東京地方裁判所 平成17年(行ウ)172号 判決 2006年3月27日
原告
東京西部一般労働組合
上記代表者執行委員長
V
上記訴訟代理人弁護士
小林克信
同
一瀬晴雄
被告
国
上記代表者法務大臣
杉浦正健
処分行政庁
中央労働委員会
上記委員会代表者会長
W
上記指定代理人
C
同
D
同
E
同
F
同
G
被告補助参加人
シマダヤ株式会社
上記代表者代表取締役
H
上記訴訟代理人弁護士
齋藤晴太郎
同
江川滿
同
関正晴
同
小澤信一
同
山田史彦
同
梅澤健
同
松田恭子
同
髙木志伸
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告に所属する中央労働委員会が,中労委平成15年(不再)第36号不当労働行為再審査申立事件について,平成16年12月15日付けでした命令のうち,原告の救済命令申立てを棄却した部分を取り消す。
第2事案の概要
本件事案の概要は,次のとおりである。
被告補助参加人シマダヤ株式会社(以下「補助参加人シマダヤ」という。)は,その子会社であるシマダヤ運輸株式会杜(以下「シマダヤ運輸」という。)の従業員が加入している原告から申入れのあった労働条件の変更等を議題とする団体交渉(以下「団交」という。)について,労働組合法(以下「労組法」という。)7条所定の「使用者」には当たらないとして応じなかった。これに対し,原告は,補助参加人シマダヤの団交拒否が不当労働行為に当たるとして,平成10年11月6日,団交応諾を求めて,東京都地方労働委員会(以下「都労委」という。)に対し,救済申立てをした(以下「本件初審」又は「本件初審申立て」という。)。都労委は,平成15年6月3日,補助参加人シマダヤに対し,原告との団交応諾を命ずる救済命令を発した(以下「本件初審命令」という。)ところ,これを不服とする補助参加人シマダヤが,同年7月18日,中央労働委員会(以下「中労委」という。)に対し,本件初審命令の取消しを求めて再審査申立てをした。中労委は,平成16年12月15日,補助参加人シマダヤが株式会社a物流(以下「a物流」という。)との間で物流業務委託基本契約を締結し,輸配送業務を同社に委託した(以下「本件業務委託契約」又は「本件業務委託」という。)ので,補助参加人シマダヤは労組法7条所定の「使用者」に該当しなくなったとして,本件初審命令を変更し,補助参加人シマダヤに対し,本件業務委託前の団交拒否について謝罪文の交付・掲示を命ずる救済命令を発した(以下「本件命令」という。)。本件は,原告が,中労委が所属する被告に対し,本件命令のうち,原告の救済命令申立てを棄却した部分の取消しを求めた事案であり,本件業務委託後も,補助参加人シマダヤが労組法7条所定の「使用者」に該当するか否かが問題となっている事案である。
1 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は,文章中又は文末に当該証拠等を掲記し,当事者間に争いのない事実は証拠等を掲記しない。)
(1) 当事者等
ア 補助参加人シマダヤ
補助参加人シマダヤは,ゆで生麺・冷凍麺等の製造販売を業とする株式会社であり,本件初審申立て当時,同社の商品輸配送業務をシマダヤ運輸に委託していた。
イ シマダヤ運輸
シマダヤ運輸は,補助参加人シマダヤのいわゆる100%出資の子会社であり,本件初審申立て当時,同社が唯一の荷主であった。
ウ 原告等
原告は,東京都の西部地域で働く労働者で組織されたいわゆる合同労組である。シマダヤ運輸の従業員A(以下「A」という。)らは,平成元年,シマダヤ運輸労働組合を結成したが,同10年9月7日,同組合を解散して原告に加入し,シマダヤ運輸分会を結成するとともに,Aが分会長に就任した。シマダヤ運輸分会の組合員数は,本件初審申立て当時11名であったが,平成11年10月には5名に減少した。
(2) 本件紛争に至る経緯
ア 補助参加人シマダヤのシマダヤ運輸に対する運賃引下げの申入れ等
(ア) 補助参加人シマダヤは,平成10年8月7日,シマダヤ運輸に対し,一部契約の解除,運賃の引下げ等を内容とする契約改定を申し入れた(以下「本件契約改定案」という。)。
(イ) 前記(ア)の申入れを受けて,シマダヤ運輸は,平成10年8月30日ころ,同社の従業員に対し,<1>賃金を引き下げること,<2>車輌の有効活用を図るため1人1車輌体制を廃止し,ローテーションとすることを提案した。
(ウ) Aほか8名は,平成10年9月7日,前記(イ)の賃金引下げ等の提案に対し,交渉力を強化するためにシマダヤ運輸労働組合を解散して原告に加入するとともに,シマダヤ運輸分会を結成した。原告は,平成10年9月8日,補助参加人シマダヤ及びシマダヤ運輸に対し,シマダヤ運輸労働組合を解散したこと,Aほか8名が原告に加入したこと,シマダヤ運輸労働組合とシマダヤ運輸との間で締結した協定等は原告が承継することを通知した。また,原告は,平成10年9月8日,シマダヤ運輸に対し,前記(イ)の提案の撤回,労使合意による労働条件の変更を求める団交を申し入れた。
(エ) 原告は,平成10年9月29日,同年10月20日,同月30日,シマダヤ運輸との間で,団交を実施したが,シマダヤ運輸側は賃金制度,車輌保有制度の改定の必要性を主張し,原告側は現状維持を主張して譲らず,解決には至らなかった。
イ 原告の補助参加人シマダヤに対する団交申入れ
(ア) 原告は,シマダヤ運輸従業員の労働条件の変更については,シマダヤ運輸には当事者能力に欠けるところがあるとして,平成10年9月17日,同年10月31日ころ,同年11月4日,補助参加人シマダヤに対し,団交を申し入れたが,同社は,同社とシマダヤ運輸は別個の法人であるとして,団交を拒否した。
(イ) そこで,原告は,平成10年11月6日,都労委に対し,補助参加人シマダヤを被申立人として,本件初審(都労委平成10年(不)第83号)を申し立てた(なお,原告は,平成12年3月3日付けで,請求する救済の内容を,補助参加人シマダヤは,原告から申し入れられた,<1>補助参加人シマダヤからシマダヤ運輸に支払われていた業務委託料が同年4月以降廃止されたこと,<2>補助参加人シマダヤの運賃が改定されたこと,<3>これらに伴うシマダヤ運輸の従業員の待遇(賃金・労働時間・トラックの社有制度)の変更に関する団交を拒否してはならないとの命令を求めると変更した。)。
(ウ) 補助参加人シマダヤは,平成10年12月,シマダヤ運輸に対する運賃等を本件契約改定案どおり改定した。シマダヤ運輸は,平成11年1月及び2月支払分の賃金については補助参加人シマダヤの運賃引下げ相当分を填補して従前どおり支払ったものの,同年3月支払分賃金からは填補することができないとして,運賃引下げ相当分の賃金引下げをした。
ウ 本件初審申立後の経過
(ア) シマダヤ運輸は,平成11年8月ころ,経営が更に悪化し,社会保険料を滞納するようになった。原告とシマダヤ運輸は,平成11年8月23日,都労委から事態の悪化を回避するための緊急の措置として話合いを要請され,同年9月28日開催の団交において,非組合員6名の車輌はシマダヤ運輸が管理し,組合員と非組合員とで配送コースを分離することに合意した。さらに,原告とシマダヤ運輸は,平成11年10月26日,原告組合員4名が担当するコース等について合意し,確認書を取り交わした。なお,シマダヤ運輸は,前記確認書締結後,非組合員について,車輌及び車輌にかかる経費を会社管理に変更するとともに,賃金体系を変更した。
(イ) 原告は,平成12年2月28日,補助参加人シマダヤに対し,紛争の抜本的解決を求め,<1>シマダヤ運輸の労働者の労働条件を平成10年8月の水準に回復すること,<2>シマダヤ運輸に支払われていた業務委託料を復活すること,並びにシマダヤ運輸の経営が成り立つ運賃を支払うこと,<3>車輌保有制度(1人1車輌体制)の変更に当たっては,補助参加人シマダヤの負担により労働者の納得できる金額で車輌を買い取ることを交渉議題とする団交を申し入れた。これに対し,補助参加人シマダヤは,平成12年3月2日付け文書で,団交には応じられないと回答した。
(3) 本件初審命令,本件命令の内容と当事者の対応
ア 都労委は,平成15年6月3日,補助参加人シマダヤに対し,同社が原告の同12年2月28日付け団交申入れに応じなかったことは,労組法7条2号所定の不当労働行為(正当な理由のない団交拒否)に当たるとして,補助参加人シマダヤが同10年12月から運賃を引き下げたことによって生じたシマダヤ運輸従業員である原告組合員の労働条件の変更に関する団交に誠意をもって応じなければならないとの本件初審命令を発した。
イ 本件業務委託契約等
補助参加人シマダヤは,本件初審の審問終結(平成12年4月25日)後である同14年4月23日,a物流との間で,本件業務委託契約を締結した。また,a物流は,平成14年6月1日,シマダヤ運輸との間で,物流業務委託契約を締結した。(<証拠略>)
ウ 補助参加人シマダヤは,平成15年7月18日,中労委に対し,本件初審命令の取消しを求めて再審査申立てをした(中労委平成15年(不再)第36号)。
エ 中労委は,平成16年12月15日,補助参加人シマダヤは本件業務委託前は労組法7条所定の「使用者」であったが,本件業務委託後は「使用者」ではなくなったとして,別紙<78頁-編注>のとおり,本件初審命令を変更し,補助参加人シマダヤに対し,本件業務委託前の団交拒否について謝罪文の交付・掲示を命ずるとともに,その余の再審査申立てを棄却する本件命令を発し,同命令は,同17年1月18日,原告に送達された。
オ 補助参加人シマダヤは,本件命令を受け入れ,裁判所に取消しを求めず,平成17年2月10日,原告に対し謝罪文を交付し,同月11日午前8時から同月22日午前8時までの間,シマダヤ運輸の運転手控室及び組合員専用室に謝罪文を掲示をした(<証拠略>)。これに対し,原告は,平成17年4月15日,本件命令のうち,原告の救済申立てを棄却した部分の取消しを求め,当裁判所に本訴を提起した。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
前記争いのない事実等からも明らかなとおり,当裁判所においては,原告と被告及び補助参加人シマダヤとの間では,本件業務委託前は補助参加人シマダヤがシマダヤ運輸の運転士の労働条件について労組法7条所定の「使用者」であったことは争いがない。したがって,本件の争点は,補助参加人シマダヤが,本件業務委託後も,労組法7条所定の「使用者」の地位にあるのか,それとも「使用者」の地位を喪失したのかという点である。そして,この点についての原告,被告,補助参加人の主張の概要は,以下のとおりである。
【原告】
(1) 補助参加人シマダヤは,本件業務委託後も,以下のとおり,シマダヤ運輸を支配しており,シマダヤ運輸の運転士の賃金等を実質的に決定できる地位にあり,労組法7条所定の「使用者」の地位にある。
ア 補助参加人シマダヤは,本件業務委託後も,シマダヤ運輸の全株式を保有し,人事・組織関係も支配しており,シマダヤ運輸の運転士の賃金等を実質的に決定できる地位にある。
イ 補助参加人シマダヤは,a物流と各運送会社との間の運賃について承認権を有し,また,a物流に対し再委託先である運送会社の変更等の改善要請ができるなど,a物流を自らの意向に沿うように利用することができ,a物流のシマダヤ運輸への輸配送業務の委託内容を実質的に指示ないし支配できる立場にある。実際,補助参加人シマダヤは,本件業務委託後,a物流武蔵物流センターのうち1階の一部を除き,すべて同社の事務所として使用し,シマダヤ物流センターに勤務していた同社従業員のうち,庫内業務に従事していた者をa物流武蔵配送センターに出向させ,従前と同一の業務に従事させている。そして,シマダヤ運輸は,本件業務委託後も,従前と同様に補助参加人シマダヤの商品の輸配送業務を行っており,少なくとも原告組合員については,商品の種類,納入先,輸送ルート等もほぼ同じであり,賃金その他の労働条件も変わっていない。
ウ 本件業務委託契約は,期間を原則として1年と定め長期間を予定しておらず,補助参加人シマダヤは,6か月前に書面で通告することにより同契約を解約できる約定となっており,いつでもa物流との業務委託契約関係を解消し,従来の補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸の輸配送に関する契約関係に戻すことができる。
(2) 補助参加人シマダヤは,秘密裡に本件業務委託を計画,推進し,本件初審の審問終了後に突如これを明らかにしたのであって,その態様は社会正義の観念ないし信義則に反する。本件において,補助参加人シマダヤの「使用者」性を認めないならば,子会社の従業員との間の団交を免れようとする親会社は,他社への業務委託という便法を用いることにより,容易に団交応諾義務を免れることができることになり,不当である。
【被告及び補助参加人シマダヤ】
(1) 補助参加人シマダヤは,物流体制の強化と効率化を図り,顧客ニーズに的確に対応するため,新たな物流制度の構築を検討していたところ,物流専門業者であるa物流との間で,庫内業務及び輸配送業務を委託する旨の合意が成立し,シマダヤ物流センターの機能をa物流武蔵物流センターに移転した。この結果,シマダヤ運輸は,補助参加人シマダヤとの契約関係がなくなり,a物流との間で輸配送業務委託契約を締結することとなった。このように,本件業務委託により,補助参加人シマダヤの物流業務は,a物流が一括管理するようになり,その中にシマダヤ運輸も組み込まれたのであって,補助参加人シマダヤから支払われる運賃によってシマダヤ運輸の運転士の賃金が実質的に決定されるということはなくなった。
補助参加人シマダヤは,シマダヤ物流センターが手狭になったことから,原告が補助参加人シマダヤに対し団交を申し入れる約5か月前から新物流センターについて検討をしていたのであり,本件業務委託は原告との団交を拒否するため行ったものではない。また,a物流は,自ら物流センターを新築し,平成14年6月2日から稼働させていること,再委託先はシマダヤ運輸1社だけではないことなどからすれば,補助参加人シマダヤがa物流を傀儡に用いているということはできない。
したがって,補助参加人シマダヤは,本件業務委託後は,シマダヤ運輸の運転士の労働条件について,労組法7条所定の「使用者」の地位にはない。
(2) 原告の主張に対する反論
ア a物流は,独自の判断に基づき補助参加人シマダヤの商品の輸配送業務を行っているのであり,当該業務を誰にどのように再委託するかなどについて,補助参加人シマダヤがa物流に対し一方的に指示・命令することなどできない。また,補助参加人シマダヤの従業員がa物流に出向したのは,a物流の一部自動化を取り入れた庫内業務システムに,補助参加人シマダヤが長年培ってきたチルド商品についてのノウハウを組み合わせることにより,庫内業務をスムーズに移行させ,作業の正確性や効率化を図り,商品の品質管理レベルを高める必要があったからである。
イ 本件業務委託契約の契約期間は1年と定められているが,同契約を解約するには協議が必要と定められており,補助参加人シマダヤが一方的に同契約を終了させることができるわけではない。また,補助参加人シマダヤのa物流への庫内業務,輸配送業務の委託は,補助参加人シマダヤにとって社運を賭けた一大プロジェクトであり,仮に本件業務委託契約を解約する場合には,補助参加人シマダヤも多額の損害等を負担することになるから,容易に解消できるものではない。
第3争点に対する判断
1 本件の判断枠組み
(1) 判断基準
労組法7条所定の「使用者」とは,一般に労働契約上の雇用主をいうが,同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除,是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに照らすと,雇用主以外の事業主であっても,当該労働者の基本的な労働条件等について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にある場合には,その限りにおいて,上記事業主は同条所定の「使用者」に当たるものと解するのが相当である(最三小判平成7年2月28日民集49巻2号559頁朝日放送事件参照)。
本件において,補助参加人シマダヤが,シマダヤ運輸の運転士に対する関係で労働契約上の雇用主に当たるものでないことは当事者間に争いがない。そして,本件で問題とされている団体交渉事項は,補助参加人シマダヤが平成10年12月からシマダヤ運輸に対する運賃を引き下げたことによって生じた同社の運転士が加入する原告所属の組合員の労働条件(賃金・労働時間・トラック社有制度)の変更に関する問題である。そうだとすると,補助参加人シマダヤが本件団交に応じる義務があるというためには,同社が,シマダヤ運輸の運転士の労働条件(賃金・労働時間・トラック社有制度)について,雇用主であるシマダヤ運輸と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にあったといえて,はじめて労組法7条所定の「使用者」に当たると解するのが相当である。
このような見地から,以下,補助参加人シマダヤは,本件業務委託後も,シマダヤ運輸の運転士の労働条件について,雇用主であるシマダヤ運輸と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位を有していたか否か検討するのが相当である。
(2) 判断方法
本件の特徴は,補助参加人シマダヤがa物流に対し本件業務委託する前は,補助参加人シマダヤがシマダヤ運輸の運転士の労働条件について労組法7条所定の「使用者」の地位にあったことについては,原告と被告及び補助参加人シマダヤとの間では争いがなく,本件業務委託後も「使用者」の地位を維持しているか否かが問題となっている点である。そこで,本件では,本件業務委託前と本件業務委託後でどのような点が変わったのか,あるいは変わらなかったのかを比較検討するのが相当である。そして,検討に当たっては,支配・決定の要素として,資本関係や人事面,組織面等における支配力の側面と労働関係における支配力の側面に一応区分できるので,その区分に従って判断していくことにする。
2 認定事実
証拠(文章中又は文末の括弧内に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いのない事実である。)。
(1) 本件業務委託前の資本関係,人事面,組織面等における支配力
ア シマダヤ運輸設立の経緯
補助参加人シマダヤは,従来,各営業所ごとに商品の製造と得意先への納入を行ってきたが,工場での生産が主となり,業務量の拡大に伴って輸配送業務の集中化の必要性が高まった。そこで,補助参加人シマダヤは,昭和56年7月,既存の運送会社を買収し,同社の商号をシマダヤ運輸有限会社に変更した(なお,シマダヤ運輸有限会社は,昭和59年8月,株式会社に組織変更し,シマダヤ運輸株式会社となった。)。シマダヤ運輸は,補助参加人シマダヤが工場で製造した商品を配送センターから関東各地の支店等に輸配送する業務を主として行っていた。そして,補助参加人シマダヤは,シマダヤ運輸を営業本部の傘下に位置付け,他に運送を担当する部門を設けていなかった。
イ 資本・組織・人的関係等
(ア) 補助参加人シマダヤは,シマダヤ運輸の全株式を保有している。
(イ) シマダヤ運輸の歴代の代表取締役は,いずれも補助参加人シマダヤ出身者であり,同社の役員を退任後にシマダヤ運輸の代表取締役に就任した1名を除きいずれも補助参加人シマダヤからの出向者であった。また,シマダヤ運輸の代表取締役と補助参加人シマダヤの取締役を兼務する者も数名いた。さらに,シマダヤ運輸の取締役もほとんどが補助参加人シマダヤ出身者であった。そして,シマダヤ運輸の役員人事は,補助参加人シマダヤ人事部が候補者を選定し,同社の経営会議で事実上決定されていた。
(ウ) 補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸は,就業規則の作成,従業員の採用,経理事務の処理はそれぞれ独自に行っているが,共済会は補助参加人シマダヤグループ全体で組織していた。
(エ) 補助参加人シマダヤは,平成11年当時,商品の運送について,シマダヤ運輸ほか13社と運送委託契約を締結していたが,シマダヤ運輸の取扱量は,補助参加人シマダヤの物流全体において金額ベースで22%を占めていた。他方,シマダヤ運輸は,補助参加人シマダヤを唯一の荷主としており,同社の商品を同社が設置するシマダヤ物流センターから関東各地の支店等へ輸配送する業務を主として行うほか,工場からシマダヤ物流センターへの輸配送業務を一部行っていた。
(オ) シマダヤ運輸は,シマダヤ物流センター1階を運転士控室として使用し,3階事務所を補助参加人シマダヤと共同して使用していた。そして,シマダヤ運輸の事務スペースには同社社長,業務部長,事務職員1名が勤務しており,同社独自の電話が設置されていたものの,シマダヤ物流センターの内線電話も設置されており,複写機は補助参加人シマダヤと共同して使用していた。
ウ シマダヤ運輸の車輌保有関係
(ア) 補助参加人シマダヤは,シマダヤ運輸発足前,商品の輸配送を車輌持ち込みの運転士らにさせていたところ,同社発足に伴い,前記運転士らを移籍させ,同社社員とした。そして,シマダヤ運輸は,車輌をいわゆる白ナンバーから青ナンバーに変更する関係から,前記運転士らの持ち込み車輌を個人名義から会社名義に変更した。その後,シマダヤ運輸は,平成4年ころ,車輌をリース契約によるものに変更した。
(イ) シマダヤ運輸は,本件初審申立て当時,大半の車輌をb社からリースしていたが,前記(ア)の経緯から,運転士1人に特定の車輌1台を割り当て,専属的に使用・保守管理をさせるという,いわゆる1人1車輌体制をとっていた。
(2) 本件業務委託前の労働関係における支配力
ア シマダヤ運輸の運賃は,同社発足当時,個建て方式(輸配送した商品の個数当たりの運賃)であったが,平成2年12月,過積載防止,労働時間短縮の観点から車建て方式(車輌別・運行コース別の運賃)に変更された。
イ シマダヤ運輸は,賃金規程上,運転士に対し,本給,運行手当,資格手当を支払う旨定めていた。しかし,シマダヤ運輸は,実際には,補助参加人シマダヤが提示した運賃を前提に,各運転士の1か月分の配送コース別の運賃を集計し,これを各運転士の売上と見なし,そこから,<1>シマダヤ運輸における社会保険料の事業者負担分等法定福利費,携帯電話の基本料金,運転士以外の事務職員らの賃金等に充てる「本部負担金」,<2>運転士が使用する車輌のリース料である「車代」,<3>中小企業退職金共済事業団への納付金,<4>燃料代,高速代,駐車場代,車輌修繕費等からなる「経費引当金」(<1>ないし<3>控除後の額の概ね30%)を控除した残額を概ね各運転士の賃金額としていた。したがって,シマダヤ運輸の運転士の賃金は,補助参加人シマダヤがシマダヤ運輸に提示した運賃に連動して増減する仕組みになっていた。
ウ シマダヤ運輸は,補助参加人シマダヤから,シマダヤ物流センターにおける在庫,配送等の管理業務委託料として,運賃総額の3%に相当する業務委託料を受領していたが,管理業務をほとんど行っていなかったことから,平成10年4月,管理業務委託料の支払を打ち切られた。
エ 前記(1)イ(エ)のとおり,シマダヤ運輸は補助参加人シマダヤを唯一の荷主としており,その収入の全てを補助参加人シマダヤから支払われる金員に依存していた。加えて,前記イのとおり,補助参加人シマダヤがシマダヤ運輸に提示した運賃が引き下げられれば同社の運転士の賃金も減少する仕組みになっていたことから,シマダヤ運輸は,前記ウの管理業務委託料廃止による減収に対処するため,シマダヤ運輸労働組合に対し,運転士の売上から控除する本部負担金の割合を10.7%から20%に引き上げることを提案し,交渉の結果,18%に引き上げるとの合意をした。これにより,シマダヤ運輸の運転士の賃金は,平成10年5月支給分から,本部負担金の引上げ分が実質的に引き下げられた結果となった。
(3) 本件業務委託後の資本関係,人事面,組織面等における支配力
補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸との間の資本関係や人事面及び組織面は,本件業務委託前と業務委託後で変化はない。
(4) 本件業務委託後の労働関係における支配力
ア 前記(1)ないし(3)によれば,補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸との間の(ママ)での資本関係,人事面,組織面等における支配力,労働関係における支配力の両面からみて,本件業務委託前は,補助参加人シマダヤは,シマダヤ運輸の運転士の賃金及び労働条件を雇用主であるシマダヤ運輸と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にあったこと,本件業務委託後も資本関係,人事面,組織面等における支配力については何ら変化がないことが認められる。そうだとすると,本件業務委託後も労働関係における支配力に変化がなければ,補助参加人シマダヤは労組法7条所定の「使用者」の地位を有していることになるところ,本件業務委託により,労働関係における支配関係に変化は見られるのか,見られないのか等を中心に,本件業務委託契約締結に至る経緯,本件業務委託契約の内容,本件業務委託による稼働状況,本件業務委託の効果等についてみてみることにする。
イ 本件業務委託契約に至る経緯
(ア) 補助参加人シマダヤは,昭和62年,物流の拠点としてシマダヤ物流センターを開設した。その後,補助参加人シマダヤは,売上げの増加に伴い物流が増加するとともに,得意先からの物流要請にきめ細かく対応することが不可欠となったが,シマダヤ物流センターはスペースが狭くて作業効率が悪く,品質管理のため温度管理を徹底する必要もあり,更に物流コスト削減のため,合理的な物流配送システムの構築が急務となっていた。そこで,補助参加人シマダヤは,平成10年4月ころから,シマダヤ物流センターの賃貸借契約の期限が到来する同14年5月末日までの対応策と同期限到来後の新たな物流体制について検討を始めた。補助参加人シマダヤは,当初,東京工場の隣接地に新物流センターを建設する検討を行ったが,当該土地が狭く,同土地上に新物流センターを建設するメリットが少ないことから,これを見送ることにした。次いで,補助参加人シマダヤは,新物流センターについて検討を進めるとともに,当面の対策として,埼玉センターの業務を外部委託し,物流増加への対応と効率化を図ることにした。(<証拠・人証略>)
(イ) 補助参加人シマダヤは,新物流センターを自社で建設するとすれば,莫大な費用がかかることから,建設の方法,ロケーション,スペース,新物流センターで果たすべき機能等について検討していたところ,平成12年4月,a物流から3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)の提案があった。当該提案内容は,<1>a物流が平成14年6月までに物流センターを建設する,<2>敷金,礼金はなく,賃料は契約期間内固定とする,<3>物流業務はアウトソーシングするというものであった。補助参加人シマダヤは,a物流のほかに,c物流株式会社,d株式会社,e通運株式会社,株式会社fなどからも3PLの提案を受けたが,物件,作業システム,コスト,企業力,社員の受入態勢の点から検討した結果,a物流の提案が優れていると判断し,同社に業務委託することにした。そして,a物流は,平成12年秋以降,a物流武蔵物流センターの建設に着工した。(<証拠・人証略>)
(ウ) 補助参加人シマダヤは,平成14年2月12日から同月14日までの間,同社の商品の輸配送を担当していたシマダヤ運輸,g社,h運輸株式会社,株式会社i運輸,j運輸株式会社,k通運株式会社,l運送株式会社,m運輸有限会社,株式会社n,o株式会社に対し,同年5月31日で輸配送契約を解除し,同年6月1日以降,輸配送業務をa物流に委託すると説明した(<証拠・人証略>)。
また,a物流は,平成14年3月19日,補助参加人シマダヤの商品の輸配送を担当していたシマダヤ運輸はじめ上記各運送会社に対し,新配送センターの概要,配送業務における方針,輸配送業務の再委託に関する合同説明会を開催した(<証拠・人証略>)。
さらに,a物流は,平成14年4月11日,補助参加人シマダヤの商品の輸配送を担当していたシマダヤ運輸はじめ上記各運送会社に対し,新配送ルート等の諸条件の協議に関する説明会を開催した(<証拠・人証略>)。
(エ) 補助参加人シマダヤは,平成14年4月23日,a物流との間で,庫内業務(入・出荷,保管,商品仕分等の業務)及び輸配送業務の委託を内容とする本件業務委託契約を締結した(<証拠・人証略>)。
ウ 本件業務委託契約の内容等
本件業務委託契約には,以下の規定が存在する(丙2,なお各条項中,「甲」とは補助参加人シマダヤのこと,「乙」とはa物流のこと,「本業務」とは補助参加人シマダヤの取り扱う商品の入出庫,保管,配送業務のことである)。
第2条(業務の範囲)
本契約に基づき甲が乙に委託する本業務の範囲及び商品は,別途覚書(なお,別途覚書の内容は後記エ(ウ)記載のとおりである)により定めるものとする。
第3条(委託場所)
乙は次のセンターにおいて本業務を遂行するものとする。
(名称) 株式会社a物流 武蔵物流センター
(所在地) 東京都武蔵村山市
第4条(料金)
本契約に基づき甲が乙に委託する本業務に対する料金については,別途覚書(なお,別途覚書の内容は後記エ(ウ)記載のとおりである)により定めるものとする。
第10条(再委託)
乙は,本業務履行のために第三者に本業務を委託することが出来るものとする。但し,乙は第三者の行為について事由の如何を問わず,一切責任を負うものとする。
第13条(業務の確認)
甲が必要と認める場合には,乙の本業務の遂行状況を確認し,甲が改善を要すると認める事由が発見された場合には,甲は乙に対し改善要請を行うことができる。
第18条(解約)
甲又は乙の何れかが,本契約を解約しようとする場合は,予め6ヶ月前迄に相手方に書面にて通知した上で,協議によりこれを決定するものとする。但し,解約後発生する諸費用及び,解約に伴って発生した損害については甲乙協議の上決定するものとする。
第22条(有効期間)
本契約の有効期間は,2002年6月1日から2003年5月31日迄の1年間とする。但し,期間満了6ヶ月前迄に,甲乙何れか一方から書面による申し出のないときには,本契約と同一条件で1年間継続するものとし,その後の更新についても同様とする。
エ a物流武蔵物流センター稼働までの経緯
(ア) シマダヤ運輸は,平成14年4月24日,補助参加人シマダヤからa物流武蔵物流センターの見取図を受領した。また,シマダヤ運輸のB社長は,平成14年4月24日ころ,補助参加人シマダヤから,a物流に委託する同年6月以降も,補助参加人シマダヤの輸配送業務は当面引き継ぐとの話を聞いた。シマダヤ運輸は,平成14年5月13日,従業員に対し,同年6月から補助参加人シマダヤの配送業務がa物流に委託されるが,仕事は今のところ変わらない旨説明した。(<証拠・人証略>)
(イ) 補助参加人シマダヤは,当初,平成14年6月からa物流武蔵物流センターを本稼働させる予定であったが,同年5月6日,a物流から同年4月末までに終える予定であった各運送会社との個別交渉等が終了していないとの報告を受けた。このような報告を受けて,補助参加人シマダヤは,毎年6月から8月までは最需要期であり,庫内業務と輸配送業務を一度にa物流方式で実施することには不安があったため,a物流との間で,3か月間は庫内業務を優先的に確立し,輸配送業務は同年9月1日から新システム(コース・コスト)にする旨合意した。(<証拠・人証略>)
(ウ) 補助参加人シマダヤは,平成14年6月1日,a物流との間で,本件業務委託契約書の第2条「業務範囲」,第4条「料金」について,以下のとおり,覚書を締結した(<証拠・人証略>,以下「本件覚書」という。なお各条項中,「甲」とは補助参加人シマダヤのことであり,「乙」とはa物流のことである。)。
第1条(業務範囲)
1 甲が乙に委託する業務(以下本業務という)の範囲は次の通りとする。
<1> 商品の配送・納品業務
<2> 空容器の回収業務
<3> 上記業務に付随し,予め取決められた事務業務
<4> その他甲乙協議の上,取決められた業務
2 甲が乙に委託する商品は,甲の取扱う包装済みの麺類及びその他関連商品とする。
第2条(料金)
1 甲が乙に委託する本業務に対する料金は,別途見積書を提出し,甲の承認のもとに料金を決定するものとする。但し,納品先所在地・納品先数・納品時間帯・納品形態・付帯作業の大幅な増減や変更の際には,当該料金を見直すものとする。
2 年末対応,備蓄業務等の特別作業で,既提出見積書に記載のない業務については,乙が甲に対し新たに見積書を提出し,甲の承認のもとに料金を決定するものとする。
(エ) a物流は,平成14年6月1日,シマダヤ運輸との間で,概略,以下のとおり,物流業務委託基本契約を締結し,同社に対し,補助参加人シマダヤの商品の輸配送業務の一部を再委託した(<証拠略>,なお各条項中,「甲」とはa物流のことであり,「乙」とはシマダヤ運輸のことである)。
第2条(業務内容)
乙は甲の指示に従い指定時間に配車するものとし,甲の指定する配送先への配送業務及び附帯業務とする。
第5条(料金)
本契約に基づき甲が乙に委託する本業務に対する料金については,別途覚書により定めるものとする。
第24条(契約期間)
本契約の有効期間は契約日より1年間とし,期間満了に際し甲又は乙の一方から他方に対し更新拒絶の意思表示なき場合は更に1年間更新されるものとし,その後も同様とする。
(オ) a物流武蔵物流センターは,平成14年6月2日,稼働を開始し,シマダヤ物流センターの機能が移転した。a物流武蔵物流センターは,シマダヤ物流センターに比べて,敷地面積が約2.7倍,冷蔵倉庫面積が約3.8倍,トラックスペースが約1.5倍の広さであった。また,a物流武蔵物流センターは,温度管理の完備,デジタルピッキングシステムの導入,バースの増設等,品質管理,作業効率上の設備が拡充された。なお,補助参加人シマダヤの生産管理部,業務部,西関東支店がa物流武蔵物流センターに移転し,同センター1階の一部はa物流の事務所となっているが,その他は補助参加人シマダヤの事務所等となっている。また,補助参加人シマダヤ従業員のうちシマダヤ物流センターの庫内業務に従事していた者は,a物流の子会社であるp物流サービス株式会社に出向したうえ,a物流武蔵物流センターにおいて,従前と同一の作業に従事することとなった。(<証拠・人証略>)
(カ) シマダヤ運輸は,a物流との間の本件業務委託契約に基づき,平成14年6月2日以降,a物流武蔵物流センターにおいて,補助参加人シマダヤの商品の輸配送業務を行うこととなったが,少なくとも,原告組合員に関しては,商品の種類・納入先・輸送ルート等は従前と概ね同一であり,賃金その他の労働条件も同一であった(<証拠略>)。
(キ) a物流は,平成14年9月以降,毎月,本件覚書2条の見積書に相当するものとして,「配送内容及び費用に関する取決め書」を作成して補助参加人シマダヤに提示し,同社の承認を得て,配送費用の支払を受けていた。前記取決め書には,各配送コース毎に,車種,運賃,運送会社等が記載されていた。(<証拠・人証略>)。
オ 本件業務委託による効果
(ア) 補助参加人シマダヤでは,平成14年8月と同15年8月の輸配送実績を比べると,納品件数が22件増加したにもかかわらず,配送コースは10コース減少し,1運行当たりの単価も荷重平均で1610円(7.6%)削減された。また,補助参加人シマダヤでは,a物流に輸配送業務を委託した平成14年下期(同年10月から同15年3月までの間)についてみれば,前年同期に比べて物流量が3.4%増加したにもかかわらず,輸配送費は2.7%減少した。(<証拠・人証略>)
(イ) 補助参加人シマダヤでは,本件業務委託により,庫内業務についてみれば,自動温度記録計等による庫内の温度管理の徹底,商品の出荷・履歴管理(トレーサービリティー)の改善,誤出荷の減少等が図られた(<証拠・人証略>)。
3 当裁判所の判断
(1) 既に前記2(4)アで指摘したとおり,前記2(1)ないし(3)によれば,補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸との間での資本関係,人事面,組織面等における支配力,労働関係における支配力の両面からみて,本件業務委託前は,補助参加人シマダヤは,シマダヤ運輸の運転士の賃金及び労働条件を雇用主であるシマダヤ運輸と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にあったこと,本件業務委託後も資本関係,人事面,組織面等における支配力については何ら変化がないことが認められる。そうだとすると,問題は,本件業務委託後も補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸との間の労働関係における支配力に変化がないのか,それとも,補助参加人シマダヤからa物流への本件業務委託により変化が起きたのかという点にかかってくるということになる。
(2) これを本件についてみるに,前記2(4)で認定した事実及び証拠(文章中の括弧内に掲記のもの)によれば,補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸及びその従業員である運転士との間の労働関係を巡る支配力に関する側面については,本件業務委託により,次のとおり変化したと認められる。
ア 補助参加人シマダヤは,平成14年4月23日,a物流との間で本件業務委託契約を締結して,同社に庫内業務及び輸配送業務を全面的に委託することとし,同年6月以降,庫内業務を中心に業務が移行し,同年9月以降,全面的に移行した。そして,補助参加人シマダヤがa物流に委託した業務は,商品の輸配送のみならず庫内業務を含む業務全般であった。(前記2(4)イ(エ),ウ,エ(イ),(ウ),(オ),(キ))
イ その結果,<1>補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸との間には,輸配送業務等について直接の契約関係はなくなり,シマダヤ運輸は,a物流との間で新たに業務委託契約(再委託契約)を締結するに至り(前記2(4)イ(ウ),エ(エ)),<2>補助参加人シマダヤは,同社の商品の輸配送業務については,a物流が毎月提出する本件覚書第2条所定の見積書に相当する「配送内容及び費用に関する取決め書」の内容について,同社との間で,協議,承認し得るにすぎなくなった(同エ(ウ),(キ))。
ウ そして,a物流が,前記イのとおり「配送内容及び費用に関する取決め書」に各配送コース毎の運賃,運送会社等を記載し,補助参加人シマダヤの承認を得ている理由は,補助参加人シマダヤに対して運賃総額の内訳を明示するとともに,同社の顧客対応の便宜を図るためであることが認められる(<人証略>及び弁論の全趣旨)。
エ また,補助参加人シマダヤは,本件業務委託契約13条に基づき,a物流に業務の改善要請をすることはできることになっている。しかし,証拠(<人証略>)によれば,<1>補助参加人シマダヤがa物流に対し,各運送会社に対する運賃等について指示等をすることはないこと,<2>上記取決め書に記載された各コース毎の運賃は飽くまで補助参加人シマダヤとa物流との間の単価であって,補助参加人シマダヤは,a物流が各運送会社に対し実際に支払っている運賃を把握していないことが認められる。
(3) 小括
前記(2)で摘示した各事実を総合すれば,補助参加人シマダヤは,本件業務委託後は,運賃を決定することなどによりシマダヤ運輸の運転士の賃金等の労働条件を実質的に決定するという関係はなくなったと評価するのが相当であり,これと同一の判断をしている本件命令は正当であり,本件命令の取消しを求める原告の請求は理由がないというほかない。
(4) 原告の主張に対する当裁判所の判断
以上のとおり,本件業務委託により補助参加人シマダヤは労組法7条所定の「使用者」の地位を喪失したとみるのが相当であるところ,原告はこれに反する主張をしているので,原告の主張に対する当裁判所の判断を示しておくことにする。
ア 争点に関する【原告】の主張(1)イについて
(ア) 原告は,補助参加人シマダヤがa物流を自らの意向に沿うように利用することができ,再委託先であるシマダヤ運輸との間の運賃を実質的に決定することができるから,本件業務委託後も,シマダヤ運輸の運転士の労働条件について労組法7条所定の「使用者」の地位を有していると主張する。
(イ) しかし,前記2(4),3(2)で認定した事実,証拠(文末の括弧内に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a a物流は,補助参加人シマダヤに対して3PLを提案した複数の業者の中から,条件が最も優れているとして選ばれた物流専門会社であり,補助参加人シマダヤとの間で何ら資本,人事,組織上の関係がない(前記2(4)イ(イ),弁論の全趣旨)。
b a物流は,約1年半かけて大規模な物流センターを新築したうえ,補助参加人シマダヤとの間で本件業務委託契約を締結し,シマダヤ運輸のほか数社との間で再委託契約を締結している(前記2(4)イ(イ)ないし(エ),エ(エ),<証拠略>)。
c a物流が,本件覚書第2条所定の見積書に相当する「配送内容及び費用に関する取決め書」に各配送コース毎の運賃,運送会社等を記載し,補助参加人シマダヤの承認を得ている趣旨は,前記3(2)ウで判示したとおりであり,補助参加人シマダヤがa物流に対し,各運送会社に対する運賃について指示等をすることはない(前記3(2)エ)。
(ウ) 前記(イ)で認定した各事実に照らすと,補助参加人シマダヤは,a物流を自らの意向に沿うように一方的に利用することができるような関係にはなく,補助参加人シマダヤが原告との団交を免れるため本件業務委託契約を締結したと認めることは困難というべきである。
確かに,シマダヤ運輸の運転士の業務,労働条件等は,本件業務委託後においても,概ね同一であることが認められる(前記2(4)エ(カ))。しかし,証拠(<人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,これはa物流がシマダヤ運輸との間の再委託契約に際し,従前の補助参加人シマダヤとシマダヤ運輸との間の業務委託契約の内容を踏襲した結果にすぎないものとうかがうことができる。したがって,前記2(4)エ(カ)の事実が存在するからといって,補助参加人シマダヤの「使用者」性を肯定することには繋がらないというべきである。
また,補助参加人シマダヤの従業員の一部がa物流の子会社に出向したうえ,従前シマダヤ物流センターにおいて行っていたのと同様の業務をa物流武蔵物流センターにおいて行っていることが認められる(前記2(4)エ(オ))。しかし,証拠(<証拠・人証略>)によれば,これは補助参加人シマダヤが有している庫内業務等のノウハウをa物流においても生かすため行われたものと認めることができる。そうだとすると,前記2(4)エ(オ)の事実が存在するからといって,補助参加人シマダヤの「使用者」性を肯定することにはならないはずである。
さらに,補助参加人シマダヤがa物流武蔵物流センターの大部分を事務所等として利用していることが認められる(前記2(4)エ(オ))。しかし,これは,単に本件業務委託契約に付随する契約内容にすぎず,これをもって補助参加人シマダヤがa物流を自己の意向に沿うよう利用することができる証左ということはできない。その他,補助参加人シマダヤが,a物流を自己の意向に沿うよう利用したり,a物流の各運送会社との間の再委託契約の内容を実質的に決定していると認めるに足りる証拠は存在しない。
(エ) 以上の検討結果によれば,前記(ア)の原告の主張は理由がなく,採用することができない。
イ 争点に関する【原告】の主張(1)ウについて
(ア) 原告は,補助参加人シマダヤがいつでも本件業務委託契約を解消することができるので,本件業務委託後も,シマダヤ運輸の運転士の労働条件について,労組法7条所定の「使用者」の地位を有していると主張する。
(イ) しかし,前記2(4)で認定した事実,証拠(文章中の括弧内に掲記のもの)によれば,次の事実が認められる。
a 補助参加人シマダヤは,原告から団交を申し入れられる約5か月前から,新たな物流体制について検討を開始していた(前記2(4)イ(ア))。
b a物流は,本件業務委託のため約1年半かけて大規模な物流センターを新築し(前記2(4)イ(イ),エ(オ)),本件業務委託契約に基づき,平成14年6月から,補助参加人シマダヤの庫内業務を開始し,同年9月からは輸配送業務も独自の判断で行うようになり(同2(4)エ(イ),(オ),(キ)),シマダヤ運輸のほか数社との間でも再委託契約を締結した(前記2(4)イ(ウ),<証拠略>)。
c 本件業務委託契約を締結したことにより,補助参加人シマダヤの庫内業務,輸配送業務について,一定の合理化が図られた(前記2(4)エ(オ),オ)。
d 本件業務委託契約によれば,契約期間は1年と定められているものの,更新拒絶の意思表示がない場合は更に1年間更新されることが規定され,途中解約については解約後発生する諸費用,解約に伴う損害について別途協議のうえ決定することが規定されており(前記2(4)ウ),簡単に解約し難い契約内容になっている。そして,そもそも本件業務委託契約は,補助参加人シマダヤが従来自ら運送会社と契約するなどして直接行ってきた庫内業務,輸配送業務を第三者に委ねるというものであって,社運を賭けた決断であったことに照らせば,特段の事情がない限り,本件業務委託契約の契約期間は長期間継続することが予定されていたということができ,補助参加人シマダヤがいつでも本件業務委託契約を解消することができるとは認め難い。そして,本件全証拠を検討するも,本件業務委託契約を短期間で打ち切ることについての特段の事情を認めるに足りる証拠は存在しない。
(ウ) 以上によれば,補助参加人シマダヤがいつでも本件業務委託契約を解消することができることを理由として同社が「使用者」に該当するとの上記(ア)の原告の主張は理由がなく,採用することができない。
ウ 争点に関する【原告】の主張(2)について
(ア) 原告は,補助参加人シマダヤが本件初審の審問終了後に本件業務委託計画を明らかにしたことは社会正義の観念ないし信義則に反し,仮に本件が不当労働行為に該当しないというのであれば,親会社は業務委託という便法を用いることにより,容易に子会社の従業員との団交応諾を免れることができる結果となり,不当であると主張する。
(イ) しかし,前記イ(イ)dでも判示したとおり,本件業務委託は,補助参加人シマダヤが社運を賭けた計画であったことに照らすと,同社が主張するとおり,新物流センターの建築等が完了し,契約内容の詳細が具体的に決定するまで,対外的に公表をすることができなかったことにも一応の合理性はあると認めるのが相当である。確かに,本件業務委託自体は,補助参加人シマダヤにとってシマダヤ運輸の運転士に対する「使用者」性を否定することに有利に働いているが,だからといって,補助参加人シマダヤが殊更労働委員会における審理を有利に運ぶために本件業務委託計画の主張を遅らせたと認めるに足りる証拠もなく,これが社会正義ないし信義則に反するとまでいうことはできない。そもそも,親会社が子会社の従業員について労組法7条所定の「使用者」といえるか否かを判断するに当たっては,前記1(1)で示したとおり,賃金等の基本的な労働条件等について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができるか否かという観点から判断すべきである。そうだとすると,他社へ業務委託した親会社は,子会社の従業員に対し,業務委託をしたからといって必ずしも団交応諾を免れることにはならず,その業務委託の実質を含む諸事情に照らして「使用者」性の有無を判断することになるのである。以上の理に照らせば,親会社である補助参加人シマダヤは本件業務委託という便法を用いることにより,容易に子会社であるシマダヤ運輸の従業員が加入する組合(原告)との団交応諾を免れることができることになるとの原告の主張は理由がなく,採用することができない。
(5) 以上検討したとおり,補助参加人シマダヤは,本件業務委託後,シマダヤ運輸の運転士の賃金等の労働条件について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にはなく,労組法7条所定の「使用者」には当たらないと解するのが相当である。
第4結語
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 難波孝一 裁判官 山口均 裁判官 知野明)
(別紙)
1 初審命令主文を次のとおり変更する。
再審査申立人は,再審査被申立人に対し,本命令受領後速やかに,下記の文書を手交するとともに,縦1メートル,横1.5メートルの白紙に下記の内容を明瞭に記載し,シマダヤ運輸株式会社の従業員の見やすい場所に,10日間掲示しなければならない。
記
平成 年 月 日
東京西部一般労働組合
執行委員長 I殿
シマダヤ株式会社
代表取締役 H<印>
当社が,貴組合から申入れのあった,平成10年12月実施の運賃引下げに伴うシマダヤ運輸株式会社従業員である貴組合員の労働条件の変更に関する団体交渉に,シマダヤ運輸株式会社とは別法人である等として応じなかったことは,中央労働委員会によって,労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認定されましたので,このことを当社は誠実に受け止めるものです。
(注:年月日は手交又は掲示した日を記入すること。)
2 その余の本件再審査申立てを棄却する。