東京地方裁判所 平成17年(ワ)16369号 判決 2006年3月13日
原告
X
被告
Y1
ほか一名
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して、金九四六五万七五〇三円及びこれに対する平成一四年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、信号機により交通整理の行われている交差点における多重事故に関し、多重事故の当事者車両の一つを運転していた原告が、他の当事者車両を運転していた被告らに対し、民法七〇九条に基づき、損害の賠償を求めるものである。
一 前提となる事実(証拠を掲げた以外の事実は当事者間に争いがない。)
(1) 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
日時 平成一四年一月一七日午前一時二五分ころ
場所 東京都足立区一ツ家三丁目一番地先交差点(以下「本件交差点」という。)
当事者車両一 自家用普通貨物自動車(<番号省略>)(以下「原告車両」という。)
同運転者 原告
当事者車両二 自家用普通貨物自動車(<番号省略>)(以下「Y1車両」という。)
同運転者 被告Y1
当事者車両三 事業用普通乗用自動車(<番号省略>)(以下「Y2車両」という。)
同運転者 被告Y2
当事者車両四 自家用普通乗用自動車(<番号省略>)(以下「A車両」という。)
同運転者 A
当事者車両五 事業用普通乗用自動車(<番号省略>)(以下「B車両」という。)
同運転者 B
態様 別紙一図面のとおり、A車両が赤信号を無視して本件交差点に花畑方面から五反田方面に向けて進入したところ(A車両が走行してきた道路を以下「本件交差道路」という。)、交差する環七通り(指定最高速度時速五〇キロメートル。以下「本件道路」という。)を西新井方面から亀有方面に向けて青色信号表示に従って進行していたY1車両と衝突した。Y1車両は、その衝撃により左回りに回転し始めたところ、同様に環七通りを西新井方面から亀有方面に向けて進行していたB車両がY1車両に追突し、Y1車両はさらに左回りに回転し、車両後部が反対車線にはみ出した。そこへ、原告車両が環七通りを亀有方面から西新井方面に向けて進行してきたので、原告車両とY1車両が衝突した。衝突後、原告車両は反対車線に飛び出し、環七通りを西新井方面から亀有方面に向けて進行し又は停止していたY2車両と衝突した(衝突時、Y2車両が停止していたか否かについては、後記のとおり争いがある。)。
二 争点
(1) 被告Y1の過失の有無
(2) 被告Y2の過失の有無
(3) 本件事故により原告に生じた損害
三 争点に関する当事者の主張
(1) 争点一(被告Y1の過失の有無)について
【原告の主張】
Y1車両は青色信号表示に従って走行していたとはいえ、深夜でもあり、本件交差道路から信号を無視して交差点に進入する車両がないとは断言できないこと、Y1車両が大型の貨物車で危険度の高い車であることからして、被告Y1には、速度を落とし、本件交差道路の安全を確認して進行すべき業務上特段の注意義務があった。
また、深夜であり、かつ環七通りの中央車線を走行しており、Y1車両からみて本件交差点左角は中古車センターの駐車場があり見とおしのきく場所であったのであるから、A車両の接近をその前照灯により早いうちから容易に確認できたものであり、現に、Y1車両の後方を進行していた被告Y2はA車両の存在、走行、マフラー音を容易に認知していた。被告Y1は、Y2車両よりも運転席の位置が高いのであるから被告Y2と同程度の注意をしていればより近くより早くにA車両の異常な走行を認知し得ていなければならない。しかるに、被告Y1は、漫然対面信号の青色表示にのみ気をとられ、A車両に全く気付くことなく進行し、衝突まで何らの事故回避措置も損害拡大防止措置もとらず、本件事故の第一原因となる危険を発生させたものであり、その過失責任は極めて重大である。
【被告Y1の主張】
A車両がY1車両に衝突した時点で、Y1車両の運転席は交差点の出口付近まで進行していたこと、全長八・四七メートルのY1車両のうち、荷台左側面後部にA車両が衝突したこと、Y1車両の速度が時速四〇キロメートルないし五〇キロメートルであったのに対し、A車両は時速六〇キロメートルないし七〇キロメートルであったことからして、Y1車両はA車両より先に本件交差点に進入し、かつ交差点出口に差しかかっていたものであり、衝突の前に被告Y1がA車両を発見し衝突を回避することは不可能であった。また、Y1車両からみてA車両は左横(衝突時は左後方)に位置しており、Y1車両の運転席は右側にあることから、たとえ後続車両がA車両を発見できたとしても、被告Y1の認識可能性には結びつかない。
さらに、Y1車両右方向の交差道路(本件交差点から五反田方面に向かう、本件交差道路とは反対側にある道路。以下「本件反対側交差道路」という。)は進入禁止となっているから、Y1車両からみて、本件交差点を左方から右方に直進横断する車両は本来あり得ないものである。にもかかわらずこれを直進横断するという異常行動をとる車両まで予測し行動すべき義務は、被告Y1にはない。
(2) 争点二(被告Y2の過失の有無)について
【原告の主張】
被告Y2は、法定速度を超える時速六〇キロ以上の速度でY1車両及びB車両の後方を進行して本件交差点手前に達し、A車両がY1車両に衝突してから危険を感じ制動措置を講じたが、速度を出しすぎていたこと及び車間距離の不保持(前方で事故が発生した場合に到底停止できない間隔で前車に接近して走行していた)のため、制動効果が出る前に原告車両と激突したものであり、その結果、原告の傷害の重篤化に決定的役割を果たしているのであって、その過失責任は決して軽くない。
なお、原告車両の右側にY1車両が衝突し原告車両の右側に制動がかけられたため、原告車両は、Y1車両と衝突した後、反対車線に飛び出したものである。
【被告Y2の主張】
Y2車両は時速約五〇ないし六〇キロメートルで走行し、本件交差点の手前四二・二メートルでブレーキをかけ、別紙一図面Aの線のところで停止していた。仮に完全な停止には至っていなかったとしても、停止直前であった。
これに対し、原告車両は、指定最高速度を一五キロメートル以上超過する時速六五キロメートル以上の速度で環七通りを進行してきたため、Y1車両と衝突後、反対車線に飛び出してきたものであり、原告の過失こそ大きく、加害者というべきであり、被告Y2は、被害者である。また、Y2車両が停止していた又は停止直前のときに原告車両が飛び出してきたのであるから、Y2車両には左転把する余地すらないし、事故を起こして反対車線にまで進出し異常な前進走行する車両まで予想して車間距離をとる義務もない。結局、原告車両との衝突につき被告Y2には予見可能性はなく、何ら過失はない。
(3) 争点三(本件事故により原告生じた損害)について
【原告の主張】(詳細は別紙二のとおり。)
ア 治療費 三七九万七三三〇円
イ 創外固定器 二四万六七五〇円
ウ 入院雑費 三七万三五〇〇円
エ 交通費 二三万〇二九〇円
オ 駐車料金 二万八八〇〇円
カ 付添看護費 一五〇万〇〇〇〇円
キ 入通院慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円
ク 休業損害 一〇九六万九九一八円
ケ 後遺障害慰謝料 一一八〇万〇〇〇〇円
コ 後遺障害逸失利益 八一一三万六四一五円
サ 車両損害 一四一万八二〇〇円
シ 損害のてん補 二八三二万〇〇〇〇円
ス 弁護士費用 八四七万六三〇〇円
セ 合計 九四六五万七五〇三円
【被告Y1の主張】
不知ないし争う。
【被告Y2の主張】
否認し争う。
第三当裁判所の判断
一 本件事故の態様
以下に掲げる証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。かかる認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 本件道路は車道幅員一七・七メートル(片側三車線)、指定最高速度時速五〇キロメートルであり、本件交差道路は車道幅員七・六メートル(片側一車線)、指定最高速度時速四〇キロメートルである。本件事故当時、これらの路面は乾燥していた。
本件反対側交差道路は、車道幅員は四・九メートルであり、五反田方面から本件交差点に向けた一方通行となっていて、本件交差点からの入口には車両進入禁止の標識が設置されている。
(乙ハ一平成一四年一月一八日付け及び一月三〇日付け実況見分調書(A立会いのもの)、平成一四年一月一九日付けC供述調書)
(2) Aは、本件事故前日である平成一四年一月一六日、Aは午前五時三〇分頃仕事から帰宅したのち、焼酎水割りを五杯飲んでから一眠りをし、午後二時三〇分起床して午後四時過ぎには会社で缶ビール(五〇〇cc)三本を飲み、さらに、運転中トイレのため公園に立ち寄った際に車内で再び缶ビール(三五〇cc)を一本のみ、車内で仮眠をとった。Aは、その後起きた際、のどが渇いていたのでビールを飲もうと思い、会社近くのセブンイレブンでビールを購入すべくA車両を運転して本件交差道路を時速四〇キロメートルから五〇キロメートルで走っていた。Aは、本件交差点の二つ手前の交差点を過ぎた後加速し、時速六〇キロメートルないし七〇キロメートルで進行した。酒酔いのため眼がぼーっとし、かすんできたので右手で眼を二回擦り、対面信号が赤色表示であるのに気が付かないまま本件交差点に進入し、前を見た瞬間、Y1車両のボディが視界に入った。その瞬間、A車両は、ブレーキをかける間もなくY1車両のボディ部分と衝突した。
(甲一七、乙ハ一判決書、平成一四年一月三〇日付け実況見分調書(A立会いのもの)、同年一月二八日付け、二月四日付け及び六日付けA供述調書、Y2供述調書、同年一月一九日付け及び二月二日付けC供述調書)
(3) 被告Y1は、時速四〇キロメートルから五〇キロメートルでY1車両を運転して本件道路の第三通行帯を西新井方面から亀有方面に向けて走行していたが、本件交差点の手前で第二通行帯に車線変更した。その際、第一通行帯にも第三通行帯にも車両はなかった。被告Y1は、対面信号の青色表示を確認し、時速四〇キロメートルから五〇キロメートルで本件交差点に進入し、通り抜けようとしたところ、A車両がY1車両の荷台左側面に衝突した。被告Y1は、A車両に衝突されるまで、A車両が接近してきたことを知らなかった。このため、衝突前、Y1車両は対面信号の青色表示に従ってブレーキをかけずに進行していた。
Y1車両は、A車両に衝突された衝撃で左回りに振られたが、その直後に環七通りを西新井方面から進行してきたB車両に追突されたため、さらに左回りに回転し、反対車線にはみ出したところ、本件道路を亀有方面から西新井方面に向けて第二通行帯を時速約六五キロメートルで走行していた原告車両がY1車両の右側面後部に衝突した。この衝突後、原告車両は右前方に進行し、反対車線に飛び出した。
(乙ハ一Y1供述調書、B供述調書、平成一四年一月一九日付け捜査報告書)
(4) 被告Y2は、時速五〇キロメートルから六〇キロメートルでY2車両を運転して本件道路の第三通行帯を西新井方面から亀有方面に向けて走行していたところ、別紙三図面<ア>の地点において、同図面<1>の位置にいて時速六〇キロメートルないし七〇キロメートルで走行中のA車両を発見し、この時点において、危険を感じてブレーキを踏んで減速した。その後、被告Y2は、A車両とY1車両が衝突したのを見てより強く危険を感じ、ブレーキを踏んで停止しようとした。Y2車両が停止する直前、突然右前方から原告車両が進行してきたので、避けられず、Y2車両は原告車両と衝突した。
衝突により、Y2車両はやや左に押され、別紙一図面Aの線とBの線との間辺りの位置に車体をやや左に向けて停止した。原告車両は、別紙図面一Aの線付近に前輪がある位置で右斜めを向いて停止した。一連の衝突後、原告車両の前部は大破したが、Y2車両の前部はほとんど損傷しておらず、その損傷部位は主として右側方であり、しかも、他の車両に比べ、損傷の程度は軽微であった。
なお、被告Y2が別紙三図面<ア>の地点でA車両を発見してからY2車両がA車両と衝突するまで、二秒から三秒であった。
(乙ハ一平成一四年一月一八日付け実況見分調書及び添付の写真二、一二ないし一六、同年一月三〇日付け実況見分調書(被告Y2立会いのもの)、Y2供述調書)
二 争点一(被告Y1の過失の有無)について
(1) 道路を通行する車両は、信号機の表示する信号に従わなければならない(道路交通法七条)から、自動車運転者は、通常、信号機の表示するところに従って自動車を運転すれば足り、信号違反者を予想していちいち徐行して交差道路の車両との安全を確認すべき注意義務はないものと解するのが相当である(最高裁第三小法廷昭和四三年一二月二四日判決・判タ二三〇号二五四頁、同昭和四五年九月二九日決定・判タ二五三号二三三頁等参照)。したがって、対面信号の青色表示に従って交差点を進行する車両に過失が認められるためには、特に減速等して左右の安全を確認するまでもなく、通常の速度で、通常の前方(交差点内ないしそれに近接する場所)に対する注意を払っていれば衝突を回避し得る場合や、交差道路の対面信号の赤色表示を無視して交差道路から交差点に進入しつつある車両を認めながら、漫然進行した場合等の例外的な場合に限られるべきである。
したがって、被告Y1には、速度を落とし、本件交差道路の安全を確認して進行すべき業務上特段の注意義務があった旨の原告の主張は、採用できない。
(2) 被告Y1は、A車両がY1車両に衝突するまでA車両の存在に気が付いておらず、衝突まで何らの事故回避措置も損害拡大防止措置もとっていないことは、当事者間に争いがない。原告は、この点を捉えて被告Y1の過失である旨主張するが、以下に述べるとおり、かかる主張は採用できない。
ア まず、前提として、前記一(3)記載のとおり、被告Y1は、時速四〇キロメートルから五〇キロメートルで本件交差点に進入したものであり、指定最高速度時速が五〇キロメートルであったこと(前記一(1))に照らしても、速度超過の違反はなく、通常の速度で進行していたものと認められる。
イ そもそも、前記一(1)のとおり、本件反対側交差道路は本件交差道路方向からは進入禁止とされており、被告Y1からみて本件交差点を左方から右方に直進横断する車両の存在は、到底予定されていないものであった。しかして、Aは、前記一(2)のとおり、本件事故前、大量に飲酒し、ぼーっと眼がかすむような状態で時速六〇キロメートルないし七〇キロメートルで走行していたものであり、はなはだしく違法な犯罪行為を犯していたのであって、対面信号の青色表示に従って本件道路を直進進行していた被告Y1には、赤信号表示のみならず進入禁止の規制を無視して高速で本件交差点に進入してくる飲酒運転車があることを予期すべき義務はないものと解される。しかも、前記一(3)で認定した衝突部位及びA車両・Y1車両の速度からして、Y1車両がA車両よりも先に本件交差点に進入したことは明らかであるから、なおさらである。
ウ(ア) 被告Y2が別紙図面三の<ア>の地点にいたときに同図面<1>の地点にいたA車両を発見したとすると、少なくともその時点において、Y2車両より前方にいた被告Y1から同図面<1>の地点にいた原告車両を発見可能であったといえる。
(イ) ところで、A車両は時速六〇キロメートルないし七〇キロメートルで走行し、ブレーキをかけずにY1車両と衝突したことからすると、別紙図面三はA車両がY1車両と衝突する一・三秒前ないし一・五秒前の状態を示すものと認められる。他方で、Y1車両は時速四〇キロメートルから五〇キロメートルで進行し、A車両に衝突されるまでブレーキをかけていないから、A車両が別紙図面三<1>の地点にいた時点において、Y1車両は、衝突地点よりも一四・五メートルから一六・九メートル手前(Y1車両が時速四〇キロメートルの場合)又は衝突地点よりも一八・二メートルから二一・二メートル手前(Y1車両が時速五〇キロメートルの場合)にいたものと認められる。
(ウ) Y1車両は本件交差点に入る直前は、本件道路の第二通行帯を走行していたから、車線の幅等を考慮すると、別紙図面<3>の地点は、被告Y1の進行方向直線上から二七・四メートル程度北側に寄った地点であると認められる。また、A車両はY1車両の後部ボディ部分に衝突していることから(前記一(2))、乙ハ一平成一四年一月一八日付け実況見分調書添付の写真に照らしても、衝突部位はY1車両の運転席より少なくとも一メートル以上後方であると認められる。そうすると、前記(イ)で認定したA車両とY1車両との距離関係を併せて考慮すると、A車両が別紙図面三<1>の地点にいた時点で、被告Y1は衝突地点から一三・五メートルないし二〇・二メートル手前にいたと考えられる。その場合、被告Y1の進路方向から見て、A車両は、左に約六〇度ないし約五五度の地点にいたことになる。なお、A車両の方がY1車両より進行速度が速いから、A車両が別紙図面三<1>の地点にいた時点よりも前の時点では、この角度はさらに大きくなる。
そして、A車両の前照灯は、その構造上、その進路に向かって右前方ではなく左前方をより照射するようになっていたと考えられることをも考慮すれば、青信号表示に従って幹線道路を進行していた被告Y1において、このように距離的にも角度的にも離れた左前方の地点にいたA車両を発見しその動静を注視することは、通常要求される注意義務の範囲を超えるものと解される。
(エ) しかも、仮にA車両が別紙図面三<1>の地点にいた時点において被告Y1がA車両を発見したとしても、以下に述べるとおり衝突回避の可能性がなかったものであるから、いずれにせよ、被告Y1には過失は認められない。
すなわち、Y1車両は時速四〇キロメートルから五〇キロメートルで進行していたところ、停止距離は時速四〇キロメートルだと一七・七メートル、時速五〇キロメートルだと二四・九メートルである。これは、前記(イ)で認定したY1車両と衝突地点までの距離よりも長いから、仮に別紙図面三の時点でY1車両がA車両を発見し制動をかけたとしても、衝突は不可避である。むしろ、実際の衝突部位がY1車両の左側面後方であったことからすれば、Y1車両が不用意に制動をかけた場合には、同車両のより中央部が衝突され、被告Y1により重篤な傷害が生じた蓋然性が高いものである。もとより、被告Y1が制動ではなく加速してA車両の前を通り過ぎることやハンドル操作によって衝突を回避することは法的に期待することはできない状態であった。
(3) 以上によれば、被告Y1には、本件事故に関し過失は認められない。
三 争点二(被告Y2の過失の有無)について
(1) 前記一(4)記載のとおり、被告Y2は、時速五〇キロメートルから六〇キロメートルで走行していたものであるから、速度超過はないか、あったとしてもわずかであったものであり、このこと自体をもって、Y2車両と原告車両との衝突につき因果関係を有する被告Y2の過失と評価するに足りる証拠はない。また、Y2車両とその前車との車間距離は、証拠上全く不明であり、被告Y2の車間距離保持義務違反を積極的に基礎付ける証拠は本件記録上、存在しない。
(2) 原告は、Y2車両が衝突前に停止することができず原告車両と衝突している点を捉えて、被告Y2の速度超過及び車間距離不保持の根拠と主張するようである。
しかしながら、前記一(4)記載のとおり、被告Y2は、A車両の接近を見ていったん減速し、さらにA車両とY1車両との衝突を見て停止しようとしたが、Aの無謀な運転により惹起された一連の衝突の結果、指定最高速度を超える時速六五キロメートルで進行してきた原告車両が反対車線に飛び出し、停止する直前のY2車両にぶつかってきたため、回避できず衝突したものである。このような一連の衝突事故の主たる原因は、Aの無謀な運転(飲酒の影響下で時速六〇キロメートルないし七〇キロメートルで運転し、そもそも直進進行できない交差点において赤信号を無視して直進進行しようとした。)と、原告が比較的大型車両ですぐには停止できないにもかかわらず、制限時速を一五キロメートルも超過する時速六五キロメートルで漫然進行してきたことにあると認められるのであって、これらを主要因とし、A車両、Y1車両、B車両、原告車両と次々と衝突し、そのあげくに原告車両が反対車線に飛び出してくるというような事態は極めて異常なものであって、青信号表示に従って進行していた被告Y2には、このような異常な事態を想定して予め速度や車間距離を調節しておく義務があったなどとは認められないと解するのが相当である。
(3) 結局、結果的にY2車両が原告車両と衝突しているからといって、被告Y2に何らかの過失があるものとは認められない。
第四結論
以上よりすれば、原告の請求は、その余の点を検討するまでもなく、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 篠田賢治)
別紙1
<省略>
別紙2
本件交通事故による原告の損害
(1) 治療費 3,797,330円
東京女子医科大学附属第二病院、入院診療費
(H14.1.17―18.28分) 3,498,930円
同 入・通院診療費 290,660円
(H14.9―12分 16,440円 H15分 219,830円 H16分 23,010円 H17分 31,388円)
最晟病院通院分(H14.8―9) 7,740円
(2) 創外固定器(サンコー医科) 246,750円
(3) 入院雑費 373,500円
当初の入院224日と平成15年10月の22週間の入院、平成17年5月の3日間の入院合計249日につき1日1,500円
(4) 交通費 230,290円
当初の入院中の妻の交通費 153,720円
その他の交通費 76,570円
(5) 駐車料金 28,800円
平成14年分 6,000円
平成15年分 18,000円
平成16年分 4,800円
(6) 付添看護料 1,500,000円
妻が入・通院期間中及び退院後の自宅介護に少なくも300日相当の付添看護に衝ったものであり1日5,000円として1,500,000円を下廻ることはない。
(7) 入通院慰謝料 3,000,000円
10回に及ぶ手術、長期間の固定による苦痛は言語に尽せぬものであり、右額を下廻るものではない。
(8) 休業損害 10,969,918円
原告は牛乳運搬業として収入を得ていたが、平成13年度の総収入は年収8,775,935円であったからこれを基礎に事故日から症状固定日まで15カ月分とした額。
(9) 後遺障害慰謝料 11,800,000円
(10) 逸失利益 81,136,415円
年収8,775,935円、労働能力喪失67%、43歳ライプ13.779で計算した額が逸失利益である。
(11) 損害合計 113,083,003円
(12) 損害補填 28,320,000円
自賠責保険から後遺障害分25,920,000円、傷害分2,400,000円
(13) 人身分未補填損害金 84,763,003円
(14) 弁護士費用 8,476,300円
(15) 請求金額 93,239,303円
(16) 車両損害(被告Y1を除く請求)
時価額 1,300,000円
レッカー関連費用 118,200円
(17) 被告Y1以外の被告らに対する請求合計額 94,657,503円