東京地方裁判所 平成19年(行ウ)754号 判決 2010年3月05日
主文
1 麹町税務署長が原告に対して平成21年4月28日付けでした原告の同16年4月1日から同17年3月31日までの事業年度に係る法人税額等の更正処分のうち,所得金額597億0562万9560円及び納付すべき税額マイナス75億1389万7661円を超える部分を取り消す。
2 麹町税務署長が原告に対して平成18年5月31日付けでした過少申告加算税賦課決定処分のうち1億6377万円を超える部分を取り消す。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを100分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 麹町税務署長が原告に対して平成21年4月28日付けでした原告の同16年4月1日から同17年3月31日までの事業年度に係る法人税額等の更正処分のうち,所得金額476億4370万3320円を超える部分及び還付されるべき税額111億5627万4066円を下回る部分を取り消す。
2 麹町税務署長が原告に対して平成18年5月31日付けでした過少申告加算税賦課決定処分のうち88万5000円を超える部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,総合商社であり,P1株式会社(以下「P1」という。)が製造する自動車の完成品や組立部品の輸出及び海外での販売事業等を行っている原告が,タイ王国(以下「タイ」という。)において上記販売事業を行う関連会社であるタイ法人2社が発行した株式を額面価額で引き受け,これらを基に平成16年4月1日から同17年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告をしたのに対し,麹町税務署長が,上記各株式が法人税法施行令(平成18年政令第125号による改正前のもの。以下同じ。)119条1項3号所定の有利発行の有価証券に当たり,その引受価額と時価との差額相当分の利益が生じていたなどとして,法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をし,さらに,上記更正処分における所得金額及び納付すべき税額を増額する再更正処分をしたことから,原告が,上記過少申告加算税賦課決定処分及び上記再更正処分の各一部の取消しを求めている事案である。
1 関係法令の定め
(1) 法人税法22条
ア 1項
内国法人の各事業年度の所得の金額は,当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
イ 2項
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
ウ 3項 (略)
エ 4項
第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
オ 5項(略)
(2) 法人税法61条の2(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ)
ア 1項から9項まで(略)
イ 10項
有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の基礎となる取得価額の算出の方法,有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法の種類,その算出の方法の選定の手続その他前各項の規定の適用に関し必要な事項は,政令で定める。
(3) 法人税法130条
ア 1項
税務署長は,内国法人の提出した青色申告書又は連結確定申告書等(連結中間申告書,連結確定申告書又はこれらの申告書に係る修正申告書をいう。以下この条において同じ。)に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の更正をする場合には,その内国法人の帳簿書類(当該連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は連結欠損金額の更正をする場合にあつては,連結子法人の帳簿書類を含む。)を調査し,その調査により当該青色申告書又は連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り,これをすることができる。ただし,当該青色申告書又は連結確定申告書等及びこれらに添付された書類に記載された事項によつて,当該課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の計算がこの法律の規定に従つていないことその他その計算に誤りがあることが明らかである場合は,その帳簿書類を調査しないでその更正をすることを妨げない。
イ 2項
税務署長は,内国法人の提出した青色申告書又は連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の更正をする場合には,その更正に係る国税通則法第28条第2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない。
(4) 法人税法施行令119条1項
内国法人が有価証券の取得をした場合には,その取得価額は,次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
1号 (略)
2号 金銭の払込みにより取得をした有価証券(次号に掲げる有価証券に該当するものを除く。) その払い込んだ金額(その金銭の払込みによる取得のために要した費用がある場合には,その費用の額を加算した金額)
3号 有利な発行価額で新株その他これに準ずるものが発行された場合における当該発行に係る払込みにより取得をした有価証券(株主等として取得をしたものを除く。) その有価証券の当該払込みに係る期日における価額
4号から8号まで (略)
2 前提事実本件の前提となる事実は,次のとおりである。なお,証拠若しくは弁論の全趣旨により容易に認めることのできる事実又は当裁判所に顕著な事実は,その旨付記しており,それ以外の事実は,当事者間に争いがない。
(1) 当事者等について
ア 原告は,貿易取引や事業投資等の多岐にわたるビジネスを行う総合商社である。原告の社内には7つの営業グループが存在するところ,そのうち機械グループにおけるP18事業本部においては,P1製の完成品及び組立部品の輸出のほか,投資事業先を通じ,海外における自動車の製造及び販売等の事業を行っており,その中には,タイにおいて自動車の製造及び販売等を行うことを目的とする事業(以下「本件事業」という。)がある。(甲1,8,弁論の全趣旨)
イ 原告が,本件事業を行うための投資事業先の法人としては,いずれもタイを本店所在地とする外国法人であるP2 COMPANY LIMITED(以下「P2社」という。),P3 COMPANY LIMITED(以下「P3社」という。)及びP4 COMPANY LIMITED(以下「P4社」という。)(以下併せて「本件各社」という。)があり,いずれも平成19年12月当時,原告の連結決算上の連結子会社であった。また,本件各社の持株会社として,同10年10月にタイを本店所在地とする外国法人であるP5COMPANY LIMITED(以下「P5社」といい,本件各社と併せて「本件各子会社」という。)が原告の100%子会社として設立されたが,同17年3月9日に清算事務を結了した。(甲2から6まで,8,弁論の全趣旨)
(2) 新株発行に至る経緯について
ア P2社は,平成9年7月のタイバーツ(以下「バーツ」という。)の下落の影響を受けて売上げが低迷し,同年9月期及び同10年9月期には多額の損失を計上した。原告は,P2社への緊急支援を実施するため,同年10月にP5社を設立し,同社を通じてP2社に対し,低金利の融資を実施した。しかし,P2社は,同11年9月末時点で債務超過となることが予想されたため,原告は,上記融資を出資に切り替える旨の決定をし,同年12月ころ,これを実行した。なお,その際,原告の100%子会社であるP5社がP2社に対して直接増資をすると,P2社についてタイ人及びタイ法人以外の企業が発行済株式数の50%以上を保有している状態(外資ステータス)が生じ,タイの外国人事業法による規制を受けるようになることから,これを避けるため,そのころ新設されたP3社及び既存のP4社を経由してP2社に対する増資を実施した。
その後,P2社の業績が回復したことから,原告は,平成14年12月から同15年10月初めまでにかけて,同社の登録資本金の一部を有償で減資するなどして,出資形態を一部変更した。その結果,同月7日時点での原告及び本件各子会社の資本関係は別紙1(資本関係図)記載1のとおりとなった。(甲8,10から12,弁論の全趣旨)
イ(ア) 原告は,平成15年10月7日に開催された原告の社長室会(以下「本件社長室会」という。)において,P2社の出資形態の変更を行うことを内容とする決定(以下「本件決定」という。)をした。本件決定の具体的な内容は次のとおりである。(甲8,13,14,弁論の全趣旨)
a P2社への緊急支援のために設立したP5社を清算して60億バーツを償還し,原告から本件各社に対し,合計27億9900万バーツの出資をする。(これにより,P2社減資金相当額の32億100万バーツを原告に環流させる。)
b 株式の増減資については,すべて額面価額である1株1000バーツで行う。
c P2社について,タイ人及びタイ法人が発行済株式数の50%超を保有している状態(内資ステータス)を維持するために,P3社とP4社との間の株式持合の維持を継続する。ただし,受取配当課税を少なくするため,P4社が保有するP3社株式を優先株式化する。
(イ) 本件決定においては,別紙2(増減資等スケジュール)記載1のとおり,本件各子会社の増減資等に係る手順(以下「当初スケジュール」という。)が決められた。
なお,本件決定時の為替レートはP5社への出資時よりもバーツ比で円高になっていたことから,P5社の清算によって60億バーツを償還したとしても,円ベースの出資金の回収は困難になっていた。そのため,当初スケジュールにおいては,上記の不足分である約36億円を回収するために,平成16年3月末及び同17年3月末に,それぞれP2社の剰余金を原告に配当することが予定されていた。(甲13,14,弁論の全趣旨)
ウ 本件決定に従い,P5社は平成15年10月17日開催の株主総会において,P2社は同月21日開催の株主総会において,また,P3社は同日開催の株主総会において,それぞれ減資を行う旨の決議をした。
しかし,上記各決議に基づいて減資を実行する前に,タイの課税当局による「減資資金を受け取る際,減資による入金額と減資を行う法人の剰余金に対する持分のどちらか低い方に30%のキャピタルゲイン税を課税する。」とのルーリングがあることが判明した。そこで,原告は,平成16年4月22日,ポートフォリオ・マネージメント委員会において,当初スケジュールについて,①本件各子会社が減資に先立ち剰余金を払い出す手順を加え,②本件各子会社に対する増減資の順序を入れ替える内容の変更を加えることを決定した。この変更後の増減資等に係る手順(以下「修正後スケジュール」という。)は,別紙2(増減資等スケジュール)記載2のとおりである。なお,修正後スケジュールにおいては,同年3月末及び同17年3月末のP2社の剰余金配当は予定されておらず,同16年9月末の同社の剰余金配当が予定されていた。(甲15から19まで,弁論の全趣旨)
(3) 増減資及び清算の実行について
ア 原告及び本件各子会社においては,修正後スケジュールに沿って,次の①から⑤までのとおり(各増減資の金額等は修正後スケジュールのとおり),本件各子会社の増資及び減資並びに清算が実施された。次の①から④までの各増減資後における原告及び本件各子会社の資本関係は,別紙1(資本関係図)記載2から6までのとおりである。
① 平成16年4月28日付けでP3社,P4及びP5社の減資
② 平成16年4月30日付けでP3社及びP4社の増資
③ 平成16年9月13日付けでP3社及びP4社の減資
④ 平成16年12月16日付けでP2社の減資,同月20日付けでP2社の増資
⑤ 平成17年3月9日付けでP5社の清算
イ 前記ア②の増資については,平成16年3月26日にP3社の同年第1回臨時株主総会が開かれ,P3社の普通株式94万5000株(以下「本件P3社株」という。)が額面価額1000バーツで発行されることが可決され,また,同日にP4社の同年第1回臨時株主総会が開かれ,P4社の普通株式48万2000株(以下「本件P4社株」という。)が額面価額1000バーツで発行されることが可決され,いずれの株式についても,同年4月30日に原告が額面価額で引き受けることにより,増資が実施された。
また,前記ア④の増資については,同年11月22日にP2社の同年第5回臨時株主総会が開かれ,P2社の普通株式137万2000株(以下「本件P2社株」といい,本件P3社株及び本件P4社株と併せて「本件各株式」という。)が額面価額1000バーツで発行されることが可決され,同年12月20日に原告が額面価額で引き受けることにより,増資が実施された。(甲26,28,29,30,37,38,弁論の全趣旨)
(4) 原告は,麹町税務署長に対し,本件事業年度の法人税について,法人税法75条の2第1項の規定により延長された提出期限内である平成17年6月30日に,別紙3「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出した。(甲8,弁論の全趣旨)
(5) 原告の本件事業年度の法人税に係る平成18年5月31日付け更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下,上記更正処分を「本件更正処分」,上記過少申告加算税賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)並びに上記各処分に対する不服申立ての経緯は,別紙4(本件各処分等の経緯)のとおりである。(甲7,8,弁論の全趣旨)
(6) 原告は,平成19年12月14日,本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)
(7) 麹町税務署長は,別紙4(本件各処分等の経緯)のとおり,平成21年4月28日付けで,本件更正処分における所得金額及び納付すべき税額を増額する更正処分(以下「本件再更正処分」といい,本件賦課決定処分と併せて「本件各処分」という。)並びに重加算税賦課決定処分をした。(甲103)
3 被告が主張する原告の税額等
被告が本件訴訟において主張する原告の所得金額及び納付すべき税額等は,以下の(1)から(6)までとおりである(別紙5「被告主張額」参照)。
本件における争点は,本件各株式の取得に関して利益が生じており,当該利益を本件確定申告において所得金額に計上すべきであったか否かであり(後記(1)イ(ア)),この点に関連する部分を除き,原告は,その余の被告主張の課税の根拠及び計算関係を争っていない。
(1) 所得金額 627億5206万2360円
上記金額は,次のアの金額にイの金額を加算し,ウの金額を控除した金額である。
ア 確定申告における所得金額 471億8818万9113円
上記金額は,本件確定申告書に記載された所得金額である。
イ 所得金額に加算すべき金額 157億4372万4711円
上記金額は,次の(ア)から(ケ)までの金額の合計額である。
(ア) 有価証券の取得に係る利益の計上漏れ金額 151億0835万9040円
上記金額は,本件各株式の取得に係る利益の計上漏れ金額である。
(イ) 仕入過大計上額 4億6611万3078円
上記金額は,原告がP6株式会社から仕入れたエチレングリコールの一部の仕入価額が仮価額で算定され,確定価額に比し過大に損金の額に算入されていたため,仮価額で算定された仕入価額から確定価額で算定した仕入価額を差し引いて求めた金額である。
(ウ) 事業税の損金算入過大額 2160万5400円
上記金額は,麹町税務署長が原告に対して平成17年6月14日付けで行った法人税の更正処分において既に損金の額に算入されている事業税であり,本件事業年度における損金の額に算入されるべきではないものである。
(エ) 営業費のうち損金の額に算入されない額 871万6519円
上記金額は,P7株式会社に対する業務委託費に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に相当する合計額であるところ,原告は消費税等の経理処理について税抜経理方式を選択していることから,当該金額は損金の額に算入されない。
(オ) 減価償却費のうち損金の額に算入されない額 65万3681円
上記金額は,ソフトウエアに係る減価償却費の計算において,その取得価額に消費税等相当額として含まれ,損金の額に算入されているものであるところ,原告は,消費税等の経理処理について税抜経理方式を選択しているから,当該取得価額のうち,消費税等相当額は損金の額に算入されない。
(カ) 為替差益計上漏れ額 42万3272円
上記金額は,前記(イ)の仕入価額が過大に計上されていたこと,及び後記ウ(ア)の売上金額が過大に計上されていたことに伴って,外貨建債権債務の金額が増減することにより生ずる為替差益315万0254円と為替差損272万6982円の差額であり,益金の額に算入すべき金額である。
(キ) 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額 62万2071円
上記金額は,一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の当期繰入限度額について,前記(カ)の為替差損により減少する売掛金及び後記ウ(ア)の売上金額が過大に計上されていたことにより減少する売掛金を含めた上で再計算したことにより増加した一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額である。
(ク) 国外関連者に対する寄附金の損金不算入額 1億3722万8446円
上記金額は,原告が豚肉の輸入の対価として国外関連者であるP8に対し支払った金額のうち,原告が当該国外関連者に取引金額を水増ししたインボイスを作成させ,真実の仕入金額であるかのように仮装して損金の額に算入した金額であり,当該水増し金額は法人税法37条7項に規定する寄附金の額に該当し,租税特別措置法66条の4第3項の規定により損金の額に算入されないものである。
(ケ) 雑益計上漏れ 3204円
上記金額は,原告の平成16年4月1日から同17年3月31日までの各課税期間に係る消費税等の更正処分に伴い生じた還付消費税額等220万4304円と法人経理上の還付消費税額等220万1100円との差額であり,益金の額に算入すべきものである。
ウ 所得金額から減算すべき金額 1億7985万1464円
上記金額は,次の(ア)から(ウ)までの金額の合計額である。
(ア) 売上過大計上額 1億2532万5829円
上記金額は,エチレングリコールの一部の売上金額が仮価額で算定され,適正価額に比し過大に計上されていたため,仮価額で算定された売上金額から適正価額で算定した売上価額を差し引いて求めた金額である。
(イ) 事業税の損金算入認容額 5208万9100円
上記金額は,次のa及びbの金額の合計額である。
a 本件更正処分に伴い増加した事業税の額 30万5900円
上記金額は,本件更正処分に伴い増加した事業税の額であり,損金の額に算入されるものである。
b 本件再更正処分に伴い増加した事業税の額 5178万3200円
上記金額は,本件再更正処分に伴い増加した事業税の額であり,損金の額に算入されるものである。
(ウ) 控除対象外国法人税額の益金算入過大額 243万6535円
上記金額は,外国子会社の外国法人税額の計算における年分誤りにより益金の額に過大に算入された控除対象外国法人税額の額である。
(2) 課税所得金額に対する法人税額 188億2561万8600円
上記金額は,前記(1)の課税所得金額(国税通則法118条1項の規定に基づき1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に法人税法66条1項(平成18年法律第10号改正前のもの(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律16条1項の規定を適用した後のもの。)。以下同じ。)に規定する税率を乗じて計算した金額である。
(3) 法人税額の特別控除額 3億8820万2250円
上記金額は,法人税額から控除される特別控除額(試験研究費の総額等に係る法人税額の特別控除額及び情報通信機器等を取得した場合等の法人税額の特別控除額)の金額であり,本件確定申告書に記載された金額と同額である。
(4) 法人税額から控除される所得税額等 258億7390万1351円
上記金額は,次のア及びイの金額の合計額である。
ア 法人税法68条に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額 93億0329万7866円
上記金額は,本件確定申告書に記載された金額と同額である。
イ 法人税法69条に規定する法人税額から控除される外国税額の再計算後の金額 165億7060万3485円
上記金額は,原告の本件事業年度の課税所得金額及び課税所得金額に対する法人税額が増加したことに伴って再計算した法人税額から控除される外国法人税の額である。
(5) 納付すべき税額等 △96億1944万2901円
上記金額は,次のア及びイの金額の合計額である。
ア 納付すべき税額(法人税額から控除される所得税額等の金額のうち控除しきれなかった額) △74億3648万5001円
上記金額は,前記(2)の課税所得金額に対する法人税額188億2561万8600円から前記(3)の法人税額の特別控除額3億8820万2250円を控除し,さらに,前記(4)の法人税額から控除される所得税額等の額258億7390万1351円を控除した結果,控除しきれなかった金額である。
イ 中間申告分の法人税額 △21億8295万7900円
上記金額は,本件確定申告書に記載された金額である。
(6) 本件再更正処分の適法性
前記(1)及び(5)のとおり,被告が本訴において主張する原告の本件事業年度の法人税に係る課税所得金額及び納付すべき税額等は,627億5206万2360円及び△96億1944万2901円であるところ,本件再更正処分における課税所得金額598億6936万1520円(別紙5「本件再更正処分の金額」欄・順号16)及び納付すべき法人税額等△96億9194万3601円(同順号23)は,上記の各金額の範囲内であるから,本件再更正処分は適法である。
(7) 本件賦課決定処分の根拠及び適法性
本件賦課決定処分により,原告が納付すべき過少申告加算税の額は,1億6426万1000円(ただし,平成19年6月14日付け裁決(以下「本件裁決」という。)により一部取り消された後の金額)であるところ,当該金額は,本件更正処分によって原告が新たに納付することとなった法人税額16億4261万4300円(ただし,本件裁決により一部取り消された後の金額について,国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額。別紙5「本件更正処分の金額」欄・順号25)に対して100分の10の割合(国税通則法65条1項に規定する割合)を乗じて算出した金額と同額である。
4 争点
(1) 本件P4社株の取得に係る被告の主張が処分理由の差し替えであっても許されるか。
(2) 新株の発行における株式の時価と払込価額との差額が法人税法22条2項の「益金の額」を構成するか。
(3) 本件各株式の時価と払込価額の差額が原告の「益金の額」を構成するか。
5 争点に対する当事者の主張の要旨
(1) 争点(1)(本件P4社株の取得に係る受贈益の主張が処分理由の差し替えであっても許されるか。)について
(被告の主張)
ア 青色申告制度において理由付記が要求されるのは,主として,帳簿記載を無視して更正されることがないという納税者に対する保障の実効性を担保することにあり,理由の差し替えを認めないことによって,上記目的がよりよく達成できることは否定し得ないものの,更正理由を帳簿との関係において具体的に開示すべきものとし,これに関する瑕疵の治癒は認められないとすることのみによってもそれなりに達成され,課税庁の恣し意的判断を抑制し不服申立てに便宜を与えることになるのであって,理由付記が要求される論理的帰結として理由の差し替えが認められないということになるわけではない。
また,白色申告においても,異議申立てに対する棄却決定には理由付記が要求され(国税通則法84条4項,5項),審査請求に対する裁決にも同様に理由付記が要求されるところ(同法101条1項,84条4項,5項),これは青色申告同様,行政庁の判断の慎重や合理性を担保してその恣意性を抑制するとともに,その理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えるとの趣旨である。そして,最高裁判所の判例は,白色申告に対する更正処分について,異議決定又は裁決に付記された理由に拘束力を一貫して認めていない(最高裁昭和48年(行ツ)第94号同49年4月18日第一小法廷判決・訟務月報20巻11号175頁等)ところ,この点について青色申告と白色申告を区別する理由は認められない。
以上によれば,青色申告に対する更正処分の取消訴訟において,基本的事実の同一性が認められる場合でなければ更正処分等に付記された理由以外の主張は許されないとはいうべきではなく,更正処分等で問題とされていなかった本件P4社株に係る益金についての主張であっても,これを本件訴訟において行うことは可能である。
イ 仮に,青色申告に対する更正処分に係る訴訟において,一定の場合に理由の差し替えが許されないとしても,本件の主な争点は,①本件各株式の引受けにおいて,本件各株式の時価と払込金額の差額を法人税法22条2項の「益金の額」に算入できるか,②本件各株式の発行は有利発行といえるかどうかであり,いずれも法律解釈に関わる法律論であって,それは本件各株式に共通している。そうであれば,本件P4社株に係る受贈益の主張が追加されたとしても,その主張が認められるかどうかは,上記各争点に対する判断によって決せられるのであるから,前記主張の追加が原告に特段の不利益を生じさせるものとはいえない。
したがって,本件P4社株の取得に係る受贈益の主張の追加は,理由の差し替えの枠外の問題として許されるというべきである。
(原告の主張)
被告は,本件P4社株の発行価額が「有利な発行価額」に当たるとして,その取得に係る受贈益の主張をするところ,この主張は,本件更正処分の通知書の付記理由には記載されておらず,本件訴え提起後に初めて被告がしたものであって,いわゆる理由の差し替えに当たる。
青色申告に対する更正処分の取消訴訟において,当該更正処分を維持するために更正通知書に付記されていない理由を主張することは原則として許されず,課税庁による理由の差し替えが許されるのは,基本的な課税要件事実の同一性がある場合に限られると解すべきであるが,本件更正処分及び本件再更正処分の各通知書に記載されている本件P3社株及び本件P2社株の発行と本件P4社株の発行とは,対象となる株式及びその発行会社が全く異なっており,両者の間には基本的課税要件事実の同一性があるということはできない。
したがって,本件P4社株の取得に係る受贈益の主張は許されないというべきである。
(2) 争点(2)(新株の発行における株式の時価と払込価額との差額が法人税法22条2項の「益金の額」を構成するか。)について
(被告の主張)
ア 法人税法22条2項にいう「益金」及び「取引」の意義
法人税法は,課税所得金額の基礎となるべき「当該事業年度の益金の額」(法人税法22条1項)について,各法人の個別の取引ごとに税法上の益金であるかどうかの判断を行ってそれを集計するという考え方を採らず,益金という総体的概念を設けた上,個別の金額について「各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入しない。」などと規定し(同法23条,25条,26条等),益金の額から個別的に不算入額を除外するという考え方を採っている。これによれば,同法22条2項の「益金」とは包括的な概念であり,取引によって生じた収益はすべて益金を構成するというべきである。
ところで,同法22条2項は「資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受け」と規定して取引の種類を列挙するが,これは単なる例示にすぎないというべきであり,同条項の文言に示されているように,資本等取引以外の取引において生じた収益はすべて益金を構成するというべきである。そして,一般に企業会計では収益と認識されない「無償による資産の譲受け」に係る収益をも益金としているから,同条項にいう「収益」とは,企業会計で認識される収益とは異なり,所得の増加原因となる一切の価値増加をいうものと解される。
そうすると,以上のように,包括的概念である「益金」の発生源である「取引」を法律行為に限定して狭く解すべき理由はない。したがって,同条項にいう「取引」とは,法人の所得を構成する純資産の増加を認識し,又は測定すべき一切の場合を意味する抽象的概念にすぎず,換言すれば,法人税法の解釈適用上,純資産の増加を認識し,又は測定して収益を計上すべき場合に「取引」があると考えるべきである。
イ 新株の発行は「取引」であり,時価と払込価額の差額部分が「益金の額」に当たること
株式を時価よりも低額で取得したことは,当該時価と取得価額との差額部分について,株式の価値の一部を無償で取得したことにほかならず,当該部分について取得者たる法人に経済的価値が流入したのであるから,時価と払込価額との差額部分が「益金の額」を構成することは明らかであるし,時価よりも低額で株式を取得することが,当該法人の純資産の増加を認識し,又は測定すべき場合として,「取引」に当たることも明らかである。
(原告の主張)
ア 法人税法22条2項の「取引」該当性について
(ア) 新株発行の場面においては,旧株主と新株主との間には何らの法律関係又は法律行為が存在しないため,その間に「取引」の存在を認めることは例外的でなければならない。この点,最高裁平成16年(行ヒ)第128号同18年1月24日第三小法廷判決・裁判集民事219号285頁(以下「最高裁平成18年判決」という。)は,法人税法22条2項にいう「取引」の意義について,「関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念」であるとした原判決の判断を維持した上で,株式の有利発行の場合には,①旧株主が当該資産価値を支配し,処分することができる立場にあり,②当該資産価値の移転が旧株主の支配の及ばない外的要因によって生じたものではなく,③当該資産価値の移転につき,旧株主の意図と新株主の了解があり,かつ,当該合意が実現したものと評価できる場合に,旧株主と新株主との間に,株式に表章された資産価値を移転させるという「意思の合致」が存し,同条項にいう「取引」の存在が認められると判示している。これによれば,新株発行の場面においては,既存株主が保有する株式に含み益があることを認識し,それを移転することを意図していたような場合に,初めて,旧株主と新株主との間に「取引」が存在したということができる。
(イ) 原告は,もっぱら正当な事業目的の下,本件各株式の発行を決定したものであり,本件各社の既存株式に表章されていた資産価値(含み益)を認識し,それを自らに移転させる意図はなく,そのことは旧株主であったP5社,P3社及びP4社においても同様であった。したがって,本件各株式の発行に関し,法人税法22条2項にいう「取引」の存在を認めることはできない。
イ 法人税法22条2項の「無償による資産の譲受け」該当性について
被告は,本件各株式の取得価額と時価との差額が法人税法22条2項にいう「無償による資産の譲受け」に当たると主張するが,「無償による資産の譲受け」は「取引」の例示であるから,本件各株式の発行に関して同条項の「取引」が認められない以上,本件各株式の引受けが「無償による資産の譲受け」に当たらないことは明らかである。
また,原告は,本件各株式の引受に当たり,1株当たり1000バーツの対価を支払っており,この点について対価性を欠いていると評価することはできないから,本件各株式の引受が「無償による資産の譲受け」に当たるということはできない。
ウ 法人税法22条4項に違反していること
法人税法22条4項は,同条2項に規定する収益の額は,「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算されるべきことを定めているところ,公正妥当な会計処理基準である「企業会計原則」は,有価証券の貸借対照表価額について,原則として,購入代価に,証券会社へ支払う仲介手数料等の付随費用を加算して取得原価を算定する旨を定めている(企業会計原則・第三・五・B)。これによれば,有価証券の有償取得の場合には,購入代金等に相当する金額を払い込んで同額の有価証券を貸借対照表に計上するのであるから,収益の計上を予定していない。したがって,本件各株式の引受けに関して収益の計上を求める本件各処分は,同条4項に反し,違法である。
(3) 争点(3)(本件各株式の時価と払込価額の差額が原告の「益金の額」を構成するか。)について
(被告の主張)
ア 株式価額の算定方法について
(ア) 株式引受けに係る株式価額の算定方法については,株式譲渡損益の計算に関する規定を用いるのが合理的であるところ,法人税法61条の2第10項を受けた法人税法施行令119条1項3号は,有利な発行価額で新株が発行された場合について,「その有価証券の当該払込みに係る期日における価額」をもって,当該有価証券の取得価額である旨規定している。
そして,発行された有価証券の価額が「有利な発行価額」に当たるか否か,すなわち有価証券の発行が有利発行に当たるか否かについては,当該有価証券の「発行価額を決定する日の現況における当該発行法人の有価証券の価額」(以下「発行価額決定日の時価」ともいう。)に比して社会通念上相当と認められる価額を下回る価額で発行されているか否かで判定するものとされ(法人税基本通達(平成17年課法2-14による改正前のもの。以下同じ。)2-3-7),具体的には,発行価額決定日の時価と発行価額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるか否かによって判定することとされている(同通達2-3-7(注)1)。
(イ) 株式の発行価額決定日の時価について,その具体的な算定方法を定めた通達はないものの,法人税基本通達2-3-9は,非上場株式に係る「当該有価証券の当該払込みに係る期日における価額」(取得価額)について「その新株又は出資の払込期日において当該新株につき法人税基本通達9-1-13及び9-1-14に準じて合理的に計算される当該払込期日の価額」としているから,発行価額決定日の時価についても法人税基本通達9-1-13及び9-1-14に準じて合理的に算出するのが相当である。そして,法人税基本通達9-1-13(4)は,本件各株式のように売買実例もなく,類似法人も存在しない場合について,「当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額とする」と定めているところ,上記「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を算定するに当たっては,財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法が,相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し,課税実務上も定着しているから,これを本件のような法人課税上の株式評価の場面においても準用するのが相当である(法人税基本通達9-1-14参照)。
(ウ) 以上によれば,本件各株式の取得に関し「益金」が発生しているかどうか,その「益金の額」がいくらであるかについては,①本件各株式の発行価額決定日の時価を当該法人の純資産価額等を基に算定し,②①により算定された価額から発行価額(払込価額)を差し引いた金額が,①により算定された価額の10%以上であるかどうかによって当該価額が「有利な発行価額」に当たるかどうかを判定し,③「有利な発行価額」に当たると判定された場合には,本件各株式の払込みが行われた期日における本件各株式の価額を当該法人の純資産価額等を基に算定し,④③で算定された金額と払込価額の差額部分が法人税法22条2項にいう「益金」であって,また「益金の額」となる。
イ 本件各株式の発行価額は「有利な発行価額」であり,本件各株式の払込価額と払込期日における時価の差額が「益金の額」に当たること
(ア) タイの民商法典1220条は,「非公開株式会社は株主総会の特別決議によって新株式発行による増資を行なうことができる。」と規定しており,本件各社の定款においても増減資は株主総会の特別決議により行うとされ,実際にも本件各株式の発行はそれぞれ本件各社の臨時株主総会決議に基づいて行われているから,本件各株式の発行価額を決定した日は,上記各臨時株主総会の決議が行われた日というべきである。
また,法人税基本通達2-3-7の(注)2は,「当該新株の発行価額を決定する日の現況における」当該株式の価額の算定に当たって,決定日のみならず,その前の一定期間の状況等を加味して決定することとしている上,考慮すべき期間は決定日から1箇月程度という近接した期間を設定しているのであるから,できるだけ当該株式の発行決定日に近い状況を加味して適正な価額を算定すべきである。そして,本件各社には四半期ごとに作成される財務諸表が存在することからすれば,発行価額の決定日に最も近接した時期の四半期決算書の数値も用いて算定するのが相当である。
(イ) 本件各社の各株主総会開催日を本件各株式の発行価額の決定日とした上,その前後に最も近接して作成された財務諸表(確定決算書のみならず,四半期決算書によるものを含む。)に基づき,本件各株式の1株当たりの純資産価額を算定した結果は,別紙6のとおりである。これによれば,各株主総会開催日の前後に最も近接して作成された財務諸表のいずれを用いたとしても,本件各株式の発行価額決定日の時価から発行価額(払込価額)を差し引いた差額は,判定の基準である発行価額決定日の時価の10%を大幅に超える割合となるから,本件各株式の発行価額はいずれも「有利な発行価額」に当たるといえる。
また,本件各株式の払込期日における時価を発行会社の純資産価額に基づいて算定した結果は,別紙6の各払込期日欄記載のとおりであり,同別紙のとおり,払込期日における価額と払込価額との間に差額が認められるから,当該差額部分が法人税法22条2項の「益金の額」を構成することとなる。
(原告の主張)
ア 本件各株式の発行が有利発行に当たらないこと
(ア) 株式価額の算定方式について
株式が発行された場合,当該株式については,①発行価額決定日の時価,②発行価額決定日の時価に比して「社会通念上相当と認められる価額」(以下「公正な発行価額」ともいう。),及び③「株式と引換えに払込みをした金銭の額」(以下,単に「発行価額」ともいう。)の3つの価額が存在するところ,発行された株式の価額が法人税法施行令119条1項3号にいう「有利な発行価額」に当たるか否かは,上記③の発行価額が,同②の公正な発行価額を下回るか否かによって判断される。この点,仮に1株当たりの純資産価額により株式を評価する方式(以下「純資産価額方式」という。)によって,発行価額決定日の時価を算出するとしても,本件各株式のように非上場株式で譲渡制限が付されている株式については,その発行価額の決定に当たって影響を及ぼす会社の経営状況等の諸般の客観的事情に則して謙抑的に判断すべきであり,これと同様に公正な発行価額についても謙抑的に判断すべきであって,譲渡等の困難性を価額の減額修正要因として考慮する必要があるというべきである。
そして,発行価額決定日の時価の算定に当たっては,タイのボラティリティ(株価等の価格変動性)等を考慮すれば,いまだ確定してない中間決算や四半期決算の経営管理資料の数字を用いるべきではなく,直近の期末確定決算書の数字に基づいて判断すべきである。なお,被告も主張するように,発行価額決定日の時価については,法人税基本通達9-1-13に準じて合理的に算定することが相当であるところ,同通達は,(a)「当該新株の発行価額の決定日」又は(b)「同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時」における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によるべきであると定めているから(法人税基本通達9-1-13(4)参照),原告が,本件各株式の発行価額決定日の時価の算定について,上記(b)の方式を選択して本件各株式の発行を決定した本件社長室会開催日(平成15年10月7日)の直近の決算期である同14年12月期の確定決算書の数字に基づいて算定したことは適法である。これに対し,麹町税務署長が,本件各株式の発行価額の決定日の直前四半期末における純資産価額を基準として,当該新株発行が有利発行に当たると判断して更正処分を行うことは,国税庁長官が公表した法人税基本通達による取扱いを否定するものであって,信義則上,許されないというべきである。
(イ) 本件各株式の発行価額は「有利な発行価額」に当たらないこと
a 本件各株式の発行価額決定日の時価を,平成14年12月末における本件各社の純資産価額の数値に基づいて機械的に算定するといずれも1000バーツ未満になるところ,本件では,①本件各株式の発行価額を決定した同15年10月7日においてP2社の剰余金を最終的に原告に配当することが計画されていたこと,②タイ民事商事法典上,新株発行は額面発行が原則であり,本件各株式の発行会社には,額面超過額による新株発行を可能とする定款の定めがなかったこと,③タイにおける額面超過額の取扱いが不明確であったこと,④本件各社の定款には株式の譲渡制限の定めがあったこと,⑤P2社の取締役会が株式譲渡を承認しない場合の買取価格につき,あらかじめ定款の定めにより株式の処分価額が著しく低く定められる危険性があったこと,⑥同年10月7日当時,本件各社の業績が悪化する可能性があったこと,⑦P2社の株式が同年3月にP9外4名に対して1株当たり1000バーツで譲渡されたという売買実例があることなどの諸事情が,本件各株式の時価を更に引き下げる要因になる。したがって,本件各株式の発行価額決定日の時価が,1株1000バーツ以下であることは明らかである。
b 前記のとおり,本件各株式のように,非上場株式で譲渡制限が付されている株式の場合には,その発行価額決定日の時価については謙抑的に判断すべきであるところ,「有利な発行価額」に当たるか否かを決する基準となる公正な発行価額については,上場株式で自由な譲渡が可能となっている株式の場合と比較して更に低下するというべきであり,前記aで算定された価額を3割ないし4割減価した価額と考えることも可能である。
そうすると,本件各株式の公正な発行価額が1000バーツ未満となることは明らかであるから,本件各株式の発行価額(1株1000バーツ)がこれを下回ることはなく,本件各株式の発行価額が「有利な発行価額」に当たらないことは,明らかである。
c なお,被告の主張のとおり,本件各株式の発行価額を決定した日である本件社長室会の日(平成15年10月7日)の直前四半期末における純資産価額に基づいて,本件各株式の発行価額決定日の時価を算定するとしても,非上場株式であり譲渡制限が付されている本件各株式の公正な発行価額は,上記のように算定された価額を3割ないし4割程度減価した価額となるはずであり,1株当たり1000バーツ未満となるか同水準であると考えられる。そして,前記aの②及び③の事情を考慮すれば,本件各株式を1株1000バーツ以上の価額で発行することは社会通念上不可能であるから,このことを考慮すれば,公正な発行価額が1株1000バーツを超えることは考えられない。
イ その他の本件各株式の価額の算定において考慮すべき事項について
(ア) 既存株式の希薄化を考慮する必要があること
時価を下回る価額で新株が発行された場合には,当該新株を引き受けた者が当該新株に表章された当該発行会社の資産価値を取得する一方,その発行会社の既存の株主は,所有する株式の価値の下落による経済的損失(希薄化損失)を被るということができる。
そうすると,原告が本件P3社株及び本件P4社株を引き受けたことにより,被告の主張を前提とすれば,原告には,当該株式の時価と払込価額の差額に相当する資産価値の増加が認められる一方,上記各株式を保有するP5社の株式について希薄化損失が生ずるというべきである。また,原告が本件P2社株を引き受けたことにより,原告には,当該株式の時価と払込価額の差額に相当する資産価値の増加が認められる一方,本件P2社株を保有するP3社の株式について希薄化損失が生ずるというべきである。
そして,上記の各希薄化損失を考慮すれば,原告については,本件P3社株及び本件P4社株を引き受けたことによる資産価値の増加は認められず,本件P2社株を引き受けたことによっては,7億4115万0800バーツ(19億7887万2636円)の資産価値の増加しか認められない。
以上によれば,本件各処分は,原告への益金算入額を約100億円以上も過大に計上したものであって,違法である。
(イ) 同一の資産価値の二重評価は許されないこと
被告は,本件P3社株及び本件P4社株の引受けの際にも,本件P2社株の引受けの際にも,本件P2社株の含み益(平成16年4月30日時点のP2社含み益の45.8%)相当額を益金計上(純資産価額の増加)の基礎としているが,これは同一資産価値の二重評価である。
また,その前提となる株式の評価方法にしても,原告が直接保有した株式と間接保有した株式との価額を同一視するもので,妥当でない。すなわち,仮に,純資産価額方式を用いるとしても,株式を通じて間接保有する資産に関しては,少なくとも法人税相当額を控除すべきであるから,これを控除していない被告の益金算入額は過大である。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件P4社株の取得に係る受贈益の主張が処分理由の差し替えであっても許されるか。)について
(1) 法人税法130条2項は,税務署長は,内国法人の提出した青色申告書等に係る法人税の課税標準等の更正をする場合には,その更正に係る国税通則法28条2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならないと規定するところ,法人税法130条1項が,青色申告に係る所得金額等の計算については,それが法定の帳簿による正当な記載に基づくものである以上,その帳簿の記載を無視して更正されることがない旨を納税者に保障していることを考慮すると,同条2項が付記すべきものとしている理由は,単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく,そのような更正をした根拠を帳簿書類以上に信憑力のある資料を摘示して具体的に明らかにするものであることを要すると解するのが相当である(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁参照)。
一般に,法が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは,処分庁の判断の慎重さ及び合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨であると解されるが,法人税法130条2項が,白色申告と区別して青色申告の場合についてのみ,上記のように詳細な理由の付記を求めているのは,上記趣旨に加えて,同条1項の青色の申告書による提出の承認を受けた内国法人に対し,帳簿書類を備え付けてこれに所得金額に係る取引を記録し,かつ,その帳簿書類を保存し,さらに,青色申告書に貸借対照表,損益計算書その他所得金額又は純損失の金額の計算に関する明細書を添付させるという義務を課している代償としての趣旨を含むものというべきであり,青色申告者に対し,特に処分の具体的根拠を明らかにすることによって不服申立ての便宜を図り,その手続的な権利を保障するという租税優遇措置の1つであるということができる。そして,法人税の更正処分について不服のある者は,課税庁に対する異議申立て及び国税不服審判所に対する審査請求という二重の不服申立ての前置を要求されているところ,特に,青色申告者の国税不服審査においては,実務上,争点主義の精神を生かした運営(争点主義的運営)が定着しており,処分庁が更正通知書に付記した理由と基本的な課税要件事実を異にする更正理由を新たに主張することはされていないのであって(当裁判所に顕著な事実),仮に,訴訟の段階で無条件に処分理由の差し替えを許せば,法人税法が,青色申告者に対して特に不服申立ての便宜を図り,その手続的な権利を保障しようとした趣旨を没却するものといわざるを得ない。
以上によれば,青色申告の場合における更正処分の取消訴訟においては,原則として,更正通知書に付記されていない理由を主張することは許されないというべきであり,例外的に,更正理由書の付記理由と訴訟において被告が主張する理由との間に,基本的な課税要件事実の同一性があり,原告の手続的権利に格別の支障がないと認められる場合には,理由の差し替えを許容することができるというべきである。
(2) 本件訴訟において,被告は,本件P3社株及び本件P2社株(以下「本件2社株」といい,P3社及びP2社を併せて「本件2社」という。)に加えて,本件P4社株の取得に係る受贈益についても,本件各処分の根拠として主張しているところ,本件更正通知書に付記された理由においては,本件2社株の発行価額が法人税法施行令119条1項3号にいう「有利な発行価額」に当たるとしてその取得に係る受贈益がある旨が記載されているにすぎず,本件P4社株の取得に係る受贈益については記載されていない(甲7)。
確かに,本件P4社株の発行は,原告が出資するP2社が行うタイにおける本件事業について,P2社の出資形態の変更を行うことを目的とした本件各子会社の増減資の一環として行われたものであり,本件2社株の発行と全く関連しないものではない。しかしながら,本件P4社株の発行は,本件2社とは異なる法人であるP4社の臨時株主総会で決定されたものである上,本件P4社株が「有利な価額」で発行されたものであるか否かについては,後述のように,P4社の純資産価額に基づいて算定される必要があるというべきであって,本件2社株の発行が「有利な価額」でされたか否かという点との間には,直接的な関係を認めることはできず,基本的な課税要件事実に同一性があるということはできない。仮に,本件P4社株の発行について理由の差し替えを認めるとすると,原告に対し,本件P4社株の取得に係る利益という課税要件事実について,不服申立て段階において争う機会を失わせるものといわざるを得ず,原告の手続的権利に格別の支障を生じさせることとなるというべきである。
以上によれば,本件P4社株の取得に係る利益に関する被告の主張は,理由の差し替えとして,許容することができないものというべきである。
2 争点(2)(新株の発行において,株式の時価と払込価額との差額が法人税法22条2項の「益金の額」を構成するか。)について
(1) 法人税法22条2項は,内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とすると規定しているところ,適正な額より低い対価をもってする資産の譲受けの場合も,当該資産の譲受けに係る対価の額と上記資産の譲受時における適正な価額との差額が,無償による資産の譲受けに係るものとして,収益の額を構成するものと解するのが相当である。
そして,新株の発行を適正な価額より低い価額で引き受けた場合においても,その取得価額と適正な価額との差額については,無償による資産の譲受けに係るものとして,収益の額を構成するということができる。
(2) 原告は,最高裁平成18年判決を引用し,旧株主から新株主への資産価値の移転が問題となる新株引受けにおいては,原則として旧株主と新株主との間に「取引」の存在を認めることはできず,旧株主と新株主との間で株式に表章された資産価値(含み益)を移転させるという「関係者間の意思の合致」が認められる場合に限り,法人税法22条2項が適用されるとした上,そのような要件が認められない本件各株式の引受けについては同条項が適用されない旨主張する。
しかしながら,本件においては,原告が,その子会社から新株を引き受けたものであるところ,原告の取得価額が株式の適正な価額より低額であったことから,原告について利益が生じているか否かが問題となっているのであって,株式を引き受けていない旧株主と新株主との間における資産価値の移転が問題とされているものではなく,最高裁平成18年判決とは事案を異にするというべきである。本件のように,新株を発行した会社と当該新株を引き受けた者との間に「取引」が存在するということができるのは明らかであって,原告の上記主張は到底採用することはできない。
(3) また,原告は,企業会計原則においては,新株の取得価額(払込価額)と適正な価額との差額を収益として計上することを予定していないから,本件各処分は法人税法22条4項に反すると主張する。
しかしながら,法人税法22条4項は,その文言に照らせば,同条2項に規定する「収益の額」について,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきことを注意的に規定したものにすぎないというべきであって,同項にいう「益金」を企業会計原則において収益として計上する範囲に限定したものと解するのは相当ではない。そして,同項は,前記のとおり「資産の販売,有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受け」と規定して取引の種類を列挙するものの,これは単なる例示にすぎないというべきであり,同項の規定の文言に示されているように,資本等取引以外の取引において生じた収益はすべて益金を構成するというべきである。すなわち,同項にいう「益金」とは,資本等取引を除く取引によって生じた収益をすべて包含する包括的概念であるから,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準が収益の額として算入することを求めているもののみが「益金」に当たるというものではないというべきである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(4) 以上によれば,新株の発行について,法人税法22条2項の適用がないという原告の主張には理由がなく,新株の時価と払込価額との差額部分は,同項にいう「益金の額」を構成するということができる。
3 争点(3)(本件各株式の時価と払込価額の差額が原告の「益金の額」を構成するか。)について
(1) 有価証券の価額の算定方法について
法人税基本通達9-1-13(4)は,法人税法33条2項の規定を適用して非上場株式で気配相場のないものについて評価損を計上する場合に,当該株式に売買実例がなく,その公開の途上になく,その発行法人と事業の種類,規模,収益の状況等が類似する法人がないときは,事業年度終了の時における当該株式の価額は,当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額による旨を定めている。
もっとも,このような一般的かつ抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難であり,他方,財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法は,相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し,課税実務上も定着しているものであるから,これと著しく異なる評価方法を法人税の課税において導入すると,混乱を招くこととなる。このような観点から,法人税基本通達9-1-14は,財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法を,原則として法人税課税においても是認することを明らかにするとともに,この評価方法を無条件で法人税課税において採用することには弊害があることから,1株当たりの純資産価額の計算に当たって株式の発行会社の有する土地を相続税路線価ではなく時価で評価するなどの条件を付して採用することとしている。したがって,財産評価基本通達185が定める1株当たりの純資産価額の算定方式を法人税課税においてそのまま採用すると,相続税や贈与税との性質の違いにより課税上の弊害が生ずる場合には,これを解消するために修正を加えるべきであるが,このような修正をした上で財産評価基本通達所定の1株当たりの純資産価額の算定方式にのっとって算定された価額は,一般に通常の取引における当事者の合理的意思に合致するものとして,法人税基本通達9-1-13(4)にいう「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」に当たるというべきである。そして,このように解される同通達9-1-13(4)及び9-1-14の内容は,法人の収益の額を算定する前提として株式の価額を評価する際においても,合理性を有するものとして妥当するというべきである(最高裁平成18年判決参照)。
(2) 取得した株式の価額の算定方法
ア 法人の収益の額を算定する前提として,株式の価額を算定する場合においても,株式譲渡損益の計算に関する規定を用いるのが合理的であるところ,法人税法61条の2第10項を受けた法人税法施行令119条1項3号は,有利な発行価額で新株が発行された場合について「その有価証券の当該払込みに係る期日における価額」をもって,当該有価証券の取得価額であると規定している。そして,発行された有価証券の価額が「有利な発行価額」に当たるか否かについて,法人税基本通達2-3-7は,当該有価証券の発行価額を「決定する日の現況における当該発行法人の有価証券の価額」(発行価額決定日の時価)に比して社会通念上相当と認められる価額を下回る価額で発行されているか否かで判定するものと定めており,法人税基本通達2-3-7(注)1によれば,当該株式の時価と発行価額との差額が当該株式の価額のおおむね10%相当額以上であるか否かによって判定することと定めているところ,上記通達の定めは,発行された株式の価額が「有利な発行価額」に当たるか否かについての判定方法として合理性を有するものとして妥当するということができる。
そして,タイの民商法典1220条が「非公開株式会社は株主総会の特別決議によって新株式発行による増資を行なうことができる。」と規定しており(乙23),P3社及びP2社の各付属定款においても増減資は株主総会の特別決議により行うとされ(甲76,77),実際にも本件2社株の発行は本件2社の臨時株主総会の決議という手続を経て行われているということができる(甲26,37)から,本件2社株の発行価額を決定した日は,上記各臨時株主総会の決議が行われた日というべきである。
また,発行価額決定日の時価の算定に当たっては,同日に最も近接した時期に作成された財務諸表の数値を用いるのが合理的であるということができるから,期末に作成された確定決算書よりも近接された時期に作成された四半期決算書等の財務諸表がある場合には,当該財務諸表がその当時の帳票類に基づいていて,その正確性に特段の疑いがない限り,当該四半期決算書等の数値に基づいて時価を算定するのが相当である。
イ(ア) この点について,原告は,本件2社株の発行価額を決定した日は,本件社長室会の日(平成15年10月7日)であると主張する。しかし,本件2社が本件社長室会の決定した方針に従って本件2社株を発行しているとしても,前記アのとおり,タイ法人である本件2社は,タイの法律上,株主総会の特別決議を経なければ株式を発行することができないから,本件2社の株主総会の特別決議がなければ本件2社株を発行することは不可能であったといわざるを得ない。そして,前記アのとおり,本件2社の各付属定款においても増減資は株主総会の特別決議により行うとされ,実際にも本件2社株の発行はそれぞれ会社の臨時株主総会の決議を経て行われている。したがって,発行価額の決定日についても,上記各臨時株主総会決議の日であるというべきであって,原告の上記主張は採用できない。
(イ) 原告は,タイのボラティリティ等を考慮すれば,株式の時価を算定するに当たっては,未確定の四半期決算資料ではなく,直近の期末確定決算書の数字を用いることに合理性があるなどと主張する。
しかしながら,前記アのとおり,新株の時価を算定するに当たり,当該株式の発行された時期に近い財務諸表を用いて計算した価額が最も信用できる価額であるというべきである。そして,四半期ごとに作成される財務諸表であっても,通常,その当時の帳票類に基づいて作成されたものであって,その正確性も担保されているというべきであるから(なお,原告は,本件2社の四半期決算書等の財務諸表について,正確性に特段の疑いがある旨を主張をするものではない。),確定決算書であるか否かに拘泥する必要はなく,仮に,タイがボラティリティの高い国であるというのであれば,経済情勢の変動等の影響を正確に反映させる必要があるというべきであり,むしろより近い時期の財務諸表の数値を用いるのが相当であるというべきである。
また,原告は,法人税基本通達9-1-13(4)によれば,有利発行か否かの判定に当たっては,「当該新株の発行価額の決定日」又は「同決定日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時」における1株当たりの純資産価額を参酌すべきことになり,事業年度末に作成される確定決算書を用いないのは同通達に反するなどと主張する。
しかしながら,法人税基本通達9-1-13は,法人税法33条2項の規定を適用して非上場株式で気配相場のないものについて評価損を計上する場合に係る解釈通達であって,前記のとおり,「当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」と定めているものである。発行された新株が有利発行に当たるか否かを判定する場合について,その新株の時価を算定する解釈通達は定められていないため,上記通達を準用するのが相当であるが(法人税基本通達2-3-9(3)参照),法人税基本通達9-1-13(4)の「当該事業年度終了の日」を「当該新株の発行価額の決定日」に読み替えて適用するということが特に定められているものではないから,「当該新株の発行価額の決定日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時」における1株当たりの純資産価額を参酌すべきであるという原告の主張は採用することができず,四半期決算資料を用いたことが上記通達に違反するということはないというべきである。
なお,仮に,原告の主張に従い,本件2社株の発行価額を決定した日が本件社長室会の日であると解した上,その日の時価について直近の確定決算書を用いて算定するとすると,本件2社株の発行価額が「有利な発行価額」に当たるか否かについて,上記各株式が発行された日(平成16年4月30日及び同年12月20日)よりも1年以上も前である,平成14年12月期の確定決算書を用いることになるところ,そのような算定方法がより合理的なものということはできない。
以上によれば,原告の上記各主張については,到底採用することはできない。
(3) 本件2社株の発行価額が「有利な発行価額」に当たるかについて
ア 本件P3社株について
本件P3社株の発行は,平成16年3月26日に開催されたP3社の同年第1回臨時株主総会において,P3社の普通株式94万5000株及び優先株式98万4000株を,それぞれ,1株当たり1000バーツで発行することが可決されたことに基づくものであり(甲26),原告は,同年4月30日,支払対価としてP3社に9億4500万バーツを払い込んで,P3社の普通株式94万5000株を取得している(甲28)。
そこで,P3社及び同社が保有する株式の発行会社(当該発行会社が保有する株式の発行会社を含む。)の財務諸表のうち,P3社の株主総会が本件P3社株の発行の承認を行った平成16年3月26日の前で最も近い日を基準に作成されたものと認められる同15年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成15年12月期」という。)の財務諸表を基にP3社株式の1株あたりの純資産価額の算定を行うと,1681バーツと算定することができる(乙1の1。具体的な算定方法については,別紙7及び8参照)。
そうすると,発行価額1000バーツとの差額681バーツは,1株あたりの純資産価額1681バーツの40.51%となり,当該株式の時価と発行価額との差額が当該株式の時価のおおむね10%相当額を大きく上回るものであるということができる。
イ 本件P2社株について
本件P2社株の発行は,平成16年11月22日に開催されたP2社の同年第5回臨時株主総会において,P2社の普通株式137万2000株を1株当たり1000バーツで発行することが可決されたことに基づくものであり(甲37),原告は,同年12月20日,支払対価としてP2社に13億7200万バーツを払い込み,P2社の普通株式137万2000株を取得している(甲38)。
そこで,P2社及び同社が保有する株式の発行会社の財務諸表のうち,P2社の株主総会が本件P2社株の発行の承認を行った平成16年11月22日の前で最も近い日を基準に作成されたものと認められる同年1月1日から同年9月30日までの期間の財務諸表(以下「平成16年9月末現在の財務諸表」という。)を基にP2社株式の1株あたりの純資産価額の算定を行うと,3266バーツと算定される(乙3の5。具体的な算定方法については,別紙9及び10参照)。
そして,発行価額1000バーツとの差額2266バーツは,1株あたりの純資産価額3266バーツの69.38%となり,当該株式の時価と発行価額との差額が当該株式の時価のおおむね10%相当額を大きく上回るものであるということができる。
ウ 以上によれば,本件2社株の発行価額は,いずれも,法人税法施行令119条1項3号にいう「有利な発行価額」に当たるということができる。
(4) 本件2社株の取得による「益金の額」について
前記(3)のとおり,本件2社株の発行価額はいずれも「有利な発行価額」に当たることから,原告の払込金額と上記各株式の「払込みに係る期日における価額」の差額は,上記各株式の取得により発生する「益金の額」となる。そして,本件2社株の取得により原告の益金の額に算入される収益の額は,以下のとおり,合計120億6192万6240円となる。
ア 本件P3社株について
本件P3社株の取得に係る払込日である平成16年4月30日の現況におけるP3社株式の1株当たりの価額の算定は,P3社及び同社が保有する株式の発行会社(当該発行会社が保有する株式の発行会社を含む。)の財務諸表のうち,同日の前で最も近い日を基準に作成されたものと認められる同年3月末現在の財務諸表に基づき,1株当たりの純資産価額を算定することによって行うのが相当である。
そこで,同年3月末現在の財務諸表に基づいて,同年4月30日における本件P3株式の1株あたりの純資産価額を算定すると,2442バーツになる(乙1の2。具体的な算定方法については,別紙7及び8参照)。
したがって,本件P3社株の取得に係る原告の益金の額に算入される金額は,上記金額2442バーツと発行価額1000バーツとの差額1442バーツに,原告が取得した株式数(94万5000株)を乗じて算定された金額13億6269万バーツを同日の電信売買相場の仲値(1バーツ=2.76円)で円換算した37億6102万4400円となる(弁論の全趣旨)。
イ 本件P2社株について
本件P2社株に係る払込日である平成16年12月20日の現況におけるP2社株式の1株当たりの価額の算定は,P2社及び同社が保有する株式の発行会社の財務諸表のうち,同日の前で最も近い日を基準に作成されたものと認められる同年9月末現在の財務諸表に基づき,1株当たりの純資産価額を算定することによって行うのが相当である。
そこで,平成16年9月末現在の財務諸表を基に,同年12月20日における本件P2株式の1株当たりの価額を算定すると,3266バーツとなる(乙3の5。具体的な算定方法については,別紙9及び10参照)。
したがって,本件P2社株の取得に係る原告の益金の額に算入される金額は,上記金額3266バーツと発行価額1000バーツとの差額2266バーツに,原告が引き受けた株式数(137万2000株)を乗じて算定された金額31億0895万2000バーツを同日の電信売買相場の仲値(1バーツ=2.67円)で円換算した83億0090万1840円となる(弁論の全趣旨)。
(5) 原告のその他の主張について
ア 原告は,①本件各株式の発行価額決定日である本件社長室会(平成15年10月7日開催)においてP2社の剰余金を最終的に原告に配当することが計画されていたこと,②タイ民事商事法典上,新株発行は額面発行が原則であり,本件各社には,額面超過額による新株発行を可能とする定款の定めがなかったこと,③タイにおける額面超過額の取扱いが不明確であったこと,④本件各社の定款には株式の譲渡制限の定めがあったこと,⑤P2社の取締役会が株式譲渡を承認しない場合の買取価格につき,あらかじめ定款の定めにより株式の処分価額が著しく低く定められる危険性があったこと,⑥本件社長室会の当時,本件各社の業績が悪化する可能性があったこと,⑦P2社の株式が平成15年3月にP9ほか4名に対して1株当たり1000バーツで譲渡されたという売買実例があることなどの諸事情が,本件2社株の時価を更に引き下げる要因になるなどと主張する。
しかし,原告の上記各主張は,以下のとおりすべて採用することができない。
(ア) 前記①の主張(P2社の剰余金が配当予定)について
まず,本件P2社株の発行が有利発行に当たるか否か及びその「益金の額」ついては,前記(3)イ及び(4)イのとおりP2社の平成16年9月末現在の財務諸表を算定根拠としているところ,P2社は,同年9月7日及び同月8日に28億5510万9071.52バーツを中間配当として支出している(乙17)のであるから,上記各中間配当については,いずれも上記各財務諸表に反映されているということができる。したがって,前記のとおり算定した本件P2社株の1株当たりの価額は,純資産価額から株主への配当金を控除したものであるということができる。
次に,本件P3社株については,その発行が有利発行に当たるか否かについては,前記(3)アのとおりP3社の平成15年12月期の財務諸表を算定根拠としており,その「益金の額」については,前記(4)アのとおり同年3月末現在の財務諸表を算定根拠としているから,いずれにおいてもP2社が同年9月7日及び同月8日に支出した中間配当を考慮していないということができる。しかし,P3社が保有するP2社株式について,将来,剰余金の配当が予定されているということは,それに応じて配当に見合う利益をP3社が享受できるということであるから,P3社の純資産額に基づいて同社の株式価額を算定するに当たって,P2社の将来の配当予定を考慮して,これを減価することは相当ではないというべきである。
なお,原告の前記①の主張は,本件2社株の発行価額決定日について,本件社長室会の開催日であることを前提とした上で,同日後に実施されたP2社の配当を,本件2社株の発行価額決定日の時価の算定について考慮すべきであるとの主張であると解されるが,本件2社株の発行価額の決定日は,前記のとおり,本件2社の臨時株主総会日であると解すべきであるから,原告の主張はその前提においても失当である。
以上によれば,原告の前記①の主張は採用できない。
(イ) 前記②及び③の主張(タイにおける額面発行の原則等)について
原告の前記②の主張は,タイの法律上,新株の発行においては額面額発行が予定されており,本件2社株についても,これに基づいて額面額で発行されていることを指摘するにすぎず,本件2社株の額面価額(1株1000バーツ)が,それぞれの時価であったことを裏付ける事情であるということはできない。
(ウ) 前記④及び⑤の主張(株式の譲渡制限等)について
本件2社株は,いずれも,親会社である原告に対して発行されたものであるところ,本件2社が原告の連結決算上の連結子会社であって,原告や社長室会の意向に沿って行動することが予想されるものであるから,本件2社株の取得者である原告が当該株式を譲渡する場合に本件2社の取締役会の承認が得られないということはおよそ考え難い。したがって,本件2社の定款上,株式の譲渡制限の定め等があるとしても,原告との関係では特にこれを考慮する必要はないというべきであって,これを本件2社株の時価を算出するに当たって,特段の減額要因として考慮することは相当ではない。
(エ) 前記⑥の主張(業績悪化の可能性)について
前提事実によれば,平成9年7月,バーツの下落に伴いP2社の売上げが低下し,同年及び同10年においては多額の損失を計上するようになり,同11年には債務超過になるなど,厳しい経営が続いていたものであるが,同14年ころまでにはP2社の業績が回復していたことが認められる。また,本件社長室会に提出された申立書には,平成15年前半には累積損失の解消を実現したとの記載があり,同年には,P2社等の業績が好調であることから,32億バーツ全額を原告等に還流することができると判断したなどとの記載があることが認められる(甲13)。
以上の事実によれば,本件社長室会当時,本件2社の業績が悪化する可能性が具体的なものとしてあったと認めることはできない。
(オ) 前記⑦の主張(P2株の額面による売買実例)について
証拠(甲70の1から5まで)によれば,P3社は,平成15年3月21日,P9に対しP2社株式14万4000株を,P10に対し同4万8000株を,P11に対し同1万6000株を,P12に対し同1万6000株を,また,P13に対し同1万6000株を,いずれも額面価額(1株1000バーツ)で譲渡したことが認められる。
しかしながら,証拠(甲70の1から5まで,乙14から16)及び弁論の全趣旨によれば,上記各譲受人は,P2社創設時からのパートナーとして密接な関係にあるP14家,P15家又はP16家の者であり(なお,上記3家は,「三社友」と呼ばれている。),P9はP2社の会長として,また,P10はP2社の役員として,それぞれ原告のホームページ上で紹介されていること,上記各譲渡は,P2社に対して,P17による出資参画が懸念されていた状況下において,P17のP2社の経営への影響力を排除する目的でされたものであること,上記取得に係る資金についてはP3社が上記各譲受人に融資し,その返済をP2社株の配当により行うものとされ,上記各譲受人は実質的には何らの出捐をしていないことなどの事実が認められる。以上の事実によれば,上記各P2社株式の譲渡については,いずれも上記各譲受人に有利な価額で譲渡されたものであると推認することができるというべきであり,少なくとも,1株1000バーツという額面価額が,客観的な交換価値として不特定多数の独立した当事者間の自由な取引において通常成立する時価であると認めることはできない。
イ 原告は,新株主が既存株式を保有等する場合には,既存株式に希薄化損失が生ずるから,その額を控除すべきであると主張する。
しかしながら,原告の主張する希薄化損失とは,本件2社株の発行により,同各株式の発行会社の既存株主であるP5社,P4社,P3社及び原告が保有する既存の株式の価値が減少し,その結果,原告が保有する本件各子会社の株式の価値が減少したこと,すなわち含み益が減少したことをいうものであると解される。この点,法人税法は,原則として実現した利益のみが所得であるという考え方(実現原則)を採用し,未実現の利益を課税の対象から除外しており(法人税法25条1項),法人の保有資産に内在する含み益の増減は課税上考慮しないこととしているから,これを課税上考慮することはできない。
ウ 原告は,本件P3社株の引受けの際にも,本件P2社株の引受けの際にも,本件P2社株の含み益相当額を益金計上(純資産価額の増加)の基礎としていることが,同一資産価値の二重評価である旨主張する。
しかしながら,平成16年4月30日の本件P3社株及び本件P4社株の引受けに関して課税対象となっているのは,当該各株式の引受けによって実現した利益であるところ,その利益が時価と発行価額(払込価額)との差額と同額であり,時価の算定において純資産価額評価法を採用していることから,P3社が保有するP2社株式の含み益も純資産を構成する要素として「計算の対象」となっているのである。他方,同年12月20日の本件P2社株の引受けに関して課税対象となっているのは,当該株式の引受けによって実現した利益であり,同年4月30日の株式引受けに関して課税されたものとは別個の株式である。すなわち,同年4月30日の本件P3社株及び本件P4社株並びに同年12月20日の本件P2社株の引受けの際,いずれにおいてもP2社株式の含み益が計算されているが,これは同一の利益を二重に評価して課税しているわけではなく,課税対象は,それぞれにおいて実現した利益であって別個であり,単に,利益額の計算に当たって,純資産価額評価法を採用し,いずれの会社もP2社株式の含み益を保有しているために,P2社株式の含み益という同一項目が計算されているにすぎない。したがって,原告の主張には理由がない。
また,原告は,株式の評価を純資産価額方式で行う場合は,法人税額相当額を控除すべきである旨主張する。相続税の分野における株式の評価については,個人が直接資産を保有する場合と,会社を通じて間接的に保有する場合(当該会社が解散して当該資産が直接個人に帰属する場合)との均衡を保つため,会社が清算した際の法人税額控除額を算定し,それを資産価値から控除することとされている。これに対し,法人税課税における株式の評価については,会社が継続的に事業活動を行うことを前提として,当該会社の正味資産の価額を参酌して算出した通常取引される価額を算定するものであるから,必ずしも,上記の趣旨が妥当するということはできないというべきである。そして,このような考え方に基づいて,平成12年課法2-7による改正により,法人税課税における1株当たりの純資産価額の評価に当たり法人税額等相当額を控除しないこととされるに至ったものであるところ(法人税法基本通達9-1-14(3)),平成17年当時においては,法人税課税における株式の評価については法人税額等相当額を控除しないという取扱いが課税実務上定着していたものということができ,そのような取扱いについて合理性を認めることができるというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
4 所得金額及び納付すべき法人税額並びに過少申告加算税額について以上に述べたところに従い,原告会社の所得金額及び納付すべき法人税額並びに過少申告加算税額を算定すると,次のとおりとなる。
(1) 所得金額 597億0562万9560円
上記金額は,次のアの金額にイの金額を加算し,ウの金額を控除した金額である。
ア 確定申告における所得金額 471億8818万9113円
イ 所得金額に加算すべき金額 126億9729万1911円
上記金額は,次の(ア)から(ケ)までの金額の合計額である。
(ア) 有価証券の取得に係る利益の計上漏れ金額 120億6192万6240円
上記金額は本件2社株の取得に係る利益の計上漏れである。
(イ) 仕入過大計上額 4億6611万3078円
(ウ) 事業税の損金算入過大額 2160万5400円
(エ) 営業費のうち損金の額に算入されない額 871万6519円
(オ) 減価償却費のうち損金の額に算入されない額 65万3681円
(カ) 為替差益計上漏れ額 42万3272円
(キ) 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額 62万2071円
(ク) 国外関連者に対する寄附金の損金不算入額 1億3722万8446円
(ケ) 雑益計上漏れ 3204円
ウ 所得金額から減算すべき金額 1億7985万1464円
上記金額は,次の(ア)から(ウ)までの金額の合計額である。
(ア) 売上過大計上額 1億2532万5829円
(イ) 事業税の損金算入認容額 5208万9100円
上記金額は,次のa及びbの金額の合計額である。
a 本件更正処分に伴い増加した事業税の額 30万5900円
b 本件再更正処分に伴い増加した事業税の額 5178万3200円
(ウ) 控除対象外国法人税額の益金算入過大額 243万6535円
(2) 所得金額に対する法人税額 179億1168万8700円
上記金額は,前記(1)の所得金額(国税通則法118条1項の規定に基づき1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に法人税法66条1項に規定する税率を乗じて計算した金額である。
(3) 法人税額の特別控除額 3億8820万2250円
上記金額は,本件確定申告書に記載された金額と同額である。
(4) 法人税額から控除される所得税額等 250億3738万4111円
上記金額は,次のア及びイの金額の合計額である。
ア 法人税法68条に規定する法人税額から控除される所得税額等の金額93億0329万7866円
イ 法人税法69条に規定する法人税額から控除される外国税額の再計算後の金額 157億3408万6245円
(5) 納付すべき税額等 △96億9685万5561円
上記金額は,次のア及びイの金額の合計額である。
ア 納付すべき税額(法人税額から控除される所得税額等の金額のうち控除しきれなかった額) △75億1389万7661円
上記金額は,前記(2)の所得金額に対する法人税額179億1168万8700円から前記(3)の法人税額の特別控除額3億8802万2250円を控除し,さらに,前記(4)の法人税額から控除される所得金額250億3738万4111円を控除した結果,控除しきれなかった金額である。
イ 中間申告分の法人税額 △21億8295万7900円
上記金額は,本件確定申告書に記載された金額である。
(6) 過少申告加算税額
有価証券の取得に係る利益の計上漏れ金額は,本件更正処分(本件裁決により一部取り消された後の金額)において加算された金額である(別紙5順号2参照)ところ,その正しい金額は,前記(1)イ(ア)のとおり120億6192万6240円であるため,本件更正処分の付帯税である過少申告加算税については,上記金額に基づいて本件更正処分によって新たに納付することになる法人税額を再計算をした上で,過少申告加算税額を算出する必要がある。
そして,上記金額に基づいて本件更正処分によって新たに納付することになる法人税額を再計算すると,以下のとおり16億3770万2414円となるから,これに対して100分の10の割合(国税通則法65条1項に規定する割合)を乗じて算出した金額(ただし,国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)は,1億6377万円となる。
ア 有価証券の取得に係る利益の計上漏れ金額は,前記のとおり,120億6192万6240円であるところ,本件更正処分においては,122億2565万8200円(本件裁決により一部取り消された後の金額)であったから,その差額1億6373万1960円が過大に更正されたこととなる。
イ 本件更正処分に係る所得金額(本件裁決により一部取り消された後の金額)は,597億8391万3070円から,前記アの差額を差し引いた596億2018万1110円となる。
ウ 本件更正処分に係る所得金額に対する法人税額(本件裁決により一部取り消された後の金額)は,前記イの金額の1000円未満の端数を切り捨てた金額に30%の法人税率を乗じた178億8605万4300円となる。
エ 法人税額の特別控除額は,本件確定申告書の3億8820万2250円である。
オ 法人税額から控除される所得税額等は,本件確定申告書の93億0329万7866円となる。
カ 法人税額から控除される外国税額は,前記アの所得金額の変動による法人税額を基に再計算すると,157億4806万6845円となる。
キ 納付すべき税額は,前記ウからエないしカを控除したマイナス75億5351万2661円となる。
ク 納付すべき税額から中間申告分の法人税額21億8295万7900円(別紙3⑧参照)を控除した額は,マイナス97億3647万0561円となり,本件確定申告書に記載された差引納付すべき又は減少する法人税額(別紙3⑨参照)マイナス113億7417万2975円との差額は,16億3770万2414円となる。
第4結論
よって,原告の請求は,主文第1項及び第2項の限度で理由があるからその限度でこれを認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉原則彦 裁判官 波多江真史 裁判官 家原尚秀)