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東京地方裁判所 平成17年(ワ)12826号 判決 2006年8月28日

第一事件原告・第二事件被告

X物流株式会社

第一事件被告

Y1

第二事件被告

Y2

第一事件被告・第二事件原告

八王子市

主文

一(1)  第一事件被告八王子市は、第一事件原告に対し、二一〇万一四一九円及び内金一九一万一四一九円に対する平成一六年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  第一事件原告の第一事件被告八王子市に対するその余の請求及び第一事件被告Y1に対する請求をいずれも棄却する。

(3)  第一事件の訴訟費用は、これを二分し、その一を第一事件原告の負担とし、その余を第一事件被告八王子市の負担とする。

(4)  この判決は、上記一(1)項に限り、仮に執行することができる。

二(1)  第二事件被告らは、第二事件原告に対し、連帯して、五一万五六四二円及びこれに対する平成一六年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  第二事件原告のその余の請求を棄却する。

(3)  第二事件の訴訟費用は、これを十分し、その七を第二事件原告の負担とし、その余を第二事件被告らの負担とする。

(4)  この判決は、上記二(1)項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

(1)  第一事件被告らは、第一事件原告に対し、連帯して、三九四万四九一二円及び内金三五九万四九一二円に対する平成一六年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は第一事件被告らの負担とする。

二  第二事件

(1)  第二事件被告らは、第二事件原告に対し、連帯して、一七〇万二一四〇円及びこれに対する平成一六年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は第二事件被告らの負担とする。

第二事案の概要

本件は、第一事件原告兼第二事件被告X物流株式会社(以下「X物流」という。)及び第一事件被告兼第二事件原告八王子市(以下「八王子市」という。)が、それぞれ、別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)により損害を被ったとして、相互に、相手方及び相手方車両の運転者に対し、その賠償を請求する事案である。

すなわち、第一事件は、X物流が、相手方車両(清掃車)の運転者である第一事件被告Y1及びその使用者である八王子市に対し、Y1については民法七〇九条に基づき、八王子市については民法七一五条又は国家賠償法(以下「国賠法」という。)一条一項に基づき、本件事故により被った物的損害の賠償を請求する事案であり、第二事件は、八王子市が、相手方車両(X車)の運転者である第二事件被告Y2及びその使用者であるX物流に対し、Y2については民法七〇九条に基づき、X物流については民法七一五条に基づき、本件事故により被った物的損害の賠償を請求する事案である。

一  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる。

(1)  本件事故の発生等

別紙交通事故目録記載のとおり、本件事故が発生した(甲一)。

Y1は八王子市に勤務し清掃事務を担当する公務員であり、本件事故はY1が八王子市の清掃事務に従事している際に発生した。また、本件事故はY2がX物流の業務に従事している際に発生した。

(2)  損害

X物流は、本件事故により、少なくとも、X車のレッカー費用一〇万五〇〇〇円及びX車の修理費用二五七万四六〇〇円の合計二六七万九六〇〇円の損害を被った(甲三)。

八王子市は、本件事故により、清掃車のレッカー費用一一万二一四〇円及び清掃車の時価額一四四万円の合計一五五万二一四〇円の損害を被った(乙七、八)。

二  争点

(1)  八王子市が行う清掃事務は国賠法一条一項の公権力の行使に当たるか(Y1の損害賠償責任の有無)

(2)  X物流の休車損害

(3)  Y1及びY2の過失並びに過失割合

三  主張

(1)  八王子市が行う清掃事務は国賠法一条一項の公権力の行使に当たるか(Y1の損害賠償責任の有無)

ア X物流の主張

国賠法一条一項の公権力の行使とは国家統治権に基づく優越的意思の発動である権力的作用をいうが、清掃事務はこれに当たらないから、本件事故に国賠法一条一項の適用はなく、民法七〇九条、七一五条が適用される。

仮に、清掃事務が公権力の行使に当たり、本件事故に国賠法一条一項が適用されるとしても、公務員個人が免責されるものではなく、Y1は民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。

イ 八王子市及びY1の主張

廃棄物の処理及び清掃に関する法律六条の二は、一般廃棄物の収集、運搬及び処分を八王子市の義務としており、また、八王子市廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例二五条は、家庭廃棄物については、八王子市長が収集、運搬及び処分を行うものとしており、八王子市が行う清掃事務は非権力的作用として国賠法一条一項の公権力の行使に当たるから、本件事故には国賠法一条一項が適用される。

そして、本件事故に国賠法一条一項が適用される以上、Y1は損害賠償責任を負わない。

(2)  X物流の休車損害

ア X物流の主張

X車が本件事故により修理を要したため、Y2は本件事故日である平成一六年六月二三日から同年七月二三日までの三一日間稼働できず、その得べかりし利益は少なくとも日額二万九五二六円であるから、X物流は、本件事故により、合計九一万五三一二円の休車損害を被った。

イ 八王子市及びY1の認否・反論

争う。

なお、仮にX物流の休車損害が認められるとしても、Y2が稼働できないことにより、X物流は、Y2に対する人件費、とりわけ休日手当、出張手当、調整手当及び時間外手当の変動経費の支払を免れるのであるから、これらを控除すべきである。

(3)  Y1及びY2の過失並びに過失割合

ア X物流及びY2の主張・認否

Y1には、路外から左折して国道一六号線に進入する際、同道路を走行する車両の有無動向の確認を怠ったことにより、間近に迫っているX車の存在を認識しないまま、漫然とその直前に進入した過失がある。

本件事故についてY2に過失があることは否認する。

本件事故は路外から進入する車両が道路上を直進する車両に衝突した事故であり、Y1に上記過失があることに加え、本件事故現場が幹線道路であることを考慮すると、本件事故の全責任はY1にある。

イ 八王子市及びY1の主張・認否

Y2には、法定速度超過、適切な進路変更の合図を出さなかったこと及び前方不注意の過失がある。

本件事故についてY1に過失があることは否認する。

本件事故は進路変更車両が直進する先行車両に追突した事故であり、Y2に上記の過失があるのに対し、Y1は路外でいったん停止して右方の安全を確認し、走行する車両の妨げにならない形で左折して第一車線に進入し、左折を完了して直進状態になったところでX車に衝突されたのであるから、本件事故の全責任はY2にある。

第三判断

一  八王子市が行う清掃事務は国賠法一条一項の公権力の行使に当たるか(Y1の損害賠償責任の有無)

国賠法一条一項の公権力の行使とは、国又は公共団体の作用のうち、純然たる私経済作用と国賠法二条が規定する公の営造物の設置管理作用を除くすべての作用をいい、権力的作用のみならず、非権力的作用も含まれると解するのが相当である。

清掃事務が、権力的作用又は公の営造物の設置管理作用に当たらないことは明らかであるから、非権力的作用又は純然たる私経済作用のいずれに当たるかが問題となる。

そこで検討するに、廃棄物の処理及び清掃に関する法律六条の二第一項(乙一〇)は、市町村は一般廃棄物を収集し、運搬し及び処分しなければならないと規定し、また、八王子市廃棄物の処理及び再利用の促進に関する条例二五条(乙一一)は、市長は自らの責任で家庭廃棄物を収集し、運搬し及び処分しなければならないと規定する。このように、八王子市が行う清掃事務は、法律及び条例により八王子市(長)の義務とされており、その費用は税金によって賄われ、受益者との間の対価的契約関係に基づくものではない。

以上によれば、八王子市が行う清掃事務は、純然たる私経済作用とはいえず、非権力的作用として国賠法一条一項の公権力の行使に当たると解するのが相当である。

そして、公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責任に任じ、公務員個人はその責任を負わないと解するのが相当である(最高裁判所昭和五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号一三六七頁)。

したがって、X物流のY1に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

二  X物流の休車損害

証拠(甲六の一、六の二)及び弁論の全趣旨によれば、X車が本件事故により修理を要したためY2が稼働できなかったのは、平成一六年六月二四日及び同月二五日の二日間であることが認められる。

そして、証拠(甲四)及び弁論の全趣旨によれば、X物流は、X車が稼働できなかったことにより、日額二万八八八四円(小数点以下四捨五入)の利益を得ることができなかったと認められる。

(計算式)

{(1,144,533-165,340)+(997,480-140,290)+(982,701-161,725)}÷92=28,884.3…

他方、証拠(甲七)及び弁論の全趣旨によれば、X物流は、Y2が稼働できなかったことにより、Y2の休日手当、出張手当、調整手当及び時間外手当の日額合計三三八五円(小数点以下四捨五入)の支払を免れたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。

(計算式)

{(26,084+30,000+13,550+42,522)+(13,042+45,000+12,325+50,355)+(13,042+15,000+6,900+43,641)}÷92=3,385.4…

以上によれば、本件事故によりX物流が被った休車損害は、合計五万〇九九八円と認められる。

(計算式)

(28,884-3,385)×2=50,998

三  Y1及びY2の過失並びに過失割合

(1)  Y1及びY2の過失

証拠(甲二、乙九、Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、Y1は、国道一六号線に進入するため路外に待機している際に、第二車線を走行してくるX車の存在を認識し、その時点で同車が進路変更の合図を出していないことは確認したものの、その後、実際に左折して進入する際には右方を確認せず、見切りが早かったことが認められるから、Y1には本件事故について違法性及び過失が認められる。

他方、証拠(甲二、八、乙三、九、Y1本人、Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば、Y2は、第二車線から第一車線へ車線変更をする際に、左方への進路変更の合図を出したものの、車線変更までに十分な時間的余裕をもって出したものではなく、また、車線変更中、後方の車両の動向やはるか前方に設置された中央自動車道入口を示す案内板に気を取られたため、第一車線前方に対する注意が必ずしも十分ではなかったことが認められるから、Y2には本件事故について過失が認められる。

(2)  過失割合

本件事故態様について、X物流及びY2は、路外から進入する車両が道路上を直進する車両に衝突した事故であると主張するのに対し、八王子市及びY1は、進路変更車両が直進する先行車両に追突した事故であると主張する。

そこで検討するに、証拠(甲二、乙二、三、Y1本人、Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故は、X車の左前角部分が清掃車の右側運転席ドア部分に右斜め後方四時ないし五時の方向から衝突したものであり、衝突の衝撃も相当大きかったことが認められ、また、X車が清掃車と衝突した後に印象したスリップ痕は、左側が第一車線中央付近から、右側が第一車線と第二車線の境界線付近からそれぞれ発生し斜め右方向に向かっていることが認められるから、衝突時には、X車の右側車輪も第一車線内に入っており、X車の車線変更は完了に近い状態にあったものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。

これらの事実に照らすと、衝突時、清掃車は左折を完了していたとはいえず、未だ直進状態にはなかったと認めるのが相当であり、これに反する八王子市及びY1の上記主張は採用できない。

このように、本件事故は路外から進入する車両と道路上を走行する車両が衝突した事故と認められ、一般に、路外から進入する車両の運転者の注意義務は、道路上を走行する車両の運転者の注意義務より重いと解される。これに加えて、本件では、証拠(甲二、八、乙三、九、Y1本人、Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば、事故現場は交通量の多い幹線道路であり、車線変更をする車両が多く、このことをY1も認識していたこと、Y1は、X車が進路変更の合図を出していないことを確認したものの、その後、実際に左折して進入する際には右方を確認せず、見切りが早かったことなどの事情が認められ、他方、本件事故はX車が車線変更をした際に発生したものであること、Y2の進路変更の合図が遅れたため、Y1はこれを認識できなかったこと、Y2は、車線変更中、第一車線前方に対する注意が必ずしも十分でなかったことなどの事情が認められる。

以上の諸事情を総合勘案すれば、本件事故における過失割合は、Y1が七〇パーセント、Y2が三〇パーセントと認めるのが相当である。

四  第一事件のまとめ

前記のとおり、X物流は、本件事故により、X車のレッカー費用一〇万五〇〇〇円、X車の修理費用二五七万四六〇〇円及び休車損害五万〇九九八円の合計二七三万〇五九八円の損害を被ったことが認められる。

そして、前記のとおり、本件事故における過失割合は、Y1が七〇パーセント、Y2が三〇パーセントと認められるから、X物流が八王子市に対して請求できる金額は、上記二七三万〇五九八円の七〇パーセントである一九一万一四一九円(小数点以下四捨五入)となる。

また、第一事件の難易、請求額、認容額等を斟酌すれば、第一事件の弁護士費用は一九万円と認めるのが相当である。

以上によれば、X物流は、八王子市に対し、国賠法一条一項に基づき、本件事故による損害賠償請求として、二一〇万一四一九円及び内金一九一万一四一九円に対する本件事故日である平成一六年六月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

五  第二事件のまとめ

前記のとおり、八王子市は、本件事故により、清掃車のレッカー費用一一万二一四〇円及び清掃車の時価額一四四万円の合計一五五万二一四〇円の損害を被ったことが認められる。

そして、前記のとおり、本件事故における過失割合は、Y1が七〇パーセント、Y2が三〇パーセントと認められるから、八王子市が、X物流及びY2に対して請求できる金額は、上記一五五万二一四〇円の三〇パーセントである四六万五六四二円となる。

また、第二事件の難易、請求額、認容額等を斟酌すれば、第二事件の弁護士費用は五万円と認めるのが相当である。

以上によれば、八王子市は、Y2及びX物流の各自に対し、Y2については民法七〇九条に基づき、X物流については民法七一五条に基づき、本件事故による損害賠償請求として、五一万五六四二円及びこれに対する本件事故日である平成一六年六月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

第四結論

以上の次第で、第一事件については、X物流の八王子市に対する請求は、主文一(1)の限度で理由があるからこの限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、X物流のY1に対する請求は理由がないから棄却することとする。

また、第二事件については、八王子市のX物流及びY2に対する請求は、主文二(1)の限度で理由があるからこの限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

よって、主文のとおり、判決する。

(裁判官 中園浩一郎)

交通事故目録

日時 平成一六年六月二三日午前九時四〇分ころ

場所 東京都八王子市左入町一五〇番地国道一六号線上

X車 大型貨物自動車(車両番号・<省略>)

同所有者 第一事件原告兼第二事件被告X物流株式会社

同運転者 第二事件被告Y2

清掃車 普通貨物自動車(車両番号・<省略>)

同所有者 第一事件被告兼第二事件原告八王子市

同運転者 第一事件被告Y1

態様 国道一六号線を北方から南方に走行中第二車線から第一車線に車線変更をしたX車と国道一六号線の東方路外から南方に左折して第一車線に進入した清掃車が衝突した。

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