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東京地方裁判所 平成18年(ワ)16899号 判決 2008年7月04日

東京都新宿区<以下略>

原告

株式会社ピーエスジー

同訴訟代理人弁護士

伊藤真

大阪府東大阪市<以下略>

被告

キープ株式会社

同訴訟代理人弁護士

九鬼正光

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金3600万円及びこれに対する平成18年8月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,幼児向けの教育用VHSビデオ・DVD商品を製造,販売する原告が同様のDVD商品を販売する被告に対し,主位的に,被告の商品で使用する博士をイメージした人物の絵柄が原告の商品で使用する博士をイメージした人物の絵柄と類似し,その登場する著作物の著作権(複製権及び翻案権)を侵害している旨主張して,民法709条に基づき,予備的に,被告の使用する上記絵柄が周知の商品等表示である原告の上記絵柄と類似し,原告の商品と混同を生じさせている旨主張して,不正競争防止法2条1項1号,4条に基づき,損害賠償金3600万円及びこれに対する不法行為の後である平成18年8月19日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1  争いのない事実

(1)  当事者等

原告は,「1 ビデオ・カセットテープの製造及び販売 2 音響機器の製造及び販売 3 家庭用電気製品及び電子機器の販売 4 日用雑貨の販売 5 前記各号の製品の輸出入 6 前各号に付帯する一切の業務」を目的とする株式会社である。

被告は,「1.磁気音テープ、楽器その他音楽関係各種機械器具の販売 2.音響機械および電気機械器具の販売 3.録音テープ、ビデオテープ、ビデオディスク等の音楽映像を録画録音した商品の販売 4.前各号に付帯または関連事業」を目的とする株式会社である。

有限会社イーエックス・キュー(以下「イーエックス・キュー」という。)は,原告の関連会社であり,ビデオやDVD作品を制作するなどしている。

ファーストミュージック株式会社(以下「ファーストミュージック」という。)は,被告の関連会社であり,DVD作品を制作するなどしている。

(2)  原告の扱う商品と原告の博士絵柄

イーエックス・キューは,別紙原告商品目録記載の商品(VHSビデオ,以下「原告商品」という。)を制作し,原告に対し,原告商品の著作権を譲渡した。

原告は,平成9年ころ,原告商品の販売を開始した。

原告商品は,幼児向け教育用ビデオであり,その映像のなかで,別紙原告博士絵柄1目録及び原告博士絵柄2目録のような博士をイメージした人物のキャラクター(このキャラクターの絵柄を,以下「原告博士絵柄」という。)が登場し,「あいうえお」や「1+1」などの勉強を教える内容となっており,この原告博士絵柄は,原告商品のパッケージカバーや本体ラベルにも描かれている。

原告商品の映像に登場する原告博士絵柄の映ったシーンの抜粋は,別紙原告博士絵柄映像目録のとおりである。

(3)  原告と被告との間の契約と取引

原告と被告は,平成11年5月ころ,原告商品と同一内容のVHSビデオ版として,別紙被告商品目録5記載の商品(以下「被告商品5」という。)について,原告が被告の商品として被告に供給して,原告と被告の間で代金を決済する契約(以下「本件契約1」という。)を締結した。

本件契約1に基づく取引形態は,次のとおりである。

① 被告が独自にジャケット(パッケージ)デザインを行う。

② 被告がそのジャケット用掛け紙を原告に送付する。

③ 原告がVHSビデオを製造し,そのジャケット用紙を掛けて,被告に供給する。

また,原告は,被告に対し,その後,被告が株式会社ピジョン(以下「ピジョン」という。)を通じて原告商品と同一内容のVHSビデオとして,別紙被告商品目録6記載の商品(以下「被告商品6」という。)を販売することを了解した。

そして,原告と被告は,平成12年6月ころ,原告商品と同一内容のDVD版として,別紙被告商品目録7記載の商品(以下「被告商品7」といい,これと被告商品5及び被告商品6とを併せて「被告商品5ないし7」という。)について,本件契約1と同様に,取引契約(以下「本件契約2」といい,これと本件契約1とを併せて「本件各契約」という。)を締結した。

本件契約2に基づく被告商品7の取引形態は,次のとおりである。

① 原告が被告にあらかじめDVDのマスター(原盤)を渡しておく。

② 香港において,ファーストミュージックが被告の必要な数量を製造して輸入する。

③ ファーストミュージックが輸入した数量を原告に報告する。

④ 形式的に,原告が輸入された商品を購入して被告に販売する形にしたうえ,原告がファーストミュージックに代金を支払うとともに,被告に上乗せした金員の請求をする。

⑤ 実際に,商品はファーストミュージックから被告に直接引き渡され,原告のもとを経由しない。

なお,これらのVHSビデオ及びDVD商品(被告商品5ないし7)のジャケット用掛紙や本体ラベルには,別紙被告博士絵柄1目録のような博士をイメージした人物の絵柄(以下「被告博士旧絵柄」という。)が描かれている。

(4)  被告の扱う商品と被告の博士絵柄

被告は,平成17年7月ころから,別紙被告商品目録1ないし4記載の商品(DVD,以下「被告商品1」,「被告商品3及び4」などといい,被告商品1ないし4を併せて「被告各商品」という。)を販売している。

被告各商品は,幼児向け教育用ビデオであり,その映像のなかで,別紙被告博士絵柄2目録のような博士をイメージした人物のキャラクター(このキャラクターの絵柄を,以下「被告博士絵柄」という。)が登場し,「あいうえお」や「1+1」などの勉強を教える内容となっており,この被告博士絵柄は,被告各商品のジャケット用掛紙や本体ラベルにも描かれている。

被告各商品の映像に登場する被告博士絵柄の映ったシーンの抜粋は,別紙被告博士絵柄映像目録のとおりである(なお,被告商品4については,被告商品1ないし3のうちの重複するDVDと同一である。)。

(5)  原告による契約解除

原告は,平成19年1月24日の本件第3回弁論準備手続期日において,被告に対し,本件各契約を解除する旨の意思表示をした。

2  争点

(1)  原告博士絵柄の創作性

(2)  原告博士絵柄と被告博士絵柄との類似性等

(3)  原告博士絵柄の商品等表示性,周知性等

(4)  原告の損害

第3争点に関する当事者の主張

1  争点(1)〔原告博士絵柄の創作性〕について

〔原告の主張〕

(1) 原告の著作物である原告商品に登場する原告博士絵柄は,いずれも原告商品に用いることを前提に,別紙原告博士絵柄1目録及び原告博士絵柄2目録のとおり,正面から横向きまでの,目を開けている状態から目を閉じている状態までの,あるいは,首を左に傾けている状態から右に傾けている状態までの,1人の博士をイメージした人物の絵柄が表現されたイラストである。

(2) 著作物の要件としての創作的に表現したものとは,作品に何らかの知的活動の成果,つまりクリエイティブなものがなくてはならないということであって,著作者の個性が著作物の中に何らかの形で現れていればそれで十分であり,また,進歩性や創作容易性と混同してはならない。著作物性における創作的表現とは,独創性ではなく,作者の個性の反映をいうものである。

博士をイメージした人物の絵柄(イラスト)においては,角帽を描いたり,髭を描いたりするなどの手法は従前から存在するものの,具体的な絵柄(表現)は様々であり,この具体的な絵柄において独自性が検討されるのであって,角帽や髭を描くこと自体は表現以前のアイデアの領域である。

原告博士絵柄を言葉で表すと,次のような表現上の大きな特徴がある。

・角帽は,上面の平面が僅かに大きい

・顔は,ふくよかな四角顔で,細面でない

・目は,縦長楕円形で大きく,黒目部分も目の輪郭とほぼ同じ縦長楕円形で同心円的な大きさである

・眉毛は,目の真上に近接して,太く短い

・鼻は,略球状の団子鼻である

・頬は,大きく丸くふくらんで,下ぶくれである

・髪は,頭頂部が角帽にすべて隠れ,頭側部の大きな揉み上げが角帽の下に幅広に存在する

・髭は,太い「八」の字状のカイゼル髭で,先端が大きく丸く跳ね上がる・耳は,揉み上げに隠れる

・首は,襟に隠れる

・指し棒は,先端が人差し指を突き出した特別な形をしている

原告博士絵柄は,このような博士の顔という1つのまとまった親しみのある優しい雰囲気が描かれた表現において,独自性すなわち著作物性が認められる。

原告博士絵柄について,被告の提出する乙第1ないし第8号証と対比しても,博士の絵柄としてそれぞれ異なった表現がされており,原告博士絵柄は,作者の個性の反映された具体的な表現物の1つであることが明らかである。

〔被告の主張〕

(1) 著作権法2条1項1号の「思想又は感情を創作的に表現したもの」にいう創作性とは,芸術的に高い評価を受け得るものであるレベルに達している必要はなく,著作者の個性が創作行為に現れていればよいものの,原告博士絵柄は,一般人が共有している博士と称される典型的な顔(髭が生えていて,角帽をかぶった顔をイラスト化したもの)であって,特徴のない手法で描いたものにすぎない。博士を表現するとすれば,博士帽子の角帽をかぶった年配の男性をイメージして表現することが一般的であり,子供向けの商品でこのイメージと異なる表現をすることは考えられず,博士のイメージは限定的,固定的である。また,説明役の登場人物以上にその人物自体に独特の世界を表現する必要もなく,権威付けがされていればよい。

(2) 博士の絵柄を示す乙第1ないし第8号証によれば,博士は,いずれも角帽をかぶり,髭と揉み上げがあり,片方の脇に書物を抱え,もう一方の手は指し棒を持っていたり,何かを指したりして,服装も,ネクタイ着用で,実験着や教授服を着用しているなどしている。

原告博士絵柄も被告博士絵柄も,それぞれ博士としての一般的要素を取り入れ,顔の表情や色調に工夫を加えて作成されているものの,いずれも,著作物としての創作性が認められないありふれた表現である。

2  争点(2)〔原告博士絵柄と被告博士絵柄との類似性等〕について

〔原告の主張〕

(1) 被告は,従前から原告博士絵柄を用いたVHSビデオやDVDを取り扱って,原告博士絵柄との同一性を前提とした被告博士旧絵柄を使用していたから,被告博士旧絵柄とほぼ同一の被告博士絵柄が原告博士絵柄に依拠して作成されたものであることは明らかである。

(2) 原告博士絵柄と被告博士絵柄とを対比すると,前記1〔原告の主張〕(2)のような表現上の特徴が一致して酷似しており,原告博士絵柄と被告博士絵柄とは,実質的に同一である。また,被告博士絵柄から原告博士絵柄の表現の本質的特徴を看取することができることも明らかである。

そもそも,被告博士絵柄は,被告が原告博士絵柄を用いたVHSビデオやDVDを取り扱うに際し,そのパッケージデザインのために作成された被告博士旧絵柄に由来するものであり,購入者において,違和感なく同一の絵柄として認識される必要があった。CG(コンピュータグラフィクス)で原告博士絵柄と同じ絵柄を描いたことから,眉毛や揉み上げの形状にわずかな違いがあるにすぎず,両者が本質的特徴において,同一であることは当然である。

(3) したがって,被告博士絵柄は,原告博士絵柄の登場する原告商品の映像の複製権又は翻案権を侵害するものである。

〔被告の主張〕

(1) 被告博士旧絵柄は,映像に登場する原告博士絵柄のキャラクターを尊重することを前提として,利用者である子供に親近感を抱かせる要素のある博士イラストを株式会社サンデザインワーク(以下「サンデザインワーク」という。)に依頼してコンピュータの3Dグラフィクスにより製作したものである。

(2) 他方,被告は,平成13年,被告各商品の制作に際し,サンデザインワークに対し,3D画像による「博士」,「ナンシー先生」,子供2名(「けい君」,「りさちゃん」)の製作を依頼した。このうち,博士については,次の点を要望した。

・普遍的な大学の博士のイメージで,理系ではなく,文科系であること

・白髪白髭で,子供が親しめる明るく優しくかわいい顔,体形であること

・平面的なイラストではなく,本格的な3DのCGとなる人物であること

・パッケージや映像に使用することを前提に製作すること

サンデザインワークでは,海外の大学の卒業シーンに登場する博士号授与式等で見られる角帽やガウンを参考にし,ガウンの色調は紫紺色にして,大きな蝶ネクタイと胸元の黄色のボタンをあしらい,語学系の博士をイメージさせるために辞書を手に持たせ,白髪や白髭は,漫画やイラストに登場する博士に備わる普遍的な印象により,体形はかわいさを演出するための2頭身とし,こうしたイメージに基づいて,3Dモデリングソフトを使用して被告博士絵柄を製作したものであり,平成13年12月,被告に対して納品された。

(3) 仮に,原告博士絵柄に創作性があると認められるとしても,被告は,被告博士絵柄を原告博士絵柄に依拠することなく独自に作成しており,原告博士絵柄の著作権(複製権)を侵害するものではない。被告は,サンデザインワークに対する被告博士絵柄の製作依頼に際して,原告の販売する商品や被告の販売する商品等をサンデザインワークに渡したことはない。

また,博士をイメージした人物の表現方法は千差万別であるところ,被告博士絵柄は,3DCGによる表現であり,その脚や足元を明確に表現して,立体感によって躍動感のある表現が特徴的であるのに対し,原告博士絵柄は,平坦的な手法で描かれ,顔のみの表現であり,細部も異なっているから,表現形式上の本質的特徴部分において,類似性がない。

したがって,被告博士絵柄は,原告博士絵柄の登場する原告商品の映像の複製権も翻案権も侵害するものではない。

3  争点(3)〔原告博士絵柄の商品等表示性,周知性等〕について

〔原告の主張〕

(1) 構成その1

ア 原告は,別紙「原告博士絵柄使用したビデオ一覧」記載のとおり,平成9年(1997年)4月から,原告博士絵柄を使用したVHSビデオやDVDを通信販売によって販売し,また,図書館にも納品している。原告博士絵柄は,各ビデオ等で問題を出したり解説をしたりするメインキャラクターとして登場し,パッケージや通販カタログにも掲載されて,原告の商品のいわば顔となり,これを視聴する子供や保護者において,原告の商品と原告博士絵柄とが結びついて記銘されるから,原告の一連の幼児向け商品を表示する原告の商品等表示となっている。

原告商品を含む原告博士絵柄を使用した原告のビデオやDVDの販売数量に関し,これらの製作,納品をしていた会社(東洋企画,蝸電社,大宮商会,メディアダイナミクス及び東洋化成)の納品伝票でみると,平成10年度から平成17年度までの実績は,別紙「納品関係集計表」記載のとおりであり,また,図書館への納品は,平成10年度から平成17年度までの合計の実績で,別紙「図書館納品表」記載のとおりであり,さらに,DVDの仕入れをインボイスからみると,平成12年度から平成19年度までの実績は,別紙「DVD仕入れ実績表」記載のとおりであるから,遅くとも,被告が被告各商品を販売する以前の平成16年の時点で,原告博士絵柄は,原告の商品等表示として,取引者や需要者(幼児をもった父母,祖父母などの保護者)に広く知られて,周知性を獲得している。

イ 被告は,被告博士絵柄を被告各商品に用いており,原告における原告博士絵柄と同様に,被告の一連の幼児向け商品を表示する被告の商品等表示となっている。

そして,原告博士絵柄と被告博士絵柄とが酷似して類似していることは,前記2〔原告の主張〕(2)のとおりであり,被告が被告各商品を販売することは,原告の商品との誤認混同を生じさせるものである。

ウ したがって,被告各商品の販売は,不正競争防止法2条1項1号に該当する不正競争行為である。

(2) 構成その2

ア 被告博士旧絵柄は,もともと被告が本件各契約によって原告の許諾を得て販売した各ビデオ等に使用され,原告博士絵柄に依拠して作成されたものであって,酷似しており,需要者において,原告博士絵柄と同一のものとして認識されているから,被告博士旧絵柄も原告の商品等表示である。

被告商品5ないし7の販売実績(原告に対して報告のあった製造,輸入量)は,別紙「OEM報告数量一覧表」記載のとおりであり,また,原告においても,前記(1)アのとおり原告の商品を販売していたから,遅くとも平成16年の時点で,原告博士絵柄及び被告博士旧絵柄は,いずれも原告の商品等表示として,需要者に広く知られて,周知性を獲得している。

イ 被告は,被告博士絵柄を被告各商品に用いており,原告における原告博士絵柄及び被告博士旧絵柄と同様に,被告の一連の幼児向け商品を表示する被告の商品等表示となっている。

そして,原告博士絵柄と被告博士絵柄とが酷似して類似していることは,前記2〔原告の主張〕(2)のとおりであり,被告が被告各商品を販売することは,原告の商品との誤認混同を生じさせ,とりわけ,被告商品1(型番STD-721~725)と被告商品3のうちの「はじめてのえいご① アルファベットってなあに?」(型番END-711)は,原告商品(型番PL-01~06)と完全に対応しているものである。

ウ したがって,被告各商品の販売は,不正競争防止法2条1項1号に該当する不正競争行為である。

(3) なお,原告博士絵柄の付された原告の商品は,数千の単位で個別に発注して納品されるものであり,商品の特性として,一度に大量生産をする必要がなく,腐敗や劣化のないことから,在庫が少なくなる都度発注されて,発注を受けるころには,それ以前の発注数量の販売が完了していたことは明らかである。そもそも,原告の指摘している数量は,原告博士絵柄が需要者の間に広く認識されていることを証明する事実であり,おおむねの数量について立証できれば足りるものである。

また,需要者においては映像の制作主体を重視するものであるから,被告博士旧絵柄が本体ラベル等に用いられた被告商品5ないし7において,タイトルと映像が原告の商品と同一であることや「©PSG CO.,LTD.」の表記がされていることなどからすれば,被告博士旧絵柄も,原告が権利を有して被告に販売を許諾した商品として認識されるのであり,原告の商品等表示といえる。

〔被告の主張〕

(1) 構成その1及びその2のいずれの主張についても,否認ないし争う。

(2) 原告博士絵柄は,原告の商品等表示として自他識別力ないし出所表示機能を有しておらず,原告の製造,販売する商品の表示として,需要者に広く知られていない。

原告は,原告への納品に当たる仕入れや輸入の数量をもって,販売実績として主張するものであり,販売の実数量を反映しているかは疑問である。

幼児向けのビデオやDVDについては,原告や被告のほかにも販売業者があって,博士を登場させている他社製品が存在しており,原告博士絵柄が原告の商品等表示として周知といえるほど,需要者に認識されていたとはいえない。

(3) また,被告博士旧絵柄は,被告商品5ないし7について,本件各契約などに基づき,被告の商品として販売されていたものであるから,原告の商品等表示になることはない。

被告商品5ないし7の仕入れ実績は,別紙「OEM報告数量一覧表」記載のとおりであるものの,仕入れた商品が必ずしも完売となったとは限らず,売れ残って廃棄処分となったものもある。

4  争点(4)〔原告の損害〕について

〔原告の主張〕

(1) 被告商品1は,原告商品のうちの5個の商品(型番PL-01,03~06)とタイトルや商品構成が全く同じ内容の幼児向け教育用DVDであって,パッケージデザイン(掛け紙)も酷似しており,これらの原告商品の代替品として,原告の著作権を侵害して販売されているものである。

被告商品1の5種類の商品の1本あたりの利益額は200円を下らず,その販売総数は各2万本を下らないから,著作権法114条2項に基づいて,被告商品1の関係の損害は,2000万円となる。

200×20000×5=20000000

(2) 被告商品2は,原告博士絵柄と類似する被告博士絵柄を映像中及びその掛け紙に使用して原告の著作権を侵害しており,原告が原告博士絵柄を使用した商品を第三者に許諾するとすれば,小売希望価格の少なくとも1割の使用料を受けるべきである。

被告商品2の10種類の商品の各1本の小売希望価格は500円であって,その販売総数は各1万本を下らないから,著作権法114条3項に基づいて,被告商品2の関係の損害は,500万円となる。

500×0.1×10000×10=5000000

(3) 被告商品3のうちの「はじめてのえいご① アルファベットってなあに?」(型番END-711)は,原告商品のうちの「楽しいおべんきょう ABCってなあに?」(型番PL-02)に対応し,この原告商品の代替品として,原告の著作権を侵害して販売されているものである。

被告商品3のこの商品の1本あたりの利益額は200円を下らず,その販売総数は1万本を下らないから,著作権法114条2項に基づいて,被告商品3のこの商品関係の損害は,200万円となる。

200×10000=2000000

被告商品3のうちの上記以外の商品(型番END-712~716)は,原告博士絵柄と類似する被告博士絵柄を映像中及びその掛け紙に使用して原告の著作権を侵害しており,原告が原告博士絵柄を使用した商品を第三者に許諾するとすれば,小売希望価格の少なくとも1割の使用料を受けるべきである。

被告商品3のこれらの商品の各1本の小売希望価格は500円であって,その販売総数は各1万本を下らないから,著作権法114条3項に基づいて,被告商品3のこれらの商品関係の損害は,250万円となる。

500×0.1×10000×5=2500000

(4) 被告商品4のうちの「はじめてのひらがな・カタカナ」(型番2DVD-24)と「はじめたのたしざん・ひきざん」(型番2DVD-25)は,原告商品のうちの4つの商品(型番PL-01,03,05,06)に対応し,これらの原告商品の代替品として,原告の著作権を侵害して販売されているものである。

被告商品4のこれらの商品の各1本あたりの利益額は400円を下らず,その販売総数は各2000本を下らないから,著作権法114条2項に基づいて,被告商品4のこれらの商品関係の損害は,160万円となる。

400×2000×2=1600000

被告商品4のうちの上記以外の商品(型番2DVD-16~23)は,原告博士絵柄と類似する被告博士絵柄を映像中及びその掛け紙に使用して原告の著作権を侵害しており,原告が原告博士絵柄を使用した商品を第三者に許諾するとすれば,小売希望価格の少なくとも1割の使用料を受けるべきである。

被告商品4のこれらの商品の各1本の小売希望価格は1000円であって,その販売総数は各2000本を下らないから,著作権法114条3項に基づいて,被告商品4のこれらの商品関係の損害は,160万円となる。

1000×0.1×2000×8=1600000

(5) 仮に,被告の行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為と認められる場合であっても,損害の構成は,著作権侵害の場合と同じである。

(6) 原告の被った損害と相当因果関係のある弁護士費用は,330万円が相当である。

(7) まとめ

原告の損害額は,3600万円となる。

20000000+5000000+2000000+2500000+1600000+1600000+3300000=36000000

〔被告の主張〕

(1) 損害に関する原告の主張は,すべて否認ないし争う。

(2) 被告各商品の販売実績は,別紙「被告キープの商品タイトル別の仕入数及び在庫数並びに販売数量一覧」記載のとおりである。

被告は,仮に,原告の損害が認められる場合,以下の主張をする。

ア 被告商品1について

幼児向け教育用DVDの制作にあっては,タイトルや作品構成が同じにならざるを得ず,他に選択すべきタイトルは見当たらないから,原告商品の代替物として,被告の利益が原告の損害と主張するのは,デッドコピーの販売と同様にとらえるものであって,失当である。

なお,被告商品1の1本あたりの小売価格は,消費税抜きで476円(500円は消費税を含んだ価格)であり,上限の卸値は333円であり,販売数量は,上記別紙記載のとおり,2万4570本である。

イ 被告商品2について

原告博士絵柄だけの使用許諾では,当然割合が低くなり,その使用許諾料が1割となることはない。

なお,被告商品2の1本あたりの小売価格は,消費税抜きで476円(500円は消費税を含んだ価格)であり,販売数量は,上記別紙記載のとおり,2万2690本である。

ウ 被告商品3について

被告商品3のうちの「はじめてのえいご① アルファベットってなあに?」(型番END-711)についての反論は,前記アと同様である。

なお,この商品は,上記別紙記載のとおり,仕入数5760本,在庫数1168本で販売数量が4592本である。

1760+4000=5760

また,これ以外の商品についての反論は,前記イと同様であり,販売数量は,上記別紙記載のとおり,3万5807本である。

40399-4592=35807

エ 被告商品4について

被告商品4のうちの「はじめてのひらがな・カタカナ」(型番2DVD-24)と「はじめたのたしざん・ひきざん」(型番2DVD-25)についての反論は,前記アと同様である。

なお,これらの商品の販売数量は,上記別紙記載のとおり,いずれも2000本である。

1000+1000=2000 1000+1000=2000

また,これら以外の商品についての反論は,前記イと同様であり,販売数量は,上記別紙記載のとおり,1万0500本である。

14500-2000-2000=10500

なお,被告商品4は,DVD2枚セットの商品であるから,小売価格は952円となり,上限の卸値は666円である。

476×2=952 333×2=666

オ また,そもそも,被告商品5ないし7について,原告が被告と本件各契約を締結するなどしたのは,被告において,商品の販売力があったからにほかならず,このことは被告各商品の販売についても同様に妥当するから,損害額の算定の上で考慮されるべきである。

したがって,許諾使用料としては,せいぜい2パーセントが上限である。

第4当裁判所の判断

1  争点(1)〔原告博士絵柄の創作性〕について

(1)  著作権法上の保護の対象となる著作物は,思想又は感情を創作的に表現したものでなければならず(著作権法2条1項1号),ここでいう創作的な表現とは,厳密な意味において,作成者の独創性が発揮されたものであることまでは必要でなく,その何らかの個性が発揮されたものであれば足りると解される。

これを本件についてみるに,原告博士絵柄は,原告商品のVHSビデオに登場する別紙原告博士絵柄1目録及び原告博士絵柄2目録のような博士をイメージした人物を描いた絵柄であり,証拠(甲1~6)及び弁論の全趣旨によれば,原告博士絵柄について,次のような指摘をすることができる。すなわち,①角帽を被ってガウンをまとい,髭を生やしたほぼ2頭身のふっくらとした博士をイメージさせる年配の男性の人物であり,頭部を含む上半身が強調されて,下半身はガウンの裾から見える大きな靴で描かれていること,②顔のつくりは,下ぶくれの台形状であって両頬が丸く,中央部に丸い鼻が位置し,そこから髭が左右に「八」の字に伸びて先端が跳ね上がり(カイゼル髭),目は鼻と横幅がほぼ同じで縦方向に長い楕円であって,その両目の真上に横長の楕円の眉があり,首と耳は描かれず,左右の側頭部に3つの山型にふくらんだ髪が生えていること,③全体の表情や動作は,目の大部分を瞳が占め,開閉する瞼もふくらみのある卵形で描かれ,鼻と髭の真下で三日月の円弧部分を下にした形の口が開閉し,また,両手を大きく開き,右手に持った棒で黒板を指すような動きを示すこと,④色づかいは,角帽,眉,髭,ガウンが黒色,目の瞳,髪,靴がグレー系の色,目の白目,襟が白色,顔,手が肌色,口が赤色に塗られていること,⑤全体のタッチは,比較的簡易な3Dグラフィックスによるもので,のっぺりとしており,陰影によって一応の立体感があること,がそれぞれ認められる。

上記①ないし⑤によれば,このような原告博士絵柄は,角帽やガウン,髭などにより,物知りの博士をイメージした人物という点で,ある程度の権威付けをしながらも,特に,幼児向けという原告商品の特性を念頭に置いて,ふっくらとした顔や目つき,2頭身や大きな手振りなどにより,優しそうで親しみのある雰囲気を描いていることに特徴があるといえる。

(2)  被告は,原告博士絵柄は(被告博士絵柄とともに),博士をイメージした人物としての一般的要素を取り入れ,顔の表情や色調に工夫を加えて作成されているものの,著作物としての創作性が認められないありふれた表現である旨主張する。

そこで,この点についてみるに,証拠(乙1~8)及び弁論の全趣旨によれば,原告博士絵柄及び被告博士絵柄以外の博士をイメージした人物として,法務省の商業登記Q&Aに用いられている博士(乙第1号証),中央出版株式会社のさんすうおまかせビデオに用いられている博士(乙第2号証),独立行政法人水資源機構のホームページに用いられているものしり博士(乙第3号証),株式会社新学社の社会科資料集6年に用いられている歴史博士(乙第4号証),証券クエストのホームページに用いられている博士(乙第5号証),DEX WEBのイラスト・クリップアートに表示されている3DCGの博士(乙第6号証),株式会社パルスのおもしろ実験室のパッケージに用いられている博士(乙第7号証,ただし,乙第6号証の博士と同一のもの)及び株式会社UYEKIの防虫ダニ用スプレーの宣伝に用いられている博士(乙第8号証)の絵柄があること,これらの絵柄の共通の要素として,角帽を被り,丸い鼻から髭を生やし,比較的ふくよかな体型の年配の男性であることなどを挙げることができること,が認められる。しかしながら,これらの博士のそれぞれの絵柄を見れば,共通の要素としての角帽,鼻,髭,体型等の描き方にしても様々であり,まして,色づかいやタッチなどの全体の印象を含めれば,博士をイメージさせる要素が類似するとしても,これらの博士の絵柄相互間において,表現物としての共通性があって,いずれもがありふれていると言い切ることはできないものというべきである。そして,原告博士絵柄については,上記の各博士のそれぞれの絵柄と対比して,なお博士絵柄の表現としてありふれているとまでは言えないものと認められる。

(3)  したがって,原告博士絵柄は,全体としてみたとき,前記(1)のような特徴を備えた博士の絵柄の一つの表現であって,そこに作成者の個性の反映された創作性があるというべきであり,原告商品の一部を構成する原告博士絵柄の登場する画像の著作物として,創作的な表現とみることができるものと認められる。被告の主張は,採用することができない。

2  争点(2)〔原告博士絵柄と被告博士絵柄との類似性等〕について

(1)  前記第2の1争いのない事実に,証拠(甲1~6,13~29,31~56,97~102,乙9)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

ア 原告博士絵柄と被告博士絵柄との共通点

原告博士絵柄と被告博士絵柄とは,①角帽を被ってガウンをまとい,髭を生やしたほぼ2頭身の年配の男性の博士であり,頭部を含む上半身が強調されて,下半身がガウンの裾から見える大きな靴で描かれていること,②顔のつくりが下ぶくれの台形状であって,両頬が丸く,中央部に鼻が位置し,そこから髭が左右に「八」の字に伸びて先端が跳ね上がり(カイゼル髭),目が鼻と横幅がほぼ同じで縦方向に長い楕円であって,その両目の真上に眉があり,首と耳は描かれず,左右の側頭部に3つの山型にふくらんだ髪が生えていることが共通している。

イ 原告博士絵柄と被告博士絵柄との相違点

原告博士絵柄と被告博士絵柄とは,①全体の質感と輝き,顔や全身の縦横の比率,②耳の有無,鼻の形,瞳の色,眉の形と色,髭の色,③角帽の被り方,蝶ネクタイの有無,ガウンのデザインなどにおいて相違している。

すなわち,①被告博士絵柄は,原告博士絵柄と対比して,より立体的な質感があって,瞳などに光の輝きがあり,顔や全身がより細身に描かれているのに対し,原告博士絵柄は,被告博士絵柄と対比して,平板な感じで全体的にのっぺりとして,顔や全身が横太に描かれており,②被告博士絵柄は,耳が描かれ,鼻が縦方向の楕円で,瞳が黒く,眉は灰色で両端が下方に湾曲し,髭が白色であるのに対し,原告博士絵柄は,耳がなく,鼻がほぼまん丸で,瞳がグレー,眉は黒色で横長の楕円で,髭が黒色であり,③被告博士絵柄は,角帽の角が顔の中心線上で,つばに角度があり,赤い蝶ネクタイを付けて,金ボタンの付いた紺色のガウンをまとっているのに対し,原告博士絵柄は,角帽の角が顔の端に寄って,つばに角度がなく,蝶ネクタイはなく,黒色のガウンに装飾がない。

なお,被告博士絵柄は,男の子と女の子,女性の先生の絵柄とともに登場したり,被告博士絵柄自体が別の服装で登場したりすることがあるのに対し,原告博士絵柄には,そのような類似の絵柄や服装の種類もない。

ウ 被告博士絵柄の由来

被告商品5ないし7のジャケット用掛紙や本体ラベルに描かれた被告博士旧絵柄は,本件各契約に基づいてこれらの商品を取り扱う被告において,映像に登場する原告博士絵柄のキャラクターを前提として,サンデザインワークに依頼して,コンピュータの3Dグラフィクスにより製作された。

そして,被告博士絵柄は,その後,被告が被告各商品を取り扱うに際し,サンデザインワークに依頼して,同様の3DCGにより,製作されたものである。

(2)  原告博士絵柄と被告博士絵柄とを対比すると,原告博士絵柄と被告博士絵柄とは,前記(1)アのとおりの共通点があり,また,同ウの由来を考慮すれば,元来,被告博士絵柄は,原告博士絵柄に似せて製作されたものということができるものの,同イの相違点に照らすと,絵柄として酷似しているとは,言い難いものと認められる。

そして,原告博士絵柄のような博士の絵柄については,前記1(2)の乙第1ないし第8号証でみた博士の絵柄のように,角帽やガウンをまとい髭などを生やしたふっくらとした年配の男性とするという点はアイデアにすぎず,前記(1)アの原告博士絵柄と被告博士絵柄との共通点として挙げられているその余の具体的表現(ほぼ2頭身で,頭部を含む上半身が強調されて,下半身がガウンの裾から見える大きな靴で描かれていること,顔のつくりが下ぶくれの台形状であって,両頬が丸く,中央部に鼻が位置し,そこからカイゼル髭が伸びていること,目が鼻と横幅がほぼ同じで縦方向に長い楕円であって,その両目の真上に眉があり,首と耳は描かれず,左右の側頭部にふくらんだ髪が生えていること)は,きわめてありふれたもので表現上の創作性があるということはできず,両者は表現でないアイデアあるいは表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。また,被告博士絵柄全体をみても,前記(1)イの相違点に照らすと,これに接する者が原告博士絵柄を表現する固有の本質的特徴を看取することはできないものというべきである(なお,原告商品に登場する原告博士絵柄と被告各商品に登場する被告博士絵柄は,ともにそれぞれの商品の一部を構成する画像として存在するところ,動きのある映像として見たとき,原告博士絵柄と被告博士絵柄との違いは明白である。)。

したがって,被告各商品の一部を構成する被告博士絵柄の登場する画像が原告商品の一部を構成する原告博士絵柄の登場する画像の複製権や翻案権を侵害していると認めることはできない。

(3)  以上のとおりであるから,原告の著作権侵害による不法行為の主張は,その余を検討するまでもなく失当である。

3  争点(3)〔原告博士絵柄の商品等表示性,周知性等〕について

(1)  原告は,原告博士絵柄がこれを使用した原告商品を含む原告のビデオやDVDの商品の商品等表示として,遅くとも平成16年の時点で,取引者や需要者(幼児をもった父母,祖父母などの保護者)にとって,周知である旨主張する(構成その1)ので,検討する。

証拠(甲1~12,92の1~3)及び弁論の全趣旨によれば,原告の扱う商品のうち,原告商品(PL-01~06,甲1~6)のほか,「自動車ものしり辞典」(PND-15,甲7),「飛行機ものしり辞典」(PND-16,甲8),「鉄道ものしり辞典」(PND-17,甲9),「たのしいなぞなぞ なぞなぞ宝探し」(PQ-01,甲10),「たのしいなぞなぞ なぞなぞハイキング」(PQ-02,甲11),「たのしいなぞなぞなぞなぞ大冒険」(PQ-03,甲12),「楽しいおべんきょう あいうえおってなあに?」(PLD-1,甲92の1~3),「楽しいおべんきょう さんすうってなあに?」(PLD-2,甲92の1~3),「楽しいおべんきょう 九九ってなあに?」(PLD-3,甲92の1~3),「楽しいおべんきょう ABCってなあに?」(PLD-4,甲92の1・2)については,原告博士絵柄が登場するものと認められる(なお,その余の商品〔PND-11~14,PDVD-003~005・011~013・032・033・042~044〕については,原告博士絵柄が当該商品に登場することの立証がない。)。

そこで,これらの原告の商品の販売数についてみるに,本件全証拠中には,販売数を証する直接の証拠はないものの,これに関連する証拠としては,平成16年以前のものとして,平成10年4月から平成11年3月までに原告が株式会社東洋企画(以下「東洋企画」という。)から納品を受けた際の納品書(甲88の1~34)がある(なお,DVDの輸入の際のインボイスや納品書〔甲94の1~甲96の15〕のうち,平成16年以前のものは甲第94号証の5ないし7及び9ないし14であるものの,上記の原告博士絵柄の登場することの立証のある商品は含まれていない。)。そして,原告商品のうちの「楽しいおべんきょう あいうえおってなあに?」(PL-01)について,原告の主張に係る別紙「納品関係集計表」における東洋企画の該当欄の数量と証拠(甲88の1~34)によって認められる数量とを対比すると,平成10年4月(甲88の1~4)につき両者とも1088本,同年5月(甲88の5~10)につき両者とも2200本,同年7月(甲88の11~13)につき両者とも299本,同年8月(甲88の14~16)につき両者とも497本,同年9月(甲88の17~19)につき両者とも995本,同年10月(甲88の20~22)につき両者とも1694本,同年11月(甲88の23~25)につき両者とも598本,平成11年1月(甲88の26~30)につき両者とも1094本,同年2月(甲88の31)につき両者とも490本,同年3月(甲88の32~34)につき両者とも386本とすべて一致していることが認められる。したがって,少なくとも,東洋企画からの納品については,別紙「納品関係集計表」記載の数量が確からしいものとして考えると,平成10年から平成15年までで,東洋企画が取り扱った原告商品(PL-01~06)と原告博士絵柄の登場する前記の原告の商品(PND-15~17,PQ-01~03)との合計は,約14万本弱であるものと推定することができる(なお,平成16年以前の対象商品の数量を概数でとらえると,他の業者からの納品のほか,別紙「DVD仕入れ実績表」,別紙「図書館納品表」の数量を加えても,ほぼ東洋企画の上記数量の2倍を超えることはないものと窺える。)。

なお,上記の数量は,原告が納品を受けた数量であって,実際に原告が販売した数量ではないものの,VHSビデオやDVDの商品の性格上,発注に応じた数量の販売があったと考えることが合理的であるというべきであるから,原告の対象商品の販売数量の概数を示すものと認められる。

すると,平成16年までの時点において,原告博士絵柄の登場する原告の商品が少なくとも10万本単位の規模で販売されたものということができる。

しかしながら,原告博士絵柄をもって,原告博士絵柄の登場する原告の商品の周知な表示というためには,商品等表示として,商品の外装やパッケージに記載されている必要があると解すべきであるところ,原告商品(PL-01~06,甲1~6)とその余の商品(PND-15~17,PQ-01~03,甲7~12)を見ても,原告博士絵柄は,コンテンツの主題となる絵や写真のいわば脇役として描かれているものにすぎず,これをもって商品等表示とみることはできないものというほかない(もっとも,原告の商品のうちの一部〔PLD-1~4,甲92の1~3〕については,上記の商品と対比すれば,原告博士絵柄の描き方が大きくなっているものの,これらを考慮に入れても,なお商品等表示ということはできない。)。

仮に,平成16年の時点で,取引者や需要者(幼児をもった父母,祖父母などの保護者)にとって,原告博士絵柄が原告の商品等表示として周知であったとしても,原告博士絵柄と被告博士絵柄との類否については,前記2(1)のとおりであり,絵柄として同一又は類似とは言い難く,商品の混同を生じさせるものということはできない。

したがって,原告の不正競争行為に係る構成その1の主張は,採用することができない。

(2)  原告は,原告博士絵柄に加え,被告博士旧絵柄も原告の商品等表示に当たるとして,被告博士旧絵柄の使われた被告商品5ないし7を含めた数量(別紙「OEM報告数量一覧表」のとおり)を指摘して,周知性を主張する(構成その2)。しかしながら,被告商品5ないし7は,本件各契約に基づき,被告あるいはピジョンが自己の商品として販売する商品であり,そのパッケージに「©PSG CO.,LTD.」と印刷されているとしても,原告の商品ということができないことは明らかであるから,被告博士旧絵柄を原告の商品等表示と認めることはできない。

したがって,原告の不正競争行為に係る構成その2の主張も,採用することができない。

(3)  以上のとおりであるから,原告の不正競争行為の主張は,いずれも失当である。

4  結論

したがって,原告の請求は,その余を判断するまでもなく理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 平田直人 裁判官 柵木澄子)

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