東京地方裁判所 平成19年(ワ)35264号 判決 2008年9月19日
主文
1 原告らの各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1当事者の求める裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,原告会社に対し,別紙アクセスログ目録(1)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
(2) 被告は,原告X1に対し,別紙アクセスログ目録(2)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
(3) 被告は,原告X2に対し,別紙アクセスログ目録(3)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
(4) 被告は,原告X3に対し,別紙アクセスログ目録(4)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)を開示せよ。
(5) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2当事者の主張
1 請求原因
(1)ア 原告会社は,とび・土木工事業等を目的とする株式会社である。
イ 原告X1は,原告会社の代表取締役である。
ウ 原告X2は,原告X1の妻である。
エ 原告X3は,原告会社の従業員である。
オ 被告は,携帯電話事業,PHS事業を主な事業として行う株式会社である。
(2) 原告らに対する名誉毀損
ア メッセージの投稿
被告は,複数の氏名等不詳者(以下「本件発信者ら」という。)からのアクセスを受けて,本件発信者らに対し,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)記載の日時ころ,インターネット接続サービスを提供し,これを受けて,本件発信者らは,インターネットに接続して,ウエブサイト「○○」内の電子掲示板にアクセスし,同目録記載の各スレッドに対し,同目録記載の各スレッドに対し,同目録記載の各メッセージをそれぞれ投稿した。
イ(ア) 原告会社について
① 別紙アクセスログ目録(1)のNo.1について
この発言は,雇主である原告会社が従業員に対して不当な服従を求めている旨の事実を摘示して,原告会社の社会的評価を低下させる。
② 同No.2について
この発言は,原告会社内において,いじめがはげしい,陰険な人間が多いといった社内環境・風紀に関する事実を摘示して,原告会社の社会的評価を低下させる。
③ 同No.3について
この発言は,原告会社が税法に違反しているという事実を摘示して,原告会社の社会的評価を低下させる。
④ 同No.4について
この発言は,原告会社が脱税をしているという事実を摘示して,原告会社の社会的評価を低下させる。
⑤ 同No.5について
この発言は,原告会社が労働基準法に違反しているという事実を摘示して,原告会社の社会的評価を低下させる。
(イ) 原告X1について
① 別紙アクセスログ目録(2)のNo.1について
この発言は,原告X1が不貞行為を繰り返していること,不貞行為の相手方に多額の財産を渡している旨の事実を摘示して,原告X1の社会的評価を低下させる。
② 同No.2・3について
これらの発言は,原告X1が暴力行為を行っているという事実を摘示して,原告X1の社会的評価を低下させる。
③ 同No.4について
この発言は,原告X1が病気に罹患しているという事実を摘示して,原告X1の社会的評価を低下させる。
(ウ) 原告X2について
別紙アクセスログ目録(3)のNo.1ないし4について
これらの発言は,原告X2が原告会社の従業員と不貞関係を持った事実を摘示して,原告X2の社会的評価を低下させる。
(エ) 原告X3について
① 別紙アクセスログ目録(4)のNo.1について
この発言は,原告X3がストーカー行為を行った,窃盗行為を行ったという事実を摘示して,原告X3の社会的評価を低下させる。
② 同No.2について
この発言は,原告X3と「a」(原告会社本社近辺に所在する飲食店)の経営者と不倫関係にあるという事実を摘示して,原告X3の社会的評価を低下させる。
③ 同No.3について
この発言は,原告X3が「裏の世界」すなわち暴力団と関わりがある事実を摘示して,原告X3の社会的評価を低下させる。
④ 同No.4について
この発言は,原告X3が原告会社代表者の妻と不貞関係を有した事実を摘示して,原告X3の社会的評価を低下させる。
⑤ 同No.5について
この発言は,原告X3が嫌われ者であるとの事実を摘示して,原告X3の社会的評価を低下させる。
⑥ 同No.6について
この発言は,原告X3が嘘つきであるとの事実を摘示して,原告X3の社会的評価を低下させる。
⑦ 同No.7について
この発言は,原告X3が嘘つきであるとの事実を摘示して,原告X3の社会的評価を低下させる。
⑧ 同No.7・8について
これらの発言は,原告X3が原告会社代表者の妻と不貞関係を持ったという事実を摘示して,原告X3の社会的評価を低下させる。
ウ 内容の真実性等
上記イの各発言(メッセージ)内容に摘示された事実は,いずれも真実ではないから,それぞれ原告らの各名誉が侵害されている。
なお,別紙1~アクセスログ目録(1)記載の各メッセージについて,別紙2~発言目録(2)記載の各メッセージについて,別紙3~発言目録(3)記載の各メッセージについて,及び別紙4~発言目録(4)記載の各メッセージについてのとおり,原告らの名誉侵害については,違法性を阻却するような事由はない。
エ プライバシー権等の侵害
原告X1,原告X2及び原告X3においては,別紙2~発言目録(2)記載の各メッセージについて,別紙3~発言目録(3)記載の各メッセージについて,及び別紙4~発言目録(4)記載の各メッセージについてのとおり,プライバシー権等の人格権も侵害されている。
(3) 被告から発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
ア 原告らは,本件発信者らの氏名・住所等が明らかになり次第,本件発信者らに対して損害賠償を行う予定である。
イ 原告らは,静岡地方裁判所浜松支部に対し,「○○」管理者に対して本件発信者らの氏名・住所等,特定の為に必要な情報の開示を求めて,同管理者から委託を受けたホスティング業者を相手方として仮処分命令の申立てをしたところ(同支部平成19年(ヨ)第8号),当該ホスティング業者は,「○○」管理者の承諾を得た上で,投稿した者のIPアドレス及びタイムスタンプ等の情報を開示した。
これにより,本件発信者らが被告の管理するサービスのユーザーであることが判明した。
すなわち,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)の発信については,携帯電話端末機の機種から被告の携帯電話より発信されていることが明らかとなった。
ウ そこで,原告らは,東京地方裁判所に対し,被告を相手方として,別紙発信者情報目録記載の情報の消去の禁止を求める仮処分命令申立てを行ったが(同裁判所平成19年(ヨ)第1344号),被告においては通信記録が自動消去となっていたので,平成19年5月31日,同裁判所から却下決定がなされた。
エ しかし,上記通信記録が消去されているものの,コンテンツブロバイダである「○○」管理者において,発信者の携帯端末機の「機種」「シリアルナンバー」及び「FOMAカード個体識別子」もアクセスログとして記録されており,原告はこれらの情報の開示を得ている。
そして,被告においては,かかる識別子から特定されるFOMAサービスの契約者情報を現在も保有しているので,個別識別子から「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称及び住所」を特定することが可能である。
(3) まとめ
よって,原告らは,被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,請求の趣旨記載の裁判を求める。
2 請求原因に対する認否
(1)ア 請求原因(1)アないしエは知らない。
イ 同オは認める。ただし,被告は,PHS事業は行っていない。
(2)ア 同(2)アは知らない。
イ 同イ(ア)ないし(エ)はすべて争う。
ウ 同ウは争う。
なお,法に基づく発信者情報開示請求が認められるためには,「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」(法4条1項1号)ことが必要であるが,原告ら主張の各発言(メッセージ)内容に摘示された事実は,いずれも社会的評価を低下させる程のものではない上,真実性が認められれば,名誉毀損とはならない事実であるので,法4条1項1号所定の事由には当たらない。
エ 同エは争う。
(3)ア 同(3)アは知らない。
イ 同イは知らない。
ウ 同ウは認める。
エ 同エは知らない。
3 被告の主張
原告らの本件請求は,以下のとおり失当である。
(1) 被告は,経由プロバイダであるから,「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)には当たらない。
すなわち,法4条1項所定の発信者情報の開示を認める特定電気通信とは,「不特定多数の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」であり,もともと法が予定していたのは,インターネットのウエブサイトを開設している者であって,被告のような経由プロバイダは含まれていない。
そもそも経由プロバイダに法4条1項所定の「発信者情報」の開示を求める場合には,後記のとおり,経由プロバイダは,自ら接続記録を保有する通信の内容については知り得ず,権利を侵害した情報がどの通信によってされたか判断できないので,インターネットのウエブサイトを開設している者から開示される発信元のIPアドレス,受信元のURL,時刻の3点によって,通信が特定されないと,どの通信の「発信者情報」を開示すべきかが判断できない。
しかも,インターネットのウエブサイとを開設している者は,通信の内容と当該通信を行った者との関係を正確に把握できるため,開示対象とすべき発信者情報の特定に困難はないが,経由プロバイダは,自ら接続記録を保有する通信の内容については知り得ず,権利を侵害した情報がどの通信によってなされたのか判断できないので,開示すべき発信者情報の特定が極めて困難である。特に,被告の提供するサービスにおいては,1つのIPアドレスを膨大な数の利用者が利用しており,無辜の者の通信記録が偶然存在して,開示されるリスクが高いというべきであるから,被告は特定電気通信役務提供者ではない。
(2) 原告らが開示を求める情報は,法4条1項所定の「発信者情報」ではないのみならず,開示の対象となる「特定電気通信」が特定されていない。
ア 被告に対して「発信者情報」の開示を求めるためには,少なくとも,発信元のIPアドレス,受信元のURL,時刻の3点によって,通信を特定する必要があるが,これらが特定されていない。
のみならず,被告には保存期間の経過により「発信者情報」を特定するための通信記録は既に消滅している。
イ 「FOMAカード個体識別子により特定される情報」は,「権利を侵害した情報の発信がなされた通信」に係る「発信者情報」ではない。また,FOMAカード個体識別子」を開示することは,電気通信事業法に違反する違法なものである。
なお,「FOMAカード個体識別子」はIPアドレスではない。
ウ 被告が「FOMAカード個体識別子により特定される情報」を開示することは,電気通信事業法において禁止されている。
(3) 原告らの主張する名誉毀損等の内容は,それ自体権利侵害が明白であるとはいえないから,法4条1項1号にいう「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかである」に該当しない。
4 被告の主張に対する原告らの認否及び反論
(1) 被告の主張(1)は争う。
なお,法の解釈に当たっては,誹謗中傷を受けた被害者の権利にも十分に配慮すべきであるから,経由プロバイダであっても,「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)には当たるというべきである。そして,経由プロバイダは,発信者に対し設備を用いてインターネット接続を提供し,これにより発信者から不特定多数への情報の送信を媒介していることは明らかであるから,法2条3号の「特定電気通信役務提供者」に該当する。しかも,原告らが開示を求めているのは発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名(名称)・住所であり,通信そのものではないから,経由プロバイダにおいてもこれらの情報を特定することは可能である。
(2)ア 同(2)アは条文上の根拠を欠くものである。
すなわち,法4条1項には,発信元のIPアドレス,受信元のURL,時刻の3点を特定する必要があることは規定されていない。
イ 同イは争う。
ウ 同ウは争う。
(3) 同(3)は争う。
理由
1 「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)について
(1) 請求原因(1)オは,PHS事業の点を除き,当事者間に争いがなく,また,証拠(甲1ないし10)及び弁論の全趣旨によると,請求原因(1)アないしエ,同(2)ア並びに同(3)イの各事実が認められ,これに反する証拠はない。
そして,請求原因(3)ウの事実加えて,本件においては被告が直接インターネットのウエブサイトを開設している者ではないこと,被告において,既に原告主張の通信記録が消去されていることは,いずれも当事者間に争いがない。
(2) ところで,原告らは,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)の発信については,携帯電話端末機の機種から被告の携帯電話より発信されていることが判明しているところ,コンテンツブロバイダである「○○」管理者において,発信者の携帯端末機の「機種」「シリアルナンバー」及び「FOMAカード個体識別子」がアクセスログとして記録されていたので,被告が識別子から特定されるFOMAサービスの契約者情報を現在も保有しているため,個別識別子より「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称及び住所」を特定することが可能であるとして,経由プロバイダである被告に対し,発信者情報の開示請求をしている。
しかし,法4条1項所定の発信者情報開示請求権の行使が認められるためには,被告が「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)に当たる必要があるというべきである。
そして,法2条1号において,「特定電気通信」とは,その始点に位置する者において「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信の用に供される電気通信の送信を除く。)」をいうと規定されている。また,法2条1号所定の「送信」とは,電気通信事業法2条1号所定の「送り」,つまり,符号,音響又は映像を電気的信号に変換して送り出すことを指すものであるから,その始点に位置する者において「不特定の者によって送信されることを目的とする電気通信」を「送信」することであると解される。
さらに,法2条4号の規定文言に照らすと,法は,特定電気通信について,特定電気通信設備の記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信される形態で行われるものと,特定電気通信設備の送信装置に入力された情報が不特定の者に送信される形態で行われるものとを予定しており,いずれの場合においても,上記記録媒体への情報の記録又は上記送信装置への情報の入力とその後の当該情報の送信,すなわち,法2条1号所定の「送信」とを区別し,特定電気通信設備たる上記記録媒体又は上記送信装置を用いる特定電気通信役務提供者が,同号にいう「送信」を行い,特定電気通信の始点に位置することを前提としているものと解される。
そうすると,特定電気通信設備の送信装置に情報を記録し,又は当該特定電気通信設備の送信装置に情報を入力することは,当該特定電気通信設備を用いる電気通信役務提供者による特定電気通信以前の,これとは別個の,当該情報の記録又は入力を目的とする発信者から特定電気通信役務提供者に対する1対1の電気通信にすぎないから,それを媒介するにすぎない経由プロバイダを直ちに特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)と解することはできないといわなければならない。
したがって,特定電気通信の始点に位置して「送信」を行う者が,特定電気通信設備たる送信装置を用いる特定電気通信役務提供者(法4条1項,2条3号)であるというべきであって,経由プロバイダを法4条1項所定の「開示関係役務提供者」(当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者)に含めることは文理上もできないというべきである。
もっとも,原告らは,法の解釈に当たっては,誹謗中傷を受けた被害者の権利にも十分に配慮すべきであるから,経由プロバイダであっても,「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)には当たると主張する。しかし,発信者の端末から経由プロバイダを経てホスティングサービスを行っているプロバイダまでの通信と,ホスティングサービスを行っているプロバイダから不特定の者との間の通信の性質とは異なっているところ,発信者情報は,その性質上いったん開示されるとその原状回復が困難であるから,その開示の判断は厳格になされるべきである。のみならず,通信に関わる事実がプライバシーの権利(憲法13条)や表現の自由(憲法21条1項)の保障の対象でもあり,その拡大解釈は慎重であるべきであるので,原告らの上記主張を採用することはできない。
(3) 以上のとおり,被告は「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)には該当しないというべきであるから,原告らの本件請求はいずれも理由がない。
2 原告ら主張の「発信者情報」等について
(1) 次に,被告が「特定電気通信役務提供者」(法4条1項,2条3号)に当たるとしても,本件訴訟記録によると,原告らは,本件訴えにおいて,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)記載の各日時における,同目録記載のFOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)の開示を求めている。
(2) ところで,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令(平成14年5月22日総務省令第57号)によると,法4条1項に規定する侵害情報の発信者の特定に資する情報として,「一 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称 二 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所,三 発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字,記号その他の符号をいう。) 四 侵害情報に係るIPアドレス(インターネットに接続された個々の電気通信設備(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第2号に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。) 五 前号のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」と定められている。
そして,証拠(乙3,5)及び弁論の全趣旨によると,被告が提供している携帯電話サービス「FOMAサービス」は,利用者が被告との間でFOMAサービス契約を締結すると,被告から利用者に対し「FOMAカード」というICカードが発行・交付されて特定の電話番号を利用することができること,この利用者は,自ら購入等した携帯電話端末に「FOMAカード」を挿入することによって,「FOMAサービス」を利用することができるから,特定の電話番号と結びついているのは「FOMAカード」であり,その携帯電話端末自体は特定の電話番号と結びついてはいないこと,このため,被告においては,「FOMAカード」情報によって契約者の管理をしているので,携帯電話端末の製造番号(シリアルナンバー)によっては契約者の管理を行っていないことが認められる。
また,法4条1項所定の「発信者情報」は,特定電気通信による情報の流通による権利侵害に係る発信者情報であるところ,原告らの開示請求に係る情報は,被告が有する電気通信設備を用いてなされた特定電気通信の発信者情報ではない。そして,更に前掲証拠及び弁論の全趣旨によると,「FOMAカード個体識別子」は,「FOMAカード」情報そのものではなく,これを被告が管理しているものではないこと,被告においては,現在,保存期間の経過により,別紙アクセスログ目録(1)ないし(4)記載に係る「発信者情報」を特定するための通信記録が消滅して存在しないこと,しかも,経由プロバイダである被告は,接続記録を保有する通信の内容については知り得ず,権利を侵害した情報がどの通信によってされたかにつき特定することができないので,インターネットのウエブサイトを開設している者から開示される発信元のIPアドレス,受信元のURL及び時刻に基づいて通信が特定されなければ,どの通信の「発信者情報」を開示すべきかが判断できないことが認められる。
してみると,原告か主張する「FOMAカード個体識別子によって特定される各電気通信設備を管理する者の電子メールアドレス,住所及び氏名(名称)」は,発信元のIPアドレス,受信元のURL及び時刻によって通信が特定されていないので,法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」ではないというべきである。
(3) 以上のとおり,原告主張に係るFOMAカード個体識別子により特定される情報は,法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」ではなく,被告は発信者情報を保有していないから,原告らの本件請求はいずれも理由がない。
3 結論
以上の次第で,原告らの被告に対する各請求は,いずれの観点からしてもその前提を欠いており,その余の点について判断するまでもなく失当である。
よって,原告らの本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
「別紙省略」