東京地方裁判所 平成18年(ワ)10285号 判決 2008年5月14日
原告
株式会社デジタルダイレクト
上記代表者代表取締役
C
上記訴訟代理人弁護士
岩出誠
同
中村博
同
村林俊行
同
石居茜
同
木原康雄
同
村木高志
同
大濱正裕
被告
株式会社 ピエラス
上記代表者代表取締役
D
上記訴訟代理人弁護士
三上陸
主文
一 被告は、原告に対し、四三六万七七五二円及びこれに対する平成一八年二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告に対し、一六万三一五〇円及びこれに対する平成一九年一月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告に対し、平成一八年一〇月一日から別紙食品目録記載の食品の受領済みまで一か月一万八〇〇〇円の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文一~三項同旨
第二事案の概要
本件は、被告から、コンビニエンスストア(以下「コンビニ」という。)における栄養機能食品(サプリメント)の独占販売権の供与を受けて、その販売代理店となった原告が、被告から納入を受けた商品が余剰となったから、被告は、契約上、その返品を受け容れる義務がある旨主張して、返品の受け容れを拒絶している被告に対し、販売代金の返還及び余剰品の保管料の支払を求める事案である。
第三争いのない事実
一 当事者
(1) 原告は、食品の販売等を目的とする株式会社である。
(2) 被告は、医薬部外品の製造及び販売、健康食品の販売等を目的とする株式会社である。
二 独占販売代理店契約の締結
原告と被告は、平成一七年三月四日、被告が販売を予定していた栄養機能食品「ハローキティサプリメント」(以下「本件商品」という。)について、次のような約定で、原告をコンビニ販売における独占販売代理店とする旨の契約(以下「本件販売代理店契約」という。)を締結した。
(1) 被告は、本件商品に関し、コンビニ販売における独占販売権を原告に供与する。<契約書二条>
(2) 被告は、本契約に基づき、本件商品を継続的に原告に売り渡し、原告は、これを買い受ける。<契約書三条>
(3) 本件商品の仕様については、原告と被告が協議の上、規格書にて定める。商品の数量、単価、包装仕様、納期、納入場所その他売買に必要な条件は、本契約に定めるものを除き、原被告間において締結する個別契約によって定める。<契約書四条>
(4) 本件商品に関し、未販売品や期限切れ品、問屋などの取引先からの返品等の余剰が原告において生じた場合、最終的に被告が余剰品を引き受ける(以下「本件返品条項」という。)。<契約書一〇条>
(5) 被告は、本件商品の総販売元として、本件商品の消費者認知向上のため、広告、販売促進活動等の努力を行い、原告に対し、本件商品の販売先での販売促進のためのPOP等を被告の費用で提供する。特定の販売先から原告に対して独自POP等の制作依頼があった場合、原告は事前に被告に相談の上決定し、被告の費用で制作する。<契約書一二条>
三 個別契約の締結等
原告は、本件販売代理店契約に基づき、被告に対し、本件商品について、平成一七年五月二六日に七二〇〇個、同月二七日に一万二九六〇個の合計二万〇一六〇個を発注し、同月二八日及び同年六月二日、被告からその納品を受け、それらの代金として、被告に対し、同月三〇日に一九〇万五一二〇円、同年八月一日に三四二万九二一六円を支払った(以下「本件個別契約」という。)。
四 余剰品引取の催告
原告が被告から納品を受けた本件商品二万〇一六〇個のうち、一万六五〇七個が余剰品となった(以下「本件余剰品」という。)ことから、原告は、それを原告の倉庫において他の物品と区別して保管し、被告に引き渡す準備を完了した上、平成一七年一一月四日から平成一八年一月一七日までの前後三回にわたり、平成一八年一月三一日までに本件余剰品を引き取るよう催告するとともに、本件余剰品の代金及び消費税合計四三六万七七五二円を支払うよう請求したが、被告は、上記引取及び支払をいずれも拒絶した。
第四争点
一 本件余剰品の代金返還請求の当否
二 本件余剰品に係る保管料請求の当否
第五争点に関する当事者の主張
一 争点一について
(1) 原告の主張
ア コンビニ販売においては、「メーカー→販売代理店→コンビニ各店舗が取り引きしている問屋(以下「センター」という。)→コンビニ各店舗」という商流となるところ、原告は、別紙「キティ グミ」対センター別出荷・返品履歴記載のとおり、平成一七年六月一日から同月四日にかけて、被告から納入を受けた本件商品のうち合計一万二一六八個を各センターに納入し、また、その後、うち一二九六個を原告負担においてPR用サンプルとして使用したため、余剰品は六六九六個(=二万〇一六〇個-一万二一六八個-一二九六個)となった。
そして、コンビニ商流においては、各センターに納入された商品につき、コンビニ各店舗が独自の判断で当該商品を導入するか否かを決定するのが取引慣習であるところ、本件商品は人気がなく、本件食品を導入したコンビニ各店舗が少数にとどまった結果、上記別紙記載のとおり、同年八月二六日から同年一〇月二七日にかけて、本件商品について合計九八一一個が返品となったことから、余剰品は一万六五〇七個(=九八一一個+六六九六個)となった。
イ したがって、被告は、本件返品条項に基づき、原告に対し、上記の一万六五〇七個の余剰品(本件余剰品)の引渡と引き替えに、その代金四一五万九七六四円(=一万六五〇七個×単価二五二円)及びこれに対する消費税二〇万七九八八円(≒四一五万九七六四円×五%)の合計四三六万七七五二円を原告に返還すべき義務を負う。
ウ よって、原告は、本件返品条項に基づき、被告に対し、四三六万七七五二円及びこれに対する前記争いのない事実四記載の取引期限の翌日である平成一八年二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告の主張
被告は、次のとおり、本件余剰品について受領義務を負っていないから、原告の主張は失当である。
ア 被告は、本件余剰品について、本件返品条項に基づく受領義務を負わないというべきである。
(ア) 本件販売代理店契約は、継続的取引契約であり、契約当事者双方の利益・発展を目的とするものであるから、本件返品条項については、上記目的に従って解釈すべきところ、本件返品条項は、本件商品について発売の見込みがないのに原告が発注した場合にまで被告に返品受領義務を負わせる趣旨でないことは明白であり、このことにかんがみれば、原告の発注に過失があった場合には、被告の返品受領義務は認められるべきでない。さらに、原告は、本件商品の独占販売権を供与されていたのであるから、本件販売代理店契約に内在する制約として、原告が最善の販売努力(販売促進活動を含む。)をしなかった場合には、被告の返品受領義務は認められないというべきである。
(イ) しかるところ、原告は、平成一七年五月一七日、被告に対し、ローソン本部が関東地区のローソン二一〇〇店舗に本件商品を導入する旨決定したと告げた上、同月三〇日までに本件商品一万二六〇〇個を納入するよう発注し、被告は、それに応じて、本件商品を納入したところ、原告の説明によると、ローソン各店舗の本件商品の導入率が一〇%と極めて低かったため、本件商品について大量の余剰品(本件余剰品)が生じたというのである。
そうすると、原告は、各店舗の導入率が不明であったにもかかわらず、被告に対し、上記の二一〇〇店舗が本件商品を導入する旨決定されたと説明して本件商品を大量に発注し、その結果、本件余剰品が生じたということになる。
しかしながら、ローソン本部の導入決定に各店舗が従うかどうか分からないというのであれば、原告は、被告に本件商品の納入を発注するに当たって、各店舗と直接交渉してその意向を確認するか、あるいは、全店舗のうちどれだけの店舗が本件商品を導入するか、過去のデータを駆使して検討し、配荷見込割合を見積もった上で、注文数量を決すべき注意義務を負っていたというべきであり、それにもかかわらず、これを怠って、漫然と上記二一〇〇店舗の全部が本件商品を二種類各三個宛導入することを前提に、被告に対し、本件商品を二万〇一六〇個発注したのであるから、原告には上記注意義務の懈怠があったというべきである。
なお、この点に関連して、原告は、コンビニ商流においては、各センターに納入された商品につき、各店舗が独自の判断で当該商品を導入するか否かを決定するのが取引慣習であると主張するが、争う。各店舗はコンビニ本部の下部機関、すなわち販売部門にすぎないのであって、各店舗には導入についての決定権はない。コンビニ本部の決定は、各店舗に対する命令であるから、各店舗がこれに従うことになるのは当然である(ただし、二回目以降の取引について、各店舗が自由に決定する権限を有するのはいうまでもない。)。
(ウ) また、原告は、本件販売代理店契約において本件商品についての独占販売権の供与を受けるに当たり、ローソンについては、関東地区のみならず全国八〇〇〇店舗に販売を拡張する、さらに、ローソンだけでなく、他のコンビニにも販路を拡張すると被告に約束したにもかかわらず、実際には、ローソンの全国展開はもとより、他のコンビニに対する販路拡張も行わなかったのであるから、原告は、本件商品に関し、最善の販売努力を怠ったというべきである。
すなわち、原告の担当者であるA野太郎(以下「A野」という。)は、平成一七年一二月二五日、上司とともに被告を訪れ、本件余剰品の引取を求めてきたが、その際、被告が、他のコンビニへ販路を拡張し、あるいは、多少の値引きをしてでも本件商品を販売する努力をするように求めたのに対し、A野らは、何とかもう一度努力しますと言って帰ったものの、翌年一月早々に再度被告を訪れ、販売努力をしたが、他のコンビニへの販路拡大は無理であったと告げた。しかしながら、そもそも、年末年始の期間はほとんどの企業が休みなのであるから、その間に営業活動をすることはほとんどできなかったはずであって、このことにかんがみれば、営業努力をしたという原告の説明は偽りというべきである。
(エ)a 原告は、本件販売代理店契約に基づき、本件商品に関し、コンビニ販売における独占販売権を有していたのであるから、全国のコンビニに対して本件商品についての販売努力をしなければならなかったところ、販売促進活動は、消費者あるいはコンビニに対する営業活動の一環であることからすれば、原告は、本件商品につき、販売促進活動を行うべき義務を負っていたものというべきである。
これに対し、原告は、本件販売代理店契約一二条の定めにより、本件商品については被告が販売促進活動を行うべき義務を負っていたと主張するが、そもそも、被告は、自ら直接にコンビニに本件商品を販売するのではないのであるから、販売促進活動を主体的に行う義務はなく、上記の定めは、原告が行うべき販売促進活動の費用を被告が負担する旨を定めたものにすぎないと解すべきである。
b しかるところ、ローソン各店舗の本件商品の導入率が極めて低かった原因は、原告が本件商品についての販売促進活動の時期及び方法を誤った点にある。
すなわち、本件商品についての販売促進活動としては、一般消費者に対する宣伝活動はもとより、コンビニの本部バイヤー、地域バイヤー及びコンビニ各店舗に対する活動が考えられるところ、本件商品はコンビニ各店舗に対して販売されるものであるから、コンビニの本部バイヤー、地域バイヤー、コンビニ各店舗に対して販売促進活動を行うことが最も効果的であると考えられる。しかるに、原告は、ローソン本部のバイヤーに対してのみ販売促進活動を行い、地域バイヤー及びローソン各店舗に対する販売促進活動を行わなかった。また、一般消費者に対する宣伝活動は行われたが、原告も自認するように、その時期が遅きに失したため、十分な宣伝効果が上がらなかった。
(オ) 本件返品条項によりいったん売買した商品を返品することが許容されるのは、売主にとっては売上を伸ばし、他方、買主にとっては販売努力にもかかわらず売れない場合のリスクを回避するという、双方にとってのメリットがあるからである。したがって、買主が販売努力を尽くしたことが本件返品条項適用の必要条件となる。ローソン本部は、二一〇〇店舗に導入する旨を、原告に対して、ひいては被告に対して約束したのであるから、まず二一〇〇店舗に配荷しなければ、販売努力をしたとはいえない。よって、ローソン本部は本件商品を二一〇〇店舗に配荷すべき義務を負っており、ローソン本部ないし原告がこの義務を尽くして初めて本件返品条項の適用が問題となるのである。しかるに、本件商品は、二一〇〇店舗の一〇%にも満たない店舗に配荷されただけであるというのであるから、本件返品条項の適用はなく、本件余剰品は、本件返品条項にいう「余剰品」に該当しない。
イ 本件返品条項の効力について
仮に、本件返品条項により被告が本件余剰品について受領義務を負うとしても、そもそも、返品は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)一九条、二条九項、平成一七年五月一三日公正取引委員会告示第一一号「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(以下「本件告示」という。)、同年六月二九日同委員会事務総長通達第九号により、不公正な取引方法として禁止されているところ、本件返品条項は、本件告示に違反し、ひいては公序良俗に反するものであるから、民法九〇条により無効である。
(3) 被告の主張に対する原告の認否・反論
ア 被告の主張アに対し
(ア) そもそも、コンビニ取引慣習上、メーカーには、欠品時の在庫が不足した場合には金銭で填補すべき義務が課せられ、さらに、返品等の余剰品が発生した場合、まずは販売代理店が、最終的にはメーカーがこれを引き取り、代金を返還する義務が課せられるのが通常であり、返品率がいかなるものであっても、余剰品があれば、すべてを引き取らなければならないとされている。したがって、コンビニ商取引は、メーカーにとってリスクの高い取引であって、原告は、メーカーの納得を得た後でなければ、販売代理店契約を締結しない取扱いをしており、被告に対してもそのことを説明して納得を得たからこそ、本件販売代理店契約を締結したものである。
(イ) 被告は、原告が被告に対してローソン本部が関東地区のローソン二一〇〇店舗において本件商品を導入することを決定した旨告げたと主張するが、否認する。前記(1)ア記載のとおり、コンビニ商流においては、各センターに納入された商品につき、各店舗が独自の判断で当該商品を導入するか否かを決定するのが取引慣習であって、原告は、本件販売代理店契約に当たって、被告にそのことを説明済みであり、導入率につき被告から異論等がなされることもなかった。したがって、原告が、被告に対し、ローソン本部が二一〇〇店舗において本件商品を導入する旨決定したなどと確定的なことを言えるはずがない。
これに対し、被告は、各店舗はコンビニ本部の下部機関であって、決定権を有していないと主張するが、失当である。すなわち、各店舗は、独立した経営者として、商品選択の自由を有しているのであって、コンビニ本部のバイヤーが行う決定は、傘下のコンビニにおいて当該商品を取扱うことを許可ないし推奨するというものにすぎない。各店舗は、バイヤーからの商品情報に基づいて当該商品を導入するか否かを独自に判断するのである(したがって、いったん店舗に導入した商品については、返品することができないこととなっており、返品が認められないにもかかわらず、実際の販売に必要な範囲を超えて、コンビニ本部が各店舗に対して仕入数量を指示し、その数量を仕入れることを余儀なくさせることは、独占禁止法上、優越的地位の濫用として禁止されている。)。
なお、被告は、原告が平成一七年五月一七日に被告に対して同月三〇日までに本件商品一万二六〇〇個を納入するよう発注したとも主張するが、否認する。そもそも、原告は、本件販売代理店契約締結後、再三にわたり、本件商品の生産数(在庫数)がどれくらいあるのかを被告に対して問い合わせたが、被告は、それに対して明確な返答をせず、同月一六日に至ってようやく、原告に対して本件商品の生産計画を連絡してきたことから、原告は、翌一七日、被告に対し、センターに納入する際の最低限の個数の目安を提示し、そのような個数の納入が可能か否かを問い合わせたにすぎない。
(ウ) 被告は、原告が被告に発注する前にローソン各店舗の意向を聴取すべきであると主張するが、原告とローソン本部バイヤー又はローソン各店舗との間には何ら契約関係が存在しない上、原告は、メーカーたる被告の販売代理店にすぎないのであって、各店舗との交渉権限を有しないから、被告が主張するような法的義務を認める根拠は存しない。そもそも、需要を高めるべく、コンビニ各店舗や消費者の需要を調査する義務は、本件販売代理店契約一二条の定め(前記争いのない事実二(5))により、被告が負っているものである。
(エ) また、本件個別契約において、本件商品の発注数量が二万〇一六〇個と決定された経緯は、次のとおりであって、本件個別契約における発注数量は、決して過大ではなかった。
a 関東エリアにはローそンが全部で二一〇〇店舗あるところ、原告は、被告とローソン本部の間に立って折衝を重ねた上、上記の店舗がそれぞれ本件商品を二種類(レモン味、いちご味)、三個ずつ(合計一万二六〇〇個=二一〇〇店舗×三個×二種類)導入するものと仮定して初回導入数(センターに対する本件商品の初回納入数)を算出した。
b その上で、原告は、コンビニ各店舗の店頭で導入最初の週のPOSデータ(レジを通過した際の販売データ)が良好で、すぐに問屋から追加発注がきた場合に万一原告に在庫がないということになれば、コンビニ取引慣習上、金銭で填補しなければならないというペナルティが発生することを考慮し、上記の初回導入量の半分(レモン味といちご味をそれぞれ三一五〇個ずつ、合計六三〇〇個)を原告の在庫として保管することとした。
c さらに、被告への発注単位が七二〇個と約定されていたことを踏まえ、レモン味といちご味をそれぞれ一万〇〇八〇個(=七二〇個×一四単位)、合計二万〇一六〇個として発注したものである。
なお、原告が過大な発注をしたのではないことは、原告が取り扱った他の商品の例と比較して、本件商品の初回導入個数が極めて少ないことからも明らかである。原告は、過去のデータを駆使して、被告への発注個数を少なくするよう努力した。また、「二一〇〇店舗」は、コンビニ取引最小の発注単位であり、これ以上少なくすることは不可能であり、このことからも、原告に注文数量に関する注意義務違反の懈怠はない。
(オ) 被告は、原告が、被告に対し、本件商品について全国のローソン八〇〇〇店舗に販売を拡張する、ローソンだけでなく、他のコンビニにも販路を拡張するなどと被告に約束したと主張するが、否認する。A野が、被告に対して、原告にはコンビニとの取引実績があるので販路は持っている旨説明したことや、ローソンのバイヤーから「売れ行き次第では、二一〇〇店舗以上に拡大することもあり得る。」と言われていたので、それを被告に伝えたことはあるし、本件販売代理店契約において独占販売権の供与を受けたことから、他のコンビニにも営業の売り込みをかけるよう努力する旨の発言をしたことは認めるが、だからといって、原告が、被告に対し、本件商品につき全国への販売拡大や他のコンビニへの販路拡張を約束したわけではない。
(カ) 被告は、原告が本件商品に関して販売努力を怠ったと主張するが、否認する。原告は、本件商品の独占販売店として、本件販売代理店契約締結直後から、ローソンでの販売拡張や他のコンビニへの販路拡張のために種々の努力を行ったものであって、それにもかかわらず、本件商品の導入率が低かったのは、被告が、本件販売代理店契約一二条の定めにもかかわらず、本件商品につき、商品認知度を向上させるために早期の段階でテレビCM等を行うなどの販売促進計画を実施しなかったためである。
すなわち、被告は、本件販売代理店契約を締結した後も、本件商品に関して何らPR活動や販売促進活動を自ら行おうとせず、そのような被告の態度に危機感を覚えた原告は、平成一七年四月二七日ころ、被告に対し、本件商品のPR活動実施案を提供し、原告の努力により、同年六月六日以降、地方新聞等への掲載によりPR活動が行われることとなり、さらに、本来であれば被告の費用負担において行われるべきPR用サンプルの配布を原告の費用負担において行ったものの、初動があまりに遅かったこと(ちなみに、本件商品がセンターへ出荷されたのは、同年六月一日から同月四日にかけてのことである。)、一般消費者の認知度を高めるのに十分な効果が得られなかった。
そのため、原告がいかに他のコンビニのバイヤーに本件商品を売り込もうとしても、バイヤーから、本件商品は未だ消費者に周知されておらず、コンビニの売上に貢献できないとして採用を断られ、また、ローソンにおいても、販売実績が悪いために本件商品の全国展開を断られたのである。
(キ) なお、A野が、平成一七年一一月四日及び同年一二月二八日(被告の主張のうち、同年一二月二五日という点については否認する。)、本件余剰品の引取を求めるために被告を訪れたことは認めるが、その際の協議内容や、その後に原告が営業努力を行わなかったとの主張は否認する。
すなわち、A野は、同年一一月四日に被告本社を訪れ、被告に対して本件余剰品の引取を求めたが、被告がそれに難色を示したため、A野は、最大限の誠意を尽くそうとして、原告がコンビニ以外の販路への販売努力をなすべき義務を負っていなかったにもかかわらず、被告に対し、コンビニ以外の販路を探してみる旨申し出て、被告の了承を得たものである。
そこで、原告は、まず、薬局の販路に強い問屋に打診したが、成約に至らず、さらに、通信販売の問屋にも商談を持ちかけたものの、先方が提示した買取金額が低く、その金額での売却を被告が拒絶したため、成約に至らなかったものである。すなわち、原告が努力したのは、コンビニ以外の販路を探すことであり、他のコンビニへの販路拡張ではない。また、被告に対して、営業努力にもかかわらず成約につながらなかったことを最終的に伝えたのは、翌年一月早々ではなく、同月一七日にA野の上司が被告本社を訪れた際のことである(したがって、原告が本件商品についてコンビニ以外の販路を探す努力をした期間は、平成一七年一一月四日ころから平成一八年一月一七日ころまでの二か月余りの期間ということになる。)。
(ク) 被告は、原告が本件商品についての販売促進活動を怠ったとも主張するが、本件販売代理店契約一二条の定めにより、本件商品について販売促進活動を行うべき義務を負っていたのは被告であって、原告ではないことは前記のとおりであって、原告は、そのことをあらかじめ被告に説明し、その納得が得られたからこそ、本件販売代理店契約を締結したものである。
なお、被告は、原告が本件商品についての独占販売権を有していたことをもって、原告が販売促進活動を行うべき義務を負っていたと解すべき根拠であると主張するが、本件商品に関しては、独占販売権と販売促進活動義務とは結びつかないというべきである。すなわち、本件商品の商流は、被告がメーカーとして製造し、原告が委託を受けて販売するという形態ではなく、メーカーである株式会社自然舘(以下「自然舘」という。)が製造し、それを販売代理店である被告が買い受けたものである。その上で、コンビニに対する販売ルートを有している原告が被告に対してそのルートを提供する役割を担ったというのが、本件販売代理店契約締結の実態であり、このような商流の全体からすれば、本件商品の総販売元である被告が本来的に販売促進活動を行うべき義務を負うのは当然のことであり、他方、単に販売ルートを提供するにすぎない原告が販売促進活動を行うべき義務を負わないというのも当然のことであって、そうであるからこそ、本件販売代理店契約一二条において、被告が販売促進活動を行うべき義務を負い、原告はこれを負わないことが明記されたのである。
また、仮に原告が本件商品について販売促進活動を行うべき義務を負うものと解されるとしても、ローソン本部のバイヤーに対してのみ販売促進活動を行い、地域バイヤー及びローソン各店舗に対してそれを行わなかったことをもって、原告が販売促進活動義務を懈怠したとする被告の主張は当たらない。なぜなら、コンビニ商流においては、商品の取扱いに関する折衝窓口は各コンビニ本部のバイヤーのみであり、本部バイヤーが「当該商品を取り扱ってよい」という許可・推奨の決定をした場合に、その決定が本部バイヤーから地域バイヤーへ、地域バイヤーからコンビニ各店舗へと伝達され、各店舗が許可・推奨に係る商品を導入するか否かを独自に判断するという構造になっていることから、商品の取扱いを申し入れる販売者が地域バイヤーやコンビニ各店舗と折衝しても意味がないからである。
(ケ) さらに、被告は、本件返品条項にいう「余剰品」とは、店頭に陳列するなどの販売行為をした商品に限られると主張するようであるが、そもそも、各店舗に導入された商品は引取義務の対象とならないのであり、本件余剰品が各店舗に導入されなかったものであるからこそ、被告はその引取義務を負うのであって、そのことは本件返品条項の文言から明らかであるから、被告の主張は当たらない。
イ 被告の主張イに対し
本件販売代理店契約及び本件個別契約において、原告は「大規模小売業者」に該当せず、被告も「納入業者」に該当しない上、上記の各契約は、本件告示が例外として定める「商品の購入に当たって納入業者との合意により返品の条件を定め、その条件に従って返品する場合」に該当するから、不公正な取引方法には該当しない。
また、仮に本件返品条項が独占禁止法に違反しているとしても、そのことのみをもって直ちに当該条項が無効となるものではなく、その違法性の高さが、目的、態様等からみて公序良俗に反するといえる程度に至っている場合に無効となるにすぎないと解すべきところ、本件返品条項は、各店舗に導入された商品についてまで被告に引取義務を認めるものではなく、あくまでもセンターに滞留している商品に限って引取義務を認めるものにすぎない上、返品を受けても他に販売することができないような商品(展示に用いられたために汚損した商品や、小売り用の値札が貼られており、商品を傷つけることなくはがすことが困難な場合など)について被告に引取義務を課すようなものでもないのであるから、本件返品条項の違法性の高さは公序良俗に反するといえる程度に至っているとはいえず、本件返品条項は無効ではないというべきである。
二 争点二について
(1) 原告の主張
ア 被告が、引取期限である平成一八年一月三一日以降も本件余剰品の引取を拒絶しているため、その翌日である同年二月一日以降、原告において、返品のための増加費用として、本件余剰品の保管料(以下「本件保管料」という。)が発生しているところ、その金額は、一か月当たり一万八〇〇〇円である(ただし、本件余剰品は食品であることから、原告は、その変質劣化を防ぐため、平成一八年七月三一日から同年九月三〇日までの夏季期間においては、本件余剰品を低温倉庫に移動して保管したことから、その間の月額保管料が増額し、同年七月分は二万六〇〇〇円、同年八月分は二万二〇〇〇円、同年九月分は二万二〇〇〇円となった。)。そのため、平成一八年二月一日から同年九月三〇日までの保管料が合計一六万円となったほか、上記の低温倉庫への移動費として、三一五〇円を費やした。
イ よって、原告は、被告に対し、民法四八五条ただし書に基づき、上記の確定した保管料及び移動費の合計一六万三一五〇円及びこれに対する被告の平成一九年一月一六日付準備書面三が被告に送達された翌日である同日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、並びに、平成一八年一〇月一日から支払済みまで訴状別紙食品目録記載の食品(本件余剰品)の受領済みまで一か月一万八〇〇〇円の割合による保管料の支払を求める。
(2) 被告の主張
原告の主張については、保管料の相当額を含め、争う。前記一(2)記載のとおり、被告は本件余剰品について受領義務を負わない。
第六当裁判所の判断
一 争点一について
(1) 前記争いのない事実に加え、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨並びに公知の事実を総合すると、本件について次の各事実が認められる。
ア コンビニ各店舗において販売される商品は、「メーカー→販売代理店→センター→コンビニ各店舗」という商流をたどる。
このうち、センターからコンビニ各店舗へ納品された商品については、コンビニ取引慣習上、原則として買取制であり、コンビニ各店舗は、納品時において破損、汚損等が存した不良品を除いて、センターに対して商品を返品することができないこととされているが、これに対し、販売代理店からセンターへ納品された商品については、当該商品の在庫が過剰となったときや、コンビニ本部が傘下のコンビニ各店舗において当該商品を販売することを打ち切る旨決定し(いわゆる商品カット)、当該商品が余剰品となったときなどには、コンビニ取引慣習上、たとえ当該商品に不良が存しない場合であっても、販売代理店はセンターから当該商品の返品を受け容れなければならず、さらに、メーカーは販売代理店から当該商品の返品を受け容れなければならないこととされている。
一方、センターは、コンビニ各店舗から商品の発注を受けた場合、その商品が欠品(品切れ)となっていてその発注に応じられないときには、コンビニ取引慣習上、商品の発注をしたコンビニ各店舗に対し、当該商品の販売により得られるはずであった粗利を補償しなければならないこととされており、さらには、メーカー及び販売代理店も、それと同様に、センターに対して欠品時の粗利補償の責任を負うこととされている。
そして、以上のようなコンビニ取引慣習が存する結果、センターは、在庫品の管理コストを度外視すれば、商品の過剰発注の危険を負担しないことになることから、コンビニ各店舗からの発注に対して欠品が生じる事態を回避するため、販売代理店に対して多めに商品を発注し、その在庫が過剰となったり余剰品が生じたりすれば、それを販売代理店やメーカーに返品するという行動を取る傾向が強い。特に、新規にコンビニ各店舗へ納品される商品については、コンビニ各店舗の発注数量の予測が困難となるため、上記の行動傾向は更に強いものとなりがちである。
以上を要するに、小売販売業界全体の市場が縮小する中で、コンビニ業界のマーケットシェアが拡大し続けているという近時の業界動向を考慮すれば、メーカーにとって、コンビニ各店舗における商品販売は、高い収益を挙げるチャンスであるものの、商品の売れ行きが予想を超えて好調となって欠品が発生したときには粗利補償の責任を負わなければならず、また、その責任を回避するためには多くの在庫商品を準備しておかなければならないという負担がある上、逆に商品の売れ行きが不調となってしまったときには、センターに滞留している過剰品あるいは余剰品の返品を受け容れざるを得ないのであって、コンビニ各店舗における商品販売は、メーカーにとっていわゆるハイリスク・ハイリターンの取引形態であるということができる。
イ また、フランチャイザーであるコンビニ本部とフランチャイジーである加盟店(コンビニ各店舗)の取引関係という観点から、コンビニ各店舗における商品販売をみると、公正取引委員会が平成一四年四月二四日に公表した「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」によれば、フランチャイズ・システム(一般的には、本部が加盟店に対して、特定の商標、商号等を使用する権利を与えるとともに、加盟店の物品販売、サービス提供その他の事業・経営について、統一的な方法で統制、指導、援助を行い、これらの対価として加盟店が本部に金銭を支払う事業形態をいう。)においては、本部と加盟者がいわゆるフランチャイズ契約を締結し、この契約に基づいて、本部と各加盟者があたかも通常の企業における本店と支店であるかのような外観を呈して事業を行っているものが多いが、加盟者は法律的には本部から独立した事業者であることから、本部と加盟者間の取引関係については独占禁止法が適用され、その結果、加盟者に対して取引上優越した地位にある本部が、加盟者に対して、フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超えて、正常な商慣習に照らして不当に加盟者に不利益となるように取引条件を設定し、または取引の条件もしくは実施について加盟者に不利益を与えていると認められる場合、フランチャイズ契約又は本部の行為は優越的地位の濫用に当たるものとされ、その一例として、本部が加盟者に対して、加盟者の販売する商品又は使用する原材料について、返品が認められないにもかかわらず、実際の販売に必要な範囲を超えて、本部が仕入数量を指示し、当該数量を仕入れることを余儀なくさせること(仕入数量の強制)が挙げられているところ、前記のとおり、コンビニ取引慣習上、コンビニ各店舗には商品の返品が原則として認められていないため、ローソンを含む多くのコンビニ本部は、フランチャイズ契約上、傘下のコンビニ各店舗に対して、品揃えする商品の種類、仕入先及び仕入の対象となる商品につき、指示・命令することはなく、単に推奨するにとどめており、ある商品をどの程度の量仕入れるかという点は、あくまでも加盟者であるコンビニ各店舗が独自に判断することを建前としている。
ウ 被告は、かねてから原告の通信販売(テレビショッピング)の担当部署と取引があったところ、被告従業員のB山花子(以下「B山」という。)は、原告の上記部署の担当者と面談した際、その担当者から、コンビニ各店舗で販売したい商品があれば、コンビニへの商品販売を担当している者を紹介してもよいと言われ、被告において自社製造している化粧品と、自然舘から仕入れて被告が総販売元となって販売しようとしている本件商品とを原告に売り込もうと考え、平成一七年一月一四日、被告代表者とともに原告の本社事務所を訪問して、原告においてコンビニへの商品販売を担当しているA野と面談し、上記の化粧品と本件商品の売り込みを図ったところ、A野は、原告においてそれらの商品を取扱うことについて前向きの姿勢を示した。
エ A野は、平成一七年二月一五日、在阪の被告事務所を訪問し、B山及び被告代表者と面談した。
A野は、その際、自らが作成した説明資料<甲四、乙四>をB山及び被告代表者に交付し、前記ア及びイ記載のようなコンビニ取引慣習や、コンビニ取引の実情(例えば、新規にコンビニ各店舗へ納品される商品については、メーカーへの発注が過多になる傾向があり、返品の危険が特に高いこと、多くのコンビニ本部は傘下のコンビニ各店舗に対して仕入商品の推奨をするにとどまるため、コンビニ本部が商品導入を決定したとしても、その商品を仕入れるか否かは傘下の各店舗が独自の判断で決定することになることから、各店舗のすべてがその商品を仕入れるわけではないことなど)を説明した。<甲四、八三、乙四、七、証人A野太郎、同B山花子、被告代表者(ただし、乙七、証人B山花子及び被告代表者については、信用しない部分を除く。)>
オ A野とB山は、その後も電子メールの交換を重ねたり、直接面談するなどして、コンビニ各店舗における本件商品の販売に向けた交渉を行い、その結果、原告が販売代理店として本件商品を各コンビニ本部に対して売り込むという大枠で原告と被告が合意に達したことから、A野は、平成一七年三月四日付けで本件販売代理店契約に係る契約書(甲三、以下「本件契約書」という。)の文面を作成し、これを被告に送付して、押印の上返送してほしい旨B山に依頼した。
これに対し、被告は、上記契約において、被告が原告に対して本件商品に関するコンビニ販売における独占販売権を供与するとの約定(契約書二条)について難色を示し、独占販売権を供与するのであれば、それと引換に最低販売量を保証してもらいたいなどと、原告に対して契約内容を変更するよう求めたが、原告がそれに応じなかったことから、結局、被告は、原案どおりの契約内容を受け容れ、本件契約書に押印して原告に返送し、もって、原被告間に本件販売代理店契約が成立した。<甲三、乙七、証人A野太郎、同B山花子(ただし、乙七及び証人B山花子については、信用しない部分を除く。)>
カ A野は、本件販売代理店契約成立を受けて、平成一七年三月一七日以降、各コンビニ本部に対して本件商品を売り込んだが、その中で、かねてから原告との取引の多いローソン本部のバイヤーは、本件商品の導入に前向きの姿勢を示した。
そして、A野は、同年五月一七日、ローソン本部のバイヤーから、同年六月六日以降、関東地区の各店舗に本件商品を導入すること(すなわち、ローソン本部が関東地区にあるローソン各店舗に対して本件商品の推奨を行うこと)を決定した旨の連絡を受け、直ちにB山に対してその旨を伝えた。
なお、A野は、ローソン本部のほか、セブンイレブン、サークルKサンクス、ファミリーマート、am/pm、スリーエフといった大手コンビニ各本部に対しても本件商品の売り込みを行ったが、それらのコンビニ各本部のバイヤーからは、本件商品に対する消費者の認知度が低いことを理由に、導入を断られた。
キ その後、A野とB山その他の被告担当者との交渉により、原告の被告に対する本件商品の発注数が二万〇一六〇個と決定された。なお、この発注数は、①まず、関東地区のローソン二一〇〇店舗が本件商品を二種類につき三個ずつ仕入れるものと仮定し(三個×二種類×二一〇〇店舗=一万二六〇〇個)、②次に、本件商品の売れ行きが好調となり、センターから追加注文を受ける場合に備えて、上記の仕入仮定数の半数(一万二六〇〇個÷二=六三〇〇個)を原告における在庫に充てることとし、③さらに、原告から被告に対する発注単位が七二〇個であったことから、発注数がその整数倍になるように調整して、決定されたものである。
そして、原告は、被告に対し、本件商品について、平成一七年五月二六日に七二〇〇個、同月二七日に一万二九六〇個の合計二万〇一六〇個を発注し、同月二八日及び同年六月二日に被告からその納品を受けた。
ク その一方で、A野は関東地区のローソン各店舗に商品を納品している各センターとの間で本件商品の初回導入数についての交渉を行い、その結果、原告は、平成一七年六月一日から同月四日にかけて、別紙「キティ グミ」対センター別出荷・返品履歴の顧客名欄記載の各センターに対し、本件商品を合計一万二一六八個納入した。
ケ また、A野は、本件商品に対する消費者の認知度を向上させるべく、平成一七年四月二七日ころ、被告に対して本件商品のPR活動実施案を提案し、被告の了解を得て、同年六月六日以降、各種の雑誌や新聞に本件商品の紹介記事等が掲載されるよう手配するとともに、被告から納入を受けた本件商品のうちの一二九六個をPR用サンプルに充てた。そして、被告は、同年八月一日、上記のPR活動に対する費用として、一五〇万円(消費税別)を原告に対して振込送金した。
コ しかしながら、本件商品の売れ行きは極めて低調であり、平成一七年七月二二日ころの時点で、関東地区のローソン二二四〇店舗のうち、本件商品を仕入れた店舗は二三〇店舗にとどまった上、それらの店舗における本件商品の販売個数も、一店舗・一週間当たりの平均が一・〇一個にすぎなかった。
そのため、ローソン本部は本件商品につき商品カットの決定を行い、同年一〇月五日から同月二七日にかけて各センターから原告に対して余剰品となった本件商品が次々と返品され、その返品数は合計九八一一個に達した。
サ A野は、平成一七年一一月四日から同年一二月二八日にかけて、前後三回にわたり被告事務所を訪問し、被告代表者に対して、平成一八年一月末までに本件余剰品を引き取るとともに、その販売代金を返還するよう求めたが、被告代表者は、A野に対して本件商品について更なる販売努力をするように要求し、それに応じなかった。
そこで、A野は、被告の了解を得た上で、平成一七年一一月ころから平成一八年一月下旬にかけて、コンビニ・チャネル以外の販売チャネル(ドラッグストア及び通信販売)に対して本件商品を売り込もうとしたが、結局、成約に至らなかった。
そのため、A野の上司が、同月一七日に被告事務所を訪問し、被告代表者に対して改めて本件余剰品の引取を求めたものの、被告代表者はこれを拒絶する態度を崩さなかった。
以上のとおりであり、上記認定に反する証人B山花子の証言及びその作成に係る陳述書(乙七)の陳述記載並びに被告代表者の供述及びその作成に係る陳述書(乙一二)は、いずれも的確な裏付けを欠き、信用しない。
(2) 前記争いのない事実及び上記認定によると、本件返品条項は、本件商品に関し、未販売品や期限切れ品、問屋などの取引先からの返品等の余剰が原告において生じた場合、最終的に被告が余剰品を引き受ける旨定めているところ、原告が被告から納品を受けた本件商品二万〇一六〇個については、合計一万二一六八個が各センターに納入されたものの、そのうちの九八一一個が余剰品として各センターから原告に返品となり、原告がPR用のサンプルに充てた一二九六個を除く一万六五〇七個(=二万〇一六〇個-一万二一六八個+九八一一個-一二九六個)が、原告において余剰品となったというのであるから、被告が、本件返品条項に基づき、原告から本件余剰品の返品を受けるとともに、その販売代金四一五万九七六四円(=一万六五〇七個×単価二五二円)を返還すべき義務を負うことは、明らかである。
(3) これに対し、被告は、要旨、①原告の発注に過失があった場合には、被告は本件返品条項に基づく返品受領義務を負わないと解すべきところ、原告は、関東地区のローソン各店舗の導入率が不明であったにもかかわらず、各店舗と直接交渉してその意向を確認するか、あるいは、全店舗のうちどれだけの店舗が本件商品を導入するか、過去のデータを駆使して検討し、配荷見込割合を見積もった上で、注文数量を決すべき注意義務を怠って、被告に対して本件商品を過剰に発注した、②原告は、本件販売代理店契約により本件商品の独占販売権を供与されていたのであるから、原告が最善の販売努力をしなかった場合には、被告の返品受領義務は認められないと解すべきところ、原告は、ローソンの全国展開や他のコンビニに対する販路拡張を行わなかったのであるから、原告は、本件商品に関し、最善の販売努力を怠ったというべきである、③原告は、本件販売代理店契約に基づき本件商品について販売促進活動を行うべき義務を負っていたと解すべきところ、原告は本件商品についての販売促進活動の時期及び方法を誤った、④本件返品条項については、買主が販売努力を尽くしたことが適用の必要条件となるものと解すべきところ、ローソン本部は本件商品を二一〇〇店舗に導入する旨を約束したにもかかわらず、本件商品はその一〇%にも満たない店舗に配荷されたにすぎなかったのであるから、本件余剰品には本件返品条項の適用はない、⑤そもそも、本件返品条項は、本件告示に違反し、公序良俗に反するものであるから、民法九〇条により無効である、などと主張するが、次のとおりの理由で、いずれも採用しない。
ア ①について
前記(1)の認定によれば、原告は、被告に対して本件商品を発注するに当たり、まず、関東地区のローソン二一〇〇店舗が、本件商品を二種類につき三個ずつ(合計一万二六〇〇個)仕入れるものと仮定し、次に、センターから追加注文を受ける場合に備えて原告における在庫に充てる数量を考慮し、さらに、原告から被告に対する発注単位が七二〇個であったことから、発注数がその整数倍になるように調整して、本件商品の発注数を合計二万〇一六〇個と決定し、しかも、原告が各センターから実際に発注を受けて納品した個数は合計一万二一六八個であったというのであり、これらの事情に照らすと、原告の被告に対する発注が過剰なものでなかったことは明らかであるから、被告の主張は、そもそもその前提を欠く。
なお、被告は、原告は、ローソン各店舗と直接交渉して、本件商品を仕入れるか否かの意向を確認すべきであった旨主張するが、本件契約書をみても、原告がローソン各店舗と直接交渉すべき義務を負っていることを規定している定めは見当たらない上、そもそも、被告の上記主張は、前記(1)ア判示のコンビニ取引の高度の危険性をわきまえないものであって、到底採用することができない。また、被告は、コンビニ各店舗はコンビニ本部の下部機関、すなわち販売部門にすぎないのであって、各本部がコンビニ本部の商品導入の決定に従うことになるのは当然であるなどとも主張するが、この主張がコンビニ取引の実情と大きくかい離したものであることは前記(1)イ判示のとおりである。
イ ②について
前記認定によると、A野は、本件販売代理店契約成立後、各コンビニ本部に対する本件商品の売り込みに従事し、ローソン本部のバイヤーは、本件商品を関東地区に導入する旨の決定をするに至ったが、その他の大手コンビニ各本部のバイヤーは、本件商品に対する消費者の認知度が低いことを理由に導入を断ったこと、さらに、A野は、本件商品に対する消費者の認知度を向上させるべく、被告に対して本件商品のPR活動実施案を提案し、各種の雑誌や新聞に本件商品の紹介記事等が掲載されるよう手配したこと、ローソン本部が本件商品について商品カットの決定を行った後、A野は、被告の了解を得た上で、平成一七年一一月ころから平成一八年一月下旬にかけて、本件販売代理店契約において原告が販売権を付与されていなかった販売先(すなわち、原告において本件商品につき販売努力をなすべき契約上の義務を負っていなかった販売先)に対して本件商品の売り込みを図ったことなどの事情が認められ、これらの事情にかんがみれば、原告は、本件商品につき、本件販売代理店契約の趣旨に照らして相当というべき販売努力をしたものと認めるのが相当であるから、被告の主張は、その前提を欠く。
ウ ③について
前記争いのない事実によれば、本件販売代理店契約の一二条は、被告が、本件商品の総販売元として、本件商品の消費者認知向上のため、広告、販売促進活動等の努力を行うべきことを規定しているというのであり、他方、本件契約書(甲三)をみても、原告が本件商品について広告、販売促進活動等を行うべき義務を負っていることを規定する定めは見当たらない。また、前記認定によると、A野は、平成一七年四月二七日ころ、被告に対して本件商品のPR活動実施案を提案し、被告の了解を得て、本件商品が関東地区のローソン各店舗において販売されるようになった同年六月六日以降、各種の雑誌や新聞に本件商品の紹介記事等が掲載されるよう手配したというのであるから、原告が本件商品についての販売促進活動の時期及び方法を誤ったものと認めることはできない。仮に、本件商品がPR活動の不十分さ故に販売低迷に陥ったのだとすれば、それは、本件販売代理店契約に基づいて広告、販売促進活動等の努力を行うべき被告自身が、本件商品に対する消費者の認知度を高めるための努力を怠ったからにほかならない。
エ ④について
この点の被告の主張は、要するに、ローソン本部が本件商品を関東地区の各店舗全部に仕入れさせなかったことを理由に、本件余剰品については本件返品条項の適用が否定されるべきであるというに帰するのであるが、前記認定のとおり、ローソン本部は、フランチャイズ契約上、傘下のコンビニ各店舗に対して、品揃えする商品の種類、仕入先及び仕入の対象となる商品につき、指示・命令することはなく、単に推奨するにとどめているというのであるから、上記の被告の主張は、失当である。
オ ⑤について
この点の被告の主張は、本件返品条項が本件告示に違反する旨をいうものであるが、本件告示は、大規模小売業者が、自己又はその加盟者が納入業者から購入した商品の全部又は一部を当該納入業者に対して返品することを、独占禁止法二条九項所定の「不公正な取引方法」と指定するものであるところ、原告が小売業者でないことは弁論の全趣旨から明らかである。
(4) 以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、本件余剰品の代金返還を求める部分は、理由がある。
二 争点二について
(1) 前記一(2)判示のとおり、被告は、本件返品条項に基づき、原告から本件余剰品の返品を受けるべき義務を負うところ、《証拠省略》によると、前記第五の二(1)アの事実が認められる。
(2) したがって、原告の本訴請求のうち、本件余剰品に係る保管料の支払を求める部分も、理由がある。
(裁判官 佐藤英彦)
別紙 食品目録《省略》
別紙 デジタルダイレクト食品取扱いレイアウト《省略》
別紙 「キティ グミ」対センター別出荷・返品履歴《省略》