大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成17年(借チ)3028号 決定 2006年6月19日

主文

1  申立人が別紙物件目録1記載の土地についての借地権を譲り受けることを許可する。

2  申立人は,相手方に対し,3378万5000円を支払え。

3  相手方の乙事件申立てを却下する。

理由

第1申立ての要旨

(甲事件)

1  申立人は,別紙物件目録1記載の土地(以下「体件土地」という。)上にある同目録3記載の建物(以下「本件建物」という。)について,東京地方裁判所平成15年(ケ)第1707号不動産競売事件において最高価買受人となり,平成17年5月24日に代金を納付してその所有権を取得した。

2  本件建物は,本件土地に関して以下の内容の賃借権(以下「本件借地権」という。)に基づいて金井企業株式会社が本件土地上に所有していたものであり,申立人は,本件借地権を譲り受けるについて,賃貸人である相手方の承諾を得る必要がある。

(1) 賃貸人 相手方

(2) 賃借人 金井企業株式会社

(3) 借地条件 堅固建物所有目的

(4) 残存期間 平成23年10月28日

(5) 地代 1か月80万円

3  申立人は,ビルの貸室業専門会社であるが,本件建物は全室貸店舗及び貸事務所としてこれまでどおり借家人に貸与されており,以後もその状況が継続されるので,相手方には何ら不利益は生じない。

4  申立人は,相手方に対し,本件借地権の譲受についての承諾を申し入れたが,相手方はこれを拒絶しており,協議が調わない。

5  よって,申立人は,相手方の承諾に代わる許可の裁判を求める。

(乙事件)

相手方は,本件建物及び本件借地権を自ら譲り受けるので,その旨の裁判を求める。

第2当裁判所の判断

1  甲事件について

(1)  本件記録及び審問の全趣旨によれば,申立ての要旨記載の各事実を認めることができるので,本件申立てを認容し,申立人の本件借地権の譲受を許可するのが相当である。

(2)  相手方は,申立人の営業実態は全く確認できず,その事業内容,営業所所在地,取引銀行,株主,従業員等を含め全く不明であるとして,申立人が借地人となることは,相手方にとって計り知れない不利益を生じさせ,借地権設定者に不利となるおそれがあることから,本件申立てについては許可されるべきではない旨主張する。

しかしながら,本件全記録及び審問の全趣旨によれば,申立人は,多数の不動産を有し,ビルの貸室業を営んでいることが認められるから,相手方の主張する事実を考慮したとしても,相手方に不利となる具体的なおそれがあるとまで認めることはできず,相手方の主張は採用できない。

(3)  そこで,付随処分について検討する。

ア 鑑定委員会は,本件土地の更地価格について,近隣の取引事例から時点修正等を施した標準価格の平均を1m2当たり300万5000円とし,公示地等に規準した価格(1m2当たり281万5000円及び291万1000円)との均衡を考慮して,本件土地の更地価格を前記標準価格を基準に3億7538万5000円とした。

そして,借地権割合及び借地権価格については,借地権取引に係る実態調査による取引割合(相続税路線価に対し95.3%),相続税財産評価基準による路線価図による借地権割合(90%)及び地元精通者の意見(80ないし90%)を参考に,本件土地の借地権割合を90%が相当であると判断し,上記更地価格にこの割合を乗じて,借地権価格を3億3784万7000円と算定した。

イ 以上の借地権価格を前提に,財産上の給付額については借地権価格の10%が相当であるとし,同価格の10%である3378万5000円が譲渡承諾料として相当であるとした。

ウ また,鑑定委員会は,本件土地の地代について,スライド法,利回り法,公租公課の倍率による方法を用いて地代を算出した上,現行賃料との比較で,原告賃料より低位なものが多く,周辺地代とのバランスも考慮して増額する必要はないとの意見を述べている。

(4)  以上の鑑定委員会の意見について検討するに,その意見及び根拠については,基礎資料の選択,評価方法,結論に至る過程の妥当性等の諸点から検討してみても,合理的であるから,相当として是認できるというべきである。

2  乙事件について

(1)  本件建物とその敷地との関係

本件記録及び審問の全趣旨によれば,本件建物は,本件土地及び申立外A(以下「A」」という。)所有に係る別紙物件目録2記載の土地(以下「申立外土地」という。)上にまたがって建築されていること,申立人とAとの間では,平成17年11月24日,同土地上の借地権について,申立人が譲り受けることを承諾する旨の和解が成立していることが認められる。また,相手方の本件申立てについて,Aがこれを承諾している事実は本件全記録によってもこれを認めることはできない。

(2)  本件は,上記のとおり,いわゆるまたがり建物であるが,本件において相手方の介入権申立てを認めると,本件建物のうち,申立外土地にかかる部分については相手方に占有権原がなく,かつ,同部分の利用について,今後Aと相手方との協議に委ねることは,本件建物の権利関係を複雑かつ不安定なものにするといわざるを得ない。

また,鑑定委員会の意見によれば,本件土地上に存在する部分について,申立外土地との境界に沿って本件建物を分離又は区分所有の対象とすることは建築技術上又は法令上不可能であることが認められるから,本件土地上の建物部分を分離・独立して介入権の対象とすることも相当ではないというべきである。

なお,相手方は,本件申立てにより,本件建物は,本件土地及び申立外土地の地積に応じて按分された共有持分のうち,本件土地に係る割合においてその共有持分権を取得し,その共有関係については申立人及び相手方の間で今後処理されるべきもので,借地非訟手続の審理の対象ではなく,それが本件申立ての障害事実とされるべきものではない旨主張するが,共有持分のみを取得すると解しても,申立外土地の占有権原について複雑かつ不安定な権利関係を生じることは,前記と同様であり,その主張は採用できない。

そうすると,本件申立てを認めることは本件建物に係る権利関係を複雑とし,かつ不安定とするもので,相手方の本件申立てについては,相当ではなく,これを却下することとする。

3  よって,主文のとおり決定する。

(別紙)

物件目録

1 所在 中央区○○a丁目

地番 106番12

地目 宅地

地積 124.92平方メートル

2 所在 東京都中央区○○a丁目

地番 106番14

地目 宅地

地積 24.84平方メートル

3 所在 中央区○○a丁目106番地4,106番地9

家屋番号 106番4の1

種類 店舗・事務所

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下2階塔屋付5階建

床面積 1階 140.33平方メートル

2階 140.33平方メートル

3階 120.39平方メートル

4階 97.98平方メートル

5階 77.42平方メートル

塔屋 6.57平方メートル

地下1階 140.33平方メートル

地下2階 140.33平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例