大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成17年(レ)135号 判決 2005年9月02日

控訴人

A野太郎

被控訴人

カテナ株式会社

同代表者代表取締役

小宮善継

同訴訟代理人弁護士

小松正和

宮谷隆

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対して、三四万五〇〇〇円及びこれに対する平成一六年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

控訴人(原告)は、被控訴人(被告)から、平成一六年四月二二日、インターネット上のヤフーショッピングにおいて、パソコン三台を購入したが、その履行がされていないとして、被控訴人に対し、債務不履行ないし不法行為に基づき、パソコン三台の代金相当額三四万五〇〇〇円の支払いを求めた。

原審は、控訴人(原告)の請求を棄却し、これに対し、控訴人(原告)が控訴した。

一  争いのない事実

(1)  平成一六年四月二二日、控訴人は、被控訴人に対し、eMacM9461J/A(以下「本件パソコン」という。)を三台購入する旨を送信し、ヤフー株式会社(以下「ヤフー」という。)の受注確認メールを受信した。

(2)  被控訴人は、本件パソコン三台の売買契約は成立していないとして、控訴人に対し、本件パソコン三台の履行をしていない。

二  争点

(1)  本件パソコン売買契約の成否

(2)  本件パソコン売買契約について表示上の錯誤の成否

(3)  本件パソコンの価格を誤って表示したことについて、被控訴人の注意義務違反の存否

三  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)について

ア 控訴人の主張

(ア) 控訴人は、平成一六年四月二二日の受注確認メールを受信したことにより、被控訴人から本件パソコン三台を代金送料込み合計一万三〇八六円(一台二七八七円)で購入する旨の売買契約が成立した。

ヤフーからの前記受注確認メールは、商品名、形式、代金、送料などの重要な事項が示されており、かつ、売買契約は成立していないとの文言は記載されていない。この受注確認メールをもって本件パソコン売買契約は成立しているとみるべきである。

(イ) 被控訴人が本件パソコン三台を履行しないまま八か月が経過した。現在において、控訴人は、本件パソコン自体は不要であるので、本件パソコンの引渡しではなく、本件パソコンと同機種の中古品三台の代金相当額三四万五〇〇〇円(一台あたり一一万五〇〇〇円)を請求する。

イ 被控訴人の主張

被控訴人は、本件パソコンの売買について承諾の意思表示をしていない。むしろ、承諾をしない旨の意思表示を行っている。

被控訴人から控訴人に対し、契約成立を承諾する旨の意思表示がされていないので、本件パソコンの売買契約は成立していない。

(2)  争点(2)について

ア 被控訴人の主張

(ア) 本件においては、目的物がDVDメディアと表示されるべきところをパソコンと表示されたものであり、表示上の錯誤があり、無効である。

(イ) 被控訴人は、ヤフーに対して正しい商品データ情報を提供しており、表示上の錯誤について被控訴人に過失はない。

イ 控訴人の主張

被控訴人の主張は争う。

(3)  争点(3)について

ア 控訴人の主張

本件パソコンの売買契約にかかる紛争が、ヤフーの表示ミスによるものとしても、被控訴人にはヤフーに対する注意義務がある。

イ 被控訴人の主張

控訴人の主張は争う。

第三当裁判所の判断

一  前記争いのない事実及び後記証拠によれば、以下の事実が認められる。

(1)  平成一六年四月二二日、ヤフーが開設するインターネット上のヤフーコンピューターショッピングのサイト(以下「本件サイト」という。)において、被控訴人が売り出していた本件パソコン一台の価格が二七八七円と表示されていた。

控訴人は、被控訴人に対し、本件パソコン三台の注文を送信した。

同日、控訴人は、ヤフーからの受注確認メールを受信した。

(2)  平成一六年四月二三日、控訴人は、被控訴人から誤った表示であり、注文に応じかねるとする旨のメールを受信した。

同日、控訴人は被控訴人に対し、注文した本件パソコン三台の履行を求めるメールを送信した。

(3)  平成一六年四月二五日、控訴人は、被控訴人から契約が成立していないとする旨のメールを受信した。また、同メールには、被控訴人が、誤って商品の表示がなされていることをヤフーに連絡し、ヤフーにより表示が削除され、事故の拡大防止に対処したことが記載されていた。

(4)  平成一六年四月二六日、控訴人は、被控訴人に対し、再度、本件パソコン三台の履行を求めるメールを送信した。

(5)  平成一六年四月二九日、控訴人は、被控訴人から再度、成立していないとする旨のメールを受信した。

二  争点(1)について

(1)  インターネットのショッピングサイトを利用して商品を購入する場合、売り手は、サイト開設者を通じて、商品の情報をサイト上に表示し、買い手は、商品の情報を見て、購入を希望するに至ればサイト上の操作により注文し、サイト開設者を通じて、売り手が注文を受けこれに応じる仕組みとなっている。

このような仕組みからすると、インターネットのショッピングサイト上に商品及びその価格等を表示する行為は、店頭で販売する場合に商品を陳列することと同様の行為であると解するのが相当であるから、申込の誘引に当たるというべきである。そして、買い手の注文は申込みに当たり、売り手が買い手の注文に対する承諾をしたときに契約が成立するとみるべきである。

(2)  前記認定事実によれば、控訴人は、本件サイト上において、本件パソコンが一台二七八七円と表示されていたのを見て、本件パソコン三台を注文し、本件パソコン三台を送料込みの代金合計一万三〇八六円で買い受ける旨のメールを送信したこと、ヤフーから受注確認メールを受信したものの、売り手である被控訴人から注文に応じないとする旨のメールを受信したことが認められる。

(3)  そうすると、被控訴人は控訴人の申込みに対して、本件パソコン三台を送料込みの代金合計一万三〇八六円で売る旨の承諾をしたものとは認めることはできないから、控訴人と被控訴人との間に本件パソコンの売買契約が成立したと認めることはできない。

(4)  これに対し、控訴人は、受注確認メールを受信した時点で本件パソコンの売買契約が成立したと主張する。

しかし、前記認定事実によれば、受注確認メールはヤフーが送信したものであり、売り手である被控訴人が送信したものではないから、権限のあるものによる承諾がされたものと認めることはできない。

ちなみに、インターネット上での取引は、パソコンの操作によって行われるが、その操作の誤りが介在する可能性が少なくなく、相対する当事者間の取引に比べより慎重な過程を経る必要があるところ、受注確認メールは、買い手となる注文者の申込が正確なものとして発信されたかをサイト開設者が注文者に確認するものであり、注文者の申込の意思表示の正確性を担保するものにほかならないというべきである。

よって、受注確認メールは、被控訴人の承諾と認めることはできないから、これをもって契約が成立したと見ることはできないというべきである。

(5)  このように、本件パソコンの売買契約は成立していないから、契約が成立したことを前提とする控訴人の損害賠償請求は、理由がないといわざるを得ない。

三  争点(3)について

(1)  前記認定事実によれば、控訴人が受注確認メールを受信した翌日に、控訴人は被控訴人から、本件サイト上に誤った表示がなされた旨のメールを受信したこと、被控訴人は商品の表示が誤っていたことを把握してからヤフーの担当者に連絡をとり、ヤフーに表示の削除を依頼し、事故拡大防止に努力したことが認められる。

(2)  このように、被控訴人は、被控訴人が本件サイト上に自ら表示をすることはできず、削除することもできないと認められること及び商品の誤った表示がされたことに対し、直ちにヤフーにその表示を削除させたのであって、誤表示を放置したとも認められないことから、被控訴人の商品の誤表示についての注意義務違反を認めることはできない。

(3)  よって、控訴人の注意義務違反を理由とする損害賠償請求も、理由がないといわざるを得ない。

四  よって、その余の点を判断するまでもなく、控訴人の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小池裕 裁判官 棚橋哲夫 宮下尚行)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例