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東京地方裁判所 平成2年(ワ)12873号 判決 1991年12月24日

原告 松永義房

右訴訟代理人弁護士 並木政一

被告 直井暉明

右訴訟代理人弁護士 本多清二

主文

被告は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫記載の土地にあるプレハブ物置二棟(別紙図面中①と表示した一棟―高さ一八〇センチメートル、横九〇センチメートル、奥行き五〇センチメートル及び同②と表示した一棟―高さ一九〇センチメートル、横一〇二センチメートル、奥行き七〇センチメートル)を収去せよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

(第一、第二省略)

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  法定地上権は、土地上の建物の存立を確保して、その使用を全うすることができるように法が特に定めた利用権であるから、その範囲は、土地及び建物について抵当権が設定された当時の土地及び建物の利用状況に照らし、抵当権設定契約当事者の合理的意思をも忖度して、建物の存立と使用上必要かつ相当と認められる範囲に及ぶものと解される。

2  道明が相和銀行のために本件土地建物に抵当権を設定する以前から、本件土地上には本件風呂場及び本件物置が設置されていた。これは、本件土地に隣接する被告所有地上の建物に風呂場がないことから、被告が昭和五〇年代に道明の了解を得て、当時本件建物の庭として空き地であった部分に、無償で本件風呂場を増築し、また被告所有建物で営業している理美容業の用具等を収納するために本件物置を設置した。本件風呂場はその後被告家族だけでなく本件建物に居住していた原告家族も日常的に利用していた。本件風呂場はブロック造で母家にくっつけて築造されており、移動することはできない構造であるのに対し、本件物置はプレハブ造の組立式の構造で移動可能な構造である(≪証拠省略≫)。

本件土地は住居地域、第三種高度地区、防火地域にあり、公法上の規制として建ぺい率が六〇パーセント、容積率が三〇〇パーセントとされている。本件土地は間口約四メートル、奥行約一三メートルの長方形の土地で、北側一部が幅員約二メートルの通路となっているが、接道義務の関係で、新たに建物を建てることができない土地とされている(≪証拠省略≫)。

3  これらの事実に照らすと、本件土地建物に抵当権を設定した当時、本件風呂場の敷地部分は、本件建物とは別個の一時的建造物とは言えない建物である本件風呂場(したがってこれと一体をなす被告建物)の敷地として排他的に利用されており、道明もこれを了解し、その利用状況は客観的に明らかであったから、右敷地部分は、その所有者である道明の主観的意思はもとより客観的な土地建物の利用状況からみても、本件建物敷地からは除外されていたと考えられる。したがって右敷地部分には法定地上権は及ばないと解するのが相当である。

これに対し本件物置の敷地部分は、本件風呂場とは関連なく、荷物を格納するための被告の物置、それもその構造上いつでも移動可能な一時的な工作物の敷地として利用されていたにすぎず、そこがそれまで本件建物の庭として利用されていた経緯に照らすと、当時の客観的な土地の利用状況からみて、なお本件建物の使用上必要かつ相当な範囲内の土地として本件建物敷地であると判断される。従って、本件物置の敷地は本件土地の法定地上権の範囲内にある。

なお、原告は、法定地上権の範囲を検討するについては競落人の保護を中心に考える必要があり、競売事件の評価書上本件土地全部の範囲について法定地上権価格を算定して評価額を決定し、最低売却価格もこれをもとに決定されていることを指摘するが、右評価書(≪証拠省略≫)も被告方建物の越境を指摘してこれを評価減額要素としているから、原告の主張のような解釈を採ったとしても、その点はさして重視すべきものとは言えず、前記判断を左右しない。

二  争点2について

1  賃貸人を道明、賃借人を被告として、本件土地(ただし面積を五六・一九平方メートルと表示)の一部一一平方メートルの宅地について、賃貸借期間昭和六二年三月二〇日から昭和八二年三月一九日までの二〇年間、賃料を二〇年間一五〇万円とする昭和六二年三月一五日付けの土地賃貸借契約書(≪証拠省略≫)及び同月二〇日に被告が道明に対して二〇年分の賃料として一五〇万円を支払った旨の領収書(≪証拠省略≫)が存在する。

右賃貸借部分は本件風呂場及び本件物置の敷地部分であるが、従来は本件風呂場及び本件物置の敷地の利用について当事者間に対価の支払いやその要求、約束は一切されることなく経過していた。道明はそれまでにも多額の借金を被告及び母にしていたところ、被告が昭和六二年にさらに道明から一五〇万円の借金を申し込まれたため、弁護士に相談したところ、そのような書類を作成することを勧められて右賃貸借契約書を作成したもので、約定の賃料については賃料の相場を考えることなく、道明の必要な額が既に決まっていたから、その金額を一括払いとしたもので、被告としては道明の仕事がうまくいってその金を返せるというのであれば返してもらうつもりである(≪証拠省略≫)。

2  そうしてみると、被告は道明に対して一五〇万円を交付するにあたり、従来から当事者間にあった本件土地の一部の使用貸借関係に関連付けた契約書を作成してはみたものの、賃料として授受された金員は、右土地の利用上の対価ではなく、貸金としての色彩の濃厚なものと言えるから、右賃貸借契約の実質は貸金の担保と評価できる。したがって、被告は、本件土地の地上権者である原告に対し、土地占有のための本権として、右賃貸借契約を主張することはできない。

三  結論

よって、地上権に基づいて本件物置の収去を求める原告の請求は理由があるが、本件風呂場の収去を求める請求は理由がない。

(裁判官 佐藤陽一)

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