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東京地方裁判所 平成18年(ワ)21966号 判決 2006年12月26日

長野県<以下省略>

原告

訴訟代理人弁護士

荒井哲朗

東京都<以下省略>

被告

株式会社サクセスジャパン

代表者代表取締役

Y1

(株式会社サクセスジャパンは口頭弁論終結後に訴訟代理人を三井哲夫,小林一俊及び安達栄司とする訴訟委任状を提出した。)

神奈川県<以下省略>

被告

Y1

東京都<以下省略>

被告

Y2

主文

1  被告らは,連帯して,原告に対し,924万円及びこれに対する平成18年10月13日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1原告の申立及び主張

1  原告は主文と同旨の判決を求めた。

2  原告の主張

(1)  被告らは,後記(2)から(4)までに記載のとおり,原告に対し,価値のない未公開株式について近々上場され多額の利益を確実に得ることができると虚偽を述べ,これを信じた原告から代金名下に金銭を騙取した。

被告会社は,証券業の登録を受けていない上,登録を受けた証券業者ですらグリーンシート銘柄(未公開株式発行会社についての一般投資家による情報取得の困難を多少とも解消する措置が採られた銘柄)に属さない本件のような未公開株式を原告のような一般消費者に勧誘することは禁止されているのであって,原告のような未公開株式取引未経験の高齢者(昭和15年生)の老後の生活資金を奪う被告らの行為は,悪質であり,違法である。平成17年夏の改正金融先物取引法施行により外国為替証拠金取引業者が廃業に追い込まれた結果,現在まで,本件のような未公開株式詐欺商法被害報告が増加しているところである。

(2)  被告会社の従業員である被告Y2は,平成17年1月中ごろ,電話で原告に「アイ・ディ・テクニカという会社の株を買うと,来年3月に上場されるから,何倍にもなります」などと虚偽の事実を述べて,未公開株式の購入を勧誘した。原告は,未公開株式の取引経験がなく,「1年で何倍にもなる」という話を信じてしまい,預金をしておくよりはましだろうと考えて勧誘に応じた。原告は,株式会社アイ・ディ・テクニカの未公開株式10株の購入代金として,平成17年1月28日及び同年2月21日に,合計400万円を被告会社に支払い,これを騙取された。

(3)  被告会社の従業員である被告Y2は,平成17年4月中旬ころ,電話で原告に「アイ・ディよりもこっちの方が早く上場されます。世界の松村ですから,これは絶対大丈夫。」などと虚偽の事実を述べて,株式会社松村テクノロジーの未公開株式の購入を勧誘した。原告は,被告Y2の虚言を信じて,株式会社松村テクノロジーの未公開株式の購入代金として,同年4月26日に320万円を被告会社に支払い,これを騙取された。

なお,被告Y2は,「松村が前回上場しようとしたときに暴力団介入があったので,今回はこういう風にする」と告げて,被告会社を業務執行組合員とする「松村テクノロジーSJ6号投資事業組合出資証券」(甲9)を原告に送付してきが,実態は未公開株取引そのものである(甲8)。

(4)  被告会社の従業員である被告Y2は,平成18年3月中旬ころ,電話で原告に「良い話がある。」と言って,A営業総括本部長と名乗る者と電話を替わった。Aと名乗る者は,電話で原告に「今回は特別なお客様に,もう上場が決まっているフィールズネットワークの株をお譲りします。うちの顧問弁護士に確認してもらっても構いませんよ」と虚偽の事実を述べて,フィールズネットワーク株式会社の未公開株式の購入を勧誘した。原告が,Aと名乗る者から教えられた顧問弁護士の連絡先に電話すると,高齢の弁護士らしき人物が「これは良い株で間違いない」と電話で答えた。原告は,近々上場される良い株式であると誤信して,株式購入代金として,平成18年3月22日に120万円を被告会社に支払い,これを騙取された。

(5)  被告Y2は自ら又はAと名乗る者を用いて虚言を述べるなど,民法709条の不法行為の実行者として,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

被告Y1は,被告会社の代表取締役として,一般消費者から金銭を騙取するために被告会社を設立し,証券業の無登録営業,(2)から(4)までに代表される未公開株商法を業として行うことなど,被告会社の違法業務を積極的,主体的に従業員に実施させたもので,これは原告ら一般消費者に対する不法行為であるとともに,会社法(商法旧規定中の相当条文を含む。以下同じ。)429条所定の取締役の義務違反(職務を行うについての悪意,重過失)でもあり,原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

被告会社は,民法715条,会社法350条により,被告Y2,被告Y1と同様の責任を負う。

(6)  損害

原告は,未公開株式購入代金として被告会社に支払った840万円((2)の400万円,(3)の320万円,(4)の120万円の合計額)の損害を被った。

原告は,弁護士費用として,前記840万円の1割に相当する84万円の損害を被った。

以上合計924万円の損害は,被告らの違法行為と相当因果関係がある。

(7)  よって,原告は,被告らに対し,連帯して前記(6)の924万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年10月13日から支払済みまで民事法定利率年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。

第2被告らの申立及び主張

1  被告らは,本件口頭弁論期日に出頭しない。

2  陳述したものとみなされる被告ら提出の答弁書には,大要,次の記載がある。

(1)  請求棄却,訴訟費用原告負担の判決を求める。

(2)  被告らが虚言や甘言を弄して不当な価格で売りつけたという事実はない。

被告会社は,未公開株式販売を業とする会社ではなく,ベンチャー企業支援のため投資事業組合(いわゆるファンド)を組成し,投資事業組合によるベンチャー企業株式購入を行っているものである。

(3)  原告は,投資事業組合に加入して,株式ではなく出資証券を購入した。

原告は,被告が交付したパンフレット及び営業部員の口頭による説明から,株式購入と投資事業組合への加入とは異なるものであることを理解していた。

被告会社は,投資事業組合を用いた証券取引法の潜脱は,行っていない。

(4)  本件は,未公開株詐欺商法による被害ではない。被告会社は,関東財務局から行政処分を受けたことも,警察の手入れが入ったこともない。

被告会社のビジネスは,投資家に投資事業組合に参加してもらい,投資金をベンチャービジネスへ投資するものである。未公開株詐欺商法ではない。

(5)  被告らは,不法行為をしておらず,責任は発生しない。投資したベンチャービジネスは,数年後の上場を目指して,日々商品開発を行っている。

(6)  損害についての原告の主張は否認する。

第3当裁判所の判断

1  証拠(甲号各証,原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,原告の主張事実の全部が認められる(被告Y2による虚偽説明の勧誘行為の反復の事実からすると,被告Y2の行為は,被告Y1ら被告会社経営陣からの,虚偽の説明をして投資家から未公開株式購入代金名下に金員を詐取せよとの包括的な指示に基づくものと推認される。)。

前記認定事実によれば,被告Y2は,被告Y1と共謀して(さらに,一部についてはAと名乗る者とも共謀して),原告から未公開株式購入代金名下に840万円を騙取したものであり,民法709条の責任を負う。

被告Y1は,投資家に虚偽の情報を伝えて未公開株式購入代金名下に金員を詐取するように包括的な指示を発し,この方針に基づいて被告Y2が原告から840万円を騙取したものであるから,民法709条又は会社法429条により,被告Y2の違法行為の共謀者として被告Y2と同一の責任を負う。

被告会社は,民法715条又は会社法350条により,その余の被告らと同一の責任を負う。

前記認定事実によれば,被告らの違法行為により原告に生じた損害は,騙取された840万円にとどまらず,弁護士費用としてその1割に相当する84万円の損害も生じたものというべきである。

2  被告の主張事実を的確に認めるに足りる証拠はない。

3  以上によれば,原告の請求は全部理由がある。

(裁判官 野山宏)

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