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東京地方裁判所 平成18年(ワ)20790号 判決 2008年11月28日

東京都中央区《以下省略》

原告

株式会社ブリヂストン

同訴訟代理人弁護士

竹田稔

川田篤

木村耕太郎

同訴訟復代理人弁護士

服部謙太朗

東京都品川区《以下省略》

被告

藤倉ゴム工業株式会社

同訴訟代理人弁護士

伊藤真

同補佐人弁理士

齋藤晴男

米田潤三

皿田秀夫

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,別紙被告製品目録(1)及び同(2)記載の各現像ブレードを製造,販売してはならない。

2  被告は,第1項記載の各現像ブレード及び当該現像ブレードの製造に供する金型を廃棄せよ。

3  被告は,原告に対して,金3325万円及びこれに対する平成18年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,現像ブレードの製造方法に関する特許権を有する原告が,被告に対して,被告の製造,販売する別紙被告製品目録(1)記載の現像ブレード(以下「イ号製品」という。)及び同目録(2)記載の現像ブレード(以下「ロ号製品」といい,イ号製品及びロ号製品を併せて「被告製品」という。)の各製造方法(それぞれの製造方法を以下「イ号方法」,「ロ号方法」といい,イ号方法及びロ号方法を併せて「被告方法」という。)が上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,上記特許権を侵害するとして,特許法100条に基づき,その製造,販売の差止め及び被告方法に供する金型の廃棄を,民法709条,特許法65条1項,102条3項に基づき,補償金及び損害賠償金並びにこれらに対する本訴状送達日の翌日である平成18年9月26日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めている事案である。

1  争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を末尾に記載する。)

(1)  原告の特許権

原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲請求項1に係る特許権を「本件特許権1」と,同請求項2に係る特許権を「本件特許権2」という。また,本件特許権1に係る発明を「本件発明1」と,本件特許権2に係る発明を「本件発明2」といい,本件発明1と本件発明2を併せて「本件発明」という。また,本件特許権に係る特許を「本件特許」といい,そのうち,本件特許権1に係る特許を「本件特許1」という。)を有している。

特許番号      第3721355号

発明の名称     現像ブレードの製造方法及び現像ブレード用金型

出願年月日     平成14年11月12日

登録年月日     平成17年9月16日

特許請求の範囲  別紙特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄「請求項1」及び「請求項2」記載のとおり(以下,本件公報掲載の特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」と,明細書を「本件明細書」といい,図面を「本件図面」という。また,本件図面のうち,個々の図面を指すときは,その番号を付して,「本件図1」,「本件図2」などという。)

(2)  構成要件の分説

ア 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。

A シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって,

B 上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に,上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みの20~80%であるリブ部を設けるとともに,

C 上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に,成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて,

D 上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたこと

E を特徴とする現像ブレード

イ 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。

F 上記金型内に,金属板から成るインサート部材を配置して,

G 上記現像ブレードをインサート成形により製造すること

H を特徴とする構成要件AないしE記載の現像ブレードの製造方法

(3)  被告の行為

被告は,業として,被告方法により,被告製品を製造し,これをブラザー工業株式会社(以下「ブラザー工業」という。)に販売していた。

(4)  被告方法の構成

ア 被告方法を,本件発明1の構成要件に従って分説すると,次のとおりとなる。

a シリコーンゴムからなる成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって,

b 上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有する厚さ約1.5mmのブレード本体に,上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の面から上記ブレードの幅方向に矩形状に突出する,その厚みが約0.5mmであって,上記ブレード本体の厚みの約33%である突出部を2箇所(イ号製品の場合)又は1箇所(ロ号製品の場合)設けるとともに,

c 上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に,成形用金型の上記突出部に対応する部分の1箇所にゲートを設けて,

d 上記成形材料を上記ゲートから金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたこと

e を特徴とする現像ブレードの製造方法

イ 被告方法を,本件発明2の構成要件に従って分説すると,次のとおりとなる。

f 前記アの金型内に,ステンレス板からなるインサート部材を配置し,

g 前記アの現像ブレードをインサート成形により製造すること

h を特徴とする,構成aないしe記載の金属プレート付き現像ブレードの製造方法

(5)  本件発明と被告方法との対比

ア 被告方法は,本件発明1の構成要件A,Dを充足する。

イ 被告方法は,本件発明1の技術的範囲に属する場合は,本件発明2の技術的範囲にも属する。

(6)  本件発明2のうち,現像ブレードの成形加工時に,金型内に金属板からなるインサート部材をあらかじめ配置して,現像ブレードをインサート成型により製造することは公知であり,したがって,本件発明1の進歩性が欠如すれば,本件発明2の進歩性も欠如することとなる。

(7)  本件特許に対する無効審判請求

被告は,平成19年2月6日,本件特許について特許無効審判(無効2007-800022。以下「本件無効審判」という。)を請求し,平成19年10月31日,本件無効審判において,本件特許を無効とする旨の審決(以下「本件無効審決」という。)がされた(乙60)。

(8)  訂正請求

ア 原告は,平成19年12月11日,知的財産高等裁判所に対して,本件無効審決の審決取消訴訟を提起し,平成20年1月30日,本件明細書の記載についての訂正審判を請求した(甲33)ところ,知的財産高等裁判所は,同年2月29日,特許法181条2項に基づき,本件審決を取り消す旨の決定した(甲34)。

原告は,上記取消決定後の無効審判において,新たな訂正をすることのできる期間として審判長に指定された期間内に新たな訂正請求を行わなかったため,特許法134条の3第5項により,上記訂正審判請求と同じ内容の訂正請求(以下「本件訂正請求」といい,その内容を「本件訂正」という。)がされたとみなされた(甲37)。

特許庁は,同年7月8日,原告に対して,本件訂正請求についての拒絶理由通知書を発送した(甲37)。

イ 本件訂正請求により訂正された後の請求項1の発明(以下「本件訂正後発明1」という。)及び請求項2の発明(以下「本件訂正後発明2」といい,本件訂正後発明1と本件訂正後発明2を併せて「本件訂正後発明」という。)を分説すると,以下のとおりとなる(甲33。訂正された部分には下線を引いた。なお,請求項2の記載についての訂正はない。)。

(ア) 本件訂正後発明1

A’ シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって,

B’ 上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に,上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みの20~80%であるリブ部を設けるとともに,

C’ 上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に,成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設けて,

D’ 上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたこと

E’ を特徴とする現像ブレード

(イ) 本件訂正後発明2

F’ 上記金型内に,金属板から成るインサート部材を配置して,

G’ 上記現像ブレードをインサート成形により製造すること

H’ を特徴とする構成要件A’ないしE’に記載の現像ブレードの製造方法

(9)  原告は,本件特許の出願の出願公開後である平成17年2月19日,被告に対し,本件特許の出願の出願公開番号,発明の名称及び特許請求の範囲などを示して,被告方法が,同出願に基づいて特許権が成立した場合に,その特許権の侵害となることを警告した。

2  争点

(1)  被告製品は,「リブ部」を有するか(本件発明の構成要件B,Cの充足性)

(2)  本件特許は,次の事由を理由として,特許無効審判により無効にされるべきものか

ア 進歩性の欠如

イ 特許法36条4項違反

ウ 特許法36条6項2号違反

(3)  先使用権の有無

(4)  本件特許に無効理由が存在するとしても,訂正により,本件特許権に基づく権利行使が可能となるか

(5)  差止請求の可否

(6)  補償金額及び損害額

3  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)(被告製品は,「リブ部」を有するか)について

(原告)

ア 本件発明における「リブ部」の意味

本件発明の「リブ部」は,ゲートを設けることを目的として,ブレード本体の接触面と反対側に設けられる突出部であり,厚みがブレード本体の20ないし80%であって,バリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良を防止する作用効果を奏するものであれば足り,ブレード本体との対比においてブレード本体長手方向にどのような長さのものであるかに関しては,何ら限定されないものというべきである。

理由は以下のとおりである。

(ア) 機械分野の用語辞典では,「リブ」について,「機械部品や機械構造で板状部分や薄肉部分を補強するために補う薄板状の部材で,補強部分に直角に当てて曲げ剛性をたかめるのに役立てる。」(甲10),「肋骨,あばら骨の意味で,部材の一部,特に薄肉部や板状の部分の補強用として用いられる板状部材。」(甲11)といった説明をしているが,「リブ」をこのような意味で使用するのは,あくまで機械部品や機械構造についてである。

したがって,本件発明における「リブ部」の意義は,上記のような補強,保形の機能を有するものと理解する必要はなく,本件明細書の記載に基づいて解釈すべきである。そして,本件発明において,シリコーンゴム製のブレードは金属プレート上に固定されるのであるから,「リブ部」が補強,保形の機能を有するものである必要性は初めから存在しない上,「リブ部」が補強,保形の機能を有するものであることを要するであるとか,これを示唆するような記載は,本件明細書のどこにもない。

なお,プラスチック成形の技術分野においては,「リブ」とは「熱成形で,成形品が薄肉化する部分に剛性の付与,そり防止,装飾的外観の向上などのために設けるひだ状のものをいう。」(甲12の481頁)とされており,板状の部材を「リブ」というのではない。

(イ) ゴム(特にシリコーンゴム)の成形品の技術分野において,「リブ」が補強,保形要素を持つ部材以外の意味で用いられている例は,以下のように多数存在する。

これに対して,被告は,補強の機能を有する「リブ」の例として乙第27ないし第31号証を提出し,これらを根拠に,シリコーンゴムの分野において補強用部材を一般にリブと称している旨主張するが,結局,ゴムないしシリコーンゴムの成形品に関する技術分野においては,補強の機能を有する「リブ」もあれば,そうでない「リブ」の用法も多いということであり,どちらが一般的ということはできない以上,「リブ」であるから常に補強の機能を有するものと決め付けるのは明らかに誤りである。

a 特開2000-283243号公報(甲24)は,自動車部品である「Vリブドベルト」(断面がV字状のリブを有する動力伝達用ゴムベルト)を開示している(請求項5,段落【0032】)が,「リブゴム12」(図1参照)は,「リブを有するゴム部材」の意味で用いられており,ここでの「リブ」は,駆動プーリと嵌合させて動力を伝達するための突起部であり,ベルトの補強,保形のための部材ではない。

b 特開平5-269765号公報(甲25)は,レンズ構造物の製造工程において使用するシリコーンゴム等のエラストマー(弾性体)から成形される環状のガスケットを開示しており(段落【0029】の「ガスケット32は,シリコンゴムのようなエラストマーから成形される管状の環状ボディである。」を参照),その改良形として,図11について「改良ガスケット48は,環状で内方に延び,好ましくは斜めに切れたリブまたは棚50を有し,複合ボディ18を受け入れる。内方に延びた小さな環状リブ52はリブ50のやや上方に位置している。」(段落【0042】)と説明しているが,「ガスケット」とは流体の漏れ止めであるから,ここでいう「リブ50」及び「小さな環状リブ52」は,気体の漏れ止めのための突起部であって(段落【0044】の「重大な要求は,ボディ18の縁が環状のリブの間にきちんと合い,周囲の環境から効果的に封じられることである。」を参照),補強,保形のための部材ではない。

c 特開平8-206227号公報(甲26)は,気道,食道,胆道等の体内に留置されてその内腔の閉塞を防止する「ステント」というシリコーンゴム製医療器具を開示しているが,図1について「リブ3は従来の突起03と同様,留置後のステント1の移動を防ぐ機能を持つものである。」(段落【0013】)と記載し,また図8,図9について「この実施の形態のステント41の周方向リブとしての円弧状リブ43も留置後の移動を防ぐ位置決め用としての機能を持つことは同様である。」(段落【0025】)と記載しているように,図1のリブ3及び図8のリブ43は,いずれも,ステントの留置後の移動を防ぐ機能を持つ部材であり,ステントの補強,保形のための部材ではない。

d 特開2004-121541号公報(甲27)は,「その収納部が液状シリコーンゴム選択接着材料から成形されている」(段落【0014】)コンタクトレンズ収納容器において,レンズ収納部開口端周囲に凸状のリブ7(図2,図3参照)を設けて,「レンズ容器をケース本体に収納した場合に,当該リブがケース本体内壁と適度な面圧力で変形接触することによって,内容液の漏れの心配のない,レンズの液密保存を確保できる。」(段落【0017】)ことを開示しており,ここでの凸状のリブ7は,液体の漏れを防止するための突起部であって,レンズ容器の補強,保形のための部材ではない。

e 特開2003-15634号公報(甲28)は,「ゴム材料により一体成形された弾性体からなることが好ましく,特に,前記ゴム材料としてシリコーンゴムを用いたものでは,当該カバーに付着した汚れを水洗い等で容易に落とせる点で好ましい」ハーモニカカバー(段落【0015】)に関して,「当該カバーをハーモニカに装着した際,それぞれハーモニカ上下面の口当部前端に当接される一対のリブを立設したものでは,前記帯状の本体部上下の端縁側からの埃や塵の侵入が完全に阻止される」(段落【0009】)として,「一対のリブ5,5が長手方向に沿って突起部4,・・・を挟むようにして平行に立設されている」ことによって「上下の端縁からの埃や塵の侵入が完全に阻止される」(段落【0028】)ことを開示している。ここでのリブ5,5は,埃や塵の侵入を阻止するための部材であり,ハーモニカカバーの補強,保形のための部材ではない。

(ウ) 本件公報においては,「リブ部」の厚みについては,構成要件Bに「上記ブレード本体の厚みの20~80%」との限定があり,「リブ部」の幅方向の長さに関しては,「ブレード本体2の幅方向の長さLの10~200%とすることが好ましく,20%前後とすることが特に好ましい。」(段落【0010】)との記載があるのに対して,「リブ部」のブレード本体長手方向の長さについては,ブレード本体の全幅にわたるものであることを要するとの限定をする記載がなく,また,ブレード本体の補強,保形の機能を有するに足りる長さであることを要することを示唆する記載もない。したがって,本件発明においては,「リブ部」のブレード本体長手方向の長さについては,バリ,ヒケ,ウェルドの発生防止という本件発明の作用効果を得るために必要な長さがあれば足り,特に限定はないと解するほかない。

(エ) 被告は,本件特許の出願経過における原告の意見書(乙8。以下「本件意見書」という。)を根拠に,原告が「タブ」と「リブ」とは異なると主張していたかのような主張をするが,原告は決してそのような主張はしていない。本件意見書において,原告は,「本願の請求項1及び請求項3に記載の発明では,現像ブレードを成形するための材料をシリコーンゴムに限定しています。このシリコーンゴムは,・・・流動性の高い材料であります」という点を特に強調した上で(乙8の2頁10ないし13行),引用文献(乙2)のような流動性の低いアクリル樹脂を使用する場合において使用される「タブゲート」を,流動性の高いシリコーンゴムを使用した射出成形に用いる動機がないと主張したものである。原告がこのとき「タブゲート」という表現を用いたのは,引用文献(乙2)において「タブゲート」という表現を用いているから,それを引用したまでであって,わざわざ「」(かぎかっこ)を用いているのは引用の趣旨である。

(オ) 被告は,原告の本件特許の出願後の出願である特願2004-366131号(乙9。以下「乙9出願」といい,その公開特許公報を「乙9公報」という。)において,原告が「タブ」と「リブ」とを使い分けていると主張するが,本件特許の出願後の出願は,本件発明の技術的範囲の解釈において参酌されるべき「出願経過」に含まれない。

また,原告は,別の出願(実願平3-55305号)に係る公開実用新案公報(甲13。以下「甲13公報」という。)では,図3のリブ17を指して「短いリブ17」と呼んでおり,長いから「リブ」,短いから「タブ」という使い分けを行っているわけではない(甲13の段落【0014】)。

したがって,本件発明における「リブ部」の解釈のために原告の別の出願を参照することは意味がなく,不適当である。

(カ) 特許発明の技術的範囲の解釈においては,明細書の作用効果の記載をも考慮すべきであるところ,本件公報には,本件発明の効果として「現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる」(段落【0013】)としており,このことと,本件公報の「本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,ブレード本体にリブ部を設けて,ゲートをブレード本体側ではなく,上記リブ部に設けることにより,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能であることを見いだし,本発明に到ったものである。」との記載(段落【0006】)及び「このように,ゲート16をブレード本体2側にではなく,上記リブ部3側に設けることにより,現像ロールと接触するブレード本体2にはバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレード1を製造することができる。」との記載(段落【0009】)を総合考慮すれば,ブレード本体の現像ロールとの接触面にバリやヒケ,又はウェルドなどができにくい製造方法によるものであれば,「リブ部」の長手方向の長さのいかんにかかわらず,本件発明の製造方法によるものと解すべきである。

そして,原告の行った実験(甲14。以下「甲14実験」という。)によれば,本件発明の「上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みの20~80%である」という構成要件を充足するリブ部である限り,ブレード本体の長手方向の長さにかかわらず,バリやヒケを防止する作用効果を奏するものであることが立証された。

イ 構成要件充足性について

被告製品における突出部は,ゲートを設けることを目的としてブレード本体の接触面と反対側に設けられる突出部であり,厚みがブレード本体の20ないし80%であって,バリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良を防止する作用効果を奏するものであるから,本件発明の「リブ部」に該当する。

したがって,被告方法は,本件発明の構成要件B,Cを充足する。

(被告)

ア 本件発明における「リブ部」の意味

本件発明における「リブ部」とは,補強,保形機能を有していて,ブレード本体の長手方向に延びるものであり,「リブ部」の長手方向の長さは,ブレード本体の長手方向の長さと同一であることを要する。したがって,ブレード本体と同一又はほぼ同一の長さのもの以外の,例えば,一連でないもの,1箇所又は2箇所に部分的に突出するもの等は,本件発明における「リブ部」の概念には含まれないと解すべきである。

仮に,本件発明における「リブ部」が短幅のものを含むとしても,ゲートを設けるだけのために形成されたものは,「リブ部」に含まれないと解すべきである。

理由は,以下のとおりである。

(ア) 特許法施行規則の様式第29の[備考]には,明細書に用いる用語について,「7 技術用語は,学術用語を用いる。8 用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用する。ただし,特定の意味で使用しようとする場合において,その意味を定義して使用するときは,この限りではない。」と記載されており,したがって,特許請求の範囲に記載されている文言は,特に定義されていない限り,それが通常有する意味のものとして使用されているはずである。

そして,「JIS工業用辞典」(乙5)は,「リブ」の意味について,「製品の肉厚を厚くしないで剛性や強度をもたせ,また広い平面部の反りを防ぐために用いる補強部分をいう」と定義しているように,「リブ」ないし「リブ部」の用語は,一般に平板部や肉薄部を補強するために取り付ける部材,部品をいうところ,本件公報には,「リブ部」について,通常の用例と異なる意味で使用するとの記載は一切ない。

(イ) 「リブ部」は,ブレード本体と同一又はほぼ同一の長さとすることにより初めて,リブとしての機能,すなわち,本体への剛性付与や本体の反り防止といった機能(補強,保形機能)を発揮することができるものと考えられる。

(ウ) シリコーンゴムの分野においても,以下に示すように,多数の文献において,補強用部材を「リブ」と称している。

なお,原告は,「リブ」が補強,保形要素を持つ部材以外の意味で用いられている例として,複数の特許公報などを挙げるが,それらはいずれも,補強,保形要素を有するか,少なくともそのような部材の形状をしているために,「リブ」の語が用いられているものである。

a 特許第2729556号公報(乙27)

同公報中には,「中空状の弾性ゴムモールドチューブ体1を成形・・・」,「弾性ゴムとしては,・・・シリコーンゴムなどが適当である。」,「中空状の弾性ゴムモールドチューブ体の縁部に適宜形状のリブ4を設けると,外部からの機械的衝撃力に対しては,補強層として作用し,裂けや亀裂の発生を防止できる。」との記載がある(段落【0006】)。

b 特開2002-325849号公報(乙28)

同公報中には,「容器本体に備えられてこれに伴って変形した螺旋状のリブは,その復元力を容器本体に対して縦と横の両方向に作用させ,容器本体の復元力を補強する。」(段落【0007】),「容器本体(1)を構成する合成樹脂としては,シリコーンゴムを使用することも出来る。」(段落【0011】),「リブ(5)は,容器本体(1)の復元力を補強するものであり,」(段落【0019】)との記載がある。

c 特開平7-520号公報(乙29)

同公報中には,「図6と図7に示された弁部材26は,シリコーンゴムの如くたわみ材料から作られ,一般に,厚い中央部分28と狭い周囲部分30を具えるディスクの形状を有する。弁部材は,その上面において2つの放射状リブ32を有する。これらのリブの存在の結果として,弁部材は,その周辺において可変の剛性度(又はたわみ度)のゾーンを有し,結果的に,弁の開状態と閉状態の間の遷移時間は,より急速になる。」(段落【0028】)との記載がある。

d 実願平4-49536号(実開平6-14058号)のCD-ROM(乙30)

同公報中には,「このパッキンとしては,・・・縦長の「日」の字形断面のゴム弾性体が多用されている。・・・これには,シリコーンゴム等の成形品が用いられている。」(段落【0003】,「上記のような従来の「日」の字形断面のパッキンの内面に補強用として長さ方向に線状リブを形成することにより,」(段落【0005】)との記載がある。

e 実開昭63-152496号公報(乙31)

同公報中には,閉塞カバー1にシリコーンゴム製の円環状補強リブ6と直線状補強リブ7を設けることが記載されている(請求項1,図1,図4)。

(エ) 原告は,本件特許の出願過程において,拒絶理由通知(乙7)に対する本件意見書を提出したが,本件意見書において,次のように述べて,ゲート部を設けるための突き出しタブは,本件発明におけるリブ部とは異なるものと主張していた。

「このような,流動性の高い材料であるシリコーンゴムにより現像ブレードを射出成形にて成形する際には,通常は「タブゲート」は使用されません。これは,シリコーンゴムは流動性が高いので,ゲート部にひずみが集中することがなく,したがって,わざわざ「タブゲート」を使用するメリットがないだけでなく,「タブゲート」を使用すれば,成形金型の加工が増えることや,材料が無駄になるなどのデメリットの方が大きいからであります(乙8の2頁22~27行)。」

(オ) 原告は,本件特許の出願後に出願した乙9出願において,図2にイ号製品と同じ形状の現像ブレードを示し,そのイ号製品の突出部に対応する部分をタブ18A,18Bと称し,さらに,「なお,図示のものにおいては,タブ18A,18Bを本体部7の長さ方向両端部付近にそれぞれ設けたが,これらに代えて,本体部7の長さ方向に延在し,本体部7に段差付きで隣接する1個のリブとしてもよい。」(段落【0042】)としている。乙9出願は,本件特許の出願のわずか1年3か月後にされたものであり,しかも,乙9出願の発明者は,本件発明の発明者と同一人であるから,乙9公報における用語と本件公報における用語の有する普通の意味は同じはずである。

したがって,原告が,被告製品の突出部のように,端面の一部に突設されるものが「タブ」で,端面の全長にわたって一連に延びているものが「リブ」と考えていることは明らかである。

なお,原告は,甲13公報を引用し,そこにおいては図3のリブを指して「短いリブ」と呼んでおり,長いから「リブ」,短いから「タブ」という使い分けをしているわけではないと主張するが,甲13公報においては,一般に「リブ」は長いものであるからこそ,短いものも含まれることを明らかにするために,「短いリブ」と明示したと考えられる。

(カ) 原告は,甲14実験によれば,本件発明の「上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みの20~80%である」という構成要件を充足するリブ部である限り,ブレード本体の長手方向の長さにかかわらず,バリやヒケを防止する作用効果を奏するものであることが立証された旨主張する。

しかし,甲14実験には,実験の精度や実験条件等に問題があり,その結果は証拠価値のないものである。

(キ) 本件発明1の構成要件は,「リブ部を設け」(構成要件B),「リブ部に対応する部分にゲートを設け」(構成要件C)というものであり,また,原告が,本件特許の出願経過において提出した乙第24号証の意見書には,「現像ブレードをブレード本体とこのブレード本体から現像ロールとの接触面とは反対側に突出するリブとから構成するとともに,金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設け・・・」と記載されている(2頁6ないし8行目)。

これらの記載によると,リブ部はブレード本体の一部と考えることができ,補強,保形その他何らかの目的でこの「リブ部」を設けるとともに,そこにゲートを設けることとしたものと解される。換言すれば,本件公報中に,「ゲートを設けるためにのみリブ部を形成する」との記載がないことからも明らかのように,「リブ部」は,ゲートを設けるためにのみ形成されるものではない。

したがって,本件発明における「リブ部」が短幅のものを含むとしても,ゲートを設けるだけのために形成されたものは,「リブ部」に含まれないと解すべきである。

イ 構成要件充足性について

被告製品における突出部は,現像ブレード本体の長手方向が約220ミリメートルであるのに対し,約8ミリメートルと極めて短く,補強や保形の機能を有さず,また,ブレード本体の長手方向に延びていないので,本件発明の「リブ部」には該当しない。

仮に,本件発明の「リブ部」に短幅のものが含まれるとしても,被告製品における突出部は,純粋にゲートを設けるためにのみ形成されたものであるから,本件発明の「リブ部」に該当しない。

したがって,被告製品は,「リブ部」を備えていないので,被告方法は,本件発明の構成要件B,Cを充足しない。

(2)  争点(2)ア(進歩性の欠如の無効理由の有無)について

(被告)

ア 本件発明の内容

(ア) 課題を解決するための手段に関する記載

a 本件公報において,本件発明の課題を解決するための手段,すなわち,「現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能」との作用効果をもたらす根拠を示す記載としては,以下の記載があり,同記載以外に,本件公報に,上記根拠を示す記載はない。

(a) 「本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,ブレード本体にリブ部を設けて,ゲートをブレード本体側ではなく,上記リブ部に設けることにより,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能であることを見いだし,本発明に到ったものである。」(段落【0006】)

(b) 「このように,ゲート16をブレード本体2側にではなく,上記リブ部3側に設けることにより,現像ロールと接触するブレード本体2にはバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレード1を製造することができる。」(段落【0009】)

(c) 「現像ロールと接触するブレード本体2に,上記ブレード本体2の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレード1の幅方向に突出するリブ部3を設けるとともに,インサート部材として金属板4が配置された金型10のゲート16を,キャビティ13の,上記リブ部3に対応する部分に設けてインサート成形することにより,現像ブレード1を成形するようにしたので,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」(段落【0011】)

(d) 「上記図7に示した,ブレード本体22を金属板21に挟み込んだタイプのものであっても,図5に示すように,ブレード本体2Aに,ブレード本体2Aの裏面側から上記ブレード本体2Aの幅方向に突出するリブ部3Aを設け,金型の上記リブ部3Aに対応する箇所(ここでは,リブ部3Aの側面側とした)にゲート16を設けてインサート成形するようにすれば,上記実施の形態と同様に,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」(段落【0012】)

b 上記aの各記載から明らかなように,本件発明において「現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレード」を製造することが可能になったのは,専ら「ブレード本体にリブ部を設けて,ゲートをブレード本体側ではなく,上記リブ部に設けること」としたことによるのである。

c 原告は,トランスファー成形には多点注入が必要との主張をしているが,その主張には全く根拠がない。そもそもゲートの位置や数は,成形材料やキャビティの形状等によって変わるキャビティ内における流動配向等を考慮して決められるものであり(乙45の86ないし87頁),トランスファー成形は必ず多点注入となることを示す文献は見当らない。

(イ) 射出成形についての記載

本件公報中,射出成形についての記載は,「・・・,上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に,・・・」(段落【0006】第10行),「・・・支持部材である金属板4上に保持したものを,射出成形(インサート成形)により作製・・・」(段落【0008】第6行),「図2は,上記射出成形に用いる金型10の要部を示す断面図で,・・・」(段落【0008】第8行),「・・・,15は図示しない射出成形機から圧送される成形材料・・・」(段落【0008】第14行),「・・・,図示しない射出装置から注入・・・」(段落【0009】第2行),「リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが,ゲート位置はこれに限るものではなく,・・・ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい」(段落【0012】第1~4行),「・・・,上記現像ブレードを射出成形にて製造する際には,・・・」(段落【0013】第6行)とあるだけで,例えば,①従来のトランスファー成形によった場合にどのような問題点があったのかの点(なお,図8,図9に示される従来技術は,トランスファー成形の問題点を示すものではなく,ゲートをブレード本体成形部に設ける場合の問題点を示すものである。),②射出成形を採用するに際し,射出装置や成形材料についてどのような工夫改良を加えたのかの点,③射出成形を採用することによって何故にトランスファー成形の場合の問題点を解決することができたのかの点,④注入点を1点とするのか多点とするのかの点等の,本件発明において射出成形を採用することの意義,採用に当っての工夫点等についての記載は一切ない。もとより,「射出成形を採用したことにより,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能になった」との記載も全くない。

(ウ) 以上から明らかなように,本件発明の解決課題は,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレードの製造を可能にするというものであり,この課題を解決するために本件発明が採用した手段は,ブレード本体にリブ部を設けて,ゲートをブレード本体側ではなく,上記リブ部に設けるようにするというものである。

そして,現像ロールとの接触面にバリや,ヒケ,ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能となったのは,あくまで,ブレード本体にリブ部を設けて,ゲートをブレード本体側ではなく,上記リブ部に設けるようにすることによるものであって,トランスファー成形に代えて射出成形を採用したからではない。

イ 本件特許の出願前の周知技術について

(ア) 以下の文献から明らかなように,本件特許の出願時において,液状シリコーンゴムの成形法としては,射出成形法が一般的であった。

a 特開平11-242386号公報(乙32。以下「乙32文献」という。)

同文献記載の発明は,本件発明と同じ現像ブレード及びその製造方法に関するもので,成形材料に関しては,「本発明の現像ブレードは,シリコーンゴム組成物の成形架橋体からなる。そして,このシリコーンゴム組成物としては,シリコーンゴムおよびそれを架橋するための架橋剤はもちろんのこと,触媒,補強剤,反応抑制剤等の他の添加剤を適宜に含有させたものが用いられる。」(段落【0010】),「上記シリコーンゴム組成物の主成分となるシリコーンゴムとしては,特に限定されるものではなく,高温加硫型(HTV)シリコーンゴム,室温加硫型(RTV),低温加硫型(LTV)の液状シリコーンゴム等が用いられる。なかでも,短時間で加硫可能で量産性に優れる点で,付加反応型の液状シリコーンゴム(LSR)が好ましい。」(段落【0011】)とあるほか,種類,配合,成形条件等について極めて詳細に記載されており,また,成形方法に関しては,「本発明の現像ブレードは,例えばつぎのようにして製造することができる。すなわち,まず,所定の現像ブレード用成形型〔LIM(Liquid Injection Molding)成形法に用いることが可能な成形型等〕を準備する。」(段落【0022】)とされて,LIM,すなわち,液状樹脂射出成形機によって行われることが明示され,その具体的成形方法も詳細に記載されている。

b 特開平4-36355号公報(乙33。以下「乙33文献」という。)

同文献記載の発明は,シリコーンゴム組成物に関するもので,「一般にミラブル形のシリコーンゴムの成形方法は,プレス成形,トランスファー成形,射出成形などの加圧成形方法と押出成形方法がとられている。」([従来の技術]の欄)との記載がある。

c 特開平7-150047号公報(乙34。以下「乙34文献」という。)

同文献記載の発明は,シリコーンゴム成形品の製造方法に関するもので,「このようなシリコーンゴム製品を成形する場合,圧縮成形,トランスファー成形,射出成形など,種々の成形法が採用されているが,」(段落【0003】)との記載がある。

d ポリマーダイジェスト2002年1月号

(a) 「液状シリコーンゴムの最近の応用開発」の記事(乙35。以下「乙35文献」という。)

「近年,LIMS,すなわち液状シリコーンゴムの射出成形が広く普及している。」(27頁下段2~4行)

(b) 「液状シリコーンゴムの成形加工と技術動向」の記事(乙36。以下「乙36文献」という。)

「液状シリコーンゴムは,一般的には通常の射出成形機を用いて硬化成形される。」(37頁上段9ないし10行)

e 東芝シリコーン株式会社(以下「東芝シリコーン」という。)刊「シリコーンとその応用」(乙39。以下「乙39文献」という。)

昭和63年10月1日に発行された乙39文献には,「LIM(Liquid Injection Molding)とは液状射出成形のことであり,・・・その材料に付加型2成分液状シリコーンゴムが用いられる。ミラブル型シリコーンゴムで作っていた成形品を液状ゴムの射出成形で作り,トータルコストを低減させようというのがLIMの発想であるが,そのためにはミラブル型シリコーンゴムに匹敵するゴム物性をもつ加熱硬化型液状シリコーンゴムの開発が不可欠であった。」(169頁下3行ないし170頁冒頭)との記載に続いて,「従来,液状シリコーンゴムはその流動性を出すため補強性充填剤の配合量に限度があり,ゴム物性の点ではミラブル型シリコーンゴムに比べると見劣りのするものであった。ところが,高補強性の充填剤や高度の充填方法の開発により機械的強度の優れた液状シリコーンゴムが得られるようになり,成形用加熱硬化型液状シリコーンゴムとして上市された。表2・7・28にLIM用付加型液状シリコーンゴムの製品を示す。」との記載があり,LIMに適した液状シリコーンゴムの具体例が,特にミラブル型シリコーンゴムとの対比の上で提示されている。

f 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社(以下「東レ・ダウコーニング・シリコーン」という。)刊「『LPS』液状ポリマーシステム」(乙40。以下「乙40文献」という。)

平成11年2月に発行された乙40文献には,液状シリコーンゴム(LSR)の特長及び種類(特性)(第2~5頁),LSRの具体的射出成形方法(7頁以下)が紹介されている。

g 信越化学工業株式会社(以下「信越化学」という。)刊「信越シリコーン LIMS 液状射出成形用シリコーンゴムシステム」(乙41。以下「乙41文献」という。)

昭和56年4月30日に発行された乙41文献は,信越化学が同社の製造するLIM用液状シリコーンゴムを販売するために一般顧客に頒布したものであって,そこには,同社の開発したLIMS(液状射出成形用シリコーンゴムシステム)の解説として,4頁以下に具体的な射出成形方法と材料についての記載がある。

(イ) また,以下の文献から明らかなように,本件特許の出願時において,現像ブレードをシリコーンゴムを用いて射出成形することは,周知であった。

a 特開2000-13738号公報(乙51。以下「乙51文献」という。)

乙51文献には,「シリコーンゴムのベース材料としてLIMS法に規定された液状シリコーンを使用した射出成形法を用いてもよく」(段落【0015】)との記載がある。

b 特開2000-47481号公報(乙52。以下「乙52文献」という。)

乙52文献には,「シリコーンゴム部が成形される成形空間内に液状シリコーンゴムが注入されて射出成形される。」(段落【0017】)との記載がある。

c 特開2000-89562号公報(乙53。以下「乙53文献」という。)

乙53文献には,「・・・これにLTVシリコーンゴム(バイエル社製;LSR AI3601)をシリンダー温度30℃で射出成形する。」(段落【0016】)との記載がある。

d 特開平11-24394号公報(乙54。以下「乙54文献」という。)

乙54文献には,「ゴム弾性部材としては,JISA硬度で80度以下のゴムが好ましく使用でき,材質としては,射出成形可能なシリコーンゴム,例えば,HTVミラブルゴムやLTV液状シリコーンゴムなどいずれでも良いが,射出成形のし易さからは,LTV液状シリコーンゴムがより好ましい。」(段落【0017】)との記載がある。

e 特開平10-228168号公報(乙55。以下「乙55文献」という。)

乙54文献には,「現像ブレード8は,・・・これにLTVシリコーンゴムをLIM射出成形機により射出し,」(段落【0028】)との記載がある。

f 特開平6-258926号公報(乙56。以下「乙56文献」という。)

乙56文献には,「弾性層のゴム材料としては,・・・液状シリコーンゴム(LTV,RTV等)や,」(段落【0020】),「また射出成形機を使用し,プライマーを塗布した支持層を中に設置した平板成形用金型内に弾性層材料を流し込む成形方法等(この方法は弾性層材料が粘度の高い材料でも低い材料でも有効である)がある。」(段落【0021】)との記載がある。

ウ 進歩性欠如1

(ア) 本件特許出願前に日本国内において,公然実施された発明

a 被告は,本件特許の出願日である平成14年11月12日より前である平成12年1月ころから,検乙第2号証の現像ブレード(以下「被告現像ブレード2」という。)を,ブラザー工業に納入していたが,その数量は,平成14年10月までに400万個を上回る。そして,ブラザー工業に納入された被告現像ブレード2は,同社のプリンター(機種番号HL-1240,HL-1440等)のトナーカートリッジに組み付けられて,又は,一般ユーザー向けの消耗品として独立して取引の対象となっているトナーカートリッジ(品番TN-6300,TN-6600等)に組み込まれて,販売された。したがって,被告現像ブレード2は,本件特許の出願日以前に400万個以上が市場に流通していたことになる。

b そして,ブラザー工業の販売した上記aのトナーカートリッジは,格別の知識がなくとも,容易に分解することができ,上記トナーカートリッジを分解することにより,いかなる現像ブレードが用いられているかを確認することは極めて容易であった。

c したがって,被告現像ブレード2は,本件特許出願前に日本国内において,公然実施された発明(特許法29条1項2号)に該当する。

(イ) 本件発明1と被告現像ブレード2の構成との一致点及び相違点

本件発明1の構成と被告現像ブレード2の構成とは,①本件発明1の成形方法が射出成形法であるのに対し,被告現像ブレード2における成形方法が,トランスファー成形法であるか,射出成形法であるか判明しない点,②本件発明1のリブ部の厚みは,ブレード本体の厚みの20ないし80%であるのに対し,被告現像ブレード2の突出する帯状部の厚みは,ブレード本体の厚みの約33%である点において相違し,それ以外の点で一致する。

(ウ) 相違点についての検討

a 前記(イ)の相違点①について

前記イ(イ)のとおり,本件特許の出願当時,現像ブレードをシリコーンゴムを用いて射出成形することは周知の技術であった。

したがって,被告現像ブレード2を目にした当業者が,これと同じ形状のものを射出成形法によって製造することに想い至るのに何の障壁もなく,そのように想到することに十分な必然性があったということができる。

b 前記(イ)の相違点②について

被告現像ブレード2における帯状部の厚みは,ブレード本体の厚みの約33%であって,本件発明1における20ないし80%の範囲内にあることは明らかである。

また,被告現像ブレード2における帯状部と同一の機能を果たすタブについては,乙第3号証の図5.21に成形品本体の約50%のものが図示され,乙第4号証には「タブの深さ(厚み)はキャビティ(成形品本体)の75%が標準」と記載されている。

したがって,被告現像ブレード2における帯状部の厚み比を,20ないし80%の範囲内で変更することは,当業者にとって単なる設計的変更にすぎない。

(エ) したがって,本件発明1は,その特許出願前に公然実施された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから,本件特許1は,特許法29条2項に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し,特許無効審判により無効とされるべきものである。

エ 進歩性欠如2

(ア) 特開平9-244404公報(乙14。以下「乙14文献」という。)に記載された事項

乙14文献に記載されている現像剤薄層形成部材は,「成形加工」により製造されるものであるということができることを考慮に入れて,乙14文献に記載の事項を総合して勘案すると,乙14文献には,以下の発明が実質的に記載されている。(以下,乙14文献に記載されている発明を「乙14発明」という。)

「シリコーンゴムからなる成形材料を用いて現像剤薄層形成部材を製造する方法であって,上記現像剤薄層形成部材の薄板ばね部材23の先端部23aに設けられ,上記現像剤薄層形成部材の現像ローラ11との接触面を頂点部に有する断面形状が半円形状の現像剤規制部22の幅方向中央部の後端部に,その高さが上記現像剤規制部22の高さよりも低い扇形の突出部が薄板ばね部材23の表面に沿って形成されるとともに,上記現像剤薄層形成部材を成形加工により製造する際に,他方金型の上記突出部に対応する部分に注入口45を設けて,上記シリコーンゴムを上記注入口45から上記金型内に注入して上記薄層形成部材を製造する薄層形成部材の製造方法」

(イ) 本件発明1と乙14発明との一致点及び相違点

a 原告は,本件発明1の「リブ部」は,長手方向の長さ,形状,配置位置,個数について限定されるものではないと主張しているので,乙14発明の「現像剤薄層形成部材」,「現像ローラ11」,「現像剤規制部22」,「他方金型」,「現像剤規制部22の幅方向中央部の後端側から薄板ばね部材23の後端部方向に突出する・・・扇形の突出部」,「注入口」は,それぞれ,本件発明1の「現像ブレード」,「現像ロール」,「ブレード本体」,「成形用金型」,「リブ部」,「ゲート」に相当し,また,本件発明1の「射出成形」は成形加工の一種である。

したがって,両者は,「シリコーンゴムからなる成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって,上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に,上記ブレード本体の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みより小さい突出部を設けるとともに,上記現像ブレードを成形加工にて製造する際に,成形用金型の上記突出部に対応する部分にゲートを設けて,上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにした現像ブレードの製造方法」ある点で一致し,以下の点で相違する。

(a) 相違点1

本件発明1は,ブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側の端部にリブ部を設けるものであるのに対し,乙14発明のブレード本体(現像剤規制部22)は,現像剤薄層形成部材の薄板ばね部材23の先端部23aに設けられ,現像ロール(現像ローラ11)との接触面を頂点部に有する断面形状が半円形状のものであって,その後端部に突出部を設けるものである点

(b) 相違点2

本件発明1の成形加工方法は,射出成形であるのに対して,乙14発明は,成形加工方法の種類について特定していない点

(c) 相違点3

本件発明1のリブ部は,その厚みがブレード本体の厚みの20~80%と規定されているのに対して,乙14発明の扇形の突出部の厚みは,ブレード本体の厚みよりも小さいものの,その厚みとブレード本体(現像剤規制部22)の厚みの比率の範囲について特定していない点

b 相違点についての被告の主張に対する反論

(a) 原告は,乙14文献は,ゴム材を無圧下にて流し込む一種の注型成形方法によることを開示しているのであって,射出成形法を明示的に排除している旨主張しているので,この点について反論する。

ⅰ 乙14発明における「流し込む」という用語の技術的意義について

原告は,乙14発明が,無圧下での注型成形であることの根拠として,「ゴム材(シリコンゴム)を注入口から流し込む」(段落【0010】)等にあるように,「流し込む」という用語を用いていることを挙げている。

しかしながら,「流し込む」という用語は,例えば,特開昭48-20880号公報(2頁右上欄8行),特開昭64-55218号公報(3頁右上欄12行,4頁左上欄13行),特開平2-147309号公報(公報2頁右下欄18行,3頁右上欄20行),特開平3-104074号公報(2頁左上欄1行,同頁右下欄5行),特開平5-301260号公報(段落【0014】参照),特開平7-223246号公報(段落【0021】参照),特開平9-216227号公報(段落【0002】,【0005】参照),特開平9-219532号公報(段落【0012】),特開平10-24453号公報(段落【0016】),特開2000-229335号公報(段落【0003】,【0005】),特開2000-233269号公報,特開2000-233269号公報(段落【0008】),特開2000-317611号公報(段落【0006】,【0007】,【0008】,【0011】)に記載されているように,射出成形などの加圧成形において普通に用いられているものである。

そうすると,乙14文献において,注入口から「流し込む」という用語が用いられているので,乙14発明は,ゴム材を無圧下で流し込むものであって,射出成形を明示的に排除するものであるとする原告の主張は採り得ない。

ⅱ 乙14文献における関連部分の記載について

乙14文献には,従来技術の問題点として,現像剤規制部形成用の凹部43の断面形状が小さいので,粘性のある液状のゴム材と凹部43の内壁面との間の抵抗が大きく,しかも,ゴム材から発生するガスの気体抵抗も加わり,ゴム材が凹部43の両端部まで流れ込まずに寸法不足が生じたり,端部でゴムが剥がれたり,ダレ等が生じるという欠点があったことが記載されている(段落【0011】)。

そして,乙14文献には,ゴム材を注入口から注入すると,当該ゴム材は流し込み用凹部を介して直ちに凹部の幅方向中央部に流入し,当該中央部から各端部へ向けて流動するから,ゴム材を凹部の端部まで円滑に流し込むことができ,寸法不足や端部での剥がれは生じないし,凹部内でゴム材がぶつかり合うことがないので,歪みも発生しないことが記載されている(段落【0018】)。

仮に,原告が主張するように,乙14発明が,ゴム材を無圧下で流し込む一種の注型成形方法によるものであるとすれば,ゴム材に作用する重力のみにより流し込み用凹部を介して凹部43に注入する方がゴム材に対する抵抗は大きくなり,段落【0009】に記載されている従来技術と比較して,凹部43の両端部にゴム材を円滑に流し込むことがより困難となるものと考えられる。

したがって,当業者は,乙14発明は,シリコーンゴムを加圧し,流し込み用凹部を介して凹部43に注入するものと理解するのが当然である。

ⅲ 以上より,原告の上記主張は理由がない。

ⅳ なお,原告は,予備的に,乙14発明が加圧成形法を使用するものであっても,乙14発明はトランスファー成形法を採用したものであって,少なくとも射出成形法を含まないものである旨主張するが,この予備的主張は,乙14文献の実施例に関する記載を根拠とするものであり,失当である。乙14発明の技術思想の本質的部分は,「成形品本体に突出部を設けて,該突出部成形用キャビティにゲートを設ける」という点にあり,成形方法を特に限定していないのであるから,乙14発明には,上記技術思想を実施し得る成形方法はすべて含まれると解するのが相当である。

(b) 原告は,本件発明は,バリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良を防止する作用効果を奏するものであるのに対し,乙14発明は,バリ及びヒケの発生防止については何ら開示していないという相違点があると主張する。

しかし,本件公報に記載されたウェルド,バリ,ヒケの発生は,いずれも成形材料をブレード本体成形用キャビティに注入することに起因するものである。したがって,上記問題は,「ゲートをブレード本体成形用キャビティから離れた,且つ,現像ロールとの接触面とは反対側の部分に設ける」ことによって解決することができるであろうことは,当業者が容易に理解し得たことである。

したがって,乙14文献においては,バリ及びヒケについて明示的には記載されていないとしても,示唆はされていたと考えることができる。

なお,特開2000-117778号公報(乙44)には,射出成形において,樹脂のキャビティ内への注入孔であるゲートを,成形品の裏側のリブに設けることにより,ゲート部分の製品面にヒケが生じることを防止できることが開示されている(請求項,図1(B),(D),段落【0006】,【0007】)から,射出成形において,突出部にゲートを設けてヒケを防止することは,本件特許出願時において公知である。

(ウ) 相違点についての検討

a 相違点1について

本件発明1における,「ブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側の端部」は,本件明細書の記載内容からみて,ブレード本体における現像ロールとの接触面の裏側の面の端部を意味するのではなく,ブレード本体の先端側に形成された現像ロールとの接触面に対して,その接触面と同じ面側における後側のブレード本体の端部を意味するものであることは明らかである。

そして,現像ブレードのブレード本体が上記ブレード本体の端部の反対側に現像ロールとの接触面を有するものとすることは,例えば,特開平10-307473号公報,特開平11-24397号公報,特開平11-15267号公報,特開2002-116622号公報に記載されているように,本件出願前に周知の技術的事項にすぎない。

してみると,乙14発明において,ブレード本体(現像剤規制部22)の後端部の反対側が現像ロール(現像ローラ11)との接触面となるようにして,相違点1に係る構成を有するものとすることは適宜行われることにすぎない。

b 相違点2について

(a) 前記イで主張したように,本件特許の出願時において,液状シリコーンゴムを用いて射出成形した現像ブレードを製造すること,及び液状シリコーンゴムの成型加工法としては射出成形が一般的であることは,周知である以上,現像ブレードを,シリコーンゴム,殊に液状シリコーンゴムを成形材料として射出成形によって製造することも,周知のことである。

そして,乙14発明は,液体シリコーンゴムを加圧して金型内に注入する際に,従来技術を採用する際に生じる問題点を解決するものであり,乙14文献に接した当業者は,シリコーンゴムからなる現像ブレードの成形加工方法として周知である射出成形法においても,同様の問題が発生することを予想できるものであり,乙14発明における成形加工方法として射出成形法を採用してみることは,当業者が容易に想起する事項である。

(b) 原告は,「ゴム工業便覧」(甲17。以下「甲17文献」という。)を根拠にして,射出成形を採用することの困難性を主張するが,甲17文献は,本件特許の出願の8年も前の平成6年に刊行されたものであり,本件特許出願時においては状況が異なる。

また,原告は,シリコーンゴムの成形加工において,トランスファー成形法を射出成形法に置換することの困難性について力説するが,射出成形法を採用する上で何らかの支障があったこと,その支障を克服するために何らかの工夫をこらしたこと等について,本件公報中に記載は一切なく,また,原告も,そのことについて具体的に明らかにしていない。

(c) したがって,乙14発明における成形加工方法として射出成形法を採用することにより,上記相違点2に係る構成を有するものとすることは,当業者が適宜行うことであるから,上記相違点2に格別の意義を認めることはできない。

(d) なお,仮に,乙14発明がゴム材を無圧下にて注入する成形法によるものと限定されていたとしても,シリコーンゴムからなる成形材料を用いてブレードを製造する場合において,これを射出成形法により製造する方法に変更できることは,上記と同様,技術常識である。

c 相違点3について

乙14発明において,突出部の高さが現像剤規制部22の高さの20ないし80%に含まれるものとして,相違点3に係る構成を有するものとすることは,当業者が適宜行うことである。

(エ) 以上より,本件発明1は,乙14発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に発明できたものである。

したがって,本件特許1は,特許法29条2項に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し,特許無効審判により無効とされるべきものである。

(原告)

ア 本件発明の内容

本件公報には,従来技術のトランスファー成形法による多点注入(図8(b)参照)では,「成形材料が多数のゲート34からブレード本体22を形成するキャビティ33内に注入されるため,図9に示すように,成形されたブレード本体22のゲート34付近には,ブレード本体22の幅方向に延長するウェルドと呼ばれる線状の凹凸22xが発生してしまう場合があった。」(段落【0004】)との記載があり,また,別の従来技術として,「そこで,図10に示すように,金型30のゲート34’をブレード本体22の両サイド部22s,22sにそれぞれ設ける方法も考えられるが,この場合には,ブレード本体22にゲート34’を直結させているため,図10(b)に示すように,ヒケ22yやバリが発生しやすいといった問題点があった。」との記載があり(同段落),これらの記載を受けて,「本発明は,従来の問題点に鑑みてなされたもので,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドなどのない現像ブレードを製造する方法と,上記現像ブレードの射出成形に用いられる現像ブレード用金型を提供することを目的とする。」(段落【0005】)と記載されているのである。

したがって,本件発明は,①多点注入が必要となるトランスファー成形法ではなく,1点又は2点注入が可能な射出成形を採用することによりウェルドの発生を防止する発明であること,②単純に(図10(b)に示すようにブレード本体にゲートを設けて)射出成形を採用すると,ヒケ及びバリが発生しやすいという別の問題が生じることから,ヒケ及びバリをも防止するために,ブレード本体の現像ロールとの接触面の反対側にリブ部を設けて,当該リブ部にゲートを設けることによりヒケ及びバリをも防止する発明である。すなわち,本件発明において,ウェルド発生を防止する作用効果は,リブ部を設けたことによるというより,主として射出成形法を採用したことによるのである。

イ トランスファー成形法と射出成形法の差異

(ア) プラスチック成形におけるトランスファー成形法と射出成形法との差異

トランスファー成形法とは,「成形材料を金型キャビティとは別のポット部に1ショット分け入れ,プランジャーによって,溶融状態の成形材料をキャビティ部に移送して,成形品を得る成形法」(甲12の349頁)である。

これに対して射出成形法とは,「成形材料を加熱溶融し,可塑化状態として,あらかじめ閉じられた金型キャビティに,圧力を加えて射出充填し,冷却(熱可塑性樹脂),または加熱(熱硬化性樹脂)固化して成形品を得る成形操作」(甲12の264頁)である。

トランスファー成形法は,圧縮成形法の欠点である厚み寸法精度の向上等を目的として開発されたものであり,専用の成形機を使用する方式(補助ラム式)もあるが,圧縮成形機を使用する方式(ポット式,浮動盤式)もあるとされ(甲12の349頁),「圧縮成形の一種」(甲15の73頁)とされているところ,圧縮成形法とトランスファー成形法は,いずれの方式も成形品1個の成形に必要なだけの樹脂を成形1回ごとに用意する方式(バッチ式)であり,装置の構成,技術思想,使用する材料樹脂のいずれの観点においても互いに類似するものである。これに対して,射出成形法は成形品1個の成形に必要な材料の量と関係なく,連続的に材料樹脂をスクリュー内に供給して連続運転を可能ならしめるものであり,バッチ式である圧縮成形法やトランスファー成形法とは,根本的に異なるものである。

さらに,使用する材料樹脂においても,トランスファー成形法と射出成形法とは,前者が専ら熱硬化性樹脂を成形加工するための技術であるのに対して,後者が本来は熱可塑性樹脂を成形加工するための技術であるという根本的な相違がある。

(イ) ゴム成形におけるトランスファー成形法と射出成形法との差異

a ゴムの成形加工に関する文献である甲17文献には,「トランスファー成形加工用のゴム混和物は圧縮成形用のものをそのまま利用できる。この点,・・・射出成形に比べ,あまり心配する必要がない。」(690頁右欄中ほど)とあり,ほとんど制約がないことが記載されているのに対して,射出成形用のゴム材料については,「射出成形用ゴム配合は高温でノズル,ランナーを支障なく通過し,かつ速やかに加硫する必要があり」「更に下記の必要特性が要求される。1)流動性が高いこと。2)加硫平坦性があること。3)水分,揮発分,熱分解物質を含まないこと。4)金属汚染性,粘着性がないこと。」(692頁)とあるように,非常に厳しい制約があることが記載されている。このように,射出成形用のゴム材料には,非常に厳しい制約があり,ゴム成形加工において,トランスファー成形法と射出成形法とでは,まず,使用する材料ゴムにおいて明確に異なるものである。

そして,使用する材料ゴムが異なる結果,ゴム成形加工において,トランスファー成形法と射出成形法とでは,適する用途も異なる。このことは,甲17文献において,トランスファー成形法に適した用途が「寸法精度の厳しいもの」,「比較的小形状」,「比較的薄肉のもの」等と記載されているのに対して,射出成形法については,「複雑,単純形状で厚肉のもの」等と記載されている(691頁表11-2)とおりである。

さらに,プラスチック成形加工とゴム成形加工とを比較した場合,プラスチック成形加工においてトランスファー成形法から射出成形法に変更するのに,仮に,それほどの技術的困難を伴わないとしても,甲17文献に「ゴムの射出成形は高価な装置,複雑な配合,高温・高圧のシビアな条件,等が技術的特徴である。」(691ないし692頁)と記載されているとおり,ゴム成形法においては,そのようにはいえない。

そして,ゴム成形加工におけるトランスファー成形法と射出成形法の関係について説明した上記の相違点は,シリコーンゴムに関する文献である「シリコーンハンドブック」(甲18)にも同様の記載がある(602頁の表)ことから,シリコーンゴムについても,そのままあてはまるものである。

b 被告は,本件特許の出願時において,現像ブレードを,シリコーンゴムを成形材料として射出成形法により製造することが周知であったと主張し,その根拠として,乙第51ないし第56号証を挙げる。

しかしながら,そもそも,現像ブレードを製造する大多数のメーカーは,金属板のみから構成される現像ブレードを製造,販売しており,原告の知る限り,シリコーンゴム製のブレード本体を有する現像ブレードを製造,販売しているのは,現在に至るも原告と被告くらいである。したがって,本件特許の出願時において,現像ブレードを,シリコーンゴムを成形材料として射出成形法により製造することは一般的に行われておらず,被告の上記主張は事実ではない。

さらに,乙第51ないし第56号証は,いずれも公開特許公報にすぎず,その内容が実施可能であるという保証はない。むしろ,原告の知る限り,乙第51ないし第56号証の各出願人は,いずれも,これらの発明を,現在に至るも実施していない。したがって,本件特許の出願時において,現像ブレードをシリコーンゴム,特に液状シリコーンゴムを成形材料として射出成形法によって製造することは,一般的には行われておらず,被告の上記主張は事実ではない。

ウ 進歩性欠如1の主張について

(ア) 被告現像ブレード2が組み込まれたブラザー工業製のプリンター及び交換用トナーカートリッジが,本件特許の出願日より前に,国内外で公然と販売されていたことの立証はされていない。

(イ) 本件発明1の構成と被告現像ブレード2の構成の相違点

本件発明1の構成と被告現像ブレード2の構成との相違点として,被告が主張する相違点①は,「現像ブレードが,本件発明1においては,射出成形法により製造されるのに対し,被告現像ブレード2においては,トランスファー成形法により製造される点」とすべきである。

また,本件発明1の構成と被告現像ブレード2の構成とは,被告主張の相違点のほかにも,本件発明1の現像ブレードにおいては,バリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良を防止する作用効果を奏するリブ部を有するのに対して,被告現像ブレード2においては,バリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良を防止する作用効果を奏するリブ部を備えていない点で相違する。

(ウ) トランスファー成形法を射出成形法に置換することの容易性

後記エ(イ)aで主張するとおり,当業者が,現像ブレードの製造において,トランスファー成形法を射出成形法に置換することは容易でない。

(エ) したがって,進歩性欠如1に係る被告の主張は理由がない。

エ 進歩性欠如2の主張について

(ア) 本件発明1と乙14発明との相違点

a 被告の主張する相違点2について

(a) 主位的主張

乙14文献は,「液状のゴム材(シリコンゴム)を注入口45から流し込む」(段落【0010】)成形加工法において,従来技術では「ゴム材が凹部43の両端部まで流れ込まずに」寸法不足等の不良が生じることから(段落【0011】),「該注入口と前記凹部とを・・・流し込み用凹部を介して連通させたことを特徴とする」(段落【0016】,段落【0027】)発明であって,これにより,「ゴム材を凹部の端部まで円滑に流し込むことができ」る(段落【0018】,段落【0025】)というものである。このように,乙14文献で繰り返し使用されている「流し込む」という語は,厳密な意味を有する技術用語ではないにしても,無圧下にて注入する意味であることは間違いない。したがって,乙14文献は,ゴム材を無圧下にて流し込む一種の注型成形方法によることを開示しているのであって,射出成形法を明示的に排除しているというべきである。

したがって,相違点2としては,「採用する成形方法として,本件発明では射出成形法を用いているのに対して,乙14発明では,ゴム材を無圧下にて注入する一種の注型成形法であること」とするべきである。

(b) 予備的主張

乙14文献の図1及び図2の記載並びに成形材料を170度で用意する趣旨の記載からすると,仮に,乙14発明に係る現像ブレードの製造方法が無圧下にて成形材料を注入する注型成形ではないとしても,乙14発明に係る現像ブレードの製造方法は,少なくとも射出成形法を含まない。

b 被告の主張する相違点3について

被告の相違点3についての主張は,乙14発明における扇形の突出部が本件発明の「リブ部」に相当することを前提としているが,上記扇形の突出部は,バリ及びヒケの発生防止の作用効果はないから,本件発明の「リブ部」に相当するものではなく,したがって,被告の相違点3についての主張は誤りである。

また,乙14文献には,扇形の突出部の厚みをブレード本体の厚みの約30パーセントとすることの技術的意義について何らの開示も示唆もない。

c また,以下の点も,本件発明1と乙14発明との相違点となる。

(a) 本件発明1はバリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良を防止することを技術的解決課題とするものであるのに対し,乙14発明はバリ及びヒケの発生防止については何ら開示していない。

(b) 本件発明1は,主として,ウェルドの発生防止を従来技術のトランスファー成形法に代えて射出成形法を用いることにより実現しているのに対して,乙14発明は,ゲートをブレード本体長手方向の中央部付近であってブレード本体成形用キャビティに近接する位置に設け,かつ,扇形の突出部を形成するようにゲートとブレード本体成形用キャビティとを連通させることにより実現している。

(イ) 相違点についての検討

a 前記(ア)aの相違点について

(a) 前記イ(イ)で主張した甲17文献の記載からすれば,ゴム成形加工においては,①トランスファー成形の成形材料については,厳しい制約がないのに対し,射出成形の成形材料については,流動性が高いことを初めとする厳しい制約があること,②本件発明のような薄肉の成形品については,一般にトランスファー成形法が適しているとされていること,③射出成形法は「高価な装置,複雑な配合,高温・高圧のシビアな条件,等が技術的特徴である」とされており,トランスファー成形法と比較して技術的難易度が高いことが認められる。

本件発明の現像ブレード(特にリブ部)は,典型的な「薄肉の」成形品であり,トランスファー成形法で十分なはずである。このような成形品に,材料ゴムの制約が非常に厳しい射出成形法を用いるからには,あえて射出成形法を用いなければならない理由と,射出成形法を使いこなす高度な技術が必要となるものである。

また,粘度が高い成形材料,すなわち,流動性が低い成形材料を使用すると,当然のことながら,バリは発生しにくくなるところ,トランスファー成形法においては,射出成形法に比べて粘度が高い成形材料を使用するから,バリの発生を防止する観点からは,トランスファー成形法の方が射出成形法より向いている。

したがって,シリコーンゴム成形加工の技術分野に属する本件発明1において,トランスファー成形法を射出成形法に置換する動機付けがなく,当業者は,乙14発明から本件発明を容易に想到することはできない。

(b) 被告は,液状シリコーンゴムの成形加工法として射出成形法が一般的であったことから,成形材料として液状シリコーンゴムを採用した場合は,必然的に射出成形法を採用することになる旨主張する。

ⅰ しかしながら,本件特許の出願時に液状シリコーンゴムの射出成形法が公知であったということと,本件特許の出願時に液状シリコーンゴムの射出成形法がありふれた技術であり何の技術的困難性もなかったということとは別のことである。

ⅱ また,以下に示すとおり,被告が挙げる文献についての被告の主張は不適切である。

① 乙33文献は,「一般にミラブル型のシリコーンゴムの成形方法は,プレス成形,トランスファー成形,射出成形などの加圧成形法と押出成形法がとられている。」(1頁右欄「従来の技術」の項)と記載しているのであって,ミラブル型シリコーンゴムの成形加工法としてはトランスファー成形法が一般的であり,液状シリコーンゴムの成形加工法としては射出成形法が一般的であると記載しているのではない。

② 乙34文献は,「ゴム混練り機を用いて均一に混合し」(段落【0029】)て得られるシリコーンゴム組成物を開示するものであるから,ミラブル型シリコーンゴムに関する文献であるところ,「このようなシリコーンゴム製品を成形する場合,圧縮成形,トランスファー成形,射出成形など,種々の成形法が採用されているが,量産性等の点から押し出し成形が要望されることが多い。」(段落【0003】)と記載しているのであって,ミラブル型シリコーンゴムの成形加工法としてはトランスファー成形法が一般的であり,液状シリコーンゴムの成形加工法としては射出成形法が一般的であると記載しているのではない。

③ 乙39文献は,「ミラブル型シリコーンゴムで作っていた成形品を液状ゴムの射出成形で作り,トータルコストを低減させようというのがLIMの発想である」(169頁下から2行ないし170頁1行)と記載しているが,そのような願望があったということと,それを何の技術的困難もなく実現できたかということとは別個の問題である。また,同文献には,金型の精度についても,「材料の流れが良すぎる点およびゴム成形である点で,より細かな配慮が必要である。」(313頁末行ないし314頁1行)との記載があり,「流れが良すぎて気泡を残してしまうケースも多い。」と指摘している(314頁9ないし10行)。

b 前記(ア)cの相違点について

当業者の一般的な理解としては,バリの発生原因は,「金型キャビティ内の樹脂圧力が金型を開こうとする力と型締め力との関係」であり(甲20の102頁),ヒケの発生原因は,成形材料の冷却時における収縮の早さが,成形品の部位によって不均一であることによって発生する(甲20の122ないし123頁)ものである。バリ及びヒケの発生が,成形材料をブレード本体成形用キャビティに直接注入することに起因すること,換言すれば,成形材料をブレード本体成形用キャビティに直接注入せず,リブ部を介して注入すればバリ及びヒケの発生を防止することができることは,本件発明によって初めて見出された知見であり,公知ではない。

また,バリの発生を防止するために突出部にゲートを設けるということは,プラスチック及びゴム成形加工の分野において一般的な技術常識ではなく,また,ブレード本体より薄い突出部にゲートを設けることによってヒケの発生を防止するという本件発明の技術思想は,むしろ技術常識とは逆の方向である。

(3)  争点(2)イ(特許法36条4項違反の無効理由の有無)について

(被告)

原告は,本件特許請求の範囲の請求項1の「リブ部」の意味について,「ゲートをブレード本体に設けた場合に生ずる問題(ウエルド等の発生)を解消するために,ゲートをブレード本体から離す,換言すれば,成形材料を直接キャビティに入れないようにするために,ブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側の端部からブレードの幅方向に突出するように設けられ,厚みがブレード本体の厚みの20~80%のものである」と定義しているが,この定義を満たすものが正に「タブ」であるところ,原告は,「リブ部」は「タブ」と類似しているが同一のものではないとしている。

しかし,本件明細書には,リブ部の厚み及び幅寸法についての記述はあるが,長さ寸法についての記述はなく,リブ部を,本件図面において示された例のようにブレード本体の全長にわたって形成される場合と,乙第1ないし第4号証に記載されているタブ(小片)のように,部分的に突設される場合とで作用効果上違いがあるのか,リブ部の長さによって作用効果上違いが生じるのか等を理解することができない。

このように,本件明細書や本件図面上,リブ部とタブの類似点及び相違点が明らかにされていないので,当業者は,リブ部がいかなるものであるのか十分に理解することができず,本件発明を実施するに際し,リブ部をいかに構成するのか理解することができない。

したがって,本件明細書の「発明の詳細な説明」の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということができないので,本件特許は特許法36条4項1号の規定に反するものである。

したがって,本件特許は特許法123条1項4号に該当し,無効とされるべきものである。

(原告)

被告は,本件明細書や本件図面においては,リブ部とタブの類似点及び相違点が明らかにされていないので,当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない無効理由(特許法36条4項1号違反)があると主張するが,シリコーンゴムの射出成形とはもとより関係のないタブゲートについて,原告が本件明細書において言及したり,ましてリブ部との相違について説明しなければならない義務はなく,被告の上記主張は的外れである。

したがって,原告のこの点に関する主張は理由がない。

(4)  争点(2)ウ(特許法36条6項2号違反の無効理由の有無)について

(被告)

本件明細書及び本件図面の記載上,厚さのみが限定されているリブ部の具体的な構造が不明であり,リブ部がどのように構成されるのか明確ではないので,本件特許は,特許法36条6項2号の規定に反するものである。

したがって,本件特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効とされるべきものである。

(原告)

本件発明1の「リブ部」は,シリコーンゴムにより内部が充填された構造であることは明らかであり,リブ部の具体的構造において何ら不明確な点はない。

したがって,原告のこの点に関する主張は理由がない。

(5)  争点(3)(先使用権の有無)について

(被告)

被告は,本件特許が出願された平成14年11月12日当時,被告現像ブレード1(検乙1)を製造,販売していた。被告現像ブレード1の製造方法は,成形法としてトランスファー成形法によっている点を除いて,本件発明1と同一である。

そして,先使用権は,先使用権者が現に実施又は準備していた実施形式だけでなく,これに具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶところ,シリコーンゴムを成形材料とする製品の成形法としては,トランスファー成形法によるか射出成形法によるかは,当業者にとっては単なる選択の問題にすぎないこと,大量生産がなされるようになると,射出成形法に移行するのが一般であること,本件特許においても,成形法が射出成形法に限定されているが,技術思想としては射出成形法に限定することに格別の意味はなく,本件明細書上も成形法を特に射出成形法に限定することについての言及は一切ないことから,被告の先使用権は,成形方法について射出成形法によるものにも及ぶことは明らかであり,被告方法は,先使用による通常実施権の範囲内の実施にすぎない。

(原告)

被告現像ブレード1は,トランスファー成形法により成形されたものであること,バリ,ヒケの発生を防止するリブ部がないことから,被告現像ブレード1の製造方法は,本件発明1の技術的範囲に属さず,「特許出願に係る発明・・・の実施」(特許法79条)に該当しない。被告に先使用権が成立するためには,本件特許の出願当時に被告が実施していた方法が,本件発明1の技術的範囲に属している必要があるのであるから,上記のとおり,被告現像ブレード1の製造方法が本件発明1の技術的範囲に属しない以上,これと被告方法とが技術的思想として同一性を失わない範囲内に属するか否かを検討するまでもなく,先使用権は成立しない。

しかも,乙第17号証によれば,被告現像ブレード1は平成13年4月限りで販売を中止しており,「特許出願の際現に・・・発明の実施である事業をしている」(特許法79条)ことにも該当しない。

なお,被告は,本件発明において,技術思想としては射出成形法に限定することに格別の意味はない旨主張するが,射出成形法に限定することには,ウェルド発生の防止という格別の意味がある。また,被告は,本件明細書上も成形法を射出成形法に限定することについての言及は一切ない旨主張するが,段落【0003】において,従来技術をトランスファー成形法によると明記した上で,段落【0004】において,「上記方法」による問題点を説明し,段落【0006】において,射出成形法によることを記載していることから,本件明細書で射出成形法に限定することについて言及していることは明らかである。

(6)  争点(4)(本件特許に無効理由が存在するとしても,訂正により,本件特許権に基づく権利行使が可能となるか)について

(原告)

ア 訂正審判請求

前記争いのない事実等(8)のとおり,原告は,平成20年1月30日,本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載についての訂正審判を請求したが(同訂正審判請求については,特許法134条の3第5項により,同年6月9日に,訂正請求がされたものとみなされた。),その訂正事項の1つは,本件特許請求の範囲の請求項1の記載を,次のとおりの記載に訂正するというものである(訂正した部分に下線を引いた。)。

「シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって,上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に,上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みの20~80%であるリブ部を設けるとともに,上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に,成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設けて,上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とする現像ブレードの製造方法」

イ 本件訂正により,無効理由を回避できること

(ア) 本件訂正自体の適法性

a 本件訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内においてされたものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

b 特許法126条3項の要件を満たすことについて

(a) 本件発明は,従来の一般的な方法である「多数のゲート」を設けるという方法では,ウェルドが出やすいので,ブレード本体の両サイド部(ブレード本体の側面側)に対応する部分のみにゲートを設けたところ,今度はヒケやバリが出やすいという別の問題が生じたので,その箇所に(ブレード本体の側面側の近傍に)リブ部を設け,ブレード本体に直接には成形材料を注入しない構成にしたというものである。

したがって,リブ部を設ける際にも,少なくとも,ブレード本体の両サイド部(ブレード本体の側面側)に近い部分にリブ部を設け,その箇所にゲートを設ける必要があることは明らかである。

この際,ウェルド,ヒケ,バリなどの発生を抑えるという効果との関係においては,ブレード本体の両サイド部に近い部分であれば,リブ部の側面側であれ,裏面側であれ,どの箇所に相当する部分にゲートを設けるかは重要ではない。このことは,発明の実施の形態に係る段落【0012】の記載並びに本件図1及び本件図4からも明らかである。これに対し,例えば,ブレード本体の長手方向の中心に短幅のリブを設け,そこに相当する部分にゲートを設けたのでは,成形材料が左右均一に流れるとは限らず,ヒケが発生するおそれもある。

このように,ブレード本体の両サイド部(ブレード本体の側面側)に近い部分に相当する部分にゲートを設けるべきこと,そして,少なくともその箇所にリブ部を設けなければならないことは,本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面の記載全体から導かれることである。

したがって,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

(b) 被告は,「段落【0012】には,『ゲート位置は,ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていれば(任意の位置で)よい。』と記載され,」と主張するが,本件明細書の当該箇所には,「任意の位置でよい」などとは記載されていない。

また,被告は,「図4は決して『ゲート位置をブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分にのみ設ける』ことを示す図ではない」と主張する。しかし,本件明細書に具体的に記載されている「実施の形態」は,図1に示された実施の形態(段落【0009】から段落【0011】に記載された形態)及び本件図4に示された実施の形態(段落【0012】に記載された形態)の2つしかないのであるから,本件図1に示された実施の形態及び本件図4に示された実施の形態と同一の技術思想の範囲内にある発明,換言すれば,本件図1に示された実施の形態及び本件図4に示された実施の形態のほか,当業者にとって自明の範囲内の実施の形態が記載されていると解するべきであり,これは取りも直さず「ゲート位置をブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分にのみ設ける」発明が記載されているのである。

したがって,被告の上記主張は失当である。

c 特許法126条4項の要件を満たすことについて

被告は,「ゲートは,単に,『リブ部のどこかに設ける』とされていたものを,何の根拠もなく,『ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみ』に設けることとして,『のみ』に意味を持たせようとするものである。」と主張する。

しかしながら,特許法126条4項の「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する」場合とは,クレームを限定する文言を付加したことによって形式的には同条1項ただし書1号の「特許請求の範囲の減縮」にあたるように見えるが,実質的に考えると特許権の権利範囲を拡張し,又は変更する(ある部分では減縮しているが,他の部分では拡張している)ような場合をいうのであって,本件訂正がこれに当たらないことは明らかである。

(イ) 本件訂正後発明が特許要件を具備すること

a 本件訂正により,被告主張(前記⑵エ)に係る無効理由が解消すること

(a) 乙14発明の本質的特徴は,注入口を長手方向中央付近に位置させることであること

乙14文献には,従来技術の問題点について,「上記製造装置では,現像剤規制部形成用の凹部43の断面形状が小さいので,粘性のある液状のゴム材と当該凹部43の内壁面との間の抵抗が大きく,しかもゴム材から発生するガスの気体抵抗も加わり,ゴム材が凹部43の両端部まで流れ込まずに寸法不足が生じたり,端部でゴムが剥がれたり,ダレ等が生じることがある[図9(A),(B),(C)]。」(段落【0011】)と記載されているところ,同記載の従来技術である「上記製造装置」とは,乙14文献の図6及び図7に図示された装置を指すのであるが,このような従来技術の第1の特徴は,注入口45が,「図7に示す如く,他方金型41の幅方向中央部より外れた位置に・・・設けられている。」ことであり(段落【0009】),従来技術の第2の特徴は,図6に示されるように,注入口45が凹部43(成形品の現像剤規制部22に相当する部分)に直接設けられていることである。

そして,上記従来技術の第1の特徴のため,注入口45から凹部43の左右端部までの距離が異なることから,「ゴム材が凹部43の両端部まで流れ込まずに寸法不足が生じたり・・・」(段落【0011】)といった不具合,すなわち,金型の隅々まで成形材料が行き渡らない成形不良である「ショート」などの成形不良が生じるというのである(なお,「ショート」と「ヒケ」とは全く別のものである。)。この点は,乙14文献に「課題を解決するための手段」として,「前記注入口を前記薄板ばね部材の幅方向中央部と対向しかつ前記凹部に近接する位置に設け,該注入口と前記凹部とを前記他方金型に設けた流し込み用凹部を介して連通させたことを特徴とする。」(段落【0016】),「かかる発明では,ゴム材を注入口から注入すると,当該ゴム材は流し込み用凹部を介して直ちに凹部の幅方向中央部に流入し,当該中央部から各端部へ向けて流動する。」(段落【0017】),「したがって,ゴム材を凹部の端部まで円滑に流し込むことができ,寸法不足や端部での剥がれは生じない。」(段落【0018】),「例えば温度が170℃の液状のゴム材(例えば,シリコンゴム)を注入口45から注入すると,当該ゴム材は流し込み用凹部44を介して直ちに凹部43の幅方向中央部43mに流入し,当該中央部43mから各端部(43a,43b)に向けて流動する。」(段落【0024】),「この際,ゴム材は,凹部43内でぶつかり合うこともなく,幅方向中央部43mから各端部(43a,43b)までの距離も長くはないので,当該各端部(43a,43b)まで円滑に流し込むことができる。」(段落【0025】)との各記載からも裏付けられる。

以上より,乙14発明の本質的特徴は,注入口45を,現像剤規制部形成用の凹部43の長手方向中央付近に位置させることによって,注入口45から長手方向端部までの距離をほぼ等しくし,これによりショートなどの成形不良の発生を防止することにあるのが明らかである。

(b) 本件訂正後発明と乙14発明との対比

本件訂正後発明は,いずれも,成形用金型のリブ部であってブレード本体の長さ方向の端部近傍に対応する部分のみにゲートを設けることを構成要件とし,これによりバリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良の発生を防止するものである。

したがって,本件訂正後発明は,乙14発明における,注入口を長手方向中央付近に設けることによって,注入口から長手方向端部までの距離をほぼ等しくし,主としてショートの発生を防止するという技術的思想とは全く異なるものであり,乙14発明に基づいて,当業者が本件訂正後発明を容易に想到し得るとはいえないことが明らかである。

b 特許法36条6項違反の主張について

被告は,本件明細書の発明の詳細な説明中に,「ゲートを,リブ部のブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに設けること」についての記載がなく,そのようにすべき根拠,そのようにすることによる作用効果(技術的意義)等については何らの説明も存しないと主張する。

しかしながら,独立特許要件としての特許法36条6項1号は,訂正後の明細書について判断するのであるところ,本件訂正後の本件明細書において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」は明らかである。また,「作用効果」については,本件訂正後の本件明細書において「現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」(段落【0013】)と記載されている。本件訂正後発明の構成全部の作用効果とは別に,「リブ部をブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに設けること」という構成単独の作用効果を記載することは,特許法上必要でない。

また,被告は,「どの程度までが近傍といえて,どの程度離れると近傍とはいえなくなるのかが明確ではない」から特許法36条6項2号に違反すると主張するが,ゲート位置がリブ部の側面に対応する部分にある限り,ゲート位置は任意であっても,「ブレード本体の側面側の近傍」に該当するから,何ら不明確な点はないし,ゲート位置がリブ部のそれ以外の場所に対応する部分に位置する場合においても,「ブレード本体の側面側の近傍」に該当する場合と,「ブレード本体の中央部の近傍」に該当する場合とは明確に区別し得る。被告の論理によれば,「近傍」という用語を使用した特許請求の範囲の記載はすべて特許法36条6項2号違反であり,数値限定発明以外は認められないということになってしまうが,このような論理は明らかに不当である。

c 本件訂正後発明が特許法29条2項に違反するとの主張について

被告は,「ゲートを薄板ばね部材23の幅方向一端部(本件訂正後発明に相当),又は中央部と両端部に設けることは,乙14発明において従来技術に位置づけられる」と主張するが,乙14発明における従来技術とは,成形用金型のブレード本体に対応する部分にゲートを設けるものであることが前提であるのに対して,本件訂正後発明は,成形用金型のリブ部に対応する部分にゲートを設けることが前提であるから,両者は同一の発明ではなく,被告の上記主張は失当である。

ウ 被告方法は,本件訂正後発明の技術的範囲に属すること

(ア) 本件訂正後発明の構成要件の分説,被告方法の構成の分説は,前記争いのない事実等(4)及び⑻記載のとおりである。

(イ) 本件訂正後発明1と被告方法との対比

a 本件訂正後発明の構成要件A’,D’,E’は本件発明1の構成要件A,D,Eとそれぞれ同内容であるが,被告製品の構成a,d,eが,本件発明1の構成要件A,D,Eをそれぞれ充足することは,被告も認めるところである。

したがって,被告方法の構成a,d,eは,本件訂正後発明1の構成要件A’,D’,E’をそれぞれ充足する。

b 本件訂正後発明の構成要件B’は本件発明1の構成要件Bと同内容であるが,被告方法の構成bが,本件発明1の構成要件Bを充足することは,前記(1)で主張したとおりである。

したがって,被告方法の構成bは,本件訂正後発明1の構成要件B’を充足する。

c 被告方法における矩形状の突出部が本件訂正後発明1の構成要件Bにいう「リブ部」であることは前記(1)で主張したとおりであり,被告方法における成形用金型の上記突出部は,本件訂正後発明1の構成要件C’における「成形用金型の上記リブ部」に該当する。

被告方法におけるゲートの位置は,別紙物件目録1及び2の図において「ゲート」として図示した位置にある。これらの図から明らかなように,被告方法におけるゲートは,成形用金型の上記突出部(矩形上の突出部)上に設けられており,上記突出部は「上記ブレード本体の側面部の近傍に」(構成b)設けられたものであるから,上記突出部にゲートを設けることは,本件訂正後発明1の構成要件C’における,「成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍に対応する部分のみにゲートを設けて,」に該当する。

したがって,被告方法の構成cは本件訂正後発明1の構成要件C’を充足する。

d 被告方法の構成aないしdは,本件訂正後発明1の構成要件A’ないしD’を充足することは前記aないしcのとおりであるから,被告方法の構成eは,本件訂正後発明1の構成要件E’を充足する。

e 以上の理由により,被告方法は,本件訂正後発明1の構成要件をすべて充足するから,本件訂正後発明1の技術的範囲に属する。

(ウ) 本件訂正後発明2と被告方法との対比

本件訂正後発明2のうちの本件訂正後発明1の部分を除く構成は,本件発明2のうちの本件発明1の部分を除く構成と同一であるところ,前記争いのない事実等(5)のとおり,被告方法は,本件発明1の技術的範囲に属する場合は,本件発明2の技術的範囲にも属すること,前記(イ)で主張したとおり,被告方法は本件訂正後発明1の技術的範囲に属することから,被告方法は,本件訂正後発明2の技術的範囲にも属する。

(被告)

ア 本件公報におけるゲートの位置についての記載

(ア) 構成についての記載

本件明細書には,リブ部におけるゲートを設ける位置についての実施形態の説明として,次のように記載されている。

a 「リブ部3に対応する部分の側面側」(段落【0009】)

b 「上記実施の形態では,リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが,ゲート位置はこれに限るものではなく,例えば,図4に示すように,リブ部3に対応する部分の裏面側に設けるなど,ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい。」(段落【0012】前段)

c 「金型の上記リブ部3Aに対応する箇所(ここでは,リブ部3Aの側面側とした)にゲート16を設けてインサート成形するようにすれば・・・」(段落【0012】後段)

(イ) 作用効果についての説明

本件明細書においては,例えば,段落【0009】,【0011】,【0013】等に,「リブ部に対応する部分にゲートを設け,成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたので,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」とあるように,「リブ部に対応する部分にゲートを設けたこと」による作用効果の説明は各所にみられるが,「ゲート設置位置を,ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに設けたこと」による作用効果についての記載は全くなかった。すなわち,本件発明の技術思想は,あくまで,ブレード本体にリブ部を設け,このリブ部対応部にゲートを設ける点にあったのであり,決して,ゲートをリブ部対応部の特定位置に設けることにあったわけではない。

(ウ) 前記(ア)の「ゲート位置はこれに限るものではなく,」,「ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい。」,「ここでは,リブ部3Aの側面側とした」等の記載の意図は,いずれも,本件発明においては,ゲートを側面側に設けることはあくまで一例であるにすぎず,ゲート位置はそれに限らず,任意の位置に設け得るものであることを強調するところにあったことは明らかである。そして,これらの記載は,ゲートを設ける位置は,「ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみ」に限られるとしているどころか,逆に,「ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに設ける」という限定を否定するものである。

もちろん,ゲートをリブ部の側面側にのみ設けることが他の位置に設ける場合より好ましいとする記述も一切存しない。要するに,本件発明の技術思想の本質は,ゲートをリブ部のどこか(任意の位置)に設けるという点にあるのであって,ゲートをリブ部のどこに設けるか(特定位置)については,何らの必須構成要素になっていないのである。

イ 本件訂正は適法でないこと

(ア) 特許法126条3項に反することについて

本件訂正の骨子は,リブ部におけるゲート設置位置を,「ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみ」に限定しようとするものである。

しかしながら,前記アで主張したとおり,本件公報中には,「ゲートを,リブ部のブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに設けること」についての記載は存せず,そのことを示唆する記載も一切存しない。そして,「ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみ」に設けることの効用及びそれ以外の位置に設けた場合の不都合等についての記載も全く見られない。

このように,本件明細書中に,リブ部におけるゲート設置位置を,「ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみ」とすることについての記載が全くないので,本件訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてなされたものではないことが明らかで,本訂正請求は,特許法126条3項に反するものである。

(イ) 特許法126条4項に反することについて

前記アで主張したとおり,本件発明の技術思想の本質は,ゲートをリブ部のどこかに設けるという点にあるのであって,ゲートはその任意の位置に設けることができることを強調するものであった。

それにもかかわらず,本件訂正は,何の根拠もなく,「ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみ」に設けることとして,「のみ」に意味を持たせようとするものである。

したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであり,特許法126条4項に反することが明らかである。

ウ 本件訂正後発明が特許要件を具備しないこと

(ア) 特許法36条6項違反について

本件明細書の発明の詳細な説明中に,「ゲートを,リブ部のブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに設けること」についての記載がなく,そのようにすべき根拠及びそのようにすることによる作用効果(技術的意義)等については何らの説明も存しない。すなわち,本件訂正後発明の構成要件の重要な1つについて一言の説明もない。

したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」とする,特許法36条6項1号に規定する要件に反するものである。

また,本件訂正後の特許請求の範囲における,「リブ部のブレード本体の側面側の近傍の部分」については,どの程度までが近傍といえて,どの程度離れると近傍とはいえなくなるのかが明確ではないので,訂正後の特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が明確であること」とする,特許法36条6項2号に規定する要件にも反するものである。

(イ) 特許法29条2項違反について

ゲートをどこに設けるかは,成形方法,成形条件,成形品の形状等に応じ,ある程度必然的に決まってくるものであり,また,種々比較検討して決定されるものであり,当然,本件発明の場合もそのようにして決定されたはずである。

もちろん,このようにしてゲート位置を決めるであろうことは,ゲートをブレード本体成形用キャビティに設ける場合であっても,リブ部成形用キャビティに設ける場合であっても変わりなくいえることである。要するに,本件発明の技術的価値は,ブレード本体にリブ部を設け,ゲートをリブ部対応位置に設けることとした点にあるのであって,ゲートをリブ部のどこに設けるかは単なる選択の問題であり,当業者が適宜決定し得ることにすぎない。

そして,乙14発明においては,一方において,従来は,ゲートを現像剤規制部形成用キャビティに向けて設けていたのを,「現像剤規制部22にゴム材注入痕gが残らないようにするために,金型に流し込み用凹部(扇型突出部形成用キャビティ)44を設け,ゲート(注入口45)をこの流し込み用凹部44に連通するように設けることにより,ゲートを現像剤規制部22成形用凹部43から離す」こととし,他方において,ゴム材を凹部43の端部まで円滑に流し込むために,ゲートを,薄板ばね部材23の幅方向一端部,又は中央部と両端部とに設けていたのを,「薄板ばね部材23の幅方向中央部に配置する」こととしている。したがって,ゲートを薄板ばね部材23の幅方向一端部(本件訂正後の発明に相当),又は中央部と両端部とに設けることは,乙14発明においては,従来技術に位置付けられるものといえる。

したがって,本件訂正後発明には,何ら特許に値する事項が含まれていないので,本件発明は,乙14発明と周知技術とから当業者が容易に発明し得たとの理由で,独立して特許を受け得るべき発明に該当しないことが明らかである。

エ 被告製品が本件訂正後発明の技術的範囲に属するという原告の主張は,否認する。

(7)  争点(5)(差止請求の可否)について

(原告)

被告は,被告製品の製造を中止することとし,タブ部分の厚さを薄くした商品に変更したので,少なくとも差止請求は棄却されるべきであると主張する。

しかしながら,被告は,被告方法が本件発明の技術的範囲に属すること,及び本件特許の有効性について争っているのであるから,仮に,被告が現時点において被告製品の製造を中止したとしても,将来において侵害行為を再開するおそれがあるといわざるを得ず,したがって,被告製品について差止判決を求める必要性がある。

(被告)

被告は,被告製品の製造を中止することとし,今後,製造販売する現像ブレードの仕様を,タブ部分の厚さを約0.15ないし0.2mmと薄くし,本件発明の技術的範囲に属さないものに変更した。

今後,被告が,被告製品を販売することはあり得ない。

したがって,本件差止請求は棄却されるべきである。

(8)  争点(6)(補償金額及び損害額)について

(原告)

ア 被告は,本件特許の出願後である平成16年9月ころから現在に至るまで,業として,被告方法により,被告製品を製造,販売している。

イ 原告は,被告に対して,本件特許の出願公開後である平成17年2月19日,本件特許の出願の出願公開番号,発明の名称及び特許請求の範囲などを記載した書面を送付し,本件特許の出願に基づいて本件特許権が成立した場合には,被告方法は,本件特許権を侵害することを警告した。したがって,被告は,遅くとも上記の日には,本件発明について,出願公開されたこと及びその内容を知った。

被告は,上記の日から,本件特許権の登録日の前日である平成17年9月15日までの間に,被告製品を約245万個販売し,少なくとも1億7000万円の売上げを上げたところ,本件発明の実施料率は少なくとも5%を下らない。

したがって,原告は,被告に対して,特許法65条1項に基づき,少なくとも850万円の補償金請求権を有する。

ウ 被告は,本件特許権の登録日である平成17年9月16日から平成18年8月末までの間に被告製品を約765万個販売し,その売上げは合計4億9500万円を下らないところ,本件発明の実施料率は,5%を下らない。

したがって,原告が被告に対して有する,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権の請求額は,特許法102条3項により算定して,2475万円となる。

(被告)

争う。

第3当裁判所の判断

1  本件では,まず,争点(3)ア(本件特許は,進歩性欠如を理由として,特許無効審判により無効にされるべきものか)について判断する。

(1)  事実認定

ア 本件公報には,以下のとおりの記載がある(甲4)。

(ア) 本件明細書の記載

a 従来の技術

【0003】

「図7は,従来の現像ブレードの一構成例を示す図で,この現像ブレード20は,一端が上記ハウンジング51に固定される支持部材である金属板21の他端側に,断面形状が凸状の,ウレタン,ゴム等の弾性体からなるブレード本体22を挟み込んだ長尺状の部材で,一般に,上記金属板21をインサート部材としたインサート成形によって製造される。具体的には,図8(a)に示すような,固定型31と可動型32とにより形成された,ブレード本体22を成形するための金型30のキャビティ33内に,図8(b)に示すようなインサート部材である金属板21の先端部分が突出するように,上記金属板21を上記金型30内に設置し,上記キャビティ33内に,図示しない射出装置から注入されるゴム材料または樹脂材料を,多数のゲート34から上記キャビティ33内に導入して固化させる,トランスファー成形により製造される。」

b 発明が解決しようとする課題

(a) 【0004】

「しかしながら,上記方法では,成形材料が多数のゲート34からブレード本体22を形成するキャビティ33内に注入されるため,図9に示すように,成形されたブレード本体22のゲート34付近には,ブレード本体22の幅方向に延長するウェルドと呼ばれる線状の凹凸22xが発生してしまう場合があった。このように,ブレード本体22の現像ロール55へ当接する部位にある一定レベル以上の大きさの凹凸22xが存在すると,現像ロール55との接触状態が悪くなってトナー52の厚みが不均一なるため,画像に縦筋が入ってしまい,画像不良が起こってしまうといった問題点があった。

そこで,図10に示すように,金型30のゲート34’をブレード本体22の両サイド部22s,22sにそれぞれ設ける方法も考えられるが,この場合には,ブレード本体22にゲート34’を直結させているため,図10(b)に示すように,ヒケ22yやバリが発生しやすいといった問題点があった。」

(b) 【0005】

「本発明は,従来の問題点に鑑みてなされたもので,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドなどのない現像ブレードを製造する方法と,上記現像ブレードの射出成形に用いられる現像ブレード用金型を提供することを目的とする。」

c 課題を解決するための手段

【0006】

「本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,ブレード本体にリブ部を設けて,ゲートをブレード本体側ではなく,上記リブ部に設けることにより,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能であることを見いだし,本発明に到ったものである。すなわち,請求項1に記載の発明は,シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって,上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に,上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みの20~80%であるリブ部を設けるとともに,上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に,成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて,上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とするものである。」

d 発明の実施の形態

(a) 【0009】

「本例では,図1にも示すように,上記金型10のゲート16を,上記キャビティ13の,上記リブ部3に対応する部分の側面側に設けることにより,図示しない射出装置から注入される,ブレード本体2とリブ部3とを成形するための材料(例えば,シリコーンゴムなど)を,上記リブ部3の側面側から上記キャビティ13内に導入して固化して上記構成の現像ブレード1を成形するようにしている。このように,ゲート16をブレード本体2側にではなく,上記リブ部3側に設けることにより,現像ロールと接触するブレード本体2にはバリやヒケ,あるいは,ウェルドのない現像ブレード1を製造することができる。」

(b) 【0010】

「このとき,上記リブ部3の寸法としては,図3に示すように,厚みtをブレード本体2の厚みTの20~80%とすることが好ましく,50%前後とすることが特に好ましい。上記厚みtがブレード本体2の厚みTの20%未満である場合には,キャビティ13のリブ部3に相当する部分が狭くなって,成形材料を十分にキャビティ13内に充填することができず,ブレード本体2にヒケが発生しやすくなる。また,上記厚みtがブレード本体2の厚みTの80%を超えると,リブ部3とブレード本体2の厚みとの間の段差が小さくなるため,ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすい。」

(c) 【0011】

「このように,本実施の形態によれば,現像ロールと接触するブレード本体2に,上記ブレード本体2の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレード1の幅方向に突出するリブ部3を設けるとともに,インサート部材として金属板4が配置された金型10のゲート16を,キャビティ13の,上記リブ部3に対応する部分に設けてインサート成形することにより,現像ブレード1を成形するようにしたので,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」

(d) 【0012】

「なお,上記実施の形態では,リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが,ゲート位置はこれに限るものではなく,例えば,図4に示すように,リブ部3に対応する部分の裏面側に設けるなど,ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい。

また,上記例では,ブレード本体2を金属板4上に保持した現像ブレード1について説明したが,これに限るものではない。例えば,上記図7に示した,ブレード本体22を金属板21に挟み込んだタイプのものであっても,図5に示すように,ブレード本体2Aに,ブレード本体2Aの裏面側から上記ブレード本体2Aの幅方向に突出するリブ部3Aを設け,金型の上記リブ部3Aに対応する箇所(ここでは,リブ部3Aの側面側とした)にゲート16を設けてインサート成形するようにすれば,上記実施の形態と同様に,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」

e 発明の効果

【0013】

「【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する際に,現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に,上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みの20~80%であるリブ部を設け,上記現像ブレードを射出成形にて製造する際には,現像ブレード成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設け,成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたので,現像ロールとの接触面にバリやヒケ,あるいは,ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」

(イ) 本件図面の記載

a 本件図1

本件発明の実施例の図面であり,ブレード本体2と,同ブレード本体2の幅方向後方に,幅方向の長さ,長手方向の長さ及び厚さが均一であり,長手方向の長さがブレード本体2の長手方向の長さと同一で,厚さがブレード本体2の厚さより薄いリブ部3が,その底面がブレード本体2の底面と同一平面となるような位置付けで突出し,同リブ部3の両側面部に対応する部分にゲート16が設けられ,上記ブレード本体2及びリブ部3は,その底面が金属板4に接する状態で,同金属板4に保持された状態を示している。

b 本件図4

本件発明の実施例の図面であり,ブレード本体2と,同ブレード本体2の幅方向後方に,幅方向の長さ,長手方向の長さ及び厚さが均一であり,長手方向の長さがブレード本体2の長手方向の長さと同一で,厚さがブレード本体2の厚さより薄いリブ部3が,その底面がブレード本体2の底面と同一平面となるような位置付けで突出し,同リブ部3の後方側の面の両端部付近に対応する部分にゲート16が設けられ,上記ブレード本体2及びリブ部3は,その底面が金属板4に接する状態で,同金属板4に保持された状態を示している。

c 本件図5

本件発明の実施例の図面であり,ブレード本体2と,同ブレード本体2の幅方向後方に,幅方向の長さ,長手方向の長さ及び厚さが均一であり,長手方向の長さがブレード本体の長手方向の長さと同一で,厚さがブレード本体2の厚さより薄いリブ部3が,ブレード本体2の後方面の真ん中付近から突出し,同リブ部の両側面部に対応する部分にゲート16が設けられ,上記リブ部3が,その底面が金属板4に接して,同金属板4に保持され,もって,上記ブレード本体2及びリブ部3が同金属板4に保持された状態を示している。

イ 乙14文献には,以下のとおりの記載がある。

(ア) 明細書の記載

a 特許請求の範囲

「【請求項1】一方突き合せ面に薄板ばね部材を保持する保持部が形成された一方金型と,一方突き合せ面と密着可能な他方突き合せ面に薄板ばね部材の先端部と対向して現像剤規制部形成用の凹部が形成されかつこの凹部に液状のゴム材を注入するための注入口が設けられた他方金型とを備えた現像剤薄層形成部材の製造装置において,前記注入口を前記凹部の幅方向中央部に近接する位置に設け,該注入口と前記凹部の幅方向中央部とを前記他方金型に設けた流し込み用凹部を介して連通させたことを特徴とする現像剤薄層形成部材の製造装置。」

b 発明の属する技術分野

【0001】

「本発明は,一方突き合せ面に薄板ばね部材を保持する保持部が形成された一方金型と,一方突き合せ面と密着可能な他方突き合せ面に薄板ばね部材の先端部と対向して現像剤規制部形成用の凹部が形成されかつこの凹部に液状のゴム材を注入するための注入口が設けられた他方金型とを備えた現像剤薄層形成部材の製造装置に関する。」

c 従来技術

(a) 【0004】

「また,現像剤薄層形成部材21Pは,現像装置本体15の前面開口部に取付部材24を介して装着された弾性材料製の薄板ばね部材23と,この薄板ばね部材23の先端部23aに設けられた現像剤規制部22とを含み,現像剤規制部22が薄板ばね部材23の弾性復元力を利用して現像ローラ11の周面12に所定の線圧で当接されている。」

(b) 【0009】

「ここにおいて,現像剤薄層形成部材の製造装置を図6に示す。かかる製造装置は,一方突き合せ面32に薄板ばね部材23を保持する保持部(保持凹部33)が形成された一方金型31と,一方突き合せ面32と密着可能な他方突き合せ面42に薄板ばね部材23の先端部(23a)と対向して現像剤規制部形成用の凹部43が形成されかつこの凹部43に液状のゴム材を注入するための注入口45が設けられた他方金型41とを備えている。注入口45は,図7に示す如く,他方金型41の幅方向中央部より外れた位置に凹部43と直結するように設けられている。」

d 発明が解決しようとする課題

(a) 【0011】

「ところで,上記製造装置では,現像剤規制部形成用の凹部43の断面形状が小さいので,粘性のある液状のゴム材と当該凹部43の内壁面との間の抵抗が大きく,しかもゴム材から発生するガスの気体抵抗も加わり,ゴム材が凹部43の両端部まで流れ込まずに寸法不足が生じたり,端部でゴムが剥がれたり,ダレ等が生じることがある[図9(A),(B),(C)]。」

(b) 【0012】

「そこで,注入口45を他の箇所(例えば,図7に示す部位A1,A2)にも設け,これら注入口45からゴム材を同時に注入することがなされることがあるが,これでは凹部43内でゴム材がぶつかり合うため,図10に示す如く,ぶつかり合った箇所においてゴム材に歪み(k)が生じる。かかる歪み(k)のある現像剤規制部22を用いて,現像ローラ11上のトナー(T)を層厚規制・帯電すると,用紙に黒スジ(または白スジ)等が発生する。」

(c) 【0014】

「また,現像剤規制部22にゴム材注入痕(g)が残ってしまうため,黒スジや印字濃度ムラ等が生じやすい。」

(d) 【0015】

「本発明は,上記事情に鑑み,薄板ばね部材の幅寸法が大きい場合でも,その先端部に凹凸や歪み等がない現像剤規制部を形成することができる現像剤薄層形成部材の製造装置を提供することにある。」

e 課題を解決するための手段

(a) 【0016】

「本発明は,一方突き合せ面に薄板ばね部材を保持する保持部が形成された一方金型と,一方突き合せ面と密着可能な他方突き合せ面に薄板ばね部材の先端部と対向して現像剤規制部形成用の凹部が形成されかつこの凹部に液状のゴム材を注入するための注入口が設けられた他方金型とを備えた現像剤薄層形成部材の製造装置において,前記注入口を前記薄板ばね部材の幅方向中央部と対向しかつ前記凹部に近接する位置に設け,該注入口と前記凹部とを前記他方金型に設けた流し込み用凹部を介して連通させたことを特徴とする。」

(b) 【0017】

「かかる発明では,ゴム材を注入口から注入すると,当該ゴム材は流し込み用凹部を介して直ちに凹部の幅方向中央部に流入し,当該中央部から各端部へ向けて流動する。」

(c) 【0018】

「したがって,ゴム材を凹部の端部まで円滑に流し込むことができ,寸法不足や端部での剥がれは生じない。また,凹部内でゴム材がぶつかり合うことがないので,歪みも発生しない。また,ゴム材の成形温度を下げなくてすむので,加流不足となることもなく,現像ローラを汚染することもない。さらに,現像剤規制部にゴム材注入痕を残さない。」

f 発明の実施の形態

(a) 【0019】

「以下,本発明の実施形態を図面を参照して説明する。本現像剤薄層形成部材の製造装置は,図1および図2に示す如く,基本的構成は従来例(図6,図7)と同様とされているが,注入口45を現像剤規制部形成用の凹部43の幅方向中央部に近接する位置に設け,該注入口45と凹部43の幅方向中央部とを他方金型41に設けた流し込み用凹部44を介して連通させた構成とされている。」

(b) 【0021】

「流し込み用凹部44は,その高さh1が凹部43の高さh2よりも低くなるように,かつ注入口45から凹部43中央部に近づくにつれてその幅方向寸法が次第に増大するように形成されている。」

(c) 【0022】

「本製造装置を用いて製造された現像剤薄層形成部材21は,図3に示す如く,例えばA3サイズ用紙幅よりも幅寸法が大きい薄板バネ部材23と,この薄板バネ部材23の先端部23aの幅方向全長にわたって形成された現像剤規制部22からなる。」

(d) 【0023】

「次に,この実施形態の作用について説明する。現像剤薄層形成部材21を製造するには,まず薄板バネ部材23を一方金型31の保持凹部33に保持させる。次に,他方金型41をその他方突き合せ面42が一方突き合せ面32と密着するように上方から載置する。」

(e) 【0024】

「こうして,両金型(31,41)が突き合わされたところで,例えば温度が170℃の液状のゴム材(例えば,シリコンゴム)を注入口45から注入すると,当該ゴム材は流し込み用凹部44を介して直ちに凹部43の幅方向中央部43mに流入し,当該中央部43mから各端部(43a,43b)に向けて流動する。」

(f) 【0025】

「この際,ゴム材は,凹部43内でぶつかり合うこともなく,幅方向中央部43mから各端部(43a,43b)までの距離も長くはないので,当該各端部(43a,43b)まで円滑に流し込むことができる。」

(g) 【0026】

「したがって,現像剤規制部22の寸法不足や端部での剥がれ,ダレ,歪みは発生しない。また,ゴム材の成形温度を下げなくてすむので,加流不足となることもなく,現像装置に組み込んだ場合に現像ローラ11を汚染することもない。」

(h) 【0027】

「しかして,この実施形態によれば,注入口45を現像剤規制部形成用の凹部43の幅方向中央部43mに近接する位置に設け,該注入口45と凹部43の幅方向中央部43mとを他方金型41に設けた流し込み用凹部44を介して連通させたので,薄板ばね部材23の幅寸法が大きい場合でも,その先端部23aに凹凸や歪み等がない現像剤規制部22を形成することができる。」

g 発明の効果

【0028】

「本発明によれば,注入口を現像剤規制部形成用の凹部の幅方向中央部に近接する位置に設け,該注入口と凹部の幅方向中央部とを他方金型に設けた流し込み用凹部を介して連通させたので,薄板ばね部材の幅寸法が大きい場合でも,その先端部に凹凸や歪み等がない現像剤規制部を形成することができる。」

(イ) 図面の記載

a 図1

乙14発明の実施例の断面図であり,一方金型31と他方金型41とが記載され,一方金型31の保持凹部33に薄板バネ部材23が保持され,他方金型41には,半円形状の凹部43とその左側に長方形の流し込み用凹部44があり,凹部43と流し込み用凹部44とは連通しており,また,凹部44の上方には,注入口45が設けられている。流し込み用凹部の高さh1は,凹部の高さh2の半分以下(3分の1ないし4分の1程度)となっている。

b 図3

乙14発明の装置により製造された現像剤薄層形成部材の外観斜視図であり,薄板バネ部材23の先端に現像剤規制部22が設置されており,薄板バネ部材23の長手方向中央部には,略三角形状の部材が,その底辺部を現像剤規制部22に接するような状態で設置されており,上記略三角形状の部材の中央部には,ゴム材注入痕がある。

ウ 各文献の記載

(ア) 特開平11-231647公報(以下「乙13文献」という。)

平成11年8月27日に公開された公開特許公報である乙13文献には,「発明の名称」欄に「現像剤規制用ブレード部材及びその製造方法並びに型装置」との記載が,「特許請求の範囲 請求項1」の欄には「画像形成装置の現像装置に組み込む金属製支持部材に支持された現像剤規制用ブレード部材であって,前記支持部材の一部を成形用型内に挿入支持し,前記型のキャビテイの一面側を断面積の大なる部分と小なる部分及び該大部分と小部分の間の傾斜面を有する部分を構成するように成し,前記ブレード部材の成形材料は熱硬化型のシリコーンゴム材料とし,該ゴム材料を射出するゲートを前記断面積の大なる部分に対応する位置であって,かつ,前記支持部材の挿入先端位置を避けた位置に設け,前記ゴム材料を前記位置に設けたゲートから射出し,射出したゴム材料を前記の大なる部分から傾斜部分を介して小なる部分の先端位置に行渡らせるようにしたことを特徴とした現像剤規制用ブレード部材」との記載がある。

(イ) 乙32文献

平成11年9月7日に公開された公開特許公報である乙32文献には,「発明の名称」欄に「現像ブレードおよびその製法」との記載が,「発明の実施の形態」欄には,「本発明の現像ブレードは,シリコーンゴム組成物の成形架橋体からなる。そして,このシリコーンゴム組成物としては,シリコーンゴムおよびそれを架橋するための架橋剤はもちろんのこと,触媒,補強剤,反応抑制剤等の他の添加剤を適宜に含有させたものが用いられる。」(【0010】),「上記シリコーンゴム組成物の主成分となるシリコーンゴムとしては,特に限定されるものではなく,高温加硫型(HTV)シリコーンゴム,室温加硫型(RTV),低温加硫型(LTV)の液状シリコーンゴム等が用いられる。なかでも,短時間で加硫可能で量産性に優れる点で,付加反応型の液状シリコーンゴム(LSR)が好ましい。」(【0011】),「本発明の現像ブレードは,例えばつぎのようにして製造することができる。すなわち,まず,所定の現像ブレード用成形型〔LIM(Liquid Injection Molding)成形法に用いることが可能な成形型等〕を準備する。・・・そして,上記シリコーンゴム組成物を上記成形型に充填し,所定時間内で一次加硫する。ついで,得られた架橋体を脱型した後,所定温度で二次加硫を行うことにより,目的とする現像ブレードを製造することができる。」(【0022】)との各記載がある。

(ウ) 乙33文献

平成4年2月6日に公開された公開特許公報である乙33文献には,「発明の名称」欄に「シリコーンゴム組成物」との記載が,「従来の技術」の欄には,「一般にミラブル形のシリコーンゴムの成形方法は,プレス成形,トランスファー成形,射出成形などの加圧成形方法と押出成形方法がとられている。」との記載がある。

(エ) 乙34文献

平成7年6月13日に公開された公開特許公報である乙34文献には,「発明の名称」欄に「シリコーンゴム成形品の製造方法」との記載が,「従来の技術及び発明が解決しようとする課題」欄に「このようなシリコーンゴム製品を成形する場合,圧縮成形,トランスファー成形,射出成形など,種々の成形法が採用されているが,量産性等の点から押し出し成形が要望されることが多い」(【0003】)との記載がある。

(オ) 乙35文献

乙35文献は,信越化学のシリコーン電子材料技術研究所のA執筆の論文であり,平成14年1月刊行の「ポリマーダイジェスト 2002.1」に掲載されたが,乙35文献には,「近年,LIMS(Liquid Injection Molding System),すなわち液状シリコーンゴムの射出成形が広く普及している。」(27頁下段2ないし4行)との記載がある。

(カ) 乙36文献

乙36文献は,東レ・ダウコーニング・シリコーンの研究開発本部開発第3部のB執筆の論文であり,平成14年1月刊行の「ポリマーダイジェスト 2002.1」に掲載されたが,乙36文献には,「液状シリコーンゴムは,一般的には通常の射出成形機を用いて硬化成形される。」(37頁上段10ないし11行)との記載がある。

(キ) 乙39文献

昭和63年10月1日に,東芝シリコーンによって発行された乙39文献には,「LIM(Liquid Injection Molding)とは液状射出成形のことであり,・・・その材料に付加型2成分液状シリコーンゴムが用いられる。ミラブル型シリコーンゴムで作っていた成形品を液状ゴムの射出成形で作り,トータルコストを低減させようというのがLIMの発想であるが,そのためにはミラブル型シリコーンゴムに匹敵するゴム物性をもつ加熱硬化型液状シリコーンゴムの開発が不可欠であった。従来,液状シリコーンゴムはその流動性を出すため補強性充填剤の配合量に限度があり,ゴム物性の点ではミラブル型シリコーンゴムに比べると見劣りのするものであった。ところが,高補強性の充填剤や高度の充填方法の開発により機械的強度の優れた液状シリコーンゴムが得られるようになり,成形用加熱硬化型液状シリコーンゴムとして上市された。表2・7・28にLIM用付加型液状シリコーンゴムの製品を示す。」(169頁下3行ないし170頁6行)との記載がある。

(ク) 乙40文献

平成11年2月に,東レ・ダウコーニング・シリコーンによって発行された乙40文献には,「東レ・ダウコーニング・シリコーンが開発した液状のシリコーンポリマーからシリコーンゴムを効率よく成形する手法,あるいは概念を液状ポリマーシステム(LPS)と呼びます。そして,そこに用いる液状シリコーンゴムをLSR(Liquid Silicon Rubber)と呼びます。」(2頁右欄11行ないし16行)との記載があり,「LSRの硬化機構」との項目において,「射出成形の場合」との小項目の下に,「この方法に比べて,LSRでの射出成形では混合機と直結したノズルから金型に注入するもので,成形品に応じた条件設定により取り出しまで自動的に行うことができます。」(3頁右欄4ないし7行目)との記載があり,また,「LSRの射出成形」との項目が設けられ,LSRの具体的射出成形法が紹介されている(7頁以下)。

(ケ) 乙41文献

昭和56年4月30日に,信越化学によって発行されたカタログである乙41文献には,「当社では,液状シリコーンゴムに応用するシステムのうち,シリコーンゴム成形品を得るプロセスをLIMSとして開発したものです。」(2頁),「LIMSの成形方法には射出成形,圧縮成形,押出し成形,トランスファー成形があります。」(9頁)との記載がある。

(コ) 乙51文献

平成12年5月16日に公開された公開特許公報である乙51文献には,「発明の名称」欄に「現像ブレード」との記載が,「発明の実施の形態」の欄には,「この組成物を成形硬化させるにはプレス成形機によるのが一般的であるが,押出成形で長板状に成形した後に切断し,ギヤオーブンやHAV等の加熱炉で加硫してもよいし,シリコーンゴムのベース材料としてLIMS法に規定された液状シリコーンを使用した射出成形法を用いてもよく,これらのいずれの成形方法によっても性能は十分に満たされる。」(【0015】)との記載がある。

(サ) 乙52文献

平成12年2月18日に公開された公開特許公報である乙52文献には,「発明の名称」欄に「電子写真用ブレードの製法およびそれにより得られた電子写真用ブレード」との記載が,「発明の実施の形態」の欄には,「そして,層成形ブレードの製造は,まず,図1に示すように,上記L型支持板1が従来と同様にして,層成形ブレード用成形型Mに固定されたのち,上記シリコーンゴム部が成形される成形空間内に液状シリコーンゴムが注入されて射出成形される。」(【0017】)との記載がある。

(シ) 乙53文献

平成12年3月31日に公開された公開特許公報である乙53文献には,「発明の名称」欄に「弾性現像剤量規制部材及び現像装置」との記載が,「実施例」の欄には,「・・・これにLTVシリコーンゴム(バイエル社製;LSR AI3601)をシリンダー温度30℃で射出成形する。」(【0016】)との記載がある。

(ス) 乙54文献

平成11年1月29日に公開された公開特許公報である乙54文献には,「発明の名称」欄に「トナー量規制弾性ブレード,これを用いた現像装置および装置ユニット」との記載が,「発明の実施の形態」の欄には,「ゴム弾性部材としては,JISA硬度で80度以下のゴムが好ましく使用でき,材質としては,射出成形可能なシリコーンゴム,例えば,HTVミラブルゴムやLTV液状シリコーンゴムなどいずれでも良いが,射出成形のし易さからは,LTV液状シリコーンゴムがより好ましい。」(【0017】),「射出成形方法としては,主剤と硬化剤成分と含有した硬化剤の2成分を有する液状シリコーンゴム原料を射出成形機に搬送しながらスタティックミキサーなどの静的攪拌機により攪拌した材料を射出成型機(LIMあるいはLIMS成型機)の射出シリンダーに送り,これを射出シリンダーから予め支持板金をインサートし,所定の温度に加熱した型にゴムを射出する。」(【0019】)との記載がある。

(セ) 乙55文献

平成10年8月25日に公開された公開特許公報である乙55文献には,「発明の名称」欄に「現像装置」との記載が,「発明の実施の形態」の欄には,「現像ブレード8は,予め加熱した型内に,シリコーン用プライマーを塗った厚さ60μmのステンレススチールを配置し,これにLTVシリコーンゴムをLIM射出成型機により射出し,150℃で5分間後に型より取りだし,200℃で4時間熱処理して一体成型してゴム硬度40°のシリコーンゴムブレードを得た。」(【0028】)との記載がある。

(ソ) 乙56文献

平成6年9月16日に公開された公開特許公報である乙56文献には,「発明の名称」欄に「現像剤量規制部材及びその製造方法」との記載が,「実施例」の欄には,「弾性層のゴム材料としては,HTVゴム(高温硬化型ミラブルシリコーンゴム等)熱可塑性ウレタンゴム,液状ウレタンゴム,液状ニトリルブタジエンゴム,液状シリコーンゴム(LTV,RTV等)や,それぞれの変性品,ブレンド品等のゴム弾性体が良い。」(【0020】),「本発明の製造方法は,支持層と弾性層を一体成形する方法であるが,その例として,・・・射出成形機を使用し,プライマーを塗布した支持層を中に設置した平板成形用金型内に弾性層材料を流し込む成形方法等(この方法は弾性層材料が粘度の高い材料でも低い材料でも有効である)がある。」(【0021】)との記載がある。

(タ) 「先端成形加工技術」(甲16)

平成11年12月25日に,株式会社シグマ出版によって発行され,社団法人プラスチック成形加工学会を編者とした「テキストシリーズプラスチック成形加工学Ⅵ 先端成形加工技術」と題する書籍には,射出成形の短所として,圧縮成形,トランスファー成形より流れのよい材料が必要である旨の記載がある(267頁)。

(チ) 甲17文献

平成6年1月20日に,社団法人日本ゴム協会によって発行された甲17文献には,「トランスファー成形加工用のゴム混和物は圧縮成形用のものをそのまま利用できる。この点,連続的なトランスファー成形といえる射出成形に比べ,あまり心配する必要がない。」(690頁右欄),「ゴムの射出成形は高価な装置,複雑は配合,高温・高圧のシビアな条件,等が技術的特徴である。」(691右欄,692頁左欄),「射出成形用ゴム配合は高温でノズル,ランナーを支障なく通過し,かつ速やかに加硫する必要があり・・・更に下記の必要特性が要求される。1)流動性が高いこと。2)加硫平坦性があること。3)水分,揮発分,熱分解物質を含まないこと。4)金属汚染性,粘着性がないこと。」(692頁右欄),「射出成形では圧縮(プレス)成形に比べ,金型表面・内部の温度プロファイルが異なり,良好な加硫の現実にはかなり精密な温度制御が要求される。」(694頁左欄),「射出成形では加硫の適否,モールド圧力,ゴム配合,ゴムフローパターン,発泡等により,異常収縮が発生する」(694頁左欄),「例えばゴムと金属とを接着させつつモールドすると,接着面ではゴムは収縮できないために直角方向に異常収縮し(通常の収縮率の2~3倍),極端な形状変化を招くことがある。」(695頁左欄)との記載がある。

(ツ) 「シリコーンハンドブック」

平成2年8月に,日刊工業新聞社から発行された「シリコーンハンドブック」と題する書籍(甲18。以下「甲18文献」という。)には,「各成形法の特徴」と題する表(602頁)において,トランスファー成形の用途の欄に,「1.複雑な形状 2.寸法精度のきびしいもの 3.比較的小形状 4.比較的薄肉のもの 5.融合部に欠陥が生じてはいけないもの」との記載が,射出成形の用途の欄には,「1.複雑,単純形状で厚肉のもの(肉厚の深さによる物性の偏りをなくすことができる) 2.融合部に欠陥が生じてはいけないもの」との記載があり,また,同書籍には,「トランスファー成形は,圧縮成形よりも成形サイクルが早く,ショットが単一プレフォームですみ,複雑な製品等に微妙なインサート物をもちいる成形などに適している。」(600ないし601頁),「シリコーンゴムは,すぐれた流動性と高温での速硬性により,射出成形には理想的な材料である。生産性も高く,成形サイクル等から同一製品を成形する場合,圧縮成形の1/5~1/10の時間ですむといわれており,寸法精度,材料の均一性などの点で信頼性が高い。・・・シリコーンゴムの場合,大量消費型の成形品が少なかったが,近年シリコーンゴムの汎用化にともない射出成形法が増大してきた。」(601頁)との記載がある。

(2)  本件発明1と乙14発明との対比

ア 本件発明1及び乙14発明の内容

(ア) 本件発明1は,本件特許請求の範囲の請求項1に記載のとおり,「シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって,上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に,上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みの20~80%であるリブ部を設けるとともに,上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に,成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて,上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とする現像ブレードの製造方法。」というものである(前記争いのない事実等(1)のとおり)。

(イ) 前記(1)イで判示した乙14文献の記載からすると,乙14発明は,以下のとおりの発明であることが認められる。

「シリコーンゴムからなる成形材料を用いて現像剤薄層形成部材を製造する方法であって,上記現像剤薄層形成部材の薄板ばね部材23の先端部23aに設けられ,上記現像剤薄層形成部材の現像ローラ11との接触面を頂点部に有する断面形状が半円形状の現像剤規制部22の長手方向中央部の後端部に,その高さが上記現像剤規制部22の高さよりも低い扇形の突出部が薄板ばね部材23の表面に沿って形成されるとともに,上記現像剤薄層形成部材を成形加工により製造する際に,他方金型の上記突出部に対応する部分に注入口45を設けて,上記シリコーンゴムを上記注入口45から上記金型内に注入して上記薄層形成部材を製造する薄層形成部材の製造方法」

イ 一致点及び相違点

乙14発明の内容は,前記ア(イ)のとおりであるところ,前記(1)ア(ア)d(d)で判示したとおり,本件公報の段落【0012】には,「上記実施の形態では,リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが,ゲート位置はこれに限るものではなく,例えば,図4に示すように,リブ部3に対応する部分の裏面側に設けるなど,ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい。」との記載があり,一方で,「リブ部」の形状(ただし,厚みを除く。以下同じ。),配置位置等について限定する記載はない(甲4)ことから,本件発明1の「リブ部」は,長手方向の長さ,形状,配置位置,個数について限定されていないものと認められ,したがって,乙14発明の「現像剤薄層形成部材」,「現像ローラ11」,「現像剤規制部22」,「他方金型」,「現像剤規制部22の幅方向中央部の後端側から薄板ばね部材23の後端部方向に突出する・・・扇形の突出部」,「注入口」は,それぞれ,本件発明1の「現像ブレード」,「現像ロール」,「ブレード本体」,「成形用金型」,「リブ部」,「ゲート」に相当する。そして,本件発明1の「射出成形」は成形加工の一種であるから,両発明は,「シリコーンゴムからなる成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって,上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に,上記ブレード本体の端部から上記ブレードの幅方向に突出する,その厚みが,上記ブレード本体の厚みより小さい突出部を設けるとともに,上記現像ブレードを成形加工にて製造する際に,成形用金型の上記突出部に対応する部分にゲートを設けて,上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにした現像ブレードの製造方法」ある点で一致し,以下の点で相違する。

(ア) 相違点1

本件発明1においては,ブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側の端部に,リブ部が設けられているのに対し,乙14発明においては,現像剤薄層形成部材の薄板ばね部材23の先端部23aに設けられた,現像ローラ11との接触面を頂点部に有する断面形状が半円形の現像剤規制部22(現像ブレード本体)の後端部に,突出部が設けられている点

(イ) 相違点2

本件発明1の成形加工方法は,射出成形法であるのに対して,乙14発明は,成形加工方法の種類について特定していない点

(ウ) 相違点3

本件発明1のリブ部は,その厚みがブレード本体の厚みの20ないし80%と規定されているのに対して,乙14発明の扇形の突出部の厚みは,ブレード本体の厚みよりも小さいものの,その厚みとブレード本体(現像剤規制部22)の厚みの比率の範囲について特定していない点

(3)  相違点についての検討

ア 相違点1について

本件発明1における,「ブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側」とは,本件図1,本件図4及び本件図5並びに本件明細書の記載内容からみて,ブレード本体における現像ロールとの接触面の裏側の面の端部を意味するのではなく,ブレード本体の先端側に形成された現像ロールとの接触面に対して,その後側を意味するものであると認められる。

そして,現像ブレードのブレード本体が,ブレード本体の端部の反対側に現像ロールとの接触面を有するものとすることが,本件特許の出願前の周知の技術的事項であることは,当事者間に争いがないものと認められる。

そうすると,乙14発明において,現像剤規制部の頂点部が接触面となる構成に代えて,突出部を設けた後端部の反対側が現像ローラとの接触面となるような構成を有するものとすることは,当業者が,上記周知技術に基づき,容易になし得る設計事項にすぎないというべきである。

イ 相違点2について

(ア) 前記(2)ア(イ)で判示したとおり,乙14発明は,シリコーンゴムからなる成形材料を用いて現像材薄層形成部材を製造する方法であるところ,前記(1)ウ(ア)ないし(ソ),(チ)で認定した各文献の記載からすれば,シリコーンゴムを射出成形法により成形加工することは周知であると認められ,また,前記(1)ウ(ア),(コ)ないし(ソ)で認定した各文献の記載からすれば,シリコーンゴムを成形材料として,射出成形によって,現像ブレードを成形することも周知であると認められる。

したがって,乙14発明において,シリコーンゴムからなる成形材料を用いて現像材薄層形成部材(現像ブレード)を製造する際,周知技術である射出成形法を採用することは,当事者が容易に想到し得ることというべきである。

(イ)a これに対して,原告は,現像ブレードのような薄肉の成形品については,一般にトランスファー成形法が適しており,それにもかかわらず,トランスファー成形法を採用せず,あえて,技術的難易度が高く,成形材料に厳しい制約がある射出成形法を採用することの動機付けがない旨主張する。

確かに,前記(1)ウ(ツ)で認定したように,甲18文献には,トランスファー成形法は,比較的薄肉のものに適した成形法である旨の記載があるが,前記(ア)のとおり,シリコーンゴムを成形材料とした現像ブレードの成形方法として,射出成形法を採用するのは周知技術であること,成形方法として,いかなる方法を採用するかは,成形品の形状のほか,生産性,操作性,費用等の種々の点も考慮して決められるものであり,成形品が薄肉であるか厚肉であるかの観点のみから,一律に成形法が決められるものではないこと,本件全証拠によるも,本件特許の出願当時,当業者において,シリコーンゴムを成形材料とした現像ブレードの成形方法として,トランスファー成形法の方が射出成形法よりも優れており,上記の現像ブレードの成形においては,通常は,トランスファー成形法を採用するものと認識されていたと認めることはできないこと,前記(1)ウ(ツ)で認定したとおり,上記の甲18文献には,シリコーンゴムは射出成形法にとって理想的な材料であるとも記載されていることなどを総合考慮すると,シリコーンゴムを成形材料として現像ブレードを成形する場合,当業者において,射出成形法の採用を検討することは十分あり得るものというべきである。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

b また,原告は,バリの発生の防止の観点からは,トランスファー成形法の方が射出成形法よりも適しているから,射出成形法を採用することの動機付けがない旨主張する。

しかしながら,前記のとおり,成形方法として,いかなる方法を採用するかは,生産性等の種々の点を考慮して決められるものであり,バリの発生防止の観点のみから成形方法が決められるものではないことから,仮に,トランスファー成形法の方が射出成形法よりも,バリの発生の可能性が小さいとしても,この点のみから,周知技術である射出成形法を採用することの動機付けを否定することはできないというべきである。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

c その他,原告は,乙14発明において,成形方法として,射出成形法を採用することができないことについて縷々主張するが,前記(ア)で判示したところに照らして,いずれも理由がない。

ウ 相違点3について

前記(1)ア(ア)d(b)で認定した本件公報の段落【0010】の記載によれば,本件発明1が,リブ部の厚みをブレード本体の厚みの20ないし80%と規定したのは,ブレード本体におけるヒケ又はウェルドの発生を防止するためであると認められるが,そのような数値を採用したことにつき,格別の技術的意義があるものとは認められない。

これに対し,乙14発明においては,理由は明示されていないものの,前記(1)イ(ア)f(b)で認定した乙14文献の段落【0021】の記載にあるように,突出部の厚さを現像剤規制部の厚さよりも低くした構成としていることが明らかであり,図1を参照すれば,ブレード本体のおよそ3分1ないし4分の1程度の厚さのリブ部が実施例の1つとして想定されていたものと認められるから,リブ部の厚さを本件発明1と同様に規定することは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないというべきである。

(4)  原告主張の相違点について

原告は,本件発明1と乙14発明との相違点について,以下のとおり主張するので,同主張について検討する。

ア まず,原告は,本件発明1は,ウェルドの発生防止を,主として,従来技術のトランスファー成形法に代えて射出成形法を用いることにより実現しているのに対して,乙14発明は,ゲートをブレード本体長手方向の中央部付近であってブレード本体成形用キャビティに近接する位置に設け,かつ,扇形の突出部を形成するようにゲートとブレード本体成形用キャビティとを連通させることにより実現しており,この点も両発明の相違点となると主張する。

しかしながら,乙14発明においても,当業者が周知の射出成形法を用いることが容易であることは,前記(3)で判示したとおりであり,そうである以上,この点が本件発明1と乙14発明との別個の相違点となるものではない。しかも,前記(1)ア(ア)のc,d⒜,d(c),d(d)で判示した本件公報の段落【0006】,【0009】,【0011】,【0012】では,ブレード本体に設けられたリブ部に対応する部分にゲートを設け,同ゲートから成形材料を注入することにより,ウェルドの発生を防止できる旨明記されているのに対し,本件公報中に,ウェルドの発生を防止するための手段として,射出成形法を用いた旨の記載はない。これに加えて,前記(1)アで判示した本件公報のその余の記載を併せ考慮すると,本件発明は,従来は,ブレード本体に対応する部分にゲートを設けて,同ゲートから成形材料を注入していたのを,ゲートを,ブレード本体ではなく,ブレード本体の幅方向に突出するようにブレード本体の端部に設けられたリブ部に対応する部分に設け,同ゲートから成形材料を注入し,これにより,バリ,ヒケ及びウェルドの発生を防止するというものであることが認められる。したがって,現像ロールとの接触面にバリ,ヒケ,ウェルドのない現像ブレードの製造を可能にするという課題を解決するために本件発明1が採用した手段は,ブレード本体にリブ部を設けて,ゲートを,ブレード本体側ではなく,上記リブ部に対応する部分に設けるようにしたというものであることは明らかである。

したがって,いずれにしても原告の上記主張は理由がない。

イ また,原告は,相違点2に関連して,乙14文献において,「流し込む」という語が使用されていることを理由に,乙14発明は,主位的には,ゴム材を無圧下にて流し込む一種の注型成形方法によることを開示していると解すべきであり,予備的には,射出成形法を明示的に排除していると解すべきである旨主張する。

しかしながら,乙14発明が成形加工方法の種類について特定していないことは,前記相違点2認定のとおりであり,仮に,乙14発明がゴム材を無圧下にて流し込む注型成形方法によることを開示しているとしても,前記(3)イで判示したように,シリコーンゴムを成形材料として射出成形によって現像ブレードを成形することが周知である以上,上記注型成形方法に代えて,当業者が射出成形法を採用することに困難性はなく,しかも,乙14文献には,射出成形法を採用することの技術的な問題点について指摘した記載が一切なく(乙14),また,本件各証拠に照らしても,乙14発明において採用されている成形方法が射出成形法と相容れないものとも認められない。

したがって,原告の主張は,いずれも採用することができない。

ウ さらに,原告は,本件発明1は,バリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良を防止することを,解決すべき技術的課題とするものであるのに対し,乙14発明は,バリ及びヒケの発生防止については何ら開示しておらず,この点も両発明の相違点となると主張する。また,これに関連して,乙14発明の扇形の突出部は,バリ及びヒケの発生防止の作用効果がないから,本件発明の「リブ部」に相当するものではない旨主張する。

しかしながら,進歩性の欠如を理由とする特許発明の無効理由を検討する際,当該発明と引用された公知の発明との対比は,原則として,まずその構成を前提として行うべきであって,特許請求の範囲に記載のない作用効果を取り上げて,これを基に一致点及び相違点の認定をすることは相当ではないものと解すべきところ,当該発明の有する作用効果については,進歩性を基礎付けるべき顕著な作用効果といえるか否かを別途検討すれば足りるものといえる。乙14発明の扇形の突出部が本件発明の「リブ部」に相当するものではない旨の主張も,結局,乙14発明が,本件発明の有する作用効果を奏するものではない旨を主張するにすぎないものと認められる。

したがって,原告の上記主張は理由がない。なお,原告の上記主張に係る本件発明1の作用効果については,後記(5)で検討する。

(5)  本件発明1の効果について

原告は,本件発明1は,バリ,ヒケ,ウェルドなどの成形不良を防止することを,解決すべき技術的課題とするものであるのに対し,乙14発明は,バリ及びヒケの発生防止については何ら開示していない旨主張する。

しかしながら,前記(1)イで認定した乙14文献の記載からすると,乙14発明は,現像材薄層形成部材を成形加工により製造する方法において,従来は,現像剤規制部に対応する部分に注入口を設けて,同注入口から成形材料を注入していたのに対し,製造される現像剤規制部の長手方向中央部の後端部に突出部を設け,この突出部に対応する部分に注入口を設け,同注入口から成形材料を注入し,これにより,現像剤規制部に注入痕が生じるのを防止でき,また,薄板ばね部材の長手方向の寸法が大きい場合においても,その両先端部に凹凸,歪み,剥がれなどが生じるのを防止でき,さらに,現像剤規制部に対応する部分に複数の注入口を設けることにより生じる現像剤規制部上における歪みを回避できるようにしたものであって,ブレード本体における種々の成形不良を改善した発明であることが認められる。

しかも,現像ブレードを成形する場合に,ブレード本体にリブ部を設け,同リブ部に対応する部分にゲートを設け,同ゲートから成形材料を注入するという構成を採用することにより,バリ及びヒケの発生を抑止できるのは,リブ部を設け,リブ部に対応する部分から成形材料を注入することにより,成形材料の流れを緩和し,キャビティ内の圧力を均一にすることができるからであると推測される(甲14)。

そうすると,当業者であれば,乙14発明において,前記相違点に係る構成を採用することにより,上記の機序でバリ及びヒケの発生を抑止できるものと容易に予想することができるものと解される。

したがって,上記の効果は,乙14発明の上記構成からみて,当業者が通常予想し得ない顕著な効果ということはできないから,原告の上記主張事実を理由に,本件発明の進歩性を認めることはできない。

(6)  小括

以上より,本件発明1は,乙14発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に発明することができたと認めるのが相当である。

したがって,本件特許1には,特許法29条2項違反の無効理由が存在し,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,同法104条の3第1項により,原告は,本件特許権1に基づく権利行使をすることはできない。

また,前記争いのない事実等(6)のとおり,本件発明1の進歩性が欠如すれば,本件発明2の進歩性も欠如することは争いがないから,本件発明2も進歩性が欠如し,上記と同様,原告は,本件特許権2に基づく権利行使をすることもできない。

2  次に,争点(4)(本件特許に無効理由が存在するとしても,訂正により,本件特許権に基づく権利行使が可能となるか)について判断する。

(1)  前記1のとおり,本件発明は,いずれも進歩性が欠如するから,特許法104条の3第1項により,原告は,本件特許権に基づく権利行使をすることはできない。

しかしながら,被告に特許権侵害の事実があるにもかかわらず,当該特許に無効理由があるため,上記条項により,同特許権に基づく権利行使ができない場合であっても,当該特許権者が,①特許庁に対し,適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っており,②当該訂正によって,上記の無効理由が解消され,さらに,③被告の製造販売する製品ないし被告が実施している方法が訂正後の特許請求の範囲に含まれる場合には,上記の無効理由があるにもかかわらず,上記特許権者は,上記特許権に基づく権利行使ができるものと解するのが相当である。

そして,前記争いのない事実等で判示したとおり,原告は,本件明細書の記載について,訂正審判請求をし,後日,特許法134条の3第5項により,訂正請求(本件訂正請求)がされたものとみなされたところ,原告は,本件特許権に前記1の無効理由が存在するとしても,本件訂正請求により,本件特許権に基づく権利行使は許される旨主張する。

そこで,上記の要件に照らして,本件訂正により,本件特許権に基づく権利行使が許されるか否かについて,以下検討する。

(2)  本件訂正が,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(ただし,平成14年法律第24号附則3条1項の規定により,同法2条の規定による改正後の特許法の規定は,同法附則1条2号に定める日(平成15年7月1日)以後の特許出願について適用され,同日前にした特許出願については,なお従前の例によるものとされているため,本件訂正請求については,同法による改正前の特許法126条2項(以下「旧特許法126条2項」という。)が適用されることになる。)に違反しないかについて

ア 旧特許法126条2項の「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,したがって,同項の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正とは,当該訂正が,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである場合を意味すると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。

イ 本件訂正後発明1は,前記争いのない事実等(8)イ(ア)のとおりであり,本件訂正は,ゲートの位置を,本件訂正前は,リブ部に対応する部分としていたのを,リブ部のうちブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分,又は,リブ部を複数設ける場合は,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分(このようにリブ部を複数設ける場合,リブ部は,ブレード本体の長手方向の中央部付近に設置されないものと解されるが,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部のいかなる部分に対応する部分にゲートを設けるべきか,リブ部を3つ以上設ける場合も含まれるのか等については,本件訂正後の明細書上明らかではない。)に限定したものであることが認められる。

これに対し,本件明細書には,実施例としては,リブ部がブレード本体の一方の側面部から他の側面部にわたって形成されているものしか記載されておらず,同リブ部を前提として,ゲートをリブ部の両側面部に設けたもの(本件図1,本件図5)及びリブ部の後方の面の両端部に対応する部分に設けたもの(本件図4)が記載されていることが認められる(甲4)。

したがって,本件訂正後発明1のうち,リブ部の長手方向の長さが短く,そのリブ部をブレード本体の長手方向端部のみに配置した構成は,本件明細書及び本件図面には記載されておらず,また,本件明細書及び本件図面の記載から当業者にとって自明であるということもできない。

そして,そもそも,本件発明1は,前記のとおり,ゲートをブレード本体に対応する部分ではなく,ブレード本体から突出したリブ部に対応する部分に設けることによって,ウェルド,バリ,ヒケのない現像ブレードを製造するというものであるところ,本件明細書において,リブ部のいかなる部分に対応した部分にゲートを設けるべきか,又は,リブ部を複数設ける場合に,ブレード本体のどの部分にリブ部を設けるべきかについての記載はなく(前記1(1)ア(イ)で認定したとおり,本件発明1の実施例である本件図1,本件図4,本件図5では,リブ部3の両側面やリブ部3の後方の面の両端部に対応する部分にゲートが設けられているが,本件明細書において,ゲートを,上記各図面のようにリブ部3の後方面中央部や上面中央部ではなく,上記の各部分に設けることの技術的な意義の説明はない。),むしろ,前記1(1)ア(ア)d⒟で認定したとおり,本件明細書の段落【0012】には,「上記実施の形態では,リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが,ゲート位置はこれに限るものではなく,例えば,図4に示すように,リブ部3に対応する部分の裏面側に設けるなど,ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい。」と記載されている。

このように,本件発明1は,リブ部のうちのいかなる部分に対応する部分にゲートを設けても,また,ゲートを設けたリブ部を複数設けても,技術的には異ならないということを前提としており,換言すれば,特定の部位にゲートの位置を設けることについての技術的意義を見い出していないものと解される。これに対して,本件訂正は,ゲートの位置を上記のとおり限定したものであるところ,本件発明のように,ゲートをリブ部に設ける現像ブレードの製造方法において,ブレード本体の長手方向におけるゲートの設置位置を限定することには,一定の技術的な有意性が認められるものと解される。

以上の点を総合すると,本件訂正が,リブ部を複数設ける場合に,ゲートの設置位置を,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分に限定することは,本件明細書及び本件図面から導かれる技術的事項とは異なる新たな技術的事項を導入することになり,本件訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正ということはできないというべきである。

ウ したがって,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(なお,前記のとおり,本件訂正請求については,旧特許法126条2項が適用される。)に違反するというべきである。

(3)  以上より,本件訂正請求は,適法な訂正請求ということはできないから,本件訂正により,本件特許権に基づく権利行使が可能となることはない。

3  したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。

第4結論

以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 坂本三郎 裁判官 佐野信)

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