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東京地方裁判所 平成18年(ワ)13454号 判決 2007年1月31日

千葉県<以下省略>

原告

同訴訟代理人弁護士

荒井哲朗

坂本慎二

仙台市<以下省略>

被告

主文

1  被告は,原告に対し,392万円及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は,仮に執行することができる。

事実

第1請求

主文と同旨

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  当事者

ア 原告は,昭和17年○月○日生まれの女性会社員である。

イ さくらキャピタル株式会社(以下「訴外会社」という。)は,違法な未公開株商法を業とする株式会社である。

ウ 被告は,訴外会社の取締役であった者である。

(2)  未公開株式の販売

原告は,平成17年10月31日,訴外会社の従業員であるA(以下「A」という。)から,未公開株式であるジャパンメディアシステム株式会社株(以下「システム株」という。),日本ファースト証券株式会社株(以下「証券株」という。)について,これらの株は,2,3年のうちに上場して値上がりするとの虚偽の事実を申し向けられ,その旨誤信し,同年11月7日,訴外会社から,システム株を1株30万円で5株,証券株を1株45万円で2株購入し,Aに代金240万円を交付し,同年12月26日,証券株を1株45万円で3株購入し,Aに代金135万円を交付した(以下,原告が,訴外会社から上記システム株及び証券株を購入した行為を「本件未公開株取引」という。)。

(3)  訴外会社による不法行為

ア 訴外会社は,証券取引法所定の証券業の登録をすることなく,未公開株式を業として販売しており,証券取引法28条に違反するものであるところ,証券取引を行う資格がないのにこれがあるように装って証券取引を行うと称して,原告から金銭の交付を受けた行為は違法である。

イ 未公開株式については,証券会社であっても,いわゆるグリーンシート銘柄を除き,その取引を勧誘することが原則として禁止されている。ところが,訴外会社は,従業員であるAをして,原告に対して,グリーンシート銘柄ではない未公開株式であるシステム株及び証券株を,あたかもすぐに上場し,多額の利益を確実に得ることができるかのように甘言を弄させ,これを信じた原告に対して正常な価格に比して著しく高額で売りつけ,原告から株式の代金名下に金銭を詐取したのである。

(4)  被告の責任

ア 訴外会社は,法人としての不法行為責任を負うべきところ,被告は,一般消費者から金銭を詐取するために訴外会社を設立し,その運営に積極的に関与してきたのであるから,訴外会社とともに共同不法行為責任を負うべきである。

イ 被告は,訴外会社の取締役として,取締役会構成員たる地位において,訴外会社の代表取締役であるB(以下「B」という。)の業務執行行為一般について監視監督義務があるにもかかわらず,重大な過失により,上記(3)の違法行為の是正をしなかったのであるから,平成17年改正前の旧商法266条の3第1項による損害賠償責任を負うべきである。

(5)  損害

ア 取引損金相当損害金 375万円

イ 弁護士費用 38万円

ウ 一部弁済 21万円

原告は,訴外会社らから,平成18年9月から同年11月までの間に,合計21万円の支払を受けたので,上記アの元金額に,これを充当する。

(6)  よって,原告は,被告に対し,共同不法行為又は旧商法266条の3第1項による損害賠償として392万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年7月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因の認否及び被告の主張

(1)  請求原因(1)のうち,アの事実は認め,イの事実は否認し,ウの事実は認める。

(2)  同(2)のうち,訴外会社が,Aを通して,原告との間で本件未公開株取引を行ったことは認めるが,Aが,原告を欺罔したとの事実は否認する。

(3)  同(3)の事実は否認する。

(4)  同(4)の主張は争う。

(5)  同(5)の事実は否認する。

(6)  被告の主張

被告は,平成16年7月から平成18年3月まで,必ず訴外会社の取締役会に出席して,断定的勧誘等を行わないように確認をしている。また,違法性のない株取引を行うように訴外会社の代表者であるBに進言した。このように,被告には,取締役としての任務懈怠はなく,重大な過失もない。

また,被告は,訴外会社のオーナーであるBの支配下にあり,進言しても全てについて是正することは不可能であり,被告の行為と原告の損害との間には因果関係がない。

理由

1  請求原因(1)ア及びウの各事実は当事者間に争いがない。

また,同イの事実については,弁論の全趣旨によれば,訴外会社は,株式投資業務等を目的とする株式会社であることが認められる(なお,訴外会社が違法な未公開株商法を業とするものであるか否かは後に判断する。)。

2  同(2)のうち,原告は,訴外会社の従業員であるAを通じて,訴外会社から,平成17年11月7日,システム株を1株30万円で5株,証券株を1株45万円で2株購入し,Aに代金240万円を交付し,同年12月26日,証券株を1株45万円で3株購入し,Aに代金135万円を交付したことは当事者間に争いがなく,証拠(甲2,3,5,7)によれば,Aは,平成17年10月31日,原告に対し,未公開株式であるシステム株及び証券株について,これらの株は,2,3年のうちに上場して値上がりするとの虚偽の事実を申し向け,原告は,その旨誤信して,上記のとおり本件未公開株取引を行ったものと認められる。

3  同(3)について

証拠(甲1ないし3,7)及び弁論の全趣旨によれば,訴外会社は,証券取引法28条の証券業に係る内閣総理大臣の登録をしていないにもかかわらず,営業として未公開株式の販売を行っていたこと,訴外会社の取り扱う未公開株式は,証券会社の取り扱ういわゆるグリーンシート銘柄(証券取引法40条1項1号,グリーンシート銘柄に関する規則(日本証券業協会公正慣習規則第2号)ではなく,会社情報が公開されず,売買の気配値もないことから,その客観的価値を評価することが極めて困難な危険な商品であること,原告に対する本件のシステム株及び証券株の販売行為は,この営業行為の一環としてされたものであることが認められる。

そうすると,訴外会社の原告に対する本件のシステム株及び証券株の販売行為は,証券取引法に違反するものであり,かつ,訴外会社の従業員であるAが当該未公開株式が2,3年のうちに上場して値上がりするとの虚偽の事実を申し向けて販売した手口が,日本証券業協会等が注意を促している証券会社ではない業者による未公開株式の勧誘の手口とほぼ同様のものであること(弁論の全趣旨)からすると,訴外会社として,原告に対し,欺罔行為という違法な手段を用いて未公開株式を販売したものと認められるから,訴外会社は,原告に対し,本件のシステム株及び証券株の販売行為について,民法709条に基づく損害賠償義務を負うものというべきである。

4  同(4)について

証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成16年春ころ,Bから,未公開株式の取引を行う会社の設立への参加を求められ,これに応じて,同年7月14日に設立された訴外会社の設立時の取締役に就任し,定期的に取締役会にも出席していたことが認められ,これに上記3の認定事実をも併せると,被告としても,訴外会社が,欺罔行為という違法な手段を用いて未公開株式を販売するという営業行為を行っていたことを認識していたものと推認することができる。そうであれば,被告としては,訴外会社の取締役会を自ら招集し,あるいは招集することを求め,取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにすべきであったのに,重大な過失により,これを怠ったものと認められる。

これに対し,被告は,訴外会社の代表者であるBに違法性のない株取引を行うように進言した旨主張するが,被告は,取締役会を招集するなどの適切な措置を講じなかったのであるから,仮に,被告が,Bにその旨進言したとしても,上記認定判断を左右するものではない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

よって,被告は,原告に対し,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第78条の規定に基づき従前の例によるところの商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)266条の3第1項に基づき,取締役として損害賠償責任を負うものというべきである。

5  同(5)について

(1)  原告は,本件のシステム株及び証券株を,2,3年のうちに上場して値上がりすると誤信して購入したために,購入代金相当額375万円の損害を被ったものと認められる。

そして,原告は,訴外会社らから,平成18年9月から同年11月までの間に,合計21万円の支払を受け,この元金額に充当したことは原告の自認するところである。そこで,原告の被った購入代金相当額残金は354万円となる。

(2)  原告が原告代理人弁護士らに本件訴訟の提起追行を委任したことは記録上明らかであり,本件事案の難易度等本件に顕れた一切の事情を総合勘案すると,原告の弁護士費用の額としては,38万円をもって相当である。

(3)  原告の損害総額は,上記(1)及び(2)の合計392万円となる。

ところで,被告は,被告の行為と原告の損害との間に因果関係はない旨主張するが,そもそも,被告は,上記4のとおり,訴外会社の取締役としての職務を尽くしていないのであるから,被告の職務懈怠行為と原告の損害との間の因果関係を否定すべき根拠はないものというべきである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

6  以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 金子順一)

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