大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成2年(ワ)11494号 判決 1991年10月30日

原告

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

渡辺真一

被告

中小企業事業団

右代表者理事長

森口八郎

右訴訟代理人弁護士

北村宗一

参加人

乙田良子

右訴訟代理人弁護士

佐藤正昭

主文

一  被告は、原告に対し、金六二〇万五八〇〇円及びこれに対する平成二年七月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  参加人の請求を棄却する。

三  訴訟費用中原告と被告との間に生じた費用は被告の負担とし、参加に関して生じた費用は参加人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立て

(原告)

主文同旨の判決及び仮執行の宣言

(被告)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

参加につき、

1  参加人の請求を棄却する。

2  参加に関する訴訟費用は、参加人の負担とする。

(参加人)

1  原告の請求に係る共済金六二〇万五八〇〇円の債権が参加人に属することを確認する。

2  被告は、参加人に対し、金六二〇万五八〇〇円を支払え。

3  参加による訴訟費用は、原告及び被告の負担とする。

第二  事実の概要

(争いがない事実)

一  亡乙田太郎(以下「訴外太郎」という。)は、昭和五三年六月二七日、被告との間に、次のとおり小規模企業共済法による共済契約を締結した。

1 共済契約書 訴外太郎

2 共済契約者番号 〇七二二六八四、CD七八

3 掛金月額 金三万円

4 種別 第一種

二  訴外太郎は、昭和六三年一一月一六日死亡し、同人の死亡により被告から遺族に支払われる共済金は金六二〇万五八〇〇円(以下「本件共済金」という。)である。

(争点)

本件争点は、本件共済金が原告又は参加人のいずれに属するかである。原告及び参加人は、本件共済金が自己に属するとして、次のとおり主張し、各相手方は、右主張を争った。

一  原告の主張

1 原告は、昭和四九年五月から訴外太郎が死亡した昭和六三年一一月一六日まで、同人の内縁の妻として生活を共にしてきた者である。

2 訴外太郎は、昭和三七年一月以来戸籍上の妻である参加人と別居し、事実上の離婚状態であった。

3 よって、原告は、被告に対し、本件共済金六二〇万五八〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日である平成二年七月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  参加人の主張

1 参加人は、昭和二三年一月二二日訴外太郎と婚姻の届出をし、同人の配偶者となり、右夫婦の間には長女愛子、長男一郎がいる(原告と参加人間において争いがない。)。

2 原告は、訴外太郎の単なる愛人で、訴外太郎が単身赴任で立川共済病院に勤務中、仕事の上で妻と別居生活していることを幸いに、自ら夫山下五郎の戸籍に入籍したまま訴外太郎方に押し掛けてそのまま同棲したものである。

3 よって、参加人は、参加人が本件共済金の給付請求権を有することを確認求めるとともに、被告に対し、本件共済金六二〇万五八〇〇円の支払いを求める。

第三  証拠関係<省略>

第四  争点に対する判断

一  参加人が昭和二三年一月二二日に訴外太郎との婚姻の届出をした法律上の妻であること(原告と参加人間において争いがない。)、原告が訴外太郎が死亡した昭和六三年一一月一六日当時に訴外太郎と同棲し、いわゆる重婚的内縁関係にあったことは、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によって認めることができる。

二  ところで、小規模企業共済法は、共済金の受給を受けるべき遺族について、「配偶者(届出はしていないが、共済契約者の死亡当時事実上婚姻関係と同様な事情にあったものを含む。)」旨規定している(一〇条)ところ、届出による婚姻関係にある共済契約者が重ねて他の者と内縁関係(重婚的内縁関係)に入った場合において、届出による婚姻関係がなお実体をとどめているときは、届出に係る配偶者がその受給権を有し、届出による婚姻関係がその実体を失って形骸化し、且つ、その状態が長期にわたって固定化し、解消される見込みのない状態、すなわち事実上の離婚状態にあると認められるときには、右届出に係る配偶者はもはや共済金を受け取るべき配偶者には該当しないものということができるから、この場合には内縁関係にある配偶者が「事実上婚姻関係と同様な事情にあったもの」として受給権者となるものと解するのが相当である。

三  前示争いがない事実、<書証番号略>、証人小林悦子の証言、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

1  訴外太郎と参加人は、共に歯科医師であり、昭和二三年一月二二日に結婚(同日届出)し、右夫婦の間には長女愛子、長男一郎を儲けた。

2  訴外太郎は、昭和四〇年一二月ころ、勤務していた立川共済病院を退職し、参加人が居住し、歯科診療所を開設している足利市に帰り、開業するつもりであったが、参加人との夫婦関係がうまくゆかず、再び、単身で東京に戻り、昭和四三年ころ、立川市で歯科医院を開業した。

3  原告は、昭和三〇年ころ、山下五郎と結婚したが、昭和四九年ころ別居し、昭和五一年八月、長女愛子が結婚したのを機会に、訴外太郎の事実上の妻として同人と同棲するようになり、その後、死亡するまで同棲生活を続けた。なお、原告と山下五郎は、昭和五六年一一月ころ、協議離婚した。

4  原告と同棲後においては、訴外太郎は、足利市に帰り、参加人の下に立ち寄ることはあっても、そこに泊まることはなく、参加人に生活費等を送ることもなく、子供の養育は、専ら参加人に任せ、昭和五三年ころには、足利市の参加人の下にあった乙田家の先祖の位牌と仏壇を立川市の自宅に持ち帰った。

5  訴外太郎は、昭和五七年一月ころ、弁護士を通じて参加人に離婚の申し出をしたが、成立しなかった。

6  訴外太郎は、昭和五三年に動脈瘤の手術をし、昭和五八年には心筋梗塞の発作を起こし、入院したが、いずれの場合も、原告が看病し、参加人は看病しなかった。

7  訴外太郎は、昭和六〇年三月一三日、公正証書による遺言をしたが、右遺言において、原告には財産を与えず、乙田家の墓所を使用するさえも拒否した。

以上のとおり認められる。

右認定の事実によれば、遅くとも、訴外太郎が原告と同棲し始めた昭和五一年八月以降においては、訴外太郎と参加人の婚姻関係がその実体を失って形骸化し、且つ、その状態が訴外太郎が死亡当時まで一〇年以上にわたって続き、固定化し、それが解消される見込みはなかったのであり、他方、原告は、昭和五一年八月に訴外太郎の事実上の妻として同人と同棲し、昭和五六年一一月九日に山下五郎との離婚が成立した後は、訴外太郎と法律上にも結婚し得る状態にあったのである。したがって、参加人は本件共済金の受給権を有する遺族に当たらず、原告が、「事実上婚姻関係と同様な事情にあったもの」として右の受給権者に当たる。

なお、原告は、本件共済金に対する遅延損害金の支払いも請求するところ、本件共済金が原告又は参加人のいずれかに帰属するものであること、原告が本訴に先立って被告に対し本件共済金の支払いを求めたことは、弁論の全趣旨によって明らかであり、原告は、遅くとも、訴状送達の翌日である平成二年七月四日には、右共済金につき遅滞に陥り、原告に対し、同日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである(被告が右遅滞の責めを免れるため、民法四九四条により供託をすることができる。)。

四  以上の次第であって、原告の本訴請求は理由があり、参加人の請求は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、なお、仮執行の宣言は相当でないので、これを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官筧康生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例