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東京地方裁判所 平成19年(ミ)8号 決定 2008年6月10日

申立人(債権者)

夏川正男

外9名

申立人ら代理人弁護士

松尾慎祐

渡辺和也

今井知史

安達悠司

茅野珠美

被申立人(開始前会社)

株式会社N

同代表者代表取締役

秋山明

同代理人弁護士

宮崎信太郎

濱田芳貴

村上雅哉

森浩志

高橋洋行

主文

1  本件会社更生手続開始の申立てを棄却する。

2  申立費用は申立人らの負担とする。

理由

第1  事案の概要

本件は,ゴルフ場の経営等を行う株式会社について,同会社の預託金会員債権者である申立人ら10名が会社更生法17条2項,1項の規定に基づき,会社更生手続開始の申立てをしたところ,同会社については,本件申立てに先立って民事再生事件の申立てがされ,現に再生手続が開始され,再生計画認可決定が確定していることから,特に同法41条1項2号の事由の存否が問題となっている事案である。

第2  前提事実

一件記録によれば,以下の事実が認められる。

1  当事者

(1)  開始前会社株式会社N(以下「開始前会社」という。)は,ゴルフ場の経営等を目的として,昭和56年5月に設立された株式会社であり,現在,「Nゴルフ倶楽部」ゴルフ場(昭和63年11月開場,千葉県○○市所在,18ホール。以下「本件ゴルフ場」という。)を経営等している。

開始前会社の発行済株式総数は16万株,資本金は8000万円であり,ゴールドマン・サックス(以下「GS」という。)グループの特定目的会社であるベイウインドツーリミテッド東京支店(以下「BW」という。)が開始前会社の株式を100パーセント所有している。また,開始前会社の株式については定款による譲渡制限がされている。

(2)  申立人らは,開始前会社に対して,総額1億7600万円のゴルフ会員預託金債権を有する債権者(以下「会員債権者」という。)であり,債権総額は,開始前会社の資本金額の10分の1以上である。

2  開始前会社の財産状況

開始前会社の財産状況については,後記3(2)記載の再生手続開始決定の前々月である平成19年8月末現在の残高試算表によれば,総資産が46億7792万7962円,総負債が431億5950万9586円,債務超過額が384億8158万1624円となっている。

3  開始前会社に対する再生手続の開始及びその後の進捗状況等

(1)  開始前会社は,いわゆるバブル経済崩壊後の長引く不況の中,全国的なゴルフ需要の低迷により来場者数が減少したことや近隣ゴルフ場との価格競争により単価(プレイフィー)が下落したことに伴う売上の減少により,営業損失を計上する状況が続いた。

開始前会社においては,平成4年ころから,預託金の償還期限が到来し,退会による預託金の償還を求める会員が出てきたため,会員権の分割を認める一方,預託金の償還を繰り延べる施策を実施したが,依然として経営環境は厳しく,毎年当期損失の計上が続き,財務体質は悪化し続けた。

GSグループは,平成18年,開始前会社に資本参加して,支援を開始した。しかし,開始前会社においては,平成19年5月以降,預託金の償還期限が次々と到来し,このまま巨額の預託金と金融負債の負担を残したまま事業を継続すれば,預託金の返還請求がされ,ゴルフ場資産に対して差押え等がされることによって本件ゴルフ場を閉鎖せざるを得なくなるおそれが生じた。

(2)  そこで,開始前会社は,財務を健全化した上で再生を図るため,平成19年10月3日,東京地方裁判所民事第20部に対し,再生手続の開始申立てをし,同裁判所は,同月16日,開始前会社について再生手続の開始決定をした(同裁判所平成19年(再)第178号再生手続開始申立事件。以下,同事件にかかる再生手続を「本件再生手続」といい,同事件の申立てを受けて開始決定をした裁判所を「本件再生裁判所」という。)。これに対し,申立人らは,同月24日,東京地方裁判所民事第8部に対し,開始前会社について,本件会社更生手続開始,保全管理命令及び調査命令の各申立てをし,同裁判所は,同月25日,弁護士那須克巳を調査委員に選任し(以下「本件調査委員」という。),同調査委員による調査を命じる決定をした。

ところで,本件再生手続は,手続が進められ,開始前会社及び申立人らからそれぞれ再生計画案が提出されたが,本件再生裁判所は,平成20年2月1日,開始前会社提出に係る再生計画案(以下「本件再生計画案」という。)を決議に付し,その投票方法を同年3月11日を期限とする書面投票,又は同月19日に開催される債権者集会の期日における投票のいずれかを議決権者が選択できる旨の決定をし,他方,申立人ら提出に係る再生計画案は決議に付さない旨の決定をした。

(3)  本件再生計画案の概要は,「①再生計画認可決定確定後,開始前会社において,速やかに本件ゴルフ場の事業のすべてを分割対象とする新設分割を実施して,新しく株式会社を設立し,従前の事業は当該新設会社の下で再生する。②他方,当該新設会社に事業を承継した開始前会社は,GSグループに対して新設会社の株式を譲渡し,当該株式譲渡代金及びGSグループからの借入金等によって権利変更後の再生債権の弁済をする。③再生債権の権利変更に当たっては,10万円以下の部分については免除を求めないものとし,10万円を超える部分に対する弁済率は4パーセントとする。④退会会員及び会員債権者以外の一般債権者については,会社分割後3か月以内に権利変更後の再生債権を一括して弁済し,継続会員については,再生計画認可決定確定時から9年を経過した後に,退会の意思表示を条件として,退会の意思表示及び振込先の指定後1か月を経過した日以降最初に到来する3月末日又は9月末日に免除後の再生債権を一括して弁済する。」という内容であった。

(4)  本件再生裁判所は,書面投票及び平成20年3月19日の債権者集会期日における投票の方法により,開始前会社提出に係る本件再生計画案について決議に付したところ,同計画案が,債権総額のうち74.38パーセント,有効投票者数731名のうち484名(66.2パーセント)の賛成を得て可決されたため,同日,再生計画認可の決定をした。そして,同認可決定に対する即時抗告はなく,同年4月17日,同認可決定は確定した。

第3  当裁判所の判断

1  会社更生法17条1項所定の更生手続開始原因の有無

上記第2の2の認定事実によれば,開始前会社は債務超過の状態にあることが認められる。

2  会社更生法41条1項各号所定の棄却事由の有無

(1)  そこで,次に,会社更生法41条1項各号所定の棄却事由の有無について検討することにするが,開始前会社については,本件申立てに先行して,本件再生手続が係属しているので,まず,同項2号所定の事由が存在するか否かについて判断する。

(2)  本件調査委員は,会社更生法41条1項2号所定の事由の存否に関し,下記アないしオのとおり調査し,その結果を当裁判所に報告している(本件調査委員作成に係る平成20年2月4日付け調査報告書(中間報告)及び同年4月24日付け調査報告書)。

ア 本件再生手続で債権者の一般の利益が守られない事由の存否

本件申立ては,開始前会社が行った本件再生手続開始の申立てに対し,それに反対する会員債権者の一部の者からされたものであり,会社更生法41条1項2号が更生手続開始障害事由として「裁判所に再生手続が係属し,その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき」と定めていることから,先行する再生手続では債権者の一般の利益が守られない事由があるか否かが中心的な検討課題となる。以下,申立人らが更生手続によるべきとする必要性の根拠として挙げる問題点についての調査結果は,下記(ア)ないし(オ)のとおりである。

(ア) 使途不明金の存在

申立人らは,開始前会社においては,当初,約350億円の預託金,約70億円の借入金等によって合計450億円を超える資金が集められているところ,同資金は本件ゴルフ場を開場するのに必要な金額を超えるものであり,多額の使途不明金が存在するおそれがあるのは問題であると主張する。しかし,仮に,資金使途究明の結果,開始前会社に何らかの返還請求権が発生すると確認できたとしても,消滅時効によりその請求権は行使できず,各債権者の弁済額等に影響するものでない。したがって,手続選択との関係において,開始前会社が当初集めた資金の使途をすべて解明すべき必要性は見出し難い。

ただし,開始前会社が,平成5年6月28日,本件ゴルフ場を構成する不動産に極度額100億円の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定して,××県信用農業協同組合連合会(以下「県信連」という。)から80億円を借り入れた行為(以下,県信連の開始前会社に対する上記貸付債権を「本件県信連債権」という。)については,開始前会社の創業者であり,かつ,当時開始前会社の役員であった春野大樹が支配するO株式会社(以下「O社」という。)に対して上記借入金の過半を環流するために行われた疑いがある。すなわち,上記80億円の借入金のうち,53億円が開始前会社からO社に対して貸し付けられ,その後,O社に対する貸付債権は,平成16年10月,サービサーに対して500万円で譲渡されており,開始前会社において債権回収が全く行われていない。サービサーへの上記貸付債権の売却により貸付金の回収を断念した行為については,その当否及び役員の法的責任の有無を検討すべきであると考えられる。

(イ) スポンサー選定手続の不透明性

申立人らは,本件再生手続が,平成18年3月に開始前会社の株式全部を譲り受けたGSグループの一員であるBWがその経営権を取得してから申し立てられたものであり,再生手続申立て前にスポンサーがGSグループに事実上決定していたのは問題であると主張する。しかし,開始前会社においては,平成16年10月から平成18年3月にかけてGSグループとは無関係の別会社が再建を試みたものの途中で断念したため,これに代わるスポンサーが至急必要であったという事情があり,また,スポンサー選定に際してはGSグループ以外の複数の企業にも打診しているのであって,入札手続が実施されていないことをもって直ちにスポンサー選定手続に不備があるとまではいい難い。加えて,GSグループが開始前会社の全株式の譲渡を受けその経営権を取得して本件再生手続を申し立てたこと及びGSグループが本件ゴルフ場を経営することの相当性については,原則として開始前会社の債権者の判断に委ねられるべき問題であり,本件再生手続においても申立人らにその権利を行使する機会が保障されていることからすると,本件におけるスポンサー選定手続は更生手続を開始する理由とはならないと考えられる。

(ウ) 子会社を通じた経理操作

申立人らは,開始前会社には,子会社である株式会社L(以下「L社」という。)を通じた不透明な経理が存在しており,本件再生手続においてL社から債権譲渡を受けたと主張するBWに権利行使をさせることは不公正であり問題であると主張する。

開始前会社は,ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律(以下「適正化法」という。)に対応するため,平成4年ころ,子会社であるL社に対して会員権92口(1口当たり入会保証金7200万円,入会金1200万円)を発行したが,その際,L社が開始前会社に対して支払うべき入会保証金及び入会金合計約77億2800万円を開始前会社の未収金とし,入会保証金相当額を開始前会社の負債としてそれぞれ計上した。その後,平成18年8月4日,開始前会社とL社との間において,L社が有する会員権のうちの一部を分割し,分割後の入会保証金を減額し,その減額分を貸金に振り替えるとの合意がされ,L社が開始前会社に対して貸金債権12億6000万円を有するものとする経理処理がされた。更に,BWが,同月31日,県信連の開始前会社に対する本件県信連債権を譲り受け,それと同時に,開始前会社がBWに対し,本件県信連債権のうち遅延損害金相当額(66億0808万1500円)についての代物弁済として,L社の全株式及びL社に対する債権全額(77億2264万0711円)を譲渡するという経理処理がされた。

以上によれば,開始前会社からL社に対する会員権の発行は,現実の金銭の出入りを伴うものではなく,適正化法に対応するために子会社に対して会員権を発行するという形式を採ったに過ぎないものであって,権利が実際にL社に移転したと見ることはできない。そうだとすると,本件再生手続において,L社が開始前会社に対して上記会員権発行時の入会保証金相当額の債権を有するものとして取り扱われ,それがBWに移転して権利行使が認められるとすると,債権者の一般の利益を害するものと考えられる。

(エ) 否認権の行使

申立人らは,①県信連に対し本件根抵当権を設定した点,②本件根抵当権の被担保債権がGSグループの一員であるジェイ・エル・キュー・エルエルシー(以下「JLQ」という。)の有限会社ベイサイドインベストメント(本件ゴルフ場の経営を委託されていた会社等が設立した会社。以下「BSI」という。)に対する貸金債権に変更された点,③本件根抵当権の被担保債権がBWの開始前会社に対する本件県信連債権へと再度変更された点が,それぞれ否認権の対象となる可能性があり問題であると主張する。

上記①の点であるが,開始前会社が平成5年6月に県信連に対して極度額100億円の本件根抵当権の設定を行うと同時に県信連から80億円の融資が実行されており,県信連において開始前会社の詐害隠匿状況についての認識があったとは思われないことから,本件根抵当権の設定は否認権行使の対象とはならないというべきである。

上記②の点であるが,本件根抵当権の極度額が30億円に減額されたのと同時に,その被担保債権が,本件県信連債権からJLQのBSIに対する貸付債権に変更されたのは,JLQは本件根抵当権を取得できなければBSIに対して19億5000万円の融資を実行することはなかったものと考えられ,被担保債権の変更により被担保債権の額が19億5000万円に減少したことも開始前会社にとって利益のあるものであり,かつ,融資資金の使途も開始前会社の再建を目的とするものと評価できることからすると,否認権行使の対象とはならないというべきである。

上記③の点であるが,BWが平成18年8月にBSIから本件県信連債権を譲り受けると同時に,本件根抵当権の被担保債権が本件県信連債権に変更されているが,開始前会社に対する新規の入金が一切なく,被担保債権の変更により被担保債権の額が平成16年当時の19億5000万円から極度額満額の30億円まで増額される結果となっていることからすると,否認権行使の対象となるというべきである。

(オ) 株式会社NGCマネージメント(以下「NGCM」という。)への業務委託

申立人らは,GSグループの一員であるNGCMに対して本件ゴルフ場に関する業務が委託されていることにより不当に利益が吸い上げられている可能性があり問題であると主張する。しかし,現在のNGCMへの委託内容は,食堂業務,コンサルティング,ゴルフコース管理業務及び会員管理業務であり,その業務内容及び報酬等を見てみても,それらが特に過大であるとはいえない。

イ 問題点に対する開始前会社の対応策

上記アの調査結果によれば,開始前会社においては,L社の債権の処理,担保権に対する否認権の行使,役員への責任追及が問題となる。そこで,上記問題点が本件再生手続において適切に処理されない場合には,債権者の一般の利益に適合しないおそれがあるところ,これらの問題点については,開始前会社により,下記(ア)ないし(ウ)の対応がされている。これにより,上記問題点についての評価は,GSグループによる本件再生手続開始申立ての妥当性及び本件ゴルフ場経営の相当性についての評価と合わせて,本件再生手続における会員債権者の議決権行使に委ねるのが相当と考えられる。

(ア) L社の開始前会社に対する債権についての処理

L社は,開始前会社との間で,L社が再生債権の届出を取り下げて本件再生手続に参加しないこととし,両建てであった開始前会社のL社に対する未収金債権も再生手続において存在しないものとして取り扱うとの合意をしている。その結果,代物弁済の対象とされたBWの開始前会社に対する遅延損害金債権が復活することになるが,本件再生計画案において,上記遅延損害金債権は免除を受けることとされている。

これにより,L社の開始前会社に対する債権についての処理に関して,債権者の一般の利益が害されるおそれはなくなったものといえる。

(イ) 否認権の行使

平成18年8月に本件根抵当権の被担保債権が本件県信連債権に変更された点については,これに対して否認権が行使されず,被担保債権が本件県信連債権のままであったとしても,被担保債権の額が上記変更前の貸金債権の債権額まで減縮されるのであれば有害性はないことになるところ,開始前会社とBWとの間で,別除権評価額を上記変更前の貸金債権の債権額と同額とするとの別除権協定が締結されている。これにより,本件根抵当権の被担保債権が本件県信連債権に変更された点に関して,債権者の一般の利益が害されるおそれはなくなったものといえる。

(ウ) 役員への責任追及

開始前会社は,本件再生計画案において,役員の責任に関する調査を続行し,損害賠償請求権の査定を申し立てることを検討しており,将来損害賠償金を受領した場合には,追加弁済の原資とする予定であるとしているのであって,役員への責任追及の点も,本件再生手続によることにより債権者の一般の利益が害されることにはならない。

ウ 債権者の意向

開始前会社に対する債権者の大多数は会員債権者であるところ,上記第2の3(4)のとおり,有効投票数の約3分の2の債権者が賛成して本件再生計画案が可決認可されているのであって,開始前会社の破綻による最大の犠牲者であり,かつ,今後も本件ゴルフ場の運営に対する最大の利害関係者である会員債権者が示した上記判断は極めて重いというべきである。したがって,本件再生手続で示された会員債権者の上記判断を覆すに足りる特段の事情が認められない場合には,その判断は尊重されるべきである。

エ 会員債権者の判断を覆すに足りる特段の事情の存否

(ア) 本件再生手続においては,申立人らから,事業譲渡を骨子とする再生計画案が提出されたが,本件再生手続における監督委員から,同計画案については遂行の見込みがないとの意見書が提出され,これを受けて,本件再生裁判所が同計画案を決議に付さない旨の決定をしていることから,同計画案の存在が上記特段の事情に当たるか否かが問題となる。しかし,本件においては,本件再生手続開始申立ての当初から開始前会社と申立人らが激しく対立し,申立人らが,開始前会社提出に係る本件再生計画案の問題点や申立人ら提出に係る再生計画案の優越性を広く一般の会員債権者に訴えてきていたことからすると,本件再生計画案の決議において賛成票を投じた者は開始前会社の再建方針に賛成し,反対票を投じた者は申立人らの再建方針に賛成したものと評価することができる。そうだとすると,債権者の約3分の2が開始前会社提出に係る本件再生計画案に賛成していることからすると,申立人ら提出に係る再生計画案は実質上否決されたものと解すべきであって,同計画案の存在は上記特段の事情には当たらないというべきである。

(イ) 役員の責任追及についても,開始前会社の調査方法等に特段欠けているところは見当たらず,会社更生手続に移行したとしても従来と異なった調査方法を採ることができるわけではないことからすると,役員の責任追及の必要性についても上記特段の事情には当たらないというべきである。

(ウ) その他,本件再生手続で示された会員債権者の判断を覆すに足りる特段の事情は認められない。

オ 本件調査委員の意見・結論

以上によれば,本件は,会社更生法41条1項2号に定める他の集団的処理手続である本件再生手続が裁判所に係属し,当該再生手続が債権者の一般の利益に適合するときに該当するので,本件会社更生事件の申立ては棄却すべきである。

カ 本件調査結果に対する当裁判所の評価

本件調査委員の上記アないしオの調査結果及び意見は,一件記録に照らしていずれも首肯することができ,特段不自然,不合理な点は認められない。

(3) 以上によれば,①本件においては,開始前会社のスポンサー選定手続に明らかな不当性があるとまではいえないこと,②子会社であるL社を通じた経理操作や否認権行使の対象となる行為の存在などの問題点についても既に開始前会社によって対応策が講じられており,上記問題点等についての評価は本件再生手続における債権者の議決権行使に委ねるのが相当であること,③本件再生計画案は多数の債権者の賛成によって可決されその認可決定も確定しているところ,本件のようなゴルフ場の経営等を目的とする会社の再建手続において特に重視すべきものと考えられる会員債権者の多数の意向が,本件再生手続において再生計画に従った弁済を受けるというものであることが示されたことなどが認められる本件にあっては,開始前会社の再建については,本件再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するものと認められ,当該判断を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。

3  結論

以上によれば,本件申立てについては,本件再生裁判所に現に係属する本件再生手続によることが債権者の一般の利益に適合するものと認められ,会社更生法41条1項2号所定の事由が存在するというべきである。そうだとすると,本件申立ては,その余の点を判断するまでもなく理由がないので棄却するのが相当である。

よって,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 難波孝一 裁判官 渡部勇次 裁判官 鈴木謙也)

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