東京地方裁判所 平成17年(ワ)4981号 判決 2005年11月11日
原告
X1
原告
X2
原告
X3
原告
X4
上記4名訴訟代理人弁護士
江口衛
被告
株式会社クアトロ
代表者代表取締役
E
主文
1 被告は,原告X1に対し,85万0977円並びに別紙内金一覧表2の各内金額に対する各支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金20万円に対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,87万5977円並びに別紙内金一覧表2の各内金額に対する各支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金20万円に対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3に対し,85万8164円並びに別紙内金一覧表2の各内金額に対する各支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金20万円に対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告X4に対し,47万0492円並びに別紙内金一覧表2の各内金額に対する各支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金10万円に対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,これを5分し,その3を被告の負担とし,その余は原告らの負担とする。
7 この判決は,第1ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,原告X1に対し,143万3294円並びに別紙内金一覧表の各内金額に対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金60万円に対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告X2に対し,145万6357円並びに別紙内金一覧表の各内金額に対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金60万円に対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告X3に対し,143万5488円並びに別紙内金一覧表の各内金額に対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金60万円に対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告X4に対し,77万5959円並びに別紙内金一覧表の各内金額に対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金30万円に対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告が経営するガソリンスタンドで働いていた原告らが交代制の各勤務時間帯に休憩を取ることができない勤務実態から手待時間に当たることを理由に,一定勤務期間中の各勤務時間における当該時間分の割増賃金を請求した事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか証拠等により容易に認定できる事実)
(1) 被告は,販売代行業務を主な目的とする会社であり,a商事株式会社から業務委託を受けて,「aセルフ白井サービスステーション」(以下「本件SS」という。)を運営している。(弁論の全趣旨)
(2) 原告X1,同X2及び同X3は,平成14年12月20日被告に入社し,同X4は,平成15年12月1日被告に入社して,いずれも本件SSにて,被告の指揮・監督の下,監視業務に従事してきた者である。(争いがない)
(3) 被告の勤務時間,休憩時間,賃金の定め
被告は,本件SSの監視業務につき,以下のとおり勤務時間,休憩時間及び賃金を定めている。(争いがない)
<1> A勤務 勤務時間 午前7時から午後4時まで
休憩時間 60分
日額賃金 7000円
<2> B勤務 勤務時間 午後3時から午後11時まで
休憩時間 60分
日額賃金 6500円
<3> C勤務 勤務時間 午後10時から翌朝午前8時まで
休憩時間 90分
日額賃金 1万円
(4) 被告の原告らへの賃金の締め日と支払日は,当月分を月末締めで,翌月末日払いである。(甲4)
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 被告の定めた勤務体系における休憩時間が勤務の実際上取得できたか否か並びに被告の主張する休憩時間が手待時間か否か
【原告らの主張】
被告の勤務体制は,休憩時間をまとめて取ることは許されず,1時間ごとに10分ずつ休憩を取るものとされていたが,休憩時間中もスタンドの敷地から出ることは全面的に禁止され,わずかな引継時間を除いては常時1名の人員しか配置されておらず,しかも客が来場した際には,即時にこれに対応しなければならない状態で,実際には休憩時間が与えられていたとはいえず,単なる手待時間に過ぎなかったものである。
本件SSの施設としては,3油種(ハイオクガソリン,レギュラーガソリン,軽油)の給油が可能な販売機4台と灯油のみ給油が可能な販売機が1台あり,その他有料のクリーナー1台,有料の洗車機1台,無料のマット洗い機1台,無料のエア供給機が1台あって,これら施設の利用を,監視員が,監視室で監視し,また,施設が利用可能なように,釣銭を準備したり,頻繁に起こる機械トラブルに対処すること等が主な業務となる。特に給油の監視業務については,顧客が油種,給油量を設定し,現金またはキャッシュカードを投入して,所要ノズルを持ち上げて給油口にノズルを入れるのを確認してから,チャイムの音に合わせて監視員がボタンスイッチを押すことにより,はじめて給油が可能になるもので,セルフスタンドとは言っても,すべて監視員が個別に対応しなければならないものであった。また,危険物取扱施設であるため,消防法等によって厳格に規制され,常時1名以上の従業員が,監視,管理にあたっていることが要求されていた。
甲第4号証の「休憩時間についてのお知らせ」によれば,それぞれの勤務ごとに,1時間ごとに10分ずつの休憩を取るものとされていたが,その10分の休憩時間中も「営業に支障をきたさないように,業務を優先して行」うものとされ,監視業務員に対する休憩室は特に設けられておらず,監視業務員がセルフスタンドの敷地から出ることは全面的に禁止されていた。
各勤務のいずれも在勤者は原則1名であり,各勤務の開始・終了前後の1時間は,2人勤務の状態となるが,その間,1名は清掃,トイレのペーパー補給,釣銭補充,当日の売上金の回収,精算業務のためのPOS操作等監視業務以外の引継業務に従事しなければならず,中心的作業である監視業務については,2人勤務という実態はなかった。
被告は,原告らの日額賃金を,全拘束時間についての賃金とする旨の合意があった旨主張しているが,かかる合意は労働基準法13条に反し無効である。
また,甲第4号証の「休憩時間についてのお知らせ」別表のように,本件日額賃金を時間あたりの金額に細分化して,形式上全拘束時間に対する賃金を支払っているかのように主張している。しかし,本件賃金は,そもそも時間給ではなく,日給であり,被告の主張するような時間給計算は意味をなさない。
【被告の主張】
被告は,現状では全拘束時間に対し計算し賃金を支払うこととしている。
雇用内容は全て文書で提示し,賃金日額についても書面をもって提示し,誓約書,契約書記名捺印をもって双方合意したものである。
休憩については,面接時に適時とってもらうよう説明しており,後日行ったスタッフアンケートにおいて,休憩に関して,就業に際して劣悪な環境であったとは認識していない。
被告は,パート社員就業規則第12条及び「入社のしおり」により原告らを法定労働時間を超えて労働させることができる。割増賃金額の計算方法については「別表」により説明をしており,割増賃金は支払済みである。
被告が採用している「休憩時間」は休息時間の意味をもっていて労働基準法34条の「休憩時間」とは意味が違う。労働基準法34条の「休憩時間」については使用者は賃金の支払義務はないが,被告は採用している「休憩時間」については原告らに対して賃金を払っている。
原告らは休憩時間に「事業場外に出るときに被告の許可を得てから外出しなければならない」ことは労働基準法34条の「自由に利用させなければならない」という条文に反するから休憩を与えたことにはならないと主張している。しかし,厚生労働省は行政通達(昭和22・9・13基発17号)で「休憩時間が就労する義務のない時間ではあっても始業から終業までのいわゆる拘束時間中の時間であり使用者の一定の拘束を受けることはやむを得ないところであって,自由利用も絶対的なものではなく,相対的なものにすぎない。解釈例規も「休憩時間」についての事業場の規律保持上必要な制限を加えることは休憩の自由を害わない限り差し支えない」と企業の指導を行っている。
(2) 原告らの請求できる賃金額
【原告の主張】
原告らは,A勤務について,1日8時間を超える9時間労働を,B勤務については1日につき,休憩時間1時間に相当する深夜労働を,C勤務については1日8時間を超える10時間労働に従事していたことになるから,それぞれの法定時間外労働,深夜労働の1日当たりの割増賃金額は,日額賃金を所定労働時間で除した金額に,法定時間外労働・深夜労働時間及び割増率2割5分を乗じて計算した金額となる。
A勤務 1日当たり1093円
賃金7000円÷8時間=875円
時間外割増率1.25倍
B勤務 1日当たり1160円
賃金6500円÷7時間=928円 深夜割増率1.25倍
C勤務 1日当たり3125円
賃金1万円÷8時間=1250円
時間外勤務時間2時間
時間外割増率1.25倍
割増賃金額(別紙勤務表に基づいたもの)
<1> 原告X1 83万3294円
平成14年12月20日から平成17年6月30日まで
A勤務158日 1093円×158日=17万2694円
B勤務160日 1160円×160日=18万5600円
C勤務152日 3125円×152日=47万5000円
<2> 原告X2 85万6357円
平成14年12月20日から平成17年6月30日まで
A勤務159日 1093円×159日=17万3787円
B勤務152日 1160円×152日=17万6320円
C勤務162日 3125円×162日=50万6250円
<3> 原告X3 83万5488円
平成14年12月20日から平成17年6月30日まで
A勤務156日 1093円×156日=17万0508円
B勤務153日 1160円×153日=17万7480円
C勤務156日 3125円×156日=48万7500円
<4> 原告X4 47万5959円
平成15年12月1日から平成17年6月30日まで
A勤務93日 1093円×93日=10万1649円
B勤務91日 1160円×91日=10万5560円
C勤務86日 3125円×86日=26万8750円
【被告の主張】
(3) 慰謝料請求の可否及び可(ママ)とした場合の金額
【原告の主張】
被告は,原告らに対し,被告のパート従業員規定上,A勤務60分,B勤務60分,C勤務90分の休憩時間を与える債務を負っているが,原告らは2年以上の期間にわたって,実質的に休憩時間が取れておらず,被告の休憩時間を与える債務の不履行があり,その肉体的・精神的苦痛を慰謝するに足る慰謝料は,原告X1,同X2及び同X3につき各自60万円,原告X4につき30万円を下らない。
【被告の主張】
被告は,平成16年5月26日より会社としての指示を出し,その後も内容を調整し休憩時間の確保を推奨してきた。被告が作成した明確な休憩時間を取るような勤務体系を更に調整し,新勤務体制について労基署監督官に確認してもらいながら指示を行ってきたが,再三の指示に対し,様々な理由を付け現状維持を唱えてきたのは原告らである。
第3当裁判所の判断
1 証拠等によって認定できる事実
証拠(各認定事実の末尾に掲記した)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実を認定することができる。
(1) 本件SSの勤務形態は前記前提事実(3)のとおり三交代制が基本となっており,シフト表兼出勤簿からも明らかなように各日にちの各勤務形態の勤務者は始業時と終業時の各1時間の重なりを除いて原則として一人である。
(<証拠略>)
(2) 被告のパート従業員雇用規定(平成14年12月16日)によると,被告の指示している勤務時間が,A勤務の拘束時間が9時間で実働時間が8時間,休憩60分,B勤務の拘束時間が8時間で実働時間が7時間,休憩60分,C勤務の拘束時間が10時間で実働時間が8時間30分,休憩1時間30分となっている。(甲4)
(3) 被告の「休憩時間についてのお知らせ」(平成14年12月16日)によると,
ア A勤務については,8:30,9:30,10:30,11:30,12:30,13:30に各10分間,
B勤務については,15:30,16:30,17:30,18:30,19:30,20:30に各10分間,
C勤務については,23:30,0:30,1:30,2:30,3:30,4:30,5:30,6:30,7:30に各10分間
の休憩を取るよう指示されている。(甲4)
イ 上記各いずれの勤務についても,「但し,申し訳ありませんがその間も営業に支障をきたさないように,業務を優先して行って下さい。休憩時間内に業務を行った場合にはその分を振り替えて他の時間に取って頂けるようお願いします。」とある。(甲4)
(4) 「入社のしおり」には,勤務時注意事項として,「勤務中は給油所敷地内から出られませんので,食事・飲み物・常用のお薬などは,各自で用意持参して下さい。」とされ,スタンド内敷地から休憩時間であっても出ることな(ママ)いように指示されている。
(5) 被告の勤務実態(<証拠略>,原告X1)
本件SSは,24時間営業で,原告らはセルフガソリンスタンドの監視業務員として稼働している(但し,被告は監視断続労働による除外許可は得ていない。)。
本件SSの施設としては,3油種(ハイオクガソリン,レギュラーガソリン,軽油)の給油が可能な販売機4台と灯油のみ給油可能な販売機1台があり,その他有料クリーナー1台,有料の洗車機1台,無料のマット洗い機1台,無料のエア供給機が1台あって,これら施設の利用を,監視員が監視室で監視し,また,施設が利用可能なように釣銭を準備したり,機械トラブルに対処すること等が主な業務であった。
特に,給油の監視業務については,顧客が油種,給油量を設定し,現金又はキャッシュカードを投入して,所定ノズルを持ち上げて給油口にノズルを入れるのを確認してから,チャイムの音に合わせて監視員がボタンスイッチを押すことによりはじめて給油が可能になるもので,セルフスタンドとはいっても監視員が個別に対応しなければならない状態にある。
本件SSで原告らが監視員として労働に当たる場合,顧客が来ている時は上記のような業務に当たるほか,顧客が途切れている時でも,セルフスタンドは危険物取扱施設であるため,消防法等によって厳格に規制され,営業時間中は常時監視員である原告らが監督に当たらなければならない状態であった。
このため,原告らは,顧客対応においては,食事をしていても顧客が来れば途中でやめざるを得ず,トイレに行くこともままならないこともあったほか,それ以外の時間にあっても被告が指示するように各時間ごとに10分間の休憩を取ろうとしても,給油所の敷地内から出ることが許されない状態にあった。
また,各勤務の開始と終了時には1時間ずつの重なりがあり,その間は引継時間として2名が勤務する状態とはなるが,1名は監視業務に従事し,もう1名は清掃,トイレのペーパー補給,釣銭の補充,当日の売上金の回収,精算業務のためにPOS操作等の業務に当たる必要があるため,その間に休憩を取るということもできなかった。
(6) 被告においては,他にもサービスステーションがあり,同様の勤務形態を取っていたため,以前から休憩時間が取れない旨の不満や訴えがあった。具体的には平成15年に本件と同様の休憩時間について時間外労働若しくは深夜労働としての割増賃金の支払いを要求する訴訟が提起されて,被告における勤務体制上の問題が裁判所からも指摘されており,被告においても,平成16年6月以降,本件SSを含む各SSの従業員らに対して勤務体系の変更を申し入れているものの,被告が人件費の増大を一切伴わないような形で実質各勤務の時間当たり賃金の単価を引き下げる内容の提案であったため,従業員らの反発を買い結局少なくとも本件SSや竜ヶ崎SSでは新勤務体系を導入できないままに至っている。
その間,原告らは,入社時から平成17年6月まで,前記のような休憩時間の自由利用を阻害された勤務を続けることを強いられてきたことになる。
2 争点(1)(休憩時間)について
前記認定事実(3)によれば,被告においては,各勤務形態ごとに原則として1時間に10分ずつの休憩を取ることとし,但し休憩時に顧客が来た場合などには業務が優先し,適時に休憩を取るよう指示している。また,前記認定事実(4)及び(5)によると,ガソリンスタンドが危険物取扱施設であることから休憩とされる時間中もスタンド敷地内から出ることは許されず,実際の営業実態としても原則として1人体制のもと持ち場を離れることができず,時間帯やタイミングによっては食事やトイレにも不便を来す状況にあったことが認められる。
そもそも労働基準法上の休憩時間とは,サービス業の特例を除いては,労働者が労働時間の途中において,休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間を意味する(自由利用の原則)。
本件SSにおける原告らの勤務状況及び実態からはこのような休憩時間の自由利用が阻害されているものといわなければならない。そして,被告が主張するような顧客が途切れて原告らがスタンド内で待機している時間に休憩が取れるはずであるとするところも,詰まるところ自由利用の保障のないものであることからすると,手待時間と評価すべきであり,実働時間に組み入れて考えるべき性質のものと認められる。
被告は,各勤務ごとに全拘束時間に対して1勤務当たりの日給を支給していること,原告らはこのような勤務形態を取ることに合意していることを主張するものの,休憩時間は強行規定として労基法が一定の労働時間ごとに使用者が労働者に付与しなければならないことを義務付けているものゆえ,労使間の合意による排除は許されないので失当である。また,被告は,本件SSにおいて原告らが拘束時間中にスタンドの敷地内から出ることのないよう指示していることは,事業場の規律保持上必要な制限であると主張するが,前記に認定したようにスタンドは危険物取扱施設であるため,消防法等によって厳格に規制され,一人で勤務している関係上,営業時間中は常時監視員である原告らが監督に当たらなければならない状態であったことからすると,必要な制限の問題ではなく勤務体制上の問題であるといわなければならないからやはり失当である。
3 争点(2)(割増賃金)について
(1) 被告における原告らの賃金は1日の1勤務当たりの勤務形態ごとに取り決められており,A勤務が7000円,B勤務が6500円,C勤務が1万円である。そして,上記2で認定判断したように,原告らは各勤務形態のいずれにおいても休憩時間を取ることができなかったのであるから,A勤務においては,8時間の労働に対して日額7000円が支給されていて,拘束時間9時間全部を実働時間として計算すると,午後3時から午後4時までは法定の8時間を超えた時間外勤務となり,C勤務においては,雇用規定上は8.5時間の労働に対して日額1万円が支給されているものの,当該1万円は法定労働時間内に対してのものと解されるので,拘束時間10時間全部を実働時間として計算すると,翌朝午前6時から午前8時までは法定の8時間を超えた時間外労働となる。
ところで,B勤務においては,7時間(内最後の午後10時から午後11時までの深夜勤務に当たる部分を含む)の労働に対して日額6500円が支給されていて,拘束時間8時間全部を実働時間として見ても,午後10時から午後11時までの1時間分は法定の8時間内の勤務であり,深夜勤務手当分は既に日額6500円に折(ママ)り込み済みであると考えられる。
なぜならば,深夜勤務のないA勤務の時間当たり単価は875円(7000円÷8時間)であるところ,これをB勤務に当てはめると,同勤務は拘束8時間(午後3時から午後11時まで)のうち実働7時間に対して6500円を支給しているところ,被告の指示では午後8時30分に10分間の休憩のあとは午後11時まで実働時間であることから,午後10時から午後11時までの深夜勤務に当たる時間帯の1時間の他に深夜ではない実働が6時間であるから875円×6時間+875×1.25=5250円+1093.75円=6343.75円がA勤務に照らしたB勤務の午後10時から午後11時までの1時間を2割5分増しとした深夜勤務割増賃金を含めたB勤務1日当たりの賃金となるところを,実際にはこれを上回る1日6500円を被告は支給しているので,B勤務の当該賃金に1時間分の深夜割増分は含まれていると考えられるからである。
この点,所定の時間に休憩を取得できなかった場合には適時に取る旨の被告の指示もあることから,午後3時から所定の実働時間である7時間は午後10時まで稼働し,あとの午後10時から午後11時までの深夜勤務分のみ本来取れなかった休憩時間として1時間分後倒しに集めて,それをも勤務せざるを得なかったとして深夜勤務割増分を原告らは求めているとも考えられる(但し,原告らは当該勤務分として1.25の割増計算で請求しているものの,1.0をカウントする根拠は明らかでなく,むしろ,仮に請求可能であるとしたら,法定時間内残業の1時間分は労基法上は時間外割増賃金を支給しなくてもよいこと及び被告の就業規則に支給規定がないことからすると,0.25の割増計算をすべきことになる。)。
しかし,休憩時間の後倒しは,休憩を取ることを前提としたものであること,後倒しした深夜勤務にわたる休憩時間1時間分を法内残業として稼働したとしても,前記のようにB勤務1勤務分当たりの賃金単価に午後10時から午後11時までの当該時間帯の深夜割増分は折(ママ)り込み済みであると考えられることから,やはり原告らのB勤務の深夜割増賃金請求には理由がないものというべきである。
(2) そこで,A及びCの各勤務について,法定労働時間に照らして1勤務当たりの割増賃金がいくらになるかを各勤務形態ごとに計算すると,
ア A勤務1日当たりの時間外割増賃金
7000円÷8時間×1.25=1094円(1円未満を四捨五入)
イ C勤務1日当たりの時間外割増賃金
1万円÷8時間×1.25×2時間=3125円
となる。
各勤務の回数は別紙勤務表2のとおりであるから,これに上記1日当たりの単価を乗じて原告ら各人ごとの各勤務期間中の勤務形態ごとの割増賃金を証拠(<証拠略>)に基づいて計算すると,次のとおりとなる(上記証拠については,まず甲17の給与支給明細の勤務実績による各勤務形態ごとの月当たりの回数をカウントし,明細のない月は甲8ないし甲16のシフト表兼出勤簿によった。)。
原告X1 65万0977円
平成14年12月から平成17年6月までにA勤務158日,C勤務153日であるから,
A勤務分の時間外割増賃金の合計は,
1094円×158日=17万2852円
C勤務分の時間外割増賃金の合計は,
3125円×153日=47万8125円
原告X2 67万5977円
平成14年12月から平成17年6月までにA勤務158日,C勤務161日であるから,
A勤務分の時間外割増賃金の合計は,
1094円×158日=17万2852円
C勤務分の時間外割増賃金の合計は,
3125円×161日=50万3125円
原告X3 65万8164円
平成14年12月から平成17年6月までにA勤務156日,C勤務156日であるから,
A勤務分の時間外割増賃金の合計は,
1094円×156日=17万0664円
C勤務分の時間外割増賃金の合計は,
3125円×156日=48万7500円
原告X4 37万0492円
平成15年12月から平成17年6月までにA勤務93日,C勤務86日であるから,
A勤務分の時間外割増賃金の合計は,
1094円×93日=10万1742円
C勤務分の時間外割増賃金の合計は,
3125円×86日=26万8750円
(3) 被告は,各勤務形態ごとの全拘束時間に対して各勤務形態別の一日当たりの賃金を支払っている旨主張し,実際に,上記「休憩時間についてのお知らせ」の追記欄には,被告のSSにおける給与計算では,休憩時間分を除かずに,全拘束時間を対象として計算を行っている旨記載がある。
しかしながら,前記のようにそのような被告の賃金についての計算方法は,労基法34条1項に反するもので,同法13条に照らしてその限りで無効であり,上記のように実働時間に対する賃金としての効力しか有しないものというべきであるから,休憩時間であるA勤務1日当たりの1時間とC勤務1日当たりの2時間については法定時間外の割増賃金を支払う義務が被告に生じているものというべきであり,被告の上記主張は採用できない。
4 争点(3)(慰謝料)について
前記認定事実によれば,原告らは各勤務期間中労基法に照らした休憩を取ることができず,実際に食事やトイレ等の不便を被ったことによる精神的・肉体的苦痛が生じていること,被告においては,平成15年ころから被告の勤務体系では原告らが十分な休憩を取ることができないこと,法規に照らしても違反している疑いが生じていることを認識し得たことからすると,被告には原告らに対する関係で不法行為が成立するかあるいは労働契約上の休憩を与える債務の不履行が生じているものと考えられる。そして,上記事情に加えて,その後被告が勤務体制の変更のために従業員らと交渉したものの経営上の必要性を優先してトータル賃金額の増加を抑えた実質的な賃金単価の引き下げに相当する労働条件を提示したために原告らの同意を得ることができず,結局平成17年6月まで勤務状況が改善されないまま原告らは上記のような勤務を続けざるを得なかったことといった経緯・事情をも総合勘案すると,原告らの上記精神的苦痛を慰謝するために,被告は,原告X1,同X2及び同X3に対しては各自20万円,原告X4に対しては10万円を支払うべきであると思料する。
5 以上によれば,本件請求は,原告X1については時間外割増賃金分65万0977円及び別紙内金一覧表2の各内金額に対する各支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員並びに20万円及びこれに対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員,同X2については時間外割増賃金分67万5977円及び別紙内金一覧表2の各内金額に対する各支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員並びに20万円及びこれに対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合の金員,同X3については時間外割増賃金分65万8164円及び別紙内金一覧表2の各内金額に対する各支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員並びに20万円及びこれに対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合の金員,同X4については時間外割増賃金分37万0492円及び別紙内金一覧表2の各内金額に対する各支給日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員並びに10万円及びこれに対する平成17年7月1日から支払済みまで年6分の割合の金員の各限度で理由があるので,これを認容し,その余はいずれも理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 福島政幸)
別紙勤務表2
<省略>
別紙内金一覧表2
<省略>