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東京地方裁判所 平成18年(ワ)10672号 判決 2007年2月27日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、2585万円及びこれに対する平成18年5月31日から支払ずみまで年6分の割合による金員を支払え。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  興産信用金庫(以下「興産信金」という。)は、被告に対し、平成2年8月1日、3000万円を、弁済期平成3年7月31日という約定で貸し付けた(以下「本件貸付①」という。)。

(2)  興産信金は、被告に対し、平成2年9月27日、弁済期を平成3年9月30日と定めて3800万円を貸し付けた(以下「本件貸付②」という。)。

(3)  原告は、興産信金との間で、平成2年8月1日、本件貸付①に基づく被告の債務を連帯して保証するとの合意を(以下「本件保証①」という。)、同年9月27日、本件貸付②に基づく被告の債務を連帯して保証するとの合意を(以下「本件保証②」という。)をそれぞれした。

(4)  原告と被告とは、本件保証①、②に先立ち、本件保証①、②につき委託することについて合意した。

(5)  被告は、本件貸付①について、弁済期である平成3年7月31日を経過しても残元金2285万円を、本件貸付②について、弁済期である同年9月30日を経過しても残元金300万円をそれぞれ未払分として余している。

(6)  よって、原告は、被告に対し、本件保証①、②の委託契約に基づく事前求債権として、貸付元金合計2585万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

いずれも認める。

3  抗弁

(1)  (興産信金との期限の猶予)

興産信金と被告との本件貸付①②について、その弁済期後も、興産信金は被告に対して期限の猶予をしており、興産信金、被告及び原告の本件貸付①、②の平成17年7月5日付け変更契約によれば、本件貸付①、②の弁済期は同年10月17日に、そして、興産信金と被告との間では、本件貸付①、②の弁済期を平成18年10月17日とし、その後も興産信金は弁済期を猶予することを約している。

民法460条2号但書は、保証人が事前求償権を行使した後の場合を定めたものと制限的に解釈すべきである。したがって、上記のとおり、債権者である興産信金との間で債務の猶予を受けているときは、保証人が責任を負わされる虞れがないので、保証人の事前求償権は行使できない。

(2)  (消滅時効)

本件貸付①、②は、それぞれの当初の弁済期である平成3年7月31日及び同年9月30日から10年を経過しているから、被告は、原告に対し、平成18年12月22日の弁論準備手続期日において、その消滅時効を援用するとの意思表示をした。

(3)  (権利濫用)

本件貸付①、②は、興産信金から期限の猶予を受けて、被告側で分割弁済をしているし、原告は保証契約当時の当初の被告の資力を判断して保証人となることを承諾したという経緯にもない。そもそも被告が本件貸付を受けたのは、原告のために土地の転売利益を出そうとしたことに端を発している。以上の状況からすれば、原告の事前求償権の行使は権利濫用に該当する。

4  抗弁に対する認否

抗弁(1)、(2)の事実関係は認めるが、その法的効果は争う。

同(3)の事実を否認する。

5  再抗弁

(1)  時効援用権の喪失(抗弁(2)に対し)

被告は、原告に対し、平成18年7月11日の口頭弁論期日において、残債務全部の弁済について相当の担保を提供することを請求した。

(2)  期限の猶予(抗弁(2)に対し)

興産信金、被告及び原告は、本件貸付①、②について、平成17年7月5日付け変更契約を締結し、本件貸付①、②の弁済期は同年10月17日にすると合意したから、前同日に権利行使が可能である。

6  再抗弁に対する認否

再抗弁(1)は否認する。被告は、債務が存しないことを前提として担保提供の請求をしたものである。同(2)の事実は認めるが、その法的主張は争う。

第3当裁判所の判断

1  事前求償権の成否

請求原因事実及び抗弁(1)(興産信金と被告の間で本件貸付①、②について、期限が猶予されている事実)については、いずれも当事者間に争いがない。

民法460条2号但書の事前求償権の要件は、債務が弁済期にあることであるが、ここでいう弁済期は、保証契約成立時の弁済期を標準として定めるものであり、その後に債権者が期限の猶予をしても、保証人の事前求償権の行使を拒絶することはできない(同号但書)。その趣旨は、保証人は、保証契約成立時の債務者の一般財産を考慮に入れて保証したものであるから、債権者が期限の猶予をしたからといって、これによって保証人の求償の時期を延期させるべきではないというものである。

そうすると、被告の抗弁(1)には理由がないのであり、原告の事前求償権が成立しているという結論になる。

2  消滅時効の成否

上記判断を前提とすれば、保証人が事前求償権を行使できるのは、保証契約成立時の弁済期経過後であることは明らかである。そうすると、消滅時効の起算点は、それぞれの当初の弁済期である平成3年7月31日及び同年9月30日ということになり、被告による消滅時効の援用の意思表示によって、上記事前求償権は消滅していることになる。

原告は、興産信金、被告及び原告は、本件貸付①、②について、平成17年7月5日付け変更契約を締結し、本件貸付①、②の弁済期は同年10月17日にすると合意したことを指摘して、消滅時効の起算点は猶予された期限であると主張する(再抗弁(2))。民法460条2号但書の趣旨を上述のとおりと解するならば、事前求償権は、保証契約成立時の弁済期に権利行使が可能となることは明らかであり、弁済期に関する債権者による期限の猶予について、債務者及び委託を受けた保証人の合意書面を作成したからといって促証人による事前求償権が阻害されるものと解するだけの根拠はないのであるから、原告によるこの主張を採用する余地はない。

また、弁論の全趣旨によれば、被告は本件口頭弁論において、相当の担保を提供することを請求しているが、これは債務が存在しないことを前提とする仮定的な主張であるから、これをもって時効援用権の喪失事由と解することはできないのであり、原告の再抗弁(1)もまた、採用することはできない。

以上のとおり、原告の事前求償権は、消滅時効により権利消滅しているという結論になるから、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。

第4結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉弘)

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