、前記1の措置法を指す。)
(一) 26条
(1) 5項
法41条第1項の居住者が新築をし、若しくは取得をした同項に規定する居住用家屋若しくは既存住宅(同項に規定する住宅借入金等(以下次条までにおいて「住宅借入金等」という。)にこれらの家屋の敷地の用に供する土地等の取得に係る住宅借入金等が含まれる場合には、これらの家屋及び当該土地等)又は同項に規定する増改築等をした家屋の当該増改築等に係る部分のうちにその者の居住の用以外の用に供する部分がある場合における同項の規定の適用については、次に定めるところによる。
1号 当該居住用家屋又は既存住宅のうちにその者の居住の用以外の用に供する部分がある場合には、当該居住用家屋の新築若しくは取得又は当該既存住宅の取得に係る住宅借入金等の金額は、当該金額に、これらの家屋の第1項各号に規定する床面積のうちに当該居住の用に供する部分の床面積の占める割合を乗じて計算した金額とする。
2号 当該土地等のうちにその者の居住の用以外の用に供する部分がある場合には、当該土地等の取得に係る住宅借入金等の金額は、当該金額に、当該土地等の面積(土地にあっては当該土地の面積(…(中略)…)を…(中略)…いう。以下この号において同じ。)のうちに当該居住の用に供する部分の土地等の面積の占める割合を乗じて計算した金額とする。
3号 省略
(2) 7項
法第41条第1項第1号に規定する政令で定める借入金は、次に掲げる借入金とする。
1号 法41条第1項に規定する…(中略)…既存住宅とともにこれらの家屋の敷地の用に供されていた土地等の取得をした場合における当該取得に要する資金に充てるために、法8条第1項に規定する金融機関(以下この項及び次項において「金融機関」という。)、住宅金融公庫、地方公共団体又は前項に規定する者から借り入れた借入金のうち当該土地等の取得に要する資金に係る部分
2号から5号まで 省略
6号 その新築をした法41条第1項に規定する居住用家屋の敷地の用に供する土地等をその新築の日前2年以内に取得した場合における当該土地等の取得に要する資金に充てるために、次のイ又はロに掲げる者から借り入れた借入金で当該イ又はロに掲げる者の区分に応じそれぞれイ又はロに定める要件を満たすもの(前3号に掲げる借入金に該当するものを除く。)
イ 金融機関、地方公共団体又は前項に規定する貸金業を行う法人
これらの者の当該借入金に係る債権を担保するために当該居住用家屋を目的とする抵当権の設定がされたこと又は当該借入金に係る債務を保証する者…(中略)…のの当該保証若しくはてん補に係る求償権を担保するために当該居住用家屋を目的とする抵当権の設定がされたこと
ロ 省略
(3) 18項
法第41条第1項に規定する居住者が、同項に規定する適用年の12月31日(…(中略)…)において、第7項4号から6号までに掲げる借入金…(中略)…に係る住宅借入金等の金額(以下この項において「土地等の取得に係る住宅借入金等の金額」という。)を有する場合であって、これらの借入金又は債務に係る第7項第4号から第6号まで…(中略)…に規定する土地等の上にその者が新築をしたこれらの規定に規定する居住用家屋の当該新築に係る住宅借入金等の金額を有しない場合には、当該適用年の12月31日における当該土地等の取得に係る住宅借入金等の金額は有しないものとみなして、同条第1項の規定を適用する。
(二) 26条の2第1項
住宅借入金等に係る債権者(…(中略)…)は、法第41条第1項又は法第41条の2第1項の規定の適用を受けようとする居住者から、当該居住者がこれらの規定の適用を受けようとする年の12月31日(…(中略)…)における当該住宅借入金等の金額その他の事項を証する書類で財務省令で定めるものの交付の申請(…(中略)…)があった場合には、当該書類を交付しなければならない。
二 前提事実
本件の前提となる事実は、次のとおりである。なお、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることのできる事実は、その旨付記してあり、その余の事実は、当事者間に争いがないか、当裁判所に顕著な事実である。
1 原告による居住用土地建物の取得の経緯
(一) 原告及び原告の妻であるaは、株式会社大樹から、平成11年10月29日付けで、別紙物件目録記載2の建物(以下「本件既存家屋」という。)及び本件既存家屋の敷地の用に供されている同目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を1億0060万円で購入する契約を締結し(以下、この契約を「本件売買契約」といい、この契約内容を記した書面を「本件売買契約書」という。)、同年11月30日に、本件既存家屋及び本件土地を取得した。
本件売買契約における売買代金1億0060万円の内訳は、本件既存家屋の売買価額が1246万4340円(本件売買契約書に記載のある消費税額59万3540円に5分の105を乗じたもの)であり、本件土地の売買価額が8813万5660円であった。
本件既存家屋及び本件土地の所有権の持分は、原告が5分の4、aが5分の1であった。
(本件売買契約の成立日及び消費税額につき乙1)
(二)(1) 原告は、平成11年11月30日、本件既存家屋及び本件土地の取得に要する資金に充てるため、三井信託銀行株式会社渋谷支店(当時の名称。現在の中央三井信託銀行株式会社渋谷支店である。以下「中央三井信託銀行渋谷支店」という。)から、償還期間を30年間として、8500万円を借り入れ(以下「本件借入金」という。)、本件既存家屋及び本件土地を共同担保として抵当権を設定した。
(2) 中央三井信託銀行渋谷支店が平成14年10月1日付けで作成した本件借入金に係る「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」(以下「本件年末残高証明書」という。)には、「住宅借入金等の区分」欄に、「租税特別措置法第41条第1項第1号該当(租税特別措置法施行令第26条第7項第1号該当)」、「住宅借入金等の内訳」欄に、「3住宅及び土地等」、「住宅借入金等の金額」欄中「年末残高」欄に「予定 7929万4721円」、「当初金額」欄に「平成11年11月30日 8500万円」「償還期間又は割払期間」欄に「平成11年12月から平成41年11月までの30年0月間」との各記載があった。(乙2)
(3) 本件借入金に係る平成14年の年末残高は、7929万4741円であった。(乙2)
(三) 原告は、平成12年3月26日、本件既存家屋を居住の用に供した。
(四) 原告は、平成12年分の所得税の確定申告において、本件既存家屋及び本件土地の取得を要する資金に充てるための本件借入金について、措置法41条1項(住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別税額控除額の定めであり、この控除を以下「住宅借入金等特別控除」という。)及び措置法施行令26条7項1号に該当するとして住宅借入金等特別控除を適用し、平成12年分所得税の確定申告書(以下「平成12年分確定申告書」という。)にその旨を記載して、玉川税務署長に提出した。(乙3)
(五) 原告は、a、b及びcとともに、平成13年1月31日、その所有に係る大田区α所在の土地及び建物を5700万円で売却した。このうち、原告の持分に相当する金額は3420万円であった。その結果、原告は、譲渡所得の金額に1077万8655円の損失が生じたとして平成13年分の所得税の確定申告書にその旨を記載し、玉川税務署長に提出した。原告の平成13年分の所得税については、譲渡所得の金額に損失が生じ、事業所得の金額と損益通算すると、原告の総所得額は20万6595円となり、ここから所得控除の合計額を差し引くと、原告が納付すべき所得税は生じないことになった。そのため、住宅借入金等特別控除を適用する必要はなかった。(乙4、6及び弁論の全趣旨)
(六) 原告は、平成13年に、本件既存家屋を取り壊し、別紙物件目録記載3の建物(以下「本件建物」という。)を工事代金額4360万4000円で新築し、同年8月1日に所有権保存登記手続を了した。(代金額につき乙1)
原告は、同年8月1日、本件建物に入居し、以後、居住の用に供している。本件建物の持分は、原告が100分の24、aが100分の33、bが100分の35、cが100分の8であった。
(七) 本件建物には、平成13年9月18日、原告の中央三井信託銀行に対する本件借入金の返済債務のため抵当権が設定された。(甲3)
(八) 原告は、aを連帯債務者として、平成13年9月18日、住宅金融公庫から本件建物の建築資金の一部に充てるために償還期間を30年として2350万円を借り受け(以下「公庫借入金」という。)、本件土地及び本件建物を共同担保として抵当権を設定した。
住宅金融公庫が平成14年10月23日に作成した公庫借入金に係る「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」には、「住宅借入金の区分」欄に「租税特別措置法第41条第1項第1号該当(租税特別措置法施行令第26条第7項第 号該当)」、「住宅借入金の内訳」欄に「1住宅のみ」、「住宅借入金の金額」欄中の「年末残高」欄に「予定額 2252万0845円」、「当初金額」欄に「平成13年9月8日 2350万円」及び「償還期間」欄に「平成13年10月から平成43年9月まで30年間」との各記載があった。(乙5)
2 原告に対する課税処分の経緯
(一) 原告は、平成15年3月17日、玉川税務署長に対し、平成14年分の所得税の確定申告書(以下「平成14年分確定申告書」という。)を提出した。
原告は、公庫借入金が本件建物の取得の資金に充てるための借入金であり、この平成14年の年末残高が2252万0845円であるとし、また、本件借入金の平成14年12月31日時点の残高が7929万4741円であり、本件既存家屋と本件土地の取得対価の割合が12.39パーセントと87.61パーセントであったことから、本件借入金のうち本件土地の取得の資金に充てた部分(以下「本件土地借入金」という。)の同日時点の残高は、上記金額に0.8761を乗じた6947万0122円であるとして、平成14年分確定申告書に添付されていた三面の「住宅借入金等特別控除額の計算の基礎となる住宅借入金等の年末残高の計算明細書」の「2 居住用部分の家屋又は土地等に係る住宅借入金等の年末残高」の項目中、「<E> 住宅のみ」欄中の「新築、購入及び増改築等に係る住宅借入金等の年末残高」欄に「2252万0845円」と記載し、「<F> 土地等のみ」欄中の「新築、購入及び増改築等に係る住宅借入金等の年末残高」欄に「6947万0122円」と記載した。そして、原告は、これらに措置法41条1項1号所定の住宅借入金等特別控除の規定が適用されることを前提に、住宅借入金等の年末残高の合計額を計算すると上限の5000万円を超えることから、これを5000万円とし、住宅借入金等特別控除の金額を50万円と記載して、所得税額からこれを控除するなどして申告した。(甲4、弁論の全趣旨)
(二) 玉川税務署長は、原告に対し、原告が平成14年分確定申告書に記載した住宅借入金等特別控除について、本件土地借入金を含む本件借入金は住宅借入金等特別控除を適用できないものである旨説明し、平成14年分の所得税につき修正申告書を提出するように促した。しかし、原告は、修正申告書を提出しなかった。
そこで、玉川税務署長は、原告に対し、平成15年6月17日、別表1の「更正処分」欄記載のとおり、平成14年分の所得税について更正(以下「本件平成14年更正」という。)をするとともに、過少申告加算税賦課決定(以下「本件平成14年賦課決定」という。)をした。
(三) 原告は、平成15年8月11日、玉川税務署長がした本件平成14年更正及び本件平成14年賦課決定を不服として、別表1の「異議申立て」欄記載のとおり、異議申立てをした。これに対し、玉川税務署長は、同年11月10日付けで、別表1の「異議決定」欄記載のとおり、異議申立てを棄却する旨の決定をした。
(四) 原告は、平成15年12月8日、玉川税務署長がした上記(三)の決定を不服として、国税不服審判所長に審査請求をした。国税不服審判所長は、平成16年7月2日、同審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(五) 原告は、平成16年9月17日、第一事件につき訴えを提起した。
(六) 原告は、平成16年3月15日、玉川税務署長に対し、平成15分の所得税の確定申告書(以下「平成15年分確定申告書」という。)を提出した。
原告は、公庫借入金が本件建物の取得の資金に充てた借入金であり、この平成15年の年末残高が2173万7521円であるとし、また、本件土地借入金が本件土地の取得の資金に充てた借入金であるところ、本件借入金の平成15年12月31日時点の残高が7728万6092円であり、本件既存家屋と本件土地の取得対価の割合が12.39パーセントと87.61パーセントであったことから、本件土地借入金の同日時点の残高は、上記金額に0.8761を乗じた6771万0345円であるとして、平成15年分確定申告書に添付されていた三面の「住宅借入金等特別控除額の計算の基礎となる住宅借入金等の年末残高の計算明細書」の「2 居住用部分の家屋又は土地等に係る住宅借入金等の年末残高」の項目中、「<E> 住宅のみ」欄中の「新築、購入及び増改築等に係る住宅借入金等の年末残高」欄に「2173万7521円」と記載し、「<F> 土地等のみ」欄中の「新築、購入及び増改築等に係る住宅借入金等の年末残高」欄に「6771万0345円」と記載した。そして、原告は、これらに措置法41条1項1号所定の住宅借入金等特別控除の規定が適用されることを前提に、住宅借入金等の年末残高の合計額を計算すると上限の5000万円を超えることから、これを5000万円とし、住宅借入金等特別控除の金額を50万円と記載して、所得税額からこれを控除するなどして申告した。(甲11、18、弁論の全趣旨)
(七) 玉川税務署長は、原告に対し、平成16年6月29日、別表2の「更正処分」欄記載のとおり、平成15年分の所得税について更正(以下「本件平成15年更正」といい、本件平成14年更正と併せて「本件各更正」という。)をするとともに、過少申告加算税賦課決定(以下「本件平成15年賦課決定」といい、本件平成14年賦課決定と併せて「本件各賦課決定」という。)をした。
(八) 原告は、平成16年8月25日、玉川税務署長がした本件平成15年更正及び本件平成15年賦課決定を不服として、別表2の「異議申立て」欄記載のとおり、異議申立てをした。これに対し、玉川税務署長は、同年11月24日付けで、別表2の「異議決定」欄記載のとおり、異議申立てを棄却する旨の決定をした。
(九) 原告は、平成16年12月20日、玉川税務署長がした上記(八)の決定を不服として、国税不服審判所長に審査請求をした。国税不服審判所長は、平成17年5月13日、同審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(一〇) 原告は、平成17年7月28日、第二事件につき訴えを提起した。
三 被告らが主張する原告の税額等
被告らが本訴において主張する原告の所得税の還付金の額に相当する額及び過少申告加算税額の算出根拠、算出過程等は、別紙「被告らが主張する原告の税額等」記載のとおりである。
四 争点
本件の争点は、本件土地借入金が、措置法施行令26条7項6号所定の借入金に該当せず、措置法41条1項1号により本件建物の取得に係る公庫借入金と合わせて住宅借入金等特別控除の対象となる住宅借入金等に含まれるとすることができないか否かである。
原告は、上記争点を前提とする部分について争うものであり、被告ら主張のその余の課税根拠及び計算関係については、当事者間に争いはない。
五 争点に関する当事者の主張の要旨
争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙「当事者の主張の要旨」記載のとおりである。
第三当裁判所の判断
一 争点について
1 本件借入金が本件土地及び本件既存家屋の取得に充てるための借入金であって、このうちの本件土地借入金が措置法施行令26条7項1号所定のいわゆる「同時取得・一体借入れ型」の借入金に該当していたことについては、当事者間に争いがない。
問題は、その後、本件建物が建築され、そのために公庫借入金が生じたことから、本件土地借入金が、さらに、本件建物及びその建築のための公庫借入金との関係においても、措置法施行令26条7項6号所定のいわゆる「建築条件付き以外の先行取得・分離借入れ型」の借入金に該当し、公庫借入金と合わせて措置法41条1項1号の住宅借入金等特別控除の適用対象に含まれるということにならないかという点である。
2(一) 住宅借入金等特別控除の適用の対象を定めた措置法41条1項は、居住者が、国内において、居住用家屋の新築若しくは既存住宅の取得をして、これらの家屋をその者の居住の用に供した場合において、その者が当該住宅の取得等に係る次の各号に掲げる借入金等の金額を有するときは、当該居住の用に供した日の属する年以後10年間(当該居住の用に供した日が平成11年1月1日から平成13年6月30日までの期間内の日である場合には15年間)の各年のうち、その者のその年分の合計所得金額が3000万円以下である年については、その年分の所得税の額から、住宅借入金等特別控除額を控除する旨規定している。そして、同項1号は、「当該住宅の取得等に要する資金に充てるために…(中略)…政令で定める者から借り入れた借入金(当該住宅の取得等とともにする当該住宅の取得等に係る家屋の敷地の用に供される土地又は当該土地の上に存する権利(…略…)の取得に要する資金に充てるためにこれらの者から借り入れた借入金として政令で定めるものを含む。)…(中略)…のうち、契約において償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済することとされているもの」と規定している。
このように、措置法41条1項1号によると、①住宅の取得等に要する資金に充てるための一定の借入金等に加え、②居住用家屋又は既存住宅の取得とともにするこれらの家屋の敷地の用に供される土地等の取得に用する資金に充てるための借入金等も、一定の要件の下に、住宅借入金等特別控除制度の適用対象となる住宅借入金等の範囲に含まれることとされている。
そして、措置法施行令26条7項は、措置法41条1項1号に規定する政令で定める借入金につき、1号において、「法41条第1項に規定する…(中略)…既存住宅とともにこれらの家屋の敷地の用に供されていた土地等の取得をした場合における当該取得に要する資金に充てるために…(中略)…から借り入れた借入金のうち当該土地等の取得に要する資金に係る部分」と規定し、また6号において、「その新築をした法41条第1項に規定する居住用家屋の敷地の用に供する土地等をその新築の日前2年以内に取得した場合における当該土地等の取得に要する資金に充てるために、…(中略)…から借り入れた借入金で…(中略)…に定める要件を満たすもの(…略…)」と規定している。
したがって、これらの規定によると、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の対象となる土地等とは、まず、措置法41条1項に規定する住宅の取得とともに取得された当該住宅の敷地の用に供される土地等でなければならないものと解される。また、建物の取得に要する資金に充てるための借入金等と当該建物の敷地の用に供される土地等の取得に要する資金に充てるための借入金等との関係という観点からいうと、両者は、必ずしも、同一機会に同一の借入れとしてされる必要性はないものの、時機や目的において緊密に関連付けられているという意味で、当該住宅の取得に関連して取得された土地等の取得のための借入金であること、すなわち、建物と土地等とは、建物を取得するためには、当然に敷地となる土地等が必要となるという関係にあることから、正に、当該建物を取得する目的で取得することとなった土地等の取得の資金に充てるために借り入れた借入金であるということが必要であると解すべきである。
また、措置法41条1項には、居住用家屋又は既存住宅を居住の用に供した場合において、住宅借入金等には、住宅の取得等に係る借入金等に土地等の取得に要する資金に充てるための借入金等を含める旨規定していることからすると、土地等の取得に要する資金に充てるための借入金等が住宅借入金等特別控除の適用対象となるためには、その前提として、これらの家屋を居住の用に供していなければならず、当該家屋を本件既存家屋のように取り壊すなどして居住の用に供しなくなった場合には、土地等の取得に要する資金に充てるための借入金等は、住宅借入金等特別控除の適用対象とならなくなるものと解すべきである。
(二) これを本件についてみるに、前記第二の二の前提事実によると、原告は、平成11年11月30日に本家既存家屋とともに当該家屋の敷地の用に供される本件土地を購入し、これらの取得の資金に充てるために本件借入金を借り受けたこと、本件借入金の契約当事者である原告と中央信託銀行渋谷支店は、本件借入金を措置法41条1項1号及び措置法施行令26条7項1号に該当するものとして取り扱っていたこと、原告は平成12年分確定申告書に、本件借入金をこれらの取得に係る借入金として住宅借入金等特別控除の適用を受けるものと記載していたこと、及び原告は平成13年に本件既存家屋を取り壊し、本件土地上に本件建物を新築し、同年8月1日以降本件建物に居住していることを認めることができる。
そうすると、本件土地借入金は、既に、本件既存家屋に係る所得税額の特別控除の適用において控除の対象とされているのであって、本件土地は本件既存家屋とともに取得されたものということができる。したがって、本件土地は、本件建物とともに取得されたものではないことが明らかであり、本件土地の取得のための借入金と本件建物の取得のための借入金とに前述したような緊密な関連性を見いだすことはできない。そうすると、原告が平成13年8月1日に本件土地上に本件建物を新築して居住を開始し、本件土地の取得がその新築の日前2年以内の平成11年11月30日であるとしても、本件建物の取得に要する資金に充てるための公庫借入金につき住宅借入金等特別控除を適用するに当たり、本件土地が本件建物とともに取得した当該建物の敷地の用に供するものであるという余地はない。よって、本件土地借入金は、措置法41条1項1号、措置法施行令26条7項6号所定の借入金等には該当しないといわなければならない。
(三)(1) これに対し、原告は、他の用途で購入した土地であっても、その後新築した建物との関係において客観的にその敷地となっていれば、当該建物を新築した日前2年以内の取得であるときには、措置法施行令26条7項6号により、当該土地の取得に充てた借入金は、新築した建物の取得に充てた借入金と合わせて住宅借入金等特別控除の適用があるのであり、そのように解さなければ、租税法律主義に反する旨主張する。
(2) しかし、措置法41条1項1号及び措置法施行令26条7項各号の規定の文理及び趣旨は、前述したとおりであり、住宅借入金等特別控除は、土地等の購入の時点において、その購入をし、又は新築をしようとしている自己の居住用家屋の敷地とすることを目的として購入された土地等を対象とし、かつ、そのような居住用家屋の敷地とされる土地等の購入を対象に貸付け等が行われる借入金等を対象としようとするものと解すべきである。原告の主張するように、措置法施行令26条7項6号が、他の用途で購入した土地であってもその後客観的に居住用建物の敷地となった土地であれば、当該土地を居住用家屋の新築又は取得の日前2年以内に取得していたときには、当該土地の取得に充てた借入金が措置法施行令26条7項6号の借入金に該当し、住宅借入金等特別控除の適用が認められるということになるということを規定したものと解することはできない。
措置法施行令26条7項6号では、「土地等を新築の日前2年以内に取得した場合」との条件が規定されているが、その前提として「その新築をした法第41条1項に規定する居住用家屋の敷地の用に供する土地等を…」という条件が付されていることからすると、本件建物に係る借入金に住宅借入金等特別控除を適用するに際し、本件土地の取得が措置法施行令26条7項6号所定の敷地の取得に該当するというためには、本件建物の敷地の用に供する土地を取得したという要件を満たさなければならない。しかし、前記のとおり、本件土地は、本件建物ではなく、本件既存家屋とともに取得されたものであって、原告がそのような性格付けをした上で本件土地借入金を含む本件借入金を借り入れたものであるから、本件土地を本件建物の敷地の用に供するものとした上で、本件土地借入金を借り入れたということはできない。したがって、結果的に本件土地が本件建物の敷地の用に供されることになったとしても、本件建物の敷地の用に供する土地を取得したという上記の要件を満たしたということはできない。これは当初から近々に既存の建物を取り壊して新築建物を建築する予定であったとしても異ならない。仮に、本件建物の取得に充てる公庫借入金との関係において本件土地借入金につき住宅借入金等特別控除の適用を受けようとするのであるならば、原告としては、本件土地借入金の借入れの際、そのように性格付けをして借入れをして、税務申告をする必要があったというべきである。すなわち、本件既存家屋の取得とともにするということではなく、本件建物の取得とともにするということで、本件土地借入金について措置法41条1項1号の適用を受けることをせず、本件土地借入金は、本件建物の取得に要する資金に充てた公庫借入金と合わせて、措置法41条1項1号、措置法施行令26条7項6号により住宅借入金等特別控除の適用を受ける旨性格付けをしておく必要があったのである。ところが、実際には、既に見たとおり、原告は、本件土地借入金を本件既存家屋の取得とともにする借入金として、本件借入金全体につき、措置法41条1項1号、措置法施行令26条7項1号の適用により住宅借入金等特別控除の適用を受けたのであるから、上記のような本件建物の取得とともにするとは認められないとされても致し方のないことというほかない。
したがって、原告の上記(1)の主張は、措置法41条1項1号及び措置法施行令26条7項6号の規定の文理及び趣旨に即していない独自の見解というほかなく、前記(二)の認定判断は、何ら租税法律主義に反するところはない。
(3) 以上によれば、原告の前記(1)の主張は、採用することができない。
3 以上のとおりであり、本件借入金の対象物件である本件既存家屋がも早存在しない以上、本件土地借入金を含む本件借入金について、措置法41条1項1号、措置法施行令26条7項1号が適用される余地はなく、かつ、本件土地借入金についてのみ、本件建物とともにする借入金として措置法施行令26条7項6号に該当すると解することもできないのであるから、本件土地借入金は、これを住宅借入金等特別税額控除の対象となる借入金に含めることはできないというべきである。
二 本件各更正の適法性について
以上によれば、原告の平成14年分及び平成15年分の所得税についての住宅借入金等特別税額控除の額及び還付金の額に相当する税額は、いずれも、被告らの主張するとおりであり、このうち、還付金の額に相当する税額は、それぞれ平成14年分が40万3438円、平成15年分が23万1511円であると認めることができる。そうすると、これらは、いずれも本件各更正における還付金の額に相当する税額(別表1及び同2の各「更正処分」欄中の「納付すべき税額」欄記載の金額)と同額であるから、本件各更正は、いずれも適法である。
三 本件各賦課決定の適法性について
本件各更正は、いずれも適法であるところ、平成14年分確定申告書の提出及び平成15年分確定申告書に記載された還付金の額に相当する税額がいずれも過大であったことについて、原告に通則法65条4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当する事由があるとは認められない。そうすると、平成14年分及び平成15年分の各過少申告加算税の額は、それぞれ通則法118条3項、65条1項、2項に従って計算すると、平成14年が4万1000円、平成15年が4万1000円となる。これらは、いずれも本件各賦課決定における過少申告加算税の額(別表1及び同2の各「更正処分」欄中の「過少申告加算税の額」欄記載の金額)と同額であるから、本件各賦課決定は、いずれも適法である。
四 結論
以上によれば、原告の各請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菅野博之 裁判官 小田靖子 裁判官 岩井直幸)
別紙被告らが主張する原告の税額等
1 本件平成14年更正
(一) 課税総所得金額 1149万3000円
上記金額は、次の(1)の総所得金額から次の(2)の所得控除の額の合計金額を控除した金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定に基づき、千円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。
(1) 総所得金額 1291万4936円
上記金額は、原告の平成14年分の事業所得の金額であり、平成14年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
(2) 所得控除の額の合計額 142万1400円
上記金額は、所得税法第2章第4節に規定する所得控除の合計額であり、平成14年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
(二) 還付金の額に相当する税額 40万3438円
上記金額は、次の(2)から(4)までの合計額から次の(1)を控除した金額である。
(1) 課税総所得金額に対する税額 221万7900円
上記金額は、前記(一)の課税総所得額1149万3000円に、所得税法89条1項の税率(経済社会の変化等に対応した早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成11年法律第8号。以下「負担軽減措置法」という。)4条の特例を適用したもの)を乗じて算出した金額であり、平成14年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
(2) 住宅借入金等特別控除額 8万5200円
上記金額は、次の住宅借入金等の年末残高の合計額を基に措置法41条2項3号の規定により算出した金額である。
住宅借入金等の年末残高の合計額 852万4252円
上記金額は、次のアの確定申告に係る住宅借入金等の年末残高の合計額から、次のイの住宅借入金等の年末残高の計算上の算入否認額を控除した金額である。これは、次のア(ア)の金額と同額である。
ア 確定申告に係る住宅借入金等の年末残高の合計額 6757万3855円
上記金額は、次の(ア)に次の(イ)を加算した合計額である。ただし、上記金額は、上限の5000万円を超えるため、平成14年分確定申告書には、住宅借入金等の年末残高の合計額として5000万円と記載されている。
(ア) 公庫借入金の年末残高 852万4252円
上記金額は、公庫借入金の平成14年の年末残高の金額2252万0845円に、原告の連帯債務に係る負担割合44.53パーセント及び本件建物の居住用割合85パーセントを乗じて算出した原告の居住用部分に係る住宅借入金等特別控除借入金等の年末残高であり、平成14年分確定申告書に添付されていた三面の「住宅借入金等特別控除の計算の基礎となる住宅借入金等の年末残高の計算明細書」の「2 居住用部分の家屋又は土地等に係る住宅借入金等の年末残高」の項目中、「<E> 住宅のみ」欄中の「居住用部分に係る住宅借入金等の年末残高」欄に記載されていた金額と同額である。
(イ) 本件土地借入金の年末残高 5904万9603円
本件土地借入金の平成14年の年末残高6947万0122円に、原告の連帯債務に係る負担割合100パーセント及び本件土地の居住用割合85パーセントを乗じて算出した原告の居住用部分に係る住宅借入金等特別控除借入金等の年末残高5904万9603円であり、平成14年分確定申告書に添付されていた三面の「住宅借入金等特別控除の計算の基礎となる住宅借入金等の年末残高の計算明細書」の「2 居住用部分の家屋又は土地等に係る住宅借入金等の年末残高」の項目中、「<F> 土地等のみ」欄中の「居住用部分に係る住宅借入金等の年末残高」欄に記載されていた金額と同額である。
イ 住宅借入金等の年末残高の合計額の計算上の算入否認額 5904万9603円
上記金額は、住宅借入金等の年末残高の合計額の計算上算入されるべきでない前記ア(イ)の金額である。
(3) 定率減税額 25万円
上記金額は、負担軽減措置法6条2項を適用して算出した金額であり、平成14年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
(4) 源泉徴収税額 228万6138円
上記金額は、原告の平成14年分の事業所得に関する源泉徴収税額であり、平成14年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
2 本件平成15年更正
(一) 課税総所得金額 1315万円
上記金額は、次の(1)の総所得金額から次の(2)の所得控除の額の合計金額を控除した金額(ただし、通則法118条1項の規定に基づき、千円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。
(1) 総所得金額 1430万8687円
上記金額は、原告の平成15年分の事業所得の金額であり、平成15年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
(2) 所得控除の額の合計額 115万8600円
上記金額は、所得税法第2章第4節に規定する所得控除の合計額であり、平成15年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
(二) 還付金の額に相当する税額 23万1511円
上記金額は、次の(2)から(4)までの合計額から次の(1)を控除した金額である。
(1) 課税総所得金額に対する税額 271万5000円
上記金額は、前記(一)の課税総所得額1315万円に、所得税法89条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの)を乗じて算出した金額であり、平成15年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
(2) 住宅借入金等特別控除額 8万2200円
上記金額は、次の住宅借入金等の年末残高の合計額を基に措置法41条2項3号の規定により算出した金額である。
住宅借入金等の年末残高の合計額 822万7760円
上記金額は、次のアの確定申告に係る住宅借入金等の年末残高の合計額から、次のイの住宅借入金等の年末残高の計算上の算入否認額を控除した金額である。これは、次のア(ア)の金額と同額である。
ア 確定申告に係る住宅借入金等の年末残高の合計額 6578万1553円
上記金額は、次の(ア)に次の(イ)を加算した合計額である。ただし、上記金額は、上限の5000万円を超えるため、平成15年分確定申告書には、住宅借入金等の年末残高の合計額として5000万円と記載されている。
(ア) 公庫借入金の年末残高 822万7760円
上記金額は、公庫借入金の平成15年の年末残高の金額2173万7521円に、原告の連帯債務に係る負担割合44.53パーセント及び本件建物の居住用割合85パーセントを乗じて算出した原告の居住用部分に係る住宅借入金等特別控除借入金等の年末残高である。
(イ) 本件土地借入金の年末残高 5755万3793円
本件土地借入金の平成15年の年末残高6771万0345円に、原告の連帯債務に係る負担割合100パーセント及び本件土地の居住用割合85パーセントを乗じて算出した原告の居住用部分に係る住宅借入金等特別控除借入金等の年末残高5755万3793円であり、平成15年分確定申告書に添付されていた三面の「住宅借入金等特別控除の計算の基礎となる住宅借入金等の年末残高の計算明細書」の「2 居住用部分の家屋又は土地等に係る住宅借入金等の年末残高」の項目中、「<F> 土地等のみ」欄中の「居住用部分に係る住宅借入金等の年末残高」欄に記載されていた金額と同額である。
イ 住宅借入金等の年末残高の合計額の計算上の算入否認額 5755万3793円
上記金額は、住宅借入金等の年末残高の合計額の計算上算入されるべきでない前記ア(イ)の金額である。
(3) 定率減税額 25万円
上記金額は、負担軽減措置法6条2項を適用して算出した金額であり、平成15年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
(4) 源泉徴収税額 261万4311円
上記金額は、原告の平成15年分の事業所得に関する源泉徴収税額であり、平成15年分確定申告書に記載されていた金額と同額である。
3 本件各賦課決定に係る過少申告加算税
(一) 平成14年分 4万1000円
上記金額は、原告の平成14年分の確定申告に係る還付金の額に相当する税額81万8238円から平成14年分の所得税の還付金の額に相当する税額40万3438円を控除した41万円(通則法118条3項によって1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。以下同じ。)に対して同法65条1項に規定する100分の10の割合を乗じて算出した金額である。
(二) 平成15年分 4万1000円
上記金額は、原告の平成15年分の確定申告に係る還付金の額に相当する税額64万9311円から平成15年分の所得税の還付金の額に相当する税額23万1511円を控除した41万円に対して同法65条1項に規定する100分の10の割合を乗じて算出した金額である。
別紙当事者の主張の要旨
1 原告の主張
(一)(1) 本件土地借入金は、確かに、本件既存家屋との関係において措置法施行令26条7項1号所定のいわゆる「同時取得・一体借入れ型」の借入金に該当する。
しかし、同時に、本件土地は、本件建物の敷地の用に供する土地であり、本件建物の新築の日前2年以内に取得したものであるから、本件借入金のうち本件土地借入金は、本件建物の取得との関係において措置法施行令26条7項6号所定のいわゆる「建築条件付き以外の先行取得・分離借入れ型」の借入金に該当するというべきである。すなわち、措置法施行令26条7項6号は、「その新築をした居住用家屋の敷地の用に供する土地等をその新築の日前2年以内に取得した場合におけるその土地等の取得に要する資金に充てるため、次に掲げる者から借り入れた借入金等でその貸付者の区分に応じそれぞれ次の要件を満たすもの」と規定するのみであり、それ以外の要件は規定されていない。「取得した」の前に、「その家屋の敷地として」などという要件は付加されていない。したがって、まず、建築条件付き以外の目的で土地を取得した場合であっても、また、この土地の取得に要した資金に充てるための借入金と新たにそれを敷地として新築した建物の建築に要した資金に充てるための借入金とが分離されている場合であっても、2年以内の土地取得等といった措置法施行令26条7項6号所定の条件に適合するときは、この2本の借入金全体につき特別控除を認めるというものにほかならないというべきである。措置法26条7項各号においては、不動産についても土地の先行取得という型が認められ、借入れについても分離借入れという型が認められているのである。そして、措置法施行令26条7項6号は、正にそのような分離借入れの場合を規定したものであって、建物と当該建物の敷地の用に供する土地の各借入金の一体性は要件とされていない。
(2) そもそも、措置法41条1項1号にいう「ともにする」とは、住宅と土地の関係についてのものであることは明らかであり、住宅の借入金と土地の借入金の一体性をいうものではない。仮に、借入金等の一体性が要件であるのであれば、建築条件付き以外の先行取得・分離借入れ型は、法律上存在し得ないことになるが、被告ら自身もこの類型の存在を認めているのであり、借入金等の一体性が法令上の要件でないことは明らかである。
措置法施行令26条18項は、当該適用年の12月31日において、建物に関する借入金がないときには土地についての借入金残高があってもその部分だけの住宅借入金等特別控除は認めないといういわば当然の規定であるが、この規定自体、建物の借入金と土地の借入金というそれぞれ別個の借入金が存在することを当然の前提としている。措置法施行令26条7項6号所定の建築条件付き以外の先行取得・分離借入れ型は、借入金そのものが別々であることを指すからこそ、分離借入れ型というのである。
(3) したがって、本件借入金のうち本件土地借入金は、措置法施行令26条7項6号所定の借入金に該当し、本件建物の取得に要する資金に充てた公庫借入金の措置法41条1項1号の住宅借入金等特別控除の適用において住宅借入金等として含まれるというべきである。
(二) 本件土地が本件既存家屋の敷地の用に供されるものであるとして、本件土地借入金を含む本件借入金に、措置法41条1項1号及び措置法施行令26条7項1号の規定が適用されたことをもって、本件土地借入金が措置法施行令26条7項6号所定の借入金等に該当しないと解されるのであれば、同号のただし書なりにそのような制限がある旨の規定が置かれていなければならないところ、そのような規定は存しないのであるから、上記のような解釈は、租税法律主義に反するというべきである。
2 被告らの主張
(一)(1) 措置法41条1項1号は、「当該住宅の取得等に要する資金に充てるために…(中略)…借り入れた借入金(当該住宅の取得等とともにする当該住宅の取得等に係る家屋の敷地の用に供される土地…(中略)…の取得に要する資金に充てるためにこれらの者から借り入れた借入金として政令で定めるものを含む。)…(中略)…のうち、契約において償還期間が10年以上の割賦償還の方法により返済することとされているもの」と規定している。
この「当該住宅の取得等とともにする当該住宅の取得等に係る家屋の敷地の用に供される土地」の取得に要する資金に充てるための借入金等で政令で定めるものとは、新築住宅又は既存住宅とともに取得する土地等で、これらの住宅の敷地の用に供されるものの当該取得に要する資金に充てるために、これらの住宅の取得に係る借入金等と一体として借り入れた償還期間10年以上の借入金等であり、かつ、措置法施行令26条7項各号所定のものをいうと解すべきである。上記の土地等の取得に要する資金に充てるための借入金等と居住用住宅の取得に係る借入金等との一体性という要件は、同項の規定を設けた平成11年税制改正において、住宅借入金等特別控除制度が持ち家促進の政策を推進するために、当時の経済状況に照らして住宅の住み替えを促進するとともに、住宅建設促進のため緊急に土地の流動化を図る政策目的で実施されたという沿革、及びその適用に当たっては、借入金等によって取得された個々の住宅に着目し、これを基準として適用範囲を決定しようという立法趣旨にも合致する。また、措置法施行令26条18項は、土地等の先行取得がある場合における住宅借入金等特別控除の対象となる借入金等の金額について、適用年の年末において新築住宅に係る住宅借入金等の金額を有していない場合には、当該住宅の敷地の用に供するために取得した土地等に係る住宅借入金等の金額は有していないものとみなす旨規定し、住宅借入金等特別控除の適用を排除しているが、これは、土地等の先行取得に係る借入金等の金額については、その年末においてその金額を有していたとしても、取得した土地等の上に建築された対象住宅の新築・取得に係る住宅借入金等の金額を有していなければ住宅借入金等特別控除の適用はないということを規定したものであり、この点においても、住宅借入金等特別控除の適用には、住宅の取得に要する資金に充てるための借入金等と、当該住宅の敷地の用に供される土地等の取得に要する資金に充てるための借入金等との一体性が要件とされていると解することができる。
このように、措置法41条1項1号にいう「当該住宅の取得等とともにする」とは、一見すると直接的には土地等の取得に係るもののように見受けられるが、その「ともに」取得する土地等に係る借入金について定めているものであることや、上記の本件各条項の規定振りからしても、同規定は、住宅借入金等特別控除においては、当該住宅と当該住宅の敷地の用に供する土地の取得の一体性、ひいては居住用住宅の取得に係る借入金等と当該住宅の敷地の用に供される土地の取得に係る借入金等との一体性を適用要件としていることは明らかである。
(2) 措置法施行令26条7項各号は、措置法41条1項1号の規定を受けて、同条に該当する借入金等の内容を規定するものであるから、その解釈適用に当たっては、当然にその上位規範である措置法41条1項1号の規定の範囲に限定されることになる。
そして、措置法施行令26条7項6号に該当する借入金等とは、いわゆる「建築条件付き以外の先行取得・分離借入れ型」に該当する借入金等、すなわち、土地等を先に購入し、その土地等の購入に要する資金に充てるために銀行等から借り入れた一定の借入金等で、その新築の日前2年以内に土地等を購入すること、その債権担保のためにその土地等の上に新築される居住用家屋を目的とする抵当権が設定されること等の一定の条件を満たす借入金等である。また、同号の規定も、上位規範である措置法41条1項との関係において、当然に、「居住用住宅の取得に係る借入金等との一体性」が要件となっており、「土地等の購入の時点において、その購入をし又は新築しようとしている自己の居住用住宅の敷地とすることを目的として購入された土地等を対象とし、かつ、そのような居住用住宅の敷地とされる土地等の購入を対象に貸付け等が行われる借入金等」は、その適用対象となるものの、結果的にその土地等の上に自己の居住用住宅が建築されるようになったとしても、その土地等の購入の時点において借入金等を利用して単に土地等の取得のみを目的とするにすぎないという事案においては、当該土地の取得に要する資金に充てるための借入金は住宅借入金等特別控除の適用の対象外となるのである。
(3) 平成15年改正前の措置法通達41-23は、「敷地の取得対価の額の範囲」として、埋立て、土盛り、地ならし、切土、防壁工事その他の土地の造成又は改良のために要した費用の額や、土地等と一括して建物等を取得した場合における当該建物等の取壊し費用の額が敷地の取得対価の額に含まれるものとする旨の規定を置くとともに、当該建物等の取壊しの費用の額に関し、当該取壊し前に当該建物等を居住の用に供して措置法41条1項の規定の適用を受けている場合には、当該家屋の新築に係る同項の規定の適用において、当該土地等の取得は敷地の取得に該当しないことに留意する旨の規定を置き、その取扱いを明らかにしている。これは、住宅借入金等特別控除が、新築住宅又は既存住宅とともに取得する土地等でこれらの住宅の敷地の用に供されるものの当該取得に要する資金に充てるため、これらの住宅の取得に係る借入金等と一体として借り入れた借入金等の場合についてのみ適用できることにかんがみ、本件のように住宅借入金等特別控除の適用の後に既存家屋を取り壊して建物を新築した場合には、新築に係る建物に係る借入金等と既に住宅借入金等特別控除の適用を受けた土地等の取得に係る借入金等とは一体として借り入れたものではないことから、当該土地等の取得のために借り入れた借入金等については、住宅借入金等特別控除の適用がない旨の取扱いを明らかにしたものである。土地等と一括して建物等を取得し、その建物等及び土地等について住宅借入金等特別控除を適用するのは、当該建物等の取得のために借り入れた借入金等とその建物等の敷地の用に供される土地等の取得のため借入金等とが一体として借り入れたものと認められるからであり、たとえ、建物等及び土地等の取得後おおむね1年以内に当該建物等を取り壊し、その敷地の上に借入金等により居住用家屋を新築したとしても、その取壊し及び新築が当初の取得時から予定されていたと明らかに認められない限り、敷地の用に供する土地等の取得に要した借入金等と新築家屋に係る借入金等は一体として借り入れた借入金等とは認められないため、当該土地等の取得に要した借入金等については住宅借入金等特別控除は適用されないのである。
(4) 本件においては、本件土地借入金を含む本件借入金は、原告が平成11年11月30日に中央三井信託銀行渋谷支店から、本件既存家屋及び本件土地を取得するために一括して借り入れ、原告と中央三井信託銀行渋谷支店との契約において、措置法41条1項1号及び措置法施行令26条7項1号の各規定に該当する借入金として性格付けられたものである。これは、本件年末残高証明書(乙2)の「住宅借入金等の区分」欄に「租税特別措置法41条第1項第1号該当(租税特別措置法施行令第26条第7項第1号該当)」と記載されていること及び「住宅借入金等の内訳」欄に「3住宅及び土地等」と記載されていること、並びに平成12年分確定申告書(乙3)において、原告が本件借入金は本件既存家屋及び本件土地の取得に要した資金に充てるための借入金であるとして、措置法41条1項、措置法施行令26条7項1号の規定を適用し、住宅借入金等特別控除額を計算して同控除額を記載し、これを玉川税務署長に提出していることからしても明らかである。
そうすると、本件借入金のうち、①本件既存家屋の取得に要した資金に充てた部分は、措置法41条1項1号本文の規定する借入金に該当し、また、②本件土地借入金は、いわゆる「同時取得・一体借入れ型」として、措置法施行令26条7項1号に該当するものとして、措置法41条1項1号の括弧書に規定する借入金に該当することになる。このように、本件借入金が措置法施行令26条7項1号所定のいわゆる「同時取得・一体借入れ型」の借入金である以上、本件土地借入金は、もっぱら措置法施行令26条7項1号に規定する借入金に該当するものであって、本件借入金のうち本件土地の取得の資金に充てるために要した部分であるが、本件既存家屋の取得に要する部分とともにした一つの金銭消費貸借契約に基づく借入金の一部分にすぎず、本件建物の取得とともにした借入金ではない。
したがって、本件借入金全体が措置法施行令26条7項1号に規定する借入金として性格付けされたものである以上、その一部分である本件土地借入金が、その後、本件建物及び公庫借入金との関係において措置法施行令26条7項6号所定のいわゆる「建築条件付き以外の先行取得・分離借入れ型」に変わるということはあり得ないのである。これは、たとえ、本件において、原告が、平成12年分確定申告書を提出する時点で、本件借入金につき措置法41条1項1号及び措置法施行令36条7項1号による住宅借入金等特別控除の適用を受けていなかったとしても同じである。本件の場合に、措置法41条1項1号にいう土地の取得とともにする当該住宅とは、本件建物ではなく、本件既存家屋であって、たとえ原告が本件土地を本件建物の新築の日前2年以内に取得していたとしても、本件土地は、本件建物とともに取得したものではない以上、措置法41条1項1号の規定からして、本件土地借入金が公庫借入金とともに本件住宅借入金等特別控除の適用対象となる借入金には含まれることにはならないのである。
(5) 加えて、仮に、措置法施行令26条7項6号に該当する借入金等を借り入れた場合、措置法施行令26条の2第1項及び措置法規則18条の2第2項により、当該借入金の年末残高等証明書には、措置法41条1項1号及び措置法施行令26条7項6号に該当する旨の記載がされる必要があるところ、本件土地借入金の年末残高証明書に当たる本件年末残高証明書(乙2)には、「租税特別措置法第41条第1項1号に該当(租税特別措置法施行令第26条第7項第1号該当)」との記載はあるものの、措置法施行令26条7項6号に該当する旨の記載はない。したがって、この点からしても、本件土地借入金が、措置法施行令26条7項6号に規定する借入金に該当するものではないことは明らかである。
なお、平成13年以降の各年末において本件借入金の残高があり、当該金額につき措置法施行令26条の2第1項及び措置法規則18条の22による住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書が金融機関から発行されるとしても、本件借入金は前記のとおり本件土地とともに取得した本件既存家屋が既に存在せず、原告がこれに居住しているということがない以上、措置法41条1項の規定する実体的適用要件を満たしていないから、本件借入金につき住宅借入金等特別控除を適用することはできない。
したがって、本件既存家屋を取り壊した平成13年分以降、原告は、本件土地借入金のみならず本件借入金全体について、も早住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできないのである。
(6) 以上のとおり、本件土地借入金は、措置法施行令26条7項6号所定の借入金には該当せず、したがって、措置法41条1項により本件建物の取得に係る住宅借入金等特別控除の適用に際して同控除の対象となる借入金には含まれない。
(二) 玉川税務署長が、本件各更正において、本件借入金が住宅借入金等特別控除の適用の対象となる借入金に該当しないとして、本件住宅借入金等特別控除の計算をしたことは、措置法41条1項及び措置法施行令26条7項の規定に基づき適法に行ったものであり、何ら租税法律主義に反するものではない。なお、前記(一)(3)のとおり、平成15年改正前の措置法通達41-23には、本件のような場合、すなわち、「たとえ土地等の取得が当初からその建物等を取り壊して家屋を新築することが明らかであると認められる場合」であっても、その取り壊した建物等につき措置法41条1項の規定の適用を受けたときは、当該土地等は、その取り壊した建物と一括して取得したものではあるが、当該新築家屋と一体として取得したものではなく別個に取得したものということになるから、当該新築家屋に係る措置法41条1項の規定の適用において、当該新築家屋の敷地の取得には該当しないことに留意する旨定めているのである。これは、住宅借入金等特別控除が、新築住宅又は既存住宅とともに取得する土地等でこれらの住宅の敷地の用に供されるものの当該取得に要する資金に充てるため、これらの住宅の取得に係る借入金等と一体として借り入れた借入金等の場合についてのみ適用できることにかんがみ、本件のように既存家屋とその敷地の用に供される土地の取得に要した資金に充てるための借入金について住宅借入金等特別控除を適用した後に、さらに、既存家屋を取り壊して当該土地上に新築家屋を建築した場合には、当該新築家屋に係る借入金等と既に住宅借入金等特別控除の適用を受けた土地等の取得に要する資金に充てるための借入金等と一体として借り入れたものではないことから、当該土地等の取得に要する資金に充てるために借り入れた借入金等については、住宅借入金等特別控除の適用がない旨の取扱いを注意を促すべく明らかにしたにすぎないものである。あくまで上記通達は前記の関係法令について、その運用上の留意点を明確化したものにすぎない。
したがって、本件土地借入金の措置法施行令26条7項6号該当性を否定することは、何ら租税法律主義に反しない。