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東京地方裁判所 平成2年(ワ)10822号 判決 1992年4月28日

主文

一  原告と被告らとの間において、原告が別紙物件目録一の(1)ないし(4)の土地について通行権並びに同土地上及び地中のガス、上下水道、電気及び電話等の配管、配線権を有することを確認する。

二  被告らは、別紙物件目録一の(1)ないし(4)の土地について、原告の通行並びに同土地上及び地中のガス、上下水道、電気及び電話等の配管、配線等の妨害となる一切の行為をしてはならない。

三  被告らは、別紙物件目録三の(1)ないし(3)の物件を収去し、同目録三の(4)の物件を撤去せよ。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

理由

第一  請求(選択的併合)

主文第一ないし第三項と同旨。

又は、

一  原告と被告らとの間において、原告が別紙物件目録一の(1)ないし(4)の土地について通行地役権並びに同土地上及び地中のガス、上下水道、電気及び電話等の配管、配線地役権を有することを確認する。

二  被告らは、別紙物件目録一の(1)ないし(4)の土地について、原告の通行並びに同土地上及び地中のガス、上下水道、電気及び電話等の配管、配線等の妨害となる一切の行為をしてはならない。

三  被告らは、別紙物件目録三の(1)ないし(3)の物件を収去すると共に同目録(4)の物件を撤去せよ。

第二  事案の概要

本件は、別紙物件目録二の(1)及び(2)の土地(原告土地)を所有する原告が、同目録一の(1)ないし(4)の土地(本件土地)について、通行地役権並びにガス、上下水道、電気及び電話等の配管、配線(以下、「配管、配線」という。)地役権又は囲繞地通行権並びにその類推適用による右配管、配線権を有するとして(通行地役権と囲繞地通行権は選択的併合)、被告らとの間で右各権利の確認並びに被告らに対し、原告の通行、右配管、配線等の妨害となる一切の行為の禁止、同目録三の(1)ないし(4)の物件の収去又は撤去を求める事案である。

一  (争いのない事実)

1  (原告の土地所有)

原告は、原告土地を所有している。

2  (被告らの土地所有等)

被告有限会社グレッグ・インターナショナル(被告会社)は別紙物件目録一の(1)及び(2)の土地を所有し、被告黄兵衛(被告黄)は、同目録一の(4)の土地を所有し、同目録一の(3)の土地をその所有者である原よ祢から賃借している。被告学校法人東京ビジネス学園(被告学園)は、被告黄を理事長とする学校法人で、本件土地の北側の隣接地で東京ビジネス外語専門学校を経営し、その教職員、生徒らが本件土地を通行等に使用している(別紙見取図のとおり。)。

3  (原告土地と本件土地との関係及び原告の囲繞地通行権)

原告土地は、別紙見取図のとおり周囲を他人の土地に囲まれ、原告土地の北側で本件土地に接し、本件土地及び原告土地の内、別紙図面<A>、<ヘ>、<ニ>、<ハ>、<A>の各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分の土地は、一体となつて、幅員三・二七メートル(幅員については、争いがある。)、奥行四八メートルの通路(本件通路)を構成し、東側で公道に接しているが、本件通路は、原告土地から右公道に出る唯一の通路である。

したがつて、原告は、本件土地につき囲繞地通行権を有している。

4  (本件土地、原告土地等の分筆の経過、ただし、(1)ないし(11)及び(15)は、証拠から認められる。)

(1) 本件土地を含む付近一体の土地は、かつて目黒区《中略》一三二番(以下「一三二番の土地」というように地番のみで表示する。)畑一反九畝八歩として五十嵐兵太郎の所有であつたが、昭和一六年ころから次第に宅地化されていつた。

(2) 昭和二二年に右土地は、一三二番地の一と一三二番の二に分割され、同年五月一五日、一三二番地の二は五十嵐から田中靖一に売却された(別紙分筆経過図(2)のとおり。)。

(3) 昭和二三年四月、一三二番地一から一三二番の四が分筆され五十嵐から田中に売却された(別紙分筆経過図(3)のとおり。)。

(4) 昭和二四年三月、一三二番地二から分筆された一三二番の六が、一三二番の四の土地と共に、田中から保立寿衛男に売却された(別紙分筆経過図(4)のとおり。)。

(5) 昭和二五年二月、一三二番地一から分筆された一三二番の七が五十嵐から田中に売却された(別紙分筆経過図(5)のとおり。)。

(6) 昭和二五年八月、一三二番地二から分筆された一三二番の八が田中から北沢睦夫に売却された(別紙分筆経過図(6)のとおり。)。

(7) 昭和三二年四月、一三二番の三から分筆された一三二番九が右五十嵐を相続した五十嵐好家から川口晃次に売却された(別紙分筆経過図(7)のとおり。)。

(8) 昭和三九年三月、一三二番地一を五十嵐兵太郎を相続した原よ祢、新倉信らとの間で分割が成立し、一三二番一から分筆された一三二番一〇が原よ祢に分割された(別紙分筆経過図(8)のとおり。)。

(9) 昭和四〇年一〇月、一三二番の三から分筆された一三二番一二が五十嵐好家から遺贈を受けていた五十嵐重好に登記され、その際一三二番の三は五十嵐重好から大蔵省に物納された(別紙分筆経過図(9)のとおり。)。

(10) 昭和四二年一一月、一三二番の三から一三二番一三が分筆されたが、右一三二番一三は昭和四八年大蔵省から青木当くに売却された(別紙分筆経過図(10)、(12)のとおり。)

(11) 昭和四五年一一月、一三二番一〇から分筆された一三二番一四と、一三二番一一から分筆された一三二番一五の二筆がいずれも原よ祢から大塚仁平に売却された(別紙分筆経過図(11)のとおり。)。

(12) 昭和五二年七月、昭和四八年ころから周辺土地を買い占め始めて被告会社所有となつていた一三二番二から一三二番一六が分筆された(別紙分筆経過図(12)のとおり。)。

(13) 昭和五二年一二月、一三二番三から分筆された一三二番一七が大蔵省から国有財産売却を受けて分筆前の一三二番三を所有していた川口から被告黄に売却された(別紙分筆経過図(13)のとおり。)。

(14) 昭和五五年四月、既に被告会社が、所有していた一三二番二から一三二番一八と一三二番一九が分筆され、その結果、一三二番二は、細長い帯状の本件通路の一部に当たる土地だけとなつた(別紙分筆経過図(14)のとおり。)。

(15) 原告土地は、五十嵐と田中によつて一三二番地の一及び一三二番地の二から順次分筆された土地であり、古賀力、古賀ヒサエ(古賀夫妻)から買い受けた。

二  (争点)

1  本件通路の範囲

(原告の主張)本件通路は、その幅員は少なくとも三・二七メートルで、その範囲は、別紙物件目録(1)ないし(4)の土地と別紙図面の<A>、<ヘ>、<ニ>、<ハ>、<A>の各点を順次結ぶ直線で囲まれた範囲の土地(原告土地の一部)を併せた範囲である。

(被告らの主張)本件通路は、その幅員は二・四〇メートルないし二・七八メートルで、その範囲は、別紙図面<M>、<B>、<E>、<D>、<C>、<ハ>、<N>、<M>の各点を順次結ぶ直線で囲まれた本件土地と別紙図面<A>、<M>、<N>、<ハ>、<A>の各点を順次結んだ直線で囲まれた範囲の土地(原告土地の一部)である。

2  通行地役権の有無

(原告の主張)右一の(2)の五十嵐と田中との売買の際、右両名は、公道から一三二番地の一、二の土地に至る幅員三・三四メートル、奥行四八メートルの通路を開設することとし、それぞれが幅員一・六七メートルの土地を提供して、相互に相手方の土地に通行地役権を設定して、相互に通行を認めると共に、右通路を配管、配線に利用する配管、配線地役権を設定することを明示的又は黙示的に合意した。そして、一三二番の二の土地の一部として幅員一・六七メートルの細長い帯状の路地状敷地が形成され、田中はその帯状部分を、右五十嵐は、その帯状部分の南側に接する自己所有の一三二番地の一の土地の内、幅員一・六七メートルの帯状部分を相互に通路として提供した。以後、右五十嵐及びその相続人並びに田中は、右通路周辺の土地を順次分譲したが、右地役権は、分譲を受けた者との間で、相互に引き継がれて、分譲を受けた者は、公道から分譲地に至る通路の通行権並びに配管、配線権を相互に承認し合つていた。その分筆の経緯は、前記一の(3)から(14)のとおりである。

なお、右地役権は、未登記であるが、被告らは、右地役権の存在を知りながら、共謀の上、通行等の妨害をしていたもので、背信的悪意者であるから、原告は、登記なくして右地役権を被告らに対抗できる。

(被告らの主張)原告は、通行地役権を有しない。仮に有するとしても、原告は、その登記を得ていないので、被告らに対抗できない。また、被告らが背信的悪意者であるとの主張は否認する。原告こそ後記3のとおり原告土地を違法な手段で取得したものである。

3  配管及び配線のための囲繞地通行権の類推適用の可否

(原告の主張)本件土地について、原告のために囲繞地通行権が認められる以上、その類推適用による配管、配線権が当然に認められるというべきである。現に、原告土地には、原告の取得以前から建物が存し、本件土地を利用し、配管、配線をしてきている。原告が土地を取得し、建物を建て替えたからといつて配管、配線権がなくなるという特別の理由がない。また、原告は、原告土地を取得後、建物を建て、原告又は原告の関連会社の従業員宿舎又は事務所等に利用している。原告は、右建物のためにガス、水道、電話等を引く必要があり、本件土地に配管、配線をする必要がある。

(被告らの主張)被告会社が東洋信託銀行の仲介で原告土地を前所有者古賀夫妻から買い受ける交渉を進め、売買価格が決まり、後は、仲介手数料の折衝を残すだけとなつた段階で、被告会社の土地取得を妨害し、地上げによる利益を目的として、横合いから原告土地を取得した原告に、本件土地に囲繞地通行権を類推して配管・配線権を認めることは、権利の濫用として、許されない。また、原告は、原告土地に建物を建て、従業員宿舎に利用しているかのような形を作つているが、実際には利用しておらず、被告会社を困惑させる目的に出たもので、配管、配線の必要もない。仮に、囲繞地通行権を類推して配管、配線権が認められるとしても、通行は一時的、断続的、交替的なものであるが、配管及び配線は、恒久的、持続的、排他的なものであるので、配管、配線権の認められる範囲は、必要最小限のものに、制限すべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件通路の範囲)について。

証拠から、次の事実が認められる。

1  原告が昭和六二年二月原告土地を購入した当時本件通路を測量して、作成した実測図によると、別紙図面のとおり、その幅員は、三・二七メートルで、後記三の1の(3)、(8)のとおり、本件通路には、別紙物件目録三の被告らの(1)ないし(4)の物件は、(4)の植木鉢を除いて置かれていなかつた。

2  昭和五年に本件土地周辺の土地一体の所有者五十嵐により市街地建築物法に基づく建築線の指定申請がされ、本件通路が幅員一一尺(約三・三メートル)、奥行き一七五尺(約五三メートル)で指定され、これが現在建築基準法四二条二項通路となつている。

3  昭和五一年当時一三二番三(現在の一三二番三、一三二番一七)の借地権者川口が建築確認申請をする際、添付した配置図に本件通路を幅員三・四メートルの道路として記載している。

4  本件通路のほぼ南半分に位置する昭和四五年当時の一三二番一一と一三二番一五の土地の幅員が当時の分筆測量図によると、いずれも一・六七メートルであり、一三二番一六の土地は、一三二番二の本件通路の西側への延長上の土地であるところ、昭和五二年の被告会社申請の実測図によれば、その西側(東側でいうと本件通路のほぼ北半分に相当する部分)の幅員は、一・八九メートル余りであると推測されるので、右一・六七メートルをこれに加算すると、少なくとも三・四メートルあつたと推測できる。

5  本件通路の奥の北側の現在被告学園の校舎の敷地を昭和四八年ころ被告会社に売却した中外電気工業の経営者の前記田中靖一は、昭和二三、二四年当時本件通路を所有し、近隣の土地所有者等に人又は車両の通行の用に供し、道路として使用させていたが、その道路の幅は約三メートル、長さ約四八メートルであつた。

以上の認定事実から、本件通路は、その幅員は少なくとも三・二七メートルで、その範囲は、別紙物件目録(1)ないし(4)の土地と別紙図面の<A>、<ヘ>、<ニ>、<ハ>、<A>の各点を順次結ぶ直線で囲まれた範囲の土地とを併せた範囲であると認められる。

もつとも、被告らは、原告土地北側の旧ブロック塀と万年塀との交点である別紙図面<A>点から、北側一・二二メートルの地点に御影石の境界石(別紙図面<M>点)があり、この<M>点から更に一・二二メートル北の地点(別紙図面<B>点)が本件通路の北限であり、本件通路の幅員は約二・四メートルである旨主張し、証人石渡は、これに添う証言をするが、右の境界石は確認されておらず、また、前記の一三二番一六の通路部分の幅員一・八九メートルと被告らの主張する<A>、<M>間の一・二二メートルとを合計すると、本件通路の幅員は、少なくとも三・一一メートルあることとなり、いずれにしても、本件通路の幅員は、二・四四メートルであるとする、被告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、原告の争点1(本件通路の範囲)についての原告の主張は、理由がある。

二  争点2(通行地役権の有無)について。

便宜、この点の判断を留保して、争点3(配管及び配線のための囲繞地通行権の類推適用の可否)について先に判断する。

三  争点3(配管及び配線のための囲繞地通行権の類推適用の可否)について。

1  証拠から次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和六〇年一月ころ、そのメインバンクの東洋信託銀行(東洋信託)自由が丘支店次長宇田川から当時の原告土地の所有者古賀夫妻と被告会社との売買の話(古賀、被告会社間の売買の話)が壊れそうなので、壊れた場合には、購入しないかとの打診を受け、続いて、右宇田川から右売買は、金銭面で折り合わなかつたので、話が壊れたという連絡を受けた。そこで、原告は、昭和六〇年三月八日(所有権移転登記は同月二七日)、古賀夫妻から原告土地を買い受けた。

(2) 古賀、被告会社間の売買の話は、昭和五九年八月ころから東洋信託の仲介で始まつたが、昭和五九年暮れころ話合いが進まなくなり、最終的には昭和六〇年二月六日不成立に終わつた。右売買の話が不成立に終わつたのは、坪単価の売買代金の折り合いがつかない上、古賀夫妻は土地を実測して実測面積で売買しようと主張し、被告会社は公簿面積で売買しようと主張し、結局測量したところ、別紙図面の原告(古賀夫妻)の万年塀とブロック塀の交点<A>から北に一・二二メートルの地点から御影石が出てきて、被告会社は、右御影石が、原告土地(古賀夫妻の土地)と被告会社の別紙物件目録一の(2)の土地との境界である旨主張したところ、原告土地のポイントを被告会社が移動させ、原告土地の面積が少なくしている旨の認識を古賀が持つたことにある。その他、被告会社が古賀夫妻に執拗と思える程、何回も原告土地を売るように働きかけていたこともそ

の遠因に挙げられる。

(3) 原告は、原告土地を購入し、古賀の建物を取り壊し、新築し、一階を事務所、二階を従業員寮として原告の関連会社の協栄都市開発に賃貸をする予定にし、現に昭和六〇年四月初めころ古賀の建物を取り壊し始めたところ、被告会社は、原告土地を原告から買い取ろうとして、原告に工事計画書を提出させた上、工事を中止させ、さらに、本件土地に、別紙図面の<あ>、<い>、<う>の各点付近に従前なかつた門柱(現在は別紙物件目録三の(1)の門柱に替わつている。)を立て、別紙図面の<ル>点、本件通路中央付近の<う>点と<リ>点の中間点付近にポールと看板を立て、別紙図面<ト>、<チ>を結ぶ直線より南側の本件通路にはみ出して被告学園の下駄箱の建物(別紙物件目録三の(2)は、その一部)を作る等して、車の出入りができないようにするなどの原告の工事の妨害となる行為に出た。

(4) そこで、原告は、工事妨害禁止の仮処分の申立てを当庁にし、その結果、昭和六〇年一二月二日、被告らとの間で、被告らは、本件土地の通行権の性質及び本件土地の幅員等についての結論を留保した上、原告の右建物の取り壊し工事及び新築工事のために、午前九時から九時半まで及び午後三時から三時半までの間を除いて車両の本件土地の通行を認め、右ポールと看板等を撤去する旨の協定書を作成し、原告は、右仮処分の申立てを取り下げた。

(5) その後、原告が新築工事にかかり、配管等を太くする必要から本件土地の配管等の状況を調べるために、新築工事と掘削を開始する旨を内容証明で被告会社に通告した上、本件土地の掘削を開始したところ、被告らは、原告が前記車両の通行時間の制限に違反している等の理由で右工事を認めない旨の回答を内容証明で通告し、被告会社の総務担当の石渡が「通行権は認めるが、埋設は困る」等と言つて、工事関係者に大声を出して、事実上工事ができなくした。

(6) そして、当庁に、被告らが掘削禁止の仮処分を、原告はこれに対抗して掘削妨害禁止の仮処分を申し立て、その結果、原告は、昭和六一年一二月一六日本件土地の一部について配管の埋設の妨害禁止の仮処分決定を得たが、被告らは、これを争い、異議申立てをし、昭和六二年一二月二三日右決定の認可の判決が出されたが、さらに右異議判決に対しても控訴し、昭和六三年六月二九日控訴が棄却(原判決維持)されるに至つた。

(7) そうこうする内、原告は、昭和六二年初めころ、原告土地に建物を完成させた。そして、原告は、原告の関連会社で不動産業と飲食業を営む協栄都市開発に賃貸し、協栄都市開発は一階を事務所として、二階を従業員寮として利用を始めた。しかし協栄都市開発が飲食業から撤退したため、従業員もほとんどいなくなつたので、右建物を太陽企業に賃貸した。これまで、原告の建物の従業員寮に居住する者が居なくなつたこともあるが、少なくとも一階は、原告の関連会社の事務所として利用されている。

(8) 被告らは、原告が原告土地を購入した後、本件通路の真ん中に車を駐車したり、犬をつないだりして、通行の妨害となるような行為を繰り返した。また、別紙図面ト、チを結ぶ直線より南側の本件通路にはみ出す形で、下駄箱の部屋(別紙物件目録三の(2)建物はその一部)を建て、あるいは別紙図面の<カ>、<ワ>、<イ>、<ロ>を結ぶ直線より北にはみ出して木製柵(別紙物件目録三の(3)の木製柵はその一部)を作り、本件通路内の北側に張り出す形で、植木棚を設け、除々に植木を増やし(別紙物件目録三の(4)の植木鉢及び植木棚)、原告の建物の出入口の向かい側に被告学園の学生専用の灰皿や椅子を置いたり、本件通路上に自動販売機(別紙物件目録三の(4)の椅子、自動販売機)を設置する等の行為も行つている。また、原告が原告土地を購入した当時、本件通路は土と砂利が混じつたところに、敷石が置かれているという状態で、次いで被告会社が敷石を張り詰めていたが、現在は本件通路の南側から二メートル位の幅でコンクリート張りにし、ぬかるみが少なくなつた反面、原告らに無断で舗装したため、原告土地と本件土地との境界石の所在場所が不明確になつた。

(9) 原告は、原告土地上に前記(7)のとおり建物を所有し、現に利用しているので、配管、配線の必要があり、古賀夫妻の建物当時に比べて、配管、配線共に容量を増やす必要があり、配管、配線工事に関係する役所、会社等からその旨の確認も得ている。そして、右必要に応じた配管、配線工事計画を立てているが、右計画によつても、既に本件通路のほぼ南半分に配管等を埋設することとされており、現にその工事を完了している。また、原告土地は、前記第二の一の4のとおり、囲繞地であり、本件通路を利用せざるを得ない状況にある。

2  以上の認定を前提として、争点3(配管及び配線のための囲繞地通行権の類推適用の可否)について、検討する。

(1) ところで、今日ガス、上下水道、電気及び電話等は都市生活において必要不可欠のものであるといえるので、袋地の所有者等は、相隣関係を規律する隣地使用権に関する民法二〇九条、囲繞地通行権に関する民法二一〇条、余水排泄権に関する民法二二〇条、他人の土地に排水設備を設置できる下水道法一一条を類推して、他人の土地を通してガス、上下水道、電気及び電話等の配管、配線を袋地に導入することが許される。その場合、右法規に準じて、配管、配線の場所及び方法は、囲繞地通行権を有する者のために必要にして、かつ、囲繞地のため損害の最も少ないものを選択する必要がある。そして、右の配管、配線の場所は、場所及び方法として不適当である等特段の事情がない限り、囲繞地通行権を有する部分がこれに当たると解するのが相当である。そして、囲繞地に対するこの制限は、土地所有権に対する制限に当たるといえるが、財産権を保障した憲法二九条に違反するものではない。

(2) これを、本件で見ると、原告の計画した配管、配線の計画は、必ずしも本件通路全体に及ぶものではなく、およそ南側半分の一部であることは、前記1の(9)のとおりであるが、原告及び被告らを含めた本件通路の近隣の者のガス、上下水道、電気及び電話の需要の状況や社会一般のガス等に対する需要も増加している今日の状況に照らして、本件通路の北側を利用せざるを得ない事態も予想される。また、厳密に具体的な配管、配線の場所及び方法を特定することも、囲繞地通行権にとつて酷で、困難を強いる面があるので、ある程度は、ゆとりを持たせておく配慮も必要である。したがつて、配管、配線のために本件通路全体が原告に必要といつても許されると考えられる。他方、本件通路に原告のために配管、配線を認めても、もともと本件通路は、前記一の5のとおり、被告らが被告学園の校舎の敷地を買う以前から人又は車両の通路として利用されていた土地であり、また、原告のために本件通路全体に、配管、配線権を認めても、配管等は、いずれも必要のある範囲で、定型的な埋設工事が行われるわけであり、必要以上に広範囲に埋設されることも考えにくく、したがつて、被告らの配管、配線と共存でき、被告らの権利を妨害することもないと考えてよい。

もつとも、この点、証人石渡は、「被告学園の生徒数が増える等して、被告らの使用するガス、上下水道、電気及び電話等が増えた場合に、原告の配管、配線のために、被告らの配管、配線ができなくなる不安がある。」旨証言するが、以上に検討したところから、その不安はほとんどないといつてよい。

さらに、原告が古賀夫妻から原告土地を購入した経緯、原告土地に新築した建物の利用方法等を検討しても、囲繞地通行権を類推して原告に配管、配線権を認めることが、権利の濫用に当たるというべき事情も見当たらない。

3  以上の次第で、原告は、本件通路、すなわち、別紙物件目録(1)ないし(4)の土地と別紙図面の<A>、<ヘ>、<ニ>、<ハ>、<A>の各点を順次結ぶ直線で囲まれた範囲の土地、したがつて、本件土地について囲繞地通行権並びにその類推適用による同土地上及び地中に配管、配線等を有するというべきである(主文第一項)。

四  そして、被告らは、原告の配管、配線権を強く争つていること、前記のとおりであり、本件土地について、被告らに対し、原告の囲繞地通行権に基づき原告の通行及び配管、配線権に基づき配管、配線権等の妨害の禁止を求める請求も理由がある(主文第二項)。さらに、別紙物件目録三の(1)ないし(4)の物件を被告らが設置していることは、前記三の1の(3)及び(8)に見たところであり、囲繞地通行権に基づきその収去又は撤去を求める請求も理由がある(主文第3項、なお、別紙物件目録三の(4)のU字管も弁論の全趣旨から本件土地上に存在すると認められる。)

(裁判官 宮崎公男)

《当事者》

原 告 有限会社平野商事

右代表者代表取締役 平野研治

右訴訟代理人弁護士 林 紀子

被 告 有限会社グレッグ・インターナショナル

右代表者代表取締役 黄 兵衛 <ほか二名>

右被告ら三名訴訟代理人弁護士 後藤昌次郎

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