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東京地方裁判所 平成17年(モ)4747号 決定 2005年6月14日

申立人(原告)

A野太郎

他2名

上記三名訴訟代理人弁護士

森谷和馬

相手方

B山松夫

主文

相手方は、別紙文書目録記載の文書を、本決定が確定した日から七日以内に当裁判所に提出せよ。

理由

一  申立ての趣旨及び理由並びに相手方の意見

申立人らの本件申立ての趣旨及び理由は、別紙「文書提出命令の申立」記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は、別紙「審尋事項回答要旨」記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

(1)  別紙文書目録記載の文書(以下「本件文書」という。)については、上記申立ての理由及び相手方の意見に鑑みると、申立人の文書提出命令の申立ては相当であると認められる。

(2)  なお、相手方は、上記審尋事項回答書において、本件文書が民事訴訟法二二〇条四号ホにいう「刑事事件に係る訴訟に関する書類」に該当するか否かについて判断がつかない旨述べている。

民事訴訟法二二〇条四号ホがこのような刑事事件関係書類を文書提出命令の対象から除外した趣旨は、刑事事件関係書類が民事事件において裁判所に提出され、当事者がこれを直接閲覧謄写することが可能になると、罪証隠滅のおそれ、プライバシー侵害のおそれ及び捜査の秘密を害するおそれがあることにあると考えられる。

しかしながら、本件文書は、捜査機関の嘱託を受けて鑑定を行った医師が鑑定書とは別個に学問研究の資料にも用いるために作成し所有している控え文書であって、刑事訴訟関係法令によって作成が義務づけられているものではなく、捜査機関に提出すべきものでもないから、その性質上、刑事事件関係書類に該当しないというべきである。また、仮にそうでないとしても、本件の申立人は本件文書内容の対象者の相続人であるから、プライバシー侵害の程度も皆無に等しく、さらに、当該刑事事件において被疑者の特定ができていない場合はともかく、本件において被疑者と想定される者は自ずから明らかであって、しかも当該刑事事件における捜査及び公判手続は、被害者の死亡時の客観的状況を前提として被疑者に過失があるか否かやその過失行為と結果との間に相当因果関係があるか否かを究明することになるところ、本件文書は被害者の死亡時の客観的状況についての医学的知見に基づく情報が記載されているにすぎないから、これを現時点で被害者である原告らはもとより、被疑者の属する病院を経営する被告の知り得る状態に置いても罪証隠滅のおそれが生ずるとは考えられないし、捜査上の秘密保持の要請に反するともいえない。したがって、本件文書は、「刑事事件に係る訴訟に関する書類」に当たらないというべきである。

(3)  よって、本件申立てには理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 金光秀明 萩原孝基)

<以下省略>

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