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東京地方裁判所 平成17年(刑わ)2921号 判決 2005年9月27日

主文

被告人を懲役2年6月に処する。

未決勾留日数中40日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、別紙一覧表記載のとおり、平成16年8月下旬ころから同年12月7日ころまでの間、前後7回にわたり、東京都世田谷区a二丁目34番13号都営下馬アパート204号室A方において、同人所有の現金合計725万円を窃取したものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は包括して刑法235条に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中40日をその刑に算入することとし、訴訟費用については刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件犯行当時、被告人と被害者は内縁関係にあり、刑法244条1項の規定は内縁関係にも適用または準用が認められるべきであるから、被告人は刑を免除されるべきであると主張するので、この点について以下判断する。

関係証拠によれば、被告人と被害者は昭和43年12月2日婚姻したが、昭和53年12月9日に協議離婚しており、本件犯行当時婚姻関係になかったことは明らかであるところ、刑法244条1項の「配偶者」とは民法上婚姻が有効に成立している場合に限られ、いわゆる内縁関係ないし準婚関係を含まないものと解すべきであり、仮に弁護人が主張するように本件犯行当時被告人と被害者が内縁関係にあったとしても、刑法244条1項を適用または準用すべきものではないから、弁護人の主張は採用できない。

(量刑の理由)

本件は、被告人が約4か月の間に、被害者方の金庫から前後7回にわたって現金を連続して窃取した窃盗の事案である。

被告人は、ギャンブル等に費消する資金欲しさに本件犯行に及んだものであって、その動機に酌量の余地はない。被告人は平成16年8月下旬ころから同年12月7日ころまでの約4か月足らずの間に、7回も同種犯行を繰り返していたものであって、被告人の盗癖は顕著であり、常習性が認められる。本件犯行の態様は、被害者方に同居していたことを奇貨として、被害者の不在中に鍵屋を呼んで「鍵が見つからないので、開けてほしい」などと申し向け、金庫を開錠させた上、現金を盗み、盗み取った現金の代わりに紙幣大に切った新聞紙を封筒に入れて金庫内に置き、犯行の発覚を防ぐなどその手口は大胆かつ巧妙であり、悪質である。また、被害額は現金合計725万円と非常に多額であって、犯行当時76歳の被害者は、老後の蓄えとしていた現金を盗まれたものであり、被害者が受けた被害の結果も重大である。被害については、約30万円が被害者に返還されたと認められるが、その余の被害は何ら回復されておらず、また今後回復される見込みもなく、被害者は厳しい処罰感情を持っている。

被告人は、本年6月の被告人の逮捕に至るまでの約5年間被害者方で同居していたことが認められる。しかしながら、被害者が被告人と同居を開始したのは、その当時新宿で浮浪者をしていた被告人が被害者宅を訪問してきたため哀れに思い被害者宅に入れたところ、居着いてしまったからであり、その後も被害者としては、単に経済的に困窮した被告人を居候させていたという認識であり、夫婦関係をやり直そうとして離婚前の関係に戻したり、実質的な意味での夫婦としての生活を営もうとする意思がなかったことは明白である。また、本件金庫内の現金についても、被害者が単独で管理しており、被告人には金庫の存在すら知らせなかったこと、同現金の持ち出しを被告人に対して許すなどといった意図が被害者に全くなかったことも明白である。したがって、被告人が被害者と同居していたという事情は、被告人の本件犯行において特に有利に酌むべき事情となるものではなく、むしろ、被害者方に居候させてもらっていながら、同居していたことを奇貨として本件犯行に及んだという被害者の厚意につけ込んだ背信的な犯行であると評価されるべきものである。

以上のとおり、被告人の刑事責任は重い。

他方、被告人は、本件発覚後被害者に対し、わずか30万円とはいえ返済し被害弁償の措置を講じていること、当公判廷で深く反省している旨述べていること、被告人には平成6年9月に道路交通法違反により罰金刑に処せられた前科以外には前科がないことなど被告人にとって酌むべき事情も認められる。

以上の事情を総合的に考慮して、主文の通りの刑を量定した次第である。

(求刑 懲役4年)

別紙一覧表

<省略>

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