東京地方裁判所 平成16年(行ウ)554号 判決 2006年11月08日
主文
1 被告は,原告Aに対し,843万0158円及びこれに対する平成18年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告Bに対し,295万3351円及びこれに対する平成18年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告Cに対し,311万1490円及びこれに対する平成18年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告Dに対し,311万1490円及びこれに対する平成18年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
本件は,贈与税の連帯納付義務に基づく徴収として預金債権の差押え,取立てを受けた原告らが,被告に対し,贈与税の徴収権は時効消滅していたから,上記各取立てはいずれも法律上の原因を欠くと主張し,取立てに係る各不当利得金及びこれらに対する各訴え変更申立書送達の日の翌日(平成18年8月17日であることは記録上明らかである。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
なお,当初は,同様の理由による租税債務不存在確認訴訟であった。
1 関係法令の定め
(1) 贈与税の成立時期等
国税通則法は,贈与税の納税義務は,「贈与による財産の取得の時」に成立すると定め(同法15条2項5号),相続税法(平成15年法律8号による改正前のもの。以下同じ)は,「贈与により財産を取得」した個人で,当該財産を取得した時において,相続税法の施行地に住所を有するものは贈与税を納める義務があり(同法1条の2第1号),「贈与により財産を取得」した者が,同法の施行地に住所を有する者である場合においては,その者については,その年中において贈与により取得した財産の価額の合計額をもって贈与税の課税価格とすると定めている(同法21条の2第1項)。
(2) 相続税の連帯納付義務
そして,相続税法34条4項は,「財産を贈与した者は,当該贈与に因り財産を取得した者の当該財産を取得した年分の贈与税額に当該財産の価額が当該贈与税の課税価格に算入された財産の価額のうちに占める割合を乗じて算出した金額に相当する贈与税について,当該財産の価額に相当する金額を限度として,連帯納付の責めに任ずる。」と規定している。
(3) 贈与税の徴収権の時効消滅
国の贈与税の徴収権は,国税通則法72条1項,同法2条8号,相続税法33条,28条により,法定納期限(贈与により財産を取得した年分の申告書の提出期限である翌年3月15日)から5年間行使しないときは,時効により消滅する(国税通則法72条2項により,援用を要しない。)。
2 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 贈与の対象とされた土地の来歴と関係者の相続関係
ア 別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は,亡Eが,大正元年にFから買い受けた。
イ Eは,大正▲年▲月▲日に死亡し,Eの長男である亡Gが,家督相続により本件土地の所有権を取得した。
ウ Gは,平成▲年▲月▲日に死亡し,その妻である原告A並びにその子である原告C,同B及び同Dが,相続によりGの地位を承継した。
エ 他方,Eの二男であるHは,平成▲年▲月▲日に死亡し,その子であるIが,相続によりHの地位を承継した。
(2) 本件土地に関する合意書の存在
平成11年3月23日,原告らとIとの間で,双方とも弁護士を代理人として,下記の内容の合意書を作成した(甲8)。
ア 大正▲年▲月▲日,家督相続により,本件土地の所有権がEからGへ移転されたことを確認する。
イ 原告らはIに対してG,H間の昭和45年になされた本件土地の贈与契約が有効であることを確認し,本件土地がHの相続人であるIの所有であることを認める。
ウ Iは原告らに対し,本件解決金として金500万円の支払義務のあることを認め,これを平成11年3月23日に支払う。
エ 前項の支払が完了した場合には,原告らはIに対し,速やかにアの家督相続及びイの贈与を原因とする各所有権移転登記手続をする。
(3) 本件土地についての登記関係
ア 本件土地については,大正9年9月4日受付で,FからEあてに,同年同月1日売買を原因とする所有権移転登記がされている(甲5)。
イ また,本件土地については,平成11年4月1日受付で,①大正▲年▲月▲日家督相続を原因とするGに対する所有権移転登記,②昭和45年月日不詳贈与を原因とするHに対する所有権移転登記,③平成▲年▲月▲日相続を原因とするIに対する所有権移転登記が,それぞれされている(甲1)。
ウ 平成12年4月20日,本件土地につき,IからJに対し,同月19日売買を原因とする所有権移転登記がされている(甲1)。
(4) 贈与税の申告
ア Iは,平成12年3月15日,所轄の広島北税務署長に対し,平成11年分贈与税の申告書に,贈与者を「G相続人A外」とし,本件土地を取得した年月日を平成11年4月1日,課税される財産の価額を3571万2000円,贈与税額1716万7200円と記載して,贈与税の申告(以下「本件贈与税の申告」という。)をした(乙2)。
イ なお,Iは,平成12年6月4日に住所を変更し,その結果,本件贈与税の申告や徴収を所轄する税務署長は,広島北税務署長から広島西税務署長に変更された。
(5) 租税の徴収と預金債権の差押え,取立て
ア 原告A及び原告Bの預金債権からの取立て
広島西税務署長は,本件土地の贈与を理由に贈与者が連帯して納付すべき贈与税の徴収として,平成17年5月11日,国税徴収法62条の規定に基づき,原告A及び原告Bの各定期預金の払戻請求権を差し押さえた上,平成18年5月11日,下記の各「取立額」(本件土地の贈与に基づき連帯して納付すべき贈与税(本税)の計算額から延滞税の免除相当額を控除した金額)を取り立てるとともに,国税通則法63条5項の規定に基づき,下記の各「延滞税の免除相当額」のとおり各延滞税の免除手続を行った。
(ア) 原告Aの預金の取立額 843万0158円
連帯して納付すべき贈与税(本税)の計算額 934万3282円
延滞税の免除相当額 91万3124円
(イ) 原告Bの預金の取立額 295万3351円
連帯して納付すべき贈与税(本税)の計算額 311万1490円
延滞税の免除相当額 15万8139円
イ 原告C及び原告Dの預金債権からの取立て
広島西税務署長は,本件土地の贈与を理由に贈与者が連帯して納付すべき贈与税の徴収として,平成18年5月11日,国税徴収法62条の規定に基づいて,原告C及び同Dの各普通預金の払戻請求権を差し押さえた上,同日,それぞれ311万1490円を取り立てた。
3 争点
本件の主要な争点は,次のとおりであり,争点に関して特に明示すべき各当事者の主張は,下記(2)に掲げるほかは,後記第3「争点に対する判断」に記載した。
(1) 贈与税の徴収権の時効起算点
原告らの贈与税の連帯納付義務の対象となる本件土地の「贈与による財産の取得の時」(以下,当該贈与を「本件贈与」,その契約を「本件贈与契約」という。)は,昭和45年(原告ら主張の本件贈与契約の締結及びこれに基づく簡易の引渡しの時)か,それとも平成11年(被告主張の本件贈与を原因とする所有権移転登記の時)か。
(2) 連帯納付義務の違憲性
贈与税の連帯納付義務を規定した相続税法34条4項は,それ自体又は本件に適用する限りにおいて,憲法29条に違反するか。
この点につき,原告らは,相続税法34条4項は,贈与によって何らの経済的利益を得ない贈与者に対し,その私有財産から贈与により拠出した以上の負担を強いるもので,国家の租税徴収確保を容易にすることのみを目的とした不合理な規定であるから,個人の財産権を保障した憲法29条に違反する旨主張するとともに,仮に法令自体違憲でないとしても,相続税法34条4項が相続税を補完する趣旨に出たものであることからすれば,相続税回避の主観的意図が窺われない本件にこれを適用することは憲法29条に違反するから,原告らには本件土地の贈与税の連帯納付義務は存在しないというべきである旨主張している。
第3争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 前記前提事実のとおり,Iは,本件土地につき,平成11年4月1日受付で,昭和45年月日不詳贈与を原因とするHに対する所有権移転登記を経由し,翌年3月15日,平成11年4月1日に贈与により財産を取得したとして平成11年分贈与税の申告をしたものである。原告らは,本件贈与による財産取得の時期が異なっており,既に時効が成立しているとして,納税義務を争っているものである。これに対し,被告は,当該納税義務が上記申告によって確定した以上,原告らの主張するような時効に基づいて争う余地はないとも主張するようであるが,贈与税の連帯納付義務者でありながら,申告について第三者である原告らは,上記のような時効を主張するにつき,申告についての錯誤無効の主張や更正の請求もできないのであるから,本件のような訴訟形態において,これを主張して,納税義務の存否を争うことは妨げられないというべきである。
そして,本件贈与契約が書面によらないものであることは,当事者間に争いがないところ,相続税法基本通達(以下「基本通達」という。)は,書面によらない贈与については,その履行の時をもって,「贈与による財産の取得の時」(国税通則法15条2項5号)として取り扱うとし(基本通達1・1の2共-7(2)),書面によらない贈与のうち,所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産の贈与について,その贈与の時期が明確でないときは,特に反証がない限り,その登記又は登録があった時をもって,「贈与による財産の取得の時」として取り扱うとしている(基本通達1・1の2共通-10)。このような通達による扱いは,書面による贈与がその履行まで取り消し得るという不確定なものであって,外形的に贈与の事実が容易には把握し難いことに照らして,合理的なものであるということができる。そうすると,本件においては,本件土地につき,特に反証がない限り,本件贈与を原因とする所有権移転登記があった平成11年4月1日が「贈与による財産の取得の時」であるということができる。しかしながら,原告らは,昭和45年にGからHに対して本件贈与とともに,これに基づく簡易の引渡し(贈与の履行)がされたと主張して,「贈与による財産の取得」があったとするので,以下,この点について検討する。
なお,被告は,簡易の引渡しがそもそも課税の上では,書面によらない贈与の履行とみることができないので,主張自体失当であるとも指摘するが,課税は,実体法上の権利関係に基づいて行うべきものであって,外形上分かりにくいというだけで,簡易の引渡しが上記履行に該当しないという理由はなく,それぞれの事情に即して簡易の引渡しがあったとの立証(まさに基本通達でいう上記の「反証」)ができるかどうかにゆだねることで,不都合が生じるものではないと解する。したがって,上記被告の指摘は採用の限りではない。
(2) そこで検討するに,まず,原告らが主張する本件贈与契約を裏付ける直接的な証拠としては,原告Aの供述(甲11,原告A本人)がある。当該供述には,昭和45年ころ,Gの自宅を訪問したHが,Gに対し,本件土地に隣接する土地を購入する資金の援助を求めるとともに,本件土地を贈与するよう申し入れ,Gにおいてこれを承諾した旨の部分がある。
そして,前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件土地の利用状況とこれに関連するG及びHの生活,行動等
(ア) 大正元年,Eが本件土地を買い受けた後(所有権移転登記は大正9年),本件土地上の建物には,E,その妻K,長女L,長男G,二女M,二男Hらが同居していたが,G(明治▲年,米国ワシントン州シアトルで出生)は,旧制中学卒業後,単身渡米した(甲6の1及び2,甲11,原告A本人)。
(イ) Eは,大正▲年▲月▲日に死亡し,Gが長男として家督相続したが,N家の家業である乾物問屋の営業については,Hが承継した。
Hは,戦時中を除き,本件土地上の建物で,Kと同居していたが,昭和▲年にKが死亡した後も,同所において,自分の妻子と同居して生活していた。
ただし,Hは,本件土地について,地代,賃料等の利用の対価を支払うことなく,本件土地に係る固定資産税等の公租公課を負担するにとどまった。
(以上につき,甲11,原告A本人)
(ウ) 一方,単身渡米していたGは,米国の大学を卒業してO社に勤務した後,昭和8年日本に帰国してP株式会社に入社し,昭和12年10月に原告Aと婚姻した後,横浜市内(原告A肩書住所地)の所有土地建物において同居生活を始め,昭和22年にはP株式会社を退社して,Q有限会社(現R株式会社)を設立し,同社を経営するに至った(甲11,原告A本人)。
(エ) Hは,昭和42年5月30日,本件土地及び隣接土地(広島市α10番20 宅地101・85平方メートル(ただし,昭和44年8月20日換地処分後。以下「本件隣接土地」という。))上に建物(木造セメント瓦葺2階建て床面積1階90.25平方メートル,2階70.77平方メートル。以下「本件新建物」という。)を建築し,昭和43年2月6日付けで,本件新建物につき所有者をHとする所有権保存登記がされた(甲7)。
(オ) Hは,昭和45年中に,本件隣接土地を,S及びTから購入し,H死亡後の平成9年12月26日,共有名義人であるS及びTからIに対し,昭和45年月日不詳を原因とする共有者持分全部移転登記がされた(甲9)。
(カ) Gは,そのころ,不動産管理会社も経営し,横浜市内に土地を複数所有し,その売却による収入も得るようになっており,その余裕資金から,Hの事業資金や本件建物の建築資金等について援助するなどして,Hとの兄弟関係も良好であった。このような生活の中で,Gが,本件土地を訪問するのは,正月のほか,病身となったKを訪ねる場合程度であった。
(以上につき,甲11,原告A本人)
イ Gの遺言書と相続税申告書
(ア) Gは,平成3年3月19日付けで遺言公正証書(以下「本件遺言書」という。)を作成したところ,本件遺言書には,目的財産として,土地15筆及び建物4棟(所在は,広島,松本,横浜)が記載されている一方,本件土地の記載はされていない(甲10,乙4ないし23)
(イ) Gは,平成▲年▲月▲日死亡したが,その相続税の申告書にも本件土地の記載はなかった(甲11,原告A本人)。
ウ Hの死亡後の経過(本件合意書作成の経緯)
(ア) Hは,平成▲年▲月▲日死亡したが,その際Hの子であるIと,Gの相続人である原告らとの間で,本件土地の返還が問題となることはなかった。
(イ) その後,平成11年に,Iは,本件隣接土地とともに,本件土地及び本件新建物を売却することとし,原告らに対し,当時Eの所有名義のままであった本件土地について,Iの名義にするよう原告らに協力を求めた。
(ウ)a このような経緯の下で,平成11年3月23日,Iと原告ら間で,双方が弁護士を代理人として,本件合意書が締結され,同日,本件合意書の約定に基づき,Iから原告らに対し,解決金として合計500万円が支払われた(甲8,12,13)。
b 本件合意書の作成に当たり,当事者間では,解決金の額についても特に難航することはなく,原告ら代理人がIの代理人に500万円の金額を提案してから1週間ないし10日程度で合意するに至った。なお,原告らが代理人弁護士を選任したのは,Iが,不動産業者から脅かされているような口ぶりで,原告らに対しても,度々不動産業者から電話があったことによるものであった。
(以上,甲11,原告A本人)
エ 所有権移転登記と本件贈与税の申告の経緯
(ア) そして,平成11年4月1日付けで,本件土地につき,①大正▲年▲月▲日家督相続を原因とするEからGに対する所有権移転登記,②昭和45年月日不詳贈与を原因とするGからHに対する所有権移転登記,③平成▲年▲月▲日相続を原因とするHからIに対する所有権移転登記が各経由され,更に平成12年4月20日,本件土地につき,IからJに対し,同月19日売買を原因とする所有権移転登記がされた。
(イ) Iは,平成12年3月8日,広島西税務署を訪問し,「贈与による財産の取得の時」に関して,同署職員から相続税基本通達1・1の2共一7(2)及び同基本通達1・1の2共一10に基づく説明を受けた結果,本件贈与税の申告を行った(乙1)。
(3) 上記(2)の認定事実を基に判断する。
ア(ア) 本件土地については,Gが家督相続により所有権を取得したものの,Hが固定資産税等の公租公課を負担したほか,地代・賃料等の対価を支払うことなく占有,使用し,同地上の建物でGとHの実母Kと同居生活を営んできたものである。
(イ) このような本件土地の利用関係の背景には,Gが,横浜市内の自宅において妻と同居生活を営み,会社勤務や会社経営等の仕事をしていた一方,Hが実父Eの家業を承継したという事情があり,Hが,昭和31年Kの死亡後も,上記と同様の利用を継続し,昭和42年に本件新建物を新築所有するに至り,昭和45年には,本件新建物の敷地の一部である本件隣接土地を買い受けたこと,他方,Gは,Kの存命中から,横浜市内に自宅の土地建物を所有していただけでなく,不動産管理会社を経営し,所有不動産の売却等による収入もあったことから,Hに対して,その事業資金や本件土地上建物新築の際の資金について援助を行うなど,経済的余裕を有し,Hとの兄弟関係も良好であったことが認められ,これらの事実からは,GがHに対して本件土地を贈与するだけの十分合理的な動機が存したといえる。
(ウ) 加えて,Gの遺言書に,目的財産として本件土地は記載されていなかったこと,G死亡後,その相続税申告書にも,遺産として本件土地は記載されていなかったことは,Gが不動産管理会社も経営し,自己所有の不動産の登記済み権利証については銀行の貸金庫に保管していたこと(原告A本人)とも考え併せると,G又はその相続人である原告らの側において,上記遺言書作成又はGの相続開始直後の時点では,本件土地を所有しているという認識を有していなかったことを裏付けるものといえる。
イ(ア) なお,Iが納税申告を行ったのは,税務署職員の指導を受けてのものであり(前記(2)エ(イ)の事実),明確な理解や考えに基づいて行ったものとまでは考え難く,本件贈与契約の当事者又はこれに直接立ち会った者ではないことから,本件贈与税の申告において,本件土地を取得した年月日を平成11年4月1日としたことは,本件贈与による財産の取得の時期を特段裏付けるものではない。
(イ) 被告は,原告ら代理人の広島西税務署長に対する平成16年5月17日付け申入書(2)(乙26)添付の,本件隣接土地のもと所有名義人であるS作成とされた手紙に,以前,Hの代理人と名乗る人から,本件隣接土地の「購入代金はすでに支払済みなのに所有権移転の手続きが完了前に死亡(S▲.▲.▲日)なのでこの度是非われら兄妹の承諾を得て移転の手続きを完了したいとの」申入れがあり,これに応じた旨の記載があり,これによれば,Hは,遅くとも昭和▲年▲月▲日にUが死亡したころまでに,同人から本件隣接土地を購入し,代金を支払っていたことがうかがえるから,昭和45年に,Hが,本件隣接土地購入資金の援助を依頼したとの原告Aの陳述は,信用性に欠ける旨指摘する。
しかし,被告の引用する上記手紙は,本件隣接土地のもと共有者が一方的に作成したもので,その正確性を直ちに判断することができないものである上,原告Aの上記供述は,HがGに対して資金援助を求める際の理由として述べたところを聞いたというものであり,その性質上,必ずしもHの話した内容が厳密に事実と合致するとは限らず,前記(2)認定の他の諸事実に照らすと,上記部分の真偽によって前記認定が左右されるものではないというべきである。
ウ 以上に検討したところによれば,前記(2)の冒頭でみた原告Aの供述は基本的に信用することができ,これらを総合すれば,Hにおいて,本件隣接土地を購入したとみられる昭和45年中には,本件土地につき,贈与により所有権を取得したと認めるのが相当である。
そして,上記贈与契約成立の当時,Gは,本件土地から遠く離れた横浜市において生活を営み,受贈者であるHにおいて,既に本件土地上及び本件隣接土地に本件新建物を所有してこれに居住して生活の本拠として,本件土地を占有していたことからすると,上記贈与契約の締結と同時に,GからHに対して意思表示による簡易の引渡し(民法182条2項)がされたと認めるのが相当であり,これにより贈与契約の履行がされたということができる。
(4) したがって,本件土地の贈与による取得の時期に関し,本件贈与税の申告の内容とは異なり,Hにおいて昭和45年に贈与によりそのころ財産を取得したと認められるから,本件贈与に基づく贈与税の連帯納付義務は時効によって消滅したものということができる。
2 よって,争点(2)(連帯納付義務の違憲性)について判断するまでもなく,原告らの各請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大門匡 裁判官 関口剛弘 裁判官 倉地康弘)