東京地方裁判所 平成2年(ワ)10295号 判決 1995年1月20日
東京都東大和市狭山五丁目一六五七番地
第一事件原告、第二事件被告、第三事件反訴原告
(以下、主文を除き「原告」という。)
株式会社河合美肌研究所
右代表者代表取締役
中村和雄
右訴訟代理人弁護士
宮本智
東京都世田谷区北烏山八丁目一三番二三号
第一事件被告、第二事件原告、第三事件反訴被告
(変更前の商号 株式会社河合美研)
(以下、主文を除き「被告」という。)
株式会社サンエイコスメティック
右代表者代表取締役
藤森幸子
静岡県富士市川成島五五三番地の一七
第一事件被告(以下、主文を除き「被告」という。)
株式会社ラビアンプロ
右代表者代表取締役
井上政一
右被告ら訴訟代理人弁護士
小坂重吉
同
山崎克之
主文
1 第一事件原告、第三事件反訴原告の第一事件請求及び第三事件反訴請求をいずれも棄却する。
2 第二事件被告は、第二事件原告株式会社サンエイコスメティックに対し、金五二五七万五三五五円並びに内金四六四七万七一六八円に対する平成二年八月三日から支払済みまで年六分の割合による金員及び内金六〇九万八一八七円に対する平成六年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
3 第二事件原告株式会社サンエイコスメティックのその余の第二事件請求を棄却する。
4 訴訟費用は、全事件を通じて第一事件原告、第二事件被告、第三事件反訴原告の負担とする。
この判決は、第2項に限り仮に執行することができる。
事実
(第一事件について)
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して金四一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第1項について仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 請求原因
一 当事者
原告及び被告らは、いずれも化粧品等の製造、販売を目的とする会社である。
二 原告の営業表示
原告代表者は、個人で昭和五〇年頃から化粧品の販売等を営んでいたところ、昭和五五年一月に原告を設立してそれ以来原告がその営業を引き継いだものであるが、原告はこれまで、洗顔クリーム、化粧水、クレンジングクリームなどの化粧品を販売するに際し、包装、容器や宣伝用パンフレット、テレビ、ラジオのマスメディアにおける宣伝等において、商号である「株式会社河合美肌研究所」及び右商号の略称である「河合美研」を営業表示として使用してきた。
三 原告営業表示の周知性
1 原告の商圏は主に関東全域であり、原告の営業方法は、ダイレクトメールによる通信販売で、店頭販売はしないため、原告の名称及び商品名をどれだけ消費者に周知させるかが売上に決定的な影響を及ぼす。そこで原告は、宣伝広告方法としては、新聞折込みなどのパンフレット及びチラシ等によるものを第一とし、それと並行してラジオ、テレビ、雑誌等による宣伝広告を関東地方全域にわたって行い、会社名、商品名を周知させる宣伝活動に多大な努力を払ってきた。
2 原告の営業表示である「株式会社河合美肌研究所」及び「河合美研」は、原告の営業活動を表示するものとして、遅くとも昭和五六年頃までには、関東全域及び静岡県を含むその周辺地域の一般消費者に周知となり現在に至っている。
四 被告らの営業表示
被告株式会社サンエイコスメティック(以下「被告サンエイコスメティック」という。)は、平成元年一月頃から平成二年六月頃までの間、営業表示として商号「株式会社河合美研」(以下「被告営業表示」という。)を使用して化粧品を製造し、被告株式会社ラビアンプロ(以下「被告ラビアンプロ」という。)に化粧品を販売し、被告ラビアンプロは右の営業表示の使用された化粧品を、一般消費者に販売した。
五 両者の類似性
原告の営業表示と被告営業表示とを対比すると、両者が類似していることは明らかである。
六 混同のおそれ、営業上の利益が害されるおそれ
原告と被告らの営業活動は、共に化粧品販売であり、市場において競争関係にある。したがって、被告らが右営業表示を使用することにより、原告と被告らの営業が混同され、原告の営業上の利益が害されるおそれがある。
そのことは、平成元年三月頃から、「株式会社河合美研」の商号が被告ラビアンプロの販売にかかる化粧品の製造元として使用されたため、原告の顧客が誤って被告ラビアンプロに発注したり、被告らの製造、販売した化粧品に対するクレームが、原告に頻繁に持ち込まれるなどの事実が発生したことからも明らかである。
被告らは混同の事実を否認するが、被告ラビアンプロの販売商品の何か特徴的な包装に顧客が注目して購入するわけではないし、専門業者相手の問屋なら、なおさら製造会社名に注目して購入するものであり、混同のおそれはある。被告らが主張する主な販売先である美容室等においては来店した女性に対し化粧品の販売もしており、この点における混同のおそれもある。
七 被告サンエイコスメティックがそもそも商号「株式会社河合美研」を使用するに至った経緯は次のとおりである。
被告サンエイコスメティックの元々の商号は株式会社サンローヤルジャパンであった。原告と、被告サンエイコスメティックは昭和五五年九月頃から取引を始めたが、昭和五八年六月頃からは、原告が同被告を、原告の販売する化粧品の原料製造の専属下請製造工場として、本格的に使用するようになった。その際原告は同被告に対し、当時既に原告の営業表示として周知性を獲得していた河合美研の商号を使用することを特別に許諾した。
すなわち、原告は顧客の信頼感を得ることとイメージアップのための方法を考えていたが、原告の略称としての「河合美研」を名称とする会社を製造元会社とすれば、販売元の原告名と相まってすべて原告の一貫した製品管理の下に販売されているとの化粧品に対する信頼感を消費者に与えるだろうと考えた。
そこで、原告は、昭和五八年三月頃被告サンエイコスメティック(当時の商号は株式会社サンローヤルジャパン)の実質的な経営者である藤森利美(以下「藤森」という。)に対し右のように商号を変更するよう要請したが、その際原告代表者は藤森に対し、いかなる理由があろうとも他社へ化粧品を供給する際は「株式会社河合美研」の営業表示を使用してはならないと伝えた。
右許諾に基づき被告サンエイコスメティックは、昭和五八年六月一六日、商号を「株式会社河合美研」に変更し、これを使用するようになった。
しかし平成元年一月頃から、被告サンエイコスメティックは、原告と市場において競争関係にある被告ラビアンプロに対しても化粧品原料を供給するようになり、被告ラビアンプロは「発売元株式会社ラビアンプロ」、「製造元株式会社河合美研」と表示した容器、包装を使用して、化粧品を販売した。右は原告が被告サンエイコスメティックに対し「河合美研」の名称の使用を許諾した趣旨、即ち「河合美研」なる名称を原告の営業上の利益に対し損害を生じさせない範囲内で行使するというものに反し、被告サンエイコスメティックの被告営業表示の使用は、原告の許諾の範囲外の使用である。
藤森は昭和六三年五月頃と平成元年二月頃、原告に対し、他社の化粧品を製造したいので了解して欲しいといってきたが、原告はこれを拒絶した。しかし平成元年二月頃には、被告サンエイコスメティックは被告ラビアンプロに対し、河合美研名で化粧品の供給を始めていたものである。
八 被告らは、被告サンエイコスメティックの被告営業表示を使用した右のような各化粧品の製造、販売行為が不正競争行為になることを知り、または知り得たのに過失により知らないで、各不正競争行為をし、原告の営業上の利益を害し原告に損害を発生させたので、原告の損害を賠償すべき義務がある。
九1 原告と被告らは、化粧品市場において競争関係にあり、被告サンエイコスメティックが製造、販売した化粧品は、原告化粧品の代替品として販売されているので、被告サンエイコスメティックが被告ら化粧品の販売行為により挙げた利益が、原告が被告らの行為により被った損害である。そして被告サンエイコスメティックは遅くとも平成元年一月以降、被告ラビアンプロに対し化粧品の販売を始め、平成二年六月頃までに少なくとも金三六〇〇万円の利益を得た。
2 原告は本訴及び仮処分費用として代理人弁護士に、次の費用を支払い、あるいは、支払う約束をした。
着手金(支払済み) 仮処分費用 一〇〇万円
本訴費用 一五〇万円
報酬 右金額と同額 二五〇万円
一〇 よって、原告は被告らに対し、不正競争防止法二条一項一号、四条、平成五年法律第四七号附則二条に基づき、連帯して右損害額合計四一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三 請求原因に対する認否及び抗弁
一 請求原因一は認める。
二 請求原因二は、原告が昭和五五年一月に設立された株式会社であり、化粧品として、洗顔クリーム、化粧水、クレンジングクリームなどを販売するに際し、包装、容器及び宣伝用パンフレット、テレビ、ラジオなどにおける宣伝において、商号として「株式会社河合美肌研究所」を使用してきたことは認め、原告が営業表示として「河合美研」を用いていたとの点を否認し、その余は知らない。
原告が商号の略称である営業表示として用いてきたのは、「カワイ化粧品」であり、「河合美研」という表示は、昭和五八年六月頃から平成二年初頭まで七年間にわたって、原告が販売する化粧品の製造元が被告サンエイコスメティック(当時の商号は株式会社河合美研)であることを示すため表示されてきたものである。このことは、原告の販売する商品である化粧品の容器及び包装に、発売元として原告の商号、住所と共に、製造元として株式会社河合美研の商号、住所が併記されて、原告とは別の「河合美研」を商号とする会社が製造していることを明示してきたことからも明らかである。原告が「河合美研」を略称として使用することはなかったし、化粧品業界及び顧客においても原告を呼ぶときに「河合美研」を略称として使用することはなかった。
三 請求原因三1中、原告の商圏が主に関東全域であること、原告の営業方法がダイレクトメールによる方法で店頭販売はしないこと、原告の宣伝方法が、新聞折込みなどのパンフレット及びチラシ等によるものを第一としていることは認め、その余は知らない。同2は否認する。
原告の本店は、昭和六〇年九月頃までは東京都東大和市にあったが営業規模も小さく、昭和六〇年になって規模を拡大してきたもので、現在でもそれほど知名度のある会社ではないが、ましてや昭和五六年ないし五八年頃の原告の知名度はほとんどなかった。
四 請求原因四は認める。
五 請求原因五は争う。
六 請求原因六は否認する。
原告は販売会社であり、被告サンエイコスメティックは製造会社であって、営業範囲は異なる。また昭和五八年六月以降平成二年初頭まで、「河合美研」は被告サンエイコスメティックの営業表示として使用されて、原告とは別個の会社であることが表示されてきたものであるから、両者が別の営業主体であることは化粧品業界だけでなく一般顧客にとっても容易に識別できる。
また被告ラビアンプロの販売する商品と原告の商品とは、包装の外観、材質において異なっており、一見して混同の余地はない。
被告サンエイコスメティックが原告に供給した製品と被告ラビアンプロに供給した製品は、使用原料及び製法において全く異なるものである。そして原告は一般消費者に対して販売しているのに対し、被告ラビアンプロは美容院や理髪店等の美容専門業者に対して販売しているのであるから、市場における競争関係はない。
なお薬事法六一条によれば、化粧品の製造業者は容器などに製造業者の氏名又は名称及び住所を記載することが義務づけられている。したがって、被告サンエイコスメティックが、被告商品の容器に、当時の自己の商号を付することは、薬事法に定められた化粧品製造業者の順守すべき行為であり、非難されるようなものではない。
七 請求原因七は被告サンエイコスメティックの元々の商号は株式会社サンローヤルジャパンであったこと、被告サンエイコスメティックが昭和五八年六月一六日、商号を「株式会社河合美研」と変更したこと、被告サンエイコスメティックが昭和六三年九月頃から被告ラビアンプロに化粧品を供給し、そのころから被告ラビアンプロが「発売元株式会社ラビアンプロ」、「製造元株式会社河合美研」と表示した容器、包装を使用して化粧品を販売するようになったことは認め、その余は否認する。
そもそも被告サンエイコスメティックは原告の専属の下請工場ではない。また被告サンエイコスメティックは、原告に対し化粧品の原料ではなく、完成品を供給していたものである。被告ら両名間で取引を開始する前には、原告にその旨の通知をしてある。
被告サンエイコスメティックは昭和五八年一月六日、原告との間で継続的取引契約をしたが、その際、原告の主張するような商号の使用許諾ということはなく、単に製造供給契約が結ばれただけである。
藤森は、昭和五八年六月、被告の商号を「株式会社河合美研」に変更した。それは当時原告も被告サンエイコスメティックも小規模会社で知名度が低かったため、グループ会社らしく見せて社会的に信用力を少しでも増加させようとして、「河合」という名称を共に使用することにしたのである。被告サンエイコスメティックの商号変更について原告の許諾を受けたことはなく、ましてやその商号の使用について条件が付されたこともない。
八 請求原因八は否認する。
九 請求原因九中、被告サンエイコスメティックが遅くとも平成元年一月以降被告ラビアンプロに対し化粧品の販売を始めたことは認め、その余は争う。
一〇 善意使用(抗弁一)
仮に、原告の請求原因が認められるとしても、被告サンエイコスメティックは、原告営業表示が周知となる前の昭和五八年六月一六日以降、「株式会社河合美研」という商号を不正競争の目的なく使用していた。
一一 黙示の承諾(抗弁二)
仮に右主張が認められないとしても、被告サンエイコスメティックは、昭和五八年六月一六日以来平成元年五月までの間「株式会社河合美研」の商号を使用してきたが、原告は何ら異議を述べなかった。右は黙示の承諾に当たる。
一二 権利失効(抗弁三)
仮に右主張が認められないとしても、原告が、右のとおり被告が「株式会社河合美研」の商号の使用を開始した昭和五八年六月から七年を経過した平成二年になって、被告サンエイコスメティックによる被告営業表示の使用を違法であると主張することは、余りに遅きに失する。右は権利失効の原則により許されない。
第四 抗弁に対する認否。
抗弁一ないし三は、いずれも否認する。
(第二事件について)
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告は、被告サンエイコスメティックに対し、金五三二七万四三一五円及び内金四七一七万六一二六円について平成二年八月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を、内金六〇九万八一八七円について平成六年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告サンエイコスメティックの請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告サンエイコスメティックの負担とする。
第二 請求原因
一 当事者
原告及び被告サンエイコスメティックは、いずれも化粧品等の製造、販売を目的とする会社である。
二1 被告サンエイコスメティックは、原告に対し、昭和五六年頃から継続的に、化粧水、洗顔クリーム、クリーム、シャンプー、オイルドールなどの化粧品を販売してきており、昭和五八年一月六日頃当事者間において継続的化粧品供給契約を締結した。
その支払条件は、当初毎月二〇日締め、翌月末現金払いと定められていた。
2 被告サンエイコスメティックは原告に対し、平成元年八月二一日から同年一二月七日までの間に別紙売上状況一覧表記載のとおり化粧品を売り渡した。
3 よって被告サンエイコスメティックは、原告に対し、右売上金のうち四七一七万六一二六円及びこれに対する第二事件の訴状送達の日の翌日である平成二年八月三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
三1 右二1のとおり、原告と被告サンエイコスメティックとの間には、継続的化粧品供給契約が存在したのであるから、原告は、被告サンエイコスメティックに対し、正当な拒絶理由のない限り、化粧品の注文をすべき義務がある。
また注文者において予告期間を置くことなく継続的供給契約を一方的に解除することは、資材等を納品を受けて製造準備をし注文にいつでも応じられる態勢を取っている製造業者に不当な損害を及ぼすものであるから、することができないものである。
2 原告は、被告サンエイコスメティックに対し、平成元年一二月二二日付け内容証明郵便により、突如一方的に継続的商品供給契約の解除をし、化粧品の注文をしなくなった。
3 右の原告による一方的な継続的商品供給契約の解除により、被告サンエイコスメティックは製造準備のため手配して納品を受けた次のような資材、原材料が無駄な在庫となり、損害をこうむった。
(一) 化粧品容器代 二〇六万七〇〇〇円
(二) 化粧品キャップ代 一三五万六〇〇〇円
(三) 化粧品パッケージ代 一一六万九六〇〇円
(四) 化粧品中栓代 二万八〇〇〇円
(五) 化粧品原料代 一四七万七五八七円
以上損害合計六〇九万八一八七円
4 よって被告サンエイコスメティックは原告に対し、継続的商品供給契約の債務不履行による損害賠償請求として、右六〇九万八一八七円及びこれに対する平成六年四月二五日付請求の趣旨訂正(追加)申立書の送達の日の翌日である平成六年四月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三 請求原因に対する認否
一 請求原因一は認める。
二1 請求原因二1は認める。
2 同2は、被告サンエイコスメティックが原告に対し、平成元年八月二一日以降、化粧品を販売していることは認めるが、平成元年八月二一日分、同年九月二八日分、一〇月一一日分の内一〇月一三日分と同額の部分、同年一一月二日分、同月七日分、同月二六日分(被告サンエイコスメティックは同月二七日だと主張するが、同月二六日分である)のうちのKDL一二九六個分
(単価五七五円)、同年一二月一日分の取引については否認し、その余は認める。被告サンエイコスメティックが、原告に対し有する売掛金債権は、既弁済分四〇〇万円を除いた三三四一万一一二三円(消費税を含む)である。
原告作成の物品受領書に押捺されているスタンプは多目的に使用され、特に管理されていなかったため、被告サンエイコスメティックも自由に押印できる状況にあった。したがって、本件物品受領書に原告名のスタンプが押されているからといって、必ずしも記載の物品が原告のもとへ納入されたという事実を正確に示しているものではない。
3 同3は争う。
三1 請求原因三1は認める。
2 同2は否認する。原告は、被告サンエイコスメティックに対する平成元年一二月二二日付け内容証明郵便において、被告ラビアンプロに販売する化粧品に河合美研という表示をしないよう求め、早急な対応がないときは、信義則上、従来からの契約関係を維持することができないことを通告したものであって、一方的に継続的商品供給契約を解除したものではない。
3 同3は否認する。
4 同4は争う。
(第三事件について)
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告サンエイコスメティックは、原告に対し、金一億三一三九万五四一四円及びこれに対する平成三年九月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 反訴費用は、被告サンエイコスメティックの負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の反訴請求を棄却する。
2 反訴費用は、原告の負担とする。
第二 請求原因
一 当事者
原告及び被告サンエイコスメティックは、いずれも化粧品等の製造、販売を目的とする会社である。
二 原告は、被告サンエイコスメティックとの間で昭和五八年三月頃から化粧品の継続的供給契約を締結し、同被告から化粧品の継続的供給を受け、昭和六三年頃に至った。
三 平成元年度に至って、被告サンエイコスメティックは、密かに原告の略称である「河合美研」を使用し、原告と競争関係にある被告ラビアンプロとともに、化粧品の製造販売を開始した。その結果一般消費者の中には、被告サンエイコスメティックの製品を原告の製品と誤認して購入するものが現れるに至ったので、原告は平成元年三月頃から被告サンエイコスメティックに対し、右のような事態を解消するため「株式会社河合美研」名での化粧品の卸販売を止めるよう再三求めたが、被告サンエイコスメティックはこれを無視し原告の営業妨害行為を継続した。
原告の右のような抗議が厳しくなるのに比例して、平成元年五月頃から被告サンエイコスメティックは、原告が注文しても従来のように直ちに商品を納入しなくなり、一週間ないし二週間遅れて納入するという事態が常態になってきた上、化粧品の中にガラスの破片が入っているなど、あってはならない不良品も出るようになってきた。
更に平成元年一〇月頃には、被告サンエイコスメティックの前記不正競争行為によって原告の売上げが減少し、これによる損害は、少なくとも三八〇〇万円に達していた。
そこで原告は、被告サンエイコスメティックに対し、安定供給、不正競争行為の停止、原告の損害の填補を請求し、場合によっては売掛金と不正競争行為による損害額の相殺、即ちそれ以後の不正競争行為を中止しなければ売掛金の支払停止もありうることを通知したところ、被告サンエイコスメティックは平成元年一二月一三日、原告に供給すべき注文済みの化粧品の供給を一方的に拒絶してきた。
原告の化粧品の納入先は被告サンエイコスメティック一社のみであったため、原告に次に述べるような損害が発生した。
四 原告の損害
1 東京本店における平成元年一二月から平成二年二月までの売上げ減少による逸失利益
被告サンエイコスメティックの一方的な債務不履行にあたる供給拒絶により、原告の平成元年一二月から平成二年二月までの売上げは急減した。
原告は、被告サンエイコスメティックの履行拒絶がなければ、平成元年一一月分の売上げを同年一二月以降も確保できたものであるところ、原告の東京本店における平成元年一一月の売上額は七一一四万二五〇〇円であるのに対し、同年一二月分は三六八二万九七〇〇円、平成二年一月分は一七四九万八三〇〇円、平成二年二月分は六二九一万九六〇〇円であり、平成元年一一月の売上げと比べた平成元年一二月から平成二年二月にかけての売上げ減少分は、合計九六一七万九九〇〇円となる。
原告の粗利益率は、少なくとも八割一分であるから、原告の損害は右三か月分の売上げ減の合計額に八割一分を乗じた金額である七七九〇万五七一九円を下回るものではない。
2 横浜支店における前記期間の売上げ減少による逸失利益
原告の横浜支店についても、平成元年一一月の売上げは、三五六五万二五〇〇円、平成元年一二月は、一九一二万九四〇〇円、平成二年一月は、八二一万三六〇〇円、同年二月は、二七八一万三二〇〇円であるから、これに基づいて東京本店と同様の計算をすると平成元年一二月ないし平成二年二月の売上げ減少分は五一八〇万一三〇〇円となり、横浜支店の粗利益率は、売上げの七割五分であるから、右売上げ減少合計額の七割五分を乗じた金額である三八八五万〇九七五円を下回らない損害を被った。
3 原告は、被告サンエイコスメティックから平成元年一二月一三日、突如、化粧品の供給を停止され、化粧品の製造を第三者に委託するため、新しい化粧品の容器、器具類が必要となった。原告は訴外株式会社東美コスメチックに対し、右の新化粧品の容器、器具類の金型代四六五万円、その他の費用六六二万円の合計一一二七万円を支払った。
右支払いは被告サンエイコスメティックの供給停止行為と相当因果関係に立つ原告の損害である。
4 同じく原告は、被告サンエイコスメティックによる化粧品の供給が停止されるおそれが切迫したため、化粧品の供給を第三者から仕入れ購入する必要が生じた。それにより原告は、化粧品を製造する第三者のため原告所有の建物を化粧品製造の工場に改築することが必要となり、その費用として、平成二年三月末日に一五〇万円、平成二年四月初旬から中旬に一八六万八七二〇円の合計三三六万八七二〇円を支出した。
右支出も被告サンエイコスメティックの供給拒絶により原告に生じた損害である。
五 よって、原告は、被告サンエイコスメティックに対し、同被告の債務不履行により生じた右1ないし4の損害額合計一億三一三九万五四一四円及びこれに対する反訴状送達の後の日である平成三年九月九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第三 請求原因に対する認否及び主張
一 請求原因一、二は認める。
二 請求原因三は、被告サンエイコスメティックが平成元年一二月一三日、原告に対する納品を拒否したことは認めるが、その余は否認する。
被告サンエイコスメティックの度々の催告にもかかわらず、原告は平成元年九月、一〇月に売り渡した化粧品の売掛代金の支払いを怠り、そのうえ第一事件において原告が求める損害賠償請求を口実に、相殺を口にしてきたので、被告サンエイコスメティックは今後原告に対し納品すると、その代金の支払いを受けることが不可能であると判断し自衛のため納品を拒否したものである。被告サンエイコスメティックは、その際、それまでの未払金の解消及び担保の提供を求めたが拒否された。
原告はすでに平成元年七月一〇日、東京都立川市に、密かに被告サンエイコスメティックの当時の商号と同一の「株式会社河合美研」を設立し、化粧品製造許可を取得し製造を行っていたもので、右は原告において継続的供給契約を解除しようとあらかじめ準備していたことの裏付となる事実である。
三 請求原因四中、原告の売上げ減少や費用支払いの事実は知らない、その余は争う。
四 請求原因五は争う。
(証拠関係)
証拠関係は本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。
理由
(第一事件について)
一 請求原因一は当事者間に争いがない。
二1 請求原因二中、原告が昭和五五年一月に設立された株式会社であり、化粧品として、洗顔クリーム、化粧水、クレンジングクリームなどを販売するに際し、包装、容器及び宣伝用パンフレットやテレビ、ラジオなどにおける宣伝において、商号として「株式会社河合美肌研究所」を使用してきたことは当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第一号証、原本の存在及び成立に争いがない甲第三〇号証ないし甲第三二号証、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第二九号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第二七号証、原告代表者尋問の結果により原本の存在及び成立を認める甲第二八号証によれば、昭和五六年九月中に毎日新聞、読売新聞に掲載された原告商品の新聞広告には、原告の営業表示として「河合美研」が使用されていたこと、原告が設立された昭和五五年一月から、原告の本店が東大和市芋窪四丁目一五三〇番地から現在の所在地へ移転した昭和六〇年九月までの間に発行された原告商品の宣伝のための新聞折込用チラシ、パンフレットである甲第二七号証ないし甲第二九号証にも原告の営業表示として「河合美研」が使用されていたことを認めることができる。
他方、前記甲第一号証、成立に争いがない乙第一八号証、乙第三二号証、乙第三三号証、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第三八号証、甲第三九号証、原告代表者尋問の結果により原本の存在及び成立を認める甲第三三号証、甲第三四号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三七号証によれば、前記のとおり原告の本店所在地が現在の所在地へ移転した昭和六〇年九月以後に発行された原告商品の宣伝チラシ、パンフレットである甲第三三号証、甲第三七号証ないし甲第三九号証、乙第三二号証、乙第三三号証には、原告の商号と「カワイ化粧品」という営業表示が併記され、「河合美研」の営業表示が使用されていないこと及び右時期以前に発行された原告商品の宣伝チラシ、パンフレットにも「カワイ化粧品」という営業表示が使用され、「河合美研」の営業表示は使用されていないこと、原告と被告サンエイコスメティックとの間で昭和五八年一月六日に締結された両者の取引についての契約書には、原告代表者自身が原告を「河合美肌研究所(カワイ化粧品)」と表示していることが認められる。
右事実によれば、右「河合美研」の営業表示が使用された甲第二七号証ないし甲第二九号証の発行時期については、昭和五五年一月から昭和六〇年九月までの間という以上に限定できないが、昭和六〇年九月以前にもそれ以後と同様「カワイ化粧品」の営業表示を使用し、「河合美研」の営業表示を使用していない宣伝用パンフレットがあること及び原告代表者自身が昭和五八年一月当時原告を「カワイ化粧品」と表示していたことからすれば、「河合美研」の営業表示が使用された右各甲号証の発行時期の幅は昭和六〇年九月より更にさかのぼるものとみられる。
したがって、原告が昭和五六年九月当時自らの営業表示として「河合美研」を使用していたことは認められるが、それ以後の時点において、これを営業表示として使用していたものと認めるに足りる確実な証拠はない。
以上によれば、原告は当初から営業表示として商号「株式会社河合美肌研究所」を使用してきたものであるが、「河合美研」という表示については、これを昭和五六年まで使用していたことは認められるが、それ以後も右を自らの営業を示す表示として使用していたものとは認められない。
三 請求原因三について判断する。
1 原告が自らの営業表示と主張する「河合美研」については、昭和五七年以降使用されているとは認められず、本件損害賠償請求で問題とされる平成元年一月から平成二年六月の間において、右表示が原告の営業表示として周知であったことを認めるに足りる証拠はない。
2 原告が営業表示としてその設立当時から使用している営業表示「株式会社河合美肌研究所」(以下「原告営業表示」ともいう。)の周知性について判断する。
原告の商圏が関東全域であること、原告の営業方法がダイレクトメールによる方法で、店舗販売はしないこと、原告の宣伝方法が、新聞折込みなどのパンフレット及びチラシなどによるものを第一としていたことは当事者間に争いがなく、右事実と、成立に争いのない甲第八二号証、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第六号証の一、二、甲第七号証の一ないし三、原告代表者尋問の結果により原本の存在及び成立を認める甲第一一号証、官公署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分について原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第一七号証の五、甲第一七号証の一三ないし一七、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第一七号証の一ないし四、甲第一七号証の六ないし一二、甲第一七号証の一八及び一九、原告代表者尋問の結果によれば、原告の取引形態は、新聞折込みのチラシやパンフレット等によって一般消費者に自らの商品である化粧品を広告し、直接、一般消費者から購入の申込みを受けて、通信販売により商品を販売するというものであるところ、その新聞折込用等のチラシの配布枚数は、原告が設立された昭和五五年以降平成元年まで、東京、神奈川、千葉、埼玉の都、県を中心に、群馬県、静岡県を含む地域に年間二〇〇〇万枚ないし六〇〇〇万枚の間を増減していたこと、原告製品の宣伝は、原告設立前の個人営業時代の昭和五四年八月頃から原告設立後の昭和五五年四月までの間約一〇種の女性週刊誌、婦人雑誌にも掲載されたこと、昭和五六年八月から一〇月にかけて、毎日新聞夕刊に全三段の広告が五回、読売新聞夕刊に全三段の広告が二回掲載され、昭和五五年三月から昭和五六年一月までの間埼玉中央新聞の県中央版、県南版、県都版に各七回の広告が掲載され、昭和五五年六月かち七月にかけて、テレビ静岡及びけんみんテレビで合計一九三回のスポット広告を放映した外、昭和五五年五月から七月にかけて及び昭和五六年七月から一〇月にかけてもテレビで宣伝されたこと、原告はこの間、年間七〇〇〇万円から二億円弱程度の宣伝広告費を支出しており、原告の年間売上金額は、設立直後の昭和五五年一月から同年一〇月までの九か月間で約一億九〇〇〇万円であったものが、昭和五七年一〇月までの一年間には五億一三〇〇万円余りに達したが、昭和五八年からは、横浜にも系列会社を設立してそちらでも原告の商品を扱うようになったため原告自身の販売額は減ったものの、それでも昭和六三年度まで毎年度二億円ないし三億円程度の、平成元年度には六億円を越える年間売上高をあげていたことが認められる。
右認定事実によれば、遅くとも昭和六三年までには、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県を中心とし、群馬県、静岡県を含む地域の化粧品需要者に、原告の商号である「株式会社河合美肌研究所」が広く認識されるようになっていたものと認めるのが相当である。
四 請求原因四は当事者間に争いがない。
撮影者、撮影年月日、撮影対象に争いのない甲第五一号証ないし甲第五九号証、甲第六四号証ないし甲第七四号証によれば、被告営業表示の具体的使用態様は、被告製品の容器であるびん、合成樹脂製チューブ及び外箱の一方の側に大きく目立つようにデザインされた「LOVIAN」の文字と、その振り仮名状の「ラビアン」の文字、商品の一般名称及び物によっては図形商標が表わされ、他方の側に小さめに「発売元 株式会社ラビアンプロ」の記載と同社の住所、電話番号、その下に「製造元 株式会社河合美研」の記載と同社の住所が小さく、事務的な書体の文字で表わされているというものであることが認められる。
右のような製造元の記載は、化粧品の直接の容器又は直接の被包、外部の容器又は外部の被包に、製造業者の名称及び住所を記載しなければならないことを定める薬事法六一条、六二条、五一条の規定の趣旨に合致するものである。
五 原告の商号と被告営業表示の内各「株式会社」の部分は会社の種類を示すものにすぎないから、この部分を除いた「河合美肌研究所」と「河合美研」とがそれぞれの要部と認められるので、右要部を対比すると、両者は、「河合」という一般には人名と理解される部分において共通し、また被告営業表示中の「美研」の部分は、かつて原告が「河合美研」という営業表示を使用したこともあることからすると、原告商号に接したことがあり、記憶している需要者は、右の「美研」の部分は原告商号のうちの「美肌研究所」の部分を略したものと容易に認識すると認められるから、両者の要部は少なくとも、観念において類似しているものであり、原告商号と被告営業表示は全体として対比してみても類似しているものと認められる。
六 原告の営業が化粧品の販売であり、被告サンエイコスメティックの営業は化粧品の製造、販売であることは右二及び四のとおりで、共に化粧品の販売を営むものであり、また一般に化粧品の製造と販売はしばしば同一の営業者によって営まれ密接な結びつきがあるから、原告の営業と被告の営業は、市場において競争関係にあると認められる。したがって被告サンエイコスメティックが前記四認定のような態様で被告営業表示を使用することにより、原告と同被告の営業が混同され、原告はその営業上の利益を害されるおそれがあったものと認められる。
原告が通信販売により一般需要者に個人消費用として直接販売するものであり、被告ラビアンプロが美容院や理髪店等の美容専門業者に対して業務用として販売しているものであるとしても、共に化粧品の販売であり、しかも成立に争いがない乙第四〇号証によれば、被告らの製造販売する化粧品の中には美容院、理髪店等で一般需要者に販売されるものもあることが認められることからすると、原告商号と被告営業表示の間で混同のおそれがあることは明らかである。また昭和五八年六月以降平成二年初頭まで、「河合美研」は被告サンエイコスメティックの営業表示として使用されて、原告とは別個の会社であることが商品にも表示されてきたものであるにしても、右のような類似の営業表示が使用されていることから、原告と被告サンエイコスメティックは、親子会社や関係会社の関係があるものと一般需要者に認識されやすい関係にあったものであるから、被告サンエイコスメティックが被告ラビアンプロを通じて化粧品を販売する際にも、原告が右化粧品の製造販売に何らかの形で関係しているとの誤認混同が生じるおそれがあったものと認められ、誤認、混同のおそれがない旨の被告らの主張は採用できない。
七1 前記甲第一八号証、成立に争いがない甲第八三号証(ただし後記認定.に反する部分を除く)、乙第八号証の二、乙第九号証、乙第一〇号証、乙第二七号証、原告代表者尋問の結果により成立を認める甲第八一号証(ただし後記認定に反する部分を除く)、証人藤森利美の証言、原告代表者尋問の結果(ただし後記認定に反する部分を除く)並びに当事者間に争いのない事実によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告サンエイコスメティックのもともとの商号ほ三栄産業株式会社であった。被告サンエイコスメティックの実質的な経営者である藤森は、三栄産業株式会社において製薬業を行っていたが、昭和五七年六月頃、山田二郎が実質的に経営していた化粧品製造会社である株式会社ハイローヤルジャパンを譲り受け、同社で化粧品を製造し、山田の経営するジャパンファインケミカル株式会社へ売り渡すようになった。そのころ、原告も、ジャパンファインケミカルから化粧品の供給を受けていたところ、山田二郎から再三値上げの請求をされ、応じないと出荷停止の措置を取られたりし、他方株式会社ハイローヤルジャパンもジャパンファインケミカル株式会社から思うように注文を受けられなかったため、原告代表者中村和雄と藤森は、山田二郎を介しないで、両者が直接取引をすることとし、藤森は右三栄産業株式会社の商号を株式会社ハイローヤルジャパン(前記同名の会社とは別)と変更した上、同社と原告との間で、同社が原告に化粧品を製造供給することとし、昭和五八年一月六日には、右供給関係について、書面による契約が締結された(甲第一八号証。以下「本件継続的供給契約」ともいう。)。
(二) 本件継続的供給契約の条項は原告代表者が起草したものであるが、契約期間を三年間とし、右期間終了の三か月前に当事者のいずれか一方から契約終了の意思表示がない場合は契約は継続するものとする旨、契約期間内に当事者の一方は六か月前に予告して契約を終了させることができる旨、仕入価格についても各商品毎に定価の一定割合として安定供給する旨が合意されたが、被告サンエイコスメティック(当時の商号 三栄産業株式会社、契約書上ハイローヤルジャパンとも表示されている。)による「河合美研」の商号の使用や第三者への化粧品の供給禁止に関しては、何ら記載がない。
(三) 藤森は、三栄産業株式会社の商号を、昭和五八年一月一三日に株式会社ハイローヤルジャパンと変更して化粧品製造業の許可を得、次いで昭和五八年五月一四日に株式会社サンローヤルジャパンと商号変更し、更に、昭和五八年六月一六日には株式会社河合美研に商号変更した。株式会社河合美研への商号変更は、需要者への信用を少しでも増加させるために、製造者と販売者とがグループ会社らしく見える方がいいということで、原告代表者が提案し藤森利美がこれに応じて決めたものである。
2 原告は、昭和五八年六月頃からの原告と被告サンエイコスメティックの取引は、原告が被告サンエイコスメティックを原告の販売する化粧品の原料製造の専属の下請工場として、本格的に使用するようになったものであり、右に際し原告は被告サンエイコスメティックに対し、当時既に原告の営業表示として周知性を獲得していた河合美研の商号を使用することを特別に許諾したものであって、その際(昭和五八年三月頃)原告代表者は被告サンエイコスメティックの実質的な経営者である藤森に対し、いかなる理由があろうとも、他社へ化粧品を供給する際には、「河合美研」の営業表示を使用してはならないことを伝えた旨主張し、前記甲第八一号証及び甲第八三号証並びに原告代表者尋問の結果中には、これに沿う部分が存在する。
しかしながら、薬事法六一条において、化粧品にはその直接の容器等に製造業者の名称を表示することが義務づけられていることからすれば、被告サンエイコスメティックにとっては、右のような会社の商号である営業表示の使用制限の合意は、事実上、原告以外の他社へ化粧品を供給することもできなくなるという営業上重要な事項であるとともに、原告にとっても、被告サンエイコスメティックが、原告の営業表示に類似する「株式会社河合美研」の商号を使用して、原告との取引とは別の取引を行なえば原告の営業に何らかの影響が生ずる可能性があるから、営業範囲を制限するかしないか、どの範囲に限定するかは重要な事項であるから真に合意があったならばそれを文書化することを思い至る事柄であるにもかかわらず、前記2に認定したとおり、原告と被告サンエイコスメティックとの間で、昭和五八年一月六日に締結された本件継続的供給契約の契約書には原告主張の趣旨に沿う条項はなく、他にいかなる理由があっても被告サンエイコスメティックが他社へ化粧品を供給する際には「株式会社河合美研」の商号を使用しない旨の合意の成立を明示する文書が存在しないこと、原本の存在及び成立に争いのない甲第四三号証、甲第四四号証の各一、成立に争いのない甲第四三号証、甲第四四号証の各二によって認められる、原告は、被告サンエイコスメティックが被告営業表示を使用して他社に化粧品を供給していることについて平成元年五月三〇日と平成元年七月一三日に被告サンエイコスメティック宛に「河合美研」の名称の使用の中止を求める書留郵便を送付したが、その文中でも原告主張のような合意の存在は指摘されていないこと、原告代表者尋問時における原告代表者の供述の態度によれば、右のような合意が成立したとする原告代表者尋問の結果及び同旨の陳述書である前記甲第八一号証及び甲第八三号証の記載のみでは、これと反対趣旨の前記乙第二七号証及び証人藤森利美の証言に照らし、このような特別の合意が存在したと認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
もっとも、それでは、被告サンエイコスメティックは本件継続的供給契約上どのような態様ででも化粧品を製造販売することができるかといえばそうではないので、原告商品の宣伝チラシには原告商号と「カワイ化粧品」という営業表示が使用されていること、前記甲第三三号証、甲第三四号証、甲第三七号証ないし甲第三九号証、成立に争いのない甲第三五号証によって認められる本件継続的供給契約の対象である原告が需要者に販売する化粧品の容器、包装には、大きく「KAWAI」、「K」の文字が表示されており、それらのことは当然被告サンエイコスメティックも認識していたものと認められることからすれば、本件継続的供給契約には、被告サンエイコスメティックは、需要者において原、告商品と誤認混同するおそれの強い「河合化粧品」あるいは「河合」の文字を強調した商品表示、営業表示を使用して、需要者に化粧品を販売しない旨の黙示の合意が含まれていたものと認めるのが相当である。しかしながら、第三者である販売業者に、当該業者の商品表示を付し、かつ薬事法上の製造業者の表示義務を満たす自社の商号を付した化粧品を製造供給することを禁止する黙示の合意が含まれていたことを認めるに足りる事情を認定する証拠はない。
3 右1に認定した事実によれば、原告と被告サンエイコスメティックとの間で、被告サンエイコスメティックが被告営業表示の使用を開始するに当たって、原告は被告サンエイコスメティックが被告営業表示を商号として使用することを許諾したものであるところ、その際、右2に判断したとおり、いかなる理由があっても被告サンエイコスメティックが被告営業表示を使用して、原告以外の化粧品販売業者に化粧品を供給しないとする旨の合意までも成立したとは認めるに足りず、化粧品については、薬事法上、製造業者の名称(商号)を直接の容器、被包、外部の容器、被包に特に明瞭に記載することが要求されること(薬事法六一条、六二条、五一条、同法施行規則六二条、五七条)に照らせば、被告サンエイコスメティックが、被告ラビアンプロに同社の商品表示を付した化粧品を製造、供給するに際して、前記四認定のような態様で被告サンエイコスメティックの当時の商号を使用することも原告による被告サンエイコスメテイックに対する被告営業表示の使用許諾の範囲内のものである。
そうしてみれば、被告サンエイコスメティックの前記四認定のような態様による被告営業表示の使用は、適法なものであるから、被告サンエイコスメティックからこれを使用した化粧品の供給を受け、販売した被告ラビアンプロの行為も同様に適法である。
八 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の第一事件請求は理由がない。
(第二事件について)
一 請求原因一は、当事者間に争いがない。
二1 請求原因二1は、当事者間に争いがない。
2(一) 請求原因2のうち、被告サンエイコスメティックが原告に対し、平成元年八月二一日以降、化粧品を販売していること、被告サンエイコスメティックが主張する売買のうち、平成元年八月二一日分、同年九月二八日分、一〇月一一日分の内一〇月一三日分と同額の部分、同年一一月二日分、同月七日分、同月二七日分のうちのKDL一二九六個分(単価五七五円)、同年一二月一日分を除く取引(但し一一月二七日分については一一月二六日分として)については、当事者間に争いがない。
(二) 平成元年八月二一日分、同年九月二八日分、同年一一月二日分、同月七日分、同月二七日分のうちのKDL一二九六個分(単価五七五円)、同年一二月一日分の取引について判断するに、成立に争いがない乙第二一号証の一、乙第二二号証の二、乙第二三号証の六、乙第二四号証の一、二、乙第三九号証及び甲第七六号証の二、甲第七七号証の三、甲第七八号証の七、甲第七八号証の八、甲第七九号証の一、二の各書込部分以外の部分、証人藤森利美の証言及びこれによって成立を認める乙第四号証の一ないし四によれば、いずれも被告サンエイコスメティック主張の売渡しの事実を認めることができる。原告の主張に沿う甲第八〇号証、甲第八三号証及び原告代表者尋問の結果の一部は、いずれもたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 平成元年一〇月一一日分の内一〇月一三日分と同額の部分について判断するに、成立に争いがない乙第二二号証の五、六、原告代表者尋問の結果によれば、平成元年一〇月一一日納入された被告サンエイコスメティックの商品のうち、KWCと呼ばれていた洗顔クリームについて合計三六〇個、代金二一万七八〇〇円分、KCMと呼ばれていた栄養クリームについて合計七二〇個、代金四六万〇八〇〇円分の商品が不足していたことが認められる。
乙第四号証の三及び証人藤森利美の証言のうちの右認定に反する部分は、前記乙第二二号証の五、六によれば、原告が平成元年一〇月一一日に発行した物品受領書に、KWCの七二個入りの物が「<5>不足」、KCMの七二個入りの物が「<10>不足」と、右物品受領書と別途、加入して記載されていると認められること、右の二日後に右不足分とされる数量と全く同数の商品が被告サンエイコスメティックから原告に納入されていると認められることに照らすと、たやすく信用できない。
したがって、平成元年一一月分売上額は合計一六一三万六八八〇円、消費税四八万四一〇六円の総計一六六二万〇九八六円となる。
(四) 以上によれば、被告サンエイコスメティックが原告に対し、販売した商品について有する売掛金債権は、消費税を含めた被告サンエイコスメティック主張の期間の売上合計五〇四七万七一六八円から既弁済分四〇〇万円を控除した四六四七万七一六八円となる。
三1 前記甲第一八号証、甲第四三号証、甲第四四号証の各一、二、甲第八三号証(ただし後記認定に反する部分を除く)、成立について争いがない甲第四五号証の二、甲第四六号証、甲第四八号証の一、二、乙第二五号証の一ないし三、原本の存在及び成立について争いがない甲第四五号証の一、証人藤森利美の証言及び原告代表者尋問の結果(ただし後記認定に反する部分を除く)及び本件記録上明らかな事実によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告と被告サンエイコスメティックとの間には、(第一事件について)、七1の(一)、(二)で認定したとおりの本件継続的供給契約が締結されていた。
(二) ところが、平成元年九月頃から原告の被告サンエイコスメティックに対する注文量が増加し始め、それまでは一か月九〇〇万円から一〇〇〇万円程度の注文であったものが、一か月一五〇〇万円以上にも増え、平成元年一二月七日の納品分で、原告は、消費税を含め約五〇四七万円の買掛債務を被告サンエイコスメティックに負うに至るなど買掛債務が急増したこと、同年一二月初め頃、藤森宛に氏名不詳の女性から、原告は被告サンエイコスメティックとの取引をやめるつもりでいるから気をつけたらいい旨の電話があったので、中村にその意思を確認したところ、そのようなことはないと否定されたものの、注意を要すると考えたことなどから、被告サンエイコスメティックは原告に対し買掛金の支払いを再三請求した。これに対し原告は、本来平成元年一〇月末日に支払うべき九九二万円余りの平成元年九月二〇日締め分の買掛債務のうち、四〇〇万円は同年一二月七日に支払ったが、その余は支払わず、更にその頃、口頭で被告サンエイコスメティックが、被告営業表示を使用して被告ラビアンプロに化粧品を供給している行為について損害金三〇〇〇万円を要求するなどして、残額の支払いを拒絶する姿勢を示したため、被告サンエイコスメティックは、同月一三日、九月二〇日締め分の未払代金の支払い、その余の買掛債務についての担保の提供がない限り、これ以上商品を供給できないと電話で原告に伝えて、注文された商品の納品を拒絶した。
(三) 原告は、平成元年一二月一四日、残代金の支払いや担保の提供をする旨の意思を表明することなく、同年同月一六日までに注文した商品の供給を求める文書を被告サンエイコスメティックに宛て送付したが、被告サンエイコスメティックは商品を供給せず、以後原告が発注することも、同被告が納品することもなかった。
原告の委任を受けた弁護士は、同年一二月二三日頃被告サンエイコスメティックに到達した内容証明郵便で、原告の要求する化粧品その他の容器から「河合美研」の表示を撤去、抹消し、信用毀損の回復、損害賠償等の請求に対応する具体的弁償額を提示するなどの行動を要求し、同被告の早急なる対応がない限り原告としては従来からの契約関係を維持できない旨を通告した。また、同弁護士は平成二年四月二日、同被告に到達した内容証明郵便で、同被告が自己又は他社のため「河合美研」の表示を使用することは不正競争行為であり、これにより原告が受けた損害三九〇〇万円弱及び同被告の一方的供給停止による損害三〇〇〇万円を請求し、原告と同被告間の本件継続的供給契約は平成元年一二月二三日到達の内容証明郵便によって解除しているが、今般重ねて解除する旨の意思表示をした。
2 本件継続的供給契約のような継続的供給契約においては、商品の発注と供給、代金の支払いが繰り返し継続して行われ、そのような取引が継続的に行われるとの信頼の上に立って当事者は大量の商品の製造準備と製造を行い、供給された物を需要者へ大量に販売するのであるから、当事者間の取引は全体として牽連する関係にあり、そのような発注、供給、支払いが正当な理由なく履行されないか、そのおそれが具体的にあるときは、他方当事者はその契約の履行を拒絶することができる。
右1に認定した事実によれば、原告は、買掛債務が急増したのに本来であれば平成元年一〇月三〇日に支払うべき同年九月二〇日締め分の代金中五九二万円余りを支払わないのみか、前記第一事件について判断したとおりそのような主張は理由がないのに原告代表者が、それまでの被告サンエイコスメティックの被告営業表示を使用して被告ラビアンプロに化粧品を供給した行為についてその時点で既に三〇〇〇万円余りの損害賠償金の支払いを要求し、買掛債務との相殺をも示唆した以上、その後被告サンエイコスメティックが被告ラビアンプロと取引きを継続する限り、右損害賠償金が更に発生していくと原告代表者が主張しているものであり、右によれば、原告代表者は、正当な理由がないのに既発生の買掛債務の内三〇〇〇万円は支払わず、被告サンエイコスメティックがその後も被告ラビアンプロと取引を継続する限り、これによる損害金に対応する買掛債務を支払わないとの意向を示したものであり、このような原告の態度に対し、被告サンエイコスメティックが同年一二月一三日、同年九月二〇日締め分の残金とその余の債務の担保の提供が得られない限り、それ以後の商品を供給することはできないとして、商品の供給を拒絶したことは正当な理由があったものと認められる。
ところで、本件継続的供給契約の契約終了についての約定によれば、平成元年一二月当時、本件継続的供給契約は、当初の契約期間を経て継続期間に入り、一方当事者が契約終了の意思表示をしたときは、その三か月後に契約が終了する関係にあったものと解するのが相当である。
右1(三)に認定した平成元年一二月二三日頃到達、平成二年四月二日到達の内容証明郵便による解除の意思表示は、被告サンエイコスメティックに不正競争行為があったものとも債務不履行があったものとも認められないから解除の効力を生じないが、契約終了の意思表示としてその三か月後に本件継続的供給契約が終了したものと認められる。
そして、右1(三)に認定の事実によれば、平成元年一二月一三日以後本件継続的供給契約終了時点まで、被告サンエイコスメティックに対し、未払買掛代金の支払いを提供するなどして、商品を注文することなく、本件継続的供給契約に基づく取引を事実上打切った原告は、本件継続的供給契約による将来の商品供給に備えていた被告サンエイコスメティックに対し、本件継続的供給契約の債務不履行を理由に、被告サンエイコスメティックに生じた損害を賠償する責任を負うものである。
3 成立に争いがない乙第二八号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第四一号証の一ないし五、乙第四二号証の一ないし六、乙第四三号証の一ないし一五、乙第四四号証の一ないし五、乙第四五号証の一ないし三、乙第四六号証、乙第四七号証の一ないし四、乙第四八号証の一ないし一〇、乙第四九号証によれば、被告サンエイコスメティックは、本件継続的供給契約に基づく原告の注文がされなくなったことにより、原告の発注による製品製造の資材、原料として購入していたものが他へ転用することもできず無駄になり、請求原因三3(一)ないし(五)のとおり合計六〇九万八一八七円の損害を負ったものと認められ、この損害は原告の本件継続的供給契約の債務不履行と相当因果関係があると言うべきであるから、右損害合計六〇九万八一八七円について、原告は損害賠償責任を負うものである。
四 よって、被告サンエイコスメティックの第二事件の請求中、本件売掛金請求は、四六四七万七一六八円及びこれに対する第二事件の訴状送達の日の翌日である平成二年八月三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がなく、本件継続的供給契約についての債務不履行による損害金六〇九万八一八七円及びこれに対する平成六年四月二五日付請求の趣旨訂正(追加)申立書が原告に送達された翌日である平成六年四月二一日から支払済みまで同被告の請求の範囲内の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求は理由がある(右元金の合計は五二五七万五三五五円である。)。
(第三事件について)
一 請求原因一、二は、当事者間に争いがない。
二1 請求原因三中、被告サンエイコスメティックが平成元年一二月一三日、原告に対する納品を拒否したことは当事者間に争いがない。
2 (第二事件について)三において認定判断したとおり、被告サンエイコスメティックが平成元年一二月一三日以降、本件継続的供給契約に基づく注文品の納品を拒否したことには、正当な理由があるから、右納品の拒否が本件継続的供給契約の債務不履行に当たるとの原告の主張は失当である。
三 右によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の第三事件反訴請求は、理由がない。
(結論)
以上によれば、原告の第一事件の請求及び第三事件の反訴請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、被告サンエイコスメティックの第二事件請求は、原告に対し金五二五七万五三五五円並びに内金四六四七万七一六八円に対する平成二年八月三日から支払済みまで年六分の割合による金員及び内金六〇九万八一八七円に対する平成六年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 大須賀滋 裁判官 櫻林正己)
No.1
売上状況一覧表
<省略>
平成元年9月分(毎月20日〆)
(内金400万円については平成元年12月7日に支払をうけた)
製品名 (注)KWC=洗顔クリームの略称。
KDL=化粧水の略称。
KCM=栄養クリームの略称。
(以下同じ)
No.2
売上状況一覧表
<省略>
平成元年10月分(毎月20日〆)
No.3
売上状況一覧表
<省略>
平成元年11月分(毎月20日〆)
No.4
売上状況一覧表
<省略>
平成元年12月分(毎月20日〆)