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東京地方裁判所 平成18年(ワ)8067号 判決 2008年1月10日

主文

1  被告Y1が,原告Xに対し,被相続人Aの相続について有する遺留分減殺請求権は3935万2065円を超えて存在しないことを確認する。

2  被告Y2は,原告Xに対し,被相続人Aの相続について遺留分減殺請求権を有しないことを確認する。

3  被告Y2は,原告Xに対し,3000万円及びこれに対する平成18年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告Y2は,原告Xに対し,別紙物件目録記載7の建物の5階部分のうちの別紙図面赤斜線部分約71.78平方メートルを明渡せ。

5  原告Xの被告Y1に対する甲事件におけるその余の請求並びに被告Y2及び被告Y1の乙事件における請求をいずれも棄却する。

6  訴訟費用は,甲事件・乙事件を通じて,これを10分し,その1を原告Xの負担とし,その余を被告Y2及び被告Y1の負担とする。

7  この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告Y2が2000万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  甲事件

イ 被告Y1が,原告Xに対し,被相続人Aの相続について有する遺留分減殺請求権は2770万3582円を超えて存在しないことを確認する。

ロ 主文第2項ないし第4項同旨

ハ 訴訟費用は被告Y2及び被告Y1の負担とする。

ニ 仮執行宣言

(2)  乙事件

イ 東京法務局所属公証人B作成にかかる平成10年第403号遺言公正証書による亡Aの遺言が無効であることを確認する。

ロ 東京法務局所属公証人C作成にかかる平成11年第27号遺言公正証書による亡Dの遺言が無効であることを確認する。

ハ 原告Xは,被告Y2及び被告Y1に対し,別紙物件目録記載1ないし3の各不動産について東京法務局平成16年12月28日受付第50800号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

ニ 原告Xは,被告Y2及び被告Y1に対し,別紙物件目録記載4ないし7の各不動産について東京法務局平成16年12月27日受付第45880号のA持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

ホ 原告Xは,被告Y2及び被告Y1に対し,別紙物件目録記載4ないし7の各不動産について東京法務局平成17年5月17日受付第17194号のD持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

ヘ 原告Xは,被告Y2に対し,1億0931万2843円及びこれに対する平成18年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ト 原告Xは,被告Y1に対し,1億0931万2843円及びこれに対する平成18年5月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

チ 訴訟費用は原告Xの負担とする。

リ 前記ヘ及びトについて仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  甲事件

イ 原告Xの請求をいずれも棄却する。

ロ 訴訟費用は原告Xの負担とする。

ハ 担保を条件とする仮執行免脱宣言

(2)  乙事件

イ 被告Y2及び被告Y1の請求をいずれも棄却する。

ロ 訴訟費用は被告Y2及び被告Y1の負担とする。

第2事案の概要

本件の事案の概要は,以下のとおりである。

原告X,被告Y2及び被告Y1は,亡A(平成16年12月7日死亡。以下「A」という。)及び亡D(平成17年1月14日死亡。以下「D」という。)の相続人である。Aについて乙事件請求の趣旨イの公正証書遺言(以下「本件A遺言」という。)が存在し,Dについて同ロの公正証書遺言(以下「本件D遺言」という。)が存在している。

1  甲事件

原告Xは,被告Y1からAの相続について遺留分減殺請求権は2770万3582円であるので,被告Y1に対し,この金額を超えて債務の存在しないことの確認を求め,Aの相続について被告のY2の遺留分を侵害していないので,被告Y2に対し,遺留分減殺請求権の不存在確認を求めた。また,原告Xは,Aが,被告Y2に対し,3000万円の貸金を有していたところ,本件A遺言及び本件D遺言に基づき前記貸金債権を相続したと主張し,被告Y2に対し,同額及び遅延損害金の支払いを求め,同じく本件A遺言及び本件D遺言に基づき別紙物件目録記載7の建物(以下「本件建物」という。)の5階部分のうちの別紙図面赤斜線部分約71.78平方メートル(以下「被告Y2占有部分」という。)の所有権を取得したと主張して,被告Y2に対し,被告Y2占有部分の明渡しを求めた。

2  乙事件

被告Y2及び被告Y1が,原告Xに対し,本件A遺言及び本件D遺言が偽造されたことを理由にその無効であることの確認を求め,本件A遺言及び本件D遺言の偽造に関与した原告XにはA及びDの相続について欠格事由があるが,それにもかかわらず,乙事件請求の趣旨ハないしホ記載のとおり,移転登記がされているので,原告Xに対し,上記登記の抹消登記手続を求め,原告Xが取得したA及びDの相続により取得したとされている金員について,原告Xに対し,不当利得返還請求権に基づき被告Y2及び被告Y1の相続分に応じた支払いを求めた。

第3争いがない事実及び争点

1  争いがない事実

(1)イ  別紙相続関係図記載のとおり,被告Y2はAの二男であり,被告Y1はAの長女であり,原告XはAの三男である。

ロ  Aは,平成16年12月7日,死亡した。Aの夫であるE(以下「E」という。)は,平成10年2月24日,死亡しており,Aの法定相続人は,原告X,被告Y2及び被告Y1並びにAの長男Dであった。なお,Eの遺産について遺産分割協議が成立したのは同年11月27日である。

ハ  Dは,平成17年1月25日,死亡した。Dは独身で子供がいなかったため,Dの法定相続人は原告X,被告Y2及び被告Y1である。

(2)イ  Aについては,平成10年5月18日付(以下「A第1遺言」という。),同年6月9日付(以下「A第2遺言」という。)及び同年12月7日付の本件A遺言の3通の公正証書遺言が存在している。

A第1遺言では,水戸市に所在する不動産(以下「水戸の不動産」という。)はDと被告Y1が,別紙物件目録4ないし7記載の不動産(以下「新宿2丁目の不動産」という。これには本件建物が含まれる。)は原告Xが,被告Y1との共有であった東京都新宿三丁目<以下省略>のビル及び底地のAの持分(以下「新宿3丁目の不動産」という。)を被告Y2が相続するものとされていた。

A第2遺言では,水戸の不動産だけ,取得者をDと被告Y1としていたものをDだけに変更された。

本件A遺言においては,A第1遺言及びA第2遺言を取り消す旨記載されており,水戸の不動産については被告Y2が,新宿2丁目の不動産については原告Xが,新宿3丁目の不動産については被告Y1が取得するものとされた。また,本件A遺言においては,預金,有価証券等の金融資産,家財,家具その他の動産について,100分の60を原告Xに,100分の40をDに相続させるものとされている。

また,A第1遺言及び本件A遺言の第10条には「最後に,私が亡夫Eからの相続分を含めて,遺言で子供達への財産分けをした理由と子供達に対するお願いを伝えておきます。」という同一の文が書かれている。

ロ  Dについては,平成11年1月25日付の全財産を原告Xに相続させる旨の公正証書遺言である本件D遺言がある。

(3)イ  別紙物件目録1ないし3記載の不動産(以下「成田東の不動産」という。)について,原告Xに対し,平成16年12月28日,相続を原因とした所有権移転登記がされた。

ロ  新宿2丁目の不動産は,従前Eが所有していたが,Eが死亡したことに伴い,Aが持分2分の1,D及び原告Xが持分各4分の1の割合で共有するようになった。このAの持分について,原告Xに対し,同月27日,相続を原因とした持分移転登記がされた。

ハ  新宿2丁目の不動産のDの持分について,原告Xに対し,平成17年5月17日,相続を原因とした持分移転登記がされた。

ニ  Dの遺産のうち,現金,預貯金,動産等は少なくとも以下のとおりである。

現金 5842万2164円

預貯金 4386万9204円

金地金(2キログラム) 304万円相当

合計 1億0533万1368円

(4)  Aは新宿3丁目の不動産を被告Y1の持分を含めて売却して,平成16年10月14日,その代金の内から3000万0261円を被告Y1に贈与した。

(5)  Aは,被告Y2に対し,平成12年6月6日,3000万円を貸し付けた。

(6)  被告Y2は,本件建物の被告Y2占有部分に居住している。

(7)  被告Y2及び被告Y1は,原告Xに対し,平成17年12月2日付書面で本件A遺言は,被告Y2及び被告Y1の遺留分を侵害するとして,その減殺請求をした。

2  争点

(1)  本件A遺言は無効か

イ 被告Y2及び被告Y1の主張

ⅰ 本件A遺言を作成する動機が被告Aにはない。本件A遺言によれば,相続人の一人である原告Xが,他の相続人である被告Y2及び被告Y1よりも優遇されて多くの遺産を取得する内容になっているところ,Aが原告Xを被告Y2及び被告Y1より優遇する理由など一切ない。

ⅱ 母親として等しく子供を愛していたAが,公平に財産分けを実現するのではなく,特定の子供である原告X一人を優遇する内容の遺言書を作成するのは極めて不自然不合理である。

ⅲ A第1遺言,A第2遺言及び本件A遺言(以下「本件各遺言」という。)の証人とされているF(以下「F」という。)は,公証役場に行った記憶は1回しかないにもかかわらず,3通に渡って公正証書遺言に署名押印したというのは不自然かつ不合理である。他方,同様に3通の公正証書遺言の証人になったG(以下「G」という。)は,五,六回公証役場に行った記憶があり,しかも,Fと一緒に公証役場に行ったのは1回という記憶を有しているということは,3通存在するとされるAの公正証書遺言の存在と合致しない。また,公正証書遺言を作成した日の状況について,FとGの証人尋問における供述が一致していない。さらに,原告Xは,本人尋問において,言い訳をするかのように際限なく供述し,質問に端的に答えることなく,供述を避けている。

以上のように,本件A遺言が作成された状況は不自然かつ不合理である。

ⅳ 原告Xは,本件A遺言作成の際,利害関係人であるにもかかわらず,立ち会っていた。原告Xは,このように立ち会っていたにもかかわらず,これを否定する発言をしている。原告Xは,本人尋問において,本件A遺言の内容を作成当時から知っていたことを認めたが,それ以前には被告Y1らに知らなかったと言い続けてきた。Aの死亡直前に引き出されたAの預金は原告Xが最終的に保管していたが,これに反する供述を本人尋問において行った。このように,原告Xは,本件A遺言の作成に深く関与していたにもかかわらず,これを否定するという不自然かつ不合理な行動をとり続けていた。

ⅴ 本件A遺言の公証人であるB(以下「B公証人」という。)は,原告Xと共に宮下法律事務所を訪問し,同事務所所属のH弁護士(以下「H弁護士」という。)に本件A遺言における遺言執行者になるように依頼した。公証人が推定相続人の一人と一緒になって,弁護士に遺言執行者になるように依頼することは考えがたく,B公証人は,特定の相続人の利益のために行動している。このようなB公証人の職務の適正さにはそもそも問題がある。

ⅵ 本件A遺言には,被告Y2に相続させる不動産として,水戸市<以下省略>所在の建物が記載されているが,この建物はEが所有していた昭和46年当時取り壊されており,Aが所有したことはない。また,誤記が多く,不動産登記簿さえ確認せずに作成されたことが強く推認される。E死亡時にEの遺産でなかった不動産が記載されている一方,最も資産価値が大きい水戸市所在する不動産が記載されていない。このように本件A遺言は,通常行われる最低限度の事実確認さえ行われずに作成されたものである。

ⅶ そもそも,半年余りの間に,公正証書遺言を作成するために,三度も証人を2人呼び寄せて,公証役場に行ったということ自体不自然である。本件各遺言が各作成日付のとおり,作成されたとすると,A第1遺言及びA第2遺言は,Eの遺産分割協議が成立した平成10年11月27日より前に,本件A遺言も相続登記が完了する前に,いずれも自らが相続することが決まっていないEの不動産について,遺言により相続させる者を確定したことになる。このようなことは,一般人にはおよそ考えがたいことであり,余程自らの死期を予測しているなどの事情がない限り,考えつかないことである。

ⅷ Iによる筆跡鑑定(以下「I鑑定」という。)の結果,本件A遺言のA,F及びGの署名はいずれも当人が行ったものではないことが判明した。

ⅸ 以上からすると,本件A遺言は偽造により無効である。

ロ 原告Xの主張

ⅰ 本件各遺言はいずれも公正証書遺言である。原告Xは,Aが遺言書を作るについて,Aと公証人との間の連絡役を行ったものの,公正証書の作成自体には立ち会っておらず,前記各遺言書はAの意思に基づき公証人によって適法に作成されたものである。

ⅱ 親が子供たちを深く愛していたとしても,その愛情表現は必ずしも同一となるものではなく,結果として一部の子供が優遇されたとしても何ら不自然なことはない。

ⅲ 記憶は,一定の物を見たり,人と話をしている中で喚起されるものである。Fは,本件各遺言を見て,その各署名は自分がしたと陳述書に記載しており,本件各遺言に押捺した印鑑はFの銀行印である。大事な銀行印を人に貸すことはなく,本件各遺言に捺印したのはF本人である。従って,Fが,本件各遺言の証人となったことは明らかである。Gも,本件各遺言を見て,その各署名は自分がしたと陳述書に記載し,証人尋問において,本件各遺言の署名捺印は自らしたものであることを明言した。また,Aの署名もA自身がしたものであることを明言した。

以上からすると,本件各遺言は,F及びGが証人となり,Aが自分の意思に基づき正しく作成されたものである。

ⅳ I鑑定は,本件各遺言についていずれも鑑定したにもかかわらず,その鑑定の進め方がそれぞれ異なっている,複数の筆者未確認の対照資料と対象資料とを,各筆跡について鑑定をしないまま,全体を一括して比較している,筆跡は書く都度本人が書いても差異が生じるのであるから,このような差異の存在を前提に鑑定がされなければならないにもかかわらず,これが考慮されていない等の点から信用性がない。

裁判所で選任された鑑定人Jによる鑑定(以下「J鑑定」という。)において,本件A遺言の署名がA,F及びGのものであるとされた。

(2)  本件D遺言は無効か

イ 被告Y2及び被告Y1の主張

ⅰ Dは,長年統合失調症を患っており,入退院を繰り返していた。普段は,無口で,自ら人に話しかけることをほとんどせず,時に症状が悪化すると,浪費や徘徊を繰り返していた。このようなDが,公証役場に行って,公正証書遺言を作成することは到底考えられない。

ⅱ Dは,統合失調症に罹患し,入退院を繰り返して苦しんでいたのであり,いわば生きているだけで精一杯の状態であった。自らの死後の遺産を誰が取得するかなどに配慮できることは到底考えられない。

ⅲ Dは,兄弟の中で原告Xを優遇する理由はなかった。それにもかかわらず,前記1(2)ロのとおりの本件D遺言の内容はあまりにも不自然かつ不合理である。

ⅳ Dには,K(以下「K」という。)及びL(以下「L」という。)に証人を依頼する理由が全くなかった。また,K及びLの証人尋問における供述等は細かな点で食い違っている。さらに,原告は,本人尋問において,質問に端的かつ簡潔に答えず,言い訳するかのように際限なく供述し,関係がないことに言及している。このように本件D遺言が作成された状況は不自然かつ不合理である。

ⅴ Mによる筆跡鑑定(以下「M鑑定」という。)の結果,本件D遺言のDの署名は当人が行ったものではないことが判明した。

ⅵ 以上からすると,本件D遺言は偽造により無効である。

ⅶ 本件A遺言及び本件D遺言の偽造に原告Xが関与したことは明らかであり,このような行為は,Aの相続及びDの相続について欠格事由(民法891条5号)に該当する。従って,原告XはA及びDの相続人となることはできない。

ⅷ ところが,A及びDの遺産である不動産について原告Xに移転登記がされており,原告Xは,Aの預金,有価証券等の金融資産,家財,家具その他の動産合計1億1329万4318円及び前記1(3)ニのDの遺産のうち,現金,預貯金,動産等の合計1億0533万1368円の総計2億1862万5686円を取得した。原告Xは,前記金額を法律上の原因なく取得したものであり,被告Y2及び被告Y1は,それぞれの相続分である2分の1に応じた各1億0931万2843円の損失を受けた。

ロ 原告Xの主張

ⅰ 本件D遺言も,公正証書遺言であって,適法に作成された。

ⅱ 被告Y2及び被告Y1のDの性格,動機,内容等から無効であるという主張は,被告Y2及び被告Y1の希望ないし憶測に過ぎず,根拠がない。

ⅲ K及びLは,証人尋問において,本件D遺言に署名したことを明言している。Lが本件D遺言に押捺した印は,銀行印であるから,自ら押捺したことは間違いない。

ⅳ M鑑定は,筆記具等筆跡鑑定で一般的に行われている検討がされておらず,字の形を比べ,比較して類似する箇所を恣意的に評価せず,異なる箇所を殊更に取り上げて,結論を出しているに過ぎないから,信用性がない。これに対し,J鑑定において,本件D遺言の署名がD及びLのものであることが認められた。

(3)  被告Y2及び被告Y1の遺留分の有無及びその価額

イ 原告Xの主張

ⅰ Aの遺産及びその評価額は別紙遺産目録記載のとおりである。

なお,水戸の不動産の土地の上には有限会社成光商事(以下「成光商事」という。)が所有する建物が建っているが,成光商事は,被告Y2が支配する会社であり,被告Y2と一体であること,いつ借地権が設定されたのか,その設定に伴う対価の授受はあるのか,地代の授受はあるのか,その地代は土地利用の対価と評価できる価額か等借地契約における基本的な事項が不明確であること等からすると,遺産の評価として水戸の前記土地について借地権の負担があるものとは評価できない。従って,前記土地は更地として評価される。

ⅱ① Aの相続時の財産に特別受益を加算し,そこから債務額を控除した「遺留分算定の基礎となる財産」の評価額は5億8118万8048円である。

② 遺留分額は7264万8506円である。

③ 各相続人が取得した財産又は特別受益額は,以下のとおりである。

原告X 3億8013万5286円

被告Y2 8864万6700円

被告Y1 3000万0261円

D 8240万5801円

④ 各人の遺留分超過額は,以下のとおりである。

原告X 3億0748万6780円

被告Y2 1599万8194円

D 975万7295円

⑤ 被告Y1の遺留分不足額 4262万8245円

⑥ 原告X,被告Y2及びDは,その取得額が遺留分額を超過しているので,被告Y1の遺留分不足額を各自の遺留分超過額の割合で負担することにすると,その負担額は,以下のとおりとなる。

原告X 3925万2065円

被告Y2 204万7444円

D 124万8736円

⑦ よって,原告Xが被告Y1に支払う遺留分額は3925万2065円である(なお,原告Xは,訴状段階ではAの相続税の申告書に基づき遺留分額を2770万3582円であると主張していたが,その後鑑定の結果に基づき主張を変更した。)。

また,被告Y2は,遺留分額を超えた遺産を相続しており,遺留分の侵害はない。

ロ 被告Y2及び被告Y1の主張

ⅰ 新宿2丁目の不動産の評価額は1億8630万円が相当である。成田東の不動産の評価額は2億0444万円が相当である。水戸の不動産は,建物所有目的で,成光商事に賃貸されているから,借地権付で評価するのが相当である。

ⅱ 以上を基に計算すると,Aの遺産総額は6億7302万1613円になり,別紙遺留分計算書記載のとおり,被告Y2及び被告Y1の遺留分額は8412万7702円となって,被告Y2については1189万1002円,被告Y1については5412万7441円の限度でそれぞれ遺留分が侵害されていることになる。

ⅲ 遺留分を価額弁償するときの評価の基準時は,遺産分割などの場合と同様,現実に弁償された場合の各相続人が取得する財産の価値的公平を図るため,弁償時(口頭弁論終結時)と考えるのが公平である。

第4争点に対する判断

1  争点1(本件A遺言は無効か)について

(1)  甲第1,8,9号証,乙第14,16,31ないし35号証,証人F,Gの証言,原告X,被告Y1本人尋問の結果によれば,以下の事実が認められる。

イ 本件A遺言の証人F名下の印はFの銀行印によるものであり,F自身が管理していて他人に貸すようなことはない。

ロ Fは,証人尋問において,本件各遺言を示されて,本件各遺言の証人Fの署名はF自身のものであり,前記銀行印を押捺したと供述した。また,Gは,証人尋問において,本件各遺言を示されて,本件各遺言の証人Gの署名はG自身のものであって,印はGの勤務先で保管していた印であり,Gが,公証役場に持参の上,本件各遺言に押捺した,本件各遺言にAが署名したのを記憶しており,本件各遺言のAの署名はAの字であると供述した。

ハ Fは,その陳述書(甲第8号証)に,本件各遺言を見せられたが,これらにされた署名はFのものに間違いない,印鑑もFのものであると記載している。Gは,その陳述書(甲第9号証)に,本件各遺言を見せられたが,これらにされた署名はGがしたものに間違いないと記載している。

ニ 本件A遺言の10条は,前記第3の1(2)イの記載に続けて,「私が亡夫Eからの相続分について,水戸の土地,建物を二男Y2に,新宿2丁目の土地,建物を三男Xに,新宿3丁目の土地,建物を長女Y1に,それぞれ相続させるとしたのは,子供達の生活の基盤などを充分思案したうえ,それぞれの土地,建物が最終的に私から相続分を引き継いだ子供のものになることを心から願ってしたのです。どうか私の思案の末の願いを聞き入れてくれて,遺産をめぐって兄弟で争うことは,くれぐれも避けてほしい。」等とされている。A第1遺言の10条も,遺産をめぐって兄弟で争うことは避けて欲しいという記載がある。

ホ 被告Y2は,平成17年1月20日,水戸の不動産について,本件A遺言に基づき所有権移転登記手続をした。

(2)  以上(1)で認定した,本件A遺言のFの印に関すること,F及びGの証人尋問における供述及び陳述書の記載,本件A遺言及びA第1遺言の通常遺言者本人でなければ遺言しないような内容の存在並びに本件A遺言が有効であることを前提に被告Y2が行動していることからすると,本件A遺言は真正に成立したことが推認できる。

(3)イ  甲第8,9号証,乙第39,40,50,54号証,証人F,Gの証言,被告Y1本人尋問の結果によれば,Fは,平成17年4月ころ,被告Y1から公証役場へ行った回数について聞かれて,1回であると答えたこと及びGは,同年五,六月ころ,被告Y1から聞かれて,公証役場に行ったのは,五,六回で,Fと一緒に行ったのは1回である,行ったときの天気は晴れであると答えたことが認められる。

他方,乙第48号証,証人Gの証言によれば,本件各遺言が作成された日は,雨が降っており,少なくとも晴れたことはなかったこと及びGは,証人尋問で,雨が降っていたとき,公証役場に行った記憶が1回あると供述したことが認められる。前記F及びGの被告Y1に対する回答は,これらの事実に反する上,前記(1)の事実とも矛盾する。

しかし,F等の回答は,本件各遺言がされてからかなりの時間が経過してからされたものであるから,記憶違いが生じたと考えることができるし,そもそもFの回答等から本件A遺言の偽造が直ちに認定できるものではない。

ロ  乙第38,50号証,原告X本人尋問の結果によれば,B公証人は,遺言執行者を選任することを勧め,Aを伴うことなく,原告Xと一緒に遺言執行者に就任することを要請するためにH弁護士が所属する宮下法律事務所に行ったことが認められる。しかし,この事実をどのように評価するかはともかくとして,この事実からB公証人及び原告Xが本件A遺言を偽造したと認定することはできない。

ハ  乙第40号証によれば,Gは,被告Y1の質問に対し,公正証書遺言を作成した際,Aの背後に原告Xが立っていたと答えたことが認められるものの,この回答は,公正証書遺言作成のどの段階の記憶か明らかではない。他方,原告Xは,本人尋問で,本件各遺言を作成した際,Aとは別室で待機していたと供述している。以上からすると,原告Xが,利害関係人であるにもかかわらず,作成の際に立ち会う等本件各遺言作成に当たり不当に関与したとは認められず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

ニ  甲第5号証,乙第10ないし13号証によれば,新宿2丁目の不動産について,EからA,D及び原告Xへの相続を原因とした所有権移転登記がされたのが平成10年12月21日であることが認められ,本件各遺言は,AがEの不動産をどのように取得するか確定する以前にされたものが認められる。

また,甲第1号証,乙第14ないし16,30ないし32,36,37号証によれば,本件各遺言には,昭和46年5月10日,取り壊された建物が水戸の不動産の一部としてあげられていること,水戸の不動産の所在について,一部誤記があること並びに本件各遺言には,Eが生前第三者に譲渡した土地が水戸の不動産として記載されていることが認められる。

それに,本件各遺言は,Eの死亡後1年以内に3通も作成されている。

しかし,これらの事実から,本件各遺言の作成について遺言者が遺言をすることについて急いでいることが認められ,その必要性については証拠上判然としないが,これらの事実は本件各遺言が偽造されたことを直ちに推認させるものではない。

ホ  I鑑定(乙第18ないし20号証)は,本件各遺言のFの筆跡と対照文書のFの筆跡とは別人による筆跡である,本件各遺言のGの筆跡と対照文書のGの筆跡には,多くの筆癖の相違点があり,別人の筆跡と見るのが妥当である,本件各遺言のAの筆跡と対照文書のAの筆跡とは,別人による筆跡であるとしている。しかし,I鑑定は,本件各遺言の署名同士及び対照文書の署名同士の鑑定を行っていない。また,鑑定の進め方について,Fに対するのとGに対するのとAに対するのでそれぞれ記載内容が異なっており,異なっている根拠について説明がない。それに,I鑑定は,本件A遺言にFの銀行印が押捺されていること等証拠により認められる事実と符合しない。

他方,当裁判所で採用した鑑定人によるJ鑑定は,本件各遺言のAの署名の筆跡と対照文書のAの筆跡とは,同一人の筆跡である可能性が高い,本件各遺言Fの署名の筆跡と対照文書のFの筆跡とは,同一人の筆跡である可能性が高い,本件各遺言のGの署名の筆跡と対照文書のGの筆跡とは,同一人の筆跡である可能性が高いとしている。ところで,被告Y2及び被告Y1は,J鑑定について,専門性も科学性もないという質的問題及び全く恣意的に文字を選んで,断片的に検討しているだけであるという量的問題からその信用性を争っているが,J鑑定は,いわゆる書き癖である筆跡個性の点等から鑑定資料を検討している上,量的にも不十分であるとは言い切れないから,被告Y2及び被告Y1の前記主張は必ずしも妥当しない。

以上のとおりであるから,少なくとも,I鑑定に依拠して,本件各遺言のA,F及びGの各署名が別人によりされたと認めることはできない。

ヘ  その他,被告Y2及び被告Y1が主張する,Aに動機がない及び内容が不合理である等と言った事由は,Aが本件A遺言をすることを排斥する事由とまではいえない。

ト  以上のとおり,本件A遺言が偽造されたものであるとは認められる事由は存在しているとはいえない。

(4)  以上前記(2)の認定判断及び同(3)の検討すると,本件A遺言が偽造されたもので,無効であるとは認められない。

2  争点2(本件D遺言は無効か)について

(1)  甲第2,10,11,13号証,乙第17号証,証人K,Lの証言によれば,以下の事実が認められる。

イ 本件D遺言の末尾の遺言者Dの署名は,特に変わった点がなく,事理の弁別能力に欠けた者が記載したような様子を示していない。

ロ 本件D遺言の証人Lの名下の印はLの銀行印が押捺されたものであり,Lが自分で管理しているものである。

ハ Kは,証人尋問において,本件D遺言を示されて,本件D遺言の証人Kの署名はKのもであり,印もKのものである,本件D遺言のDの署名はDがしたものであると供述した。また,Lは,証人尋問において,本件D遺言を示されて,本件D遺言の証人Lの署名はLがしたものであり,印もLが押したものである,Dが本件D遺言に署名しているところを見たので,本件D遺言のDの署名はDによるものであると供述した。

ニ Kは,その陳述書(甲第10号証)に,本件D遺言を見せられたが,D,K及びLの署名は3人が順番にしたものに間違いないと記載している。Lも,その陳述書(甲第11号証)に,本件D遺言を見せられたが,D,K及びLの署名は3人が順番にしたものに違いないと記載している。

(2)  以上(1)で認定した,本件D遺言のDの署名の状態,本件D遺言のLの印に関すること並びにK及びLの証人尋問における供述及び陳述書の記載からすると,本件D遺言は真正に成立したことが推認できる。

(3)イ  乙第46号証,証人F,G,K,Lの証言,原告X,被告Y1本人尋問の結果によれば,Dは,昭和50年ころ,統合失調症を発症し,治療を継続して受けており,平成2年3月31日から同年7月27日まで及び平成11年4月14日から同年8月12日まで入院治療を受けたこと,Dの症状は,悪化すると,不必要な買い物をして,浪費すること及び徘徊することであったこと並びに性格的に無口であり,Dは限られた人としかコミュニケーションをとれなかったことが認められる。

しかし,甲第12号証,乙第46号証,証人Fの証言,原告X,被告Y1本人尋問の結果によれば,DはAの生前Aに預金の通帳を管理していたこと,Dはカメラ店等で就労していたこと及び本件D遺言を作成した平成11年1月ころも,通院治療を受けていたが,特に症状が悪化していたものではないことが認められ,これに前記(1)イで認定した本件D遺言のDの署名の状態を総合すると,本件D遺言がされた際,Dが本件D遺言をするに足りる意思能力を欠くような状態であったとは認められず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

従って,Dの病状に基づく被告Y2及び被告Y1の主張は根拠がなく,被告Y2及び被告Y1らの推測以上のものということはできない。

ロ  乙第41ないし44,50号証,証人K,Lの証言によれば,Lは,平成17年4月ころ,被告Y1の電話での質問に対し,本件D遺言の証人はDに頼まれた,Dのマンションで待ち合わせをした,署名したか覚えていない,印鑑を持っていかなかったと答え,同年5月ころ,被告Y1の質問に対し,Lの美容院の休みは火曜日と第3水曜日であると答えたこと,Kは,被告Y1の質問に対し,同年5月ころ,公証役場に行くことはDに頼まれた,新宿西口の公証役場で待ち合わせをした,行ったのは火曜日の美容院の定休日であると答えたこと,同年6月ころにも,Kは,被告Y1の質問に対し,待ち合わせ場所は新宿の西口の公証役場であると答えたこと並びにLは一旦公証役場に行ったことはないと言った後,行ったことを認めたことが認められる。

他方,甲第10,11号証,乙第49号証,証人K,Lの証言によれば,K,L,D及び原告Xが,本件D遺言作成の際の待ち合わせたのはDのマンションの前であること並びに本件D遺言が作成された平成11年1月25日は月曜日であったことが認められる。前記K及びLの回答は細かな点を食い違い,客観的な事実と異なることが認められる。

しかし,L等の回答についても,前記1(3)イと同様に,記憶違いが生じたと考えることができるし,そもそもL等の回答から本件D遺言の偽造が直ちに認定できるものではない。

なお,乙第44,50号証,証人Kの証言によれば,Kは,被告Y1から,同年6月,Lの弟の文字を送るように依頼されたことに対し,断っていることが認められるが,Kは,原告Xと被告Y2及び被告Y1の兄弟間の争いに必要以上に巻き込まれるのを嫌って,断ったことも十分に考えられるのであって,このことも偽造等を推認させる性質の事実ではない。

ハ  M鑑定(乙第21号証)は,本件D遺言のDの筆跡と対照文書のDの筆跡は明らかに異なる人の筆跡と思料される,また,本件D遺言のDの筆跡と原告Xの筆跡は同一人の筆跡可能性が高い,本件D遺言の証人欄のLの筆跡と対照文書のLの筆跡は明らかに異なる人の筆跡と思料されるとしている。これによれば,原告Xが,Dになりすまして,本件D遺言を作成したことになるが,そのようなことを推測させるような客観的な証拠は一切ない。また,Lの銀行印が本件D遺言に押印されていること等他の証拠により認められる事実ともM鑑定は符合しない。

ところで,J鑑定は,本件D遺言のDの署名の筆跡と対照文書のDの筆跡とは,同一人の可能性が高い,本件D遺言のLの筆跡と対照文書のLの筆跡とは同一人の筆跡である可能性が高いとしている。J鑑定について,被告Y2及び被告Y1が主張するような信用性を損なうような事由があるとは認められないことは,前記1(3)ホのとおりである。

以上のとおりであるから,少なくとも,M鑑定に依拠して,本件D遺言のD及びLの各署名が別人によりされたとは認められない。

ニ  その他,被告Y2及び被告Y1が主張する事由は,本件D遺言の作成の真正に疑いを差し挟む事由とまではいえない。

ホ  以上のとおり,本件D遺言が偽造されたものであるとは認められる事由は存在しているとはいえない。

(4)  以上前記(2)の認定判断及び同(3)の検討すると,本件D遺言が偽造されたもので,無効であるとは認められない。

3  争点3(被告Y2及び被告Y1の遺留分の有無及びその価額)について

(1)イ  甲第1号証,乙第16号証によれば,本件A遺言においては,成田東の不動産については原告Xに相続させる,成光商事の持分4000分の1200を被告Y2に相続させる,とされていることが認められる。

また,鑑定人Nの鑑定の結果によれば,Aについて相続が開始した平成16年12月7日現在の新宿2丁目の不動産の持分2分の1の評価額は1億0680万円,同日現在の成田東の不動産の評価額は1億7310万円,同日現在の水戸の不動産の持分2分の1の更地としての評価額は8202万円であると認められる。

さらに,甲第4号証,乙第25号証及び弁論全趣旨によれば,別紙遺産目録記載の有価証券,手元現金,預金,未収厚生年金,未収国民年金のとおりの資産,保証金等の負債及び成光商事の被告Y2の特別受益の存在が認められる。

ロ  以上の事実及び前記第3の1の争いがない事実をもとに以下,遺留分額を検討する。

ⅰ 債務を控除した後のAの遺産額は,前記遺産目録のとおり,5億8118万8048円となる。

ⅱ Aの法定相続人は,D,被告Y2,被告Y1及び原告Xであるから,遺留分の割合は8分の1となり,遺留分額は7264万8506円となる。

ⅲ Aの法定相続人の遺留分について超過額を計算すると,以下のとおりとなる。

D 975万7295円

被告Y2 1599万8194円

原告X 3億0748万6780円

ⅳ 被告Y1は,4264万8245円の不足となっている。これを前記ⅲの超過額に基づき案分すると,原告Xの負担額は,以下のとおり,3935万2065円になる。

4264万8245円×3億0748万6780円÷(975万7295円+1599万8194円+3億0748万6780円)=3935万2065円

他方,前記ⅲのとおり,被告Y2は,その遺留分を超過してAの遺産を取得していることが認められるから,遺留分を侵害された事実は認められない。

(2)イ  被告Y2及び被告Y1は,水戸の不動産について,A及びY2を賃貸人とし,成光商事を賃借人とし,賃料を1か月4万4000円,期間20年とする平成10年12月22日付の土地賃貸借契約書(乙第52号証)及びY2を賃貸人とし,成光商事を賃借人とし,賃料を1か月10万円,期間10年とする平成17年6月1日付の土地賃貸借契約書(乙第53号証)を提出する。しかし,乙第52,53号証によれば,前記各賃貸借契約書は,成光商事の取締役として被告Y2が締結したものであることが認められる上,実際に賃料が授受されている証拠は提出されておらず,平成10年12月22日の賃貸借契約の期間中の平成17年6月1日に新たに賃貸借契約書が作成され,賃料も変更になっているが,この理由が明らかではない等の事情を考慮すると,水戸の不動産について借地権が設定されていることを前提に評価することはできない。

また,甲第4号証及び乙第25号証によれば,Aの相続税申告書において,水戸の不動産について,借地権割合として5割を控除していることが認められるが,この点から実体的に借地権が存在することを推認することはできないから,相続税申告書の記載からも水戸の不動産を借地権の負担があるものとして評価することはできない。

ロ  被告Y2及び被告Y1は,新宿2丁目の不動産の平成19年1月25日現在の時価を3億7260万円と,平成17年10月30日現在の時価を3億0920万円とそれぞれする時価調査書(乙第27号証),成田東の不動産の平成19年1月25日現在の時価を2億0444万円と,平成17年10月30日現在の時価を1億9032万円とそれぞれする時価調査書(乙第28号証)及び水戸の不動産の平成19年1月25日現在の時価を6561万円とする時価調査書(乙第29号証)を提出するが,これらは地価公示と比準価格を基に算定された簡易な鑑定であると認められるから,前記裁判所の鑑定に照らし,採用することはできない。

ハ  被告Y2及び被告Y1は評価の基準時は口頭弁論終結時であると主張するが,遺留分額の評価は相続が開始した時点でされるものだから,理由がない。

4  結論

以上のとおりであるから,甲事件の請求は,被告Y1が,原告Xに対し,遺留分減殺請求権は3935万2065円を超えて存在しないこと及び被告Y2の遺留分減殺請求権が存在しないことを確認し,被告Y2に対し,3000万円これに対する訴状送達の日の翌日である平成18年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払及び被告Y2占有部分の明渡しを求める限度で,理由があるからこれをいずれも認容し,被告Y1に対するその余の請求は失当であるから棄却し,乙事件における被告Y2及び被告Y1の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき,民訴法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言(主文第3項に限る。主文第1項,第2項,第4項及び第6項については相当でないからこれを付さないこととする。)につき同法259条1項を,2000万円の担保を立てることを条件とする仮執行免脱宣言につき同条3項それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

「別紙省略」

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