東京地方裁判所 平成17年(ワ)9579号 判決 2006年6月14日
第一事件原告
三井住友海上火災保険株式会社
ほか一名
第一事件被告
Y1
第二事件原告
有限会社一番町クリエイティブ
第二事件被告
株式会社ロードワーク
ほか一名
主文
一 第一事件被告は、第一事件原告三井住友海上火災保険株式会社に対し、金一五一万二〇〇〇円及びこれに対する平成一六年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第一事件被告は、第一事件原告兼第二事件被告株式会社ロードワークに対し、金六万三〇〇〇円及びこれに対する平成一六年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 第一事件原告兼第二事件被告株式会社ロードワーク及び第二事件被告Y2は、第二事件原告に対し、連帯して、金五四万六二一〇円及びこれに対する平成一六年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 第一事件原告三井住友海上火災保険株式会社及び第一事件原告兼第二事件被告株式会社ロードワークのその余の請求をいずれも棄却する。
五 第二事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、第一事件、第二事件を通じ、これを五分し、その二を第一事件原告三井住友海上火災保険株式会社、第一事件原告兼第二事件被告株式会社ロードワーク及び第二事件被告Y2の負担とし、その余を第一事件被告及び第二事件原告の負担とする。
七 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 第一事件
(1) 第一事件被告は、第一事件原告三井住友海上火災保険株式会社に対し、金一六八万円及びこれに対する平成一六年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 第一事件被告は、第一事件原告兼第二事件被告株式会社ロードワークに対し、金七万円及びこれに対する平成一六年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第二事件
第一事件原告兼第二事件被告株式会社ロードワーク及び第二事件被告Y2は、第二事件原告に対し、各自金六五万六九〇〇円及びこれに対する平成一六年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、第二事件被告Y2(以下「Y2」という。)が運転し、第一事件原告兼第二事件被告株式会社ロードワーク(以下「原告ロードワーク」という。)が所有する自動車(以下「原告車両」という。)と、第一事件被告(以下「被告Y1」という。)が運転し第二事件原告(以下「一番町クリエイティブ」といい、被告Y1及び一番町クリエイティブを合わせて「被告ら」という。)が所有する自動車(以下「被告車両」という。)が、高速道路上で衝突した交通事故による損害に関する訴訟である。
第一事件は、原告ロードワークと自動車保険契約を締結していた第一事件原告三井住友海上火災保険株式会社(以下「原告保険会社」といい、原告保険会社、同ロードワーク及びY2を合わせて「原告ら」という。)が、原告車両の修理代一七五万円のうち一六八万円を同保険契約に基づき支払ったことにより、原告ロードワークの被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を商法六六二条により代位取得したとして、被告Y1に対し、同額の求償金及び保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金を請求するとともに、原告ロードワークがその差額(免責額)七万円について、被告Y1に対し、不法行為に基づき損害賠償金及び事故発生日から支払済みまでの遅延損害金を請求している事案である。
第二事件は、被告車両の損害及び弁護士費用につき、一番町クリエイティブが原告ロードワーク及びY2に対し、不法行為及び使用者責任に基づき、損害賠償金及び事故発生日から支払済みまでの遅延損害金を請求している事案である。
二 前提となる事実(特に証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)
(1) 交通事故の発生
次の交通事故が発生した。
ア 日時 平成一六年五月一三日午後一時四五分ころ
イ 場所 神奈川県川崎市宮前区神木本町二丁目一九番二一号東名高速道路上り(以下「本件道路」という。)五・二キロポスト先(乙一の二)
ウ 原告車両 普通貨物自動車(<番号省略>)
Y2運転
エ 被告車両 普通乗用自動車(<番号省略>)
被告Y1運転、一番町クリエイティブ所有(乙一の一三)
オ 態様 被告車両が上記場所の片側三車線の道路の第二通行帯から第三通行帯へ進路変更したところ、被告車両の前方を走行していた氏名不詳者運転のトラック(以下「大型トラック」という。)が割り込むように第二通行帯から第三通行帯へ進路変更したため、被告Y1がハンドルを左に切ったところ、被告車両が回転し、その状態で左方向(第一通行帯方向)に進行した後、再度右方向へ斜走して第三通行帯に戻り、第三通行帯の後方から走行してきた原告車両と衝突した(以下、原告車両と被告車両の上記衝突を「本件事故」という。なお、事故態様の詳細については争いがある。)。
(2) 原告車両の損害
本件事故により、原告車両は、修理代一七五万円の損害を受けた。
(3) 原告車両に関する保険契約と保険金の支払
ア 原告保険会社は、原告ロードワークとの間で、平成一五年六月二七日、次の内容の自動車保険(MSB保険)契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した(甲三)。
被保険自動車 原告車両
車両保険金額 二一〇万円(免責金額七万円)
保険期間 平成一五年六月二七日から平成一六年六月二七日まで一年間
イ 原告保険会社は、平成一六年一〇月二七日、本件保険契約に基づき、車両保険金として一六八万円を支払い、原告ロードワークは、免責額七万円を負担した。(甲四、弁論の全趣旨)
(4) 原告ら
Y2は、原告ロードワークの従業員であり、本件事故は、原告ロードワークの事業の執行中に発生した。(乙一の六)
三 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 争点一 (事故態様、被告Y1及びY2の過失の有無及び割合)
(原告ら)
ア 被告Y1の過失
被告Y1は、法定速度一〇〇キロメートルを超える高速度で進路変更し、大型トラックの動静を十分に確認しないで進行したため、直前に至り大型トラックの進路変更に気付き、慌てて左転把したことによりスピンしたもので、本件事故はもっぱら被告Y1の過失により発生したものである。
イ Y2の過失の有無
Y2は、制御不能に陥った被告車両が、追い越し車線まで進行してくる前に左へ斜走したのを確認して急ブレーキをかけており、前方を十分注視していた。Y2に過失はない。Y2にとっては、被告車両が飛び込んできて衝突したものであり、避けることは不可能である。
ウ 過失割合
Y2に過失がない以上、Y2、被告Y1、大型トラック運転手の三者間の過失を問題とすべき事案ではない。仮にY2に何らかの過失を認めたとしても、被告Y1との過失を対比すべきであり、被告Y1の過失は大きく、Y2の責任を問うことはできない。
大型トラックの運転手は、事故現場から事故を認識したか否かは別としてそのまま走行しており、もはや誰もその住所、氏名、供述内容を知る由もない。かかる不明者の過失を本人の指示説明もないままに考慮することはできない。仮に大型トラックに過失があるとしても、大型トラック運転手の供述内容を確認できない以上、同人に過失の大半を押しつけるのは妥当ではなく、被告Y1の著しい過失を考えると、被告Y1六割、大型トラック運転手四割程度が妥当であろう。
(被告ら)
ア 被告Y1の過失の有無
被告Y1の警察での供述調書には、被告車両が時速約一二〇キロメートルで走行していたと記載され、Y2も警察では被告車両が時速一二〇キロメートル位で走行していたと述べているが、客観的に被告車両が時速一二〇キロメートルで走行していたとまでは認められず、時速一二〇キロメートルに達していたとしても、それは追越しの瞬間に加速したときの速度にすぎないといえ、また、それを超える速度で走行していたことを認めるに足りる証拠は一切ない。
本件道路においては時速一二〇キロメートル程度で走行する車両はごく普通にあり、その速度での走行は車線の流れに沿うものにすぎず、追越しのためには加速が必要であるから、被告Y1が追越しのために加速したこと自体は責められることではない。また、速度違反のような取締法規違反が直ちに民事過失に結び付くわけではなく、当該義務違反が事故発生との間に因果関係を持たなければならないところ、制限速度である時速一〇〇キロメートルで走行していたとしても本件事故は回避できなかったのであるから、速度違反と事故発生との間に相当因果関係は認められない。
大型トラックの進路変更は、追越し開始後の被告車両の直前でなされ、被告車両は進路を急にふさがれたため、衝突を避けるため左に急ハンドルを切りスピンして制御がきかなくなった。被告Y1は大型トラックの走行状況を具体的に指示説明しており、前方不注視の落ち度はない。また、被告Y1が無理な追越しをした証拠はない。
イ Y2の過失
本件事故は、基本的に、追越しをした被告車両の前方に無理な割り込みをした大型トラックに原因がある。しかし、Y2は、後方から、前方での大型トラックの無茶な割り込みと、その後の被告車両の異常走行を目撃したにもかかわらず、速度を緩めることなく漫然と走行し、被告車両が第三車線方向へ戻ってくる様相を呈した時点で初めてブレーキをかけたものである。Y2は、高速道路上において前方の被告車両が進路妨害され、スピンしている状況を目撃しているのであるから、二次衝突の危険を予測できたし、Y2が被告車両のスピンを目撃した時点で適切に制動するなどしていれば、本件事故は容易に回避されたはずである。
Y2の制動方法は明らかに道路、交通及び車両等の状況に応じた安全運転を怠ったものであり、Y2には本件事故について過失がある。そして、本件事故は、大型トラックと原告車両とが客観的に関連共同して惹起した不法行為となるので、Y2は、大型トラック運転手と連帯して、被告側に生じた損害を賠償すべき責任を負う(民法七一九条一項)ことになる。
ウ 過失割合
仮に被告Y1にも過失があるとした場合、大型トラックの運転手、Y2、被告Y1の三者の過失が客観的に関連競合して発生した事故ということになり、複数の加害者及び被害者の過失が競合する共同不法行為関係が成立する。そして、本件のような各行為者の過失の競合の類型では、各共同不法行為者間の過失割合を加算し、被害者は、他の加害者のいずれに対しても、自身の過失を損害額から相殺した残額について全額請求できるものと解すべきである。
そして、まず被告車両と大型トラックとに生じた非接触事故(第一事故)とその後被告車両と原告車両との間に生じた接触事故(第二事故)とを一応分けて考え、まず第二事故を検討する。第二事故では、被告Y1はその進行自体に落ち度がないため、その過失は第一事故発生の点のみに求められることになる。したがって、一応被告Y1の過失を考えるには第一事故の原因車両である大型トラックの過失も含めた一体のものとして、被告Y1側の過失などとして検討するのが相当であり、被告Y1側八割、Y2二割とすべきである。
次に第一事故について被告Y1の過失割合を検討すると、大型トラックがウインカーを出さずに進路変更していること、被告車両の直前に予想不可能な急激な割り込みをしていること、被告Y1に速度違反があることなどを考慮し、大型トラックの運転手九割、被告Y1一割が相当である。
そうすると、被告Y1は、第二事故における被告Y1側の過失(Y2に対し八割)のうちの一割の責任を負うと考えられるので、結局のところ、三者の過失割合は、被告Y1が八パーセント(八〇パーセントのうちの一〇パーセント)、大型トラックが七二パーセント(八〇パーセントのうちの九〇パーセント)、Y2が二〇パーセントという絶対的割合として算定される。
以上の過失を前提とすると、一番町クリエイティブは、大型トラック運転手、Y2及び原告ロードワークに対し、連帯して損害額の九二パーセントを請求できることになり(過失相殺八パーセント)、原告保険会社及び原告ロードワークは、被告Y1及び大型トラック運転手に対し、連帯して損害額の八〇パーセントを請求できることになる(過失相殺二〇パーセント)。
(2) 争点二(被告車両の損害及び因果関係)
(一番町クリエイティブ)
ア 損害額 合計六五万六九〇〇円
(ア) 車両全損時価額 五〇万〇〇〇〇円
被告車両の修理費は三三六万一二四〇円であるところ、同車両は平成二年三月登録のBMW五三五iであり、その時価額は、レッドブックを発行するオートガイド社の調査によれば、五〇万円である。よって、修理費が時価額を明らかに上回っているので、賠償の対象となる損害額は全損時価額五〇万円である。
(イ) 法定諸費用 五万六九〇〇円
全損の場合、賠償の対象となるのは、再取得に必要な費用であるから、法定諸費用のうち、少なくとも以下の金額については損害となる。
<1> 消費税 二万五〇〇〇円
<2> 自動車重量税 二万九四〇〇円
重量一・六トン、車検残期間一年二か月で月割りにして計算
<3> 車庫証明法定費用 二五〇〇円
(ウ) 弁護士費用 一〇万〇〇〇〇円
イ 被告車両は、原告車両と衝突するまでどこにも衝突していなかった。被告車両は原告車両から左後部フェンダー付近を衝突されたが、その損傷は著しいものであった。したがって、原告車両との衝突で大破したことになるのであって、本件事故と被告車両の損傷には相当因果関係がある。
(原告ロードワーク及び同Y2)
ア 損害額は否認する。
イ 被告車両は、本件事故前に側壁及びガードレールに衝突し、全損となった状態で原告車両と衝突したものであり、本件事故による損害はない。
第三当裁判所の判断
一 争点一 (事故態様、被告Y1及びY2の過失の有無及び割合)について
(1) 争いのない事実、証拠(文中に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故に至る経緯等について、次の事実が認められる。
ア 本件道路は、東名高速道路上り車線(静岡県方面から東京都方面へ向かう車線)であり、それぞれ幅員三・六メートルの三つの通行帯がある。東京都方面に向かって最も左側に位置する第一通行帯の左に幅二・四メートルの路側帯が設けられ、その左端にガードレールが設置されている。東京都方面に向かって最も右側に位置する第三通行帯の右には幅一・一メートルの側帯が設けられ、その更に右は、中央分離帯を挟んで反対車線となっている。本件事故の場所付近はほぼ直線で見通しは良好であり、本件事故当時、路面は乾燥していた。最高速度は時速一〇〇キロメートルである。(乙一の二)
イ 被告Y1は、被告車両を運転して本件道路の第二通行帯を走行していたが、同じ第二通行帯の前方に、八トンないし一〇トン程のシルバー又は白色のコンテナが積まれた大型トラックが走行していた。被告Y1は、大型トラックの速度が遅く感じたことなどから追い越そうと考え、加速して、大型トラックと被告車両との距離が近づいてから右側の第三通行帯へ進路変更を開始した。そのときの被告車両の速度は少なくとも時速約一二〇キロメートル程度であった。その後、被告車両が一〇〇メートル前後、時間にして三、四秒ほど第三通行帯を走行し、大型トラックを追い越そうとしたところ、大型トラックが突然、被告車両の数メートル先で第三通行帯へ進路を変更した。被告Y1は、突然進路をふさがれたためとっさに左へハンドルを切ったところ、被告車両が回転し、後方を向くような形で第一通行帯まで斜走し、その後再び第三通行帯へ斜走し、後方から第三通行帯を進行してきた原告車両が被告車両の左後部へ衝突した。被告車両は、衝突後、第一通行帯の方へ向かい、路側帯付近に進行方向に後部を向け、左端のガードレールに車体の右側を衝突させて停止した。
他方、Y2は、原告車両を運転して本件道路の第三通行帯を時速約九〇キロメートルで走行していたところ、第二通行帯を走行していた被告車両が第三通行帯の前方へ進路変更したことに気付いた。ところが、その後、第二通行帯を走行していた大型トラックが被告車両の前方で第三通行帯へ進路を変更し、被告車両が回転して第一通行帯へ向かって滑走するのを目撃した。Y2はそのまま第三通行帯を約八六・五メートル程度走行したが、被告車両が第一通行帯で横を向いているのに気付き、被告車両が第三通行帯へ向かっていたため、危険を感じて急ブレーキを掛けたものの、原告車両の前部が被告車両に衝突した。原告車両は、衝突後、約二三メートル先まで進行し、第三通行帯とその右側の側帯をまたぐ位置に停止した。(甲六、七、乙一の二ないし六、被告Y1本人)
ウ 被吉車両の速度については、被告Y1が警察における供述調書(乙一の五)で、時速約一二〇キロメートルであったことを自認している。この点、被告Y1は、本件道路の最高速度を超える時速約一二〇キロメートルで走行したという自己に不利益な事実自体を当初から認めている。また、被告車両の前方を走行していた大型トラックとの距離を被告車両が徐々に縮めた事実についても述べており、被告車両が大型トラックよりも速い速度であったと認められ、その速度が時速約一二〇キロメートルであることと矛盾するものではないといえるから、同人の供述は信用できるというべきである。他方、Y2は、被告車両が原告車両の後方から原告車両を追い越したと述べるが(甲七)、これを裏付ける客観的証拠はなく(被告Y1は、当初から被告車両が先行していたと供述している。)、ほかに、被告車両の速度が時速一二〇キロメートル以上であったことを認めるに足りる証拠はない。もっとも、被告Y1本人供述によっても、その速度が追越しのため加速中の速度を意味するのか、加速前の速度を意味するのかは必ずしも明らかではない。
したがって、被告車両が大型トラックを追い越す直前までのいずれかの時点で、被告車両の速度は時速一二〇キロメートルであったと認めるのが相当である。
エ 大型トラックの第三通行帯への進路変更について、被告Y1は、被告車両が第三通行帯へ進路変更してから一〇〇メートルほど進行したとき、かつ、時間にして三、四秒後に、大型トラックが進路変更したと供述している(乙一の四、五、被告Y1本人)。この点、同人の供述には一貫性があり、また、時速一二〇キロメートルは秒速約三三・三メートルであるから、その内容に整合性があるといえるので、多少の誤差はあるとしても、被告Y1の供述は信用できるものというべきである。他方、Y2は、被告車両が第三通行帯へ進路変更をした直後に大型トラックが第三通行帯へ進路変更したかのように供述している(甲七、乙一の三、六)。しかし、Y2は、後方から被告車両及び大型トラックを見ているため、その状況は正確ではない可能性がある。また、被告車両を認識したのは、第三通行帯に進入してきたときが初めてであると述べており、警察における供述でも、被告車両が第二通行帯から第三通行帯へ進路変更を開始した地点等について、必ずしも供述していないことが認められる(乙一の三)。よって、Y2の述べるように被告車両が第三通行帯へ進路変更をした直後に、大型トラックが進路変更をしたとは認められない。
したがって、被告車両が無理な追越し、進路変更をしたとは認められない。
また、大型トラックが進路変更に際し、あらかじめ合図をしたか否かについて、被告Y1は合図もなく進路変更をしたと述べているが(乙一の五、被告Y1本人)、大型トラック運転手の供述が得られない現時点において、被告Y1の供述を裏付ける証拠がなく、合図の有無を確定することができないといわざるを得ない。したがって、被告Y1が、あらかじめ合図を出していた大型トラックを、無理を承知で追い越したとも認められない。
オ Y2は、本件訴訟で提出した陳述書(甲七)の中で、被告車両が最初に回転して左へ向かったとき、アクセルから足を離し減速したと述べている。
しかし、Y2は、警察ではそのまま走行したと述べ、むしろ、被告車両が斜走した時、おかしいと思って減速すればよかったと述べているのであるから(乙一の六)、減速したとの上記供述(甲七)は、これと明らかに矛盾する。また、同人の供述については反対尋問を経ていないからその信用性には疑問が残る。よって、減速したとのY2の供述を採用することはできない。
(2) 以上を前提に、過失の有無及びその割合について判断する。
ア Y2は、大型トラックが被告車両の直前で進路変更をし、被告車両が回転して異常な走行をした状況を目撃したのであるから、二次衝突の危険を予測してハンドル、ブレーキ操作を適切に行うべきであったのにこれを怠り、漫然とそのまま進行したため、被告車両が第三通行帯へ向かう時点でブレーキ操作をしたものの間に合わず、被告車両に原告車両を衝突させたものであるから、道路、交通の状況に応じた安全運転をすべき義務に違反した過失がある。
イ 被告Y1は、最高速度時速一〇〇キロメートルを超える時速一二〇キロメートルの速度で走行し、大型トラックの車線変更に際し適切な回避措置をとることができず、回転して制御不能の状態に陥ったものであるから、速度超過の過失及び交通状況に応じた安全運転をすべき義務に違反した過失がある。
ウ ところで、大型トラック運転手の進路変更の際の具体的行動は必ずしもその全てが明らかではないものの、前記認定の本件事故に至る状況からすれば、被告車両が後方から接近しているにもかかわらず、その直前で進路変更をし、その結果、被告車両が大型トラックとの衝突を回避しようとしてハンドル操作をしたところ、回転して制御不能状態となり、その後、制御不能状態となった被告車両に原告車両が衝突したものである。したがって、大型トラックの運転手には、少なくとも進路変更に際し後方の安全確認が十分ではなかった過失があることは否定し難い。そして、本件は、原告車両及び被告車両の双方の損害がそれぞれ請求されている事案であるから、Y2及び被告Y1の各過失割合を定める必要があるところ、前記認定の本件事故に至る経緯及び本件事故態様からすれば、本件事故は、Y2、被告Y1及び大型トラック運転手の過失が競合して発生したものであって、かつ、本件事故の原因となった全ての過失の割合を認定することができるというべきである。そうすると、三者間の絶対的過失割合を認定し、これに基づく各被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らが連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきである。なお、本件において、大型トラック運転手は氏名不詳者であるが、そのことから直ちに、本件訴訟上明らかになった事故態様をもとにして三者の絶対的過失割合を認定すること自体が許されないということはできない。
そして、本件事故は、大型トラックの進路変更と被告車両との関係及び被告車両のスピンした状態での斜走と原告車両との関係が問題となる事案であるところ、Y2にとっては、被告車両の走行経路が正常ではないことを、被告車両が斜走し始めたのを目撃した時点で予測し得たというべきであるが、被告車両がいったんは第一通行帯へ進行したため、第三通行帯への進入は、いわば合図のない先行車両の進路変更の場合に類似したともいうべき状況であったといえること、被告車両が接近した状況下での大型トラック運転手の進路変更が本件事故の発端になったといわざるを得ないが、その際の合図の有無(ウインカーを点滅させたか否か)は証拠上明らかではないこと、被告車両の速度超過の事実は明らかであるというべきであるが、被告Y1にとって、大型トラックの進路変更は被告車両の数メートル先で行われており、その際の大型トラックと被告車両との位置関係等は厳密には確定し難いものの回避可能性の低いものであったことは否めないことなどを総合的に考慮すると、Y2の過失は一〇パーセント、被告Y1の過失は一〇パーセント、大型トラック運転手の過失は八〇パーセントとするのが相当である。
二 争点二(被告車両の損害及び因果関係)について
(1) 被告車両の損害と本件事故との相当因果関係について
原告らは、被告車両が原告車両と衝突する前、既に側壁等に衝突して全損状態となっていたと主張する。
しかし、本件事故直後である事故当日午後二時三五分から午後四時一〇分までに行われた実況見分の結果を記載した実況見分調書(乙一の二)上、原告車両と被告車両の衝突地点より手前のガードレールや側壁に被告車両が接触した痕跡は何ら認められず、同実況見分調書上に記載された被告車両のスリップ痕とガードレールないし縁石との間の距離や、スリップ痕が滑らかな曲線を描いていることなどから、被告車両が側壁等に衝突した事実はうかがわれない。また、被告車両の契約損害保険会社側において作成された状況図(甲五)の事故状況の説明欄には、ガードレールに衝突した旨の記載があるが、その根拠は明らかではなく、逆に、ガードレールや側壁等に残された衝突痕を現地で確認したことを認めるに足りる証拠はない(乙七参照)。同状況図の記載は被告Y1の供述を前提にしたとも考えられるが、被告Y1は、警察ではスピンして何回か何かにぶつかった衝撃があったと述べている一方、自分ではスピンしている間のことは分からなかったとも述べており(乙一の五)、回転した車両の中にいる状態で客観的状況を正確に把握することは容易ではないと考えられることや、同人は、当法廷では、二回大きな衝撃があり、後日確認した点も含め同人の認識としては、一回はタイヤがロックされたときの衝撃、もう一回は原告車両と衝突した際の衝撃であるとも述べていること(被告Y1本人)を考え併せると、結局、同人の供述から原告車両との衝突前に側壁等に衝突した事実を認めることはできないというべきである。
被告車両には、左後部から左側面にかけて大きな損傷が認められる(甲六)が、前記認定の事故態様と総合すると、原告車両との衝突によって生成されたと解するのが相当であり、また、右側面(リアドア、リアフェンダー)の損傷は、本件事故後に停止した位置(乙一の二)からすると、停止時に生成された損傷であると解するのが相当である。このほか、被告車両の左後部の側面には、黒色の擦過痕が認められるが(甲六)、これが、原告車両との衝突前に生成された側壁等との衝突による損傷であると認めるに足りる証拠はなく、ほかに、被告車両の損傷から、原告車両との衝突前における側壁等との衝突による損傷痕を認めることはできない。そして、左後部から左側面にかけての損傷が極めて大きいと認められることからすると、被告車両が後述する全損状態に至るほどの損傷は、原告車両との衝突によるものと解するのが相当である。
以上から、後述する被告車両の損害と本件事故との間には、相当因果関係が認められる。
(2) 被告車両の損害について
ア 車両時価額 五〇万〇〇〇〇円
被告車両は、車名BMW、型式E―H三五、仕様五三五i、初度登録平成二年三月であり、平成一六年五月当時の中古車小売価格(販売される車両本体のみの価格であり、諸費用は別である。)は、有限会社オートガイドによるレッドブックと同じ価格基準によると五〇万円であることが認められるので(乙一の一三、乙五)、被告車両の本件事故当時の時価額は五〇万円をもって相当と認める。他方、被告車両の本件事故による修理代は、明らかにこの金額を上回る金額と認められるので(乙二)、経済的全損であるといえる。したがって、車両時価額五〇万円をもって相当な損害額であると認めるのが相当である。
イ 再取得車両の消費税 二万五〇〇〇円
被告車両は前記アのとおり全損と判断され、同等車両の買替えのために必要な消費税は損害と認めるのが相当である。
50万円×5パーセント=2万5000円
ウ 自動車重量税 二万九四〇〇円
自動車重量税については、被告車両の本件事故当時における車検の有効期限の未経過分に相当する金額の限度で損害と認めるのが相当であるところ、被告車両の車検満了日は平成一七年七月一三日(本件事故当時の未経過期間は一年二か月)であり、車検期間二年、被告車両の重量は一・六トン、自動車重量税の税額は五万〇四〇〇円であるから(乙一の一三、乙二、六)、次のとおり二万九四〇〇円となる。
5万0400円×14か月/24か月=2万9400円
エ 再取得にかかる車庫証明法定費用 二五〇〇円
被告車両と同等車両の買替えのために必要な自動車保管場所証明書の申請手数料及び標章交付手数料として、少なくとも一番町クリエイティブ主張の二五〇〇円以上を要することから(一番町クリエイティブの所在地である東京都の警視庁関係手数料条例二条別表第一)、上記金額は相当である。
オ 小計 五五万六九〇〇円
カ 弁護士費用 五万〇〇〇〇円
キ 合計(過失相殺前) 六〇万六九〇〇円
三 まとめ
(1) 原告保険会社及び原告ロードワークの損害について
前記のとおり、原告車両の損害額は一七五万円(うち原告保険会社は一六八万円、原告ロードワークは七万円)であるところ、Y2の過失割合は一〇パーセントであるからこれを過失相殺した残額は一五七万五〇〇〇円(うち原告保険会社は一五一万二〇〇〇円、原告ロードワークは六万三〇〇〇円)となる。よって、被告Y1は、不法行為に基づき、原告保険会社に対しては一五一万二〇〇〇円、原告ロードワークに対しては六万三〇〇〇円の限度で責任を負う。
(2) 一番町クリエイティブの損害について
前記のとおり、被告車両の損害額は六〇万六九〇〇円であるところ、被告Y1の過失割合は一〇パーセントであるからこれを過失相殺した残額は五四万六二一〇円となる。よって、Y2は不法行為に基づき、原告ロードワークは使用者責任に基づき、一番町クリエイティブに対し、連帯して五四万六二一〇円の限度で責任を負う。
第四結論
以上の次第で、第一事件における原告保険会社及び原告ロードワークの本訴請求については、被告Y1に対し、原告保険会社は一五一万二〇〇〇円及びこれに対する保険金支払日の翌日である平成一六年一〇月二八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告ロードワークは六万三〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日である平成一六年五月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でいずれも理由があるから認容し、その余はいずれも失当として棄却することとする。また、第二事件における一番町クリエイティブの本訴請求については、Y2及び原告ロードワークに対し、連帯して五四万六二一〇円及びこれに対する本件事故発生の日である平成一六年五月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとする。
(裁判官 浅岡千香子)