東京地方裁判所 平成17年(ワ)6686号 判決 2005年11月28日
原告
全国労働者共済生活協同組合連合会
ほか一名
被告
ザ・キザシ・ヒロ有限会社
ほか二名
主文
一 被告らは、原告全国労働者共済生活協同組合連合会に対し、連帯して五一万二八一三円及びこれに対する平成一六年八月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告全国労働者共済生活協同組合連合会のその余の請求をいずれも棄却する。
三 被告Y1及び被告ザ・キザン・ヒロ有限会社は、原告東京海上日動火災保険株式会社に対し、連帯して二四万五五四〇円及びこれに対する平成一六年二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告東京海上日動火災保険株式会社のその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、原告全国労働者共済生活協同組合連合会と被告らとの間では、これを七分し、その一を同原告の負担とし、その余を被告らの負担とし、原告東京海上日動火災保険株式会社と被告Y1及び被告ザ・キザン・ヒロ有限会社との間では、これを五分し、その一を同原告の負担とし、その余を被告Y1及び被告ザ・キザン・ヒロ有限会社の負担とする。
六 この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告Y2が三五万円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(1) 被告らは、原告全国労働者共済生活協同組合連合会に対し、連帯して五九万六七九三円及びこれに対する平成一六年八月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 被告Y1及び被告ザ・キザン・ヒロ有限会社は、原告東京海上日動火災保険株式会社に対し、連帯して三〇万六九二五円及びこれに対する平成一六年二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(4) 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(3) 被告Y2につき仮執行免脱宣言
第二当事者の主張
(原告全国労働者共済生活協同組合連合会の請求について)
一 請求原因
(1) 事故の発生
Aは、所有する普通乗用自動車(<番号省略>。以下「A車両」という。)について、次の事故(以下「本件事故一」という。)に遭った。
日時 平成一六年一月二日午後五時四〇分ころ
場所 東京都千代田区神田駿河台二丁目三番お茶の水橋上
加害車両<1> 普通乗用自動車(<番号省略>。以下「Y1車両」という。)
<2> 普通乗用自動車(<番号省略>。以下「Y2車両」という。)
運転者<1> Y1車両につき被告Y1
<2> Y2車両につき被告Y2
事故の態様 片側二車線の道路の左側車線をA車両が、右側車線をY2車両がA車両に先行してそれぞれ走行していた(A車両からみてY2車両が右斜め前方を走行していた。)ところ、信号機による交通整理が行われている交差点を通過しようとした際、Y1車両が対向車線側から転回をしようとY2車両の前方に進入したことから、Y1車両との衝突を回避しようとしたY2車両が左にハンドルを切り、A車両の進路をふさいだため、A車両がY2車両と衝突した。
(2) 責任原因
ア 被告Y1
被告Y1は、自動車の運転者として、転回するに当たり、前方左右を注視し、安全を確認すべき義務があるのにこれを怠り、Y2車両との距離、その速度について目測を誤り、Y2車両の直前で進入した結果、本件事故一を発生させたから、民法七〇九条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負う。
イ 被告ザ・キザン・ヒロ有限会社(以下「被告会社」という。)
被告Y1は、本件事故一の当時、被告会社の従業員であり、その業務の執行中であったから、被告会社は、民法七一五条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負う。
ウ 被告Y2
被告Y2は、自動車の運転者として、前方を注視し、転回等をする車両があった場合には、安全に回避措置をとるべき義務があるのにこれを怠り、Y1車両との衝突を避けるため、左後方を確認せずに左側に回避措置をとった結果、本件事故一を発生させたから、民法七〇九条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負う。
エ 共同不法行為
被告Y1、被告会社及び被告Y2は、共同の不法行為によって本件事故一を発生させたから、民法七一九条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負う。
(3) 損害―A車両の修理費用 五九万六七九三円
(4) 保険代位
原告全国労働者共済生活協同組合連合会(以下「原告全労済」という。)は、本件事故一の当時、Aとの間で、Aを被共済者、A車両を被共済自動車とする車両共済契約(以下「本件契約一」という。)を締結していたところ、平成一六年八月三〇日、本件契約一に基づき、Aに対し、前記修理費用五九万六七九三円を保険金として支払った。
したがって、原告全労済は、Aが被告らに対して有していた損害賠償請求権を支払った保険金の額を限度として取得した。
(5) まとめ
よって、原告全労済は、被告らに対し、民法七〇九条、七一五条、七一九条に基づき、連帯して五九万六七九三円及びこれに対する保険金の支払の日の翌日である平成一六年八月三一日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告Y1及び被告会社の認否
(1) 請求原因(1)は否認する。
(2)ア 請求原因(2)アは否認ないし争う。
イ 同イのうち、被告Y1が、本件事故一の当時、被告会社の従業員であり、その業務の執行中であったことは認め、その余は争う。
ウ 同ウ及びエは否認する。
(3) 請求原因(3)及び(4)は否認する。
三 請求原因に対する被告Y2の認否
(1) 請求原因(1)のうち、Y2車両がA車両の進路をふさいだことは否認し、その余は認める。
(2) 請求原因(2)のうち、ア及びイは認め、その余は否認ないし争う。
(3) 請求原因(3)及び(4)は不知ないし争う。
四 被告らの主張
(1) 被告Y1及び被告会社
被告Y1は、車両の前後方の安全確認を行った(この時点でA車両及びY2車両は前方約八〇メートル先の交差点で停車していた。)上、転回を開始し、転回終了後道路左側に停車したところ、Y1車両の転回地点は転回が禁止されていない一方、転回地点と衝突地点とは三〇ないし四〇メートルの距離があり、回避は十分に可能であった。Y1車両とY2車両との衝突は、過剰回避、前方不注視、発進後の急加速に起因する両車両間の単純な衝突事故である。
(2) 被告Y1
Y2車両は、整備不良で左側車線に進入した可能性がある。
(3) 被告Y2
本件事故一は、Y2車両が、交差点の信号が青になり直進走行を始めたところ、対向車線前方右側にあるタクシー乗り場から発車したY1車両が急に転回を開始し、Y2車両の直前に割り込んだため、被告Y2がこれを回避すべく急ブレーキを掛けつつ左にハンドルを切った結果、Y2車両の左後方を走行してきたA車両と衝突したものである。
本件事故一は、被告Y1が、当該場所が交通頻繁な道路であり転回危険な場所である(交差点手前までは転回禁止規制がある。)から、そもそも転回すべきでなく、仮に転回するにしても進入先の対向車線の安全を十分に確認すべきであるのにこれを怠り、漫然と転回したことにより発生しており、責任は被告Y1にある。
被告Y2は、Y1車両との衝突を回避すべく、ブレーキを踏んだが、それだけでは衝突が避けられないと思い、更に左方にハンドルを切って被告Y1の不法行為に対する防衛行為をしたにすぎないから、民法七二〇条一項本文に基づき、損害賠償責任を負わない。
また、被告Y2に過失があるとすれば、Aにも過失があるというべきである。
(原告東京海上日動火災保険株式会社の請求について)
一 請求原因
(1) 事故の発生
被告Y2は、所有するY2車両について、次の事故(以下「本件事故二」という。)に遭った。
日時 平成一六年一月二日午後五時四〇分ころ
場所 東京都千代田区神田駿河台二丁目三番お茶の水橋上
加害車両 Y1車両
運転者 被告Y1
事故の態様 被告Y2は、Y2車両を運転して片側二車線の道路の右側車線(中央寄りの車線)を進行中、信号待ちのために停車していた交差点の信号が青になったことからY2車両を発進させ、当該交差点を渡りきろうとしたところ、右前方の対向歩道側で客を乗車させたY1車両がいきなり対向車線の左側車線から転回を開始し、Y2車両が走行する右側車線に進入してきたことから、衝突を回避するため、急ブレーキを掛けたが、急ブレーキだけでは衝突が避けられないと思い、更に左側車線に進路変更をして片側車両との衝突は回避したものの、Y2車両の左後方を直進走行してきたA車両がY2車両の急な進路変更に対応しきれず、Y2車両の後部左側に追突した。
(2) 責任原因
ア 被告Y1
被告Y1は、自動車の運転者として、Y1車両を発進させ対向車線に転回させるに当たり、前期場所が交通頻繁であり、転回を厳に慎むべき転回危険場所であったから、対向車線の交通状況及び安全確認を十分にすべき義務があったのにこれを怠り、本件事故二を発生させたから、民法七〇九条に基づき、被告Y2が本件事故二により被った損害を賠償すべき責任を負う。
イ 被告会社
被告Y1は、本件事故二の当時、被告会社の従業員であり、本件事故二は、その業務の執行につき発生したから、被告会社は、民法七一五条に基づき、被告Y2が本件事故二により被った損害を賠償すべき責任を負う。
(3) 損害―Y2車両の修理費用 三〇万六九二五円
(4) 保険代位
ア 原告東京海上日動火災保険株式会社(以下「原告会社」という。)は、損害保険業を営む株式会社であるところ、本件事故二の当時、被告Y2との間で、被告Y2を被保険者、Y2車両を被保険自動車、平成一五年一二月一〇日から平成一六年一二月一〇日までを保険期間とし、衝突、接触等によりY2車両に生じた損害をてん補することなどを内容とする自動車総合保険契約(以下「保険契約二」という。)を締結していた。
イ 原告会社は、本件契約二に基づき、平成一六年二月二五日、前記修理費用三〇万六九二五円を保険金として被告Y2に代わって修理会社であるBMW東京株式会社に支払った。
したがって、原告会社は、被告Y2が被告Y1及び被告会社に対して有していた損害賠償請求権を支払った保険金の額を限度として取得した。
(5) まとめ
よって、原告会社は、被告Y1及び被告会社に対し、民法七〇九条、七一五条に基づき、連帯して三〇万六九二五円及びこれに対する保険金の支払の日の翌日である平成一六年二月二六日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告Y1及び被告会社の認否
(1) 請求原因(1)は否認する。
(2)ア 請求原因(2)アは否認ないし争う。
イ 同イのうち、被告Y1が、本件事故二の当時、被告会社の従業員であり、その業務の執行中であったことは認め、その余は争う。
(3) 請求原因(3)及び(4)は否認する。
三 被告らの主張
(1) 被告Y1及び被告会社
原告全労済の請求について四(被告らの主張)(1)(被告Y1及び被告会社)と同じ。
(2) 被告Y1
原告全労済の請求について四(2)(被告Y1)と同じ。
第三証拠関係
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
第一原告全労済の請求について
一 請求原因(1)(本件事故一の発生)について
(1) 請求原因(1)の事実は、原告全労済と被告Y2との間では、Y2車両がA車両の進路をふさいだとの点を除き、争いがない。
(2) 証拠(甲イ一、二、五、九、ロ一、三、五ないし七、証人A、被告Y2)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
ア 本件事故一の場所は、お茶の水橋上をほぼ南北に走り、北は文京区湯島一丁目(外堀通り)方面に、南は駿河台下交差点方面にそれぞれ向かう、片側二車線のアスファルト舗装された平たんな道路(以下「南北道路」という。)で、付近には、ほぼ東西に走る(須田町方面から水道橋方面に至る)片側一車線の道路(以下「東西道路」という。)と交わる交差点(以下「本件交差点」という。)があり、信号機により交通整理が行われていた。
本件交差点には、南北道路上の北側と南側に横断歩道が設けられているところ、その間隔は約二〇メートルであった。
本件交差点の東側(東西道路の北側)にはJR御茶ノ水駅が存在し、御茶ノ水駅の北側で本件交差点から北に約二五メートル離れた地点がタクシー乗り場となっており、その手前にはバスの停留所があった。バスの停留所からタクシー乗り場にかけて幅員約二メートルの車線が設けられており、この付近は三車線(反対車線は二車線)となっていた。
南北道路の交通量は、外堀通り方面について、左側車線は普通であるが、右側車線は混雑していることが多かった。
南北道路の交通規制は、外堀通り方面について、制限速度時速四〇キロメートル、駐車禁止となっていた。
南北道路は、外堀通り方面に向かう場合、前方の見通しは良好であり、一月の午後五時三〇分ころは、照明があるものの暗かった。
イ 被告Y2は、平成一六年一月二日午後五時四〇分ころ、所有するY2車両を運転して、駿河台下交差点方面から外堀通り方面に向かい南北道路の右側車線を走行中(なお、被告Y2は、車両を運転して南北道路を時々通っていた。)、本件交差点の手前の交差点において、対面信号機が赤色を表示していたことから、いったん本件交差点の手前でY2車両を停止させた(停止位置は右側車線の先頭であった。)。
その後、被告Y2は、対面信号機の青色表示に従い、Y2車両を発進させ、本件交差点の対面信号機も青色を表示していたことから、せいぜい時速三〇キロメートルで右側車線を直進して本件交差点に進入し、その北側の横断歩道を横切ろうとしたところ、三、四メートル前方に、対向車線の右側のタクシー乗り場から発進した被告Y1運転のY1車両が、この横断歩道の近くになってセンターライン付近で停車することなく、Y2車両の走行車線に入るように右転回を開始したのを発見し、このままでは正面衝突すると思い、とっさに急ブレーキを掛けるとともに左にハンドルを切り、右側車線と左側車線との間のラインを斜めにまたいだ形でY2車両を停止させ、Y1車両との衝突を避けた。
ウ 他方、Aも、平成一六年一月二日午後五時四〇分ころ、所有するA車両を運転して、駿河台下交差点方面から外堀通り方面に向かい南北道路の右側車線を走行中、本件交差点の手前の交差点において、対面信号機が赤色を表示していたことから、いったんA車両をY2車両の直後に停止させた。
その後、Aは、対面信号機が青色表示に変わったことから、Y2車両に続いて時速約三〇キロメートルで発進し、一〇メートル程度進行した後、左折に備えて左側車線に進路変更をして直進を続け、本件交差点の対面信号機も青色を表示していたことから、本件交差点に進入し(その際、左側車線上には先行車両はなく、約七、八メートル前方の右側車線上をY2車両が走行していた。)、その北側の横断歩道を横切ろうとしたところ、前方一、二メートルの地点に、突然Y2車両が右側車線から左側車線に入ってきたことから、急ブレーキを掛けるとともに左にハンドルを切ったものの、A車両の右前部角がY2車両の左後部角に衝突し、両車両が損傷した。A車両がY2車両と衝突したのは、Y2車両がY1車両との衝突を避けるために停車してから数秒後のことであった。
二 請求原因(2)(責任原因)及び被告らの主張について
(1) 被告Y1について
請求原因(2)アの事実は、被告Y2との間では争いがない。
そして、前示事実関係によると、被告Y1は、自動車の運転者として、転回するに当たり、前方左右を注視し、安全を確認すべき義務があるのにこれを怠り、Y2車両との距離、その速度について目測を誤り、Y2車両の直前で転回をした結果、本件事故一を発生させたというべきであるから、民法七〇九条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負うということができる。
これに対し、被告Y1及び被告会社は、Y1車両の転回地点と本件事故一の場所との距離が三〇ないし四〇メートルであることを前提に、被告らの主張(1)(被告Y1及び被告会社)のとおり主張するが、Y1車両の転回地点と本件事故一の場所との距離が三〇ないし四〇メートルであったことを的確に裏付ける証拠はなく(前示のとおり、タクシー乗り場と本件交差点との距離は、約二五メートルであり、被告Y2は、三、四メートル前方に転回するY1車両を発見した後に、本件事故が発生している。)、被告Y1及び被告会社の前示主張は、その前提を欠いており、失当である。
また、被告Y1は、被告らの主張(2)(被告Y1)のとおり主張するが、この主張を的確に裏付ける証拠はない(被告Y2がY1車両との衝突を避けるため、とっさに急ブレーキを掛けるとともに左にハンドルを切ることは合理的である。)。
(2) 被告会社について
請求原因(2)イの事実は、被告Y2との間では争いがなく、同イのうち、被告Y1が、本件事故一の当時、被告会社の従業員であり、その業務の執行中であったことは、被告Y1及び被告会社との間で争いがない。
そうすると、前示のとおり、被告Y1は、民法七〇九条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負うから、被告会社も、民法七一五条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。
(3) 被告Y2について
前示事実関係によると、被告Y2は、自動車の運転者として、前方を注視し、転回等をする車両があった場合には、安全に回避措置をとるべき義務があるのにこれを怠った結果、本件事故一を発生させたというべきであるから、民法七〇九条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負うことができる。
これに対し、被告Y2は、被告らの主張(3)(被告Y2)のとおり「被告Y2は、Y1車両との衝突を回避すべく、ブレーキを踏んだが、それだけでは衝突が避けられないと思い、更に左方にハンドルを切って被告Y1の不法行為に対する防衛行為をしたにすぎないから、民法七二〇条一項本文に基づき、損害賠償責任を負わない。」と主張する。
しかしながら、前示のとおり、被告Y2は、車両を運転して南北道路を時時通っており、本件交差点から北に約二五メートル離れた地点がタクシー乗り場となっていることを認識していたというべきであるから、この乗り場から発進したタクシーの中には転回するものもあり得ることを予見することができ、本件交差点を通過するに当たり、前方を十分注視して速度を適宜調節するなどし、転回する車両の有無及びその動静に注意していれば、Y1車両の転回に速やかに気が付き、走行車線内で減速又は停止するなどの回避措置を講じることによって本件事故一の発生を避けられた可能性を全く否定することはできないのであって、左にハンドルを切って左側車線に進入したことがやむを得ない措置であったとまではいうことができず、被告Y2の前示主張は、採用できない。
(4) 共同不法行為について
前示したところによると、被告Y1及び被告Y2は、客観的にみて時間的、場所的、内容的に競合した複数の過失によって本件事故を発生させ、Aに不可分の損害を与えたということができるから、民法七一九条一項前段に基づき、Aが本件事故一により被った損害を連帯して賠償すべき責任を負うというべきである。そして、被告会社も、前示のとおり、民法七一五条に基づき、Aが本件事故一により被った損害を賠償すべき責任を負うから、被告Y1及び被告Y2と連帯して、Aが本件事故一により被った損害を連帯して賠償すべき責任を負うということができる。
(5) 過失相殺について
前示事実関係によると、Aは、本件交差点を通過するに当たり、前方を十分注視するとともに、速度を適宜調節した上、右側車線上を先行するY2車両との車間距離を十分確保してその動静に注意していれば、本件事故一の発生を避けられた可能性を否定できず、本件事故一の発生につき相当の落ち度があるというべきであり、その過失割合は一割が相当である。
三 請求原因(3)(損害)について
前示事実関係に証拠(甲イ三ないし六)及び弁論の全趣旨を総合すると、Aが所有するA車両は、初度登録平成一四年一二月、車名プジョー、走行距離三六七八キロメートル、車両共済金額二九〇万円であるところ、本件事故一の結果、フロントバンパー、右前ライト、ボンネット等が損傷し、五六万九七九三円の修理費を要することが認められるから、Aは、本件事故一の結果、同額の損害を被ったというべきである。
なお、Aの陳述書(甲イ九)には、A車両の修理費として五九万六七九三円を要するとの記載部分があるが、これを的確に裏付ける証拠に欠け、直ちに採用することができない。
四 請求原因(4)(保険代位)について
前示事実関係に、証拠(甲イ六ないし八)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告全労済は、本件事故一の当時、Aとの間で、Aを被共済者、A車両を被共済自動車とする車両共済契約(本件契約一)を締結していたところ、平成一六年八月三〇日、本件契約一に基づき、Aに対し、前示損害をてん補するため五六万九七九三円を保険金として支払ったことが認められる。
したがって、原告全労済は、Aが被告らに対して有していた損害賠償請求権を支払った保険金の額(ただし、Aの前示過失割合一割を減じた五一万二八一三円)を限度として取得したこととなる。
五 小括
以上によると、原告全労済の請求は、被告らに対し、連帯して五一万二八一三円の支払を求める限度で理由があることとなる。
第二原告会社の請求について
一 請求原因(1)(本件事故二の発生)について
第一の一において判示したところに照らすと、本件事故二の発生を認めることができるというべきである。
二 請求原因(2)(責任原因)について
(1) 被告Y1について
前示事実関係によると、被告Y1は、自動車の運転者として、Y1車両を発進させ対向車線に転回させるに当たり、対向車線の交通状況及び安全確認を十分にすべき義務があったのにこれを怠った結果、本件事故二を発生させたということができるから、民法七〇九条に基づき、被告Y2が本件事故二により被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。
これに対し、被告Y1及び被告会社は、Y1車両の転回地点と本件事故二の場所との距離が三〇ないし四〇メートルであることを前提に、本件事故二が過剰回避、前方不注視、発進後の急加速に起因する両車両間の単純な衝突事故であるなどと主張するが、前示のとおり、その前提を誤っており、採用することができない。また、Y2車両が整備不良で左側車線に進入した可能性があるとも主張するが、この主張が採用できないことは、第一の二(1)において判示したとおりである。
もっとも、前示のとおり、被告Y2は、本件交差点を通過するに当たり、前方を十分注視して速度を適宜調節するなどし、転回する車両の有無及びその動静に注意していれば、Y1車両の転回に速やかに気が付き、走行車線内で減速又は停止するなどの回避措置を講じることによって本件事故二の発生を避けられた可能性を否定できず、本件事故二の発生につき相当の落ち度があるというべきであり、その過失割合は二割が相当である。
(2) 被告会社について
請求原因(2)イ(被告会社)のうち、被告Y1が、本件事故二の当時、被告会社の従業員であり、その業務の執行中であったことは、当事者間に争いがない。
そうすると、前示のとおり、被告Y1は、民法七〇九条に基づき、被告Y2が本件事故二により被った損害を賠償すべき責任を負うから、被告会社も、民法七一五条に基づき、被告Y2が本件事故二により被った損害を賠償すべき責任を負うというべきである。
三 請求原因(3)(損害)について
前示事実関係に証拠(甲ロ三)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告Y2が所有するY2車両は、初度登録平成一〇年八月、車名ビー・エム・ダブリュー、走行距離二万三四六キロメートルであるところ、本件事故二の結果、リヤバンパー等が損傷し、三〇万六九二五円の修理費を要することが認められるから、被告Y2は、本件事故二の結果、同額の損害を被ったというべきである。
四 請求原因(4)(保険代位)について
前示事実関係に証拠(甲ロ二、四)を総合すると、原告会社は、損害保険業を営む株式会社であるところ、本件事故二の当時、被告Y2との間で、被告Y2を被保険者、Y2車両を被保険自動車、平成一五年一二月一〇日から平成一六年一二月一〇日までを保険期間とし、衝突、接触等によりY2車両に生じた損害をてん補することなどを内容とする自動車総合保険契約(本件契約二)を締結していたこと、原告会社は、本件契約二に基づき、平成一六年二月二五日、前示損害をてん補するため三〇万六九二五円を被告Y2に代わって修理会社であるBMW東京株式会社に支払ったことが認められる。
したがって、原告会社は、被告Y2が被告Y1及び被告会社に対して有していた損害賠償請求権を支払った保険金の額(ただし、被告Y2の前示過失割合二割を減じた二四万五五四〇円)を限度として取得したこととなる。
第三結論
以上の次第で、原告全労済の請求は、被告らに対し、連帯して五一万二八一三円及びこれに対する保険金の支払の日の翌日である平成一六年八月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからいずれも認容し、その余は失当であるからいずれも棄却し、原告会社の請求は、被告Y1及び被告会社に対し、連帯して二四万五五四〇円及びこれに対する保険金の支払の日の翌日である平成一六年二月二六日から支払済みまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからいずれも認容し、その余は失当であるからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行及びその免脱の各宣言につき同法二五九条一項及び三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林邦夫)