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東京地方裁判所 平成18年(ケ)39号 決定 2009年7月06日

申立人(買受人)

株式会社X

上記代表者代表取締役

A

主文

本件申立てを棄却する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

1  申立ての趣旨及び理由

申立人は、本件現況調査報告書及び物件明細書には、本件建物内において債務者兼所有者の死体が発見されたことの記載が一切なく、申立人は同事実を知らずに別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について最高価買受けの申出をしたのであるから、同事実により本件建物の価値が著しく損なわれたと主張して、民事執行法188条、75条1項に基づき、本件基本事件の平成21年6月9日付け売却許可決定(以下「本件売却許可決定」という。)の取消しを求めている。

2  当裁判所の判断

(1)  一件記録によれば、以下の事実が認められる。

ア  本件基本事件においては、平成18年10月17日、最初の売却許可決定がされたが、その後、本件建物内において本件建物の所有者兼債務者が死亡していることが判明したため、同年12月12日、上記売却許可決定は取り消された。

イ  執行裁判所は、平成20年11月14日、再評価命令を発令し、平成21年2月6日、再評価書が提出された。

同再評価書においては、「専有部分の概要」の「特記事項」の欄に、「本物件内において事故死があった」との記載があり、「評価額の判定」の「修正項目」の欄に、「事故死があったことを考慮して10%を控除した」との記載がある。

そして、再評価額の算定に当たっては、事故死を考慮した10パーセントの控除がされ、この再評価額を前提に売却基準価額等が決定された。

ウ  上記売却基準価格等を前提に、本件建物について期間入札が実施され、申立人が最高価額で買受けを申し出たため、平成21年6月9日、申立人に対し、本件売却許可決定がされた。

エ  基本事件において作成された現況調査報告書及び物件明細書には、本件建物内において事故死があった旨の記載は一切なかった。

(2)  以上の認定を前提として、本件売却許可決定の適否について検討する。

ア  民事執行法75条1項は、「買受けの申出をした後」に不動産が損傷した場合のみ規定しているが、買受けの申出をする前に不動産が損傷した場合であっても(同条にいう「損傷」には、物理的損傷以外で不動産の交換価値が著しく損なわれた場合も含む。)、これが現況調査報告書や評価書及び物件明細書に何ら記載されておらず、買受申出人が買受申出前に上記事情を知り得ないときには、買受申出人にとってみれば買受申出後に損傷した場合と何ら異なることはないから、同条は、このような場合にも類推適用されると解される。

イ  これを本件についてみると、前記認定のとおり、本件建物内において所有者が死亡したのは、申立人が買受の申出をする前であるところ、同事実は、現況調査報告書及び物件明細書には記載されていないが、再評価書には明確に記載されているから、申立人は、買受申出前に同事実を十分に知り得たのであり、そのような場合は、買受申出人にとって、買受申出後に損傷した場合と何ら異なることはないということはできず、同条を類推適用することはできないというべきである。

(3)  以上によれば、本件申立てには理由がないから、本件申立てを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 酒井智之)

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