東京地方裁判所 平成2年(ワ)11133号 判決 1991年12月17日
原告
長谷川千春
右訴訟代理人弁護士
山分榮
右訴訟復代理人弁護士
茂木洋
被告
株式会社日本プレジデントクラブ
右代表者代表取締役
臼井邦夫
右訴訟代理人弁護士
猪山雄治
主文
一 被告は、原告に対し、金二八八万七五〇〇円及びこれに対する平成二年九月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金五七七万五〇〇〇円及びこれに対する平成二年九月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告に一一年余勤めて退職時に毎月五二万五〇〇〇円宛の支給を受けていた原告が、退職は被告会社就業規則上の「業務上の理由による傷病」のためであるとして、右支給月額に勤務年数を乗じた退職金及び訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求めたのに対して、被告が、毎月支給していた金員は全額が賃金なのではなく取締役報酬も含むものであり、また、原告の退職事由は就業規則上の「自己都合」に当たるとして争い、なお、原告の退職時期についての錯誤のため賃金の過払があったとしてその返還請求権と退職金請求権との相殺を主張した事案である。
一(争いのない事実)
1 被告は、旅行を目的とした会員組織の運営、クレジットカードによる信用供与等を目的とする株式会社である。
2 原告は、昭和五三年八月二五日被告会社に入社し、勤続満一一年を経た平成元年に退社したが、その間、審査管理室長として、売掛金の管理、回収等の業務に従事していた。原告は、退職時、毎月五二万五〇〇〇円の支給を受けていた。
3 被告会社の退職金規定によると、勤続年数が一〇年以上の場合の退職金額は、「業務上の理由による傷病で退職するとき」は基本給に勤続年数を乗じて得た金額とし、「自己の都合により退職するとき」はその半額とするものと定められている。
4 被告における従業員の賃金は、毎月二五日に、前月二一日から当月二〇日までの分を支払うことになっている。
5 平成元年九月二五日、被告は、原告に対し、同年八月二一日から同年九月二〇日までの分として四九万六八四三円(所得税・社会保険料控除後)を支払った。
二(争点)
<1>原告が被告から支給されていた金員は、全額従業員としての賃金か、それとも取締役兼務従業員としての役員報酬と合算されたものか、<2>原告の退職事由は、被告会社就業規則上の「業務上の理由」によるものか、それとも「自己都合」によるものか、の二点が中心的争点であり(退職金額は、原告の主張によると五七七万五〇〇〇円になり、被告の主張によると一四七万六七五〇円になる。)、なお、<3>被告は、原告の退職時期の錯誤のため賃金に過払があったとしてその不当利得返還請求権と退職金請求権との相殺を主張している。
1(原告の主張)
(一) 原告は、名ばかりの取締役の肩書を有していたが、業務執行の決定等にかかわる取締役としての実質的活動は何もしたことがなく、それらは専ら被告代表者が決定してきたもので、原告は、単なる従業員として仕事に従事してきた。原告の取締役としての地位は、まったく名目的、形式的なものにすぎず、いわば名前を貸しただけのものにすぎない。被告代表者は、自ら認めるように、会社の利益が上がらないとして、取締役に報酬を出せないと常々言っていたもので現に原告に対して取締役としての報酬が支払われたことは一度もない。
被告が、原告の職務上の地位が七級であるとして、職能給が七級のそれであり、原告の賃金総額が二六万八五〇〇円であると主張するのは、まったく事実に基づかない本訴における机上の計算である。原告は、審査管理室長をしていたのであり、給与規定上では局長の八級ないし九級に該当するはずである。
また、全額が賃金であることは被告が原告に交付していた給与支給明細書の記載からも明らかである。
(二) 原告は、元来丈夫で、内蔵(ママ)の疾患等なく、極めて健康であったが、退社する三、四年前からは本来の審査管理室長としての債権の管理、回収の業務のほかに、人事等総務に関する仕事、代表者個人の事務の処理等種々の業務の命令を受け、就業時刻の一時間前には出勤し、深夜まで就労するのが常で、過労と精神的な緊張から、胃・十二指腸潰瘍に罹病し、長期の治療が必要であるために退職のやむなきに至ったものであり、業務上の理由によって右疾病に罹患し、その結果退職したのである。
原告は、平成元年七月五日、病気治療を理由に診断書と約一か月間の欠勤届を被告代表者に提出した(もっとも、実際には、右欠勤届の提出後も、できるだけ出勤して仕事をしていた。)が、その差異、病気の原因が被告会社における仕事にあることを説明し、被告代表者もこれを了解して認めていたのであり、原告からの退職金請求がなされた途端に前言を翻すというのは信義に反する態度である。
(三) したがって、原告に支給されるべき退職金の額は、賃金五二万五〇〇〇円に勤続年数である一一を乗じた五七七万五〇〇〇円である。
(四) なお、原告は、平成元年八月二八日付の退職届を被告に提出したが、原告の仕事を引き継ぐ後任の者を雇い入れるまで勤務するように指示され、同年九月二〇日まで出勤して従前と変わりなく仕事に従事していた。したがって、原告の退職日は、平成元年九月二〇日であり、それまで稼働していたのであるから、その間の賃金を受領できるのは当然である。被告は、現に原告が勤務していたからこそ、平成元年九月二五日、右賃金の支払をしたのであり、被告が誤って振り込んだと本訴で主張するのは、単に退職届の日付がそうなっていることをもって考えた言い掛かりである。
2(被告の主張)
(一) 原告は、入社当時から使用人兼務取締役であり、退職時まで毎月支払われた金員は、従業員としての賃金と取締役としての役員報酬が合算されたものである。退職時点での、右内訳は、賃金一か月二六万八五〇〇円(年令給一四万四八〇〇円、職能給一二万三七〇〇円)、役員報酬二五万六五〇〇円である。原告が受け取っていた金員は、被告就業規則給与規定添付の表から算出できないことからも取締役報酬が入っていたことは明らかである。そして、従業員としての賃金は、給与規定に基づき、被告代表者が査定して決定しており、原告については、退職当時においては、年令給一四万四八〇〇円(五七歳)、職能給一二万三七〇〇円(等級七)と査定していた。
なお、原告が被告会社の取締役であったことは次のとおりである。
(1) 原告は、各定時株主総会に出席し、議事録に署名押印している。
(2) 原告は、二年に一回の取締役選任の定時株主総会に出席し、選任決議後、同総会場で取締役就任の意思を表示している。
(3) 原告は、取締役選任決議のあった株主総会後に開催される取締役会に出席し、代表取締役選任の決議に加わり、取締役会議事録に記名押印している。
(4) 原告は、被告会社の重要な事項について常勤取締役の一人として、取締役会決議に加わり、取締役会議事録に記名押印している。
(5) 被告会社は、設立されて以来、思うように利益が上がらないため、従業員のみに対してしか賞与を支給せず、取締役へは常勤を含め、一切賞与を支給しておらず、原告に対しても右の例にならい賞与を支給していない。
(6) 原告は、平成元年八月二八日付で被告会社取締役を辞任する旨の届を出している。
(二) 退職の理由についての原告の主張はすべて否認する。原告は欠勤届も診断書も一切提出していない。原告は、単に、一身上の都合を理由として退職届を提出してきただけであり、原告の退職は、「自己の都合」によるものである。
(三) したがって、原告に支給されるべき退職金の額は、賃金二六万八五〇〇円に勤続年数である一一を乗じた額の半額である一四七万六七五〇円である。
(四) なお、原告が被告会社を退職したのは、平成元年八月二八日であるから、本来一二万九六一一円(支給対象期間の総出勤日数二三日、実際の出勤日数六日)の賃金及び役員報酬の支払請求権しかないのに、被告は誤って、四九万六八四三円の支払をしたので、その差額三六万七二三二円は原告が不当に利得したものとなる。そこで、被告は、原告に対し、本件第一回口頭弁論期日(平成二年一〇月一五日)において、右不当利得返還請求権と本訴請求にかかる退職金請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。
第三争点に対する判断
一 争点<1>(原告が被告から支給されていた金員は全額従業員としての賃金であるといえるか)について
1 (証拠・人証略)によると、次の事実が認められる。
(一) 被告会社の給与規定には、「基本給」は「本人給」と「職能給」とで構成し、「本人給」は、勤続年数と年齢とを構成要素とし、別表(本人給の金額表)のとおり支給すると記載されており、右別表に当たる「年令別本人給表」は、「本人給」が「年令給」と「勤続給」によって構成されるという表になっている。そして、同表上、「年令給」と「勤続給」とは、金額を特定した確定額で、「年令給」は一八歳から各年毎に五〇歳まで漸増し、五〇歳から五五歳までは一五万〇八〇〇円で変らず、その後は、毎年三〇〇〇円ずつ減少していくことになっており、五六歳で一四万七八〇〇円、五七歳で一四万四八〇〇円とされている。これに対し、「勤続給」は、勤続一年につき五〇〇円ずつ増加することになっている。そのため、「年令給」に「勤続給」が加わった「本人給」は五五歳までは漸増して、一六万九三〇〇円となり、五六歳では一六万六八〇〇円、五七歳では一六万四三〇〇円と漸減していくことになっている。一方、「職能給」は「考課期間内における従業員の業績、業務遂行能力、勤務態度等を考課し、別表(職能給一覧表)にそって支給額を決定する。」とされており、右別表に当たる「職能等級基準書及び職能給一覧表」には一級から九級までの等級と職位、職能の対応関係が表示され、九級以外の各等級についての最低額と標準昇級額(定額)が定められている。そして、他に「職務手当」、「役職手当」、「家族手当」、「通勤手当」その他の各種手当の支給が定められている。
(二) しかしながら、被告会社において原告に毎月支給される金額は平成元年に増額改定されており、右給与規定に基づいて積算の上決定されたものではなく、被告代表者の一存で決められたものにすぎない。また、原告在職中には支給額の内訳について何らの告知、説明もなされたことがなく、右の毎月の支給額の改定に際しても、その内訳は示されず一括して五二万五〇〇〇円を支給するとされた。また、同年度からは原告に対する賞与の支給がなくなったが、それ以前は賞与が支給されていた。同年度の原告の給与支給明細書には、「基準内賃金1」の欄に五二万五〇〇〇円と記載されており、この金額から雇用保険料を控除し、その残額から所得税を控除して、差引支払額が算出されていた。右雇用保険料は五二万五〇〇〇円全額を賃金として算定されていた。さらに、経理、決算上も、税務上の取扱いも、支給額全額が賃金として取り扱われていた。
(三) 他方、取締役の報酬について取締役会で具体的報酬を決定したことはなく、被告代表者自身、会社の利益が上がらないので、役員報酬などは出せないと常々言っていた。
右事実によれば、原告に毎月支給されていた五二万五〇〇〇円は全額従業員としての賃金であったと認めるのが相当である。
2 被告が、原告の従業員としての賃金は二六万八五〇〇円だけで、その余の二五万六五〇〇円は取締役としての報酬であったと主張する点について付言する。
被告代表者は、右基本給中の年令給部分である一四万四八〇〇円と七級(職能給一覧表には、「職位マネージャー、資格名称主事、職能分類初級管理職能、初級専門職能」との記載がある。)の職能給の最低額である一二万三七〇〇円を合計した額である二六万八五〇〇円が従業員賃金分に当たり、二五万六五〇〇円は取締役報酬であると述べる。しかし、取締役報酬について取締役会で決定されたことはないのであるから、二五万六五〇〇円が取締役報酬であるとはいえない。のみならず、被告代表者の説明する賃金の内訳についてみるに、同代表者は、他の項目の賃金や賞与は取締役兼務の従業員には一般に支給しない扱いをしており、原告の場合もその例にならっただけであると述べているが、被告会社において一般的に、取締役兼務従業員には本人給中の勤続給や他の項目の賃金を一切支給しないという扱いをしていたことの証拠は被告代表者の右供述以外には何もなく、むしろ、昭和六三年までは原告にも賞与が支給されていたことは前期のとおりである。また、職能給が一二万三七〇〇円であるとする点についてみるに、本件証拠上、原告についての等級指定の有無、その時期や昇級の経過等も一切が不明であり、退職当時原告が七級だというのも被告代表者単(ママ)にそのように述べるだけで他に何も裏付けがない。さらに、給与規定上七級の職能給は一二万三七〇〇円以上と定められており、被告主張の金額は七級の最低額にすぎない。そして、何よりも、原告について、被告主張のような従業員としての賃金と取締役としての報酬とを区分けしたのであれば、何らかの記録が残されてしかるべきであるのに、何の書類もないというのであり、また従来からの他の取締役兼務従業員に対する支給額の客観的な内訳の経過もまったく不明である。したがって、被告代表者の説明内容は、結局、単に自分がそのように決めたというだけのものにすぎず何の裏付けも根拠も存在しないとみざるを得ない。
なるほど、右賃金規定に基づいて直接に五二万五〇〇〇円の内訳を明らかにすることは困難である。しかしながら、右認定のとおり、被告代表者は、原告に対する賃金支給額を改定するに際して、一括して五二万五〇〇〇円とするとしてしまったものであり、賃金規定に基づく右内訳を示さず、かつ、本訴においても、これを取締役報酬と合算したものと強弁しているのであるから、右五二万五〇〇〇円は全額が退職金規定にいうところの基本給であったと認めるほかはない。
また、被告は、原告が取締役であった以上無報酬ではあり得ないかのように、原告が取締役であったことについて縷々主張するが、そもそも、従業員が取締役を兼務している場合に取締役報酬を受けていないことはあり得ないとはいえない。そればかりか、本件においては、原告は、取締役といっても名ばかりで、実質的には単なる従業員であったと解される。すなわち、なるほど、被告会社では定時株主総会議事録が作成され、原告は退職に際して取締役辞任届を提出している。しかし、前掲各証拠によると、株主総会議事録への記名押印は、被告代表者において管理している各取締役名義の印鑑をその出席の有無にかかわらず、一括して議事録に押捺して作成されたものであっていわば形式を整えただけのものであり、また、原告は、もともと、取締役という名称を付されているものの、被告会社の経営に関与して被告代表者の業務執行に意見を述べるような立場になく、被告代表者のいわゆるワンマン会社の単なる従業員としての活動しかしていなかったものであることが認められ、この認定に反するかのような被告代表者の供述の一部は前掲証拠に照らして採用し得ない。
3 したがって、原告の退職当時の賃金額は、一か月五二万五〇〇〇円と認められ、それを一か月二六万八五〇〇円と解すべき根拠はない。
二 争点<2>(原告の退職事由は被告会社就業規則上の「業務上の理由による傷病」によるものといえるか)について
(証拠略)によると、被告就業規則退職金規定上の「業務上の理由による傷病で退職するとき」とは、いわゆる労働災害に該当するような場合を想定して定められた規定であることが認められ、当該条項による退職金請求権が発生するためには、当該傷病と業務との間に医学的に相当な因果関係が認められなければならないと解される。
これを原告についてみるに、なるほど、(証拠略)原告本人によると、原告が退職を決意した原因が、平成元年春先から夏にかけてに(ママ)発症した胃・十二指腸潰瘍が辛かったためであること、原告が日常も運動を欠かさず、飲酒の習慣もなく、元来健康であったこと、債権管理等の業務が原告の本来の仕事で、これについては夜遅く、あるいは朝早く集金先に赴くなどもしており、食事の時刻が不規則になったり、睡眠が不十分だったりしたこともあること、平成元年当初から社長が一時二人になるとか、元副社長に対する訴訟提起や社員の横領問題が生じたり、社員の退社が続くなどの事情があって、原告の仕事が増え、通常業務以外の仕事も被告代表者の命に従って行っており、原告がその負担をかなり過重に感じていたこと、現にかなり残業もしていたこと、同年六月ころ吐血して診療担当医師から仕事からくるストレスを避けるために自宅療養して安静にしている必要があると言われていたこと、しかし、特別地方消費税の計算と申告の業務、明け渡し対象となった倉庫の整理その他の仕事なども加わって、中々休養できるような状態でなかったこと、同年九月に被告会社を退職して後入院の上加療を受け、その後病状がほぼ回復するに至っていることが認められる。しかし、これら業務と原告の胃・十二指腸潰瘍との間の医学的因果関係を断定するに足りる証拠はなく、右認定の事情のみをもって、「業務上の理由による傷病」と断ずることはできない。
また、(証拠略)、原告本人によると、被告代表者が原告の病気の話を聞いて、一旦は、病気と仕事との因果関係を認めるような口吻で「会社の規定のほかにも幾らか考えて悪いようにはしない。」旨述べていたことが窺われるが、右発言のみで、原告の退職金が「業務上の理由による傷病」による退職に該当する取り扱いを確定的に被告代表者が約したものとまではみることができない。
したがって、原告の退職は、退職金規定上「自己の都合により退職するとき」に該当するものというべきである。
三 そうすると、原告に支給されるべき退職金額は、前記賃金額に勤務年数を乗じた額の半額となる。
四 争点<3>(原告の退職日は、平成元年八月二八日か、同年九月二〇日か)について
(証拠略)、原告本人、弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
原告は、平成元年七月四日、東京労災病院において、約一か月間の自宅療養、通院加療を要する旨の診断を受け、その旨の記載のある同病院の診断書を添付して約一か月間休みたい旨の欠勤届を翌日被告会社に提出した。しかし、原告は、実際にはその後も毎週火曜日の通院日を除いて出勤して業務に就いており、中々病状が軽快せず、医師の忠告もあって、平成元年八月二八日、被告代表者に事情を説明して同日付の退職届を提出した。その際、原告は、同代表者から、仕事を引き継ぐ者を近々入社させるので、それまで勤務してくれるように頼まれ、結局その後も引き続き勤務を続けた。けれども、原告は、同年九月一九日に前記病院で受診した際、さらに症状が悪化しており、医師から仕事をしないよう強く言われたため、同月二〇日、再度同病院の診断書を添えて、被告代表者に退社する旨を告げ、それ以後被告会社に出社しなくなった。
被告は、原告の退職日が平成元年八月二八日であると主張するが、右各証拠によれば、その日付は右退職届に記載された日付にすぎないことは明らかであり、右認定に反する被告代表者の供述は前掲各証拠に照らして採用し得ない。
したがって、被告に退職時期に関する錯誤があったため賃金に過払があったとは認められないから、被告主張の不当利得返還請求権と退職金請求権との相殺の主張は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
(裁判官 松本光一郎)