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東京地方裁判所 平成17年(ワ)10064号 判決 2006年4月19日

原告

八洋エンジニアリング株式会社

原告

共立冷熱株式会社

原告ら訴訟代理人弁護士

矢野千秋

同補佐人弁理士

東山喬彦

被告

ヤヨイ食品株式会社

同訴訟代理人弁護士

野村晋右

吉澤敬夫

同訴訟復代理人弁護士

高橋利昌

被告補助参加人

株式会社前川製作所

被告及び被告補助参加人訴訟代理人弁護士

山﨑順一

新井由紀

同訴訟代理人弁理士

高橋昌久

同補佐人弁理士

松本廣

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用及び参加によって生じた費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,別紙被告装置説明書記載の装置を使用してはならない。

第2事案の概要

本件は,アンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステムに関する特許権を共有する原告らが,被告補助参加人が設計,施工し,被告において業として使用する別紙被告装置説明書記載の装置(以下「被告装置」という。)が,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属するとして,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告装置の使用の差止めを求めたのに対し,被告及び被告補助参加人が,被告装置は上記発明の技術的範囲に属するものではなく,また,上記特許権に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから,その権利行使は許されないとして争っている事案である。

1  前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)

(1) 原告らの特許権

原告らは,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲記載の特許発明を,請求項1ないし5の番号に従い,「本件発明1」ないし「本件発明5」という。また,本件特許権に係る明細書(甲1。別紙特許公報参照。)を「本件明細書」という。)を共有している。

特許番号

第3458310号

発明の名称

アンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム

出願年月日

平成11年9月30日(同年2月24日及び同年6月14日の日本国における特許出願に基づく優先権を主張。)

登録年月日

平成15年8月8日

特許請求の範囲 請求項1

アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(2)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(3)とを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステム(1)において,前記炭酸ガスサイクル(3)は,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしたことを特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

特許請求の範囲 請求項5(ただし,請求項1に従属するもの)

前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたことを特徴とする請求項1記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

(2) 本件発明1及び5の構成要件の分説

本件発明1及び5は,以下の構成要件に分説することができる。

ア 本件発明1

A アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(2)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(3)とを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステム(1)において,

B 前記炭酸ガスサイクル(3)は,圧縮機を組み込まずに,

C 自然循環を行うようにしたこと

D を特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

イ 本件発明5

E 前記炭酸ガスサイクル内(3)に二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたこと

F を特徴とする請求項1記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

(3) 被告の行為

被告は,被告補助参加人が設計し,施工し,納入した被告装置を,業として使用している(弁論の全趣旨)。

(4) 被告装置の構成

ア 被告装置の構成は,別紙被告装置説明書記載のとおりである。

イ 被告装置の構成を本件発明1の構成に対応するように分説すると,以下のとおりである。

a アンモニアを媒体としたアンモニアサイクルと,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクルとを組み合わせ,冷却を行うヒートポンプシステムにおいて,

b 前記炭酸ガスサイクルには圧縮機を組み込まずに,

c 前記炭酸ガスサイクルは,CO2レシーバタンク1から供給される気相の二酸化炭素がカスケードコンデンサ2において前記アンモニアサイクルとの熱交換により凝縮液化されて前記CO2レシーバタンク1に戻る凝縮サイクルと,前記CO2レシーバタンク1に貯留された液相二酸化炭素の大部分が前記CO2レシーバタンク1よりも下に設けられたCO2液ポンプ3の吐出力により,前記CO2レシーバタンク1内の液相二酸化炭素の液面よりも高く立ち上げられた立上げ部を有し,かつ,立上げ部の頂部から前記CO2レシーバタンク1の上部に連通する連通管5を設けた給液管4を通過し,流量調整弁6を経由して,前記CO2レシーバタンクよりも下に配置されたスパイラルクーラ7に流入し,一部が気化した気液混合相となり,該気液混合相のCO2が戻り管8を通過して前記CO2レシーバタンク1に戻る冷却サイクルと,前記CO2液ポンプ3から吐出された液相二酸化炭素の一部が前記連通管5を通過して前記CO2レシーバタンク1に還流する部分還流サイクルからなる二酸化炭素の循環を行うようにしたこと

d を特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム

ウ 被告装置は,本件発明1の構成要件A及びBを充足するアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステムである。

エ 被告装置の運転継続中に,CO2液ポンプ3による送出を停止すると,二酸化炭素の循環は,直ちに停止する。

(5) 無効審判事件

被告補助参加人は,平成17年7月8日,本件発明1,2及び5についての特許を無効とすることを求めて,特許無効審判を請求した(以下「本件無効審判事件」という。)(乙6)。

(6) 訂正請求

ア 原告らは,本件無効審判事件において,特許請求の範囲請求項1ないし3を次のとおりに訂正する(下線部分が変更部分である。)ことを内容とする,本件明細書の訂正を請求した(以下「本件訂正請求」といい,訂正請求後の請求項1ないし3記載の発明を,請求項の番号に従い,「訂正請求後の本件発明1」ないし「訂正請求後の本件発明3」という。)(甲6の2)。

なお,訂正請求後の本件発明1は,本件発明1ないし4を組み合わせたもの,訂正請求後の本件発明2は,本件発明5をもとに,訂正請求後の本件発明1の従属項としたもの,そして,訂正請求後の本件発明3は,本件発明3をもとに,訂正請求後の本件発明1及び2の従属項としたものである。

(ア) 請求項1

アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(2)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(3)とを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステム(1)において,

前記アンモニアサイクル(2)の構成部材は,目的の冷却を行う蒸発器(9A)から隔離した場所に設置するものであり,

一方,前記炭酸ガスサイクル(3)は,冷却時に作用する炭酸ガス冷凍サイクル(3A)を具えて成り,この炭酸ガス冷凍サイクル(3A)は,二酸化炭素を蒸発させて目的の冷却を行う蒸発器(9A)を,二酸化炭素媒体を冷却,液化するカスケードコンデンサ(7)よりも低い位置に組み込み,カスケードコンデンサ(7)と蒸発器(9A)との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するものであり,

冷却時には,前記アンモニアサイクル(2)を作動させてカスケードコンデンサ(7)により,炭酸ガス冷凍サイクル(3A)中の二酸化炭素媒体を冷却,液化して,炭酸ガスサイクル(3)中の二酸化炭素媒体を自然循環させるようにしたことを特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

(イ) 請求項2

前記炭酸ガスサイクル(3)内には,二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたことを特徴とする請求項1記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

(ウ) 請求項3

前記炭酸ガスサイクル(3)は,炭酸ガス冷凍サイクル(3A)の他に,加熱時に作用する炭酸ガス加熱サイクル(3B)を具えて成り,この炭酸ガス加熱サイクル(3B)は,二酸化炭素を凝縮させて目的の加熱を行う放熱器(9B)すなわち冷却時における前記蒸発器(9A)を,二酸化炭素媒体を加熱,気化する吸熱器(10)よりも高い位置に組み込み,放熱器(9B)と吸熱器(10)との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するものであり,

加熱時には,吸熱器(10)によって炭酸ガス加熱サイクル(3B)中の二酸化炭素媒体を加熱,蒸発して,炭酸ガスサイクル(3)中の二酸化炭素媒体を自然循環させるようにしたことを特徴とする請求項1または2記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

イ 原告らは,平成17年12月22日,本件無効審判事件において,上記アの本件訂正請求の「やり直し」であるとして,再度,特許請求の範囲請求項1ないし3を次のとおりに訂正することを内容とする,訂正請求を行った(以下「本件再訂正請求」という。)(二重下線部分<編注:下線と太字で表記>が本件再訂正請求に係る部分であり,本件訂正請求前の請求項1に記載され,本件訂正請求において削除された部分である。)(甲8)。

(ア) 請求項1

アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(2)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(3)とを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステム(1)において,

前記アンモニアサイクル(2)の構成部材は,目的の冷却を行う蒸発器(9A)から隔離した場所に設置するものであり,

一方,前記炭酸ガスサイクル(3)は,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしたものであり,

また,前記炭酸ガスサイクル(3)は,冷却時に作用する炭酸ガス冷凍サイクル(3A)を具えて成り,この炭酸ガス冷凍サイクル(3A)は,二酸化炭素を蒸発させて目的の冷却を行う蒸発器(9A)を,二酸化炭素媒体を冷却,液化するカスケードコンデンサ(7)よりも低い位置に組み込み,カスケードコンデンサ(7)と蒸発器(9A)との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するものであり,

冷却時には,前記アンモニアサイクル(2)を作動させてカスケードコンデンサ(7)により,炭酸ガス冷凍サイクル(3A)中の二酸化炭素媒体を冷却,液化して,炭酸ガスサイクル(3)中の二酸化炭素媒体を自然循環させるようにしたことを特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

(イ) 請求項2

上記ア(イ)記載のとおり。

(ウ) 請求項3

上記ア(ウ)記載のとおり。

(7) 訂正請求後の本件発明1及び2の構成要件の分説

本件発明1及び5は,訂正請求後の本件発明1及び2となるところ,これらは,以下の構成要件に分説することができる。

(訂正請求後の本件発明1)

A’ アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(2)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(3)とを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステム(1)において,

B’ 前記アンモニアサイクル(2)の構成部材は,目的の冷却を行う蒸発器(9A)から隔離した場所に設置するものであり,

C’ 一方,前記炭酸ガスサイクル(3)は,冷却時に作用する炭酸ガス冷凍サイクル(3A)を具えて成り,

D’ この炭酸ガス冷凍サイクル(3A)は,二酸化炭素を蒸発させて目的の冷却を行う蒸発器(9A)を,二酸化炭素媒体を冷却,液化するカスケードコンデンサ(7)よりも低い位置に組み込み,カスケードコンデンサ(7)と蒸発器(9A)との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するものであり,

E’ 冷却時には,前記アンモニアサイクル(2)を作動させてカスケードコンデンサ(7)により,炭酸ガス冷凍サイクル(3A)中の二酸化炭素媒体を冷却,液化して,炭酸ガスサイクル(3)中の二酸化炭素媒体を自然循環させるようにしたこと,

F’ を特徴とするアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

(訂正請求後の本件発明2)

G’ 前記炭酸ガスサイクル(3)内には,二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプ(P)を設けたこと

H’ を特徴とする請求項1記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム。

2  争点

(1) 被告装置は,本件発明1又は5の技術的範囲に属するか。(争点1)

(2) 本件発明1及び5についての特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるといえるか。

ア 本件発明1は,新規性を欠くか。(争点2)

イ 本件発明1は,進歩性を欠くか。(争点3)

ウ 本件発明5は,進歩性を欠くか。(争点4)

3  争点についての当事者の主張

(1) 争点1(被告装置は,本件発明1又は5の技術的範囲に属するか。)について

(原告らの主張)

ア 本件発明1

(ア) 構成要件充足性

上記1(4)イaないしd記載の被告装置の構成は,以下のとおり,本件発明1の構成要件AないしDを充足し,被告装置は,本件発明1の技術的範囲に属する。

(イ) 構成要件C充足性

a 「自然循環」(構成要件C)の意義

(a) 「自然循環」とは,蒸発器で発生するガスにより,カスケードコンデンサ側の液ヘッドより戻り管側の液ヘッドが小さくなって液の移動が起きるとともに,戻り管内のガスがカスケードコンデンサに戻って凝縮し,液となって,液ヘッド差を保つことにより,圧縮機やポンプを用いずに,定常時に自然に循環し続ける現象をいう。

自然循環は,ポンプによらなくても完了するが,配管抵抗その他の障害のため十分な効率が得られない場合に,補助的にポンプを用い,流量,圧力その他の働きを補うこともあり,そのような場合も,「自然循環」と呼ぶ。

(b) 被告及び被告補助参加人は,本件明細書の図1~6を根拠として,本件発明1における自然循環は,冷媒が蒸発器9において完全に蒸発した状態でカスケードコンデンサ7に直接還流する循環方式のものを意味すると,限定して解釈すべきである旨主張する。

しかし,本件明細書の図1~6は,蒸発器の蒸発作用を直感的に理解させる目的で表現したものにすぎず,液中の気泡状の図示は,満液式蒸発器の挙動を表現したものである。また,冷媒が,完全に蒸発せず,気液混相状態で二酸化炭素受液器に戻ることは,冷凍機の専門家の常識である。

したがって,本件発明1の「自然循環」は,媒体が,気液混相状態で二酸化炭素受液器に戻る場合を含むものである。

b 構成要件Cと被告装置との対比

(a) 上記(イ)の自然循環の意義によれば,被告装置の上記1(4)イcの構成は,構成要件Cに該当する。

(b) 被告及び被告補助参加人は,被告装置は,液ポンプ停止時に冷媒の循環が停止するから,自然循環を行うものではない旨主張する。

しかし,被告装置は,自然循環式の設置に対し,立上げ部と連通管を付加したもので,その付加した構成から生ずる損失の補完のためにポンプを設置した形態である。このことは,立上げ部,連通管及びポンプは余分な構成であることを示しており,それらに他の特別な効用がある場合に別の発明に属することがあり得るとしても,それによって,被告装置が自然循環方式を採用していないことにはならない。

被告及び被告補助参加人は,立上げ部及び連通管が,給液管,スパイラルクーラ及び戻り管にある液冷媒を全量回収するのに役立つ旨述べる。

しかし,立上げ部及び連通管を付加した被告装置は,冷凍効率が向上せず,ポンプ動力やそれによる熱負荷の弊害があり,また,運転停止時の液冷媒の全量回収に役立つこともない。したがって,立上げ部及び連通管が,本件発明1を見かけ上回避する迂回技術であり,これらの構成が,侵害対象である本件発明1の構成要件に無用又は不利な構成を付加し,全体としての実用価値ないし技術的価値を低下させることは,当業者にとって自明である。

(ウ) 構成要件D充足性

被告装置は,上記1(4)ウのとおり,本件発明1の構成要件A及びBを充足するアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステムであり,上記(イ)のとおり,本件発明1の構成要件Cを充足するから,本件発明1の構成要件Dを充足する。

イ 本件発明5

(ア) 構成要件充足性

上記1(4)イaないしd記載の被告装置の構成は,以下のとおり,本件発明5の構成要件E及びFを充足し,被告装置は,本件発明5の技術的範囲に属する。

(イ) 構成要件E充足性

a 被告装置の上記1(4)イcの構成は,本件発明5の構成要件Eに該当する。

b 被告及び被告補助参加人は,被告装置においては,液ポンプ停止時に冷媒の循環が停止するから,液ポンプは補助的なものではない旨主張する。

しかし,被告装置においても,定常運転時には液ポンプは補助的に作用しているのであり,被告装置の技術思想は本件発明5の技術思想と同様である。

(ウ) 構成要件F充足性

上記アのとおり,被告装置は,本件発明1の技術的範囲に属し,上記(イ)のとおり,被告装置は,本件発明5の構成要件Eを充足するから,被告装置は,本件発明5の構成要件Fを充足する。

ウ 訂正請求後の本件発明との対比

(ア) 訂正請求後の本件発明1及び2の分説

訂正請求後の本件発明1及び2は,上記1(7)記載のとおりである。

(イ) 訂正請求後の本件発明1及び2と被告装置との対比

被告装置は,以下のとおり,訂正請求後の本件発明1及び2の技術的範囲に属する。

(訂正請求後の本件発明1)

a 被告装置は,「アンモニアを媒体としたアンモニアサイクルと,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクルとを組み合わせ,冷却を行うヒートポンプシステム」であるから,構成要件A’を充足する。

b 被告装置の,「アンモニアサイクルの構成部材」は,「目的の冷却を行う蒸発器から隔離した場所に設置するもの」であるから,構成要件B’を充足する。

c 被告装置は,「冷却時に作用する炭酸ガス冷凍サイクルを具えて成る」ので,構成要件C’を充足する。

d 被告装置の,「炭酸ガス冷凍サイクル」は,「二酸化炭素を蒸発させて目的の冷却を行う蒸発器を,二酸化炭素媒体を冷却,液化するカスケードコンデンサよりも低い位置に組み込み,カスケードコンデンサと蒸発器との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するもの」であり,構成要件D’を充足する。

e 被告装置は,「冷却時には,アンモニアサイクルを作動させてカスケードコンデンサにより,炭酸ガス冷凍サイクル中の二酸化炭素媒体を冷却,液化して,炭酸ガスサイクル中の二酸化炭素媒体を自然循環させるように」しているので,構成要件E’を充足する。

f 被告装置は,以上を特徴とする「アンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム」であるから,構成要件F’を充足する。

(訂正請求後の本件発明2)

g 被告装置は,「炭酸ガスサイクル内に,二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプを設け」ており,構成要件G’を充足する。

h 被告装置は,以上を特徴とする「アンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム」であるから,構成要件H’を充足する。

(ウ) 被告及び被告補助参加人の主張に対する反論

被告及び被告補助参加人の主張に対する反論は,上記ア及びイ記載のとおりである。

エ 本件再訂正請求後の請求項1及び2記載の発明との対比

本件再訂正請求後の請求項1及び2記載の発明の構成要件の分説は,訂正請求後の本件発明1の構成要件の分説のうち,C’の構成要件を,「一方,前記炭酸ガスサイクル(3)は,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしたものであり,また,この前記炭酸ガスサイクル(3)は,冷却時に作用する炭酸ガス冷凍サイクル(3A)を具えて成り」としたものである。

被告装置の炭酸ガスサイクルは,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしたものであるから,本件再訂正請求後の請求項1記載の発明の構成要件C’も充足し,本件再訂正請求後の請求項1及び2記載の発明の技術的範囲に属する。

(被告及び被告補助参加人の反論)

ア 本件発明1と被告装置との対比-構成要件Cを充足しないこと

被告装置における炭酸ガスサイクルは,次の理由から,自然循環させるものとはいえず,本件発明1の構成要件C「自然循環を行うようにしたこと」を充足しない。すなわち,①被告装置においては,スパイラルクーラ(蒸発器)の蒸発容量の3倍以上の二酸化炭素冷媒を,CO2液ポンプにより定常的に循環させ,冷媒はスパイラルクーラで一部のみが気化し,気液混相状態でCO2レシーバタンク(受液器)に戻る強制循環方式をとっている。②被告装置は,CO2液ポンプの先の給液管にCO2レシーバタンクの液面より高い立上げ部及び立上げ部の頂部から冷媒の一部をCO2レシーバタンクに戻す連通管を設ける構成のため,運転中常にCO2液ポンプの吐出力による冷媒の強制的循環を行わない限り,運転が停止する。以下,詳述する。

(ア) 「自然循環」(本件発明1の構成要件C)の意義

冷媒の循環方法には,自然循環と,強制循環とがある。強制循環とは,圧縮機又はポンプの作用により冷媒を循環させるものであり,自然循環であるというためには,圧縮機による気相冷媒の圧縮により発生する吸引作用によらないのみならず,ポンプによる液相冷媒の吐出作用にもよらずに,循環が完了することが必要である。

そして,「自然循環」については,本件明細書(甲1)中に明示的な定義はないので,明細書中の記載及び図面を考慮して解釈することになるところ,本件明細書中の記載及び図1~6によれば,本件明細書では,冷媒が蒸発器9において完全に蒸発した状態でカスケードコンデンサ7に直接還流する循環方式のもののみが開示されており,冷媒の相当の部分が蒸発器で気化せず,気液混相流となって還流する循環方式については,全く開示はない。また,蒸発器から還流する二酸化炭素冷媒は,単一サイクル内で直接カスケードコンデンサ7に流入するもののみが示されているところ,カスケードコンデンサは,気体冷媒を冷却して液化する装置であって,液化冷媒が直接流入すると凝縮機能が阻害されるから,カスケードコンデンサに,気液混相流が流入する構成は技術的に不合理であり,本件明細書の図1~6が,冷媒が蒸発器9において完全に蒸発した状態でカスケードコンデンサ7に直接還流する循環方式のもののみを図示していることは明らかである。

(イ) 被告装置が液ポンプを用いる強制循環であること

a 被告装置の炭酸ガスサイクルでは,上記1(4)イcのとおりに二酸化炭素冷媒が循環する。

すなわち,被告装置は,CO2レシーバタンク1の液相二酸化炭素の液面よりも高い立上げ部を設け,かつ,立上げ部の頂部にCO2レシーバタンクに連通する連通管5を設け,CO2液ポンプにより二酸化炭素を高速大量に強制循環させ,クーラの冷却能力を高めるとともに,連通管による部分還流により液量を調整し,使用者の必要に応じた運転負荷の自由な調整を可能とするものである。

また,被告装置は,装置の運転停止時において,炭酸ガスサイクル内を循環している液相二酸化炭素を,確実かつ完全にCO2レシーバタンク1に回収できるという特徴を有する。すなわち,クーラのデフロスト(霜取り)及び洗浄作業の際,クーラ部の温度上昇を伴うため,液相二酸化炭素がクーラ付近の循環経路に滞留していると,液相二酸化炭素の爆発的気化(沸騰)による危険状態が発生するおそれがあり,液相二酸化炭素の速やかかつ完全な回収という技術的要請があるところ,被告装置では,CO2液ポンプ3を停止すると,CO2レシーバタンク1上部の気相の二酸化炭素が,連通管5を通じて給液管の立上げ部に流入して液相二酸化炭素の流れを遮断するとともに,立上げ部を既に通過した液相二酸化炭素は,そのままスパイラルクーラ7から戻り管8を通過してCO2レシーバタンク1に回収され,上記技術的要請を充足させているのである。

このような被告装置の構成においては,起動時において,CO2レシーバタンク1の液相二酸化炭素をして給液管の立上げ部を通過させるためにCO2液ポンプ3による強制送出が行われるばかりでなく,運転継続中においても,CO2液ポンプ3による送出を停止すると,CO2レシーバタンク1の上部にある気相の二酸化炭素が,連通管5を通じて給液管立上げ部に流入して液流を遮断し,循環が直ちに停止するから,液相の二酸化炭素が立上げ部を通過するについてサイフォン効果は働いておらず,CO2液ポンプ3による強制送出が常時必要である。

したがって,被告装置は,「自然循環を行うようにしたこと」を充足しない。

b 原告らは,給液管立上げ部及び連通管について,技術的に余分であり,かつ,液ポンプ停止時に冷媒循環が停止するように設けられたものであって,これらに起因するロスを補うために液ポンプを用いており,迂回技術にすぎないと主張する。

しかし,被告装置の液ポンプの吐出力は,立上げ部と連通管によるロスを補って冷媒を循環させるために必要と考えられる2.5mH×84.8l/minを超える15mH×80l/minであり,実際にその能力に応じた運転がされているのであるから,ロスを補うためのポンプではない。

また,被告装置における給液管の立上げ部と連通管の構成は,上記aのとおり,独自の作用効果を有する有益な構成であって,無用又は不利な構成ではないから,迂回技術であるということもできない。

(ウ) 被告装置が気液混相状態で二酸化炭素を還流させるものであること

a 被告装置では,別紙被告装置説明書2(3)記載のとおり,二酸化炭素冷媒のうち,一部がスパイラルクーラにおいて気化し,気液混合相となってCO2レシーバタンクに戻るのであるから,自然循環の構成をとっていない。

したがって,被告装置は,「自然循環を行うようにしたこと」を充足しない。

b 仮に,冷媒を気液混相状態で還流させる方式が本件発明1の自然循環に含まれるとしても,被告装置は,そのような循環方式を使用するものではない。すなわち,蒸発器より先が気液混相状態の場合でも,冷媒の一部が気化することによって比重が低下し,戻り管を上昇して還流するので,その先に主サイクルとは別の凝縮サイクルを設ければ,冷媒の循環は原理的には一応完結するが,これは,蒸発器における外部からの熱伝達による給熱に依存することになり,循環が不安定となり,能動的奪熱による冷却を行う装置とはいえない。この難点を克服するために,結局,液ポンプを設け,冷媒の定常的循環を強制的に維持することが必要となるのであって,この方式を用いた被告装置は,自然循環とはいえない。

(エ) 小括

したがって,被告装置は,本件発明1の構成要件Cを充足しない。

イ 本件発明5と被告装置との対比-構成要件Eを充足しないこと

(ア) 構成要件Eの「液ポンプ」の意義

本件発明5は,本件発明1の炭酸ガスサイクル内に,二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助する液ポンプを設けたものにすぎないから,同液ポンプは,本件発明1の自然循環を特徴とするヒートポンプシステム,すなわち,補助ポンプがなくても,炭酸ガスサイクル内の二酸化炭素の自然循環が独立に成立するシステムに付加されたものであり,あくまでかかる自然循環を補助するに止まるものでなければならない。本件明細書にも,「液化炭酸ガスの液ヘッドを利用するだけで,小さな配管でも充分な量の液化炭酸ガスを蒸発器9,9Aに送り込むことが可能である。しかしながら,二酸化炭素媒体の循環を二次的に補助し,循環をより確実なものとしたい場合には,サイクル内に液ポンプPを設ける形態が好ましい。」と記載されている(4頁8欄16~22行)。

(イ) 被告装置の液ポンプ

被告装置のCO2液ポンプ3は,上記ア(イ)のとおり,炭酸ガスサイクルにおいて二酸化炭素媒体を循環させるために不可欠の力を提供するものであり,補助ポンプということはできない。

(ウ) 小括

したがって,被告装置は,本件発明5の構成要件Eを充足しない。

なお,本件発明5は,本件発明1に従属するものであるから,本件発明5の構成要件の充足性については,上記アの主張が該当する。

ウ 訂正請求後の本件発明1及び2との対比

(訂正請求後の本件発明1との対比)

(ア) 構成要件A’ないしC’について

被告装置が,構成要件A’ないしC’を充足することは認める。

(イ) 構成要件D’について

被告装置は,構成要件D’を充足しない。

すなわち,被告装置の二酸化炭素冷媒のサイクルは,別紙被告装置説明書記載のとおり,CO2レシーバタンク1,流量調整弁6,スパイラルクーラ7,CO2レシーバタンク1を循環する冷却サイクルと,CO2レシーバタンク1,カスケードコンデンサ2,CO2レシーバタンク1を循環する凝縮サイクルが分離されており,CO2レシーバタンク1とカスケードコンデンサ2との間に気相の冷媒が介在しているので,カスケードコンデンサ中の凝縮された冷媒の位置エネルギーが蒸発器に作用することはない。したがって,被告装置においては,カスケードコンデンサと蒸発器との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差が形成されることはない。

(ウ) 構成要件E’について

被告装置は,構成要件E’を充足しない。

すなわち,被告装置は,冷媒を自然循環させる装置ではなく,この点についての具体的な主張は,上記アのとおりである。

(エ) 構成要件F’について

被告装置は,上記のとおり,構成要件D’及びE’を充足しないので,構成要件F’を充足しない。

(訂正請求後の本件発明2との対比)

(オ) 構成要件G’について

被告装置は,構成要件G’を充足しない。

すなわち,被告装置のCO2液ポンプは,冷媒の循環を二次的に補助するポンプではなく,それを欠いては冷媒の循環が成り立たない強制循環ポンプである。この点についての具体的な主張は上記イのとおりである。

(カ) 構成要件H’について

上記(イ)ないし(オ)記載のとおり,被告装置は,構成要件D’ないしG’を充足しないから,構成要件H’も充足しない。

エ 本件再訂正請求について

本件再訂正請求は,特許法上これを認めるべき根拠がなく許されないものであり,本件訴訟においても考慮する必要がない。

(2) 争点2(本件発明1は新規性を欠くか。)について

(被告及び被告補助参加人の主張)

ア 乙1号証記載の装置の構成

本件発明1は,乙1号証の刊行物(以下「乙1文献」という。)に記載された装置(以下「引用例装置」という。)の構成と同一であり,本件特許権に係る特許出願前に外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない発明であって,本件発明1についての特許は,同法123条1項2号に該当し,特許無効審判により無効とされるべきものである。

乙1文献は,英国冷凍協会会誌1992-93年号であり,1994年(平成6年)3月22日に英国内で頒布された。

乙1文献には,アンモニアを1次冷媒とする回路(アンモニアサイクル)と二酸化炭素を冷媒とする回路(炭酸ガスサイクル)を,アンモニアが蒸発する熱交換器が,二酸化炭素の凝縮器としての役目を果たすように組み合わせた冷却装置(引用例装置)が開示されており,同装置の構成は,以下のとおりである。

① 凝縮した二酸化炭素は液体CO2受液器に流出し,

② そこから重力により2個のフィン付き空気冷却器に流れる

③ この液体CO2は,膨張弁を通って,

④ 前記自然循環式の空気冷却器に入り,

⑤ 自然対流によりCO2は前記凝縮器の上部入り口に戻る

イ 引用例装置と本件発明1との対比

引用例装置の上記②の構成は,CO2凝縮器で凝縮液化した液相の二酸化炭素が流入する液体CO2受液器を,空気冷却器(蒸発器)より高い位置に設け,両者の間に液相二酸化炭素の液ヘッド差を形成し,この液ヘッド差を利用して,液体CO2受液器から空気冷却器(蒸発器)に自然循環させることを意味し,また,上記⑤の構成は,液相の二酸化炭素が,空気冷却器(蒸発器)内で外部の熱を吸収して気化し,比重が軽くなり,空気冷却器(蒸発器)よりも高い位置に設置されているCO2受液器(乙1の図10)の入り口まで,気化ガスの自然対流現象によって上昇することを意味する。

したがって,乙1文献には,本件発明1の構成要件AないしDのすべてが開示されており,本件発明1は新規性を有しない。

なお,引用例装置は,冷却を行う装置として開示され,選択的に加熱にも使用されることは開示されていないが,本件発明1のように,冷却又は加熱という選択肢を有する発明については,その選択肢のうち,いずれか1つの選択肢のみを当該発明を特定する事項と仮定し,その発明と引用発明の対比を行った場合に,両者に相違点がなければ新規性を有しないというべきであるから,上記の点は,新規性を否定する理由とはならない。

ウ 引用例装置の膨張弁に関する原告らの主張について

原告らは,引用例装置が,膨張弁を使用していることから,同装置は実用化が達成できなかったものであり,これをもって本件発明1の新規性が失われることにはならない旨主張する。

しかし,新規性の判断は,特許請求の範囲に記載された発明の構成のすべてが,公知の文献に技術思想として開示されているといえるかどうかによるのであり,公知の文献の発明の実施例に該当する装置が実験的なものであるかどうかは関係がない。

また,膨張弁とは,流量調整弁の一種でもあり,基本的構造も弁の絞り部分の形状が異なるほかは全く同じである。そして,引用例装置でも,液ヘッド差により膨張弁手前の圧力は凝縮器における圧力より当然に大きくなっているから,この液ヘッド差が充分あれば,膨張弁出口の圧力が凝縮器における圧力より低くなることはなく,冷媒の凝縮器への還流は生ずる。原告らが主張する,冷媒が膨張弁内で一部気化(フラッシュ)して見かけ上の体積が膨張し,冷媒圧力が大きく低下する,という事態は,膨張弁の入側と出側の圧力差が大きい場合に限って生ずる現象である。

エ 訂正請求後の本件発明1について

訂正請求後の本件発明1の構成要件は,上記1(7)のA’ないしF’のとおりであるところ,以下のとおり,引用例装置の構成と実質的に同一であるから,本件発明1と同様,新規性がない。

引用例装置は,アンモニアを媒体としたアンモニアサイクルと,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクルとを組み合わせ,冷却又は加熱を行うヒートポンプシステムであり,訂正請求後の本件発明の構成要件A’を開示している。

乙1文献には,「前記アンモニアサイクルの構成部材を,目的の冷却を行う蒸発器から隔離した場所に設置する」ことの明示的開示はないが,「環境破壊的なハロカーボン冷媒を,有害性は低いがより高価な代替物に取り替えること及びアンモニア等の有毒であるが同等に効果的な冷媒に回帰することは,2次冷媒と通称されるものの使用を検討することを意味あるものとする」との記載(65頁左欄2~7頁)及び2次冷媒としての二酸化炭素の使用目的(アンモニアサイクルの構成部材を冷却器から隔離した場所に設置し,アンモニアの毒性に基づく安全上の問題を回避すること)の自明性からすると,構成要件B’の開示があるのと同視されるべきである。

引用例装置の炭酸ガスサイクルは,「冷却時に作用する二酸化炭素を媒体とする炭酸ガスサイクルを具えて成る」ものであり(76頁左欄10行~右欄),構成要件C’が開示されている。

引用例装置の炭酸ガスサイクルは,二酸化炭素を蒸発させて目的の冷却を行う蒸発器を,二酸化炭素媒体を冷却,液化するカスケードコンデンサよりも低い位置に組み込み,カスケードコンデンサよりも低く,蒸発器よりも高い位置に配置されたCO2受液器と蒸発器との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成するものであり,冷却器との液ヘッド差がカスケードコンデンサではなくCO2受液器との間で形成されるものの,単一の冷却サイクル中においてカスケードコンデンサより下にCO2受液器を配置することは,別の凝縮サイクルを設ける場合と異なり,設計上の選択事項にすぎないから,構成要件D’が実質的に開示されているということができる。

乙1文献には,「アンモニアが蒸発するプレート型熱交換器は,二酸化炭素の低温凝縮器としての役目を果たす。凝縮した二酸化炭素は液体CO2受液器に流出し,そこから重力により2個のフィン付き空気冷却器に流れる。この液体CO2は,膨張弁を通って前記自然循環式の空気冷却器に入り,自然対流によりCO2は前記凝縮器の上部入り口に戻る。」と記載されており(76頁右欄11~19行),構成要件E’がそのまま開示されている。

以上から,乙1文献には,訂正請求後の本件発明1の構成要件A’,C’及びE’が明示的に開示されており,構成要件B’及びD’は実質的に開示されているから,引用例装置の構成と実質的に同一であって,新規性を欠くものである。

(原告らの反論)

ア 引用例装置の構成

引用例装置の構成についての被告及び被告補助参加人の主張は認める。

イ 引用例装置と本件発明1との対比

引用例装置の構成は,蒸発器の手前に膨張弁が使用されており,これにより,自然循環が起き得ない装置になっているから,このような技術的思想に重大な欠陥がある装置を記載した乙1文献をもって,本件発明1の新規性が失われることにはならない。

すなわち,膨張弁は,膨張弁を通過する冷媒液を膨張弁入口の冷媒液温度相当飽和圧力以下の圧力にする機能をもっている。膨張弁通過後,冷媒液は,圧力が低下した分飽和温度が低下し,温度低下に必要な熱量を冷媒液の一部が蒸発することにより補う。この時,蒸発する蒸気により,冷媒全体の体積が膨張する。引用例装置では,膨張弁手前の冷媒液の温度は,カスケードコンデンサの凝縮温度より過冷却分低い温度であり,膨張弁出口の冷媒液の温度はそれより低いのであるから,カスケードコンデンサの凝縮温度より低く,その飽和圧力は凝縮温度飽和圧力より低くなるのであって,カスケードコンデンサより低い位置にある蒸発器内の冷媒がカスケードコンデンサに流れることは不可能である。

ウ 訂正請求後の本件発明1及び2について

乙1文献には,訂正請求後の本件発明1の構成要件B’,D’及びE’の開示はない。

被告及び被告補助参加人は,2次冷媒として二酸化炭素を使用する目的から,引用例装置の構成は,訂正請求後の本件発明1の構成要件B’の「前記アンモニアサイクルの構成部材は,目的の冷却を行う蒸発器から隔離した場所に設置する」ことも開示されているとみるべきである旨主張するが,2次冷媒を使用する目的は多様であり,アンモニアの毒性への対応の問題は,人為的に意識して対策を採らなければならないものであるから,2次冷媒の使用目的から上記構成を導くことはできない。

また,引用例装置では,蒸発器の手前に膨張弁を組み込むことにより,訂正請求後の本件発明1の構成要件D’の「カスケードコンデンサ(7)と蒸発器(9A)との間に二酸化炭素媒体の液ヘッド差を形成する」ことを実現できなくしており,この点で,同構成要件に係る構成の開示はない。

さらに,引用例装置では,上記のとおり,膨張弁が組み込まれることによって自然循環が起き得ないから,訂正請求後の本件発明1の構成要件E’の自然循環ができず,同構成を開示しているとはいえない。

(3) 争点3(本件発明1は進歩性を欠くか。)について

(被告及び被告補助参加人の主張)

ア 本件発明1の進歩性の欠如

仮に,本件発明1が引用例装置の構成と同一でないとしても,本件発明1は,①乙1文献の記載自体から,また,②乙7号証及び同10ないし13号証の刊行物に記載された自然循環サイクルの周知技術を,乙8号証及び同14号証の刊行物に記載された炭酸ガスサイクル装置に適用することによって,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明であって,本件発明1についての特許は,同法123条1項2号に該当し,特許無効審判により無効とされるべきものである。

以下,まず,上記各刊行物に記載された先行技術を検討する。

(ア) 乙1文献

乙1文献に記載された引用例装置の構成は,上記(2)「(被告及び被告補助参加人の主張)」アのとおりである。

(イ) 乙10号証

乙10号証の刊行物(以下「乙10文献」という。)は,特開昭63-105368号の冷媒循環による空気調和機に係る発明の公開特許公報であり,昭和63年5月10日に公開された(以下,乙10文献に記載された装置を「引用例1-1装置」という。)。

乙10文献には,「前記熱源側熱交換器で凝縮された液冷媒を,高低差を利用して,前記各利用側熱交換器に供給し,この各利用側熱交換器で蒸発させることにより室内を冷却し,また該各利用側熱交換器で蒸発されたガス冷媒を前記熱源側熱交換器に還流させ,つまり前記各利用側熱交換器と熱源側熱交換器との間で冷媒を自然循環させることにより,前記室内の冷却運転を行う」(1頁右欄8~15行)ことが公知技術として開示されている。また,引用例1-1装置については,乙10文献に,冷却運転と加熱運転に用いられることが明記され(2頁右下欄8行~3頁左上欄10行),これにより,「冷却ポンプなどの可動部品を使用することなく,利用側熱交換器と熱源側熱交換器との間で冷媒を自然循環可能となすことにより,全体構造が簡単で信頼性の高いヒートポンプ運転可能な空気調和機を提供する」ものである(2頁左下欄12~16行)。

(ウ) 乙7号証

乙7号証の刊行物(以下「乙7文献」という。)は,特開昭48-94037号の循環式熱移動装置に係る発明の公開特許公報であり,昭和48年12月4日に公開された(以下,乙7文献に記載された装置を「引用例1-2装置」という。)。

乙7文献には,循環式熱移動装置において,「冷媒循環用ポンプ等の強制循環装置を使用せず,重力ヘッド利用による自然循環式の場合」について記載されている(1頁右欄18~19行)。

(エ) 乙11号証

乙11号証の刊行物(以下「乙11文献」という。)は,特開平9-243111号の自然循環ループを用いた冷房装置に係る発明の公開特許公報であり,平成9年9月16日に公開された(以下,乙11文献に記載された装置を「引用例1-3装置」という。)。

乙11文献には,「ループ中における冷媒の自然循環は,熱交換器4を冷却器2より高所に配置し,ガス配管6中の冷媒ガスと液配管8中の冷媒液との比重差により冷媒液を流下し,冷媒ガスを上昇させることにより行われる」ことが記載されている(2頁左欄【0003】)。

また,引用例1-3装置の自然循環ループについては,乙11文献に「冷媒の循環の動力を省力できる」ことが記載されている(4頁左欄【0020】)。

(オ) 乙12号証

乙12号証の刊行物(以下「乙12文献」という。)は,特開平9-264620号の自然循環ループを併用する冷房装置及びその運転方法に係る発明の公開特許公報であり,平成9年10月7日に公開された(以下,乙12文献に記載された装置を「引用例1-4装置」という。)。

乙12文献には,「凝縮器4に流入した冷媒ガスは外気へ放熱し凝縮し,冷媒液となって流れ出る。…凝縮器4から流れ出た冷媒液は膨張弁12側に流下する。膨張弁12の上には液配管10が位置するので,流下した冷媒液はこの液配管10に貯められる。蓄積した冷媒液は,自重による圧力によって膨張弁12から噴出し,蒸発器6に流入する。すなわち,圧縮機2を駆動しなくても,冷媒はガス配管8を上昇し液配管10を下降し,冷房装置内を循環する」ことが記載されている(2頁2欄~3頁3欄【0006】)。

また,自然循環ループによる運転が,「使用条件が限られるが低ランニングコストである」ことが記載されている(6頁10欄【0033】)。

(カ) 乙13号証

乙13号証の刊行物(以下「乙13文献」という。)は,特開平10-19305号の冷却システムに係る発明の公開特許公報であり,平成10年1月23日に公開された(以下,乙13文献に記載された装置を「引用例1-5装置」という。)。

乙13文献には,「重力式ヒートパイプは,フロン等の冷媒を用いることにより,被空調室側の熱負荷を空調機内の熱交換器で吸収し,冷媒を液相から気相に変化させ,ヒートパイプ内を上昇させる。…気相の冷媒は,これら凝縮部のいずれかにおいて冷却されて凝縮し,液相となり,重力によりヒートパイプ内を下降して空調機へ戻る」ことが記載されている(2頁2欄【0005】)。

また,引用例1-5装置における「冷媒の自然循環作用」によって,「使用者の経済的負担を軽減することが可能となる」ことが記載されている(6頁9欄【0042】)。

(キ) 乙8号証

乙8号証の刊行物(以下「乙8文献」という。)は,特開平10-306952号の2次冷媒システム式冷凍装置に係る発明の公開特許公報であり,平成10年11月17日に公開された(以下,乙8文献に記載された装置を「引用例2-1装置」という。)。

引用例2-1装置の「1次側回路(20)の冷媒は自然冷媒である炭化水素を用い,2次側回路(30)の熱搬送媒体は自然冷媒である二酸化炭素を用いる」とされているが(2頁2欄【0006】),「本実施形態においては,1次側回路(20)の冷媒は,自然冷媒として炭化水素を用いたが,本発明はその他の自然冷媒を用いてもよく,例えばアンモニアや二酸化炭素であってもよい」とされ(7頁11欄【0063】),アンモニアを媒体としたアンモニアサイクルと,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクルとの組合せが開示されている。また,引用例2-1装置が,冷却又は加熱を行う冷凍装置であることが開示されている(3頁4欄【0017】【0018】)。

(ク) 乙14号証

乙14号証の刊行物(以下「乙14文献」という。)は,特開平7-269964号の空気調和装置に係る発明の公開特許公報であり,平成7年10月20日に公開された(以下,乙14文献に記載された装置を「引用例2-2装置」という。)。

引用例2-2装置においては,乙14文献の「第1の冷媒回路である流路Aと第2の冷媒回路である流路Bとの二つの閉流路を備えている」との記載(3頁3欄【0009】)から明らかなとおり,2つの回路を備えた空気調和装置に関する発明が開示されている。

また,乙14文献では,第1の冷媒回路である流路Aの内部を流れる冷媒aにCO2を用いることと(4頁6欄【0023】),第2の冷媒回路である流路Bの内部を流れる冷媒bにアンモニアを用いること(5頁7欄【0024】)が開示され,また,引用例2-2装置においては,冷房運転と暖房運転に用いられることが開示されている(3頁4欄【0013】及び【0015】)。

イ 先行技術との対比

本件発明1の「圧縮機を組み込まずに自然循環を行うようにしたこと」(構成要件B及びC)は,乙1文献,乙7文献及び乙10文献ないし乙13文献に記載されている周知な技術である。

また,冷却又は加熱を行うヒートポンプシステムにおいて,アンモニアを媒体としたアンモニアサイクルと,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクルを組み合わせて用いること(構成要件A及びD)については,本件明細書においてもそれが公知であることが示唆されているが,乙8文献及び乙14文献にも記載されている。

したがって,ヒートポンプシステムの炭酸ガスサイクルに自然循環方式を採用することは,当業者が容易に推考し得るものであり,かつ,周知技術である自然循環方式を公知のヒートポンプシステムに適用することを妨げる特段の事情も認められない。

さらに,本件発明1の効果は,引用例1-1装置ないし引用例1-5装置の周知技術から予測できる以上の優れた効果又は異なる効果を奏するものではない。

以上から,本件発明1は,引用例装置それ自体から,あるいは,引用例2-1装置及び引用例2-2装置のアンモニアを媒体としたアンモニアサイクルと二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクルとを組み合わせ,冷房又は暖房(冷却又は加熱)を行う空気調和装置(ヒートポンプシステム)の炭酸ガスサイクルに対し,引用例1-1装置ないし引用例1-5装置に開示されている周知技術を適用することによって,当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性を欠くものである。

ウ 訂正請求後の本件発明1について

訂正請求後の本件発明1の構成要件は,上記1(7)のA’ないしF’のとおりであるところ,上記(2)「(被告及び被告補助参加人の主張)」エのとおり,乙1文献には,構成要件A’,C’及びE’が明示的に開示されている。

そして,構成要件B’及びD’についても,引用例装置(乙1)から容易に推考することができる。

さらに,引用例2-1装置について,乙8文献に「上記1次側回路(20)は,蒸気圧縮式冷凍サイクルに構成されて室外ユニット(1A)に設けられている」こと(4頁5欄【0026】),「上記2次側回路(30)は,…室内ユニット(1B)に設けられる」こと(4頁6欄【0029】)が記載され,さらに,図1に示される冷媒回路図から,利用側熱交換器(31)は室内ユニット(1B)内に設けられていることが示されており,アンモニアサイクルから離隔した場所に二酸化炭素の蒸発機(利用側熱交換器(31))が設置されていることが開示されている。

また,乙8文献には,「2次側回路(30)の熱搬送媒体に人体に影響を与えない自然冷媒を用いるようにしたために,毒性や可燃性の冷媒が室内に流れることを確実に防止することができる」との記載があり(3頁4欄【0020】),構成要件B’と同一の技術思想とそのための構成が開示されている。

以上から,訂正請求後の本件発明1についても,進歩性を欠く。

(原告らの反論)

本件発明1及び訂正請求後の本件発明1の各構成要件の原理については,被告及び被告補助参加人が主張する刊行物に開示されているかもしれないが,以下のとおり,これらの組合せをもって上記各発明の進歩性を否定することはできない。

ア 単なる先行技術の組合せではないこと

本件発明1及び訂正請求後の本件発明1は,各構成要件の組合せの最適化選択,すなわち,2次冷媒システムと自然循環との組合せ,自然媒体の選択,補助ポンプの利用などの着想などの点で,具体的実現性を有しており,単なる先行技術の寄せ集めではない。

イ 商業的成功と専門家の評価

本件発明1を実施した装置は,鹿児島県おおさき町鰻加工組合の加工工場に設置され,実用施設として商業的な成功を収め,充分な性能を発揮している。また,この実用機実績は,第22回優良省エネルギー設備顕彰を受賞している。

このような商業的な実績や専門家による評価は,本件発明1及び訂正請求後の本件発明1の進歩性を示すものである。

ウ 開発当時の当該技術分野における標準的な技術レベル

冷凍空調業界において高い技術レベルを有している被告補助参加人が作成し,平成13年5月に発行した資料(甲6の1添付の「乙第3号証」と表示された書面)には,アンモニア媒体と二酸化炭素媒体とを組み合わせた二元冷凍システムが記載されているが,炭酸ガスサイクル中に圧縮機が組み込まれており,アンモニアと二酸化炭素の二元冷凍システムに,自然循環の技術を融合することは,全く想定されていなかったということができるから,当時の冷凍空調業界の標準的な技術レベルにおいては,上記融合は到底想到し得なかった。

エ 先行技術との対比

引用例装置に重大な欠陥があることは,上記(2)「(原告らの反論)」イのとおりであり,このことは,アンモニア/二酸化炭素冷媒要件と自然循環要件との組合せに多大な困難が存在することを示している。

また,自然循環の媒体の挙動について,単に重力によるものであるという誤った理解を前提とした説明をしている文献(乙1,7,10,13)があり,これらも本件発明1及び訂正請求後の本件発明1に至る困難性を示している。

さらに,乙8文献及び乙14文献は,強制循環式のヒートポンプシステムを示しており,この点で,本件発明1及び訂正請求後の本件発明1とは大きく相違する。

そうすると,乙1文献等の各刊行物は,開発の目的若しくは方法又は技術レベルという観点からは,脈絡のない技術の寄せ集めであり,これらによって,本件発明1及び訂正請求後の本件発明1の進歩性が否定されるべきではない。

(4) 争点4(本件発明5は進歩性を欠くか。)について

(被告及び被告補助参加人の主張)

ア 本件発明5の進歩性の欠如

本件発明5は,引用例装置及び乙2号証の刊行物(以下「乙2文献」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)を組み合わせることによって,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明であって,本件発明5についての特許は,同法123条1項2号に該当し,特許無効審判により無効とされるべきものである。

(ア) 乙1文献

乙1文献に記載された引用例装置の構成は,上記(2)「(被告及び被告補助参加人の主張)」アのとおりである。

(イ) 乙2文献

乙2文献は,特開平10-38317号の冷房システムに係る発明の公開特許公報であり,平成10年2月13日に公開された。

乙2文献には,まず,「冷却ユニットとしての蒸発器に対して,該蒸発器よりも高所に凝縮器を配置し,この両者を液管及びガス管を用いて往復に連結することにより,冷媒循環系が構成される」冷媒自然循環式の冷却ユニット,すなわち,循環系内に封入された冷媒が,「蒸発器において吸熱により気化して冷媒ガスとなり,ガス圧によってガス管内を上昇して凝縮器へと移動」し,「凝縮器に到達した冷媒ガスは,凝縮器において放熱によって液化して冷媒液となり,重力によって液管内を下降して蒸発器へと移動」するという方法で自然循環する冷却ユニットが,従来技術として開示されている(3頁3欄【0002】)。そして,このような自然循環式冷房システムにおいては,「凝縮器と蒸発器との間の高低差を十分に確保する」などして,「蒸発器の制御バルブ直前の冷媒液に十分な水頭圧を与える必要がある」(3頁3欄【0003】)が,必要な水頭圧を確保できない場合には,「水頭圧の不足を補うための補圧ポンプを液管に設けることが行われている」(3頁3欄【0004】)。このように,乙2文献には,冷媒を自然循環させるという構成及び冷媒の自然循環を補助するためのポンプを設けるという構成が,従来技術として開示されている。

イ 先行技術との対比

乙2文献では,アンモニアを媒体としたアンモニアサイクルと,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクルとを組み合わせた冷房システムであることの開示はない。

しかし,冷媒としてアンモニアと二酸化炭素を使用し,二酸化炭素が自然循環する炭酸ガスサイクルと,アンモニアが循環するアンモニアサイクルをカスケード接続した冷却装置は,周知な技術であるから(乙1),二酸化炭素媒体の自然循環を補助するため,炭酸ガスサイクル内に液ポンプを設けることは,引用例装置と引用発明から,当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 訂正請求後の本件発明2について

訂正請求後の本件発明2の構成要件は,上記1(7)のG’及びH’のとおりであるところ,上記(2)「(被告及び被告補助参加人の主張)」エのとおり,乙1文献には,構成要件H’で引用している訂正請求後の本件発明1の,構成要件A’,C’及びE’が明示的に開示されている。

そして,構成要件B’及びD’についても,引用例装置(乙1)から容易に推考することができる。

さらに,構成要件G’についても,上記ア及びイのとおり,乙2文献に開示されている。

その結果,構成要件H’についても,乙1文献及び乙2文献によって開示されているということができ,訂正請求後の本件発明2についても,本件発明5と同様,進歩性を欠く。

(原告らの反論)

引用例装置に重大な欠陥があることは,上記(2)「(原告らの反論)」イのとおりである。

また,引用発明の説明についても,乙2文献の「蒸発器において吸熱により気化して冷媒ガスとなり,ガス圧によってガス管内を上昇して凝縮器へと移動」の部分(3頁3欄【0002】)は,循環が,蒸発器において吸熱により気化して発生したガスにより,戻り管側の嵩比重が小さくなり給液管側とのヘッド差を生じたことにより行われることを誤解した記載である。そして,引用発明には,自然循環方式をベースとした冷媒の循環経路中に補圧ポンプを設ける旨が開示されているが,単一の媒体の循環サイクルを示すのみであり,アンモニアの冷凍サイクルと二酸化炭素の自然循環方式の組合せは一切開示されていない。

以上からすれば,引用例装置と引用発明を組み合わせても,本件発明5又は訂正請求後の本件発明2を容易に発明できたということはできない。

第3争点に対する判断

1  争点1(被告装置は,本件発明1又は5の技術的範囲に属するか。)について

(1) 本件発明1と被告装置との対比(構成要件C充足性)

被告及び被告補助参加人は,被告装置の構成は,本件発明1の構成要件Cを充足しない旨主張するので,以下,構成要件Cの充足性について検討する。

ア 「自然循環」の意義

(ア) 本件明細書には,次のとおりの記載がある。

a 発明の開示

「すなわち請求項1記載のアンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステムは,アンモニアを媒体としたアンモニアサイクルと,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクルとを組み合わせ,冷却または加熱を行うヒートポンプシステムにおいて,前記炭酸ガスサイクルは,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしたことを特徴として成るものである。

この発明によれば,炭酸ガスサイクル中に,二酸化炭素媒体を循環させるための圧縮機を組み込む必要がないため,大きな動力負荷もかからず,また大きな圧力容器を一切使用する必要もなく,ヒートポンプシステムを安価に実現できる。」(2頁4欄13ないし24行)

b 発明を実施するための最良の形態

〔実施の形態1〕

(a) 「次にこのヒートポンプシステム1の冷却態様について説明する。まずアンモニアサイクル2では,圧縮機4によって圧縮された気体状のアンモニアが,コンデンサ5を通るとき,冷却水または空気によって冷やされて液体となる。液体となったアンモニアは,膨張弁6によって必要な低温度に相当する飽和圧力まで膨張した後,カスケードコンデンサ7で蒸発して気体となる。このとき,アンモニアは,炭酸ガス冷凍サイクル3内の二酸化炭素から熱を奪い,これを液化する。

一方,炭酸ガスサイクル3では,カスケードコンデンサ7によって冷やされて液化した液化炭酸ガスが,液ヘッド差を利用した自然循環現象によって下降し,流量調整弁8を通って,目的の冷却を行う蒸発器9に入り,ここで温められて蒸発し,ガスとなって再びカスケードコンデンサ7に戻っていく。」(3頁6欄17ないし31行)

(b) 「因みに液ヘッド差を利用した自然環境現象そのものは,一般的に知られており,例えば精密機械部品等を冷却するためのヒートパイプ等にも同様の原理が流用されている。しかしながらこのようなヒートパイプは,専ら作動液(媒体)が循環するものに止まり,それ以上の冷却作用を付加するものではなかった。その点,本願発明は液ヘッド差を利用した自然環境現象にとどまることなく,液の循環量を制御して二酸化炭素媒体を冷却または加熱することによって積極的に媒体の循環を行うという特徴的構成を有するものである。」(3頁6欄32ないし41行。「自然環境現象」は,「自然循環現象」の誤記と認められる。)

〔実施の形態2〕

(c) 「このためカスケードコンデンサ7によって冷やされて液化した液化炭酸ガスは,液ヘッド差を利用したいわゆる自然循環現象によって下降し,流量調整弁8を通って,目的の冷却を行う蒸発器9Aに入り,この蒸発器9Aで温められて蒸発し,ガスとなって再びカスケードコンデンサ7に戻っていく。」(4頁7欄35ないし40行)

(d) 「このため吸熱器10によって温められて気化した炭酸ガスは,液ヘッド差を利用したいわゆる自然循環現象によって上昇し,目的の加熱を行う放熱器9Bに導かれ,この放熱器9Bで冷やされて液化炭酸ガスとなって流量調整弁8を通って,再び吸熱器10に戻っていく。」(4頁7欄46行ないし8欄1行)

(e) 「本発明は,上記実施の形態1,2で述べたように炭酸ガスサイクル3内に,自然循環現象を生じさせることに加え,冷却または加熱することによって,炭酸ガスサイクル3中の二酸化炭素媒体を循環させるため,炭酸ガスサイクル3内に圧縮機を設置する必要がない。このためカスケードコンデンサ7や蒸発器9,9A(放熱器9B)について,大きな圧力容器を一切使用せずに,チューブやプレート等によって構成することが可能である。」(4頁8欄2ないし9行)

c 産業上の利用可能性

「以上のように本発明のヒートポンプシステムは,アンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせ,冷却または加熱を行うものであって,炭酸ガスサイクルには,圧縮機を組み込まずに,自然循環を行うようにしているため装置そのものを低コストで製造し,目的の冷凍や加熱を効率良く行いたい場合に適している。」(5頁9欄6ないし11行)

(イ) 乙2文献には,次のとおりの記載がある。

「【従来の技術】冷房システムにおける冷媒の循環方式の一つとして,冷媒自然循環方式と呼ばれるものが知られている。この方式においては,冷却ユニットとしての蒸発器に対して,該蒸発器よりも高所に凝縮器を配置し,この両者を液管およびガス管を用いて往復に連結することにより,冷媒循環系が構成される。この循環系内に封入された冷媒は,蒸発器において吸熱により気化して冷媒ガスとなり,ガス圧によってガス管内を上昇して凝縮器へと移動する。凝縮器に到達した冷媒ガスは,凝縮器において放熱によって液化して冷媒液となり,重力によって液管内を下降して蒸発器へと移動する。

【0003】このような冷媒自然循環方式を採用する冷房システムにおいては,居室等の被冷房領域に配置される冷却ユニット(蒸発器)内の冷媒は,熱負荷状態に対応した気液割合状態(気液混合状態)にあることが必要である。」(3頁3欄2ないし17行)

(ウ) 乙10文献には,次のとおりの記載がある。

a 「従来この種空気調和機として,例えば特公昭54-19609号公報に記載されたものが知られており,この公報記載の空気調和機は,室内側に配置される2つの利用側熱交換器と,該各熱交換器に対し所定高さ上方位置に配置された1つの熱源側熱交換器とを備え,これら熱源側熱交換器と利用側熱交換器とを,それぞれ冷媒配管により閉ループ状に連結し,前記熱源側熱交換器で凝縮された液冷媒を,高低差を利用して,前記各利用側熱交換器に供給し,この各利用側熱交換器で蒸発させることにより室内を冷却し,また該各利用側熱交換器で蒸発されたガス冷媒を前記熱源側熱交換器に還流させ,つまり前記各利用側熱交換器と熱源側熱交換器との間で冷媒を自然循環させることにより,前記室内の冷却運転を行うようにしたものである。」(1頁右下欄1ないし16行)

b 「また加熱運転を行う場合には,前記電磁切換弁(V)を閉鎖状態に保持して,前記冷媒ポンプ(P)を作動させることにより,同図の実線矢印で示したごとく,前記各利用側熱交換器(1)で凝縮された液冷媒が前記熱源側熱交換器(2)に強制的に供給され,該熱源側熱交換器(2)で前記液冷媒が蒸発されてガス冷媒となり,このガス冷媒が前記各利用側熱交換器(1)に供給されて室内の加熱が行われ,斯くのごとく前記利用側熱交換器(1)と熱源側熱交換器(2)との間で冷媒が強制循環されて,室内の加熱運転が行われるのである。

(発明が解決しようとする問題点)

ところで以上のごとき構成では,空気調和機のヒートポンプ運転を可能ならしめるために,冷媒ポンプ(P)や電磁切換弁(V)などを必要とし,つまり可動部品を別途設ける必要があって,信頼性が低下するだけではなく,全体構造が複雑となるなどの問題が発生するのである。

本発明は以上のごとき問題に鑑みて成したもので,その目的は,冷媒ポンプなどの可動部品を使用することなく,利用側熱交換器と熱源側熱交換器との間で冷媒を自然循環可能となすことにより,全体構造が簡単で信頼性の高いヒートポンプ運転可能な空気調和機を提供することにある。」(2頁右上欄11行ないし左下欄16行)

(エ) 乙11文献には,次のとおりの記載がある。

a 「【従来の技術】従来,冷凍サイクルにより冷却した冷却水を冷媒として配管を循環させることにより冷房を行う冷房設備があった。この冷房装置では,冷却水を循環させるためにポンプが必要になる。特に,ビル空調においては,数mから十数mといった高さの配管中に冷却水を循環させることが必要になり,それに要する動力はかなりのものである。

【0003】自然循環ループを用いた冷房装置はこの動力を省力するものである。図3は,従来の自然循環ループを用いた冷房装置における冷凍サイクルの構成を示す模式図である。ここでいう自然循環ループは2相サーマルループとも呼ばれ,いわばループ式ヒートパイプであり,冷媒液が冷媒ガスとなる際の気化熱を被冷却部から吸収する冷却器2と,冷媒ガスを冷却し液化凝縮して冷媒液とする熱交換器4とを,ガス配管6と液配管8とで接続して形成される冷媒の循環経路をいう。このループ中における冷媒の自然循環は,熱交換器4を冷却器2より高所に配置し,ガス配管6中の冷媒ガスと液配管8中の冷媒液との比重差により冷媒液を流下し,冷媒ガスを上昇させることにより行われる。」(2頁1欄27ないし46行)

b 「【0004】冷房装置が使用される状況では,熱交換器4が配置される側は冷却器2が配置される側より通常,温度が高い。それで蒸気圧縮冷凍サイクルにおいては,冷媒ガスを断熱圧縮により凝縮器の外気より高温にすることにより冷媒ガスから放熱させているが,これに対し上述のように自然循環ループは圧縮機を有していない。」(2頁1欄49行ないし2欄4行)

(オ) 乙12文献には,次のとおりの記載がある。

「【0006】この蒸気圧縮冷凍サイクルに併用されている自然循環ループは,凝縮器4を蒸発器6より所定の高位置に配置するとともに,圧縮機2をバイパス管30でバイパスすることにより実現される。バイパス管30には冷媒流路切換弁32が設けられて,これを閉じている場合には,この装置は上述した蒸気圧縮冷凍サイクルであるが,圧縮機2を停止し冷媒流路切換弁32を開くと,自然循環ループとなる。蒸発器6と凝縮器4とはガス配管8とバイパス管30とにより直接接続され,凝縮器4に流入した冷媒ガスは外気へ放熱し凝縮し,冷媒液となって流れ出る。つまり凝縮器4は冷媒ガスの吸収源であり,蒸発器6は冷媒ガスの発生源であるので,冷媒ガスの圧力は蒸発器6側で高く凝縮器4側で低くなる。よってガス配管8内には冷媒ガスの圧力勾配が生じ,比重の軽い冷媒ガスは蒸発器6から凝縮器4に上昇する。一方,凝縮器4から流れ出た冷媒液は膨張弁12側に流下する。膨張弁12の上には液配管10が位置するので,流下した冷媒液はこの液配管10に貯められる。蓄積した冷媒液は,自重による圧力によって膨張弁12から噴出し,蒸発器6に流入する。すなわち,圧縮機2を駆動しなくても,冷媒はガス配管8を上昇し液配管10を下降し,冷房装置内を循環する。」(2頁2欄46行ないし3頁3欄17行)

(カ) 乙13文献には,次のとおりの記載がある。

「本発明に係る冷却システムは,フロン等で構成された冷媒の相変化と重力の作用により,外部動力を用いずに冷媒を自然循環させて熱輸送を行う。」(3頁3欄36ないし38行)

(キ) 構成要件Cの「自然循環」の技術的意義は,特許請求の範囲の記載及び本件明細書において明確に定義されているものではないが,上記(ア)によれば,本件発明1における「自然循環」とは,本件明細書において,二酸化炭素などの媒体について,気体又は液体の相変化と液体時の液ヘッド差(高低差)を利用して循環を行い,圧縮機を組み込む必要のないものを意味していると認められる。

このことは,「自然循環」について,原告らが,圧縮機やポンプを用いずに定常時に自然に循環するものをいうと述べ(第3回弁論準備手続調書),被告及び被告補助参加人が,圧縮機やポンプの作用によらずに冷媒の循環が完了するものと主張することと合致するものであるし,本件発明1と同様に冷媒を自然循環させる冷却装置に関する乙2及び乙10ないし13文献における,上記(イ)ないし(カ)の各記載とも,実質的に一致するものであると認められる。

(ク) 被告及び被告補助参加人は,構成要件Cの「自然循環」とは,冷媒が蒸発器で完全に蒸発した状態でカスケードコンデンサに直接還流する循環方式のみを意味し,冷媒の相当の部分が蒸発器で気化せず,気液混相流となって還流する循環方式は,「自然循環」には当たらないと主張する。

しかし,上記(ア)の本件明細書の記載には,被告及び被告補助参加人が主張するように,冷媒が蒸発器で完全に蒸発することを示す記載はなく,本件明細書の他の部分にも,そのような記載はない。また,乙2文献及び乙10文献ないし乙13文献の上記(イ)ないし(カ)の各記載にも,冷媒が蒸発器で完全に蒸発することを示す記載はなく,これらの文献の他の部分にも,そのような記載はない。そうすると,被告及び被告補助参加人が主張するように,カスケードコンデンサに液化冷媒が直接流入すると凝縮機能が阻害されるから,カスケードコンデンサに気液混相流が流入する構成が技術的に不合理であるといえるかどうかはともかく,本件発明1の構成要件Cの「自然循環」が,冷媒が蒸発器で完全に蒸発した状態でカスケードコンデンサに直接還流する循環方式のみを意味すると解すべき合理的な根拠はない。

したがって,被告及び被告補助参加人の上記主張は,採用することができない。

イ 構成要件Cと被告装置の炭酸ガスサイクルにおける冷媒循環との対比

被告装置の炭酸ガスサイクルにおける冷媒循環は,上記第2の1(4)イcのとおりである。これによれば,液化されてCO2レシーバタンクに貯留された液相二酸化炭素が,蒸発器を通過して同CO2レシーバタンクに戻るまでの循環方法は,まず,CO2液ポンプの吐出力により,液相二酸化炭素が,同CO2レシーバタンク内の液相二酸化炭素の液面よりも高く立ち上げられた立上げ部を経由してから,給液管を流下し,流量調整弁を経由して,上記CO2レシーバタンクよりも下に配置されたスパイラルクーラ(蒸発器)に流入し,一部が気化した気液混合相となり,該気液混合相の二酸化炭素として戻り管を通過して上記CO2レシーバタンクに戻るというものである。

そして,被告装置においては,装置起動時のみならず,装置の定常運転時においても,上記CO2液ポンプを停止させる場合には,装置の運転が停止し,循環も直ちに停止するものである。すなわち,被告装置においては,給液管が,CO2レシーバタンクの下に設けられたCO2液ポンプから,蒸発器に向かうまでの間において,CO2レシーバタンクの液相二酸化炭素の液面よりも高く立ち上げられた立上げ部が設けられ,また,同立上げ部の頂部からCO2レシーバタンク内の気相部分に連通する,連通管が設けられている。このような構成においては,CO2液ポンプによる送出を停止すると,CO2レシーバタンクの上部にある気相の二酸化炭素が連通管を通じて給液管立上げ部に流入して液流を遮断し,連通管の接続部から液流れ方向上流側の立上げ部にある液相二酸化炭素は,CO2レシーバタンクの液面レベルで気相と釣り合うことにより,循環が停止するのである。

そうすると,被告装置における冷媒循環は,定常時の運転においても,CO2液ポンプによる送出の作用がなければ停止し,完了しないのであるから,前記の「自然循環」の意義に該当しない。

ウ 給液管立上げ部及び連通管の構成の有用性に関する原告らの主張について

被告装置において,上記イのとおり,CO2液ポンプを停止すると冷媒循環も停止することについて,原告らは,本来,自然循環が可能であるにもかかわらず,技術的に不要な部分を付加し,その付加した構成から生ずる損失を補完するために液ポンプを設けているにすぎず,無用又は不利な構成を付加して全体としての実用価値ないし技術的価値を低下させる迂回技術にすぎない旨主張する。

しかしながら,まず,被告装置に設けられたCO2液ポンプは,15mの揚程で80l/min(15mH×80l/min)の吐出能力を有し(乙9の1,9の2),上記給液管立上げ部及び連通管の付加に伴う圧力損失として計算される数値である,2.5mH×84.8l/min(弁論の全趣旨)よりも大きい吐出能力があるところ,実用に供されている装置に,必要とされる能力をはるかに上回る能力を有する構成機器を設けることは,通常,考え難いことからすれば(被告及び被告補助参加人も,実際には圧力損失を補う以上の吐出容量で運転している旨主張する。),被告装置の上記ポンプも,上記吐出能力の数値レベル程度で稼動されているものと推認される。そうすると,被告装置の上記ポンプは,給液管立上げ部及び連通管の付加に伴う圧力損失を補完するためだけの目的で設けられていると認めることはできない。

そして,被告及び被告補助参加人は,被告装置にCO2液ポンプを設けることによって,二酸化炭素を高速大量に強制循環させてクーラの冷却能力を高めるとともに,給液管立上げ部及び連通管を設けることによって,冷媒の流量を調整し,必要に応じた運転負荷の自由な調整を可能としている旨主張し,さらに,クーラのデフロスト及び洗浄作業の際の,クーラ部の温度上昇に伴う液相二酸化炭素の爆発的気化による危険を防止するため,被告装置運転停止時に,炭酸ガスサイクル内の液相二酸化炭素を確実かつ完全にCO2レシーバタンクに回収するという技術的要請があるところ,被告装置における上記構成は,この要請を充足させるものである旨主張する。

被告及び被告補助参加人が主張する,被告装置におけるCO2液ポンプの設置の意義並びに給液管立上げ部及び連通管の構成の有用性は,技術的にみて合理的なものであると解され,上記構成が無用又は不利なものであって,被告装置全体としての実用価値ないし技術的価値を低下させることが当業者にとって自明であると認めるに足りる証拠はない。

原告らは,被告装置におけるCO2液ポンプ,給液管立上げ部及び連通管の構成は,冷凍効率を向上させることはなく,ポンプ動力やそれによる熱負荷の弊害があり,また,運転停止時の液冷媒の全量回収に際してエネルギーの無駄遣いとなる旨主張するが,同主張を裏付ける証拠はなく,上記説示に照らして,この主張が採用できないことは明らかである。

したがって,被告装置においてCO2液ポンプを設置し,給液管立上げ部及び連通管を設けて,ポンプによる吐出作用を欠く状態では冷媒循環が実現されない構成を採用していることは,それが本件発明1の迂回技術と認められないだけでなく,本件発明1の構成要件Cの「自然循環を行うようにしたこと」と同視できるものではないし,同視されるべき事情を認めることもできないから,原告らの上記主張は,採用することができない。

エ 小括

したがって,被告装置の構成は,本件発明1の構成要件Cを充足せず,被告装置は,本件発明1の技術的範囲に属しない。

(2) 本件発明5と被告装置との対比

本件発明5は,上記第2の1(1)のとおり,本件発明1に従属するものであるから,上記(1)における検討は,本件発明5についても同様に該当し,被告装置の構成は,本件発明5の,本件発明1を引用している構成要件Fを充足しない。

したがって,被告装置は,本件発明5の技術的範囲に属しない。

(3) 訂正請求後の本件発明1及び2と被告装置との対比

なお,訂正請求後の本件発明1及び2と被告装置との対比について検討すると,訂正請求後の本件発明1及び2は,上記第2の1(6)アのとおりであり,その構成要件の分説は,同(7)のとおりである。

訂正請求後の本件発明1の構成要件E’の,「自然循環させるようにし」との構成は,本件発明1の構成要件Cの「自然循環を行うようにしたこと」と異なるものではないから,上記(1)で検討したとおり,被告装置の構成は,訂正請求後の本件発明1の構成要件E’を充足しない。

また,訂正請求後の本件発明2は,訂正請求後の本件発明1に従属するものであるから,上記検討は,訂正請求後の本件発明2についても同様に該当し,被告装置の構成は,訂正請求後の本件発明2の,訂正請求後の本件発明1を引用している構成要件H’を充足しない。

したがって,被告装置は,訂正請求後の本件発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しない。

(4) まとめ

上記(1)ないし(3)のとおり,被告装置は,本件発明1及び5並びに訂正請求後の本件発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しない。

2  そうすると,他の点を論ずるまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないことになる。

第4結論

以上の次第で,原告らの請求は,いずれも理由がないのでこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 山田真紀)

裁判官東崎賢治は,転補のため,署名押印することができない。裁判長裁判官 清水節

別紙被告装置説明書

1 概要

被告装置は,「アンモニアサイクルと炭酸ガスサイクルとを組み合わせたヒートポンプシステム」であり,末尾の図面(被告装置のシステム概念図)に示され,第2項記載の構成を有する。

2 被告装置の構成の説明

(1) アンモニアを媒体としたアンモニアサイクル(図面の黄色で示すサイクル)と,二酸化炭素を媒体とした炭酸ガスサイクル(図面の青色で示すサイクル)とを組み合わせ,冷却を行うヒートポンプシステムである。

(2) アンモニアサイクルは,圧縮機と,エバポレーターコンデンサと,膨張弁と,アンモニアレシーバタンクとからなっており,カスケードコンデンサ2を通って循環するように配管されている。

(3) 炭酸ガスサイクルは,CO2レシーバタンク1と,カスケードコンデンサ2と,CO2液ポンプ3と,流量調整弁(電磁弁)6と,スパイラルクーラ(蒸発器)7とこれらの間に接続された配管(給液管4,戻り管8及び連通管5)を備え,該配管のうち,CO2レシーバタンク1から流量調整弁(電磁弁)6及びスパイラルクーラ7へ液相の二酸化炭素を供給する給液管4には,CO2レシーバタンク1内の液相二酸化炭素の液面よりも高く立ち上げられた立上げ部が設けられており,該立上げ部の頂部には前記CO2レシーバタンク1の上部に連通する連通管5(赤色で示す)が接続されている。また,スパイラルクーラ7からCO2レシーバタンク1へ気液混合相の二酸化炭素を戻す戻り管8には圧縮機は組み込まれていない。

そして前記炭酸ガスサイクルは,CO2レシーバタンク1から供給される気相の二酸化炭素がカスケードコンデンサ2において前記アンモニアサイクルとの熱交換により凝縮液化されて前記CO2レシーバタンク1に戻る凝縮サイクルと,

前記CO2レシーバタンク1に貯留された液相二酸化炭素の大部分が,前記CO2レシーバタンク1よりも下に設けられたCO2液ポンプ3の吐出力(圧力)によって,前記CO2レシーバタンク1内の液相二酸化炭素の液面よりも高く立ち上げられた立上げ部を経由して給液管4を通過し,流量調整弁6から前記CO2レシーバタンク1よりも下に配置されたスパイラルクーラ7に流入し,該クーラ7内での負荷との熱交換により液相二酸化炭素の一部が気化した気液混合相となった二酸化炭素媒体が,戻り管8より前記CO2レシーバタンク1に戻る冷却サイクルと,

前記CO2液ポンプ3から吐出された液相二酸化炭素の一部が立上げ部の頂部より前記連通管5を経由して前記CO2レシーバタンク1に還流する部分還流サイクルと,から成っている。

図1(システム概念図)

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