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東京地方裁判所 平成17年(ワ)21614号 判決 2006年11月29日

甲事件原告

三井住友海上火災保険株式会社

他1名

甲事件被告

Y1

他1名

乙事件原告

Y1

乙事件被告

京葉ロードメンテナンス株式会社

他1名

主文

一  甲事件被告(乙事件原告)は、甲事件原告三井住友海上火災保険株式会社に対し九三万円及びこれに対する平成一七年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を、甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社に対し七万七〇〇〇円及びこれに対する平成一五年六月八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  甲事件原告三井住友海上火災保険株式会社の甲事件被告(乙事件原告)に対するその余の請求及び甲事件被告(乙事件原告)の甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社及び乙事件被告Y2に対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、甲事件原告三井住友海上火災保険株式会社と甲事件被告(乙事件原告)との間では、これを二分し、その一を甲事件原告三井住友海上火災保険株式会社の負担とし、その余を甲事件被告(乙事件原告)の負担とし、甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社と甲事件被告(乙事件原告)との間では、甲事件被告(乙事件原告)の負担とし、甲事件被告(乙事件原告)と乙事件被告Y2との間では、甲事件被告(乙事件原告)の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

(1) 甲事件被告(乙事件原告)は、甲事件原告三井住友海上火災保険株式会社に対し一八四万五五六五円及びこれに対する平成一七年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を、甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社に対し七万七〇〇〇円及びこれに対する平成一五年六月八日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(2) 訴訟費用は甲事件被告(乙事件原告)の負担とする。

(3) 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(1) 甲事件原告三井住友海上火災保険株式会社及び甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社の請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は甲事件原告三井住友海上火災保険株式会社及び甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社の負担とする。

(乙事件)

一  請求の趣旨

(1) 甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社及び乙事件被告Y2は、甲事件被告(乙事件原告)に対し、連帯して二八万三八〇〇円及びこれに対する平成一五年六月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 訴訟費用は甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社及び乙事件被告Y2の負担とする。

(3) 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(1) 甲事件被告(乙事件原告)の請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は甲事件被告(乙事件原告)の負担とする。

第二当事者の主張

(甲事件)

一  請求原因

(1) 事故の発生

甲事件原告(乙事件被告)京葉ロードメンテナンス株式会社(以下「原告京葉ロードメンテナンス」という。)は、所有する普通貨物自動車(<番号省略>。以下「原告車両」という。)について、次の交通事故(以下「本件事故」という。)に遭った。

日時 平成一五年六月八日午前三時二分ころ

場所 東京都江戸川区西小松川町三〇首都高速七号線下り道路

加害車両 普通乗用自動車(<番号省略>。以下「被告車両」という。)

運転者 甲事件被告(乙事件原告。以下「被告Y1」という。)

事故の態様 被告車両が乙事件被告Y2(以下「被告Y2」という。)運転の原告車両に追突した。

(2) 責任原因

被告Y1は、路上を運転する際には前方を注視して運転しなければならない義務があるのにこれを怠り、前方を走行していた原告車両に追突したから、民法七〇九条に基づき、原告京葉ロードメンテナンスが本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負う。

(3) 損害その一

原告車両は、本件事故の結果、一七四万八五六五円の費用を要する損傷を受けた。

(4) 保険代位

甲事件原告三井住友海上火災保険株式会社(以下「原告三井住友」という。)は、本件事故の当時、原告京葉ロードメンテナンスとの間で、被保険自動車を原告車両、保険期間を平成一四年九月一日から平成一五年九月一日まで、車両保険の保険金額を二四五万円(免責金額七万円)とする自動車総合保険契約を締結していたところ、この契約に基づき、原告京葉ロードメンテナンスに対し、原告車両の損害一七四万八五六五円から免責分七万円を控除した一六七万八五六五円を車両保険金として支払った。

したがって、原告三井住友は、商法六六二条に基づき、原告京葉ロードメンテナンスが被告Y1に対して有する損害賠償請求権を、支払った保険金額の限度で取得した。

(5) 損害その二―弁護士費用

原告三井住友及び原告京葉ロードメンテナンスは、被告Y1が任意に損害賠償をしないことから、訴訟代理人に本件訴訟の提起を委任したところ、本件事故と因果関係の認められる報酬の範囲は、原告三井住友につき一六万七〇〇〇円、原告京葉ロードメンテナンスにつき七〇〇〇円である。

(6) まとめ

よって、原告三井住友及び原告京葉ロードメンテナンスは、被告Y1に対し、民法七〇九条に基づき、原告三井住友につき一八四万五五六五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一七年一〇月二三日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告京葉ロードメンテナンスにつき七万七〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日である平成一五年六月八日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(1) 請求原因(1)は認める。

(2) 請求原因(2)のうち、被告Y1が、路上を運転する際には前方を注視して運転しなければならない義務があったことは認め、その余は否認する。

(3) 請求原因(3)は否認する。

本件事故当時の原告車両の時価額は、六〇万ないし七〇万円程度であり、仮に全損としても同額程度の損害として評価されるべきである。

(4) 請求原因(4)は知らない。

(5) 請求原因(5)は否認する。

三  抗弁―過失相殺

本件事故は、被告車両が片側二車線の首都高速道路の右側車線(追越車線)を走行していたところ、左側車線(走行車線)を走行していた原告車両が後方の安全確認を怠り右側車線に進路変更したため、被告車両が原告車両を避けられず、原告車両に追突したものであり、原告車両の過失割合は九割である。

四  抗弁に対する認否

左側車線(走行車線)を走行していた原告車両が右側車線(追越車線)に進路変更したことは認め、その余は否認ないし争う。

本件事故は、原告車両が、左側車線から右側車線への進路変更を完全に完了した後、右側車線を走行中に発生した事故であり、原告車両の進路変更に起因する事故ではなく、進路変更が完了した原告車両が前方で走行しているにもかかわらず、その動静を十分に注視していなかった被告Y1の一方的過失によって発生した事故である。

(乙事件)

一  請求原因

(1) 事故の発生

被告Y1は、所有する被告車両について、本件事故に遭った。

(2) 責任原因

ア 被告Y2は、自動車の運転者として、進路変更をするに当たり、後方の安全を十分確認すべき義務があるのにこれを怠り、漫然と進路変更をした結果、本件事故を発生させたから、民法七〇九条に基づき、被告Y1が本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負う。

イ 被告Y2は、本件事故の当時、原告京葉ロードメンテナンスの従業員であり、その業務の執行中であったから、原告京葉ロードメンテナンスは、民法七一五条に基づき、被告Y1が本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負う。

(3) 損害

ア 車両損害 二五万八〇〇〇円

被告車両は、本件事故により全損となり、その時価相当額は二五万八〇〇〇円である。

イ 弁護士費用 二万五八〇〇円

(4) まとめ

よって、被告Y1は、被告Y2及び原告京葉ロードメンテナンスに対し、民法七〇九条、七一五条に基づき、連帯して二八万三八〇〇円及びこれに対する不法行為の日である平成一五年六月八日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(1) 請求原因(1)は認める。

(2)ア 請求原因(2)アは否認ないし争う。

本件事故は、原告車両が、左側車線から右側車線への進路変更を完全に完了した後、右側車線を走行中に発生した事故であり、原告車両の進路変更に起因する事故ではなく、進路変更が完了した原告車両が前方で走行しているにもかかわらず、その動静を十分に注視していなかった被告Y1の一方的過失によって発生した事故である。

イ 同イのうち、被告Y2が、本件事故の当時、原告京葉ロードメンテナンスの従業員であり、その業務の執行中であったことは認め、その余は争う。

(3) 請求原因(3)は知らない。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  甲事件について

(1)  請求原因(1)(本件事故の発生)について

請求原因(1)の事実は、当事者間に争いがない。

(2)  請求原因(2)(責任原因)について

ア  請求原因(2)のうち、被告Y1が、路上を運転する際には前方を注視して運転しなければならない義務があったことは、当事者間に争いがない。

イ  前示争いのない事実に、証拠(甲三、乙五ないし七、被告Y1)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(ア) 本件事故の場所は、ほぼ西方(錦糸町方面)から東方(一之江方面)に通じ、西方から東方にかけて緩やかに右にカーブしている首都高速七号線下り道路(二車線。以下「本件道路」という。)であるところ、車道幅員は約七メートルで、両側に幅員約〇・四ないし〇・六メートルの路側帯が設けられ、路面は、アスファルト舗装されて平たんで、本件事故の当時は乾燥していた。

本件道路は、自動車専用道路であり、最高速度毎時六〇キロメートル、駐停車禁止の交通規制がされ、夜間は照明により明るかった。

(イ) 被告Y2は、平成一五年六月八日午前三時の少し前ころまで、原告車両(幅約二二四センチメートルの道路作業車)を運転し、他の三台の車両(作業車、高圧洗浄車及び緩衝車)とともに、高架部排水管清掃の作業に従事した(原告車両は、標識車の係で、通行車両に作業中であることを示す電飾板を点灯させていた。)後、作業車、高圧洗浄車、緩衝車及び原告車両(電飾板は作業終了後に消灯した。)の順に発進して帰路につき、同日午前三時二分ころ、原告車両を運転して、本件道路の左側車線(走行車線)を錦糸町方面から一之江方面に向かい進行中、後方約一〇五・一メートルの地点に、右側車線(追越車線)を直進してくる車両を認め、約三〇・六メートル進行して、当該車両をやり過ごすとともに、一之江出口から一般道路に下りるため、右側車線に進路を変更しようとして、毎時約四〇キロメートルまで加速しながら、右のバックミラーで後方を確認して、少なくとも一〇〇メートル以上後方(この点についてはウ(イ)において判示する。)の追越車線上に被告車両の前照灯を認めつつ、更に加速しながら右にハンドルを切り、約三六・二メートル進行して車線変更を完了し、約一〇三・三メートル進行したところ、後方から直進してきた被告車両により追突され、原告車両は約六二・五メートル進行して停止した。

なお、原告車両からの見通しは、前後方いずれも良好であった。

(ウ) 他方、被告Y1も、同じ時刻ころ、被告車両を運転して、本件道路の右側車線を錦糸町方面から一之江方面に向かい制限速度をはるかに上回る速度(後にウ(ア)において判示するとおり少なくとも時速一〇〇キロメートル)で進行中、左側車線から進路変更して右側車線に入り込んだ原告車両を前方に認めて危険を感じ、ブレーキをかけたものの間に合わず、路面にスリップこん(右四五・六メートル、左四五・二メートル)を印象させながら(車線に平行ではなく、右方向に傾いて印象されていた。)原告車両の後部に衝突した。

なお、被告車両からの見通しは、前後方いずれも良好であった。

ウ(ア)  これに対し、被告Y1本人尋問の結果(被告Y1本人の陳述書(乙七)を含む。以下同じ。)中には、「私は、首都高速の右側車線(第二車線)を時速約一〇〇kmで走行し、小松川インターチェンジ付近の緩い右カーブに差し掛かったところで少し減速してカーブを通過したところ、私の進行方向前方の左車線(第一車線)を走行していた工事用車両が突然左側車線から右側車線(私が走行していた車線)に車線変更してくるのが見えました。…私は、突然の相手方の車線変更にびっくりして急ブレーキをかけましたが、余りにも接近してからのブレーキでしたので間に合わず、私の車両はスリップをしながら相手方車両に衝突してしまいました。」との供述部分があり、証拠(乙五、六)及び弁論の全趣旨によると、被告Y1は、平成一五年六月一五日に行われた実況見分の際、被告車両を運転して、本件道路の右側車線を錦糸町方面から一之江方面に向かい進行中、前方約一八三・二メートルの左側車線上に原告車両を認め、約一八九・九メートル進行する(同じ間に原告車両は約七一・五メートル進行)と、前方約六四・七メートルの地点に、原告車両が右側車線に進路を変更してきた(車線変更を完了した)のを認め、約二五・一メートル進行してブレーキをかけたが、約六二・五メートル進行して(この間に原告車両は約二六・一メートル進行)原告車両と衝突した旨指示説明するとともに、株式会社大日本リサーチの担当者による事情聴取の際、「右車線側を約七〇km/hで走行していて、小松川I・Cの付近の緩い右カーブに差し掛かりましたので、ややスピードを落とし通過して行くと、突然目前に左車線から右車線に車線変更をしている相手方の車両を発見し、びっくりして急ブレーキをかけました。しかしあまりにも接近してからのブレーキでしたので、間に合わずスリップしながら相手車に追突してしまいました。」と述べたことが認められる。

しかしながら、被告Y1の実況見分における前示指示説明によると、原告車両と被告車両の速度比は、進路変更前は約一対二・六(七一・五メートル対一八九・九メートル)であるのに対し、進路変更後衝突までは約一対三・三(26.1メートル対25.1メートル+62.5メートル)となるところ、前示事実関係のとおり、原告車両の進路変更後の速度は、少なくとも進路変更前と同程度であり、仮に被告車両の速度が同一としても、速度比はほぼ一定になるはずであるのに、進路変更後衝突までの方が高くなっているし、被告車両の速度は、ブレーキをかけた後に進行した六二・五メートルについてはそれまでより低下しているはずであり、速度比は進路変更後衝突までの方が低くなってしかるべきであるのに、逆に高くなっており、被告Y1の実況見分における前示指示説明は、不自然というほかなく、このような指示説明を前提とすると考えられる被告Y1の前示供述部分は、にわかに信用することができない。

なお、仮に被告Y1の前示指示説明を前提とすると、原告車両と被告車両の速度比は進路変更前は約一対二・六であり、原告車両の速度を毎時四〇キロメートルと仮定すると、被告車両の速度は毎時一〇四キロメートルとなり、これに、前示のとおり被告車両が乾燥した路面に四五メートル余のスリップこんを残しながら衝突していることをも考慮すると、被告車両は、ブレーキをかける直前において少なくとも時速一〇〇キロメートルで走行していたと考えられる。

(イ)  証拠(乙六)及び弁論の全趣旨によると、被告Y2は、株式会社大日本リサーチの担当者による事情聴取の際、「約四〇km/h迄速度を上げ、右のバックミラーで後方を確認すると、ずっと遠くの追い越し車線上にライトが見えました。しかし距離から見て充分余裕がありましたので、速度を上げながら車線変更をし…ました。…相手方との距離がおそらく一〇〇m以上あったのは間違いなく、だから車線変更したのです。」と述べたことが認められる。

ところで、前示のとおり、被告Y1の実況見分における指示説明はにわかに信用し難いものの、仮に前示指示説明を前提とすると、被告Y1が原告車両の進路変更を認めた際の車間距離は約六四・七メートルであるが、原告車両が進路変更を開始した地点は、被告Y1が原告車両の進路変更を認めた地点よりも手前のはずであり、原告車両の速度を毎時四〇キロメートル(毎秒約一一・一メートル)、進路変更に要する時間を二秒(速度が毎時四〇キロメートルとすると車線変更を完了するのに少なくとも二秒を要すると考えることもあながち不合理ではない。)とすれば、原告車両が進路変更を開始してから完了するまでに走行した距離は約二二・二メートル(11.1メートル×2秒)となるところ、原告車両と被告車両の速度比は進路変更前は約一対二・六であるから、原告車両が進路変更を開始してから完了するまでに被告車両が走行した距離は、約五七・七メートル(毎秒11.1メートル×2.6倍×2秒)となり、原告車両が進路変更を開始した時点における原告車両と被告車両との車間距離は、少なくとも一二二・四メートルとなる。

以上によると、被告Y2の事情聴取における前示供述は、不合理ではなく信用することができるというべきである。

これに対し、被告Y1本人尋問の結果中には、「相手方の車線変更は突然でしたので、私が車線変更に気づいたときは、相手方車両は第一車線と第二車線を跨ぐように少し斜めになっている状態であり、相手方車両の右側面部が少し見えました。従って、私が相手方車両に気づいたときは、相手方車両は車線変更を完了していない段階であったことは間違いありません。」との供述部分があるが、被告Y1の指示説明に基づいて作成された平成一五年六月一五日付け実況見分調書(乙五)によると、被告Y1が原告車両の進路変更を認めた時点における原告車両は、右側車線に進路変更を完了した状態になっていることに照らし、にわかに信用することができない。

エ  以上の事実関係によると、被告Y1は、被告車両を運転して、本件道路の右側車線を錦糸町方面から一之江方面に向かい進行するに当たり、前方を注視するとともに適宜速度を調節して、左側車線から右側車線に進路を変更する車両の有無及びその動静に注意を払うべき義務があるのにこれを怠り、漫然と毎時一〇〇キロメートルを超える高速度で進行した結果、本件事故を発生させたということができるから、民法七〇九条に基づき、原告京葉ロードメンテナンスが本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。

(3)  請求原因(3)(損害その一)について

前示事実関係に、証拠(甲三、四、八、九、乙一ないし三)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告車両は、初度登録年月が平成五年一一月、車名がニッサンディーゼル、型式がU―MK二一〇EN改、馬力一九五psであり、原告京葉ロードメンテナンスは、同年一二月、原告車両を代金六二〇万円で購入したこと、原告車両は、標識車として改造がされており、その特別仕様のための費用は三七三万円(代金六二〇万円の一部)であったこと、オートガイド自動車価格月報(いわゆるレッドブック)平成一二年五・六月号には、ニッサンディーゼルの型式U―MK二一〇ENHRE(馬力一九五ps)の中古車価格が七〇万円と記載されている一方、レッドブック平成一五年五・六月号には、同一車種の中古車価格の記載がないこと、原告車両は、本件事故の当時、初度登録年月から一〇年近くが経過していたところ、本件事故により損傷し、修理費の見積額は一七四万八五六五円であることが認められ、以上によると、原告車両の本件事故の当時の時価は、一〇〇万円と認めるのが相当である。

そして、前示のとおり、原告車両は、本件事故に係る修理費用が一七四万八五六五円であり、本件事故の当時の時価一〇〇万円を上回っているから、原告京葉ロードメンテナンスは、本件事故の結果、原告車両について、経済的全損として一〇〇万円の損害を被ったというべきである。

(4)  抗弁(過失相殺)について

抗弁のうち、左側車線(走行車線)を走行していた原告車両が右側車線(追越車線)に進路変更したことは、当事者間に争いがない。

前示事実関係によると、被告Y2は、進路変更をするに当たり、後方の右側車線を走行してくる被告車両の動静により十分な注意を払い、必要に応じて進路変更を差し控えるなどしていれば、本件事故の発生を避けられた可能性は否定することができないものの、制限速度が毎時六〇キロメートルである本件道路において、原告車両が進路変更を開始した時点で、原告車両と被告車両との車間距離は少なくとも一〇〇メートル以上あったこと、被告車両は、制限速度を少なくとも四〇キロメートル以上超過する高速度で進行していたことなどを考慮すると、被告Y2につき過失相殺するのを相当とすべき事由があるとまではいえないというべきである。

(5)  請求原因(4)(保険代位)について

証拠(甲五、六)及び弁論の全趣旨によると、原告三井住友は、本件事故の当時、原告京葉ロードメンテナンスとの間で、被保険自動車を原告車両、保険期間を平成一四年九月一日から平成一五年九月一日まで、車両保険の保険金額を二四五万円(免責金額七万円)とする自動車総合保険契約を締結していたところ、この契約に基づき、原告京葉ロードメンテナンスに対し、原告三井住友が認めた原告車両の損害一七四万八五六五円から免責分七万円を控除した一六七万八五六五円を車両保険金として支払ったことが認められる。

以上によると、原告三井住友は、商法六六二条に基づき、原告京葉ロードメンテナンスの被告Y1に対する損害賠償請求権を、支払った保険金額の限度で取得したということができる。

(6)  請求原因(5)(損害その二)について

弁論の全趣旨によると、原告京葉ロードメンテナンスは、本件訴訟の提起及び追行を訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払を約束していることが認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告京葉ロードメンテナンスが損害として主張する弁護士費用七〇〇〇円は、本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。

他方、原告三井住友は、弁護士費用相当額の損害を被った旨主張するが、原告三井住友の被告Y1に対する請求は、保険代位により取得した原告京葉ロードメンテナンスの被告Y1に対する損害賠償請求権であり、その行使に要する弁護士費用の賠償を認めるべき根拠は明らかでなく(原告三井住友が保険代位した時点で既に原告京葉ロードメンテナンスが本件訴訟の提起及び追行を訴訟代理人に委任していたなどの事情は認められない。)、原告三井住友の主張は、理由がない。

(7)  小括

以上によると、原告京葉ロードメンテナンスの請求は、全部理由がある一方、原告三井住友の請求は、九三万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成一七年一〇月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があることとなる。

二  乙事件について

(1)  請求原因(1)(本件事故の発生)について

請求原因(1)の事実は、当事者間に争いがない。

(2)  請求原因(2)(責任原因)について

ア  同ア(被告Y2)について

前示したところに照らすと、被告Y2は、本件事故の発生につき過失はなかったというべきであり、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負うことはない。

イ  同イ(原告京葉ロードメンテナンス)について

同イのうち、被告Y2が、本件事故の当時、原告京葉ロードメンテナンスの従業員であり、その業務の執行中であったことは、当事者間に争いがないものの、前示のとおり、被告Y2は、本件事故について、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負うことはないから、原告京葉ロードメンテナンスも、本件事故について、同法七一五条に基づき損害賠償責任を負うことはないというべきである。

三  結論

よって、原告三井住友及び原告京葉ロードメンテナンスの請求は、被告Y1に対し、原告三井住友につき九三万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成一七年一〇月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告京葉ロードメンテナンスにつき七万七〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日である平成一五年六月八日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度においていずれも理由があるから認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、被告Y1の請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林邦夫)

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