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東京地方裁判所 平成17年(ワ)2065号 判決 2005年8月31日

原告

訴訟代理人弁護士

中山徹

科埜眞義

被告

有限会社光漢堂

訴訟代理人弁護士

小湊收

補佐人弁理士

志村尚司

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,別紙物件目録記載1ないし3の前立腺快癒器(以下,「被告製品」といい,個々の被告製品について「被告製品1」などという。)を製造し,販売してはならない。

2  被告は,被告製品及びその半製品を廃棄せよ。

3  被告は,被告製品を製造するための金型を廃棄せよ。

4  被告は,原告に対し,金1069万5860円及びこれに対する平成17年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,被告製品が原告の意匠権を侵害していると主張して,被告に対し,被告製品の製造販売の差止め並びに被告が有する被告製品,半製品及びその金型の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償及び遅延損害金の支払を求めたのに対し,被告が原告の意匠権には無効理由が存在すると主張して,これを争っている事案である。

1  前提事実

いずれも,当事者間に争いがないか,明らかに争わない事実である。

(1)  原告の意匠権

原告は次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その意匠を「本件意匠」という。)を有する。

意匠に係る物品 前立腺治療器出願年月日   平成11年7月26日出願番号    意願平11-19660号登録年月日   平成13年1月26日登録番号    意匠登録第1104350号登録意匠    別紙意匠公報の該当欄記載のとおり

(2)  被告の行為

ア 被告は,平成11年9月中旬から,業として,被告製品を販売している。

イ 本件意匠に係る物品と被告製品とは,物品が類似する。

(3)  原告の行為

ア 原告は,本件意匠の実施品である「エネマグラEX」(以下「原告製品」という。)を,平成11年3月下旬から,日本において製造,販売した。

イ 原告は,本件意匠の登録出願に当たり,意匠法4条3項に規定する書面を提出しなかった。

(4)  前件和解

原告は,被告に対し,被告製品1等に関し不正競争防止法に基づく訴訟を提起したが(以下「前件訴訟」という。),原告と被告は,平成15年2月,被告が原告に2000万円を支払うこと,原告は被告が被告製品1等を販売することに異議を述べないこと,被告は被告製品1等の売上高の10%に相当する金員を原告に支払うことなどを内容とする訴訟上の和解をした(以下「前件和解」という。)。

原告は,前件訴訟において,本件意匠権を主張したことはなく,前件和解の和解条項にも,本件意匠権に関する条項はない。

2  主要な争点

(1)  被告製品に係る意匠(以下「被告意匠」という。)は,本件意匠に類似するか。

(2)  本件意匠権には,意匠法3条1項1号に違反し,同法48条1項1号の無効理由が存在するか。

(3)  被告が本件意匠権の無効を主張することは,権利濫用又は信義則違反か。

(4)  損害額

3  争点(1)(意匠の類似)について

(原告の主張)

被告意匠は,本件意匠に類似する。

(被告の主張)

否認する。

4  争点(2)(無効理由)について

(被告の主張)

(1) 前提事実(3)のとおり,原告は,本件意匠の登録出願前から,本件意匠の実施品である原告製品を製造,販売し,本件意匠の登録出願に当たり,意匠法4条3項に規定する書面を提出しなかったから,原告は,意匠法4条2項の効果を受けることができない。

(2) よって,本件意匠権には,意匠法3条1項1号に違反し,同法48条1項1号の無効理由が存在する。

(原告の主張)

(1) 争う。意匠法48条は,同法4条3項に規定する書面を提出していないことをもって無効理由とはしていないので,原告が同書面を提出していなかったとしても,本件意匠権が無効とされることはない。

5  争点(3)(権利濫用又は信義則違反)について

(原告の主張)

(1) 原告被告間には,被告が原告から原告製品を仕入れ,それを原告の商品としてインターネットのみで販売するという取引の合意があった。同取引の合意には,原告製品の創作者である原告の営業利益を被告が侵害しない旨の合意が含まれている。被告は上記合意に反し,被告製品を被告が創作したものとして販売し,原告の営業利益を奪った。被告は,自分の商品としての販売を継続するために本件意匠の新規性喪失を主張している。

(2) よって,被告が本件意匠の新規性喪失を主張することは,権利の濫用又は信義則違反として許されない。

(被告の主張)

(1) 否認する。前件訴訟における原告の請求は不正競争防止法2条1項3号に基づくもので,前件和解成立時にも,原告が本件意匠権を取得しているという主張がされたことはなく,被告は本件意匠権を認めた上で被告製品の販売につき許諾を得たものではない。

(2) 争う。

6  争点(4)(損害)について

(原告の主張)

(1) 被告は,平成16年2月ころから平成16年8月に至るまでの間,少なくとも合計2119万2300円相当の被告製品を製造して販売した。

(2) 被告は,少なくともその60%に当たる1271万5380円の利益を上げている。

(3) よって,原告は少なくとも同金額と同額の損害を被ったものと推定される。

(被告の主張)

否認する。

第3当裁判所の判断

1  争点(2)(無効理由)について

(1)  前提事実のとおり,本件意匠の実施品である原告製品は,本件意匠の意匠登録出願前に発売されていたものであり,これによれば,本件意匠には,意匠法3条1項1号に違反して登録されたとの無効理由がある。

(2)  原告は,本件意匠が原告の行為に起因して公然知られるに至った後,6か月以内に意匠登録の出願をしたから意匠法4条2項が適用されると主張する。

しかしながら,意匠法4条2項の適用を受けるためには,同条3項により,同項記載の書面を同項記載の時期に特許庁長官に提出しなければならないところ,原告は同書面を提出していないから,本件意匠について同条2項の適用を受けることはできない。

これに反する原告の主張は,意匠法4条1項(権利者の意に反して公知になった場合)と同条2項(権利者の行為に起因して公知になった場合)とを混同するものであり,到底採用することができない。

(3)  以上によれば,本件意匠権は意匠法3条1項1号に違反して登録されたもので,同法48条1項1号により無効にされるべきものと認められるので,同法41条,特許法104条の3により,原告は本件意匠に基づく権利を行使することができない。

2  争点(3)(権利濫用又は信義則違反)について

原告は,原告被告間に取引等に関する合意があることを理由に,被告が本件意匠権の無効を主張することは権利の濫用又は信義則違反として許されない旨主張する。

しかしながら,原告は,前件和解において本件意匠権の無効を主張しないとの合意があったと主張しているものではなく,原告が主張する事実が仮に認められるとしても,被告の無効の主張を権利濫用であるとか,信義則違反であると認めることはできない。

3  結論

よって,原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 柴田義明 裁判官 高嶋卓)

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