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東京地方裁判所 平成17年(行ウ)52号 判決 2006年3月24日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成16年6月1日付けで原告に対してした原告所有の別紙物件目録(別紙1)記載の土地及び建物に係る平成16年度分の固定資産税及び都市計画税賦課処分(以下「本件賦課処分」という。)を取り消す。

第2事案の概要

本件は、宗教法人である原告が、別紙物件目録(別紙1)記載の土地及び建物のうち、動物の遺骨を収蔵保管している建物部分及びその敷地相当部分の土地は、非課税の対象となる「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」(地方税法348条2項3号)に該当するにもかかわらず、これを課税対象とした本件賦課処分は違法である旨主張して、その取消しを求めた事案である。

1  関係法令には次のような定めがある。

(1)  地方税法

343条

1項 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定のある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。

2項 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第2条第2項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録されている者をいう。(以下略)

348条

2項 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所有者に課することができる。

(中略)

3号 宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。)

702条の2

2項 前項に規定するもののほか、市町村は、第348条第2項(中略)の規定により固定資産税を課することができない土地又は家屋に対しては、都市計画税を課することができない。

(2)  宗教法人法

2条 この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう。

1号 礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体

2号 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体

3条 この法律において「境内建物」とは、第1号に掲げるような宗教法人の前条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の建物及び工作物をいい、「境内地」とは、第2号から第7号までに掲げるような宗教法人の同条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいう。

1号 本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の前条に規定する目的のために供される建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む)

2号 前号に掲げる建物又は工作物が存する一画の土地(立木竹その他建物及び工作物以外の定着物を含む。以下この条において同じ。)

3号 参道として用いられる道

4号 宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神せん田、仏供田、修道耕牧地等を含む。)

5号 庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地

6号 歴史、古記等によって密接な縁故がある土地

7号 前各号に掲げる建物、工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地

6条

1項 宗教法人は、公益事業を行うことができる。

2項 宗教法人は、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業を行うことができる。この場合において、収益を生じたときは、これを当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体又は当該宗教法人が援助する宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない。

2  前提事実等(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  原告

原告は、明暦3年(1657年)に開かれ、昭和28年5月7日、宗教法人法の規定により宗教法人となった寺院であり、別紙物件目録(別紙1)の土地①及び土地②並びに同目録の建物①(以下「A」という。)及び建物②(以下「供養塔」という。なお、これらの土地及び建物を併せて「本件各不動産」という。)を所有している。なお、別紙物件目録(別紙1)の土地①及び土地②については、原告が所有者としてそれぞれ登記されており(甲1、甲2)、A及び供養塔についても、未登記であるものの、原告が所有者である旨家屋補充課税台帳に登録されている(乙6、乙7)。

(2)  課税経緯

ア 被告は、平成15年8月5日、本件各不動産について現地調査を行い、A及び供養塔の一部に動物の遺骨の保管部分(以下「本件ロッカー部分」という。)があることを確認した(乙1)。

イ 被告は、原告に対し、地方税法343条及び同法702条並びに東京都都税条例4条の3、同条例118条及び同条例188条の26(乙2)に基づき、別紙処分目録等(別紙4)記載のとおり、平成16年6月1日付けで本件賦課処分を行った(甲3、甲4、乙3、乙4、乙6、乙7)。

ウ 原告は、同年7月21日、訴外東京都知事(以下「都知事」という。)に対し、本件賦課処分について審査請求を行ったところ、同年11月30日、都知事が、原告に対し、本件審査請求を棄却する旨の裁決を行った(甲5)ため、平成17年2月15日、本訴を提起した。

(3)  課税根拠

ア 本件賦課処分においては、別紙本件各建物の概要1及び同2(別紙3)記載のとおり、A及び供養塔のうち、それぞれ仏像の安置されている部分については地方税法348条2項3号の「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」に該当するものとして非課税とされ、これを除く本件ロッカー部分(A・総床面積364.52m2のうち336.59m2、供養塔・総床面積58.04m2のうち38.42m2。)を課税対象としている。

イ また、土地①及び土地②上に、それぞれA及び供養塔が存するところ、A及び供養塔の課税床面積に相当する部分が課税対象とされ、土地①の一部(地積206.96m2。別紙地籍図(別紙2)の貸付地と記載された部分)については、原告が第三者に貸付を行っていることから課税対象とされている。その結果、別紙課税地積等計算書(別紙5)記載のとおり、土地①については地積2688.00m2のうち295.60m2が、土地②については、地積452.00m2のうち25.43m2が課税対象面積である。

ウ なお、本件賦課処分について、A及び供養塔の本件ロッカー部分並びにその敷地相当分の土地が地方税法348条2項3号の非課税となる固定資産に該当するかどうかの点以外については、その適法性につき当事者間に争いがない。

3  争点

本件の争点は、本件ロッカー部分及びその敷地部分が「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」に該当するか否かである。

4  争点に係る当事者の主張

(1)  原告の主張

ア 原告の主張の概要

原告は、江戸時代における開祖以来、動物供養を積極的にその宗教活動の本務の1つとして行ってきたものであり、本件ロッカー部分及びその敷地部分は、諸動物供養のための施設及びその敷地部分であり、宗教法人が専らその本来の用に供する境内建物及び境内地であるから、地方税法348条2項3号及び同法702条の2第2項により、固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)が非課税とされるべきであって、本件課税処分は違法である。

イ 地方税法の非課税要件該当性

地方税法348条2項3号及び同法702条の2第2項の固定資産税等の非課税物件である「境内建物」に該当するためには、①宗教法人が専らその本来の用に供する「境内建物」であること、②本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所、その他宗教法人の建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む。)等のような宗教法人の宗教目的のために必要な建物であること、③宗教法人に固有の建物であることが必要である。

上記①の要件は、実際の使用状況からみて、当該建物が専ら宗教目的に使用されていることをいうところ、A、供養塔において、馬頭観世音菩薩像を取り囲むように本件ロッカー部分が存するのは、畜生界に配された馬頭観世音菩薩が諸動物を守るためのもので、諸動物の供養のために不可欠であること、本件ロッカー部分には個別に馬頭観世音菩薩を描いた位牌を貼付し、参拝者が遺骨ばかりでなく馬頭観世音菩薩をも拝めるようにしていること、原告では毎日勤行で諸動物のためにも読経をし、その他に、月一度の動物供養、春秋の彼岸・盆には大々的な法要を行い、原告の僧侶らが、A、供養塔を回って、諸動物の供養をしていることからすれば、A、供養塔全体が、専ら宗教法人たる原告の本来の用に供されているといえることは明らかである。

上記②の要件は、当該建物が宗教目的のために必要なものであることをいうところ、原告は、江戸時代の開祖間もない頃、徳川4代将軍家綱の愛馬の亡骸を境内に葬って、Bを建立したが、これが動物供養のA、供養塔の前身となっていること(甲7、甲8、甲14)、原告において、天保年間に人と共に犬あるいは猫の供養も行っていた記録が残っていること(甲9、甲10)、「○○」と題する文献(甲15)の「C」の項で「人ばかりではなく、猫の墓、猫塚から動物の墓まであって、非常にバラエティに富んでいて、水に火に遭難した人から有縁無縁、動物まで揃っているのがCの特色である。」と記載されていること等からも明らかなように、原告は、古くから、その本来的宗教活動の一環として動物供養を行ってきたものであるから、動物を供養する目的で建立されたA、供養塔は宗教目的のために必要なものである。

上記③の要件は、当該建物が、当該宗教法人の宗教目的のために必要なもので、当該宗教法人の存立のために欠くべからざる本来的なものであることをいうところ、A、供養塔での諸動物の供養は、原告の開祖間もない頃から行われてきた動物供養を継承してきたものであり、宗教目的のために必要で、原告の存立のために欠くべからざる本来的なものである。

ウ 被告主張に対する反論

(ア) 被告は、原告が諸動物の遺骨の保管にあたって、対価を得ており、これは民間事業者の行う葬祭事業に類似し、保管料相当額について収益事業として法人税を申告していることをもって、本件ロッカー部分は、収益事業のために使用されている資産であり、宗教法人が営むことがある公益事業(宗教法人法6条1項)、その他の事業(同条2項)のために使用されているものであるから、地方税法348条2項3号及び同法702条の2第2項の非課税の対象外である旨主張する。

(イ) しかし、原告が、A、供養塔全体で宗教儀式を行っているものであることは前記(4、(1)、イ)のとおりであるから、上記被告の主張は、本件ロッカー部分のみを切り分けることを前提としている点で誤りである。また、原告が法人税を申告していることをもって地方税法上の非課税の対象外であるとする点も、法人税法の解釈を、同法とは別異の観点から境内建物等を非課税とする地方税法の解釈に持ち込むもので誤りである。すなわち、法人税法においては、宗教法人を含む公益法人の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、各事業年度の所得に対する法人税を課することができない旨規定しており(同法7条)、これは、宗教的意義を有している行為から生ずる所得であっても、収益事業と認定される部分があれば、当該収益事業部分の所得については課税をする旨を定めているのに対し、地方税法においては、前記の①から③の要件を充足することをもって固定資産税等の非課税対象たる境内建物等の認定要件としているところであり、法人税法の非課税要件と地方税法の非課税要件は、別個の観点からの規定というべきなのである。また、法人税基本通達15-1-1は、「公益法人等(人格のない社団等を含む)が令5条1項各号に掲げる事業のいずれかに該当する事業を営む場合には、たとえその営む事業が当該公益法人等の本来の目的たる事業であるときであっても、当該事業から生ずる所得については法人税が課されることに留意する。」(甲16)としており、法人税法上収益事業と認められても、その法人の目的たる事業性が排除されるわけではない。D発行の「宗教法人とその税務」(甲17)においても、「宗教法人の営む収益事業が宗教法人の本来の目的たる事業に関しているものであっても、その事業から生ずる所得については法人税が課税されることになります。」と明記されている。このように、法人税法上、収益事業として課税される事業であっても、それが直ちに宗教法人法6条1項の公益事業、同条2項のその他の事業と評価されることになるわけではない。

さらに、原告は、動物供養について、特別の広告等を行っているものではないこと、基本的には、費用がかからない合祀を勧めており(本件ロッカー部分である動物の遺骨の安置場所の利用状況は、平成17年11月20日現在、Aが約41パーセント、供養塔が約65パーセントであり、このように、遺骨安置場所全てが使用されているわけではないことは、原告が遺骨安置場所への安置を勧誘・奨励したり、広告をせずに、合祀を勧めていることの証左である。)、A、供養塔にて遺骨を安置する場合であっても、当初1年は、費用を申し受けておらず、1年経過後さらに継続して安置を希望する供養主に対してのみ、人件費・建物維持費程度の費用を負担してもらい、供養を継続している。このように、原告の動物供養は、民間事業者の扱いとは明らかに異なるのであって、被告の主張には根本的な誤りがある。

なお、被告は、乙8の内閣法制局回答を援用し、「宗教法人が専らその本来の用に供する」境内建物等とは、宗教法人法2条に規定する宗教法人の目的の用に専ら供される境内建物等をいい、宗教法人が営むことがある公益事業(宗教法人法6条1項)及びその他の事業(同条第2項)の用に供される建物等はこれに含まれないとした上で、原告の諸動物の遺骨の保管の安置について収益事業を行っているのであるから、宗教法人法2条の本来的な宗教活動に当たらない旨主張するが、専ら宗教法人がその本来の用に供することと一部公益事業が行われていることとは、二律背反するものではなく、上記回答自体に疑問がある上、原告は、A、供養塔全体を宗教法人法2条の本来的な宗教活動の用に供しているのであって、宗教法人が営むことがある公益事業(同法6条1項)、その他の事業(同条2項)の用に供しているわけではないから、本件において上記回答を適用する余地はなく、被告の主張は失当である。

(2)  被告の主張

法348条2項3号の規定する「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法3条に規定する境内建物及び境内地」とは、「その本来の」と特に規定されているところからみて、宗教法人法2条の規定する宗教法人の目的、すなわち「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成すること」のために専ら供されるような境内建物等をいい、宗教法人が営むことがある公益事業(宗教法人法6条1項)及びその他の事業(同条2項)の用に供される建物等は、一般にこれに含まれないと解される(乙8)。また、法348条2項3号の規定は、当該固定資産の性格や具体的な用途の性質に鑑みて非課税とする趣旨であるから、その適用に当たっては、単なる名目や形式ではなく、使用実態に応じて判断すべきものである(乙10)。

これを本件についてみると、本件ロッカー部分は、原告の檀家あるいはその他の一般動物愛好家の飼育していた諸動物が死亡し、火葬に付された後の遺骨保管場所として使用されていることが認められるところ、その保管に当たっては、1年毎に年間2万円、3万5000円、5万円の料金が依頼者から原告に支払われていること(乙11)、原告が、自ら、法人税法上の収益事業に当たるとして、その収入について法人税の申告をしていること(乙5)からすれば、原告の行っている動物の遺骨保管と依頼者の支払う料金には対価関係が認められる。

また、民間事業者のペット霊園事業の業務内容と、原告が本件ロッカー部分で行っている動物の遺骨保管を比べてみると、ペットを葬祭する民間事業者の業務内容は、概ね①焼却後のペットの遺骨の扱いについて「合祀」、「納骨堂に保管」、「埋葬」の形態があり、それぞれ、一定の料金を設定して依頼者から預かり、②料金体系の具体的な内容については必ずしも積極的に宣伝しているわけではなく、詳細は問い合わせに回答するという形で行っていることが多く、③納骨堂使用料金にはばらつきがあるが、平均年間2万円程度であるのに対し、原告においても、依頼者が原告に対し一定の料金を支払うことを約し、これに対して原告が本件ロッカー部分において遺骨保管を行うことを約していること、その料金水準が2万円、3万5000円、5万円であること、ロッカー形式の納骨堂で保管していることなど、両者の間には共通点が多い。なお、料金体系の具体的内容を積極的に宣伝していないという点についても、民間事業者の行うものと比較して、顕著な相違であるとはいえない。

原告は、2万円、3万5000円、5万円の費用は、動物の霊の安置・供養料であり、人件費、建物維持費相当の料金であって、遺骨保管の対価ではない旨主張するが、その区分は明確ではなく、これらの費用と遺骨保管との間の対価性を否定することはできない。

また、原告は、本件ロッカー部分には、1年間無料で使用に供されている部分がある旨主張して対価関係を否定しているが、仮に本件ロッカー部分のうち一定期間無料で使用に供されている部分があるとしても、原告の主張によっても1年経過後は有料保管になることからすれば、原告の行う「ペット葬祭業」のサービスの全体としてみれば、全く対価を伴わない純然たる無償使用とはいえず、当該保管行為に対価性がないとまではいえない。

さらに、原告は、本件ロッカー部分で原告が行っている動物の遺骨保管は、江戸時代から現在に至るまで連錦として行ってきた動物供養の流れを汲むものであることや、特別に広告を行っていないこと等を理由に、民間事業者の行うものとは明らかに異なる旨主張する。しかし、古くから行っているか否か、動物供養等の儀式が行われているか否か、あるいは一般人を対象に特別に広告等を行っているか否かという点で、仮に他の民間事業者の行うものと相違があったとしても、そのことによって「対価性」についての上記の判断が左右されるものではない。

以上のように、原告の本件ロッカー部分を使用した動物の遺骨の保管は、対価性という点において民間事業者の行う同種の事業と異なる点が認められないから、宗教法人法6条1項の公益事業あるいは同条2項のその他の事業に該当する。したがって、本件ロッカー部分は、法348条2項3号のいう「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」に該当しないといわざるを得ない。

第3当裁判所の判断

1  証拠(以下認定事実毎に個別に掲げる)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(1)  原告は、明暦3年(1657年)に、徳川家綱の命によって開かれた寺院であり、同年にあった大火によって10万人以上の死者があり、それらの者の大部分が身元・身寄りがわからないものであったため、それら無縁の人々の亡骸を手厚く葬るように、現在地を含むα川の東岸の土地が、徳川家綱より与えられたのが、原告の開祖の由来であるとされ、「有縁・無縁に関わらず、人・動物に関わらず、生あるすべてのものへの仏の慈悲を説く」ことを宗教上の理念として掲げている。原告の開祖間もない江戸時代初期、徳川家綱の愛馬が死亡し、上意によって、その亡骸を葬ることになり、Bを建立し、それが現在のA、供養塔の前身となっている(甲6の2、甲7、甲8)。

原告の檀家数は、約800家であり、檀家については原告境内に墓地がある。その他、正式な檀家ではないが、檀家に準ずる者として住所氏名を登録し、寺院の新聞や行事の案内の送付等のやりとりや年数回の法要を継続的に行う準檀家が200名ほどある。葬儀は年間平均して約50件、法事は年間平均して約270件ほどが営まれている(弁論の全趣旨)。

(2)  原告における諸動物の供養の受け入れ、その供養方法は以下のとおりである(弁論の全趣旨)。

ア 原告では、檀家だけでなく、その他一般動物愛好家の飼育していた諸動物の供養も受け入れており、動物の遺体が原告に持ち込まれ、個別の供養が選択されると、一旦Aの霊安室に安置し、外部に火葬に出され、その後遺骨が戻ってくると、供養主の選択により、その者に引き取ってもらうか、1年間無料でA、供養塔の本件ロッカー部分で遺骨を安置している。

なお、供養主が、当初から合同の供養を望む時は、合同の火葬に付した後、原告境内地の1箇所に合葬している。

イ 原告で個別に供養する遺骨については、当初の1年間が経過すると、供養主の選択により、その者が引き取るか、合祀に付するか、あるいは、その後は有料で、A、供養塔の本件ロッカー部分で引き続き供養している。

原告は、1年経過後、その段階で引き取り又は合祀を求めない供養主から、年間5万円、3万5000円、2万円を動物の霊の安置・供養料として申し受けている。年間5万円の安置・供養料が設定されている安置場所は、供養塔1階であり、年間3万5000円の安置・供養料が設定されている安置場所は、A1階及び2階の一部であり、年間2万円の安置・供養料が設定されている安置場所は、A地下1階及び3階並びに供養塔地下1階となっている。原告は、この費用の差は、仏像に近い場所に安置を望む供養主が多く、その偏在を解消するために、安置場所が仏像に近い場所の費用を高めに設定したものであると説明している。

ウ 原告では、供養主から動物の遺体、遺骨が差し出された段階で、午後4時の勤行で、新たに死亡した動物の名前を読み上げ、本堂で追善供養を行っている。また、毎日午前7時の勤行の際に動物供養を行う他、月に1度、午前10時に亡き動物の飼育者であった参拝者らの列席の下、動物供養を行い、さらに、春・秋の彼岸と盆の1年に3回は大々的法要を行い、原告の僧侶らがA、供養塔を回って諸動物の供養を行っている。

(3)  A、供養塔の使用状況は以下のとおりである(甲11、甲12)。

ア Aについて

Aは、別紙地籍図(別紙2)のA(建物①)と記されたところに位置する地下1階、地上3階建ての建物であり、その概要は、別紙本件各建物の概要1(別紙3)に記載のように、1階中央部分に馬頭観世音菩薩像が安置されており、それを取り囲むように、諸動物の遺骨の安置場所があり、2階中央部分は、馬頭観世音菩薩像の安置部分及び吹き抜け部分があり、それを取り囲むように、諸動物の遺骨の安置場所があり、3階、地下1階部分は、全て諸動物の遺骨の安置場所となっている。

イ 供養塔について

供養塔は、別紙地籍図(別紙2)の供養塔(建物②)と記されたところに位置する地上1階、地下1階建ての建物であり、その概要は、別紙本件各建物の概要2(別紙3)に記載のように、1階部分は、中央部分に馬頭観世音菩薩像が安置されており、それを取り囲むように諸動物の遺骨の安置場所があり、地下1階部分は、全て諸動物の遺骨の安置場所となっている

ウ 諸動物の遺骨の安置場所は、一般に物を保管するために使用されているものに類似したロッカーが使用されており、遺骨が安置されているロッカーの各扉には、馬頭観世音菩薩像を描いた紙製の位牌が貼付されている。

(4)  ペット動物を埋葬する民間事業者の実態については以下の特色が認められる(乙12、乙13)。

ア ペット動物が死亡し、亡骸を焼却した後の焼骨の扱いについては、①他のペットと共に1つの供養塔や碑に納める(合祀)、②納骨堂(ロッカーや棚が一般的)に預ける、③ペット(飼い主)別に独立した墓を設ける方式が採られている。

イ 民間事業者が提供しているペット霊園の納骨堂の年間料金は、ある調査結果によれば、無作為に抽出した33件のうち、5000円以下が4件、1万円以下が8件、1万5000円以下が4件、2万円以下が10件、2万5000円以下が1件、3万円以下が4件、4万円以下が1件、4万円以上が1件であり、平均が1万7333円であったとされている。

ウ 料金体系の具体的内容については必ずしも積極的に宣伝しているわけではなく、むしろ、詳細は問い合わせによるという形で行っていることが多い。

2  以上の認定事実をもとに、本件ロッカー部分及びその敷地部分が地方税法348条2項3号の「宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」に該当するかについて検討する。

(1)  地方税法348条2項本文は、「固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。」と規定し、その3号で「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」を掲げ、また、同法702条の2第2項は「市町村は、第348条第2項(中略)の規定により固定資産税を課することができない土地又は家屋に対しては、都市計画税を課することができない。」と規定している。そして、宗教法人法3条は、境内建物とは、第1号に掲げるような宗教法人の同法2条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の建物及び工作物をいい、境内地とは、同条2号から7号までに掲げるような宗教法人の同法2条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいうものと規定し、同法2条は、「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成すること」を宗教団体の目的(以下「固有の宗教目的」という。)として掲げている。なお、宗教法人法は、宗教法人の行う活動について、同法2条の固有の宗教目的活動の他に、同法6条1項は、「宗教法人は、公益事業を行うことができる。」と規定し、同条2項は、「宗教法人は、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業を行うことができる。」と規定している。

このように、地方税法348条2項3号が「専らその本来の用に供する」との文言を特に用いていることからすると、固定資産税及び都市計画税が非課税となる「宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」とは、宗教法人法2条に規定する固有の宗教目的の用に供される境内建物及び境内地に限定され、宗教法人が行う同法6条1項の公益事業あるいは、同条2項のその他の事業の用に供される境内建物及び境内地はこれに含まれないと解するのが相当である。

(2)  ところで、地方税法348条2項3号の規定は、宗教法人の持つ社会的意義等にかんがみて、固定資産税の非課税措置を定めたものであるといえるが、他方、それが特定の団体に対する優遇措置としての性格を有することも否定し難いのであるから、租税の公平な負担という観点をも考慮すると、宗教活動に関連するとの理由で同号の適用が無限定に拡張されるような解釈をするのは相当ではなく、当該境内建物等の使用実態がどのようなものであり、そこで行われている活動が、世俗的な活動と異なる特徴をどの程度持っているのかといった点を勘案した上で、社会通念に照らし、当該境内建物等が、同号にいう「宗教法人が専らその本来の用に供する境内建物及び境内地」に当たるかどうかを客観的に判断していく必要があるものと解される。

(3)  これを本件についてみると、前記認定のとおり、原告は、A及び供養塔において動物の遺骨の保管を行うとともに、毎日勤行で動物供養を行う他、月1回あるいは年3回の動物供養の儀式を行っていることに加え、開祖以来動物供養を行ってきたという経緯があること等からすると、原告が本件ロッカー部分において動物の遺骨を保管し、動物供養を行ってきたことには、これらの活動を通じて、原告の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者の教化育成をはかるという側面があることは事実であり、A及び供養塔が、原告の固有の宗教目的との間に一定の関連性を有すること自体は否定し難い。

しかし、動物の遺骨の保管や供養を行うことと人の墓地の設置や法要を行うことでは、社会通念上、その宗教性についての評価には違いがあることも否定し難い。例えば、墓地については、地方税法348条2項4号で固定資産税が非課税とされている他、人の墓地の設置や埋葬行為については、国民の宗教的感情に適合し、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障が生じないようにするため、墓地、埋葬等に関する法律が制定されており、同法4条1項で埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域で行ってはならないとされ、同法10条で墓地、納骨堂又は火葬場の経営をしようとする者は都道府県知事の許可を受けなければならないものとされている。そして、その経営主体は実務上原則として地方公共団体とし、これにより難い事情のある場合にあっても公益法人、宗教法人等に限ることされていることは公知の事実である。また、宗教法人が墳墓地を貸し付けることは、法人税法施行令5条1項5号ニにより法人税が非課税とされている。これに対して、動物の遺骨の保管や埋葬行為の場合、地方税法上これを直接非課税とする規定はなく、動物の遺体の処理については現行法上特段の規制がなく、法的には廃棄物として市町村が処理しており、動物霊園の経営主体については営利法人も行っており、宗教法人が行う動物の遺骨の保管についても、法人税法上、収益事業に当たるとして課税される場合がある(なお、原告も保管料相当額について法人税の申告をしている。乙5)という点で大きな違いがあることが認められ、このような違いは、両者のもつ宗教性に関する社会的評価が異なることに由来しているものといわざるを得ないのである。これらの点を考慮すると、原告が行う動物の遺骨の保管行為及び動物供養の諸行事が、原告の宗教活動に関連するからといって、これを直ちにその固有の宗教目的活動に該当するというのは適当ではなく、その実態がどの程度世俗的活動と異なる特徴を持っているのかという観点から、更に検討を加える必要があるものというべきである。

そこで、原告の本件ロッカー部分の使用実態を見ると、同ロッカー部分は、馬頭観世音菩薩が安置されている部分と物理的に区別することができる形状となっており、両者が不可分一体となっていて区別して評価することができないような特段の事情は認められないことに加え、各ロッカーは、馬頭観世音菩薩を描いた紙の位牌が貼付されている点以外は特段の宗教的色彩は認められない上、その形状も、物を一時保管するために使用されている通常のロッカーと特段異なるものではないこと、原告は、檀家に限らず、宗派を問わないで広く一般動物愛好家からの遺骨の保管や供養の依頼も受け付けていること、無料で保管する1年経過後については民間事業者の行っている動物霊園の保管料と遜色がない金員を供養料の名目で徴収していることなどの事実が認められるのであり、これらの点に照らしてみると、原告による動物の遺骨の保管行為が、民間事業者の行っている動物霊園事業と異なる顕著な宗教的特徴を有しているとはいえず、むしろ、これと類似していることも否定できないところである。この点、原告は、A、供養塔で動物供養を行っていることについて特別に広告を行っているものではないこと、遺骨の保管に関しては、合祀を基本的に勧めており、1年間については無料で動物の遺骨を預った上、その後も継続して安置を希望する供養主に対してのみ、人件費・建物維持費程度の費用を負担してもらって個別の供養をしているものであることなどから、民間事業者の扱いとは明らかに異なっている旨主張するが、前記認定のとおり民間事業者においても料金体系について必ずしも積極的な広告を行っているわけではないから、原告において動物供養を行っていることについて特別に広告を行っていないとしてもそこに顕著な違いは認められず、当初1年間が無料であり、その後も人件費・建物維持費程度の費用を負担してもらっているという点についても、原告が現実に受領している供養料の金額(2万円、3万5000円、5万円)に照らすと、これを性質上対価関係のないお布施のようなものと同視することはできず、この点も顕著な違いとなるものではないことなどからすると、原告の主張は採用できない。

以上によると、原告による動物の遺骨の保管行為を固有の宗教目的活動と評価することは困難であり、したがって、本件ロッカー部分は、原告の固有の宗教目的に供する部分には当たらず、法348条2項3号及び法702条の2第2項の非課税対象には該当しないと解するのが相当であるから、本件課税処分は適法である。

第4結論

以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 古田孝夫 裁判官 潮海二郎)

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