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東京地方裁判所 平成19年(行ウ)220号 判決 2007年6月29日

主文

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  処分行政庁が平成17年7月11日付けでした別紙物件目録記載1の土地について建築基準法42条2項道路位置を廃止する処分が存在しないことを確認する。

2  処分行政庁が平成17年7月11日付けでした別紙物件目録記載1の土地について建築基準法42条2項道路位置を廃止する処分が無効であることを確認する。

第2請求の原因

訴状記載の請求の原因は,概ね次のとおりである。

1  原告は,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件対象地」という)。の隣地である同目録記載2の土地(以下「本件隣地」という。)の所有者である。

2  処分行政庁は,本件対象地の一部について,平成17年7月11日付けで,建築基準法(以下「法」という。)42条2項道路位置を廃止する処分(以下「本件廃止処分」という。)を行った。しかしながら,本件廃止処分は,次のとおりの明白な瑕疵があり,不存在ないし無効である。

(1)  隣地所有者の承諾を得ていないこと

法42条2項道路位置を廃止するためには,関係権利者の承諾を得ることが必要である。法42条2項道路位置を一括指定した昭和50年3月27日付け練馬区告示第33-2号によれば,原告の所有する本件隣地の一部も法42条2項道路位置に含まれているから,原告は,廃止の直接の当事者として,承諾が必要な「関係権利者」に該当する。また,仮に,法42条2項道路位置が本件廃止処分に係る申請図のとおりであるとしても,原告は隣地所有者であり,やはり承諾が必要な「関係権利者」に該当する。にもかかわらず,本件廃止処分は,原告を含めた本件隣地所有者らの承諾を得ていない。

(2)  廃止の対象を誤っていること

上記のとおり,本件廃止処分は,廃止の対象道路位置を誤っている。

第3当裁判所の判断

1  原告は,本件訴えを,いずれも,行政事件訴訟法3条4項所定の無効等確認の訴えとして提起したものと解されるところ,無効等確認の訴えは,当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」に限り,提起することができる(行政事件訴訟法36条)。

2  しかしながら,以下に述べるとおり,原告は,本件廃止処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは認められず,本件訴えを提起する原告適格を有しない。

(1)  行政事件訴訟法36条にいう処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分の根拠となる法令の規定が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,かかる利益も上記の法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の無効等確認の訴えにおける原告適格を有するものというべきである。そして,当該法令の規定が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質等を考慮して判断すべきである。

(2)  訴状及び原告の提出した平成19年4月27日付け「求釈明に対する回答書」によれば,原告は,本件における「法律上の利益」として,次の2点を主張するものと解される。

① 原告が本件廃止処分の対象道路(以下「本件道路」という)の。敷地の所有者(共有者)であり,建築基準法施行規則(昭和25年建設省令第40号。以下「省令」という。)9条,練馬区建築基準法施行規則(平成5年練馬区規則第55号。以下「練馬区規則」という。)16条1項・3項,練馬区策定の「道路の位置の指定・変更および廃止の取扱い基準」(甲4。以下「取扱い基準」という。)第1の3①において承諾を必要とする権利者とされていること。

② 仮に原告の所有地(共有地)が本件道路に含まれていないとしても,原告が当該対象地の隣地の所有者(共有者)として,取扱い基準第1の3①において承諾を必要とする権利者とされており,また本件道路の存在を前提に,本件隣地の東側の道路と西側の道路(本件道路)とをそれぞれ法43条の接道義務に係る道路として2棟の建物を建てるなどの敷地利用ができる自由を有していること。

(3)  そこでまず①の,原告が本件道路の敷地の所有者であることを前提とする主張について検討する。

省令9条は,法42条1項5号の道路位置指定処分を行うに当たり,「道路の敷地となる土地の所有者」の承諾を求めているが,その趣旨は,道路位置指定処分がされると,道路の敷地となる土地について所有権を有する者は,その指定部分に建物を建築することができなくなる(法44条1項)などその権利に重大な制約を受けることになるため,その者の承諾を得ることとして,その保護を図ったものであると解される。ところが,道路位置廃止処分は,これとは逆に,道路位置指定による私権の制限を解除するものであって,道路敷地の所有権を侵害するものではない。それゆえ,道路位置廃止処分を行うに当たっては,道路敷地の所有者の承諾を得る必要はないと解するのが相当であり,現に,道路位置廃止処分を行うために道路敷地の所有者の承諾を必要とする旨を定めた法令の規定は存在しない。

練馬区規則16条3項は,道路位置指定(法42条1項5号)の申請書に権利者の承諾書を添付しなければならない旨を定めた練馬区規則16条1項の規定を,道路位置廃止の申請の場合にも準用しているが,道路位置廃止の申請の場合の承諾者の範囲については明示的に規定されておらず,この点は解釈に委ねられているものと解されるところ,練馬区において策定した取扱い基準第2の13⑥において「廃止または変更により利益のみを得ると思われる部分の権利者の承諾は,必ずしも必要としない」とされていることにも照らすと,練馬区規則16条3項においても,道路位置廃止処分に当たって道路敷地の所有者の承諾は必要とされていないと解するのが相当である。

そうすると,原告が主張する本件道路の敷地所有権は,本件廃止処分によって侵害される権利とはいえず,また道路位置廃止処分に当たって,道路敷地所有者の「承諾を求められる利益」が法令上保護されているとも認められないから,これらの点において「法律上の利益」があるとする原告の主張は失当である。

(4)  次に②の,原告が本件道路の隣地の所有者であることを前提とする主張について検討する。

法45条1項は,私道の変更又は廃止によって,その道路に接する敷地が法43条の接道義務に違反することとなる場合においては,特定行政庁は,その私道の変更又は廃止を禁止し,又は制限することができると定めているところ,この規定の趣旨からすれば,法は,避難又は通行の安全のため,法43条所定の最低限の接道を確保する利益を,当該敷地所有者の個別的利益としても保護すべきものとしているものと解するのが相当であり,特定行政庁が申請により道路位置廃止処分を行う場合においても,これによって法43条所定の接道を確保し得なくなる隣地所有者がある場合には,その者の承諾があるときに限りこれを行うことができるものとしているものと解するのが相当である(取扱い基準第1の3①において,「道路に沿接する敷地の所有者」が承諾を必要とする者の範囲に含められているのも,上記のような法解釈を前提として理解すべきものである。)。しかしながら,以上のような隣地所有者の利益を超えて,道路位置の指定及びその廃止に関し,当該道路の存在を前提とする隣地所有者の一般的な利用利益までをも保護していることをうかがわせるような法令の規定は存在しない。

そうすると,原告が主張する本件道路の隣地所有者としての利益は,道路位置の指定及びその廃止に関して法律上保護された利益であるとは認められないから,この点に関する原告の主張も理由がない。

(5)  なお,原告が援用する最高裁昭和47年7月25日第三小法廷判決(民集26巻6号1236頁)は,道路位置廃止処分(ただし,法42条1項5号の位置指定道路に係るもの)によって,道路敷地所有者の所有地が袋地となるために,道路敷地の隣地所有者としての利益(法43条所定の接道を確保する利益)が侵害されることとなる事案について判示したものであるから,本件と事案を異にするものである。

3  したがって,本件訴えはいずれも不適法であり,その不備を補正することができないから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法140条により,口頭弁論を経ないで,これを却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 定塚誠 裁判官 古田孝夫 裁判官 工藤哲郎)

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